大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle   作:蘭沙

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43話 自分は確かに、ここにいるのだ、と。

 

──自然軍本部。

あの世界で大乱闘が開催されている時期は、停戦されており、自然軍がパルテナ軍を攻めることももちろんその逆も禁じられている。

人間達やその他陣営のカモフラージュのため、小競り合いは双方意図的に起こしているものの、本格的な衝突は発生させていない。

 

自然軍がその取り決めを守っているのは意外に思われるかもしれないが、自然軍幹部となったブラックピットがスマッシュブラザーズに加入している以上、無視する選択肢はないのだ。

そしてナチュレ自身、己の神としての領域を土足で踏み荒らされる屈辱を知っている。パルテナ軍が空席にしている隙を見計らって攻め入るような無粋な真似はしていない。

 

 

「むう……」

 

「いかがしました? ブラピくんのこと?」

 

 

うんうんと頭を唸らせる主人に、自然軍幹部、電光のエレカがどうかしたのかと問いかける。

その悩みの種は最近加入した配下のことなのかと思ったが……

 

 

「いや、先の侵入者のことじゃ」

 

「……ああ、そのことでしたか」

 

 

そのことを伝えると、エレカはわかりやすく不機嫌になった。

誰もその侵入者に気がつかなかった。ナチュレの前に姿をあらわし、伝えるだけ伝えた後にようやく主人に接触されたと気づいたのだ。

 

 

「あやつは何者なのじゃ…… もはや思考や視点がどんな生物にも似ておらぬ。敢えて言えば近いのは人間だが、人間にしては視点が上過ぎる。神にしては思考が遠過ぎる。かといって神よりも視点が高く、人間の思考ともかけ離れている」

 

 

侵入者が言った内容もそうだが、彼の正体も謎だらけなのだ。

自然軍の誰にも気づかれることなく、ナチュレの元まで辿り着き、これだけを言い残した。

 

 

「生きるために何かを犠牲にするのは、残酷で当然のことなのだろう」

 

「ならそこに精神の安定は含まれる? 自分らしく生きれるように何かを犠牲してもいいのか、仮にそれをしなくたって死にやしないけど、こうしないと安心して生きることができない」

 

「そんな犠牲も()()()()()の犠牲に入るのか君の意見を聞きたいんだ」

 

 

ただこれだけはわかった。

あの男は答えなんて求めていない。これを言いたいがため、ただそれだけのためにここまできたのだ。

 

 

「(気をつけよ、あやつはとびきり危険だ。強さではない。全知というにはオーバーだが、底知れなさはハデスに匹敵するやもしれぬ)」

 

 

届かぬことを知りつつも、心の中で忠告する。相応の強さがあるかもわからないというのに、自然王に不気味さを与えるあの存在はいったい何者なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パルテナの情報をもとに手がかりを探すファイター達。密猟者についての情報が期待はずれに終わった以上、頼みの綱は二つの謎の影についての情報しかない。

 

 

「結局、2つの影はどこで見たって?」

 

「モガの森という場所の孤島ですね」

 

「……おい、孤島ってことは」

 

「距離はそこまで空いていませんが、海には囲まれていますね」

 

「どうやっていくんだよッ!!」

 

 

この女神、頼れそうに見えて頼れない。

海を隔てた一つの島にどうやって行けというのだ。あんな生物がうようよいるような世界だとわかった以上、小舟を製作して渡るのは現実的ではない。壊されて海に放り出されるのが目に見えている。天使はエラ呼吸なんてできないのだ。

 

 

「大丈夫ですよ、ちょっとジャンプすればあっという間に移動できますから」

 

「テレビじゃねえぞ!」

 

「「「????」」」

 

 

旅番組のように一瞬で移動なんてできやしない。そもそもあれだって裏では車か何かで移動してるし。しかし悲しいかな、そのネタが通じるのは2人以外にいなかった。

 

 

「まあまあ、騙されたと思って跳んでみてください。せーのでお願いします」

 

「……」

 

「いきますよ、せーのっ」

 

 

ファイター達がジャンプすると、まばたきの一瞬で周りの風景が変化した。相変わらず自然の中ではあるが、先程の荒れた小道から明らかに違う場所へ移り変わっていた。

崖下から海の見える文字通りの孤島。流れ着くような無人島ではない。辺りには砂浜のような場所はないが、人の往来がある場所なのだから、船をつけるための砂浜か港はどこかにあるはずだ。

 

 

「……」

 

「ブーラーピ? あっちこっちにゲートを開いているのですから転移ぐらい難しくないですよ」

 

「……ソウデスネ」

 

「あ、それとガノンドロフは跳ばなかったので置いてけぼりにしています♪」

 

「はよ連れて来い!!」

 

 

確かにあの極悪非道とかの四字熟語が似合いそうな奴がパルテナの茶番に乗ってくるとは思わなかったが、置いてけぼりにするほどのものだったのか。遅れてやってきたガノンドロフは大層御立腹だった。

全員が揃い、パルテナの先導で歩き始めたところで、クロムがずっと気になっていたことを聞く。

 

 

「ここにその、謎の影が現れるんだろう? もっと詳しい情報はないのか?」

 

「そうですね〜 まずこの話が噂程度に収まっている理由として、影が原因での被害がほとんどないということです」

 

「ウホッ、怪我してないってこと?」

 

「影に襲われたとかはないってことね」

 

 

影についての調査だとか、討伐だとかの話が出ていないのは影が危険とは言えないからだ。

数少ない被害も、突然飛び出した結果転んで足を捻った、手をついた結果手首を骨折したという直接の咎がない状況なのだ。気のせいと言い切れるレベルの噂に対して調査に乗り出すほど、この世界のお上も暇ではないらしい。

 

 

「悪意はないってことかな、敵ではなさそう!」

 

「そうとは言い切れませんよ。下手に事を荒立てないようにしているだけかもしれません」

 

 

とはいえ、味方だと言い切れるかと言えばそうでもない。この世界にとっての味方が自分達の味方かどうかはわかっていない。

少し歩くと、岩場と水辺の領域にたどり着く。空洞のある、山のような岩場がとても印象的だ。

 

 

「そうなるとわざわざ顔を出している理由が謎だな。オレ達は誘われているかもしれねえ」

 

「ふっ、ならば罠ごと打ち砕くのみよ」

 

 

でも他に情報もない。

行くしか道がないのなら、ガノンドロフほど強気で行ったほうがいいのかもしれない。

 

 

「そうだな、俺も賛成だ。敵ならば手加減する理由もない」

 

「ウホッ、やっつけた後で聞けばいいからね!」

 

「ここの男性陣は脳筋か能天気しかいないのかしら」

 

「おい、待て、オレはどっちでもないぞ」

 

「あなたは脳筋でしょう? 当たらなければどうということはないとか言っちゃうあたり」

 

「…………」

 

 

反論できないブラックピットがそっぽを向く。もう対応するのが疲れたのか図星を突かれて恥ずかしいのか、顔を見せない角度に。

だからこそ気づいた。猛スピードでこちらに駆けてくる何かに。

 

 

「くるぞッ……!?」

 

「え、なに!?」

 

 

注意を促そうと声を上げたその時、すでに何かは通り過ぎていた。反応の遅れたブラックピット以外の者は何が起こったかもわからないほど。

あまりの速度に水飛沫が飛び、思わず顔を覆う。飛沫のおかげでその影が向かっている方向こそわかったものの、それ以上はまったくわからない。

 

 

「いそぐぞ! 奴らが黒い影だ!」

 

「まさかこれほど速いとは……!」

 

「どおりで影だなんて曖昧な表現だと……!!」

 

「でも、一つじゃなかった?」

 

「近くで見れたからわかった! もう一つは上に乗ってる!」

 

 

あまりにも速い、速過ぎる。

パルテナも珍しく動揺の色を隠せない。動き出しが早く、他よりは詳細がわかったブラックピットですら、児戯にもならないほどのスピードの差がある。足が遅いガノンドロフやドンキーコングを置いていったとしても追いつけないほどの差がある。そこからの動きは速かった。

 

 

「軽量化! ブラピ、行きなさい!」

 

「結局こういう役回りか!!」

 

 

1番可能性があるブラックピットに軽量化の奇跡を与えて指示を出す。なんだろう、1番働いている気がする。

 

 

「(くそ、後で労災認定させてやる! つか、そんなことより完全に手抜かれてる!)」

 

 

抗議は後にするとして、追っている影を見る。先程よりも遅くなっていた。奴らが本気で走れば簡単に振り切れるはずなのに、誘導されているようにこちらに合わせられていた。

水辺を通っているために、走りにくいのも追いつけない要因だろう。

 

 

「(いっそのこと、攻撃して…… ダメだ、弾の速度が明らかに足りない! 仕方ない、女神に支援を……!)って、は?」

 

 

逆に相手のスピードを落とそうかと、月桂樹を通じてパルテナに奇跡を求めようとした時だった。ブラックピットの視界が突然灰色だらけになる。

逃亡者に乗っていた、もう一つの影がこちらへ飛び込んできたのだと気づいた時には、既に仰け反って腰から転んでいた。

 

 

「なんだお前は!」

 

 

怒りのままにそれを顔から引っぺがすと、抵抗もなくあっさり離れる。それはかなり見覚えのある存在だった。

 

 

「…………」

 

 

まんまるな体、突起のような手と足。

まるでカービィではないか。

違うとすれば、鮮やかなピンク色ではなく、くすんだ灰色のような体色と、表現の変わらない真顔ぐらいだ。

 

 

「急に何を……」

 

 

そして、こちらに戻ってきたもう一つの影。彼も見覚えのある存在だった。

走った勢いのままに後ろへ逆立つ体毛、余計な肉のないスリムな体と手足。

黒を基調とし、メッシュのごとく所々赤色が混じる彼は、色さえ除けばソニックそのものだ。

 

 

「カービィにソニック?」

 

「……僕達を見てその名前が出るということは、君たちは大乱闘の関係者か」

 

 

「彼が飛び出したのもそれが影響か」と語る彼はソニックではない。それはわかった。

だがクロムが、クラウドに似た人物に襲われたと言っていた。信用してもよいのだろうか?

 

 

「……なるほど、二つの影とはあなた達のことでしたか」

 

 

にこりと笑うパルテナ。

この2人は自分達に何をさせたかったのだろうか。牛歩のごとく進行しない事態。

敵にしろ、味方にしろ、何かを知っているはず。真実を明らかにする必要がありそうだ。

 





○タイトル
キングダムハーツII FMでの追加曲、The Other Promiseに関して、作曲者の下村陽子氏が25th Anniversary Live -THANKS!- セルフライナーノーツで残したコメント。多分。だって、〜よりとしか書いてないから……
全文は、
どうかどうか、ただ、その存在を感じてほしい。自分は確かに、ここにいるのだ、と。

えっ、なんで曲名じゃないのだって?
シャドウ以外約束要素ないし、曲名はいずれ別のタイトルに使えるかなと……


○孤島
MH3、MH3Gの拠点である、モガの村近くのフィールド。
後の作品にも登場するが、水中戦オミットの結果、地味に地形が変化している。


○シャドーカービィ
星のカービィ 鏡の大迷宮にて初登場。ダークマインドの影響により悪い心を映すようになった鏡、ディメンションミラーによって実体化した鏡の国の住民。メタナイトを映して生まれたダークメタナイトと違い、カービィに邪心がほとんど存在しないため、ちょっとしたイタズラっ子程度の性格。
エンディングにて鏡の国のカービィとして戦うと決めているのだが、トリプルデラックスにてタランザにディメンションミラーを持ち逃げされてたり、ファイターズで大胆なイメチェンと共にめちゃむずプレイヤーの心を折りにきたりと地味に動向が気になる子。スタアラで健在のようなのでタランザに討たれたわけではないようだが。
ちなみにザンなんとかさんにはずんぐりグレーなどと呼ばれている。
能力としてはカービィと同じくコピー能力が使えるので、鏡に登場しないコピーも普通に使わせます。ただしカービィより無口で無表情。
余談だが、デデデがディメンションミラーによって映し出されたブラックデデデ通称ブラデはブラピをパロっているそうで。


○シャドウ・ザ・ヘッジホッグ
ソニックアドベンチャー2より初登場。
プロフェッサージェラルドによって作り出された究極生命体。
姿形がソニックと似ているため、ソニックには偽物だと呼ばれていたが、彼からはソニックの方が偽物と返された。ちなみにソニックそっくりの理由は明言されず。なんでじゃ。
ソニックと同様のスピードを出せるが、彼は足を地面につけることなくアイススケートのように走行する。他にはカオスエメラルドの力を利用するのが目立つ。スマブラのスローになるやつもこれ。
無口でクール。ちなみにブラピとシャドーカービィと違って、声優はソニックとは別の人。

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