▼月●日
浅倉透の力を手に入れて以来、自分でも少し調子に乗っている自覚がある。
今日も特に何の意味もなく街中でオーラを纏って人々の注目を集めたり、店で店員を呼ぶためだけにオーラを発動したりなどしてしまった。
あれは1日に何度も使えるような技ではないが、不完全ながらも習得できた嬉しさでついつい大した意味もなく使ってしまう。
毎日のトレーニングでただでさえ疲れているというのに、我ながら馬鹿なことをやっていると思う。反省しよう。
▼月□日
ここ最近は歌のトレーニングに力を入れていたおかげか、とうとうカラオケの採点では満点が連発されるようになってきた。
高音・低音の歌い分けやビブラートなど、技術的な面は練習すれば必ず習得してしまうのがあさひの才能だ。
今まで満点を取れなかったのも、ダンスなどに比べあまり歌の練習をしてこなかっただけで、あさひならもっと早くこの段階まで到達していたのかもしれない。
カラオケでの練習で辿り着けるレベルとしてはとりあえず頭打ちだろう。これからは他の練習方法も考えなくては。
▼月▼日
原点回帰と言うべきかなんというか、浅倉透のオーラの習得や歌の練習が終わってしまえば、今までそれに費やしていた時間は全てダンスの練習が持っていくことになった。
「あさひ」がここまでダンスにのめり込むのはやはり、芸術という答えがない分野だからなのだろう。
人々を魅了するために、より良い動きを、もっと洗練された振付を、といった具合で追求していけば、カラオケの100点なんかとは違って「ダンス」にそうそう終わりがくることはない。
とりあえず今はネットにあるダンスの動きを片っ端から習得してはいるが、最近は自己流のアレンジを加えることも多い。
創作ダンスなんかにも手を出してみるべきなのだろうか。アイドルに求められる技能ではない気もするが。
×月◎日
「ボーカル」、「ダンス」、とくれば次に挙げられるのはやはり「ビジュアル」だ。
浅倉透のあれは「ビジュアル」を極めた先に辿り着く一つの境地ではあるのだろう。
しかし現在俺の力量ではそこに一瞬しか立てない以上、前も書いた黛冬優子に代表されるような、人に自分をより良く見せる技術としての「ビジュアル」のスキルも習得しておかなければいけない。
そう思い、鏡を購入して色々とポーズを決めたりしていたのだが、これが思っていたよりずっと楽しい。
そも鏡に映っているのは超絶美少女芹沢あさひであり、彼女は自分のして欲しいと思ったポーズをNGなしで全てとってくれるのだ。
自分の可愛さに自分で悶えるという、傍から見たらかなり恥ずかしい時間を満喫していれば、いつの間にやら2時間は過ぎていた。
明日はもっと真面目に取り組まなければ。
×月□日
歌唱技術の更なる向上を目指して色々な歌手を調べていたら、「八雲なみ」の曲を見つけた。
八雲なみ。
あの天井努がプロデュースした伝説のアイドル。
引退して20年余り経つにも関わらず、アイドルマニアたちの間では「最高のアイドル」と評されるほどの存在。
そんな彼女の曲である。見つけた時はおぉと声を出してしまった。
その後すぐに、一体どんな歌声が奏でられるのだろうとワクワクと共に動画を再生し始めた。
しかし、いざ聞き終わってみれば頭の中に浮かんだのは「心に響いた」「でも歌は上手くない」という相反する感想であった。
確かに作中でも業界人には「外見以外に取り柄はなかった」なんて評されていた。
ただそれなら、どうしてこんなにも心に響いてくるものがあるのだろう?
どうしてここまで人々の心を掴んで離さないのだろう?
恐らく彼女が売れた原因の多くは、天井努のプロデュース力の高さだ。
「
彼女の歌に込められた激情が、俺の心を震わせるのだろうか。
それとも靴に合わせられた足が、俺の心を魅了しているのだろうか。
どちらにせよ、
×月△日
283プロダクションについて調べてみれば、「
ゲームの実装順的に言うならば「芹沢あさひ」はこの4ユニットに遅れて実装される5つ目のユニット「
シャニマスの世界に明確な時系列はないとされているが、実装順番に差のあるアイドルたちのプロダクションへの所属時期には、はっきりとした時間のズレがあるように描写されている。
そのため、芹沢あさひが今現在アイドルとしての活動を始めていなくても整合性はとれる。
問題は、この先俺があのプロデューサーにスカウトされるかどうかである。
オーディション組とスカウト組の二種類に分かれる283プロのアイドルであるが、「芹沢あさひ」はスカウト組の方に分類される。
しかしスカウトというのは実際運に左右されるものであり、そもそも彼と俺が出会えるかどうか、という話もある。
また、俺の実力がプロデューサーのお眼鏡に適わなかったりしたら。
俺の努力が足りないせいで、あさひのアイドルとしての道が途絶えたりしたら。
一体どうやって、彼女の体を乗っ取った責任を取ればいいのだろうか?
考えるだけで、嫌になる。
◇◆◇◆◇
某日、283プロダクション事務所内にて。
ある二人の男が、社の将来に関わる決断を下そうとしていた。
「――新しい子をスカウト、ですか」
「ああ。この283プロもようやく軌道に乗ってきた。ここであと一押し、実力のあるアイドルを手に入れたい。お前の人を見る目を頼りにしているぞ」
彼女との出会いは、もうすぐそこにまで迫っていた。
カラオケ面白かったっすけど、100点取れたらもうつまんないっすね