これ以後は特に出てくることはありません。
普通に、クロスオーバー作品として読んでいただければ、ありがたいです。
――それは、こことは違う異世界。
令和の世。蒼き惑星『地球』。
そこは、巨大なビル群が立ち並び、数多の人間が暮らし、娯楽に溢れていた。
ある少女が数ある娯楽の中でも夢中になったのは〝漫画〟と呼ばれる書物だった。ひとたび、それを読むだけで少女は、架空の物語の中で様々な人物と出会い、冒険し、戦い、いろんな経験を培うことができた。
長い闘病生活の中で、病院の窓からの景色しか知らない。少女にとって、漫画の中の世界だけが唯一の生きがいだった。
程なくして、少女は闘病の甲斐なく若くして亡くなった。
その魂は流れ着く。とある異世界へと。
けれどもこれは長い時の中で、少女が決して思い出すことはない、忘れたことさえも忘れた遠い記憶――…。
**
むかーし むかーし、ある所に独りぼっちの大きな大きな女の子がいました。
少女は戦いに生を見出すのを本質とする巨人族でありながら戦いを憎み嫌い、他の巨人族から異物とみなされていました。
そんな日々の中で、ある日少女はとってもマズい果物を食べると、大地を操る能力を得て、代わりにカナヅチになってしまったのです。
それにより、少女はさらに異物として扱われることになっていきます。
ある日、少女は巨人族の村『エルバフ』を出ることにしました。
そして、エルバフを出ると、当てもなくたった独りで日々を過ごしていました。
けれども、そんな孤独な日々はある時を境に終わりを告げます。
ある日、川辺で倒れていた男の子を助けると、二人はすぐに友達になったのです。
男の子はとっても優しい心の持ち主で、女の子に物を教えたり、服を作ってあげたり、女の子が病気の時は何日も看病しました。
それはそんな日々の中でのとある日の出来事です。
森の中で夕食の材料を集めていると、見たこともない珍しいキノコの怪物が現れて、とっさに
「食材 発見!!捕獲っ!!」
ドンッと少女はキノコの傘の断面を潰しました。
「ダメだ!ディアンヌ!!」
「へ!?」
「ムィーーーツ!!」
男の子の声に反応するも既に時遅く、少女はそのキノコから出る胞子を吸い込んでしまいました。
するとどうでしょう。なんと、みるみる少女のサイズが人間と同じくらいまで小さくなったではありませんか。
少女は男の子と同じくらいの大きさになれたことをとっても喜びました。
けれども、同時に不安も抱えていました。
小さくなったことで、男の子が自分を見る目が変わってしまうのではないかと。
男の子がそんな子ではないと分かってはいましたが、一度芽生えてしまった不安は中々消えませんでした。
「……。ねぇ、ハーレクイン。やっぱり、ボクが小さいと変?」
意を決し、少女は男の子に問いかけます。
「ちがうよ、ちがう!!そうじゃなくて!!ただ―――大っきくても小さくても、ディアンヌはディアンヌだなぁって、そう思っただけ。」
男の子はそう言って、ふにゃりと花のように笑いました。
たった一人の女の子として見てくれたこと―――それが少女にとって何よりも嬉しいことでした。
男の子と同じ目線で過ごせること。それは何よりも幸せで夢のような時間でした。
時間が経過し、元に戻ったことにしょんぼりと落ち込む女の子に、男の子はキノコの怪物から作った霊薬をプレゼントしてくれました。これでいつどんな時でも、女の子は男の子と同じサイズになれるようになったのです。
女の子はとっても喜び、その霊薬を肌身離さず持ち続けていました。
ある日、男の子は言ってくれました。「キミをずっと好きでいる。」って。
でも、女の子から男の子には何も言いませんでした。そんなの伝わってると思い込んでいたから。
男の子と過ごす日々。
女の子はとてもとても幸せでした。
唯一の心配事は、男の子がいつか自分の前からいなくなってしまうんじゃないかということでした。
しかし、とうとうその日は来ました。
男の子は女の子に必ず戻ると約束し出ていったのです。その夜、女の子は泣きながら眠れぬ夜を過ごしました。
朝、男の子は女の子の元へと戻ってきてくれました。
安堵からでしょうか。女の子は眠るかのように気を失いました。
女の子の首筋には一輪のマーガレットの花が刺さっていました。
再び目覚めると、女の子はなぜか記憶を失くしていました。
自分がなぜこんな所にいたのか、誰といたのか。エルバフを出てからの記憶が女の子からは消えていました。
女の子の傍には、二人の淡い恋心の名残を示すかのように、ポツンと寂しげに一輪のマーガレットの花が置かれていました。
それは今は遠いむかしむかしのお話です。
―――『巨人族の少女の航海録 ~序章・ハーレクインとディアンヌ~』より一部抜粋
**
巨人族が住まうエルバフの村の一角。
そこでは、戦士長のマトローナにより巨人族の少女―――ディアンヌとドロレスの修行がつけられていた。
「〝武装色・硬化〟!!」
ドロレスが力を込めると同時に、彼女の身体が灰色へと変わる。
マトローナはスタスタとドロレスの元へと歩くと
「よしよし。」
軽くポンポンと頭に触れた。
けれど次の瞬間、彼女は思いっ切りドロレスの鳩尾へと拳を叩き込む。それは武装色で防御したドロレスが勢いよく嘔吐してしまうほどに強烈なものを。
「よし。次、ディアンヌ。」
「〝武装色・硬化〟!!」
力を込め、ディアンヌの身体が鋼鉄のように黒光りした色へと変わる。
マトローナはディアンヌへも同じように拳を叩き込むが、彼女はそれを耐え切ってみせた。
数度の攻防。やがて限界が訪れたのかディアンヌの身体が崩れ落ちる。
「どうした、もう終まいか?」
「かっ…。ま…だまだ!」
立ち上がって構えようとするディアンヌの前に、ドロレスが庇うように立ち塞がる。
「もうやめて!!」
「ドロレス!」
「もう私たちは戦いたくないの!!訓練なんてしたくない!!」
「…ならば子を産み、貴様に代わる戦士を育てるのだな。」
そう言い残して、マトローナは振り向くことなくその場を後にする。
彼女の言葉が無情なシコリとなって、やけに残っているような気がした。
――その夜。
ディアンヌとドロレスが休む洞窟内。その洞穴からは明るい満月が浮かんでいた。
「ねぇ、ディアンヌ。」
「ふわぁ…なぁに?」
寝転がりながら物思いに耽るドロレスとは対照的に、ディアンヌは眠気により微睡みの中にいた。
「子供を産めば、もう戦わなくても許されるのかな…?」
「子供を産むのは戦う道具を作るためじゃない。命を繋ぐためなんだよ。」
それはポツリと自然に口をついて出た言葉だった。
「あ……。」
瞬間、ディアンヌの脳裏に記憶が駆け巡る。
それは誰よりも大好きな男の子―――ハーレクインとの幸せな日々。
出会い。そして、別れ。
「ボク、全部…思い出した。全部…全部…。」
「ディアンヌ…?」
自然と瞳から涙が溢れだす。
どうして今まで忘れていたんだろう…。こんなにも大好きな人の記憶を。
しばしして、ディアンヌはグイッと涙を拭った。
「ドロレス、あのね―――…」
ディアンヌがドロレスへと語るのは、失われていた記憶。
大好きな男の子 ハーレクインとの思い出。
「ドロレス!ドロレス!ボクも村を出る!!それでハーレクインを探すんだ。ボクを置いてどっかに行っちゃったこと、とっちめてやるんだから!!だから、ボクもドロレスと一緒に村を出るよ!」
きっとドロレスなら喜んでくれると思った。
けれど、対して彼女の反応はどこか歯切れの悪いものだった。
「あ…。私…ごめん…。」
「え?」
「あの時は…ね、ついあんなこと言っちゃったけど…やっぱり考え直したんだ…。」
「ど…どうして!?」
「だって…巨人族の私たちを受け入れてくれる場所なんて…。きっと怖がられて、受け入れてくれる人なんて誰も…いないと思うから。」
「でも、ハーレクインなら…ッ!!」
思わず声を荒げるディアンヌに、ドロレスは優しく微笑む。
その笑みには寂しさの色が含まれていた。
「うん…。ディアンヌの言うハーレクインって男の子が優しいことも、きっと私たちを受け入れてくれるんだろうなってことも分かるよ。でも、その子は今どこにいるかも分からないんでしょう?」
「それは…」
「ハーレクインに確実に会えるかもわからない。きっと当てもない長い時間を旅することになる。それに道中で必ず会うことになる人は、彼みたいには私たちを受け入れてなんてくれないよ…。」
ドロレスの瞳に涙が滲む。
今からおよそ150年前。人間と巨人族の間には友好が築かれた。
それは一人の『
それでも未だ人間の巨人族への恐れは根深かった。
「私には…それを耐え切る覚悟なんて…持てないよ。」
「ドロレス…。」
「ごめんね、ディアンヌ。でも、たとえ一緒に行けなくても、ディアンヌが大好きな男の子と再会できることをずっとここから祈っているから…。」
「ありがとう…ドロレス。」
「うん…ディアンヌ…。」
翌日の早朝。
ディアンヌは親友に別れを告げ、再びエルバフを旅立った。
ハーレクインを探すために。彼と再び会えることを夢見て。――そして、あの日ちゃんと伝えなかった気持ちを伝えるために。
**
ディアンヌがエルバフを出て
さすがに即席の船では、
それでも、能力者であるディアンヌが海に沈むことなく、小さな町に乗り上げられたのは奇跡としか言いようがない。
そして、現在。ディアンヌは行き着いた
「おい!!そこの巨人止まらんかーーー!!」
「ん…人間だ。」
声のした先を見やれば、海軍の制服を身に纏った人間が複数名ディアンヌの目の前の足元にいた。
「道を通りたくば金を出せーーー!!」
「ここは人間様の作った街道だ!!巨人族のような野蛮な種族が勝手に使うことは許さん!!」
下衆た笑みを浮かべながら、海兵たちは一様に刀や銃を構える。
その様はまるでどこぞの海賊のようだ。『正義』を掲げる海軍が何とも嘆かわしい。
まぁ、支部の海兵なんてそんなものかもしれないけど。
海兵たちの言い分にイラッとしながら、手頃な足元にあった石コロ(※人間にすれば十分な大岩)を彼らに向かって投げつける。もちろん、あえて狙いは外して。
一人の海兵の足元に石コロが激突し、地面に穴が開く。その海兵は目の前の光景に情けなくも腰を抜かしていた。
「き…貴様~~~!!よ…よくもやりおったな!!」
「フーンだ!美少女に対して男がそろって剣を抜くのが悪いんだい。」
「何が美少女だ!!巨人族め!!」
「
「お前らに男も女もあるものか!!」
ヒートアップする海兵たちの主張。さすがに好き勝手言われて、こちらもムカムカが溜まってくる。
「人間なんて数が多いだけのちっぽけな種族のくせに!」
ディアンヌのこの言葉が引き金だった。
怒りで顔を真っ赤に染め、海兵たちが剣を抜いてこちらへと向かってくる。
「この…言わせておけば!!討ち取ってくれる!!」
「おおーー!!」
〝言わせておけば…〟って、ボクよりもアンタたちの方がよっぽど言いたい放題だったと思うんだけど。
なんか面倒くさいことになったなぁ…。はぁ~。
適当にあしらおうと拳を突き出そうとした瞬間。
「〝ゴムゴムの銃〟!!」
「〝鬼斬り〟」
勢いよく伸びた腕によるパンチと剣技が海兵たちを一掃する。
「ったく。女相手に情けねぇ真似してんじゃねぇよ。」
「おーい!大丈夫かァ~~?」
ディアンヌを助けたのは、麦わら帽子を被った元気いっぱいの男の子に、三本の刀を掲げた目つきの悪い青年の二人。紛れもない人間だった。
「き、貴様ら!我ら海軍相手にこんな真似をしてタダで済むと…!!」
「生憎と俺達は海賊なんでな。テメェら海軍の言い分なんて知るかよ。」
目つきの悪い青年が笑う。何ともあくどい笑みだ。
それからこの二人が海兵たちをぶちのめすのに時間は要しなかった。
「貴様らおぼえてろ~~!!」
そう捨て台詞を残して、海兵たちは去って行った。
一体、どこの悪役なんだか。
海兵たちがいなくなったことで、ディアンヌはスッとしゃがみ、助けてくれた二人の人間に目線を合わせる。
「ありがとね、助けてくれて。」
「まぁ、余計な世話だったかもしれねぇがな。」
「ううん!嬉しかったよ、ありがとう!キミたち名前は?」
「おれはルフィ!海賊王になる男だ!」
「ロロノア・ゾロ。」
「ボクはディアンヌ。よろしくね!」
指を一本差し出し、ブンブンと握手をする。風圧で二人の身体が勢いよく浮き上がった。
「それにしても、お前でっけェなーっ!!人間か!?」
「ボクは巨人族だよ。」
「ほ~。お前みたいなデケェ人間がいるもんなんだな…。初めて見たぜ。」
ルフィはキラキラと目を輝かせ、ゾロは興味深そうにディアンヌを見る。
そこに恐れなど一切感じることはできない。
「…キミたちはボクのことが怖くないの?」
「ん?なんでだ?」
「ハァ?」
心底不可解という目で二人はディアンヌを見つめてくる。
こちらの方が呆気に取られるほどに。
何だか大きさを気にする自分の方がおかしいんじゃないかと思えてさえくるんだから、なんとも不思議だ。
「ううん!何でもない…!」
ニコッとディアンヌは屈託なく微笑む。
初めてだった。ハーレクイン以外にありのままの自身の存在を受け入れてくれた人は。
彼以外にもいてくれたんだね。ドロレスにも教えてあげたいな…。
それから、ディアンヌがルフィとゾロと仲良くなるのに時間は要しなかった。
ディアンヌ達はそれぞれ旅の目的を話すまでの仲になっていた。
「へ~、んじゃあディアンヌはそのはーれくいん?とかいう奴を探すために、
「行ってたんじゃなくて、ボクは
軽く新世界やこの世界の海の一般常識について説明する。
どうやら彼らは知らなかったらしい。
それで海賊として海に出て大丈夫なんだろうか。
「よし!ディアンヌ!」
ふと、ディアンヌの話を聞いていたルフィは、唐突にピョンッと立ち上がる。
「お前、おれの仲間になれ!一緒に海賊やろう!」
「へ!?ボク?」
「おう!おれ、巨人の仲間が欲しかったんだ~!な、いいだろ?」
困惑するディアンヌを余所に、ルフィは屈託のない笑みをこちらへと向ける。
そこには難しく考えることが馬鹿らしくなるほどに単純、それでいて純粋な思いしか感じられない。
そういうのは嫌いじゃない。それに二人といる時間は楽しかった。答えなんて最初から出てる。
「うん、いいよ。その方が早くハーレクインが見つかりそうだし。それにキミたちと一緒に冒険するの楽しそう!」
「ホントか~~!!」
キラキラと目を輝かせるルフィにコクリと頷く。
「じゃ、今日からボクはキミたちの仲間ね。よろしく!」
「「おう!」」
コツンと三つの拳が重なり合う。
「――ところで、お前が俺達の仲間になるのには異論はねぇが、あの小舟にお前が俺達と一緒に乗るのは厳しいんじゃねぇか?」
一緒に道すがらルフィ達の船まで一緒に歩き、辿り着いた先でゾロが指差すのは何とも言い難い小さな小舟。
海賊船にしては旗も掲げられていないし、あまりもお粗末な代物。
こんな小さな小舟では、ディアンヌ一人が足を踏み入れただけで軽く沈んでしまうことは容易だ。
「あ。それなら大丈夫。心配しないで。」
肌身離さず身に付けている霊薬の入った小瓶を取り出す。
「ん?何だそれ?」
パクンッと一粒口に入れれば、ディアンヌが身に纏っているものも含め、身体が人間サイズまでに縮む。
「おーー!!スッゲェーー!!悪魔の実の能力かーー!?」
「違うよ。コレはボクの悪魔の実の力じゃない。」
キラキラと目を輝かせるルフィに苦笑しながらも、ディアンヌは彼らの目の前にズイッと小瓶を突き出す。
「『ミニマム・タブレット』。チキン・マタンゴっていう物体を小さくさせる胞子を出すキノコから作った霊薬なんだ。もちろん解除薬もあるよ。」
「おぉーー!!いいなぁーー!それ!!そんだけ小さくなれたらメシ食い放題じゃねぇか!なぁなぁ、俺にもそれ使わせてくれ!!」
「んー、別にいいよ。ホラ!」
ディアンヌが投げた一粒を見事口でキャッチして、ゴクリと飲み込む。
ともすれば、ルフィの身体が手のひらサイズにまで小さくなった。
「おぉーーー!!」
興奮冷めきらぬ様子でルフィはビョンビョンとはしゃぎ回る。
「解除薬飲まなきゃ効果はきっかり7時間!忘れないようにね!」
「おう!」
ルフィは元気よく返事をするが、たぶん忘れるだろうな…。そんな確信がある。
こうして、麦わらの一味に新たな仲間―――巨人族のディアンヌが加わった。
彼らの旅はまだまだ始まったばかり。
《人物紹介》
〇ディアンヌ
種族:巨人族
出身地:偉大なる航路 新世界 ウォーランド エルバフ
武器:戦鎚ギデオン
覇気:武装色、覇王色(←本人無自覚)
悪魔の実:ツチツチの実(超人系)
エルバフの巨人族でありながら、戦うことを嫌っていたため、周りからは異物と見なされていた。悪魔の実の能力者となってからは、それがより顕著となる。
エルバフを出て、ハーレクインと出会い、恋に落ちる。
ハーレクインから貰ったものは全て大事な宝物。
ハーレクインと別れ、エルバフに戻り、彼との記憶を何故か全て失ってしまうものの、心に刻まれていた想いにより全てを思い出す。
ハーレクインが好き。彼を探すために、海に出る。
途中、海軍と揉めるものの、ルフィ達と出会い、彼らを気に入って仲間に加わる。
〇ハーレクイン
ディアンヌの想い人。実は彼女の記憶を消した張本人。
現在は、■■■■■■■■■■。
《用語集》
〇ミニマム・タブレット&解毒薬
チキン・マタンゴという物体を小さくさせる胞子を出すキノコから作った霊薬。
解毒薬を服用しなければ、効果はきっちり7時間。
ディアンヌは解毒薬により、好きに大きさを変えている。
基本、町中や船では迷惑を掛けないように人間サイズでいるが、戦闘中は巨人族本来のサイズである。