大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle 作:蘭沙
友達の身体を貫く白刃を見た時、あらゆる感情が心の中を通り過ぎていった。
悲しさも怒りも、それを認識した瞬間だけ湧き上がって、一瞬のうちに消えていった。
「チゲン……?」
「へ……いき……?」
母上の時のように、クリムゾンの時のように、また庇われたんだ。
また、また……自分のところから消えていくの?
「なんで……! なんで!!!」
つくった握り拳が震える。細く睨むその先の光景が歪み、見えるようになったナカツナの姿。
刃の抜けた彼の肉体には、血の流れないぽっかりとした空白があって、やはりボディなのだとどうでもいいことを考える自分がどこかにいた。
夏祭を握り、癒しの術を唱えようとする。焦燥感に苛まれながらも振るった術は正しく行使できたはずなのにチゲンには効かなかった。
「貴様……ッ!!」
「お……前ッ!」
やぶれかぶれに近い形で振り下ろされた双刃と拳。同時に動いたチハクとインクリングの攻撃は剣と腕で防がれた。
「どうして……!! なんで平気な顔してるのッ!! 仲間なんでしょ!!」
「仲間? 離反を表明しておいて仲間もなにもない……!」
2人を弾き飛ばし、辺りに乱発する雷の嵐。
近くにいたカムイは身を挺してチゲンを守っていた。
「うぐぅっ……!」
「守ってもどうせ消える。この剣でボディに宿るスピリットを斬るということがどういうことか知らないらしいな」
「……ッ!?」
「死にはしないさ。元に戻るだけだ。元の世界に……あるべき姿で……」
「ふざけるな……!」
ゆらりと立ち上がったチハク。鋭く細める瞳は怒りと殺意で染まっていた。
「そのあるべき姿を……人に覚えてもらえない姿を……! チゲンがどれだけ逃げたかったか……! 同じように利を共にした貴様は、その気持ちが微塵もわからないとでも言うのか!!!」
「先に離反を表明したのはそちらだと言うのに。先に俺が手を出したら理不尽だと言うか!」
「理不尽とは言わんさ……!! ただ貴様の身をもって知らしめるだけだ!! 私の怒りというものを!!!」
隣に並んだのはインクリング。ある意味引き金を引いたのは自分でもあると、なんとなく感じ取っていたのだ。
戦場の悲惨を知らぬようにと目を隠したカムイの優しさが翳るのは見ていられない。
「私以外を狙ったのは……私への嫌がらせだよね。効果はテキメンだよ? でも、もう私は止まることはない!! 誰かが誰かを庇わなくてもいいように!!」
ギュッと強くチゲンを抱きしめて、2人の背後でカムイはまだ戦えなかった。スピリットがボディから離れていくように虹色の光が上に登り始めた。
「ははは……これで逆戻りか……」
「チゲン……嫌だ……どうしてこんなことに……」
「忘れられるの、嫌だなあ……」
「忘れる、はずなんかない……! 約束するから……!!」
「……でもなあ……約束は……こっちの方がいいや……」
「またね、カムイ……」
「…………! うん……」
上手く返答はできただろうか。
約束はかわせただろうか。
……本当に果たすことはできるのだろうか。
一度ここに来れたのだから、また来れるはず。
知らない世界と未来に望みを託す他ない。
中身が消えて、他に倒していったボディのように、友の身体が形を失っていく。金色の液体となって地面に消えていった。
「チッ……茶番か? 死ぬことはないというのに……」
「…………」
ゆっくり立ち上がったカムイが竜石を手に、己の肉体を変えていく。
殺すとか生きているとか、そんな問題ではない。
友を害したこと。庇われたこと。
軽い気持ちでかわされた約束が、彼にとっては本当に嬉しくて。もっと果たし方はあったはずなのに、そのはじめて果たされた約束を台無しにされたこと。
それらの感情が多すぎて、自分の中から噴火しそうなのだ。
『終わりだ……!』
「……!」
完全に竜の形態で飛びかかるカムイに対して、ナカツナは後ろへ引きながらヴォーパルの剣を光らせる。
存在を明確にし、元に戻す剣で人の姿へと戻すも、防ぎきれずに受けたのは竜の鉤爪。
「(まさか、戻された瞬間からすぐに変化をしているのか!?)」
片っ端から変化をすることで、元に戻ろうがすぐに殴り続ける力技。
剣の力で対処を続けるのは困難だと感じ、身体全体からの放電をはじめて近づかせない方法を取ることに。
「続けろ、カムイ!」
『……ッ! ああ!』
しかし、チハクが指を動かし、カムイの周りに碁石を生み出すことで簡易的なバリアを作る。
攻撃に繰り出す首や手足は防げなくても確実にダメージを減らしている。
「くっ……!」
「なにかを
大きく後ろへ下がったナカツナの足元には黄色で塗られた地面。インクに足を取られ、滑るナカツナ。眼前にバズーカの弾が迫り、横一閃に斬り落とし、ぐるりと一回転して着地する。
「同士討ちだったとしても、一方的に背中を刺して茶番とか言う奴に好感は持てねえよな」
「うん。彼……チハクと協力して、ナカツナ! おまえを倒す!!」
エレブ大陸に迷い込んでいたロイらが戦闘の意思を表明する。あそこでナカツナを討てていれば、という考えもあっただろう。
「さて……私達はどうしましょう?」
「ウホッ!? 助けないの!?」
「いえ、ですがあのピットよりも黙らせたブラピに近い彼が敵であったことには変わりありませんよ」
「時間の無駄だ、敵対している奴のみ倒せばいい」
「……こちらに助太刀すると言うならば、私が知ることを全て話してもいいぞ」
聞こえていたのか、チハクが頭だけをこっちに向けて言った。
「完全に手を貸さない理由がなくなりましたね」
「……ならば、チハク、貴様だけは倒さねばならなくなったな」
ヴォーパルの剣先をまっすぐにチハクへと向けた。その一撃でも喰らえばどうなるかを知った上でも彼は冷静さと、敵へ向ける冷ややかな視線を失わない。
「どうやら既に私達の打っていた布石は思わぬ展開へ動いていたようだ……誰が新手を打った? ルネかキクかダブルか……プレシアは……ないか」
「……だったらなんだ」
「スマッシュブラザーズと敵対することが、その新手を打った者の意思……だからこそ先程私達にボディの加勢が入った……恐らくお前の元にも来るだろうよ……」
カムイが到着するまで、ブラックピットをはじめとしたファイター達と2人で戦っていた際、呼んでもないのにきたボディ達。それの不可解さにようやく結論づけられたのだ。
「だが、私達が起こしていたのは保険のための事件。だからこそ散らして悪目立ちしないようにしていたというのにここまで派手な行動を起こす以上、もはや利害関係は成立していない。ただ単に……利用されているだけだ。」
「……ッ! 俺の主はあの方だけ……!
ナカツナの様子がブレていく。存在を曖昧にする力は目の前で発動しても効果が薄い。だが、足や手の動きを認識させづらくさせて戦闘を優位に動かせる程度の効果はある。
それに踊るような動きの読みづらさを加えれば、見極めるのは容易ではない。
「うっ……!?」
「アルス! あの魔法を封じる力は……!」
「狙いが定まらない……!」
マホトーンに頼ろうにも、ナカツナを狙えなければ意味がない。どうにか見極めて狙う必要があった。
「あの剣さえ奪えれば……無策に動けん……!」
特にチハクに至っては、ヴォーパルが掠りでもすればチゲンと同じ道を行く。小石のバリアを貼っているがこれだけで安心はできない。
「遅くても見えなければ決定打にはならないな……どうにか……ぐっ!?」
「シャドウ!? がっ!?」
シャドウが、クロムが、謎の攻撃に倒れていく。人形に歪む空間。だが、見えない姿。
「まさかボディか! もう来てたなんて……」
「しかもフェレにいた時と同じようにまた存在が……!」
見えないボディ達。ナカツナと違い、完全にボディが見えなくなっている。
これで全方位からいつくるかわからない不意打ちに怯えなくてはならない。
「説得材料のつもりで言ったことが裏目に出たな……」
「せ、説得だったの……!?」
「……? どう聞いても説得だろう赤、もう味方は味方じゃないと……」
「あ、赤……服の色……」
加入したと言いつつ、仲間意識は薄いチハク。防戦に回るしかないが、その目に諦めは一切ない。虎視眈々と機会を伺っている。
「チハク……」
「……勝利の策は最後まで冷静さを失わないこと……勝ち気はいいが焦りは良くない。
「安心しろ、思い知らせてやるさ。敗者にこそ相応しい末路というものを」
◯タイトル
FEif にて暗夜王族と戦闘に入る際のメインBGM。
しかし、エリーゼ戦では流れない。そもそもエリーゼと戦闘するのが分岐の6章しかないし……
そのため、名前に反して白夜ルートで流れる曲。
私も勘違いしてました。あと黒の同胞と覚えてました。
ぐっだぐだじゃねーか、3DSで一番やったゲーム何だてめえ。
◯チゲン
……はい。離脱となります。消滅ではないため、再び会うことはできる……かもしれません。
寂しがりなだけで悪いことには徹底的に向いてなかったんです。彼は。
黒がメインということで、黒星やら不運やらそういう役回りになってしまいました。
物語的な役割としては、チハクと共に二人一役であり、一人二役でもあります。 実は各々の敵達にはそういった役割が振られていました。(もう言う機会ないと思うので言いますが、ルイマンの章に出てきたリールは脇役です。そもそも巻き込まれた側で無関係の存在ですから)
ちなみに実は設定があった特撮リングの二つ名は「黒星サポーター」。
モチーフは囲碁の精。
名前を言うと姿を消す、というところまではモチーフ通りですが、その後彼を忘れるというのは独自設定。寝返るとはいえ、一時的に敵側にいる理由が欲しかったんです。
◯敗者にこそ相応しい末路
某ハイパー無慈悲を思い出した人は作者と友達。
言い回しを変えてるだけで完全に意識してます。