大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle 作:蘭沙
「…ッ! ボルガノンッ!!」
強力な炎の魔法は茂みにぶち当たる。少なくはない血を流し、鬱蒼とした森の中でルフレは肩で息をしている。
突然だった。
邪竜ギムレーを倒した後も、全てが平和になるわけではない。山賊や人攫いの類はなくなりやしないし、ごく稀にギムレー教徒の残党がことを企てていることもある。
今回もそんな怪しい情報を得て、兵士とともに悪人へ奇襲を仕掛けたのだが…
「くう…!」
兵士どころか、盗賊にも斬りかかる謎の存在とルフレは戦っていた。斬り口からして巨大な剣の使い手。味方も敵もどんどん倒れ、今生きているのは謎の襲撃者とルフレしかいない。
この人数では策のたてようがない。体を抉ると言ってもいいほどの剣を扱う力も見事だが、厄介なのはそこではない。
先程から
未来を見通す力─ 時を巻き戻す力─
大乱闘の仲間たちを彷彿とさせるほどに敵の戦いは完璧なのだ。極論だが、当たらない限り負けやしないのだから。
ここまでされれば、ルフレでなくともこの襲撃者があの世界に関わっていることはわかる。なんとか捕まえて、報告しなければならない。だが、その前に勝てるのか?
「(ならば… 広範囲の攻撃! 賭けにでる!)」
トロンの魔導書とサンダーソードを同時に使って周囲の広範囲で攻撃する。ルフレには珍しく、武の悪い賭けだった。
「トロン!!」
痺れるほどの電撃が周囲を焼き尽くす。山火事になるかもしれないという心配をしている余裕はなかった。跳び上がって回避した襲撃者。そして気づいた。今まで茂みや木々に隠れて見えなかった。体こそ長いローブで隠してはいるが、その巨大な武器は隠せない。そんな、ならこの敵は…!
「───」
何かを呼んだ。だが動揺していたルフレにはその言葉を捉えられない。武器の一部分が赤く、丸く光を放ち、ルフレは凄まじい力に押し潰された。
「(まさか… どうして…!)」
何も理解できない。
思考の檻に閉ざされて、光が届かず消え失せた。
巨大な湖に落ち葉が浮く。まるで小舟のように漂っているが、じきに沈んでしまうだろう。大乱闘も何もない平和な日常が、まるでその落ち葉のように感じられた。
「釣りでもしたら良さそうな池だな」
独り言のような言葉。それを拾うものなどいないだろう。なんせ、ここには男1人しかいないのだ。それでも、返事が返ってくると知っていた。
『全く、おぬしは呑気よのう…』
男、ベレトの頭の中で声がする。その姿は彼にしか見えず、声も彼にしか聞こえない。それでも少女はここにいる。少女、ソティスを認識し始めたのはいつ頃だったか。そうだ、生徒たちとはじめて会ったあたりだった。
「呑気でいられればそれでいい。何も起きなければその方がいい」
『なんじゃ! ようは奴の言うことを信用しとらんということか? ならこの時間になんの意味があるのじゃ!』
「起きるかもしれないから動いているんだ。それに前払いの報酬もある。少なくともその奴は何か起きると確信しているんだ。そうでなければここまで凝らない。」
信憑性そのものを疑うソティスに対して、ベレトはあくまで冷静だ。真実でも嘘でもいいように動いている。
その様子に、ソティスは苛立ちを覚える。ああもさらりと返されては自分が間違っているようではないか。そのために別口から説得することにした。
『その報酬が怪しいのじゃ! あんなもの彼奴はどこから持ってきたのじゃ! もし、おぬしを寄せ付けないための陽動であったらどうする!?』
「調べてみて害はなかっただろう?」
報酬… ジョーカーと同じようにベレトは頻繁に帰るし、何もなければこの休暇だってガルグ・マクに帰っていただろう。
残る決断をしたのは不思議な邂逅がきっかけであった。フードで顔の見えない謎の男。男はベレトに
確かに多くのファイターが故郷に一時帰宅をすれば、この世界の戦力は激減する。襲いかかったりするならば好機だろう。故にベレトは異変が起きていないか、あちこち見回っているのだ。
「それに全員がいなくなるわけじゃない。子供たちが予定を立てているのを聞いた。ここが故郷である者もいる。ここに残る者だっている。万が一自分がいない場所で何かあっても対処できる」
平静を保っていたベレトの表情が微妙に変化する。薄らと上がった口角。そんな変化にソティスはこれ以上何か言うのをやめた。何を言っても無粋な気がした。
ピコピコと電子音を鳴らしながら、プレイヤーの動きに集中する。汗をかくほど熱中するファルコ。熱くなりすぎて、右の操作キャラに敵キャラが近づいているのに気づかなかった。
「あぁ!? クソっ!!」
「あー! モバイルポータルに当たるなよ!」
ライフがゼロになって終了してしまったゲームを、怒りのままに叩きつけてしまう。分厚い板のような機械は床と接触して大音量。慌てて持ち主のソラが拾うが、画面にはヒビの1つも入っていない。海に潜ったり、雪崩れに巻き込まれたりしたが、それでも壊れなかったんだからこの程度ではなんともない。
「えー、なんだよこのスコア。オレだってもっといけるぞ」
「ファルコはゲーム苦手だからな」
「うるせえ! そいつの反応が悪いんだよ!」
大乱闘の世界に停めていたグレートフォックス船内では、フォックス、ファルコ、ソラがクラシックキングダムで競っていた。クラシックキングダムとは、ソラが持っていたモバイルポータルにダウンロードされた、やり込み系のミニゲームである。経験を活かしたソラは2番、フォックスは真面目な性格が活きて1番だ。ファルコは短気な性格が裏目に出た。
「にしても、ここよくわかんないものばかりだけどなんかカッコいいな!」
「変なところ触るなよ?」
ソラに機械系のロマンは通じるが、知識は通じない。軽く説明してやったら、大変感心したご様子でコクリコクリと何回も頷かれた。人、それをうたた寝と言う。
「ソラ、今度オレたち一度帰るから。しばらくここには来れねえぞ」
「…っ」
「ファルコ!!」
「いいよいいよ! オレのことは気にしないで!」
失言に動揺したソラを見て、フォックスが咄嗟に嗜める。でも、本人は失言のようには扱っていないようで、ファルコはソラの様子を監視しているようにも見える。
ファルコ的には、もっと喚いたり、行動に移したりすればいいと発破をかけたつもりだったのだ。
この世界に倒れていた、誰も知らない少年。
彼は、大切な人を助けるために自身が消えることを覚悟で戦っていたら、その大切な人を故郷に送り届けたのち、気づいたらここにいたと。
前例のない存在に、少しの間スマッシュブラザーズはてんやわんやしていた。そして、しばらくしてマスターハンドが調査の結果を報告する。
『私は君の故郷がどこにあるのか知らない。もう少し探せばわかるかもしれないが、少なくとも今調べた中ではわからなかった。』
『そして仮にわかったとしても… 力の
『君の存在がどこかの世界にあるのは感じるから、最適解はそこで帰り方を探すことだろうか。しかし、そこで君がどうなっているか恐らく君自身も知らないだろう』
『それがはっきりするまで君はここに残った方がいい』
故にソラは自分の故郷に帰れない。自分の問題は自分で解決するしかなくて、今は行動に移すこともできない。
自分がしたことに後悔はない。どうしても大切な人を助けたかった。だから消えるかもとわかっていても前に進んだ。怖くはなかったのだ。助けるという目的があったから。しかし、その目的を達成したから。今は怖い。自分がどうなっているのかわからない。この場所は楽しい夢に過ぎないのではないかと。
そういった恐怖を隠しながら、交遊を続けていく中、ファルコは珍しく自分から声をかけたのだ。
「(そんな都合よくいってる訳がねえ… 絶対騙されている…)」
程度の具合はともかく、マスターハンドに懐疑心を持つ者達の1人であるファルコは予測していた。
ソラの故郷を知らないというのは嘘だ。いくら迷い込んだ存在でも、なんの実績もなければ、よほどの奇想天外な戦いをするわけでもない者をスマッシュブラザーズには迎えまい。ソラの実績を知っているからこそ、マスターハンドは加入させたのだ。実績を知っているなら故郷くらい知っているはず。
そもそも、本当に力の代償が原因でソラは消えることになったのか? 根拠はないが、裏で手を引いていても驚かない。それが事実なら、この世界に迷い込んだのではなく、意図的に迷い込ませたことが確定する。
故郷の世界へ無理やり戻したら本当に消えるかもしれない。それが事実だったとしても、帰せないとは一言も言っていない。ソラの仲間が心配をして探していることは想像がつくのに、禁忌を理由にできないだと。
ソラがどこかの世界にいるならば、一刻も早くそこへ辿り着かせて、帰るための努力をさせるべきだ。
─ファルコは、マスターハンドが、ソラをこの世界に留めているために調査や身の安全を理由にしているのではないかと考えていたのだ。
根拠がない言いがかりと言われたらそれまでだ。その考えにたどり着いた瞬間、ファルコは滅多に感じたことのない、憐れみという感情を覚えた。
神の作品をよりよく見せるための犠牲者。少なくとも今回が終わるまでは
「あ! オレがフォックス達の世界に行くのはどうだ?」
「ダメだ。基本的にこの世界を通じて別の世界に行くのは認められていないんだ」
「ちぇ〜…」
どうか助けてやってほしい。
スマッシュブラザーズとの交流が、少しでも彼の心を救うように。
どこかの空間。
上下左右も重力もおぼつかない場所で、白い巨大な物体が通り過ぎる。
それはこの世界の支配人、マスターハンドだった。傷だらけで所々焼けたような焦げ跡が残っている。
『(コイツらは… 何者なんだ…?)』
いきなり人が来れないような場所へ入り込まれたと思ったら、創造の化身かどうかを確認され、肯定したらいきなり襲い掛かられたのだ。
もちろんただの不届き者ならば、一つ指を鳴らせば無へと還る。破壊の正反対の創り出す力を持つマスターハンドでも、相手がその程度ならば可能だった。
しかし、どうだろうか。
力は何かに吸収されるかのように掻き消えてしまったのだ。慌てずにビームを撃ってみても、まるで幻を狙っているかのように効果がなかった。そこを不意打ちされ、他の仲間に攻撃されたのだ。
『(なんなんだ一体…!)』
そうして揃った不届き者達。合計で7人のようだが、意識を集中させて見ても何かぼんやりとして正体が定まらない。まるで中と外がチグハグで合っていないような。
『くう…!』
真っ黒な世界に突然雷が落ちる。その雷はなんとか避けるも、もはや満身創痍だった。
キーラとダーズの事件から、復興と盛り上げに忙しなく動き、疲弊していた。
神に連なるものでも、疲れるのだ。パルテナはオーラム軍との戦闘で疲弊していたところを混沌の遣いに乗っ取られたし、女神ソティスやその眷属も疲労し、首を斬られれば死に絶える。それと同じように、マスターハンドも疲労で限界だったのだ。
『やむを得まい… あの男の言っていたこと… 非常事態があれば、スマッシュブラザーズの
「…何っ!?」
マスターハンドの姿が光の塊へと変わる。それに驚いている瞬間に、光はこの真っ黒の世界でも見えないところへ飛び去ってしまった。
「逃した…!」
「あのファイター、って言ってたね」
「もし、見つけられたらわかるか?」
「ええ、マスターハンドの力の多くは手に入れたわ。だからあと僅かな力を持つファイターも、私が見ればわかるわ」
「じゃあ、探せー! ってこと?」
「…この阿呆の言うことは正しいが、その大半はわざわざ探す必要もない」
「我々でその大半を見よう。残りは探す必要があるが…」
「んじゃ、まず引き上げて作戦会議だな。おまえらもそれでいいか?」
「うん!」
「………」
「うん」
「ああ」
「ええ」
「わかった」
「うん、じゃあとりあえず戻ろうか、僕達だけの姿を手に入れるために」
○今宵は飄逸なエゴイスト
東方憑依華が初出の曲名。実際にはLive Verとついていたり。
依神女苑、依神紫苑のテーマ曲。ストーリー的にはプリズムリバー with Hが奏でている設定。ライブを背景にラストバトルとは粋ですね。
○ベレト
大団円ルートを作るとそれが正史になるから作らないという制作側の意図を汲み取って、本作ではルートについて明言はしません。お好きなルートをご想像ください。時系列的には未だ第一部。
○クラシックキングダム
キングダムハーツ3に登場するミニゲーム。王様やソラ等にキャラクターが置き換えられたゲーム&ウォッチ的なゲーム。地味に数が多い。アプリゲームのユニオンクロスでもやれる。ユーザーからはこんなのに力入れるならキーブレード墓場以降の本編に力を入れろとry
全て遊ぶとクラシックノーツが手に入る。
○うたた寝
ヒロのマイクロボットの説明に無言で首を傾げ、ハッキングやコンピューターの説明で首をコクンコクン(後者はデータのソラだけど)。
パソコンは一本ずつの指でキーボードを打つ。だからロクサスがコンピューターをキーブレードでぶっ壊したのか…(違う)
○ファルコの嫌な予想
大体合ってる。だが、少なくとも力の代償に関しては関わっていない。
うちのマスターハンドは非常に自分本位です。
余談だが、KHシリーズの最新作はKHMoMだが、その時系列でソラがどうしているか現状不明なのでKH3ReMIND後の時系列になっている。一年ずっと行動不能だったとか、一年後とかに復活したとか言われても驚かない。
○スターシステム
一ヶ月の間で、ソラはこの世界にいるクラウドとセフィロスが似ているだけの別人だということを知っています。果たしてKH2でどっか行った二人の行方が明言される日はくるのだろうか。