大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle   作:蘭沙

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128話 嘆きの獣

 

無意識に口が開いて、閉じて。

でも結局言葉は出なかった。

何を言うべきなのかもわからなかった。

 

 

マスターハンドを宿したファイター。スマッシュブラザーズにとっては最後の希望。

僕達にとっては摘むべき芽。

 

彼がスマッシュブラザーズであることは聞いていたというのに、何の根拠もなく彼と出会うことはないと思い込んでいた。

 

 

彼が覚えてくれていたことに後ろ暗い悦びを感じながら、今の自分を見て、仲間と敵対している僕を見て、彼がどう感じるかといった領域にようやくたどり着いたのだ。

そしてその瞬間、身体中の体温が急速に奪われていく。

 

 

「……なに、してるの」

 

 

恐る恐る口に出したような言葉は、うっすら恐怖を滲ませながらも怒りもあった。

 

悪いことをした童子を叱る母親のような、様々な感情が織り混ざった咎める瞳。

 

 

「えっと……」

 

 

嫌われたくなんてなかった。

この体が永遠のものとなれば、他にも友達ができる、なんて残酷な判断はいくらでも思い浮かぶ。

 

でも、またね、って言って、彼にとっては軽い気持ちでかわしたそんな約束が、はじめて果たされたという現実を目隠ししてまで未来を進みたくはなかった。

 

 

「あ、うっ……あああ……」

 

 

助けて、助けてチハク。

何も答えてくれない。当然だ。

 

僕は僕が嫌だ。鈍臭くて、後ろ向きで、優柔不断で、負けっぱなしの独りぼっち。

でも自分を貶す言葉を自分の口から出してしまえば本当に存在してはいけなくなる気がして。

 

だからチハクは僕の代わりに僕を貶していた。

代弁者だから。

 

 

僕自身出せていない答えをチハクが出せる訳もない。

 

自分で望んだ弟役はただ沈黙を保っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

 

怒りはあった。悲しみもあった。

大切な人が敵であった苦しみは経験がある。

 

 

だが、ここまで苦しそうに言葉を吐き出させたい訳じゃない。

 

ゆっくりでもいいから本心が聞きたかった。

 

 

一度仲良くなったのに、簡単になかったことにはしたくないから。

 

 

「うおお!」

 

「あっ……」

 

「っ……! 待って!!」

 

 

そんなことどうでもいいと言わんばかりに、ガノンドロフが殴りかかる間に入る。防いだ夜刀神を持つ手が痺れるが、今は全く気にならなかった。

 

 

「どういうつもりだ貴様……」

 

「ごめん……でもどうか、チゲンのことは任せてほしいんだ」

 

「このボディ共を使役して手駒としているのは確実に奴だぞ」

 

「それでもだ。僕はまだ何も聞いてないんだから」

 

「手ぬるいわ」

 

「いいじゃん、手ぬるいってさ、単に優しいってだけじゃないんだよ」

 

 

インクリングからの助太刀が入る。

犠牲を知った彼女には、カムイの柔らかさを受け入れる土台がある。

 

 

「また会えたね」

 

「うん……」

 

「弟と一緒にさ、囲碁、やったよ。他にもこういったボードゲームは知ってるけど、タクミにあそこまで勝てたのはびっくりしちゃった」

 

「僕と一局すると、なぜか相手だけ上手くなるんだ……」

 

「そっか。……ねえ、君はどこから来たんだい?」

 

「……遠いところ」

 

「そっか。どうしてボディを?」

 

「僕が自己紹介をするとどこかに飛ばされちゃって……それで次会う時には僕を忘れちゃうから……そうならないための体が欲しかったのと」

 

「欲しかったのと?」

 

「……チハクと同じ存在じゃ嫌だったんだ」

 

「難しいことを言う」

 

 

そっと付け加えたチハクの声。

彼だけが2人の間に入ることを許されていた。

 

 

「ずっと寂しくて、失わない友達が欲しかった。例えたった1人でも。失う確率が少しでもあるなら、どれほど頑丈に見える石橋でも叩く」

 

「チゲン……」

 

 

戸惑いを小さく感じるほどに、寂しさと覚悟が伝わってきて、不意に北の城塞での暮らしを思い出す。

 

カムイには使用人達がいたけど、チゲンにはいなかった。少し大掛かりな自問自答しか出来ないチハク(自分)しか。

 

 

「でも……駄目。やだ……君だけは嫌わないでよ……僕自身がどれだけ酷く僕のことを嫌っていても構わないから……! はじめての友達が、はじめてまたねって……!」

 

 

話していてようやく気づいた。

未来でできるかもしれない友達より、創造主を滅することで完成する絶対が保証されたボディシステムより、はじめての友を優先させたい自分がいることを。

 

滝のように流す冷や汗。追い込まれていながらいっぱいいっぱい過ぎて涙だけは出てこない。

 

 

「どうしよう……」

 

「なら……この事態を解決するのに協力してくれないかい? 例え敵だったとしても、事態の収拾に協力してくれればマスターハンドも酷くは扱わないよ。彼がそうだったもの」

 

「ふん」

 

 

シークの言う彼は目の前のガノンドロフではない。しかし、最後はタブーの討伐に手を貸したからか、少し前までファイターでいた。

 

 

「…………」

 

「……それぞれ、利害が一致した同士がマスターハンドを探している。スマッシュブラザーズの誰かの内に逃げ込んだ奴を。しかし、どうやら全員に何かしらが起きて、結局戦場はこの世界になったらしい」

 

「誰かって……誰だい? ヒントとか……」

 

「わからんから探していたのだ。ただ、そちらを倒さなくても全員を行動不能にすれば残るは数だけはいるボディだけ」

 

「ピ、ピチュー、もしかしてこの人自分から仲間倒そうって言ってるよね?」

 

「ピー……」

 

「元から仲間の情など存在しない。おそらく全員の共通思考だ。利害しか見ていないからな」

 

「き、聞こえてたぁ……」

 

 

今の自分の格好も忘れてヘナヘナと座り込んだ。

しかし、インクリングの発言を気に留めることもなかった。

 

 

「……って、おい、なんか和解のムードになってるが、せめてボディを変えろ! 目障りだ!」

 

「やだー!!」

 

「やだー!!じゃねえよ! 訴えるぞ肖像権の侵害だ!」

 

「チハクとお揃いがいいし、白と黒ってカムイとも似て……」

 

 

抗議の笑顔がゆっくりと目を見開き、焦りの表情になっていく。

いや……ゆっくりというのは気のせいだった。そう見えただけ。座り込んでいたチゲンが急いで立ち上がり、正面のカムイの腕を掴んで後ろへ引っ張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

己の存在理由に、疑問を感じたことはない。

 

どうして人は人として生きるのか、とかそういう哲学じみたことを本気で考えたことはない。

1人が寂しいと嘆くチゲンと常に共にあった。それが当たり前だった。

 

 

自分はチゲンの代弁者。

慰めであり、彼が生み出した別の人格。

 

同じ肉体だったそれは、スピリットとしてボディに宿り、真の意味で触れ合えた瞬間、チゲンは嬉しそうに笑った。やっぱり見た目も似てる方がいいよね、と。

 

自分は別に特別な感情を持たなかった。

肉体が離れたことに戸惑いはあったが、嬉しさはなかった。

 

チゲンの真意は、自分の意思は、戸惑っていたのか。ならば、チゲンも本当は嬉しくなかったのか。

 

 

 

わかれて行動して、同じように別れたアイスクライマーの2人を見て、根っこに共通項があっても別のことを考えることもあるのだと、他人事に考えていた。

 

 

でも、きっと同じなのだ。

チゲンは個を認めていたが、自分は今まで認めていなかった。

 

チゲンが自身を後ろ向きに語るほど、自分はチゲンが悪いとは思っていなかった。……まあ、口では散々に言っていたが。

 

 

いつからだろう。自分はいつの間にか違う存在になっていた。チゲンとは全く別の。

 

もしかしたら、肉体を違える前からだったか?

自分の意思がどれだけチゲンと乖離していたかを思い返すのは難しいことだ。

 

 

でも、今なら違う存在だと断言できる。

チゲンが満足そうに笑う姿とは裏腹に、自分の胸中はこれ以上ない焦燥感でいっぱいなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

一切の刃毀れをせず、ただ今の状態であり続け、存在を明確にする剣、ヴォーパル。

 

スピリットであったものに振るえば、ボディの肉体を掻き消し、精神をあるべき形に戻す。

 

 

 

──カムイの背を貫こうとしていたそれは、チゲンの体を貫通していた。

 





◯タイトル
ファイアーエムブレムif 共通ルート 5章で流れるムービータイトル。
母を亡くし、悲しみのあまり竜へ姿を変えたカムイを操作する特殊な章。

ここがアクアネキ1番ヒロインしてる


◯肖像権
他人から無断で写真や映像を撮られたり無断で公表されたり利用されたりしないように主張できる考えのこと。(wiki抜粋)

ブラピのボディを造ったとはキーラかダーズなので、双方とチゲンに訴えれると思います。
え? そもそもブラピの姿自体、ピットの無断コピー? 確かに……

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