大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle 作:蘭沙
「なんで、そのこと……」
「そうだ、と言ったら退いてくれるのか」
震えながら座り込んでしまうチゲンとは対照的に、チハクは不愉快さを滲み出しながらも動揺まではせずに対応した。
「少し気になっただけですよ。手酷く言っていた貴方が弟、というのが」
「人間関係はそれぞれだろう」
「傾向というのはありますよ」
はあ、と深い息を吐いてチハクは開き直る。知られたからには、という訳ではなく、知られてしまったという後悔でもない。自暴自棄に近い。
「そうだ。兄弟と言うには少し語弊があり、親子という方が近い。私はチゲンの意思であり、本音だ。チゲンが私を生み出したのだから」
「チハク〜……」
パチン、と周りに響く澄んだ音。 どこか聞き慣れたそれに囲まれながら、
自分がどういう存在なのかは理解していた。 長く使った厚みのある碁盤と、数を欠かすことのないようによく点検された碁石。
それが僕の本当の姿なのだ。
僕の世界は、いろんな人が集まるような集会場だった。多くの人に使われていたんだ。
年配のお爺ちゃん、お婆ちゃん。 ちょっとはじめてみただけの初心者の男の人。惚気話を嗜んであまり集中していない逢瀬中の男女に、規則も知らずにただ大人の真似をして石を置く子供。
本当に人が大好きだった。
草履を脱いで、縁側に座って、暑いからと着物を着崩して、時には行儀悪く畳で寝転んで、座布団を枕代わりにして。 いろんな人がいるのが面白かった。そうやってひたすらいろんな人に使われるのが嬉しかった。
うぐいすが鳴いて、暑い日が表面を焼いて、収穫の季節に一喜一憂するみんなの姿が寒くなって穏やかになっていく。
その巡りをいったい何十回繰り返した時だったろうか。僕は四角く重い姿じゃなくて、大好きな人間の姿になっていた。
理屈はわからないけど、本当に嬉しかった。
使われて楽しませるだけじゃない。一緒に並んで、変なことを言って笑ったり、どうでもいいことに真剣になったり、あるいは大真面目に囲碁を楽しむことができるって。
僕から人へ触れ合って、友達になれると思ったのに。
名乗ったらどこか遠くの別の場所に飛ばされて、次に会う時にはなぜか自分のことを忘れている。
この名前がきっかけになって、僕に関する記憶が全て消えて思い出せなくなるのだ。
それがわかってしまうまで、時に泣いたり叱責したり。でも何も変わらなくて。
大勢の人が周りにいるのに、とても孤独で寒いんだ。ただ、友達が欲しかっただけなのに。
「どうした、愚兄」
その声は、慰めにしかならなかったけど。
「可哀想に」
「守りたい人、守りたいと思う人。自分しかいなかったんだね」
「─可哀想に」
ガンッ、と大木に拳を叩きつける音。洋風の柄と持ち手に白銀に輝く刀、ヴォーパルを握りながら、鋭い眼光はこの場にいない存在を睨み付けていた。
「あんな……戦う力も持たないような奴に……」
許せない。
戦える人間を優先して武器を取り上げ、万全を期して戦陣を整えた。
なのに、あのインクリングが起こした行動の結果、すべてが崩れた。結局創造主の有無を確認することもできないまま、逃亡せざるを得なかった。
羽毛が逆立ち、バチバチと体から電気が溢れる。
全部彼女が起こした行動のせいで自分は敗退した。それは認めてやる。
認めてやるからこそ腹が立つのだ。
ぐぐっと歯ぎしりをしていると、誰かの声が聞こえて、咄嗟に能力を自分に使う。
存在を曖昧にする力は自分に使えば高度な隠密ができる。自分から存在を見せるような行動を取らなければ、そうそう見つかることはない。
「そういえばこれは……いつものブキだよね?さっき使ってたのは壊れてたけど……」
「性能的には変わってないから大丈夫」
「(奴等……追ってきていたのか)」
その声はたった今思い返していたインクリングの声だった。
彼女がいるということはおそらく他のファイターも着いてきているだろう。
ナカツナがこの世界にいるのは知っているだろうが、そこにいるだろうと確信がなければ気づけやしない。認識できる全方位全距離に対して、いるだろうと確信を持ち続けるのは不可能だ。
「(だったら返り討ちにしてやるか……最高の期を伺って……なあ英雄気取りよ?)」
インクリングに、ロイ、ピチュー、カムイ、スネーク、シーク、リリーナ、アルス。
彼らの跡を追っていく。奴等の心を折るのに丁度いいタイミングを探しながら。
「守りたい人、守りたいと思う人。自分しかいなかったんだね」
「(好きに言えばいい。どうせ知らない者の言葉だ……)」
人を尊重する理由は彼にはなかったのだ。自分のことで精一杯だというのに他人の心配などする余裕はない。
能力の効かない自身の得物だけ視認されないように気をつけながら、自分の中の感情の残滓をどう消費するのかを考えていた。
「しっかしな、コイツらがここにものさばっているって一体何があったんだ?」
もう満身創痍で戦えないボディをとっ捕まえながら、スネークは言った。
「やれやれ、捕まえといてどうする気だい?」
「う~ん、成果みたいなもんだな。さっきはろくに活躍できないままだったからな」
「邪魔でしょ」
「それはそう」
あっけなく手放したボディは消えていった。特に執着もせず、単なる面白半分だったらしい。
「でもこの世界でもそのボディがいるってことは、フェレと同じように戦いが……」
「うん、戦えない人もいる。一刻も早くこの戦いを終わらせないと」
「戦えない人か……」
「ピチュ?」
戦えない人で思い出す。
つい最近知り合った友達。雨宿りの中で囲碁を習って、同じようにきょうだいがいる友人。それきり再会の約束は果たされていないが、戦う力があるかもわからない彼は一体今どこで何をしているのだろう。
「……ああ、ゴメン少し考え事をしてたよ。とりあえずナカツナをどうにか捕まえて話を聞かないと」
「うん、そうだね」
ヒーローコスチュームを纏ったインクリングが溌剌さを抑えて少し穏やかに笑う。人に安心さを与える暖かさのある笑顔。
「しかし、奴は一体どこにいるか……」
「この世界も広い。もっと大勢で探さないと」
今後をどう動こうかと考えていたロイが何かの戦闘音を聞き取る。何かが発射され、武器と武器がぶつかる音。一部の者には聞き取れたらしい。
いるのはボディか、ナカツナか。それとも……
「行こう」
草木の間を縫うように進んだ先、見慣れた背中がいくつか見えた。意思なき器もまた。
「はあっ!みんな!」
「ロイか!頼む手を貸してくれ!」
ボディを押しのけ、戦場に参加するファイター達。見慣れない者もいるが、敵か味方かの区別はつく。
「ピットと……ブラピか?アイツと同じようにボディに取り憑いてんのか!」
「ブラピ言うんじゃねえクソジジイ!」
「シンプルな悪口をやめろ!」
ギャーギャーと騒ぐ中、大まかな状況を理解して戦場に乗り込んでいく援軍。
ピットのボディを使っている方から舌打ちが聞こえる中、背後のブラックピットのボディを使っている方がゆっくりと
「カムイ?」
「えっ?」
夜刀神を握った手から少し力が抜けた。
どこか聞き覚えがあるようで。ブラックピットの声だけど、何かが違う。記憶の内から引きずり出していく。不安そうなインクリングがカムイの顔を覗き込んだ。
「知り合いなの?」
「…………………………………………チゲン?」
あまりにも突然の再会に周囲の喧噪が遠のいたようだった。
お互いに2人だけしか見えなくなった。
「またね、カムイ」
約束は果たされた。
敵同士という悲運の再会が。
◯タイトル
KH2のファイナルミックス版で追加されたロクサス戦のBGM。
究極の悲しさとやりきれなさを表現したというこの曲は、元々悲しげだったキャラテーマ曲を組み込んでさらに悲しさを増している。
ぶっちゃけこの曲言われないと戦闘時のBGMってわからないと思うんですので、知らない方は聞いてみてほしいです。
◯チゲン
彼の正体ですが、ぶっちゃけると囲碁の付喪神ですね。
モチーフとして、そういう付喪神がいるのです。明確な善行も悪行もせず、ただ囲碁やるだけというのが可愛くて好きです。
◯作者の気まぐれコメント
よもや、ハッピーセット初日で無くなるとは思ってなかったです。
三連休の先週よりなくなるのはやいって……あんまりマイナスのこと書きたくないんで明言しませんけど、◯◯◯は許さない。
実は一弾の子は1人お迎えできてます。ウインクの子。
カービィのぬいぐるみは、ゲーセンで取った抱き締められるサイズの子がもういるんですが、ウインクの子は座れる手乗りサイズなのがいい。
すみません、他に手乗りサイズのカービィぬいぐるみ、いいのあったら教えてほしいです。かわいいー!