大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle 作:蘭沙
「ああクッソ! こんなことしてる場合じゃねえのに!!」
苛立ちのあまり、身体の動きが雑になっていく。慌てても仕方がないというのに、感情は制御しきれていない。
「ケンさんはキクを……」
「助ける! 敵だったからって放っておけるか!」
ダブルに攫われたキクを助けるため、仲間と逸れたケンとルキナはたった2人で走り回っていた。
例え敵だったとしても、やってきたことが友や仲間に危害を加えるような許されざることでも、それが理由で自分に好意を抱いてくれた少女を見捨てる真似は出来なかったのだ。
しかし、ステージから落ち、逸れた2人は1番窮地に陥りやすい2人でもある。
容易に足止めをくらい、あっという間に囲まれる。2人とも長く戦ってきた戦士だからこそ、今までやり過ごすことができていた。
「しかしどこに連れてかれたのか……!」
「オリャアッ!! わからないがダブルとやらの言ったことが事実ならマスターハンドなりクレイジーハンドなりが知ってそうだ!」
「……! そういえばどこかにあるマスターハンドの身体と、ジョーカーに宿るマスターハンドの精神を引き合わせるという話でした、ねッ!」
鳩尾の正拳突き、裏剣で防いで押し退けバランスを崩したところに鉄の槍で地面に縫い止める。
ダブルの望む世界の創造。
それにスマッシュブラザーズの居場所があるとは思えない。なんとしてでも止めなければ。
キクの救出とか、その程度の話に収まる事態ではないのだ。
そのためにボディ達は退けて進む。過敏になった感覚器官が正面から飛んでくるなにかの物体を感じ取る。
「……っ!?」
2人が驚き、左右へ跳ぶ。
吹き飛んできたのは重量のあるクッパのフィギュア……否、ボディのフィギュアだ。地面に放られたそれが形をなくしていく様に、本人ではないことはわかる。
ただ、今まで、物理的に大きなダメージを与えることしか対処法はなかったというのに。
「ケンに……ルキナ、2人か!?」
「うおっ!? 探してたぜジョーカー!!」
その下手人は、プレシアを他のメンバーに任せ、マスターハンドの行方を探すために怪しい輝きを目指すファイター達だった。
ルカリオ、リュウ、リュカ、モルガナ。そして、切り札となるジョーカー。
「リュウ! おまえもピンピンしてるな、さっすがだぜ! ちょっと冷静になる〜」
「そのテンションはなんだ……」
「まったくだぜ……」
「なにかあったんですかね……?」
『恐らく、な』
「なにか……そうです! ジョーカー! 一刻も早くマスターハンドのところに行かなければ!」
彼らは足を動かしながら、互いの情報を交換する。
「なるほどな、こいつの中のマスターハンドを完全な状態に戻せば事態は解決するかもってとこか……」
「うおっ!? 猫が喋った!?」
「猫じゃねーよ!! ってか今更かよ!?」
「いつの間にか四足歩行に退化しちまって……」
「退化でもねーし!!」
よその人間にとっては、怪盗姿か、バスの姿が馴染み深いらしい。モルガナを軽くいじって平静を取り戻したケンが確かに前を見つめる。
マスターハンドの器の場所に、ダブルはいるだろう。そして恐らくキクも同様に。そこが最終決戦の舞台になるはずだ。
「そういえば猫バスにはなれないのか?」
「鳩バスみたいに言うんじゃねーよ!! できてたらとっくにやってる!」
「……相変わらずだな」
水分をたっぷりと吸って、重くなった服と身体を起こす。耳の中の水を抜きながら、はっと辺りを見回した。
「みんな無事か!?」
短い返答、形になっていない言葉。それぞれの声をだす。
ピカチュウ、ソード、ブロウ、ルフレ、リヒター、ヨッシー、ホムラにヒカリ、あとアシュリー。
ボールに戻していたゼニガメ、フシギソウ、リザードンを含めて全員いる。一体どれほど気絶していたのか。
ガラル地方のワイルドエリアにて、ダブルを取り逃し、ボディが茶々を入れたせいで現地のポケモン達とあわや戦闘、になりかけたところを新たに仲間になった(ソードに懐いた)ラプラスのハイドロポンプで無理やり送り出されたのだ。
「あの状況でもかなり手加減はしてくれたみたいだね……水量はどうにもならなかったけど……」
「あ、乾かします」
「あ、ありがとう」
「ピカカカッ……」
水分をたっぷり含んで重くなったローブをホムラに預ける。身を震わせて水を飛ばし、服を絞って水を追い出す。
「アイツを野放しにするのはハチャメチャに危険だ。この世界に残ってる奴ら相手に不意打ちなんてされちゃたまんねえよ!」
「結局、完全に演技されたら見分けるの無理だったしな……」
アイツとはダブルのこと。
しかし、彼が願いを変えて、世界の破壊と創造を望むようになったことを彼らは知らない。
ゆえに彼が戦闘中に変化したダブルの仲間も含めての脅威だと思っている。実際は決裂したようなものなのだが。
「うん。ここは慎重に……「キャー!!」……今のは……」
どうやらここでも一波乱が起きているようだ。遠くにボディが見える。スマッシュブラザーズかもしくはただの関係者か。どちらにせよ危険な状況らしい。
「──ッ!!」
「エッ! ブロウ!?」
動こうとしていた周りを置いて、真っ先に駆け出すブロウ。知古だったからかはたまた偶然か。驚愕に目を開いた顔をソードは目撃していた。
「(あの……声……!!)」
本当に久しぶりに聴いた声。間違えるはずもない。どうしてこんなところにいる。
「あうっ……!?」
自分の体躯が木に叩きつけられ、肺の中の酸素が口から飛び出す。
少女はある人を探していた。
そのある人の近辺を探っていたところ、スマッシュブラザーズの存在を知り、こっそりと侵入。
しかし、その際にこの事件に巻き込まれ、プププランドに飛ばされていた。
ルネを追うカービィ達が大乱闘の世界へ帰還するのを追って、彼女もこの世界にやってきたのだ。
「……うっ……」
『…………』
しかし戦う力のない彼女にも容赦のないこの事件。頭を打った衝撃で意識が途絶える。朦朧とし暗くなっていく視界の中、赤を身に纏う探していた後ろ姿が守るように立ち塞がった。
「せん……せい……」
「1人で突貫して勝手に危なくなって……変わんねえな……」
完全に閉じていった目を瞬きせずに見つめたブロウ。本当に手のかかる助手だ。
「……父親を終わらせた男なんざ、探す価値もねえだろうに」
親の仇に時間を割くな。憎めないならいっそ自分ごと忘れろ。俺の存在もなかったように。
「……いくぞ」
短く言い残して、瞬間移動の如く速く、真っ直ぐに腹部を殴りつけた。ゼルダの、人型のボディとして、懐は致命的な弱点。大きくよろめいたボディの顎に回し蹴りをぶつける。
ぐらりと倒れかけた相手を裏拳で弾き、接近していた他のボディに叩きつける。
投げたボディを隠れ蓑に接近していたブロウは、他のボディを掴んでスープレックス。丸いカービィのボディは地面を跳ねて、ドロップキックが突き刺さった。溶けていくボディ達。
「ブロー!! どったの? 突然走り出して……」
「……別に。誰か襲われてんなら急いだ方がいいだろ」
「ギャー! 気絶ナウ! どうしよどうしよ!?」
「はあ……大きい怪我じゃないし、横にしときゃいつん間にか起きてるだろ」
遅れて駆けつけたソードは倒れていた探偵服の少女、シーラ・ベルを見つけて取り乱す。仕方なしに怪我の容態を確認する手が震えていたのを誰も知らない。
「そう
「あん?」
「やたらと
「…………いや、」
「他人だ。ただの」
まだ、真逆の希望を選べるほど、整理はついていなかった。
「……そう」
「戻って……ダブルを追うぞ」
せめて、シーラを茂みにでも隠さねば。
抱き抱えようとして、この手で触れなかった。
何かを察したのか、ソードが隠した。
隠すぐらいなら連れていって側で守るか、どこかいい場所まで連れていく方がいいという考えに、そんな時間はないと言い訳しながら。
「…………」
離れていく際、一度だけ少女の隠れた場所を振り向いた。
親の仇で、探偵としての師で、逃げた臆病ものを追うことはないというのに。
「…………お前だけでも、幸せな人生を」
ソードと、ガンナと、多くのスマッシュブラザーズの仲間にスレチガ諸島でであった人々。
俺は、俺なりに満足した人生だから。
俺に心を割くよりも、自分の幸福に捧げてくれ。
◯タイトル
すれちがい迷宮ラスボス、デーモンキングが正気であったうちに日誌に残した言葉。届くかもわからない娘への言葉。
幸せにとかじゃなくて幸せな人生をというのがちょっと心に来ます。
◯ブロウとすれちがい迷宮
pixiv百科事典のシーラ・ベルのネタバレ項目を参照。
すれちがい伝説を3人で攻略したのち、すれちがい迷宮の物語でシーラと出会い、その後逃げるようにすれちがいフィッシングへ、というのが彼の遍歴。
ガーデニングで余生を謳歌しているソードや、ゾンビや宇宙海賊相手にドンパチやってるガンナとは重さが違うのです。
◯ソードの言葉
ルビ機能をつけて何言ってんのかわかりやすくしました。
その分手間はかかるけど。
◯6章のあらすじ
封鎖されていたガラル地方、ワイルドエリアで目覚めたレッド達ファイター。現地のポケモンと戦ったり助けてもらったりして合流を進める中、ファイターの姿と成って紛れていたダブルの奇襲にあい、合流と帰還が進まなくなる。
誰かと状態を共有するダブルの特性に苦しみながらも、彼が敵集団とは違う目的でルフレの命を狙っていることを知る。
そして一時的な進化を行うバンダナのおかげもあり、ダブルを退ける。
しかし、ボディに襲われていた野生のポケモンとの喧騒にあい、現地でであったレッドの新たなる仲間の助けの元、なんとかレッド達は大乱闘の世界に戻るのであった。