大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle   作:蘭沙

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68話 おまえが存在する限り 俺は永久に影なんだッ!

 

─古い、記憶。

 

─自分が自分になる前、一番奥底にある過去の記憶。

 

 

 

急速に体が冷たくなっていくのは、固く冷たいコンクリートの所為ではない。

自分から命が溢れていく様は非常にリアルに感じる。当然だ。これが現実なのだから。

 

 

まだなんとか動く瞳。

へこみ横転した車から投げ出されたのは自分だけではない。男性と女性。その2人の存在が自分の両親であろうことは、記憶ではなく知識で知っていた。その顔こそ靄がかかって判別不可能ではあるのだが。

 

 

─おっと……家族全員くたばっていると思ったが、まだ生きてる人間がいたなんてな。

 

 

─きみ、は……

 

 

─さあな。()()の名前なんかこの力を受け継いだ時から忘れちまった。まあ、無意味なものを覚えておく必要はないからな。

 

 

─…………

 

 

─それよりきみのことだよ。いいのか? 放っておけば、きみは死ぬ。まあ、助かっても……きみの寿命は後一ヶ月ってとこか。

 

 

─…………

 

 

─神様ってとんだ無能だよな。助けてくれ、殺してくれ、死なせてくれ。それらの願いを叶えてもらった人間がいったい何人いるんだが。

 

 

─…………

 

 

─どうだ? 願いを言えよ。そうしたらその願いを核にしてこの力、継承できる。そうしたらきみの願いを叶える力になるぞ?

 

 

─…………

 

 

─ただし、我々の力はドッペルゲンガー。他者に成る代わりに、自己を失う。きみの今までの記憶、人格、趣味嗜好……当然名前や自分の体も。どうだ?

 

 

─…………ない。

 

 

─お?

 

 

─……しにたく、ない……!

 

 

─OK、『死にたくない』願い! これでいいな! これできみは生死も寿命も越える力を手に入れる!

 

 

─…………

 

 

─……あー、でも。この力で叶えられるのは、死を回避する願いだけ。他は知らねえけどな。

 

 

そうして、我々は誕生する。

他者になることで寿命を奪うドッペルゲンガー。

 

一ヶ月を可能な限り伸ばし、名前も姿も才能も力も成ることで借り……

我々のモノは、なんなのだ?

 

 

 

 

 

「あの周りの有象無象と同じ姿……! それがアンタの本当の姿ってわけ……!」

 

「そして……もうすぐ唯一真実の姿となる……!」

 

 

ファイターに化けた姿も、敵に化けた姿も、全ては幻。

 

いくつもの化けの皮を剥がしてようやく日の目を迎えた真の姿はなんて事のない。誰かではなく模倣のボディを奪い取った精神体だったのだ。

 

 

「我々は……! 我々だけのモノをようやく取り戻す! だからこそ、本物には消えてもらう!」

 

「だから僕が所望だったのか……!」

 

 

ヒカリと拮抗するダブルに対して、ギガファイアーを繰り出す。しかし、大きな怪我をしながらの反撃は余裕でかわされた。バックステップで、先程ミミッキュのいた場所まで引かれる。まるで次の相手は自分なのだと豪語するように。

 

 

「自分が欲しいドッペルゲンガーってコト? じゃあその体はワッツ!? キミのボディじゃないの!」

 

「違う。このボディの母体……オリジナルが存在する限り、我々はただのドッペルゲンガーでしかないのだ!」

 

 

そう言い放ったダブルは、その姿を緑色を纏ったゼルダの姿へ変える。

相対するファイター達は知らないのだが、闇の世界にてファイターと対峙するキクの姿だった。キクと成っているダブルは片手を上げ、強大な力を集める。

 

 

「これはさっき、ヒカリちゃんが……!」

 

 

散り散りになったあの時、ヒカリが使った力をキクの能力にて吸収。そして跳ね返すかのように攻撃したことによって、ファイター達を分断させたのだ。

 

 

「キャアアッ!」

「ぐうう……!」

 

 

吹き飛ばされたファイター達は、岩肌まで叩きつけられる。先程の戦いでかなりの深手を負っている者たちに追い討ちをかけるようだった。

 

 

「ん〜〜ッ! アイツ、絶対許さない……! 私の力をこんな形で……!」

 

 

剣と怒りを杖代わりに、なんとか立ちあがろうとするが、やはりダメージが大きい。

 

 

「ほら、私達に対して何ができるって言うの? 降参してそこの黒いのを差し出して。そうすればこれ以上手は出さない。なんならあんたたちの行きたい世界まで案内してあげるから」

 

 

キクの姿で、キクの口調で、ダブルの意思を語る。それに答えたのは放り投げられたリヒターのクロスだった。体を逸らして避ける。

 

 

「ここまで痛めつけておいて今更交渉かよ……? 交渉する前からテーブルを叩き壊しておいてよく言うぜ」

 

「それにボク、君嫌い!」

 

 

リヒターだけじゃない。ヨッシーや他のみんなも敵意を込めた目で睨みつける。交渉できないと気づいたダブルは、相手を本人に変えた。

 

 

「なら、あんたはどう? あんたが投降するだけで彼らの安全は保証される。悪い話ではないと思うけど?」

 

「……僕自身に犠牲を強いるほど、おまえが大物だとは到底思えないな」

 

「……言うじゃない」

 

 

自殺以外に息の根を止める手段がなかったギムレーと並ぶほどの存在ではない────!

 

 

「どうしておまえは先程から、ヒカリに成らない? おまえの今の姿は、おそらくおまえの仲間の能力を使って、間接的にヒカリの力を使っている」

 

「言われてみれば……そうですね……」

 

「おまえは無条件で誰かに成れる訳じゃない。おそらく、その条件をヒカリが満たしてないんだ」

 

「……腹が立つ」

 

 

元の姿に、ルフレと同じ見た目をしたボディの姿に戻ると、率直な意見を繰り出す。その洞察力は、十全に体が動かなくとも遺憾無く発揮されていた。

 

死にたくないという願いの元に行使されるドッペルゲンガーの能力。それは他者と成ることで、成った他者の寿命を奪う力。

先代は核となった願いが別のために寿命を奪うことがない。顔と名前が一致できていれば充分。

 

だが、ダブルは寿命を奪う関係上、成る他者に寿命が無ければ、生きていなければならない。

増えたもう一つの条件に、ヒカリとホムラは当てはまらないのだ。

彼女らは天の聖杯。トリニティプロセッサの一つなのだ。人やブレイドと同じように死ねるのならば、彼女らは楽園を目指すことはなかっただろう。

 

余談だが、彼らがスマッシュブラザーズの誰かに潜むマスターハンドを探すために、一部を調べた裏技というのが、ダブルの存在だ。

ダブルが成れるファイター全てに成り、間接的にキクがファイターを調べる。非実体的な力を吸収するキクには、隠せないのだ。

 

 

「おまえが我々の担当している世界に迷い込んだのは……幸運なだけではなかったのか……」

 

「……え? なんで、えっ? お前が! ルフレの世界で! ルフレを襲ったんじゃないのか!!」

 

「……? 何を言っている?」

 

 

ルフレがここに来たのは、イーリスで彼が襲われたから。

だが、襲ったのはダブルではない?

わざわざイーリスまで出向いてルフレと戦った。

だから、ルフレは、自分が狙われていると勘づいた。

 

だが、後者だけが正解だった?

答えだけがあっていて、そこに至る過程が間違っていた?

 

 

「……出まかせだ! そんなの!!」

 

「…………」

 

 

考えて考えて。

結果、レッドはそれが嘘だと切り捨てた。

そして、ダブルも、訂正する義理はなかった。

どちらが真実でも、答え合わせをするほど穏やかな関係ではなかったのだ。

 

 

「まあいい。それで? 交渉を蹴って嘘だなんだと言って? それで何が変わる? この状況は変わらんぞ?」

 

 

即座に治療する方法を持たない彼らには、いくら話を続けたところで状況は変わらない。

ルフレが、ホムラとヒカリが、ソードが、リヒターが。無視できないダメージを受けている。

天の聖杯の力すら間接的に使える敵を相手にするには流石に心許ない。

ルフレは思案しながら、慎重に言葉を選んだ。

 

 

「…………なぜ彼らがいる? 僕が目的だと言うなら僕だけを狙えばいい。それにさっきの姿…… おまえと同種なのは理解できた」

 

「…………で?」

 

「つまり僕を狙うのはおまえの個人的な欲求だ。おまえ()の目的は別にある。それが僕たちがここに迷い込んだ本当の理由……」

 

 

非常に表情の出にくい顔の変化を決して見逃さないようにしていた。先程の話よりは不機嫌ではない……そもそもそこまで大きな興味を持っていないようだ。

そうして、彼はコロコロと姿を変えていく。

 

 

「当然だ。我々達はそもそも個の集まり。利害の一致で邁進しているだけだ」

 

「あの私達はわかっていない……ボディに精神を入れれば、ボディの理に順序する……老衰すれば死ぬ体となる……」

 

「まあ、それを指摘してあげる必要はないのだけどね」

 

 

ナカツナ、チハク、キク。

一つのことを区切り、別々の姿で話すその姿はまさしく十面相。

成った者の癖か、ダブルそのものの癖か、はたまた演技ぶった大袈裟な動作か。両手足を大きく動かす様子に、ルフレの表情は歪んでいく。

 

 

「……まさか」

 

「……気づいたのね? 流石と言いたいところだけど、不憫にすら思えるわ」

 

 

その言葉は誰に届いたのだろうか。

届いていれば、間に合ったか。

 

 

「このー!!」

 

「……!」

 

「待って! ヨッシーっ!!」

 

 

ルフレの制止は届かない。

ルフレの情報収集という名の会話は、時間稼ぎだった。それはヨッシーにもわかった。

だが、時間稼ぎの目的は推理であって反撃ではなかった。自分に化けられたヨッシーはなんとかして汚名を返上したかったのだ。

だから選局を見誤った。ヨッシーの全力を込めた跳び蹴りはまっすぐダブルへ向かい……彼の姿を変える。

 

 

「「ガッ……!?」」

 

「えっ?」

 

 

重なった呻き声の理由を、即座に理解できなかった。戦場を俯瞰できれば、その異変に気づいただろう。

ヨッシーが跳び蹴りを喰らわせたのは赤い服の鳩尾。先程の緑服でも、元の白い服でもなかった。

 

 

「なんっ……で? 俺、が?」

 

「ワッツ……?」

 

「ブロウ……!?」

 

「あっ……!」

 

 

倒れたのはブロウの姿をしたダブル。

そして、後ろにはえづく本物のブロウ。

脂汗と共に冷や汗も流すルフレと、ドッペルゲンガーの仕組みに気づいたレッドはわかってしまった。

 

 

「デイジーに成っていた時、怪我したのはどこかでデイジーが怪我をしたから……でも今のダブルには怪我なんてない。ただ2つに増える訳じゃない……」

 

 

ヒカリとホムラが、ダメージを共有するのと同じ。()()だから、そうなる。

 

 

「誰かに成っていれば、怪我もダメージもその誰かと共有する……! そして本当のダブルにはダメージがない……!」

 

 

状態の共有。

記憶も力も能力も。そして、負傷も。

何一つとして、ダブルだけのモノにはならない。

 

 

「だったら……どうやって戦えばいいんだ……!」

 

 

聡明な頭は残酷な真実を日の元に暴き出す。

何も変わらない自分の顔が、見下すように笑うのをルフレは幻視した。





○タイトル
キングダムハーツ チェインオブメモリー、リク編で登場するリク・レプリカのセリフ。
ソラに「おまえだけの心」と言われ、リクにはないものとしてゼクシオンの力を奪ってもなお、自分の中で自己を確立しきれなかった。
だから3でさ、ナミネの……うん。彼だけのやりたいことだったんやなって。


○ギムレー
拙作では、俗にいう犠牲エンドを辿っています。あとついでにルフルキです。公式がやれって言うから……(言ってない)


○ダブル
ボディは7Pカラーのルフレ。
ドッペルゲンガーの力を継いだことにより、今まで生きてきた記憶、人格、趣味趣向や姿などの自己を形成するもの全てを失った。
感情、表情も希薄なはずだが、そこには確固たる感情が滲み出ている。

他者に成ることで短い寿命を奪って増やしている。その結果、他者に成る条件が先代と比べて増えている。顔と本名の一致と、寿命を持つ者でなければ、他者には成れない。
一人称は我々であり、二人称は相手の二人称に依存する。ちなみに、他者に成っている時、ダブル自身を指す時の一人称は私達、等になり、自分も含めた集団は我々達、私達達、等になる。ややこしいわ。


○寿命を持つ者
拙作では、成長という概念があるなら、寿命を持っているという認識となっています。
パックマン、ピットなどはOK。
ホムヒカ、ロックマン、ロボット、ゲムウォ、ダークサムス、パルテナはアウト。
他にこの子どうだ、という質問あれば、気軽にお願いします。


○ややこしいので補足
ただ単に同じ存在が2つ増えるのではなく、1つを2人で共有しているのです。
他者に成るということは、状態そのものの共有ですから、負傷も共有してしまうのです。
記憶などもダブルにはわかるので、ダブル側がボロを出しでもしなければ、真贋を見抜くことは不可能です。
ただ、状態の共有は一時的なので、記憶を持ち込んだりはできません。あと、ダブル側の記憶が他者側に持ってきたりもしません。裏技にも関わることなので、細かい設定がされてします。


○作者の気まぐれコメント
キングダムハーツ ミッシングリンクのベータテストッ!!!
落ちましたァ! チッキショウがああ!
もう神装英雄に関しては、もう何も言いません。そろそろくどいし。それでもやっぱりチキショウ。
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