しかしAIが出力した由比ヶ浜の前途は多難だった。大丈夫か!?
ボーダー本部で、俺は考えにふけっていた。
俺は、自分でも良く分からないまま流されるように由比ヶ浜に押し切られていた。だが、不器用な俺のために由比ヶ浜や来馬先輩が気を遣ってくれたのだということは良くわかった。
普通に鈴鳴支部で紹介されたとして、自分がそれを素直に受け入れられたとは思えないからだ。
由比ヶ浜も来馬先輩も、自分に通せる形で最大限の筋を通してくれたのだ。周囲に気を遣ってもらっているのに、それを周囲に返すことが出来ていない自覚はある。それが悔しい。
そんなことを考えている内に、忍田本部長から異動の辞令が由比ヶ浜に下された。これによって、由比ヶ浜は晴れて鈴鳴支部の所属となった。
そこから、鈴鳴支部に移動した……訳ではなく。本部の訓練室で俺と由比ヶ浜は訓練をすることにした。お互いの能力を把握する上で、最も効率がいいからだ。
まず、銃手として必須の射撃訓練をした。これは、30m先の目標を撃つ訓練や、一定時間内に消失するマーカーをめがけて撃つ訓練、撃つと減点となる目標を交えたより実践的な訓練など、他にも様々な訓練が存在する。それら一通りの訓練を由比ヶ浜とこなした後、二人でそれぞれの点数を確認しあった。
「……うわー、焦って20点も減点されてるよ。恥ずかしい……
「俺も射撃精度は高くないから気にすんな。……二月にしては割といい点数だな。」
由比ヶ浜の銃の構え方や姿勢を見る限りでは、C級としては悪くないと俺は思った。正隊員としてはまだまだだが、地道に練習を続ければいい。
由比ヶ浜のC級隊員としてのトリガーは、アサルトライフルに充填されたアステロイドである。最も一般的な銃手トリガーであり、威力と射程、連射性、さらにそこそこの弾速を備えている。C級としては破格のトリガーだった。
「時々B級の人に教えて貰ったりしたから。でも、ランク戦で勝てなくて……」
「最初はみんなそんなもんだ。次の訓練に行くぞ。」
「うん!次はどうすればいいかな!?」
「とりあえず、走破訓練だな。」
「了解です!!」
「敬語はいいっつーのに。」
***
一般的に言って、C級からB級へ昇格するならば銃手と射手は圧倒的に有利である。
ボーダー本部は、入隊時に本人の適性に合わせて適切なトリガーを振り分ける。運動経験があるならばアタッカー用、トリオンが多ければ銃手か射手用、トリオンがあり根気のある人間には狙撃手用のものをだ。
それらは、申請すればC級隊員でも別のトリガーを使用することが出来る。そしてC級では、銃手か射手の割合が最も多い。
正隊員がほぼ必ず装備する防御用トリガー。シールドが、存在しないからである。
C級において圧倒的なアドバンテージがある銃手で、二か月もC級に留まっている。それは、他の原因があると俺は考えた。
そして原因は、次の走破訓練で発覚した。
「……お前、どんだけ遅いんだよ……。」
思わず口に出た気遣いの欠片もない言葉に、由比ヶ浜は苦笑いして答える。
「ごめんなさい……待たせちゃったね……」
「いや、そういう意味じゃねえ。なんというか、こう…… お前、真面目すぎるのか?」
「あはは……そうなの。」
そう、由比ヶ浜はあまりにも真面目で、鈍臭過ぎた。
隠密走破訓練では、目標から見つからないようにと遠回り過ぎるルートを選んでいた。
通常の走破訓練では、ショートカット出来る部分でも民家を避けて道だけを走っていた。
「……こう、トリオン体だしいけるかなー……って……」
「……。」
この訓練の意味は、最短距離を最速で走ることではない。
あくまで、目的を達成するために必要な能力。判断力や思考力を養うためのものだ。
だから、効率の良い方法なら何でも良い。
そのはずなのだが……得点にはつながっていない。
「…………。」
「……うぅ……なんか、ごめん。」
「まあ、気にすんな。こういうこともある。」
俺は今、由比ヶ浜と一緒に休憩スペースにいる。
MAXコーヒー……は太るので、仕方なくミネラルウォーターを呑みながら由比ヶ浜について考えをまとめる。その沈黙が、由比ヶ浜には耐えかねたようだ。
俺は話をした。
「……まぁ、いいんじゃねぇか?」
「……えっ?」
「目標から隠れるとき遠回りしてたのは、相手から見つからないようにって訓練の趣旨には沿ってる。場合によっては、ベイルアウトせずに離脱して他の舞台に合流することだってあるしな。」
「う、うん。……ヒッキー、ホント?お世辞じゃない?」
「お世辞とか背筋が寒くなるわ。」
「だよねー。」
凍り付いた雰囲気が一旦緩んだところで、俺は由比ヶ浜にこう言った。
「ああ。俺、一応由比ヶ浜の師匠だよな?」
「うん。」
「なら、師匠として課題を出す。隠密訓練では、”こっちから攻撃出来る距離で”目標エネミーから隠れてみろ。」
「……えっ?でも、相手のトリオン兵のレーダーは?」
隠密走破訓練でランダム発生するトリオン兵には、当然トリオン反応を検知するためのレーダが搭載されている。距離を取るという由比ヶ浜の判断は、初心者がよくやらかす失敗のひとつだ。
「そのレーダーがどれ位の精度でどんだけの範囲なのか、由比ヶ浜はまだ実感できてねぇんだ。」
「……そうかな?」
「ああ。まずは騙されたと思ってやってみろ。」
そして次、通常の走破訓練についても考えた。由比ヶ浜が走破訓練においても装備しているアサルトライフルは、攻撃性能においては破格の性能を持っているが、一つ欠点がある。
トリオン体でも少し影響が出る程度に、重い。
この状態で、通常の道路だけを走るような訓練をしていては走破訓練での点数など取れはしない。
この欠点は、ランク戦においても防衛任務においても致命的だ。銃手というのは基本的に高い位置から攻めるべきポジションなのだが、今の由比ヶ浜はその利点を捨てているからだ。人間は、たとえトリオン体であっても真上という死角に対応することは難しい。
つまり、今のままでは高所から攻めてくるようなトリオン兵に対応出来ないだろう。自分も、たとえば民家に上ってでも上を取ることを肌で覚えさせる必要がある。
アサルトライフルのトリガーポイントが3000点に到達しないのも当然だ。高い場所から狙われ放題では、他の射手や銃手からはいいカモでしかない。むしろ、今まで続いた熱意を褒めたいなと思うくらいだ。
それらを考えた上で、俺は二つ目の課題については目をつぶることにした。
荒療治になるが、早ければ今日中に……遅くとも、一週間中には甲斐性出来る問題と思ったからである。
「ヒッキー、敵に見つかったんだけど!?」
「……お前の隠密行動は0点。」
「そんなぁ!」
……由比ヶ浜の隠密走破訓練は、まだ始まったばかりである。
そして、由比ヶ浜の訓練メニューは俺が決めることになった。
由比ヶ浜結衣/ゆい AIのお陰で禊を果たした女の子
1話の時点でいきなり空き教室を引き、ヒッキーへの邂逅と謝罪を果たした合海野持ち主。そのままノリでゆきのんの謝罪が忘れられた結果すごいことになった。0点?マイナスでないだけマシだ。