大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle   作:蘭沙

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111話 マスターフォートレス

 

──上も、下もわからない。

 

 

そんな不思議な感覚の中で、ひたすらに目を閉じて眠っていたかった。

 

だが、求めるために掴み取るために、ただ目を背けるために。自分の味方になり得る者のいない周りと世界を傷つけ続ける。自分の居場所もはっきりしないまま。

 

 

自分の力が効かない、ファイターではない男性も、結局は自身の行動の足枷にもならなかった。親しくはなりたかったが、振り切って蹂躙できてしまう。戦う手が止まることはない。

 

 

 

──薄々気づいてた。私が本当に欲しかったのは、この呪いが効かない誰かじゃない。恐れず私を見てくれる誰かなんだって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魂が……取られる……ですって……!?」

 

「ああ、悔しいけど僕達じゃどうすることもできない……!」

 

 

ルキナの意識は永遠なる黄昏の世界で目覚めた。偽りの闇の世界で会えた先祖、マルスにキクの能力について聞いた。

 

マルス達もまたキクの姿を見て、魂が抜かれた状態だ。キクが奪った創造主の力で偽りの世界を作り、用のなくなったファイター達を魂の状態で閉じ込めていた。

 

 

生物とは程遠いダークサムスのみは相性に身を任せて圧勝し、敵対するかもしれないファイターの知人やこの世界の人間、そしてマスターハンドが潜んでいないことを確認したファイター達の魂を抜く。これで現実の世界にいる限り彼女には手を出せなくなる。

 

それを偶然にもディディーコングに見られてしまい、偽りの世界まで追ってきた。なるべく後顧の憂を断つために。

 

 

「がんばれー! みんなー!!」

 

「応援……というか皆さんがどうにかしてくれるのを祈るしかないですね……」

 

 

どちらにせよ、今自分がやれることなどない。

模倣の創造主との戦いは、遠く近い王女の祈りによって幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『散れ』

 

 

終点に戦場が変わったこの世界。抑揚のなく、無慈悲な声はただ破壊衝動に駆られて蹂躙だけを実施する。

 

 

「がぁ!?」

 

 

創造主の姿、創り出す手の形を模したスウォームは直接フォックスを殴りつける。状況まで把握しきっていなかった彼に、強大な打撃が叩きつけられた。

 

 

「アッ、ダメ!」

 

 

8号がチャージャーのフルチャージを放つが、霧に巻かれたようにピンクのインクはかき消えた。指の先から太いレーザーが照射され、無理な体勢で回避したために転んで足を痛めてしまう。手から離れたスプラチャージャーが転がる。

 

 

「!」

 

「ワカッテル。ぱわー、上ガッテルゾ……!」

 

 

その一撃一撃が、普段戦う際のマスターハンドよりも強くなっている。彼が本気になったらこんな威力になるのだろうか?

指鉄砲の形を模した指先から、ガトリングのように弾丸が飛び出す。終点の隅から隅まで撃ち尽くしてもまだ止まらず、体勢を低くしてやり過ごすしかなかった。

 

 

「いって……熱いしこれはまずいぞ……」

 

「なら! ベギラゴン!」

 

 

ルキナの体を庇いながら、同じようにやり過ごそうとするケン。着弾して持った熱も体をジリジリと焼いていく。その隣からイレブンが灼熱の炎を呼び出す。弾丸と衝突し、ファイター達の真上で爆発が起きた。

 

 

「大まかには変わってないのかしら……周りのものを吹き飛ばしたら何か変わるかも……」

 

「だめダ……熱スギル……」

 

「パックンフラワーがのびてます!?」

 

 

植物だからか、アナザーマスターの攻撃とイレブンの魔法によって上がった気温に、パックンフラワーがバテてきてしまった。

 

 

『断ち切る』

 

「させるか!」

 

「イレブン! 全部相殺してたら保たないぞ!」

 

 

投擲した四つのチャクラム。上空から生み出した金色の刃で真っ二つにする。一つ一つの大技に匹敵するパワーを出せるのは素晴らしいが、それがいつまでも続かないと、一部の者はわかってた。

 

 

『グウウウゥゥ……!』

 

「……!?」

 

「形変わった!?」

 

「形態の変化までするのか……!」

 

 

キクが纏うスウォームの形態が変化する。宙に浮いていたものがステージに足をつけ、4本足の魔獣のような風貌に。

 

 

「グボォ!?」

 

「──ッ!」

 

 

バテていたパックンフラワーが魔獣の一噛みで、立てなくなるほどのダメージをくらった。茎を引きちぎられるような痛みだ。

 

 

「ッ!? ファントムが!? きゃああ!?」

 

 

隣のゼルダが咄嗟に召喚したファントムが口を斬りつけるものの、落雷からの帯電によりファントムごと攻撃され、すり抜けるように足元から生えた棘が突き刺さる。白いドレスに染みていく血の跡。

 

 

「ベホマ! イレブン!」

 

「うん! ベホイム!」

 

 

勇者2人からの回復呪文がとび、傷は塞がるもダメージのショックが激しく完全な回復にはまだ時間がかかる。立ち上がれない2人への引っ掻き攻撃にリフレクターをはりながら割って入るも、本来の用途とは違うためか機器本体がミシミシと悲鳴を上げているのを感じる。

 

 

「もたねぇ……!」

 

「連携でいこう!」

 

「よっしゃ!」

 

 

マスターソードにメラゾーマを合わせた即席の火炎斬り。勇者と英傑の力を合わせた一振りは魔獣の口から尾までを一刀両断した。

 

 

「よっしゃあ!」

 

「まだだ!」

 

「まだあんの!?」

 

『斬る』

 

 

両断されたスウォームは合わさり形を変え、7本の剣となる。本気で来ている彼女は創造主の力も全力で使っていた。

 

 

「くっそぉ! せめて一本は請け負ってやる!」

 

「いや、バラバラにしないでまとめて倒そう!」

 

 

盾をしまい、2本の剣を取り出したイレブンは踊るように剣を合わせる。勇者のつるぎ・改、そして勇者のつるぎ・真。

7本の剣による乱れ斬りは完全に捌くことはできなくて、細かな傷が増えていく。

 

 

「ハヤク……!」

 

「ええ……!」

 

「オウ……!」

 

「よっし、ハチちゃんと2人でなんとか守るからおまえら討伐任せたぜ!」

 

 

8号が肩を貸してゼルダとパックンフラワーを隅へ避難させる。ケンと8号の2人でゼルダ、パックンフラワー、ルキナを守ることとなる。

 

分離して1本ずつ襲う剣をバレルスピナーの高密度射撃や、腕を振っての受け流しで軌道を逸らす。

インクまみれの剣を、パックマンが口で受け止め回転。他の剣にぶつけた。

 

 

「で! どうするんだイレブン!? まとめて倒すって言ったって……」

 

「…………」

 

 

近距離の攻撃を避け、ブラスターでチクチクと攻撃を続けているフォックス。

しかし、いつもは浮世離れしているような雰囲気のイレブンが、目を細めて集中しきっていた。彼の耳にフォックスの言葉は届いていない。2対の剣をまるで1本として使うように。雷を帯びた剣を横一閃に振り払う。

 

 

「ギガ……ブレイクゥ!!」

 

 

雷の魔力が全ての剣を打ち払い、スウォームを霧散させる。しかし、より多くのスウォームが集まっていく。

空を埋め尽くすほどのスウォームはステージごと包み込み、ひとつの要塞へと変わっていく。

 

そして、イレブンが膝をつく。息の荒れた様子で2本の剣を支えにしていた。

 

 

「うう……」

 

「やっぱり……魔力を使い過ぎたんだね」

 

「ガス欠ッテコトデスカ?」

 

「がす……? 考えて使わないと……魔力が切れるんだ」

 

「まほうのせいすい……」

 

「ごめん、今はないんだ」

 

「イレブンが考えなしに使ったからかー」

 

「はぁ……」

 

 

がっくりと肩を落とす。やらかしてしまったのは事実。

しかし、そんな束の間の休息はすぐに終わってしまう。

 

 

『滅びろ』

 

 

ハッとして上を見上げるとマスターコアのような球体に包まれたキクの姿。目を閉じ口だけを動かした少女は膝を抱え込むように眠っていた。その言葉、そしてあたりから生み出されるファイターの姿をしたスウォームの塊。まるで、かつてのマスターシャドウのような。

 

 

「ゲー!? 今度は数で攻めてきた!!」

 

「寝テル……場合ジャナイ!」

 

「ええ……!」

 

「私ダッテ、マワリノ兵士クライニハ!」

 

 

ルキナを背負ったケンがなんとか腕だけで反撃する中、体を引き裂かれるようなショックからゼルダとパックンフラワーが復帰する。ケンに迫るボディに魔法と双葉のカッターを直接当てる。

足元をオクタシューターで塗り、インクに足元を取られたボディの鳩尾にシューターを叩きつけた。

 

 

「クルリ」

 

「動ける? 僕の魔力はできるだけ治療に回したいから……!」

 

「攻撃に魔法を使えないってことだよね……! だい、じょうぶ! これよりもピンチだって乗り越えてきたんだ……!」

 

 

回し蹴りを行うパックマンの隣、エイトの手を借りてイレブンが立ち上がる。再び盾に持ち替え、前方に構えながら相手の体勢を崩す。

崩れた相手にギガデインが直撃する。呪文の詠唱じゃない。エイトの持つ剣の効果だ。

 

 

「(使ったらギガデインって……ずるくない?)」

 

「しょうもないこと考えてるだろう……」

 

「ま、いいよ。本体が見えた以上、後は討ちにいくだけ……」

 

「……1人で特攻はやめてくれよ?」

 

 

ちょっと不満げな顔のイレブンを見逃さず、シャドウに跳び蹴りをしながらフォックスが釘を刺す。リンクもリンクでついに前座待ちも限界なのか剣を握る手に余計な力が入る。

 

 

「ここで、倒して勝つ!!」

 

 

自然とリーダーのような立ち位置にいたフォックスがかけた言葉。その言葉に後ひと押しと全員が覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、1人を除いて。

 

 

「(本体が……見えた……?)」

 

 

ルキナの体の護衛にまわっていたため、1番冷静に物事を見れていたケンが、リンクの言葉に何かに気づく。

 

見えたって、なぜ隠していた?

戦うため。

 

違う、隠していなかったら戦いにもならない。

 

 

だってキクには自身の姿を見た者の魂を抜く力がある。さっきはそれのために攻めあぐねていたのだ。

 

そして、その力を使っていれば圧勝……かは不明だが、少なくとももっとキクが優勢であったはず。

 

 

なのに、隠した。自身の姿をスウォームに隠した。自ら存在を認められない道を選んだ。

 

 

すっと、キクを見た。

先程見た時と変わらず、膝を抱えて眠る少女。

そこのゼルダと同じ顔。同じ姿。もちろんだが、ゼルダに同じ能力はない。

頬に流れた涙。

 

 

「(ああ……そうか。そう、なんだな)」

 

 

ケンの中から、ふっと敵意が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に飛び出し、キクの眠る球体に手を伸ばす。

スローモーションに見えたこの光景に周りは止める間もなかった。

 

 

「キクちゃん!!」

 

 

そういえば、ルキナを背負ったままだ。気づいた時には遅かった。でも、見捨てられない。眠る子供のような少女を。

捨てられた飼い犬のような、身を寄せて震えるような、そんなただ1人の孤独を。

 

 

「ケン、なにを……!?」

 

「本当は……本当は魂を抜くとか……そんなのやりたくないんだろ!?」

 

 

球体にしがみつき、重力に落ちそうな体を腕力だけで抑える。仲間の声も、今だけは煩わしい。

 

 

「だからこんな霧みたいなの纏って……砦みたいなの創って……自分の姿を隠した!」

 

 

この違和感は、嘘じゃない。

要塞は、外から身を守るものではなく、自分の心を守るためのもの。

 

 

「怖がってるんじゃない……オレはここにいるぜ……! ちゃんと見てるオレを見ろ! 夢の中に逃げてるんじゃねえ!」

 

 

泡が割れるように球体が消えて。

目を開いて、揺れる眼差し。

はじめて合った視線。

動揺して、彼女の支配が緩まった。

霧散していくスウォーム。

 

 

「うっ……」

 

 

ケンの背中で意識を取り戻すルキナ。そこから見えたもの。

 

 

「あっ……」

 

 

それは、まるで盲の人間がはじめて色を見たような。

 

まるで童心を取り戻した子供のような。

 

 

キラリと笑っている顔、染めていない黒の眉毛、まっすぐに見つめる目。

 

その顔はすぐに慌てた顔に変わる。

砦がなくなり、3人まとめて空中に放り出された。

 

 

「うわあああああああ!?」

「きゃああああ!?」

「………………」

 

「ルキナ! ケン!」

 

 

キクの両肩を掴んだまま、ルキナの腕が首へ回されたまま。

終点の足場のない奈落へと。その赤は消えていく。

 





◯タイトル
スマブラWiiUにのみ登場するマスターコアの最終形態。
それまでの形態とは違い、小規模なダンジョンのようになっており、雑魚敵を相手にしつつ、奥のコアを倒せばクリア目前に。


◯アナザーマスター戦
模しているとはいえ、戦っているのはキクであるため、細部が異なっている。マスターシャドウを雑魚に格下げしちゃったし。


◯イレブンのMP事情
今話だけでも、ベギラゴン、覇王斬、ベホイム、メラゾーマ、つるぎのまいギガブレイクを使用。大技ばかりですっからかん。
MP回復のまほうのせいすいも在庫切れなう。


◯勇者のつるぎ・真と勇者のつるぎ・改
どちらもイレブン専用装備。
真はイレブンの生まれ変わり前、勇者ローシュの使用していた剣。
改は仲間とともに新たに創り上げた剣。
スマブラで使っている勇者のつるぎは、エンディング後のストーリーにて改の素材になってます。


◯「考えて使わないと……魔力が切れるんだ」
(ゆうきスキルで消費MPを半減しつつ)
同じ勇者タイプでも、イレブンは基本アタッカー、エイトは基本ヒーラーなので、MPを気にせずガンガンいくイレブンとMP切れるまでいったらまずいエイト。単なるタイプの違いなんです。


◯竜神王のつるぎ
エイトの専用装備。スマブラでも使ってるあの剣。
竜神王の試練をクリアして手に入る竜神のつるぎを錬金してようやく手に入る。攻撃力は作中最強で使うとギガデインの効果。
しかし、8ははやぶさの剣・改が強く、強敵相手には基本ヒーラーなので…… リメイクで強化されてもよかったんだよ?

◯ルキナ
巻き込まれた。
なお、5章の面子も戻っています。


◯今章のまとめ
ケンとルキナの今後が気になるところですが、今話で今章は終了です。
もう一章挟んだのちに、最終章が描かれるのでキクも含めた3人の行方はその時に。

総評としましては、スマブラシリーズの要素をかなり入れられたので満足です。ステージ変化、マスターコアリスペクトはアドリブでプロットにはなかったのですが、いかがだったでしょう。
ただ、戦闘中に◯◯はなにしてるの?という感じで長らく描写なしというのが今章は多かったかなという印象です。ボディを含めた雑魚戦が多いのは、隅で雑魚と戦ってるんだなと想像しやすいからという裏話があります。反省しろよ。

さて、次章で今までメインで出ていなかったファイターも登場します。
お待たせしました。どちらかと言うと戦闘メインの章になる予定です。

余談ですが、回線の調子が悪く、一回1000文字くらい書いた後書きがパーになりました。チキショウ。
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