ナミの故郷 ココヤシ村にてゾロ達と合流を果たしたディアンヌ達。
そこで、ナミの姉であるノジコからナミの過去を知る。
「8年前のあの日から、あの
風が吹き、木の葉が舞う。なんだかそれは、異様に肌寒く感じた。
**
アーロンの手下に成り下がった海軍たちが、無遠慮にみかん畑に立ち入り、1億ベリーを捜索する。
「ありました!!!」
土の中に埋められていた木箱。
そこには、今までナミが血の滲む思いで集めてきた1億ベリーに相当する宝が隠されていた。
「触るな!!!!」
激昂するナミにネズミの銃口が向き、ドンッと一発の銃声が轟く。
そうして、目の前に映った光景に誰もが目を見開いた。
「……なに…やってるの……?」
怒りを押し殺した冷たい声が届く。
巨大な掌。それが銃弾を防いでいた。
「チッ…!?」
「ディアンヌ…。アンタ…どうして……。」
呆然とディアンヌの姿を見やるナミとは対照的に、ネズミはゴシゴシと目を擦る。
ともすれば、目の前にいた巨人の姿はどこにも見当たらなくなっていた。
うむ。どうやら見間違いだったようだ。
それもその筈。こんな東の海の辺鄙な村に巨人族などいるわけもない。
そう思い、押収した宝を手に、笑みを深める。
「チチチチチ!!!笑いが止まらんな!!9千3百万ベリーだ!!この内3割は我々の懐に入る。すばらしい…!!!」
「しかし大佐…どれも血や泥でにじんでボロボロですな…。」
「チチチチ…金は金だ。」
「…それだけなんだね、キミたちにとっては。」
「ん?なんだ?何か言ったか?」
突如として、掛けられた声にネズミの頭に疑問が浮かぶ。
いつの間に潜り込んだのだろう。横を見やれば、ツインテールの女がジッと札束を手に取って眺めている。
その顔は俯いていて、表情は伺い知れない。
「ノジコから事情を聞かされたに過ぎないボクでもこれを見れば、どんなにナミが血の滲む思いでここまで集めてきたのかが分かる。きっとボクなんかじゃ計り知れない苦渋を味わってきたんだって。――だから、」
パクンッと一度、解除薬を飲み込めば、ディアンヌの姿が本来の巨人族へと元に戻る。
海軍たちの顔が瞬く間に恐怖で青褪めていった。
「ああ…。」
「キミたちが…そんな安っぽい言葉で片付けていいものなんかじゃないんだよ!!!」
怒りを込め、ディアンヌは拳を放ってネズミを押し潰す。
辛うじてピクピクと生きてはいるものの、もはや意識はない。
「大佐ーーーー!!!」
「ヒィィィイイ!!撃てーー!!」
まるで雨のように銃弾が一斉にディアンヌに襲い来るが、全く以って傷一つ負うことは無い。
「…なに?さっきから鬱陶しいんだけど?」
「えーと…あはは……。」
ギロリと睨み付けられれば、涙と渇いた笑いしか出てこない。
「ま…待ってくれ!!おれ達はただアーロンに無理やり命令されただけなんだ!!」
「ふーん。で?」
「わかるだろう?魚人族相手におれ達人間が敵うわけがない…。金を回収できなかったことがバレたら、アーロンにどんな目に遭わされるか……。」
「そっか!それで――ボクにこんな目に遭わされるのとどっちがマシ?」
ニッコリと笑ったディアンヌの手にはダラッと力なく意識を失っているネズミの姿。
「は…はは…。」
――数分後。
パンパンッと手を払う。
そこには、死屍累々とした海軍たちが積み重なっていた。
「みんな、ケガは無い?」
「あ、うん。あたし達は平気。アンタのおかげでね。ていうか、あんたの方こそ平気なの?結構な数の銃弾浴びてたみたいだけど。」
「全然大丈夫!」
しばし呆然としていたものの、いち早く我に返ったノジコの問いかけに対し、ディアンヌはグッと元気よく親指を立てた。
「――それにしても、あんた巨人族だったんだね…。」
まじまじとディアンヌの姿を見つめる。
その姿は仰ぎ見なければならない程に大きい。
「うん。元のサイズだと迷惑がかかるし、何より皆を怖がらせちゃうから小さくなってたんだ。」
「そ。まぁ、ビックリしたけど怖くはないよ。あたし達を助けてくれたしね。ありがと。」
ほんの些細な一言。
きっと何かを意図したものではない。
「どういたしまして。」
飾ることのない満面の笑みでディアンヌは返す。
それが何よりも嬉しかった。
そこでふと気づいた。
辺りをキョロキョロと見回す。
「あれ?ナミ…?」
彼女の姿がどこにも見えなかった。
**
「アーロン…!!!」
ナミの瞳の先にあるのは、忌々しいアーロン一味のマーク。
怒りをその左肩へと激しく幾度となく突き刺す。
1億ベリーを貯めて、ココヤシ村を買う。
アーロンは金の上の約束だけは守る。
だから、今まで必死に耐えて…耐えてきた。それなのに…!!
『シャハハハハハハ!!!』
アーロンの高笑いが頭を支配する。
悔しくて涙が止まらない。
私は一体、何のために……
「!」
ふいに腕を掴まれ、ナイフが止まる。振り向けば、そこにはルフィがいた。
ずっと一人だった。誰にも頼ることなんてできない。
私が何とかしなくっちゃって…。だけど――…
「ルフィ………助けて…。」
それはナミが初めて見せた心の奥底に沈んでいた声。
ルフィは麦わら帽子をがぼっとナミに被せると、無言で数歩スタスタと進む。
そして、足を止めると思いっ切り息を吸い込んだ。
「当たり前だ!!!!!」
それは空を引き裂かんばかりの叫び。
ナミは帽子の淵を握り、ハッと気づく。これは何よりもルフィが大切にしていた宝。
そして、それを預けられたという思いに。
「いくぞ。」
「「「「オオッ!!!」」」」
言葉は少ない。
だけど、彼らにとってはそれだけで十分だった。
**
ルフィが思いっ切りアーロンパークの扉を吹き飛ばす。
すかさず絡んできた魚人達を伸し、アーロンへと一撃を叩き込む。
「うちの航海士を泣かすなよ!!!!」
「この下等種族がァ…!!!」
ルフィとアーロン。二人がギラリと互いに睨みを据える。
「…どうでもいいよ。キミたちの主義や主張なんて。」
「ディアンヌ?」
「キミたちは絶対に……許さない!!」
ふと、二人を遮るようにディアンヌがアーロンたちの前へと進み出る。
瞳に涙を溜め、その表情は怒りに歪んでいた。
「魚人でもなんでも、キミたちを倒さなきゃボクの気が済まないんだよー!!!」
ギデオンを振り回し、床石より巨大な二対の拳が現れ出る。
「〝双拳〟!!!!」
「グッ…!!」
「ガァ…!」
モームを含め、辺りを囲んでいた魚人達が瞬く間に蹂躙されていく。
ピクピクと伏し、残っているのはもはや幹部達のみ。
「でかいだけの小娘が…よくも同胞達を!!!」
「フンッ…だ!」
ドドンと怒りを露わにチュウ・ハチ・クロオビの三人が前へと躍り出る。
「主力登場か…。ったくディアンヌ!てめェほとんど獲物取りやがって…。」
「これでも結構、ボク我慢したんだけど?雑魚だけしか相手にしてないし。」
「チッ。そりゃそうだがよ。」
「大きくて強いディアンヌちゃんも可憐で素敵だァ~~♡ますます惚れ直しちまうぜ!!」
「な、なに…そこまで言うなら、おまえに活躍の場は譲ってやってもいい。そりゃあ、戦えないことは俺にとっちゃ不満だがな。」
敵の数が少なくなったことに不満を漏らすゾロ。ディアンヌの勇姿にハートマークを浮かべるサンジ。そして、たいした怯え根性を見せるウソップ。
うん。ウチの一味は通常運転だ。
「…ともかく、てめェはもう充分暴れただろうが。後は俺達の獲物だ。観戦でもしてろ。」
「ま、仕方ないか。負けたら承知しないからね!」
そう言って、ディアンヌはズドンとその巨体の腰を下ろす。
武器を地面に置き、完全に観戦モードとなっている。
「誰が負けるかよ。」
「安心してくれ、ディアンヌちゃん。君を悲しませるような結果にはさせないから。」
「おれは手伝わせてやっても構わねェぞ!」
ゾロとサンジはやる気十分。……若干、ウソップが心配だけど。
ルフィ?彼はアーロンを相手にしてる。そもそも、そう簡単にやられるような子じゃないしね。
**
ウソップがチュウを、ゾロがハチを、サンジがクロオビをそれぞれ倒し、
そして―――…
「おれは剣術を使えねェんだコノヤロー!!!航海術も持ってねェし!!!料理も作れねェし!!!デカくだってねェし!!!ウソもつけねェ!!おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!!」
「シャハハハハハ…。てめェのフガイなさを全面肯定とは歯切れのいい男だ!!!そんなてめェが一船の船長の器か!!?てめェに一体何ができる!!!」
「お前に勝てる。」
崩壊したアーロンパークの瓦礫の上。
逆光に照らされ、一人の少年が立ち上がる。
「ナミ!!!」
両腕からは夥しい血を流したその姿は立っていられるのが不思議なくらい。
それでも少年は叫ぶ。
「お前はおれの仲間だ!!!!」
「…………うん!!!」
零れた涙を拭い、ナミが頷く。
それが全てだった。
その日、8年にも及ぶ長いアーロンの支配は終わりを告げた。
誰もが喜びに咽び泣き、島をあげた宴が催された。
スッとナミは豚の丸焼きを頬張っていたディアンヌの横に腰掛ける。
「ディアンヌ、アンタいいの?大きいままでさ。」
「ん?うん。ボクはみんなと一緒にごはんできるだけで楽しいから!」
「そ。」
「うん。」
喧騒の中、ナミはディアンヌと共に、少し離れたところで宴の様子をただジッと眺めていた。
そこには万感たる思いがあるだろう。
「フフッ。こんなに楽しいのは久しぶり。ずっとこんな日が来るのを夢見てた。ありがとね。あんた達のおかげよ。」
その言葉にふと物思いに耽るように、しばし沈黙が支配する。
「ナミ。」
「うん?」
「ボクは、人間や…人間の事情は知らないし、あんまり興味もない…。キミのことだって最初、弱くて逃げてばっかだったし、はっきり言って好きじゃなかった。でも…、」
「……でも?」
「キミのためなら戦ってもいいと思った。今日のキミがあんまりカッコ良かったから。」
「ディアンヌ……。」
「キミは自分には力がないって言ってたけど…ちゃんとあるよ。ボクやルフィ達の心を動かす力が……さ。」
「…ありがとう。」
「うん。」
宴はまだまだ続いてる。
ワイワイと皆がはしゃぎ、空には満天の星々が輝いている。
「ボク、ひとりぼっちだったから……。ハーレクインと会うまでずっと。でね、」
「………。」
「ハーレクインはもちろん大好きだよ。それにルフィたちも。だけど…ずっと欲しかったものがあるんだ…。」
「欲しかったもの?」
「…人間の女の子のともだち……。」
それは風に掻き消えてしまう程に小さなポツリとした声音だった。
けれども、その声はしかとナミの耳には届いた。
「ねぇ、ナミ。ボクと友だちになってくれる?」
「何言ってんのよ。とっくに友だちでしょ。私達。」
所在なさげにしていた表情がぱあっと輝いていく。
「うんっ!!」
コツンと拳を合わせる。
種族も大きさも違う。だけど、確かな友情の証がそこにはあった。
「ナミ!ディアンヌ!生ハムメロン見なかったか!?」
突如として、元気良く割り込む声。
彼は両手いっぱいに肉を携えながらも、キョロキョロと辺りを見回していた。
「あ。ルフィ。珍しいね、肉はいいの?」
「肉はもちろん食う!けど、今は生ハムメロンだ。」
「生ハムメロンならあるわよ。ほら、そこに。」
そう言って、ナミが指差す先にはお目当てのもの。
ルフィは脇目も振らず、ガブガブと噛り付く。
「うんめぇぇええ~~~!!」
念願の生ハムメロンに涙さえ流しかねん表情で、大仰にルフィが喜びの声を上げる。
そんなルフィの様にナミとディアンヌは顔を見合わせ、どちらからともなく笑い合った。
夜は更ける。笑い声が決してやむことはないままに。
――連日続いた宴も終わり、出発の朝。
ナミは脇目も振らず、ただ一直線に船へと走り込む。
船へと降り立ち、シャツを捲り上げると、ドサドサと落ちる村人全員分の財布が。
ナミは相も変わらずみたいだ。
「じゃあね、みんな!!!!行って来る!!!!」
笑顔で手を振る。どこまでも晴れやかに。
この青空のように澄み渡っていた。