魔法科高校の劣等生 神のいる学校生活   作:梅輪メンコ

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オゾンサークル

達也の予想は一部的中し、一部外れていた。国防陸軍基地内の一室で、感情を押し殺した声による報告が、響子によって風間に伝えられていた。

 

「ホテルをチェックアウトしたオーストラリア人工作員を追跡していた捕獲部隊が全滅しました。死者はゼロですが、全員行動不能です」

 

「全滅か・・・敵の増援か?」

 

「いいえ。捕獲対象の魔法攻撃によるものだと思われます」

 

「どのような攻撃だ?」

 

「高濃度のオゾンガスによる急性中毒です。麻痺症状が見られます」

 

響子の具体的な報告に、同席していた真田が自分の端末を見ながら、独り言のような口調で口を挿む。

 

「『オゾンサークル』か?」

 

「真田?」

 

「ハッ。申し訳ございません」

 

「構わん。それより、『オゾンサークル』?」

 

「ハッ。オゾンガスを発生させる魔法は他にもありますが、密閉されていない屋外で訓練を受けたカウンターテロ要員をガス中毒で倒すとなると、『オゾンサークル』の可能性が高いと考えます」

 

「確かに・・・」

 

捕獲に向かわせた部隊はカウンターテロ訓練の一環で、銃器や爆薬だけでなく化学兵器の取り扱いも習得している。前触れが察知出来るものであれば、ガス攻撃にむざむざとやられたりはしない。敵の魔法は捕獲部隊が対応する間もなく彼らを高濃度オゾンガスの中に捕らえたと見るべきだ。それほど素早く、大量にオゾンを生成出来る魔法となれば、真田の言うようにオゾンサークルが第一候補に挙がる。

 

「オーストラリアの魔法師がオゾンサークルを?」

 

「それほど不思議な事でもあるまい」

 

響子が呈した疑問を、真田が否定する。オゾンサークルはイギリスのウィリアム・マクロードとドイツのカーラ・シュミットが操る戦略級魔法として有名だが、元々は分裂前の欧州連合でオゾンホール対策として開発が始まった魔法だ。分裂前の協定に従い、旧欧州連合諸国の間でオゾンサークルの魔法式に関する情報は共有されている。かつてイギリス連邦の一員だったオーストラリアの軍魔法師部隊が情報提供を受けていても、確かに不思議ではないが、逆に言えばジェームス・ジャクソンを名乗るあの男性と、その娘という事になっている少女のどちらか、あるいは両方がオーストラリア軍の魔法師という事を意味している。

 

「藤林、あの二人の正体は分かったか?」

 

「いえ、まだです。ただ想子センサーの記録を見る限り、捕獲部隊を倒した魔法の使い手はジャスミン・ジャクソンと推定されます」

 

「少女の方か」

 

「あるいは、少女の姿をした方の魔法師です」

 

「外見通りの年齢ではないと? 達也も似たようなことを言っていたが」

 

「諜報員に第二次性徴を抑制する薬物が投与された実例は隊長もご存じの事と思います。同時に、成長抑制措置をとられた工作員が存在する可能性は否定出来ません」

 

響子が口にした非人道的な推測について、風間から特にコメントは無かった代わりに、彼はもう一つの事を尋ねた。しかし、内心。自分の知っている人物で思い切り年齢を偽っている二人(凛と弘樹)を思い出すと思わず顔を顰めそうになってしまった

 

「大亜連合の部隊を妨害した者の素性は判明したか?」

 

「はい。国立魔法大学付属第一高校の卒業生です。先日卒業式を迎えたばかりの、達也くんの一年先輩ですね。沖縄には卒業旅行で来ているようです」

 

「そういえば人工島の竣工記念パーティーに、五十里家の長男が招かれていたな。となると、邪魔をしたのは偶然、いや、お節介か」

 

風間がため息を吐きながら笑い声を漏らすという器用な真似をしてみせた。それ以上、一高卒業生に関する言及はこの場ではなかった。

 

「藤林は引き続き工作員の身許調査を進めてくれ。真田は敵本隊の捜索だ」

 

「分かりました」

 

「ジェームズ・ジャクソンとジャスミン・ジャクソンの姿は上空のカメラで捉えてあります。逃がしはしません」

 

「よろしい」

 

真田と響子が同時に立ち上がり、風間に敬礼して部屋から退出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャスミン・ジャクソンの偽名を使用しているジャスミン・ウィリアムズ大尉と、ジェームズ・ジャクソンの偽名を使用しているジェームズ・J・ジョンソン大尉がその情報を耳にしたのは、三月二十四日の夜のことだった。彼らは風間の部下の追跡から逃れ、イギリス系国際資本のシーサイドホテルで大亜連合脱走部隊の幹部と密かに合流していた。

 

「四葉の魔法師が?それに、神木家の姉弟?」

 

オウム返しに問い返したジャスミンに、反講和派のリーダーの一人で、今回の破壊工作の首謀者であるダニエル・劉少校は頷きを返した。

 

「今日の式典に、四葉家次期当主と神木家の当主とその弟の婚約者が参加していました」

 

深雪と弘樹の婚約はテロ事件が落ち着いた頃に発表されたが。事前に氏族会議で公表してた為に特に大きな騒ぎとはなっていなかった、一高でも二人のカップル説が本当だったことを証明するだけで特に大きな話題とはなって居なかった

 

「式典というと、五年前の戦役で犠牲になった者たちの慰霊祭ですか?」

 

「魔法師のリーダーが戦没者の為の式典に代理人を遣わすのは、別におかしなことではないと思いますが」

 

ジェームズがジャスミンの横から口を挿む。

 

「確かに不自然ではありません。ですが、無視出来る事でもないと思います。彼らの沖縄入りが我々とは無関係だとしても、四葉の魔法師がここにいるという事だけで作戦の大きな障碍になりかねません」

 

リウはジェームズの言葉を肯定したあと、彼らの存在がどれだけ危険かを付け加えた。

 

「しかし、四葉のプリンスと一緒にいたフィアンセはまだ高校生だったはず。それほど危険なのか?」

 

ジャスミンの反論に、リウは今度こそ首を横に振った。

 

「横浜の作戦では、当時高校生だった十文字家の現当主によって我が軍は大きな損害を受けました。子供だからと言って侮ることは出来ません」

 

ジャスミンたちに一応の注意は促したものの、リウも達也と深雪の真価を・・・いかに危険な魔法師であるかを知らなかった。理解していなかったのではなく、その知識が無かったのだ。そして続けて劉は話を続けた

 

「それに神木家は我々の調べによりますと四葉に魔法の提供を行なっていたと言う話があります」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、その為神木家の者にも注意してください」

 

そう言って劉はジャズに警戒するよう話していた

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