大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle   作:蘭沙

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10話 死んじまったらおしまいだろ!

 

技というには簡単過ぎる、単純な電撃の攻撃。ナカツナの体から発せられる電気がインクリングとピチューの元へ発せられる。

 

 

「くっ…!」

 

 

それを間一髪でロイが間に入る。封印の剣で弾けたが、ロイの動きが鈍くなっているのもあってギリギリだった。

 

 

「(あたしが… 邪魔なんだ…! 寝てる場合じゃない… ピチューを連れて逃げないと…!)」

 

「無理して動かなくていいよ、カムイ達もきっと来てくれる!」

 

「チュ…!」

 

 

そんな気休めを言われても。動きが鈍くて、回避も困難で。こんな状況で足手纏いがいたら余計に戦えない。そのぐらいわかってるのに。動けないなんて言い訳で、ロイが死んじゃうかもしれない。

 

 

『これで終わりだ… 夕霞乃舞(ゆうがすみのまい)…!』

 

「(この剣技は…!)」

 

 

ロイはその武器から目を離していない。姿の見えない相手では手元で動きを捉えることができないからだ。だからこそ刀そのものを見ていたのだが…

 

 

「(捉えにくい…!)」

 

 

剣先が踊るようにあちらこちらへ動く。はやくもない動きなのにブレた残像が重なっているように動いて見切れず、細かな傷が増えていく。しっかりと体を見れたならこんな翻弄されることは…!

 

 

「ッ! しまっ…!」

 

 

刀が脇腹を通って斬り裂く。武器が正面にない。通り過ぎたのだ。後ろへ。後ろは。後ろには。

 

 

「ピチュッ…!」

 

「あぁ…!!」

 

 

ピチューが斬られる。小さな体には過ぎる傷痕。だが、インクリングは人のことを心配する暇がなかった。肺が圧迫される。オレンジのインクを拭った顔、があるはずの場所を覗きこんでしまって吐き気がした。首元に剣先を突きつけられる。

 

 

「インクリング…!」

 

『…こいつの命が惜しくなければ戦えばいい。別にそれでも俺は驚かん。俺だってそうするからな。おまえもだピチュー。』

 

「チュチュ…!」

 

 

ああ、こうなってしまった。本当の足手纏いに。

 

以前、キーラと戦っている際、マルスの心配を過剰だと思っていた。確かに間違ったことはいっていない。マルスの世界はこうして命の消えていく世界だと。だからこそ彼は自分たちを心配していたのだと。

 

わかっていたつもりだった。

わかっていなかった。

つもり、でしかなかった。

 

漫画(ナワバリバトル)にあるような綺麗な勝ち方は現実(戦争)には存在しなかった。

 

 

「……… ピチュー、引いて。」

 

「ピチュ…」

 

 

ロイは剣を鞘に収めながら言った。ピチューも渋々戦闘体勢を解いた。もっとも敵意はぶつけているままだが。

 

 

「何が目的だ。」

 

『俺が戦争を始めた理由は、この世界に迷い込んだスマッシュブラザーズを炙り出すこと。もはやそれは達成された… そうだな、他にファイターはいるのか?』

 

「…ここにいる3人以外にはカムイだけだ。」

 

 

一瞬カムイのことを言うか迷ったが、彼も戦争に加わってくれた以上、バレる可能性が高い。真実を語るしかなかった。

 

 

『カムイ… 調べた奴か。おそらく、この女にマスターハンドは逃げていない… つまりハズレだったか…』

 

「調べた…? カムイと貴方は会ったことがあるというのか?」

 

『方法を語る必要はない。もうファイターがいないならここに残る必要はないな。…しかしコイツはやはりきちんと調べてもらった方がいいな。』

 

「う…!」

 

 

インクリングの首を掴み上げる。

連れていかれる。どうなるかわからないけど、もっと多くの仲間に迷惑がかかるのは確かだ…

 

 

「ピッチュ!!」

 

「待て。」

 

 

ロイの言葉に去ろうとしていたナカツナの足が止まる。どうして、どうして。ロイの決意を込めたような顔に嫌な予感しかしないの。

 

 

「貴方は大乱闘の世界へいくつもりだろう。でも、すぐにはいけないんじゃないか? その間も戦力はできる限り削がれない方がいい。」

 

「調べた調べていないは… 後でもいいだろう。貴方も武人ならわかるはず。将を抑えて被害を減らすことの意義が。」

 

 

 

「戦時下なら、人質は女性よりも()の方がいいはず。彼女を解放してほしい。」

 

 

やだ。どうしてこうなるの。

 

 

『…頭の病気か。でも、こちらとしては好都合だな。何をするかわからない凡人よりも身の程を弁えている方が。』

 

「ピチュ!!」

 

「やだ… あうっ…」

 

 

そのまま落とされたインクリングは崩れ落ちたまま立てない。鞘を右手で握るロイの背中が酷く歪んで見える。あの得体の知れない奴に向かって遠くなっていく。戦意が共に目から流れていく。ピチューが飛び出していった。

 

 

「ピチュー。インクリングを、お願い」

 

「…ッ! チュウゥゥゥ〜…」

 

 

悔しさを滲ませて、足を止める。その言葉は鎖のように縛りつけた。

 

全員、わかっていた。

ピチューが飛び出せば、このまま戦えば、誰かが死ぬ。それがボロボロのインクリングなのか、不相応のピチューなのか、守りきれなかったロイなのかわからない。でも、これが一番最善で最悪の選択だった。

 

 

「やだ… やだ…」

 

 

子供のようにうわごとで繰り返す。雷が落ちて、周囲が真っ白になって。視界が元に戻ったら透明も赤もいなくて。

そして、視界が真っ黒になる。忙しい意識だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いっつも何も考えてなかった。

 

オクタリアンが死ぬだとか、あたしが殺すだとか。

 

悪い奴はやっつけられて当然だと思ってた。

 

そんなこと知らなかった。

 

 

なんて軽い存在なんだろうか。

殺しの責任を相手に押し付けるのは楽だった。

卑怯だった。深く考えず済んだ。

 

あたしが、やった。

あたしが、でしゃばった。

そのせいで、大勢死んだ。殺した。

 

 

あたし、頑張るから。

ロイを助けなきゃ。敵を倒す。殺す。

 

そうしなきゃ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「インクリング!」

 

 

彼女の目が開いたのに気づいて、カムイが名前を呼ぶ。少し前まで使っていたロイの天幕だ。でも、だいぶ過去のことのように思える。

 

 

「ピチュ…」

 

「あっ…」

 

「痛いところはないかい? 一応治療はしたけど…」

 

 

事情を知っているのか知らないのか。

カムイの優しい言葉が今はただひたすら痛い。

 

 

「よかった、目覚めたのね。」

 

「リリーナ、お疲れ様。たった今起きたよ」

 

「うん、気絶したあなたをピチューが精一杯引きずってきて… 何が起きたの? ロイは?」

 

「あ…」

 

 

夢、じゃない。空想じゃない。

もう、責任から逃げられない。知ってしまったから。

 

 

「あたしの、せいで…」

 

「え?」

 

「あたしのせいで、ろい、しんじゃうかもしれない…!」

 

 

インクリングは全てを話した。

自分達が飛び出したこと。敵の首魁、ナカツナの存在。目的。自分が人質にされて、解放するためにロイが代わりに捕まったこと。

辿々しい、涙を拭いながらの話に一同愕然とした。

 

 

「そう、なの。ロイが…」

 

「リリーナ…」

 

 

特に幼馴染のリリーナの動揺は酷かった。

少しの間共に戦ったカムイが心配そうに見つめるが、なんて声をかけていいのかわからない。

 

 

「でも、よかった。インクリングが無事で…」

 

「あたしのせいなのに… あたしがぶじじゃなかったらろいがぶじだったのに」

 

「ううん、大丈夫よ。人質ってことは簡単には殺さないわ。だから大丈夫、泣きやんで」

 

「そんな保証ないよ!! あたしのせいなのに… だからあたしが、あたしが助けなきゃ… ナカツナを、ころ、倒して」

 

「待って、インクリング!!」

 

 

それだけ言って彼女は飛び出していった。

かける言葉がないのは誰もがそうだった。

リリーナはロイと一番仲が深い。だからこそ彼女の言葉は痛いだけ。

カムイはあの場にいなかった。檻の外側で内側の危険を語っても説得力はない。

ピチューは動けなかった。同じく力がない彼女は自分を逃すため戦ってたのに。

 

 

「…リリーナ。他にスマッシュブラザーズのこと知ってる人は?」

 

「マリナス。でもフェレに前から仕えてる人だから伝えていいのか…」

 

「どっちにしろこの軍全体に本当のことは言えないよね…」

 

 

ロイはインクリングのところへ向かう途中、可能な限り、兵士に指示を出していたらしい。それが最後の目撃情報だ。何も知らない側からすれば、そこから大将が原因不明の失踪だ。確かに敵は引くと言ったが、確約はできない。そのせいで軍の指揮がガタガタになっている。

リリーナがなんとか持たせているものの、そう遠くないうちに瓦解するだろう。

 

 

「せめて… 敵の居場所がわかれば…」

 

 

弟なら、兄ならこういった状況でもどうにかできたのだろうか。精神的に疲れていたカムイは無意識にきょうだいに縋っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…」

 

 

ろくに休憩もしないまま、動いたことで森に行き倒れているインクリング。自分が最初に来た森なら、あの世界に行けるんじゃないかと考えた彼女はどうにか行ける方法を探し尽くしていた。

 

 

「おまえ… 大丈夫か?」

 

「だ…れ…」

 

 

今だけはみっともなく縋りたかった。でもそんな権利はなかった。

 

目の前のヒーローに縋れば、永遠に戦えない。そう感じた。

 





○タイトル
FFX主人公、ティーダのセリフ。召喚士が試練から一日戻ってこず、命の危険があると聞いた時、このセリフを言って飛び出していった。その召喚士は他でもないヒロイン、ユウナ。ようはこのセリフが二人の出会いに繋がったのです。ティーダのこういうところが好き。


○前話の補足し忘れ
前々回ナカツナがそうそうに肩をつけたいと言ったのは、助けを呼んでくると言ったピチューの言葉を理解できるからです。MOTHER組みたいな超能力のおかげ? それともテレパシー? 実は理由は単純なことです。


○実は今章シリアス
お願いです、石投げないで…


○ロイの行動
相手が無用な戦いをしないと感じたからのこの行動です。もちろんインクリングは大事だけど、ここでロイがこんなことするか? と自分でも少し悩みました。でも上記の経緯です。もっと言えば敵の拠点位置を知らないからという理由もある。


○最後の人物
インクリングに話しかけた人物は誰なのか。スマブラにも登場しているあの人… ですが、次回はロイ君側の話なので答え合わせは次々回。


○作者側のちょっとしたお知らせ
年末年始は休みに入るので忙しくなくなります。故に連日…になるかは不明ですが、週一投稿より頻度が高くなるかもしれません。どれだけの人がこの作品を楽しみにしてくださってるかわかりませんが、更新されないが寂しい気持ちはわかりますので… (好みの小説だったのに前回更新日時を見て絶望した己)

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