大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle   作:蘭沙

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54話 リバースイデオロギー

 

「ううう……!」

 

「もうダメだ……いかにスマッシュブラザーズであろうとも……」

 

「大丈夫ですよ! だからみなさん、落ち着いて避難しましょうね!」

 

 

しずえが朗らかに笑いながら問いかけているものの、避難民の表情は苦しい。

彼らは大乱闘をさらに盛り上げるために、マスターハンドが創り出した生命である。観客がいる方が盛り上がるだろう。そういうことだ。

ゆえにこんな場所に迷い込んで、フィールドで行なっているような戦いがすぐ前で行われていることに動揺を隠せない。

 

 

「プリッ……! プリリッ!!」

 

「プリンさん……!」

 

 

たまらずにプリンが必死に訴えかける。なんと言っているかはわからないが、その必死さは伝わってくる。落ち着いてほしい、そのようなことを言っているのだろう。

だが、恐怖で怯えている彼らが欲しいのはそんな一般論、正論ではないのだ。

 

 

「……あんただってスマッシュブラザーズだろう!? なんとかしてくれよ、前みたいに亜空間に取り込まれるのはごめんだよ!?」

 

「プッ……!?」

 

 

虚を突かれた。

亜空軍の戦い。その最初の被害は、彼ら達一般市民だったのだ。マリオとカービィの大乱闘を観戦に来ていた人々があろうことか最初に巻き込まれた。

その痛みにすら、プリンには寄り添うことができない。亜空軍との戦いにおいて、戦わずにずっと隠れていたのは紛れもない自分なのだから。

 

ここに来てからだって、人手が足りないというのに、ピットとサムスの代わりに探索に行くとも言えなかった。

スマッシュブラザーズとして戦えなくても、しずえはあちこち裏方として頑張っている。

スティーブだって、マルスだって。自分にしかできないことをしている。

 

戦う力があるのに、気持ちの問題だけで戦うことを拒否しているのは卑怯なのではないか。

人の言葉を話せないから、あの時マルスに聞くことができなかったけど。もう聞かずともわかる。卑怯以外のなにものでもない。そして怠慢だ。

 

 

「大丈夫ですよ」

 

「あんたは……」

 

 

優しく、そして穏やかな声でゼルダは話しかけてきた。プリンに、そして大乱闘を楽しむ人々に。

 

 

「スマッシュブラザーズだとか、そんなことはいいんです。心がついていかなかったら、どんなに力があっても上手くいかないものなのです。みなさんも、いつもはできていたのに上手くいかない日があるでしょう」

 

「そりゃあ……まあ……」

 

「それでもいいんです。その分、他の誰かが助けてくれますから」

 

「プリ……」

 

「大丈夫ですよ、戦いたいと思った時に、戦えばいいんです。焦りたい時には焦っていい。その時はわからなくても後でわかります。誰かが助けてくれていたことを」

 

 

今ならわかる。

リンクがあれほどの剣の才能があったのは、力が目覚めぬと焦っていた自分を助けるためだと。

自分が100年も頑張れたのは、瀕死だったリンクの傷が癒えるまで支えるためだと。

誰かが戦えぬ時は他の誰かが戦うのだと。

 

 

「プ……ププリ……」

 

 

そんな都合の良い考え方でいいのだろうか。

下手したら、一生戦えないかもしれないのに。

──そんな思惑は、一瞬で否定された。戦わざるを得なければ、そんな心持ちなど路号の小石の如く、簡単に蹴り飛ばせるというのに。

 

 

「……なら、焦ってもらいましょうか」

 

『……ッ!?』

 

「彼女は……!」

 

 

進行方向、そこを塞ぐかのようにキクという少女が宙に佇む。位置の関係上、上から目線になるのは当たり前だが、それだけではない冷たさを感じた。

 

 

「こいつが……! 俺たちをこんなところに閉じ込めた元凶……!」

 

「……ギロッ」

 

「ヒッ!?」

 

 

怒りと不安からか、敵意を込めた目は、睨み返されることで一瞬にして威圧を失う。彼女には何故だかそれほどの圧があったのだ。

まるで、上位の、神様でも相手にしているかのような。ただそれだけの動作で、普通に生きていた者たちは萎縮してしまった。

 

 

「下がってくれ、……何の用だ!」

 

 

最後尾にいたクリスが異変を察して前に出ていた。そして剣を引き抜く。

 

 

「マルス様達はどうなった」

 

「さあね、全部ボディ達に任せちゃったし……私の用というのはこっちのポンコツを引き渡しにきたのがひとつ」

 

「……え?」

 

 

自身の背後から浮遊させたまま見せたのは、力無く項垂れる見覚えのある姿。それはサムスのパワードスーツの姿。しかし、その全体は黒色に覆われており、サムスはピラミッドに残っている。つまり、あれは。

 

 

「ダークサムスさん!」

 

「悪かったわね、相性が良すぎて」

 

 

サムスの宿敵の1人。

それが、こうも大敗を喫していた。キク自身には傷ひとつどころか、衣服の乱れすらなかった。相性が良かったとは本人談だが、相性の問題でここまで一方的になるのだろうか。

 

 

「ヒィィ……!? ウソだろ……あのスマッシュブラザーズが……!」

 

「待ってください! 今離れたら……!」

 

 

それを見て、恐怖は限界に達してしまった。ゼルダの静止の声も届かず、それぞれがバラバラに逃げ出す。自然な動作でダークサムスが投げ捨てられ、ドサッという音が鳴る。

それをキクは冷めた目で見ていた。

 

 

「追わない……のですか?」

 

 

恐る恐るといった声で問う。

森とはいかないものの、木々の生えるそこでは、目を離すと簡単に見失いそうだ。

 

 

「わかってないだろうね。ここに来ている時点で、あなた達はもう詰んでるのよ。本当は直接手を出そうとも思わなかったけれど、あの猿に色々と知られてしまったのよ。戦う意志は摘み取らないといけなくなったってこと」

 

「なにもできない者には興味がないと?」

 

「どうせなにもできないわ」

 

 

キクのすぐ近くを通り過ぎていく人々に一瞥もせず、まっすぐにこちらを見ている様子を見るに、その言葉に偽りはないようだ。

 

 

「……ま、あなた達だってなにができるとも思わないけど。なんせ、戦う意志もないファイターに」

 

「プ……」

 

「力のないファイター、そこまで得意でもないファイター」

 

「うう……間違ってないですが……」

 

 

プリンも、しずえも、反論できない。

意志がないなら力があっても意味はないし、また逆もしかり。

得意でもないと言われたスティーブは、変わらず何を考えているかわからないが。

 

 

「ファイターですらない者って……戦力、偏りすぎてない? 逃げるだけなら問題ないとでも?」

 

「私……いえ! 私達だって戦え……」

「どうかな」

 

 

借り物の力でも、微弱な力でも戦えると反論をしようとしたゼルダをクリスが制した。言葉で言い負かす必要はないと。

 

 

「俺はなにもファイターではないから、捜索をあの2人に任せてた訳ではないぞ。マルス様のサポートと……とある命を受けて実行してただけだ」

 

「へえ〜……どんな命令だって?」

 

「これだ」

 

 

頭の位置まで上げて見せた左手のひらを下ろす。それが、何かの合図だったのはわかりやすかった。

 

ドォン!! ドウォォン!! ドン!ドガン!!!ドガ!! ドオォン!! ズガンッ!

 

「ッ!!」

 

 

四方から宙の少女に向けて大砲の黒弾が襲いかかる。右へ左へあちこち動いてなんとか回避するキクにクリスの斬り上げの刃が煌めく。

ドレスの裾が斬れた様を忌々しげに睨んだ。

 

 

「全て把握していると言う割には粗があるようだな」

 

「……ッ、大魔王の手下達ね……!」

 

 

具体的に何をしていたのかはわかっていないと指摘するも、かなり大まかな部分は把握しているようで、姿を確認せずとも攻撃の正体を突き止めた。

 

 

「アハハハハハ! よく気づいたな、今のはオイラ達が」

「なんで自分から位置ばらしてんだ!頭引っこませときゃよかったのに!」

「ロイ、もう遅いよ」

「じゃあ仕方ねえ! オイラ達が相手だー!」

「蜂の巣にしてやるー!」

「もう、作戦台無しじゃない」

「臨機応変!」

 

「…………」

 

 

少しとはいえ、上手くいったことでお調子ものから飛び出して煽ってきた。

無言ではあるが、多少は効いているようだ。しかし、居場所を完全にバラしてしまったこととリターンが釣り合っているかは微妙なところ。

 

 

「命令……って?」

 

「多少でも戦闘力があって、戦える意志があるような人材を探して欲しい、ってことだ。いざという時はあのように散って弾幕を浴びせることになっていた」

 

 

同じようにこの世界に迷い込み、主もその子息もいないので大人しく事態の収拾を待っていたのだが、この度、クリスの説得で戦闘に参加することになったのだ。

 

 

「……なにが増えたかと思えば……羽虫が増えただけじゃない……! こんな連中に! 私達の、私の悲願を! 止められてたまるかッ!!

 

「……あれって!」

 

「ププリ……!」

 

 

交差した人差し指と中指から青白いレーザーが四方に撒き散らされる。木々や花も焼くほどの温度。しかし、しずえが、プリンが、スティーブが気づいたのはそこではなかった。

 

 

「あの力って……もしかしてマスターハンドさんの……!」

 

 

ファイターだから、マスターハンドの加護を受けていたからわかった。

あの力は間違いなく、かの創造主のものであるのだと。

 





○タイトル
東方輝針城の5面ボスBGM、鬼人正邪のテーマ曲。逆のイデオロギー、生まれ変わるイデオロギーとも取れるこの曲は強肉弱食という今までの社会通念を逆転させる、という意志が込められている。
神主曰く、小物臭のある妖怪をイメージした結果、やんちゃな曲になったとのこと。


○ここの避難民って何者?
大半は大乱闘の世界に住む、いわば観客役の一般市民です。マスターハンド作。
亜空の使者におきまして、マリオとカービィの対戦を見ていた人々です。
もっとはやく喋らせても良かったんですけど、名無しのモブを目立たせるのどうなんだろってことで今までセリフを与えてなかった裏事情があります。
一章で、インクリングを庇って亡くなった男の人もいましたが、あれは名有りのキャラをこんなとこで死なせたくないという背景がありました。


○亜空遅刻組
前作で説明済みですが、ここで再度説明。
本作におきまして、亜空軍の事件に関わらなかったプリン、ウルフ、トゥーンリンクについて解説。

プリンは本作の設定が理由です。
本作では、戦いに消極的……というかはっきり言って嫌いという性格です。
マルスのような戦争で生じる犠牲が嫌というわけでもなく、戦いで誰かが痛めつけられるor自分が傷つくことが嫌い、というタイプです。
そんなガチ平和主義者なため、亜空軍の一件が終わるまでずっと隠れてやり過ごしてたんですね。

ウルフは群れるのが嫌いということで自ら不参加。一応壊滅を感じ取ったら戦いに行くつもりではありました。
トゥーンリンクは完全に寝坊です。ゼルダシリーズ伝統のおねむ。

改めて考えると我ながら酷い落差である。


○クリス
ファイアーエムブレム 新紋章の謎に登場するいわゆるマイユニット。クリスはデフォルトネーム。
といってもifみたいに好き勝手見た目を変更することは出来ず、章終わりの選択肢で見た目に色々と変化を加えられる。頭を丸めることもできるぞ。
そのかわりクラスは好きに変更可能。ルナティック……魔道士……うっ、頭が

FEHにおいて、どの世界にもいません的なことを言われていたので、実装はされないと思われていたのだが、そんなこともなかったぜ。


○クッパ七人衆
かつてはクッパの息子達……とされていたが、現在ではクッパ軍団の幹部的な立ち位置。
クッパJr.をぼっちゃんと呼ぶ、のでジュニア直属……的な立ち位置かもしれない。

自称リーダー、ルドウィッグ。
腹黒エンターティナー、レミー。
見た目とは裏腹に常識人、ロイ。
お調子者、イギー。
紅一点勝ち気、ウェンディ。
カタコト力任せ、モートン。
ケンカっぱやい末っ子、ラリー。

兄弟で、長男ルドウィッグと末っ子ラリーは明言されているものの、他の順番は不明。初登場の順番にされていることが多い模様。
7人組の印象が大きかったので正直言うと一人一人の印象は……
最近はクッパJr.RPGで活躍した印象。印象ばかり言い過ぎである。

クッパJr.のカラチェンがあったため、ゲスト枠に採用。ただ自分の知識が半端過ぎて戦慄。

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