魔法科高校の劣等生 神のいる学校生活   作:梅輪メンコ

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三度目の入学式

4月7日

 

全国の魔法科高校で入学式が行われるこの日、凛は式の始まる二時間前に着くと部活連本部で警備の巡回を始めると達也が声をかけてきた

 

「凛、来賓として出なくていいのか?」

 

「ああ、別に良いわよ。今年は出る気なかったし」

 

「そうなのか」

 

「ええ、去年出たのは達也とか深雪に変装の質を確認しただけだしね」

 

「そうだったのか・・・」

 

そう言って達也は凛の理由に少し驚くと凛が達也の肩を叩いた

 

「ま、達也達は今年から頑張れよ。特に達也は四葉家の次期当主だ。『あの』四葉の名前にいろんな人が寄ってくると思って覚悟しておけ」

 

「・・・ああ、わかった」

 

そう言って達也は少し緊張をすると凛は小さく微笑み、再び巡回ルートに入って警備を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳粛な空気の中、入学式は滞りなく終わった。何時もより浮ついた空気が抑制されていたのは、新入生も父兄も来賓も舞台の下に控える生徒会の顔ぶれが気になっていたからに違いない。特に四葉家次期当主の達也の事が。

これから入学しようとしている学校の事だ。余程暢気な新入生や父兄でない限り、一高の事は調べてきている。だから生徒の大半が、現在の一高生徒会には『あの』四葉家の次期当主とその従兄弟がいると知っている。深雪の顔は、九校戦の映像データで見たことがある者が過半数を占めているし、ほのかもそれなりに顔が知れ渡っている。だが肝心の達也の顔は余程コアな九校戦ファンでない限り覚えてはいないだろう。彼が九校戦に『選手』として参加したのは、一昨年のモノリス・コードだけで、後はエンジニアとして参加しているのだから

だが当然の事として、達也が次期当主であることは知れ渡っているので、調べようとすれば映像データは残っている。だから達也の顔を知っている新入生や父兄もそれなりの数いるのだった。

達也や深雪の力を知っている人間が多くいるせいか、講堂内はかつてない緊張感に包まれていたが、唯一雰囲気が和んだのは、詩奈が答辞を読んでいた時間だ。

お世辞にも「堂々と」とか「流暢に」とは言えない、何度も支えそうになりながらなんとか踏みとどまって、読み終えた瞬間に全身から達成感を漂わせたその姿は「一所懸命」という言葉がよく似合っていた。

ただ、新入生らしく見るからに初々しい、言い換えれば頼りなさそうな詩奈を取り囲んで引き止めるのは、常人より少し面の皮が厚い「来賓」たちにも心苦しかったようで、二年前の深雪に比べて詩奈はだいぶ早く解放され、また深雪もそれほど長い時間来賓の対応に拘束されることは無かった。

 

「詩奈ちゃん」

 

「泉美さん?」

 

詩奈を取り囲む人垣が疎らになったのを見計らって、泉美が彼女に声を掛けると、詩奈の周りから自然に来賓たちが離れていく。泉美が七草家の末っ子だという事は魔法関係者の間に広く知れ渡っているし、彼女が弘一に一番気に入られている娘であることも知れ渡っていたからである。

 

「答辞、素敵でしたよ」

 

「ありがとうございます・・・それで、何か御用でしょうか?」

 

泉美の賛辞にはにかみながらも、詩奈はしっかりと声を掛けてきた理由を尋ねた。泉美は詩奈のふわすわした雰囲気に反して、実際には如才が無い事を知っている。

 

「例の件を正式に相談したいので、これから少しお時間をいただけませんか?」

 

「はい、構いません。泉美さんについて行けばよろしいでしょうか」

 

「ええ、お願いします。侍郎くんには声を掛けておかなくていいんですか?」

 

「入学式の後、生徒会の方からお話があるのは侍郎くんも分かっているはずですから」

 

急に幼馴染の名前を出されても、詩奈は少しも慌てた素振りを見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泉美が詩奈を連れて行った先は生徒会室だ。そこには深雪と水波が待っていた。

 

「三矢さん、よく来てくださいました」

 

深雪が会長席から立ち上がり、会議テーブルへ移動する。それに合わせて、泉美が詩奈を深雪の正面に誘導した。

 

「まずはお掛けください」

 

深雪が微笑みながら先に座って見せ、詩奈は一度泉美の顔を見てからおずおずと腰を下ろす。その後、水波と泉美が深雪の左右に座った。詩奈の前にお茶が置かれ、彼女はお礼をしようとしてその相手が3Hであることに気が付き目を丸くした。

 

「驚かせてしまいましたか?その3H『ピクシー』は私の従兄の所有物で、生徒会の雑務を手伝ってもらっているんですよ」

 

「司波先輩の?」

 

達也がそういう趣味なのかと一瞬考えたが、深雪の笑顔を見る限りそんなことはないと自分の考えを否定し、バツの悪そうな愛想笑いを浮かべて誤魔化した。

 

「当校生徒会の習慣については、七草副会長から既にご説明していると思います」

 

「はい、理解しています」

 

深雪がまず確認のセリフを口にし、詩奈がそれを肯定する。実を言えば、深雪が口にしようとしている用件は詩奈と泉美の間で内々に決着済みだ。詩奈をこの場に呼び出しているのは、形式を整える意味合いしかなかった。

 

「そうですか。ではそれを踏まえてお願いします。三矢詩奈さん、生徒会役員になっていただけませんか」

 

「光栄です。謹んで務めさせていただきます」

 

深雪の表情が僅かに緩む。泉美から応諾の意思を伝えられていたので、去年のように断られるという心配はしていなかったが、実際に確定するまではやはり落ち着かないものだ。

 

「それでは、三矢さんには明日から生徒会書記として活躍していただきます。仕事内容については、こちらの桜井さんに尋ねてください」

 

「書記の桜井水波です。三矢さん、よろしくお願いします」

 

深雪のセリフを受けて、水波がお辞儀しながらそう述べる。先輩に先を越されて焦ったのか、詩奈は慌て気味にお辞儀を返した。

 

「こちらこそよろしくお願いいたします! あの、会長、桜井先輩。私の事は詩奈で結構ですので。そう呼んでいただけませんでしょうか」

 

「分かったわ、詩奈ちゃん。これでいいかしら?」

 

「はい、それでお願いします」

 

遠慮がちに申し出た詩奈だったが、親しみが込められた深雪の答えに、彼女はホッとした表情で肩の力を抜いたのだった。

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