三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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20話 客将、大炎上す(後)

「して、何の話をしていたのだったか?」

「……ともすれば、鳥の魔族にすら劣る頭の持ち主よな、貴様は。この者からの合同会合の誘いを受けるか否か、という話だ」

「おお、そうだった、そうだった!」

 

 むむむっ、と腕を組み頭を捻りながら呟いた播凰に、これみよがしに大きく溜息を吐きだして。万音は画面に映る勝気な金髪の少女の絵を指し示す。

 思い出したように大きく頷き、播凰がその合同会合とやらの詳細を確認しようと口を開きかけたが。口をひん曲げた万音が手でそれを制した。

 

『煩わしいので先に言ってやるが。つまり大魔王ディルニーンたる余とその客将である貴様、そしてこの者――VTuberのジャンナ・アリアンデとで配信をするということよ』

『つまり、今こうしてお主と話しているようにそのジャンナという者とも会って話をし、それが他者に見られるというわけだな!』

『正確には違う。此度の誘いはオフコラボではない故、直接会うことはなくあくまで声での通話のみのやり取りとなる』

『むっ、声だけと? ……ああ、電話とやらと同じか、あれは便利よなぁ。要するに、お主とはこうして今対面しているが、このジャンナという者とは絵越しで何処の誰かも顔を、そして先程の話を加味すれば性別すらどちらか不確かなままに会話をするというわけだ』

 

 配信の冒頭の件。絵の披露時に、ディルニーンが幼女ともなれるという旨の発言を聞き、顔を伏せ声も変えられるのなら性別を偽ることができるのも納得だと。呑気にポン、と手を打って理解を示す播凰であったが。

 マイペースな彼とは裏腹に、依然としてコメントの流れに落ち着きというものは見られない。

 

 ・コメント:やっと話が戻った!

 ・コメント:戻っていいんだか、よくないんだか。。

 ・コメント:コメント見ろ

 ・コメント:無視すんな

 ・コメント:ああ、戻った側からまた際どそうな発言が、、

 ・コメント:頼む客将、もう止まれーッ!!

 ・コメント:ジャンナはジャンナだろうが!!!

 ・コメント:お前ふざけんなよ

 ・コメント:ジャンナの一押しって聞いたから見に来てみたのに。。

 ・コメント:炎炎炎

 

 話が戻ったことを受けての悲喜こもごも、或いは怒り。

 

 ・コメント:ていうか地味に流れてたけど、客将も実はどこかの国の王様でしたって設定なの?

 ・コメント:設定の大渋滞

 ・コメント:まあこういうのは言ったもの勝ちですしおすし

 ・コメント:客将の設定はよ

 ・コメント:よし、なら俺も今日から王様だ(錯乱)

 

 会話の中身を受けての混乱。

 

 ・コメント:信者共が顔真っ赤で草

 ・コメント:これが今何かと話題の客将かー、なんか面白そうじゃん

 ・コメント:話題性もあってただの荒しも結構いそうだな

 ・コメント:ジャンナの中身が男だったらガチ恋勢発狂待ったなしw

 ・コメント:ジャンナのバ美肉説は草

 ・コメント:www

 ・コメント:もっと色々ぶっちゃけてもええんやで

 

 流れと状況を受けての愉悦。

 数多の感情が入り乱れたコメント欄は、混沌としていた。

 そして万音の指差しにより少女の絵(ジャンナ)を――画面を見ていた播凰はここにきて漸く、コメントのその荒れ具合に気付く。

 

『ふむ? よく分からぬが、随分と威勢のいい者がいるようだな。活気があるのはよいことだ。……あー、王についてはだな――』

 

 ただ、気付いたところで何故そういう状況になっているかまでは理解が及ぶことはなく。

 攻撃的なコメントについてはそれを褒めるように――当人に自覚はないが――もはや第三者からすれば煽りとまで認識できるような言葉を返し。

 次いで、管理人の忠告を受けていたにも関わらず、己の過去に関する発言を零していたのに気付き口籠る。

 

 その無自覚ともいえる煽りが更なる加熱を与え。また真意はどうあれ言葉が止まったことによる隙が邪推の余地を与える。

 荒れるコメントというのは、大抵の配信者にとっては忌避するべきものであろうが、しかし。この配信の主は、その様をニヤニヤと眺めているだけで声を上げようとしない。

 罵詈雑言ともいえる荒々しいコメントばかりが目立つようになってきた、その時。

 

 ・ジャンナ・アリアンデ:頑張って何とか事務所から許可取ったんだから、勿論受けるわよね!?

 

 また更なる切り口のコメントが――というよりある意味渦中の名前が。埋もれかけ、けれども確かに映し出された。

 全部が全部ではないが、それに気付いた者はやはりいたようで。荒々しいそれに割入るように、その名が次々とコメントで流れ始める。それを契機として気付いたのか、連鎖的にその類のコメントも増えていった。

 

『ほぅ、やはり見ていたか。そら客将、答えを返してやるがいい。受けるも受けずも、余はどちらでも構わん』

 

 ククッ、と喉を鳴らしたディルニーンが促す。

 そして発言通りであることを示すかのように、ぞんざいに手をヒラヒラと振った。

 言ってしまったことは仕方がない、と播凰は自身の発言は一旦忘れ。切り替えて、誘いについて考える。

 

『ふむ……して、共に配信するのはいいが、一体何をやるのだ? 話すだけではつまらぬ、ゲームもできるのか?』

『貴様の無知は承知だが、何もただ話すだけ、ゲームをするだけが配信ではない。発端は偶発的にせよ、貴様の提案で先日行った商店街のレビュー、あれも正しく配信としての一つの形よ』

 

 ドラゴン騒ぎの動画を受けて小貫が――学園教師の紫藤の知り合いである彼女がやってきたことから着想を得た、商店街レビューの配信。

 ゆりの喫茶店(リュミリエーラ)の閉店をなんとかしようと思い付き、そして何故か自身も配信に参加することとなった出来事。それは播凰の記憶に新しい。

 

『ゲームは当然に、叶うかは別として他に希望があれば伝えることもできる。無論、オフコラボではないために限りはでてくるがな。企画については向こうと相談の上決定することになるだろう』

『……ふむ、取り敢えずは誰とも知らぬ相手と対話するのも一興か。面白そうだ、よし、受けるとしよう!』

 

 播凰の認識では。配信とはつまりこの場に存在しない者でも、機械を通して視覚と聴覚を共有できること。

 全てではないものの。同じ光景が見え、会話を聞け、コメントで意思表示もできる。

 そして今までの配信というのは、話す、ゲームする、商店街を紹介する、という経験だけ。相手にしたのも大きくはディルニーンたる万音と、商店街レビュー時の特別参加の従者――ジュクーシャのみ。

 だからそれ以外のことと言われても想像ができておらず。ただ面白そうという理由のみで話を受けると、あまり深く考えずに口にした。

 

 ・ジャンナ・アリアンデ:やったっ!!

 ・ジャンナ・アリアンデ:企画については任せなさい、勿論希望があれば伝えていいわ!

 ・コメント:ジャンナウキウキで草

 ・コメント:そもそも何でそんなにコラボしたがってるの?

 ・コメント:一興って、、もっと言い方あるだろ

 ・コメント:むしろ個人勢との許可がよく事務所から降りたな

 ・コメント:何とか許可取ったって言ってたし渋られはしたんだろうなw

 ・コメント:客将VSドラゴンの戦い見てどうこうって配信で熱く語ってた気がす

 ・コメント:てかこの前の商店街の、あれ客将の発案だったのね

 ・コメント:後で商店街レビューの回見てこよ

 

 当人がコメント欄に登場したことで、風向きは変わりつつある。

 攻撃的なものも完全に消え去ったというわけではないが、多少は落ち着いたようで――。

 

 ・コメント:反対反対絶対反対!

 ・コメント:客将きゅん考え直して!

 ・コメント:男同士ならまだしも、女は駄目ー!

 ・コメント:客将、男女コラボはやめとけ。対応間違えるとヤバイ、しかも相手は企業勢だ

 ・コメント:客将ガチ勢だ!!

 ・コメント:ガチ勢来たwww

 

 と思いきや、また新たな角度のコメントがパラパラと出てくる始末。

 とはいえ先程までに比べればまだマシという程度ではあるのだが。

 

『で、ゲーム以外の希望とは言うが、他にどういったことが配信でできるのだ?』

『それはだな……いや、貴様相手となると口を開くのも億劫だ。時間のある時に、余を含め他の配信者――VTuberに限らずでもよい、その配信や動画を調べるなり見て勉強せよ。そして客将という己が如何なる立場のものかを知るがいい』

『……むぅ、勉強が必要なのか?』

 

 それはさておき、では他に何があるのかを尋ねてみれば。 

 思いがけず返って来た苦手な単語に、抱いていたわくわくが急速に萎み。

 表情どころか声色にすら隠すことなく難色を示す。

 

『話題性だけではいつまでも続かん。尤も無様に踊るだけとあらば、それはそれで構わんが。しかしそれを除いても、余の配信では貴様を自由にさせていたが、コラボともなればある程度事前に取り決めを行う必要がある。大魔王とはいえ――だからこそ、受けたからには体面を重んじる。貴様に失態があったとすればそれは余の失態、沽券に関わる故に厳しくいく』

『取り決め……それは細々としたものか?』

『余からすれば何てことはないが、貴様からすれば細かいという括りとなるだろうな。スケジュールの調整に企画の準備、事前のルールや取り決めに始まり、段取りや……ああ、それらを越えて尚、当日の発言にも気を遣う必要がある。ただでさえ初コラボ、こちらは別としてあちらが慎重であることに疑いの余地はない』

『…………』

 

 播凰の苦い顔が更に苦々しいものとなる。

 ぼんやりとしか想像できてはいないが、もはや聞いているだけで頭が痛くなりそうだった。

 細かいことが苦手である。色々考えることが不得意である。何より、客将――三狭間播凰は勉強が嫌いである。

 であるからして――。

 

『……面倒そうだ、やはり止める』

 

 その決断に至ることは、何ら不思議なことではなく。

 

 ・ジャンナ・アリアンデ:なんでよっ!?

 ・コメント:ファーwww

 ・コメント:草

 ・コメント:いや面倒て、、

 ・コメント:大草原不可避w

 

『ククッ、まだ正式な回答とはなっていないため間に合いはするが……調整が必要とはいえ、この余が企画立案に関わるのだ。貴様の言う面白そうというのは保証するぞ?』

『それを惜しむ思いがないわけでもないがな。けれども丁度つい先日、面白そうな活動をするところに入ったのだ! ゲームも一人でできるようになったことだし、暫くはそれらが楽しめることだろう! 故に――』

 

 面白そうなこと、という点では何も配信に拘る必要はない。

 ジュクーシャにゲームの設定をしてもらって自由にできるようになったし、学園の方でも異世界道具研究会(面白そうなところ)に入った。加え、元々の楽しみである天能術のこともある。

 だから、少なくとも現時点においてはやること満載、面白そうな可能性というだけで苦手なことに自ら足を踏み入れる理由もなかったのだ。

 

『――うむ、許せジャンナとやら! 戦いの誘いであったなら吝かではないが、そうでないとあらば断わらせてもらう! 何より、私は細々としたことが……勉強が嫌いなのだっ!!』

 

 いっそ清々しいほどの、断言。思い切りのいい、拒絶。

 申し訳のなさが一応言葉の片鱗からは伺えるが、その受け取り方というのはやはり人それぞれで。

 

 ・コメント:何でそんなに上から目線なんだよ、しかも断るとか

 ・コメント:コイツちょっと話題になったからって調子乗りすぎ

 ・コメント:シネ

 ・コメント:上げて落とすとか客将も中々鬼畜だな……

 ・コメント:まさかの理由が勉強が嫌いだからw

 ・コメント:ジャンナ、もうこんな奴のこと気にすんな

 ・コメント:あれ、ジャンナ消えた?

 ・コメント:ジャンナ生きてるかー?

 ・コメント:これ絶対切り抜かれる

 ・コメント:流石客将きゅん♡

 

『フハハハハッ、そういうことだ人間の女よ! この大魔王、そして客将に目をつけた慧眼は認めるが――しかし此度の誘い、否と相成ったっ!!』

 

 どちらでもよかったというのはやはり本音だったのだろう。

 大して引き止めることもなく、残念がる様子もなく、高笑いをするディルニーン。

 それがいつもの調子というのは、普段の配信を見てる者には分かるのだが。

 

 ・コメント:むかつく

 ・コメント:登録者数も立場もジャンナの方が上だし、身の程を弁えろ

 ・コメント:これが大魔王のデフォなもんで

 ・コメント:流石大魔王、企業勢の大物相手だろうとか関係なしか

 ・コメント:客将も、ある意味大物ね

 ・コメント:笑うなよ

 ・コメント:両方ジャンナに謝れ

 ・コメント:絶対に許さない

 ・コメント:拡散してやる

 

 まるで火に油。沈静化しかけたコメントは、最終的に燃えに燃え、収拾をつけるのは難しいだろう。

 けれど。

 

『うーむ、どうにも先程から怒っているような者もいるみたいだが……一体、何をそんなに怒っているのだ? このコメントの者達が先程から何を言っているのか、さっぱり分からぬ』

『フハハッ、気にせずともよい。断りは正当な権利、致命的な線は踏み越えておらぬからな! さて頃合いだ、此度の会合は以上とする。ではなっ!!』

 

 それを放置したまま。最後の最後に無自覚に余計な火種をまた投げ入れて。

 こそこそと卑屈に逃げるわけでもなく、きっちりと締めの号令を以て。大魔王ディルニーンの配信は終わりを迎えるのだった。

 

 その夜。己の分身たるディルニーンのことを検索――所謂エゴサをしていた万音は、配信の反響に機嫌よさげに喉を鳴らしていた。

 中には、客将の立ち絵を評価するものや配信の内容を評価するものもあったものの。割合としては好意的なものよりも、非難や怒りが多く。けれどそんなことはおかまいなしといったように、むしろ笑みを深めていく。

 その最中、ジャンナ・アリアンデ――誘いをかけてきた件のVTuberが突発的に配信を始めるとの情報が目に入ったため、ほぅ、と万音は愉快そうに口元を歪めながらヘッドセットを装着し。

 ふと思い出したように、呟く。

 

「しかし、なんだ……随分と珍妙なモノが紛れ込んでいたな。まあ、余の邪魔とならぬ限りはどうでもいいが」




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