巨人族の少女の航海録   作:蜜柑凪

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今回はナミが登場します。


海賊嫌いの少女

ディアンヌがルフィ達の仲間に加わり早数日。

大海原の小舟の上。現在、ルフィ達一行は飢えの危機に瀕していた。

 

それもこれも、町で買い足した軽く三ヶ月分はあった食料をルフィという名の大食漢が丸一日で食い潰したからである。ディアンヌが彼にあげた霊薬で、今なおずっとミニ化していたにもかかわらず…だ。

いや、ミニ化していたからこそ、食料が1日()もったのかもしれない。通常なら1時間で食い潰されてる。

…それにしても

 

「「腹へった。」」

「ボクも限界…。」

 

空腹のあまり、全員がバタリと寝そべる。

あぁ、空が青いな…。

 

「お、鳥だ。」

「でけェな、わりと…。」

 

ルフィはジーッと鳥を見つめていると、思い立ったようにバッと勢いよく起き上がる。

 

「食おう!!あの鳥っ。俺が捕まえてくる!」

 

ボーッと項垂れていたルフィの目には既に生気が戻っている。

今は目の前の食料に意識が注がれていた。

 

「ディアンヌ!元の大きさに戻す薬くれッ!!」

「ん。ホイ!」

 

ミニマム・タブレットの解除薬を口に放り込めば、ルフィの身体が元の人間サイズにまで戻る。

 

「おし!んじゃあ、ゴムゴムの…ロケット!!」

 

反動をつけ、ルフィが鳥の方へと飛んでいく。

そして…喰われた。…て、ちょっと待って!

 

「あほーーーーーーっ!!!」

「何やってるの…!?」

 

慌てて二人、舟を漕いで鳥を追い掛ける。

標的が目の前にある以上、さすがに方向音痴のゾロでも道に迷うことはない。

 

ふとルフィを追い掛ける先で三人の遭難者。

いささか乱暴だが、速度を緩めずに三人を船へと乗り込ませる。

 

「おい、船を止めろ。おれ達ァ あの海賊〝道化のバギー〟様の一味のモンだ。」

「ん?」

「あァ!?」

 

 

 

―――数秒後。

 

「あっはっはっはっはーーーっ。あなたが〝海賊狩りのゾロ〟さんだとはつゆ知らずっ!しつれいしましたっ。」

「こちらの可憐なお嬢さんも中々どうしてお強い!さすがは〝海賊狩りのゾロ〟さんのお仲間!!」

 

ゾロとディアンヌは、軽くぶちのめしたことにより従順となった三人に、オールの漕ぎ手を任せていた。

話を聞けば、女に騙されて海の真ん中で溺れていたらしい。ついでに自船の頭のバギーが悪魔の実の能力者であることも教えてくれる。

 

 

 

 

しばしして、船を止める。

着いた町はバギー一味が襲撃中であることも相まって、閑散としていた。

 

「じゃあとりあえず、そのバギーってのに会わせてくれ。ルフィの情報が聞けるかもしれねぇ。」

「はい!よろこんでっ!まずはその道を真っ直ぐ…」

「おう、わかった。」

 

そして道案内にもかかわらず、ものの見事に曲がるゾロ。

今、わかった、って言ったよね?

どういう方向音痴なんだか。いや…そもそもこれを方向音痴のレベルで片付けていいんだろうか。

 

「ちょっとゾロ!?」

「ゾロのだんな!?」

 

ついでに、彼を追い掛けていった下っ端三人も一緒だ。

既に彼らの姿は見えず、遥か彼方。

その場にはディアンヌが一人ポツンと取り残されるのみ。

 

「もうッ!!」

 

ディアンヌが使えるのは武装色の覇気のみ。こういう時、見聞色の覇気が使えないことをひどく口惜しく思う。

見聞色の覇気さえあれば、迷子二人を見つけ出すこともすぐなのに!

 

幸いと言っていいのかは微妙だけれど、この町は海賊が襲撃中なこともあって人の気配は見られない。

これなら、元のサイズに戻っても大丈夫かな。

その方が見つけやすいし。それに向こうにとっても目印になるしね。

 

そう思って、パクリと一粒ミニマム・タブレットの解除薬を飲み込み、元の姿へと戻ったディアンヌは迷子二人を探すべく走り出した。

 

 

 

 

 

 

**

 

――一方その頃。

鳥に捕まったルフィは、海賊専門の泥棒 ナミに騙され檻の中にいた。

 

バギー玉の入った大砲がルフィの方へと向く。

ナミがバギー一味の海賊たちを倒していくものの、依然として導火線に火は点いたままだ。

グッと火の点いた部分を握り締める。

その背後より迫りくるバギーの部下たち。ルフィの声に反応するも既に遅く…。

 

だけど、それは他でもない〝海賊狩りのゾロ〟の手により阻止された。

ゾロがバギーを斬り伏せる。

奴を倒せたと思っていたその時。浮いたバギーの手に握られたナイフがゾロの脇腹を深く貫いた。

それこそがバギーが食べた〝バラバラの実〟の能力。

 

 

斬っても斬れないバラバラ人間。

檻の中にいて身動きが取れないルフィ。深手を負ったゾロ。

まっずい!形勢が逆転した!

 

禁句を言われブチ切れたバギーの切り離された腕に握られたナイフが、檻の中のルフィを襲う。

けれど、ナイフがルフィを貫くことはなく、歯によって止められた。

 

「お前は必ずブッ飛ばすからな!!」

「ぶあーっはっはっはっはっはっはブッ飛ばすだァ!!?終いにゃ笑うぞ!!!てめェら三人この場で死ぬんだ!!!ぶあっはっはっはっは!!」

 

強きに返すのは、ルフィのみ。状況の見えていないこの海賊を恨めしく思う。

 

「この状況でどうブッ飛べばいいんだ、おれは!?野郎ども!!笑っておしまいっ!!」

 

バギーの声に合わせ、バギー海賊団の笑い声が響き渡る。

けれど、その笑い声は突如としてピタリと止んだ。

彼らの顔はものの見事に青褪めており、身体はひどく震え、涙目となっている。一体何が…

 

「あーー!二人共こんなとこにいた!」

 

後ろから聞こえてくるその声に反応し、クルリと振り向けば巨大な女の子の顔が…。

ん?遠近感が狂ったのかしら。

そう思って何度も目をゴシゴシと擦るも、その景色が変わってくれることはない。

 

「……………!?」

 

恐怖で声が出ない。

なんでこんな東の海(イーストブルー)なんかに巨人がいるのよ!?

 

「おーー!ディアンヌ!!」

「遅かったな。迷子か?」

「…それ、ゾロたちにだけは言われたくないな。ていうか、少し見ないうちに二人ともどうしたの?ルフィは檻の中だし、ゾロはゾロでケガしてるし。」

「成り行きだ!!」

「…チッ!もう油断しねェ…。」

 

ポンポンと飛び交う会話に軽く眩暈を覚える。

コイツらはなんてモンを仲間にしてんのよッ!!!

 

 

「ぎいやーーーーっ!!!バケモンだァーーーーっ!!!」

 

我先にとバギー一味は逃げ惑う。

そこに先ほどまでの余裕は一切ない。気持ちは痛いほど分かる。

 

「…ムカ。」

 

ブンッと大きな手のひらがバギー一味を吹き飛ばす。

 

「ちょっと!女の子相手にバケモノ呼ばわりはないんじゃない?」

「あばばばばば。」

「おーー、見事にブッ飛ばされたな。」

 

バギー一味が一掃されたことで、ゾロはヒョイッとディアンヌの肩に乗る。

 

「ちょうどいい。ディアンヌ、おれ達を運んでけ。」

「ん、了解ーー!」

 

続くディアンヌはルフィが入った檻を持ち上げ、手のひらの上へと乗せる。

 

「あ!ちょっと待ってくれ、ディアンヌ!あいつも一緒に連れってってくれ!ウチの航海士なんだっ!!」

 

 

―――バカッ!!なんでわざわざコッチを指差すのよ!!!

 

そう心の中で激しく突っ込むものの、それを声に出す勇気はない。

 

 

「ふ~~ん?キミが?」

 

ジロジロとディアンヌはナミを睨み付ける。

そこにあまり良い感情は見受けられない。

 

「ま。船長命令じゃ仕方ないか。」

 

グワシッと不承不承ながらディアンヌはナミの身体を握る。

 

「イーヤーーーーッ!!!」

 

嫌々なら放してほしい。切実に。巨人の掌の中にいるなんて、ちっとも心が休まらない。

それならバギー一味に囲まれていた方がまだマシだ。

 

「ちょっと!暴れないでよ!」

「イヤーーーー!!食べられるゥーーー!!」

「失礼だね、キミ!ボクの好物は豚の丸焼き!!生まれてこの方、人間なんて食べたことないよっ!!これ以上、おかしなこと言って暴れるなら、容赦なく降り落とすから。いいね!」

 

コクコクと涙目で何度も頷く。

誰だって命は惜しい。こんな高さから振り落とされたんじゃ、かよわい女の子の私は即死だ。

 

 

ディアンヌはルフィたち三人を連れ、ドタドタと町中を移動する。

ただそれだけのことで振動が凄まじい。

 

「よし、こんなとこでいいだろ。ディアンヌ、止まれ。」

「ん。」

 

道端へと三人を降ろす。

どうやらペットショップの前らしく、子犬が一匹、店の前に居座っていた。

 

ふと遠くからバギー一味の怒号が響く。

どうやら無事だったらしい。中々しぶとい。

まぁ、ディアンヌはただ追い払っただけで大したダメージも与えていないし、それは当然のことかもしれないが。

 

「さすがに元の大きさだとすぐ見つかるし、面倒だな。」

 

ヒョイッとタブレットを飲み込み、人間サイズまでに小さくなる。

 

「きょ…巨人が小さくなった……?」

「そういう薬だからね。」

 

ナミは縮んだディアンヌを呆然と見ていたが、やがてハッとしたかのように意識を戻す。

 

「それよりも、あんた達!こんな道端にいたら、バギーに見つかっちゃうわよ!」

 

キンッとナミは鍵をルフィの前へと落とす。

 

「鍵!!!檻の鍵盗ってきてくれたのか!!」

「まァね…我ながらバカだったと思うわ。他に海図も宝も何一つ盗めなかったもの。そのお陰で。」

「へ~~。意外とやるじゃん。」

「はーーーっ!!ホントどうしようかと思ってたんだ、この檻!!」

 

ルフィが檻の鍵へと手を伸ばす。

しかしその瞬間、パクッと子犬が鍵をくわえ、ゴクリと飲み込んだ。

言いようのない沈黙がしばし支配する。

 

「このいぬゥ!!!!吐け、今飲んだのエサじゃねェぞ!!!」

 

子犬と格闘するルフィ。

意外といい勝負をしている。

 

「くらっ!!小童ども!!シュシュをいじめるんじゃねェっ!!」

 

怒鳴るのは、武装したこの町の町長 プードル。

彼の家を借りてゾロを休ませてもらう。

プードルはシュシュのエサをやりに危険を承知で、海賊が襲撃中のこの町に戻って来たらしい。

 

「あ~、この檻どうしよっかな~。」

 

ルフィが檻の中で黄昏る。シュシュが鍵を飲んだことで、もう開けることは不可能だ。

 

「ボクが壊そうか?」

「ん?ディアンヌできるのか…!!」

「うん。見たところ、海楼石じゃないみたいだし。」

 

そう言って、ディアンヌはガコンと檻の上部分を軽々外す。

 

「おーー!!出られたーー!!!ありがとな、ディアンヌ!」

「どういたしまして。」

 

嬉しそうな二人に対して、ナミの方はと言えば涙目だ。

こいつ、このほっそい腕のどこにそんな力があるのよ…!刀でも斬れない鉄の檻なのよ!?

いくら巨人といえど、今は私とそう変わらない人間サイズの女の筈なのに…!!

 

 

 

ふいに突如として雄叫びが轟く。

ナミとプードルは一目散にその場から逃げていった。建物の陰から成り行きを見守る。

 

「フハハハ…。お前、あの巨人か?随分とかわいい姿になったじゃねェか!巨人じゃないテメェなんざ敵じゃねェ!!」

「…ムカ。随分な言い草だね。」

 

ライオンのリッチーの背に乗った〝猛獣使い〟のモージが小さくなったディアンヌの姿を目に留め、愉快げに笑う。

 

「やれ!!リッチー!!!」

「ガルルルル!!!」

 

ディアンヌへとリッチーが襲い来る。

スッとディアンヌは地面へと手をやった。

 

「〝創造〟!!」

 

瞬間、隆起した大地がモージとリッチーを一網打尽にした。

 

「バカな…!!まさか…お前…バギー船長と…同じ〝悪魔の実〟の…能力者…!!!」

「そ。ボクは超人系〝ツチツチの実〟を食べた大地創造人間。ボクは大地を自由に操ることができるんだよ!」

「そんな……。」

 

息も絶え絶えにモージがガクリと意識を失う。

 

「おーー!!すっげーー!!ディアンヌお前、悪魔の実の能力者だったのかっ!!」

「ルフィたちにはたしか言ったと思うんだけど?そんなに驚くこと?」

「ん~~?そういえば、なんか聞いたような…ないような…?」

「要するに曖昧ってことなんだね。キミらしいけど。」

 

ナミは呆然とディアンヌを見つめる。

巨人族で、鉄の檻を簡単に壊せる怪力で、悪魔の実の能力者……。

チートすぎでしょ…。

 

 

どこかゆったりとした足取りでナミはディアンヌの元まで歩き、その横へと腰を下ろす。

ディアンヌはそのことに不思議そうな顔をしたものの、特に何かを言うことはなかった。

 

「なんでアンタはそんなに強いのよ…。」

 

それはナミの口から自然とポツリ出てきた言葉だった。

 

「…ボクは強くないよ。」

「ハッ…皮肉ってわけ…?」

 

羨ましくて…嫉ましくて仕方がない。

私にもこの子みたいな力があったのなら、村だって救えたのに。

 

「ボクは、戦いに誇りを見出すエルバフの巨人だけど、戦うことが好きじゃない。だから、ずっと皆からは異物として扱われてきた。おまけに悪魔の実の能力者になってからは尚更。ボクは独りぼっちだった。それで、ほとんど逃げるようにエルバフの村を出たんだ。」

 

その姿はまるで所在のない普通の女の子のよう。

たとえ薬で小さくなっていなくても、ナミにはこの子が巨人じゃなくて、自分と背丈の変わらない同じ女の子に見えた気がした。

 

「でも、ボクは出会えたんだ。ハーレクインっていう大好きな男の子に。優しくて、ボクに愛を教えてくれて。ボクはハーレクインが好きになった。」

 

ディアンヌは頬をピンク色に染めながら、髪をいじる。

その姿は紛れもなく可愛らしい乙女そのもので、彼女がどれだけそのハーレクインっていう男の子が好きなのかが伝わってくる。

 

「けどある時、ハーレクインはボクの前から姿を消しちゃった。おまけに、ボクはつい最近までハーレクインとの記憶を失くしちゃってたし。だから、ボクは海に出たんだ。ハーレクインを探すために。それで旅の最中にルフィたちと出会って、海賊に誘われたんだ。」

「それであんたは海賊になったってわけ。おかしいわよ、そんな簡単に海賊への道を決めるなんて!!」

「そう?でも、ボクにとってハーレクインに会うこと以上に大事なことってないから…。そのためなら、海賊にでも何にでもなるよ。」

 

――そう思えるほどに、この恋に命を懸けてる。

 

 

それはあまりにも真っ直ぐで―――

キラキラと夢見て輝く少女は、自身が今まで見てきた何よりも綺麗だと思った。

そして、それは過去の自分の姿を幻視する。

 

片や今の自分はどうだろうか。

もう夢なんて遠い記憶の中にしか存在しない。

幸せだった日々。けれど、それは泡沫のように儚く消えてしまった。

真っ赤に染まった血の海。涙と暴力。

 

ディアンヌの姿を直視できず、ナミは思わず視線を逸らす。

 

 

 

 

 

 

「思ってたけど、やっぱりキミ海賊が嫌いなんだね。」

 

純粋な疑問から出たその言葉に、ハッとナミは顔を上げる。

 

「そうよ!海賊を好きな物好きなんていやしないわッ!!どいつもこいつも………!!海賊なんてみんな同じよ…!!!人の大切なものを平気で奪って!!!」

 

今なお続く地獄。忌々しい左肩の刺繍。

1億ベリーを貯めて村を買うまで終われない。

 

「たしかに海賊はそうかもしれない。でも、ボクたちをそんな海賊と一緒にしないで!ボクは大切なものを守るために戦う。ルフィたちもそう。でなきゃ、海軍に巨人族だからって、変ないちゃもんをつけられてた女の子を助けたりなんかしないよ!!」

「あんた……」

 

ナミが思わず二の句が継げなくなったことで、場は沈黙が支配した。

けれど、それはひとたび轟音によって破られる。

バギー玉が発射されたことにより、家々が粉砕されていた。

 

プードルはたしかな覚悟を宿し、槍を携えてバギー達の元へと走る。

目覚めたゾロ、お互いの目的から手を組むことになったナミ、そしてディアンヌとルフィも後を追うように向かう。準備もやる気も満タンだった。

 

「デカッ鼻ァ!!!!」

 

――今、戦いの狼煙を上げる。

 

 

 

 

 

 

**

 

「くそ…!!我々バギー一味が()()()ごときに……!!ここまで…!!」

「コソ泥じゃねェ。海賊だ!!」

 

ゾロVSカバジの剣士対決もゾロの勝ちで終わり、

 

「吹き飛べ、バギー!!ゴムゴムの…バズーカー!!!!」

「ああああああ!!!」

 

ルフィもバギーに勝利する。

 

 

 

町民たちに追い掛けられ、シュシュに助けられ、そして村長のプードルに感謝されるという一幕も戦いの後にあったものの、何はともあれ二隻の船は海をゆく。新たに〝暫定〟航海士のナミを加えて。

 

 

 

 

 

 

 

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