大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle 作:蘭沙
「じゃあどうすればいいって言うのよ! ただでさえみんなボロボロなのに!!」
「不意打ち……待って、今考えてるから」
ダブルが受けたダメージは、誰かと共に受け、そして本体には届かない。誰かを肉壁にしているも同然。
下手に攻撃をしたら自分の首を絞めるだけだ。
ルフレがパッと思いついたのが不意打ちだ。誰かに成る間も無く攻撃してしまえば、と思ったのだが。
「えいっ!!」
「くそっ!! ゼニガメ、みずてっぽう……」
「また変わった……」
「……威力控えめ!!」
「ニャ!?」
トレーナー本人を狙ってきた攻撃に、レッドは指示を飛ばすが、その攻撃がヨッシーの舌と同じだと気づいて咄嗟に付け加える。
驚きつつも指示に応えるが、吹き飛ばすほどの威力もなく、ゼニガメごと蹴り飛ばされる。
「もうっ! ビショビショ!」
「えっ、ごめん……!」
くしゃみした隣のヨッシーに謝罪の言葉を漏らす。足元に水溜りもないのに全身が濡れている姿は異様の一言だった。
「……ダメだ。本体でいる時間がほとんどない。戦いの最中なら尚更だ、この程度は対策済みか……!」
「どうにかして、とっ捕まえられれば……! くっ、全然動かねえ……!」
起きあがろうとするが、十全に体が動かない。
ファイター達に攻撃を受けたダメージを、ミミッキュといたみわけしたのだ。
肝心な時に動かない自分に腹が立つ。
「……縛れるものと言ったら、ヴァンパイアキラーかヨッシーの舌とフシギソウのつるのムチぐらいか……? レッドなら何かしら持ってるかもしれないけど……」
「ダメです! あなたが一番重傷ですよ!」
「寝てばかりで終われない……!」
命をすり減らす勢いで無理やり体を起こしたルフレ。自分は怪我をしてここにやってきて、それでも何もできていない。
「(不意打ちにしろ、捕まえるにしろ、僕が囮で動ければ、戦いやすくなるはず……!)」
「……ルフレ」
「ブロウ……!」
「お前が動けるようになる方法、1つある……!」
前を見ながら下がってきたブロウが続けた言葉は衝撃的なものだった。
「ピィカァチュウウウ!!」
「……!」
「この程度か……!
「ぐっ……! カビゴン! 前に出てのしかかり!」
「カアア!」
ピカチュウの10まんボルト、そしてアシュリーの雷魔法を歯牙にも掛けないファルコそっくりの敵に、嫌な予感をしてカビゴンを前に出させる。
いくつもの電撃が降り注ぎ、判断が間違っていなかったことを知る。ゼニガメ、リザードン、ラプラス。でんきに弱いポケモンを引っ込める暇はなかった。
そのたわわな腹部で電撃のほとんどを受け止めてもらったことを申し訳なく思いながらも、攻撃技を指示する。
「……! おい! カビゴン、俺だ!」
「カァ……!」
「……ッ! 構うなッ、やれ!」
前方と背後からブロウの声が二重に聞こえる。
ほんの少し迷ったが、信じたい声は背後だった。かわそうとするブロウの腹部から下を押し潰す。
「くそっ、正気か!? 俺ごと俺達をやりやがって!」
カビゴンの頭部に肘打ちを喰らわせ、拘束から逃げ出す。地に伏したままのカビゴンに両拳を叩きつけた。
「……! ニィガッ!!」
「ぐっ」
そこへ指示もなくゼニガメがとっしんを仕掛ける。ブロウの身を案じれば攻撃はできないが、このままだとカビゴンを見殺しにする。
見ていられなかった。
例え偽者でも、ブロウと同じ姿でカビゴンを痛ぶる様子を。
「チッ、俺も全然全く長続きしねえか……! なら、こっちだ!」
「……めんどくさい」
「今度はルフレか……!」
先程応急処置でぐるぐると巻いた包帯がやけに目立っているように見える。さほど消耗していなかったブロウの時とは違い、下手に攻撃すれば、それがルフレにとってのトドメになるかもしれない。今まで以上に手を出せなくなる。
「じゃあ、これで」
アシュリーの魔法は、ルフレの姿をしたダブルに当たらない。範囲外まで避けられた。
「避けられたけど!?」
「足止めしときなさい」
「人使いの荒い……! ラプラス、れいとうビームだ! 足元を狙え!」
ヨッシーに成り、回避に専念するダブル。追うように放たれるれいとうビームから逃げていく。
「赤点、ね」
「わわっ」
逃げ道を塞ぐようにアシュリーの範囲魔法。
大乱闘でもファイターの味方となり敵となる魔法。どんな相手でも転ばせる魔法に、追っていたれいとうビームが波状で襲いかかる。
「あうっ」
「ぐっ……だったらせめて道連れだ!」
「しまった!」
ルフレの姿に戻ったダブルがエルサンダーを放つ。狙いは自分と同じく、転んで凍りついたヨッシーだった。
別の他者になろうと、転んだ状態はすぐに立ち直れない。次の攻撃は回避できないという判断だ。
「フシッ……!」
「フシギソウ!!」
電撃に耐性を持つフシギソウが、前方へ躍り出る。つるのムチで防ぎながら、できるだけダメージをなくそうとしていたところを、さらに前方に影が現れた。
「フグゥ……!」
ソードが倒れて転がり込む。
フシギソウと、ヨッシーを庇ってダメージを受けたのだと気づいたのは倒れる音が響いた後だった。
「ノープロブレム……! ファイト……!」
つるのムチで拘束できるフシギソウを無闇に怪我させる訳にはいかない。それに、友の
心配で駆け寄るフシギソウの体を押す。ソードが手を伸ばして触れたバンダナが一瞬だけ光ったことに気づいた者はいなかった。
「身を挺して……! というかまだ動けたのか……」
「ピカッチュッ!」
「しつこい……!」
ミミッキュのシャドークローで深手を負ったソードがまだ動けたことに驚愕する。これが気力とか、火事場の馬鹿力というものなのだろうか。
冷や汗を流しつつも、目の前のレッドやアシュリー、でんこうせっかで攻撃を続けるピカチュウ を気にする方が優先なのだと意識がそちらへ集中した一瞬だった。
「ぐうぅ……!?」
「待ってたよ……! この時を……!」
同じ声が重なる。
ルフレのリザイアに、ルフレの姿をしたダブルが捕らえられた。
互いにダメージを受けながら回復していく。
「(どうして僕が動ける……!? そういえば、僕達も戦うのに不自由はなかった……)」
今まで気にする余裕もなかったが。ルフレの姿で動くことに問題もなかった。
好き勝手にされるのは嫌だ。ましてやこの男には。ルフレとしての記憶を辿り、原因を探っていく。
『……ルフレ』
『ブロウ……!』
『お前が動けるようになる方法、1つある……!』
前を見ながら下がってきたブロウが続けた言葉は衝撃的なものだった。
『リザイアで、俺の体力……持ってけ!』
『何を……!?』
『エエッ!? ブロウの方が保たないデショ!?』
『お前に比べりゃ軽症だバカ』
確かにソードやらルフレと比べたら、ブロウの怪我はキョダイマックスカビゴンと戦った時の怪我と、ヨッシーの跳び蹴りしかない。
『だからといって、どうして僕を……!』
『残念ながら俺はお前と比べりゃポンコツ頭だからな、正直どうすりゃいいのかわかんねえ』
どかっと胡座で座り込む。
自分の役目は終わったと言わんばかりに。
『お前がなんとかしろ、できんだろ、あれと友達やってんだから』
「フシギソウッ! つるのムチィッ!! ゼニガメェ! ハイドロポンプゥッ!!」
「シイィ!!」
「ガァア!!」
手繰り寄せた記憶の世界から唐突に戻される。
リザイアで縛られていたダブルにその拘束から逃れる術はない。
捨てた感情が燻り高ぶる。託された唾棄すべき本物に怒りが増していく。
だったら、だったら。お前の記憶のように、お前がやったように殺してやる。
右手に込めた雷が、一つの光線のように腹部へ突き刺さっていく。
「──できるの? 本当に?」
止まった。
止めた訳ではない。ダブルが、自分の手を止めたのだ。
できない。自分はルフレのままだから。
ルフレを殺すということは自分を殺すということ。
「僕自身を殺したければ、おまえが僕に成った状態で自殺でもなんでもすればいい。それが一番手っ取り早いはずだ」
─……しにたく、ない……!
「それだけじゃない。おまえの性質を考えれば、
その願いが強く残るダブルには。
自分達が死に近づくことができない。
「(本来に戻れば、また攻撃のために力を溜めなければならない。そして、その時間があれば、ゼニガメが……!)」
ハイドロポンプをそのまま撃ち放つ。
自分自身が死ににいく。自分がつるのムチで縛られていくのも他人事に感じるほど、死は彼にとって最上の恐怖だったのだ。
「勝った……のか?」
観客と化していたリヒター達もようやく肩の荷を下ろす。自分を削ったブロウ、友に感化されたソードのように、助力になりたかったが、どうしても動かなかった。
「やったー!! やっと捕まえたー!! ボクに変身してもうー!」
ホムラに氷を溶かしてもらい、飛び上がって喜ぶヨッシー。
鬱憤ばらしに脛でも蹴り飛ばしてやろうと思ったが、「ダメです」という静止で止めた。
「まだ、ルフレに変身したままなんですから……」
「さてと、洗いざらい吐いてもらうわ。あなたが無視した、あなた達の目的って?」
剣をダブルの首元に当てがう。
鋭い視線が同じように突き刺さる。
「……フィギュア化システムの停止……創造者の抹殺……そして、不確定要素の排除……でも、それを否定しきれるか?」
「は?」
「石橋を叩いて渡る、だ。自分が欲しかったものを永劫に自分のものにしたいだけ。絆も得られない
呆気に取られた瞬間で、ダブルの姿は変化した。キクの姿で、凄まじい力を暴発させる。
「しまっ……」
「……あっ……」
ルフレは壁に叩きつけられ、アシュリーは天井に、そして気絶。
「ううっ……」
「分離してあるのも考えもの、ね……」
ホムラとヒカリは構えていた剣で胴を斬って、被害拡大。
「うわあああぁぁぁぁ……」
「クッソっ……! 畜生……!」
ヨッシーは遠く遠く、様子も見れない場所まで吹き飛ばされ、リヒターは強がりもできなくなった。
「お前ら……!」
「アウチ……」
動けないブロウとソードが見守るしかできない中、一番ダブルに近い場所で倒れたレッドに、ボディの姿で剣を突きつける。
「調子に乗るな。絆がお前達の力となるならば、絆を断ち切ろう。あの男だけではない。ここの全員の息の根を……んっ?」
動けないレッドと、ダブルの間にゼニガメとフシギソウ、ピカチュウが立ち塞がる。
「ニィ……」
「ソゥ……」
「ピカッ……」
「さっきの剣士の真似か? 順番が変わるだけだぞ。それも一方的に指示を出して1人では何もできない男だ」
3体だけではない。
リザードンも、カビゴンも、ラプラスも。
正式に手持ちではないポケモンもまた、立ち塞がっていた。
「グウゥ……」
「カァ……」
「クゥ……」
「出会ってさほど時間も経たない男に。先の状況とも違う、役に立たない男に。我々には痛み分けを承知で攻撃しておいて」
「……それも、絆だ……」
「は?」
レッドがよろよろと立ち上がる。
ラプラスが頭を下げて、手を貸してくれている。
「俺を守ってくれたのも……そのいたみわけの覚悟も……」
ブロウが自分を削ってルフレに託したのも、
ルフレがそれに応えたのも、
ソードがブロウに背を押されて、ヨッシーとフシギソウを庇ったのも、
「絆がッ! お前が土足で踏み荒らした絆がッ! ここにあるからなんだよッ!!」
「ニィッ!!」
「ソォウッ!」
全ての絆に、それは応えた。
「えっ……」
ブロウがつけたバンダナ。
それはきずなのスカーフと呼ばれるものだった。
条理を超え、絆を育むポケモンが、一時的に進化の果てを手に入れるスカーフ。
ツボミは鮮やかな大輪の花を開かせ、
亀の子は巨大な大砲を2丁、肩に構える。
「……いくぞ」
ピカチュウ。
ラプラス。
カビゴン。
フシギバナ。
リザードン。
カメックス。
未来のチャンピオンは、その力を絆によって手に入れたのだ。
○タイトル
ファイアーエムブレム覚醒のDLC、絶望の未来編での敵将戦でのBGM。
正直言うと、絶望の未来編は本編のネタバレばかりなので非常に解説がしにくい。絶望の未来編唯一のオリジナル曲。
で、肝心の敵将だが、3体中2体が名前を隠されている。だが、覚醒をやり込んだ人なら簡単にわかる。
○きずなのスカーフ
ポケモン 超不思議のダンジョンで登場する、イベントアイテム。
パートナーがアバゴーラに拾われた際、巻かれていたという2つのスカーフ。友情の証として主人公に1つ渡され、ピンチの時にはじめてその力が発揮された。
○レッドパ
きずなのスカーフはこのため。
うちのフシギソウはメス設定だけど、よくあるこった、気にするな。