巨人族の少女の航海録   作:蜜柑凪

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信念

海のコックを求め、海上レストラン『バラティエ』へと赴いたルフィ達一行。

店を壊した罰で雑用を言い渡されたルフィを差し置き、ディアンヌたちはバラティエの料理に舌鼓を打つ。

…うん。おいしい。

 

そうしていれば、ふと一人の男が大層仰々しい仕種でこちらの方へと駆け寄ってきた。

 

「ああ海よ。今日という日の出逢いをありがとう。ああ恋よ♡この苦しみにたえきれぬ僕を笑うがいい。僕は君達となら海賊にでも悪魔にでも成り下がれる覚悟が今できた♡」

 

ハートを浮かべ、男はディアンヌとナミの二人を口説く。

その様はなんだか少しおもしろいと感じる。

 

その後、サンジは一悶着起こったお詫びとして、ナミとディアンヌに食前酒とデザートをサービスしてくれた。

ナミは巧妙に料理の値段をタダにしていたけど、ディアンヌとしてはさすがにそこまで厚かましくはなれない。

 

「ボクはちゃんとお金払うからね。」

「そんな!お美しいアナタに代金を払わせるなど…むしろその可憐さに私めが代価を払わねばならぬところ。」

「うん、ありがとう。でも悪いから。サービスしてくれて嬉しかったし。それだけで十分だよ。」

「おお!なんと心優しい♡君はまるで女神のようだ!!」

 

ははッと苦笑しながら、サービスでもらったデザートをウソップ達にもお裾分けする。

その様をサンジはジトリと羨ましげに見つめていたものの、女性客に声を掛けられるや否やそちらへと赴いていった。

なんだかその切り替えの早さは逆に清々しい。

そう思いながら、ディアンヌ達はレストランでの食事を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

――それから二日後のこと。

 

事件は突如として起こった。

 

 

 

海上レストラン『バラティエ』へと現れたクリーク海賊団。

その大帆船はたった一太刀により両断される。

悠々と一隻の小舟に乗っていたのは、鷹のように鋭い目の男―――〝王下七武海〟ジュラキュール・ミホーク。

 

ディアンヌは見聞色の覇気を使えない。

使えるのは武装色の覇気のみ。それでも嫌という程にビリビリと感じるこの威圧感…!

 

「なんて…覇気…!!」

 

ゾロがミホークに勝負を挑むも、手も足も出ず軽くあしらわれて終わる。

悪魔の実の能力者でもない。覇気だって使えない。勝負は明らかに見えている。だけど……

 

「死んだ方がマシだ。」

 

力があるだけの人間ならこの海にごまんといる。

だけど、本当に心力の強い者は偉大なる航路に入っても中々いない。

 

「背中の傷は剣士の恥だ。」

「見事。」

 

その心意気に魅かれたからこそ、ディアンヌは彼らと共に航海している。

 

 

ミホークはゾロ達へと言葉を残し、その場を颯爽と去っていった。

ついでに、羽虫を払うかのようにクリーク海賊団を蹴散らして。

クリークはそんなミホークの様を悪魔の実の能力者だと思い込んでるみたいだけど。しかも、情報さえあれば対抗すらできると考えてる。

 

「バッカじゃないの!?」

 

そうポツリと呟かずにはいられない。どれだけおめでたい頭をしてるんだか。

ただでさえ底のない器の底が知れるというものだ。

 

 

 

 

 

 

そうして、再び始まった戦闘。

巨大な盾を全身に身に纏った一人の男――パールが足場へと降り立つ。

 

「無傷こそ強さの証!!クリーク海賊団〝鉄壁の()()〟パールさんとはおれのことよ。おれはタテ男で、ダテ男だ。イブシ銀だろ。」

「全然。どこが?」

 

なんだかキメているパールに思わずツッコまざるを得ない。

 

「なぁに、キミのようなレディにはこのカッコ良さは分かるまい。」

「うん。一生分からないし、分かりたくもない。でも、それってボクみたいな女の子だけに限らないと思うけど。」

「カチーン!いいだろう。そこまで言うのなら、キミには俺のカッコ良さを身をもって味わってもらおう!!」

 

ディアンヌの言い分にピキリと怒りを滲ませ、パールは戦闘態勢へと入る。

 

「おい、たて男。俺の目の前でレディに手を挙げるなんて発言は…………ディアンヌちゃん?」

「ご指名みたいだし、ここはボクが戦うよ。」

 

庇うように立つサンジを手で制し、ディアンヌは前へと出る。

 

「いやいや!君のようなお美しいレディを戦わせるわけには…!」

「安心して。ボクだって海賊なんだ。守ってもらわなきゃならないほど弱くはないよ。」

 

グッと拳を握る。力も気合いも十分。

両手に纏った盾を打ち付け、音を鳴らしながら、パールがディアンヌへと襲い来る。

それにディアンヌは全く以って動じることなく、パール目掛けて拳を打ち付ける。

 

「は!!?」

 

瞬間。誰もが目の前の状況を理解できなかった。

細い腕から繰り出された、たった一発の殴打。

たったそれだけで、あの頑丈な盾を木っ端微塵に打ち砕き、パールを伸した。その事実を。

 

「信じられねェ!!あの女!!」

「あんな細腕で一体どんな怪力してんだよ!??」

 

クリーク海賊団に動揺が走るのを後目に、背後からバキッという音がした。

 

「ぬあ!!」

 

突如として、響く苦悶の声。

その声に後ろを振り返れば、そこにはゼフの義足を折り、彼の米神に銃を突きつけるギンの姿。

〝船を降りろ〟という彼の要求。だが、サンジは頑なとして、そんな要求を呑むことは無い。

 

「おれはクソジジイから何もかも取り上げちまった男だ。力も!!!夢も!!!だから、おれはもうクソジジイには何も失ってほしくねェんだよ!!!」

 

それは、サンジとゼフ――二人の過去に起因する。

 

客船オービット号でコック見習いをしていたサンジと、船を襲撃した海賊 ゼフとの出会い。

嵐に巻き込まれ、海に落ちたサンジをゼフは助け、二人は岩礁へと漂着した。

そして、ゼフは自らの足を犠牲に、サンジに数少ない食糧の全てを分け与えて助けたのだ。

 

 

「おれだって死ぬくらいのことしねェとクソジジイに恩返しできねェんだよ!!!!」

 

それこそが、サンジがこのレストランに拘る最大の理由。

 

ルフィはジッとサンジを見つめる。

頭に浮かぶのは、腕を犠牲に自身を助けてくれたシャンクスの姿。

クシャリと帽子に手を添える。そして、ツカツカとサンジへと歩みより、思いっ切りガッとその胸倉を掴んだ。

 

「死ぬことは恩返しじゃねえぞ!!!そんなつもりで助けてくれたんじゃねェ!!!生かしてもらって死ぬなんて弱ェ奴のやることだ!!!」

 

互いに譲れぬ思いがぶつかり合う。

ふいにガチャンと音がしたかと思うと、銃が床板へと落ち、サンジ達の前に武器を構えたギンが立ち塞がる。

 

「我々の…命の恩人だけは、おれの手で葬らせて下さい。」

 

互いの蹴りと鉄球が交錯し合う。

曲がりなりにも、ギンはクリーク海賊団にて総隊長を務め、〝鬼人〟の異名で知られる男。

にもかかわらず、戦況はサンジが押していた。

 

「嘘だろ!?なんなんだ。あのコック!!ギンさんを押してやがる!!」

「……ま…まさかギンさんまで、やられやしねェだろうな。」

 

その様にクリーク海賊団は驚きを隠すことができない。

そして、決着がつく―――

 

「〝羊肉ショット〟!!!!」

 

ギンの身体が蹴りによって、思いっ切り吹っ飛ばされる。

荒い呼吸を繰り返し、ボロボロになりながらもその顔はどこか晴れやかに、ポロポロと涙を流していた。

 

「情けねェな。あれだけ息巻いたのに、結局ボロボロになって負けちまってよ…。でも…ほんの少しホッとしている自分もいるんだ…。戦って分かったよ。アンタとおれじゃ覚悟が違う。おれにはアンタを殺す覚悟がどうしてもできなかった。…あんなに人に優しくされたのは、おれは生まれてはじめてだから………!!!」

 

身体はフラフラとして覚束ないものの、ギンは力を込めて立ち上がる。

 

「首領・クリーク、あわよくば………あわよくば!!この船を…見逃すわけにはいかねェだろうか…………!!」

「!!!」

 

その言葉にクリークの怒りは頂点に達し、クリークは猛毒ガス弾を放つ。

クリーク海賊団はガスマスクを装着し、コックたちは海へと潜る。

悪魔の実の能力者であるディアンヌはさすがに海には潜れないので、敵の顔面からマスクを二つ奪い取る。

どうやら、ルフィも同じことを考えていたみたいだ。

ルフィはギンとサンジへ向けて、ガスマスクを二つ放り投げる。

 

「ルフィ!」

 

ディアンヌがルフィへともう一つのマスクを投げるよりも先に、コロンとルフィの傍にマスクが一つ転がる。

 

(まさか…あの人……!!)

 

そのマスクの先にディアンヌは思い至ると、瞬時に駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

それからおよそ5分は経過した。

薄紫の毒煙が晴れていく。そこには―――

 

「アンタ…なんで……。」

「ウチの船長を助けてくれたからね。そのお礼!」

 

サンジの顔にガスマスクを押し当てるギン――、の顔にディアンヌはマスクを押し当てていた。

 

「チッ…!!よりにもよって、敵に助けられるとはなァ?ギン!!せっかく、おれが一思いに殺してやろうとしたのによォ!!!」

「クリーーーーク!!!!」

 

怒りに任せ、ルフィはクリークへと思いっ切り突っ込む。

まるで滅茶苦茶な戦い方。だけど、その信念は曲がることは無い。

全身に何百の武器を仕込んでも、腹にくくった〝一本の槍〟には敵わない。

 

「ゴムゴムのォ!!!大槌!!!!」

 

クリークがバラティエの床板に思いっ切り叩き付けられる。

頭から血を流し、大の字になって見事に伸びていた。

 

「……って、ルフィ!!」

 

彼は網に身体を絡め捕られたまま、上がって来ない。

 

「おねがい、サンジ!!ルフィをたすけて!ボクもルフィと同じ悪魔の実の能力者で、海に嫌われてカナヅチになってるから、ボクじゃルフィを助けられないんだ!!」

 

その言葉にサンジは急ぎ慌てて海へと飛び込む。

ほんの数分もすれば、二人は海から顔を出した。

 

「ありがとう、サンジ。」

「どういたしまして♡」

 

 

 

こうして、バラティエを巡る戦いは終止符を打った。

〝海のコック〟サンジを新たな仲間に引き入れて。

天気は良好。船は行く。次の目的地はナミの故郷 ココヤシ村。

 

 

 

 

 

 

 

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