×月×日
今日はアルストロメリアの面々と顔合わせをした。
桑山千雪は非常に穏やかそうな人で、それでいて偶に少女らしくはしゃぐところもある可愛らしい人である。
鞄についていた人形の話を振れば、「自作なの」と少し照れくさそうに制作過程について語ってくれた。
大崎姉妹の妹の方、大崎甘奈に彼女が宣伝していた化粧品を使ったと話せば、彼女は非常に嬉しそうに感謝の言葉を述べてきた。更にその勢いのまま色々とメイク技術について教えてくれたものだから驚きである。
甘奈は女の子らしい女の子、といった感じの女子高生だ。プライベートの過ごし方を参考にするならこの子だろうか。
大崎姉妹の姉の方、大崎甜花は甘奈の後ろに隠れていてあまり話すことが出来なかった。
できれば仲良くしたいものである。
×月ф日
先日オファーされた雑誌の表紙の写真撮影を行った。
表紙というだけあってカメラマンはかなり腕の良い人を呼んだらしく、こちらとしては楽な話だが「カメラに自ら追わせる技術」も彼の補助程度にしか発動しなかった。
とはいえ仕事には全力で臨んだし、そのおかげか妥協は許さないといったオーラを醸し出していたカメラマンの彼からもNGは出ず、非常にスムーズに撮影は終わったと言える。
後でプロデューサーに話を聞けばあのカメラマンの撮影がこんなに早く終わるなんて初めてだ、と言っていたのだから、わざわざ一晩かけてこの雑誌に最適な「芹沢あさひ」に自分を作り変えてきた甲斐があったというものだろう。
八雲なみの技術は着実に体に馴染んできた。
たとえどんな靴がやって来たところで、履きこなす自信が俺にはある。
シンデレラの姉だって、爪先と踵を切り落とせばガラスの靴を履けたのだから。
×月♠日
今日はラジオ番組へのゲスト出演という仕事をこなした。
メンタル育成、なんて言葉が浮かんでくるのは悪い癖だろうが、実際普段とは比較にならない数の人々に声が届く環境の中で話をすればメンタルが鍛えられるのも納得である。
とはいえ俺もオファーを聞いただけではどのような「靴」が持ってこられたのかわからず、スタジオにたどり着くまでは結構緊張していた。
なにせこの活動したての時期に振られた仕事でアイドル人生のスタートダッシュが成功するか失敗するか決まるのだから。
まあ、いざスタジオにつけば番組ADは俺に「面白いこと」を求めているとわかったので、「あさひ」らしく破天荒なキャラで番組に出演し、無事ADにも取り入ることができたわけなのだが。
ただ、一度あのキャラで仕事をしてしまったのなら仕事中はずっと「あさひ」で通した方が良いかもしれない。
まるで冬優子みたいだな、なんて帰り道の車の中で思ったものだ。
×月♣日
今日は放課後クライマックスガールズの5人と顔合わせをした。
これで283プロのアイドルの中で俺が顔合わせを済ませていないのは「アンティーカ」の5人だけとなる。
もっとも、アンティーカの彼女たちは283プロの稼ぎ頭というだけあって非常に忙しく、5人揃っての顔合わせは難しそうということなのだが。
それはさておき、放クラというユニットはメンバー間での年齢差が一番大きく非常に個性的なグループである。
5人それぞれ違った雰囲気を纏っており、合わないようで非常に仲の良い、そんなユニットなのだ。
有栖川夏葉には良い身体ね、と肉体を褒められてトレーニングに誘われた。
無論彼女の誘いを断る気はない。夏葉のストイックさを見習わせてもらおう。
園田智代子からはいきなりチョコレートを渡された。
恐らく彼女にとっての親睦の証なのだろうと有難く受け取っておいたが、正しい対応だっただろうか。
杜野凛世とは挨拶だけに終わってしまった。
静かな口調に反して結構明るい子であるので、いつか一緒に遊びにでもいきたいものだ。
西城樹里にも「おー、よろしく」と少し無愛想ぎみな対応をされてしまった。
やさしさ一等賞の姿を見せてくれるにはまだ親密さが足りないということなのだろう。
逆に果穂ちゃんこと小宮果穂とは今まで出会ったアイドルの中で一番打ち解けられたと思う。
やはり年齢が近いというのは仲が良くなる上では重要な条件なのだ。
一日の内に「あさひさん」「果穂ちゃん」と名前で呼び合う仲にまでなった。
12歳小学6年生と、283プロ最年少である彼女も年の近い同僚がいなくて寂しい思いをしていた部分があったのだろう。
こちらとしても是非仲良くしていきたいものだ。
「あさひ」なら、きっと仲良くしていただろうから。
×月☂日
今日はランニングの途中でたまたま「ジャスティス
果穂ちゃんが好んで見ている番組であるため、話のタネにならないかと一回だけ回してみたところ、「ジャスティスサーモンピンク」の人形が出てきた。
サーモンピンクとはなんぞやと思ったが、どうやら「ジャスティスピンク」はまた別に存在しているらしい。
そもそも「ジャスティスⅤ」は11人で結成されているそうだ。
よく理解できなかった。
ちなみに果穂ちゃんは11人既に揃えているらしい。
流石だ。
×月△日
とうとう俺の初ライブの日程が決まった。
地方の小さなライブ会場ではあるが、これまでの集大成を見せる良い機会である。
今まで以上にレッスンに身が入るというものだ。
初ライブに向けて、「足」の準備も着々と進めている。
駆け出しとはいえアイドルとして半月近く活動をしてきたことで、八雲なみの技術は相当に熟練してきた。
特に「芹沢あさひ」のトレースの精度はどうしてか元からかなり高かったし、今では最早自分でも違和感がないほどに「あさひ」になることができる。
「芹沢あさひのキャラクター」と「八雲なみの足」があればこなせない仕事は無かった。
もちろんまだ経験していない規模の大きさの仕事ものちのち受けるようになってくるだろうが、そこで足りないであろうものは「俺の技術」だ。
あさひの才能のおかげで先生たちには褒めてもらえているが、あさひならばきっとそんな言葉など気にもせず自分を高めることに執心していただろう。
レッスンのおかげで、俺の技術は自主練習だけだった頃と比べて圧倒的に伸びている。
確かに自分が成長している自覚はある。
でも。
それでもあさひに追いつけなかったのなら、俺は一体どうすればいいのだろうか。
なんでわたしのマネなんかしてるんすか?