大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle 作:蘭沙
102話 塊オンザウィングス
誰もが何かを隠している。秘密を、真実を。
隠し事がない人なんていないんだ。誰もが言えない一面があって。それを暴かれるのを恐れている。
ならば、暴く秘密が誰のものでもなかったら。もっと根本的に、足元に存在するものだったら。単純なものだったら。
受け止められる? 光を救う人々が人の闇をそのまま受け止められるのかな?
彼らは誰も救えない。闇を払えない。だから彼らは自分で救おうとしたんだ。理解なんて求めていないし歩調を合わせろなんて持っての他。
救おうとしないなら悪役に悲劇の過去など不要だ。なくていい。
僕のこと? そういうの、良くないよ?
「ん……うん……」
うめき声のような声はどこか他人事のようで、でも自分の声だった。
地面に手をつけてなんとか体を起こす。かぶりを振ってなんとか立ち上がった。
「あれ、ここは……」
まだ少し浮いているような感覚を抑えて、フォックス・マクラウドは辺りを見渡した。
遠く楕円状に配置されている客席、自分の足下に広がるコンクリートの戦場、そしてその周りに生える芝。描かれているのは見慣れた大乱闘を象徴するマーク。
「KOFスタジアム……?」
新たにスマッシュブラザーズに加わったテリー・ボガードの記憶から創られた新たなステージ。彼が戦ったフィールド。マスターハンドが創った模造品。
「オレ、なんでこんなところにいるんだ?普通に大乱闘の世界に来たはずだよな?」
確かに模造品のステージに来たということは、フォックスは大乱闘の世界に来れたということだ。しかし、この世界にたどり着く過程で、ステージに直接来たことなど一度もない。そもそも大乱闘以外でステージに来たことすらない。どうしてここに来ているのだろうか。
とりあえず外に出る道を探そうと、客席の方へ行こうとする。が、それを阻むように見えない壁が行く手を塞ぐ。
「あー、そうか、そうだよな。……どうするんだこれ……」
当たり前だったと思い直して、それから落ち込む。このステージの最大の特徴がこの見えない壁にある。この壁は一定以上の速度を持ってぶっ飛ばさないと破れない壁である。故に早期撃墜ができず、大乱闘が長期化しやすい。が、今重要なことはそこではない。
「で、出られねえ……」
壁が破れないからこそ、出られない。フォックスはいつの間にか閉じ込められていたのも当然なのだ。乱闘で使う転移はフォックス単体では使えない。壁を破ろうにも破るためにぶっ飛ばせるようなものはない。
「本当にどうしたらいいんだ……」
打撃を加えて無理矢理破ろうにもフォックスはスピードタイプ。
物体を相手取って叩き潰すのは向いていないのだ。もはや見た目が開放的なだけで檻と変わらない。試しに全力で一発跳び蹴りをくわえてみたが、助走をつけてもなおびくともしない。当然だ。直接攻撃を受けて壊れるようなシステムではない。
「おーい、マスターハンドー! おーい! 誰でもいいからいないのかー!!」
声を張り上げて助けを呼ぶ。しかし、誰も来ない。何もないのだから誰もいないのが当たり前ではある。それでもぱっと思いつくのがこの方法で最後だった。
「……はあ」
打つ手がなくなって、壁に寄りかかって座り込む。無駄に体力を消費することは悪手であると考えた。手でリフレクターやブラスターを弄びながら、今後どうするのかをぼんやりと考えていた。
「(マスターハンド側でなんか不具合あったんだろうな……ちょっと待ってれば見つかるだろう)」
フォックスは初期からスマッシュブラザーズに参加している所謂古参だ。まあ不具合ぐらい初見ではない。そういうこともあるだろうという思考だ。
まあ、それはそれとして出られない場所に転移させてくるのは嫌がらせのような故意の悪意を感じる。
「あー、でも特にやることもないな。なんとかして自分で出れないか?」
独り言のようなぼやきを、天命というものが聞き入れたのかはわからない。
が、事実目の前に現れたのは自分も使う転移の力。そこから出てきたのは同じく迷い込んだ者ではなく、リドリーとルイージとそっくりの姿をしたボディだった。
『…………』
「え……? はあ!?」
もういないはずの存在に固まり、そして驚きの声を上げた。キーラも倒して、ダーズも倒して。奴らを操る精神の器はとっくに壊滅したはずなのに。
ボディの火球が眼前に迫って、座り込んだ状態から、身を翻して避ける。ルイージの手刀を腕でずらし、完全に立って2体の敵を見つめる。
「ふざけんなって!踏んだり蹴ったりだ!」
ブラスターを乱射しながら円状のフィールドを巡るように走り回る。連射に特化したブラスターは敵の姿勢を崩すほどの火力はない。だから数で負ける相手に足を止めるわけにはいかなかった。
「でも、どっちかをぶっとばして壁に穴を開ければここから出られる! ピンチはチャンスだ!」
ボディと相手をするのは必ずしも悪いことばかりではないのだから。
「(ぶっとばすなら軽いルイージの方がいいよな。状況次第じゃリドリーの方でもいいが)」
ルイージのボディに足払いをかけて、膝を顎付近にぶつける。反撃でファイアボールを撃ってくるのをみとめると、リドリーのボディを間に入れて体の隙間からブラスターを撃つ。
『……!』
リドリーの蹴りをかわし、軸足の膝を曲げて転ばせる。壁のようになっていた巨体が退いたことで、すぐの跳び蹴りに反応できず、ルイージのボディは壁に激突するまで蹴り飛ばされた。
「……? なんか変だな」
なにか、漠然とした違和感があったのだが、言語化できない。気のせいといえば済ませてしまうような、小さくてわずかな違和感。
本人の力そのものに関係していると知るのはもう少し後である。
『…………!』
「ぐっ……!」
その違和感に気をとられたのか、右手首を尾で縛り付けられる。引っ張られて振り回されて地面に叩きつけられる。が、叩きつけられる瞬間、両手で地面を叩くことで体を浮かせて衝撃を和らげた。
「こいつ……!」
左手でブラスターを撃って逃れようとするが、威力が低い。咄嗟に起動したままのリフレクターを蹴り飛ばして弾き飛ばす。急いでリフレクターを拾い、高速の体当たりでさらに距離をつくらせた。
「あいつみたいにはできなかったが……たまには参考にするものだな」
安堵の笑顔を浮かべた表情は、リドリーのボディ、ルイージのボディが同時に襲いかかる現状によって、消えていく。今までの戦況的には戦えているようには見えるが、敵の動きに対する対処が多く、積極的に離脱する行動ができていない。
「(賭けに出るか……? ただ数が負けてるとリスクが大きいんだよな。さて……)
低い体勢で2体の足元をくぐり抜けながら、連続で蹴りをぶつける。予期せぬ攻撃で浮き上がった2体のボディ。
『……ッ!?』
「このまま続けてジリ貧なら一気に勝負に出る!」
その中の1体、ルイージのボディに目をつけ、ファイアフォックスをぶつけてさらに宙へ。
そのまま空中で一回転。片足での跳び蹴りはボディだけでなく、自らも壁へ突っ込む形だ。
『……!!』
「……ッ!」
しかし、残るリドリーのボディが味方を撃墜させまいと、飛行しその強靭な爪を振りかぶった。
「させるかぁ!!」
意地で体を錐揉み回転させ、ダメージを最小限に。そのままリドリーのボディは無視する形で壁に突っ込んでいく。
「いけえええぇぇ!!」
快感を覚える気持ちのいい音が壁から響く。普段撃墜されなければ見られない景色をフォックスは見ていた。
背後には追おうとするものの、修復された壁に阻まれるリドリーのボディ。着地とともにルイージのボディも衝撃に耐えれず消えていく。
「よし!」
ガッツポーズをしながら、次に進むため走り出した。
◯章タイトル
Ancientは古代という意味。今話はKOFスタジアムでしたが、さまざまなステージを巡るこの章では、全員参戦に取りこぼされた古のステージも巡っていく予定です。
◯タイトル
塊魂トリビュートのオープニングテーマ。みんな大好きのオープニング、塊オンザスウィングのアレンジカバー。あのスキマスイッチ様ですよ!
ハイテンションなアレンジ元とは違い、軽快なテンポで一瞬の盛り上がりを大事にする系の曲。
……大丈夫? 音楽の無知なんですが、よく知ってる曲の解説ぐらいできてますかね?
◯一人ぼっちのフォックス
まさかのボディを除いて単独で話を進めてしまう。
実際、あのステージ管理とかするなら面倒そうです。1人掃除をしてたら取り残されて……うっ。