大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle   作:蘭沙

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70話 戦闘!チャンピオン

 

「(なんなんだこいつら……!)」

 

 

一時的な進化、そして一時的なてもちとしての加入。それを見ていたダブルが感じたのは焦りと苛立ちだった。

 

もう、届かないものを目の前にぶら下げられるような、ひたすらに目の前で自慢されるような。だって、自分だってこうなる前は普通に友情を持っていた可能性があるのだから。

持っていたかもしれない、絆。

 

 

「(……不愉快……!)」

 

 

自分のない自分には、そんなものを掲げられる余地もなかったと言うのに。

 

 

「いいわ、いくら戦力が向上したところで、私達は何も変わってない。そんな状況で、勝てるものならね……!」

 

 

再びキクの姿に成る。

特殊な攻撃を吸収するキクの力と本体に攻撃を通さないダブルの特殊性。

二重の壁を打ち壊す手段があるはずもない。

見下しながら、仁王立ちで立ち塞がった。

 

 

「ラプラス、あられ」

 

 

地下であるはずのこの戦場にあられが降り注ぎ、気温が下がっていく。

 

 

「嘘、天井があるのに雪が……?」

 

「アワワワワ、ホムラ、ボク近くに行ってもいい?」

 

「えっ、あっはい」

 

「こいつ、暖取ろうとしてんな……」

 

 

ヨッシーの性別が曖昧だからできること。性格的には男子よりな気もするが、タマゴを生んだりする。結局どちらなのかわからない。

 

 

「カメックス、ふぶき」

 

「くう……!」

 

 

静かに音を吸い取る雪は、命を奪う嵐となる。

自然現象はキクの力の及ばぬ領域。避けられぬほどの広範囲攻撃は、体を冷やし、確実に体温を奪っている。

 

 

「ちょっ……! レッド、あなたさらに寒くして……!」

 

「…………」

 

「む、無視ぃ!? いい度胸ね、本当に……」

 

「ピカチュウ、でんこうせっか」

 

「ヒカリちゃん、レッド、集中してて聞いていませんよ……」

 

 

そして、薄着の味方も巻き添え。しかし、レッドは目配せも謝罪の一言もないまま戦いに集中している。

いつものような熱さも幼さも鳴りを潜め、切れ長に見える目には完全にコントロールされている闘志のみ。頂点すら凌駕するほどの武人の表情がそこにはあった。

 

 

「すげー、表情。あのレッドと今度戦ってみてえな……」

 

「あなた、何をしているかと思ったら……」

 

「こいつも暖まらせてやれ」

 

「はい」

 

 

リヒターが気絶していたアシュリーをホムラに寄り掛からせる。

もしかしたら、流れ弾を喰らうかもと考えたために、体に鞭を打って回収していたのだ。

 

 

「……しっかし、レッドやピカチュウに頼りきりなのはちょっとな……」

 

「やれることやったろ。あんたは団体行動してた時にリーダーシップ? 発揮しててもらったしよ」

 

 

ルフレの手を借りながら、なんとか上体を起こしたブロウが言った。口調とは裏腹に少し皺の寄った眉間はリヒターと似たようなことを考えていた。

 

 

「ところで、ホムラ。オレもサムイからハグハグしていい?」

 

「えっ」

 

「100%有罪だ、コラァ!!」

 

 

元気なのは口だけである。

 

 

「ピカチュッ!!」

 

「しつこいわね……!」

 

 

電光のスピードでピカチュウがダブルを追い続ける。それだけではない。自身を再び捕らえようとつるのムチが襲ってくるのだ。レッドの指示も無しで。

 

ポケモントレーナーとは、トレーナーがてもちに指示するだけの存在ではない。

その真骨頂は、ポケモンの死角を埋められること。野生のポケモンよりも、トレーナーのポケモンの方が基本的に強いのは、そういった理由が一つあるのだ。

 

指示の一つも無しに行動を続けるのは、自身の死角を気にする必要がないからというのもある。

 

 

「くっ、体がかじかんで……!」

 

 

ふぶきによって奪われた体温は、身体の機能を低下させる。回避は無理だと判断したため、ピカチュウやつるのムチにはキクを介したマスターハンドの力でビームを撃っている。浮遊による行動も限界が見え、吐く息は白い。

 

二重の壁を維持し続けるのも限界だった。

 

 

「グウアウッ!!」

「グオオオオオ!」

 

「ウッソだろ!? リザードンにも変身できんのかよ!?」

 

 

確かにできないとは言っていない。

むしろヨッシーに成っていたのだから、リザードンのようなポケモンに成れない理由はないのだが。

本物の抗議も、今のダブルには届く。聞き入れる義理がないだけ。

 

 

「カアアァァ!」

「グウゥゥ!」

 

「カメックス! ハイドロポンプをしながらこうそくスピン!!」

 

 

回転しながらげきりゅうを発射し、それを正面から受け止めるダブル。ガッチリと掴みながら空中へ飛ぶ。ちきゅうなげだ。

レッドのリザードンが膝をつく。捕まっていてもなお、カメックスはハイドロポンプをやめていない。

 

 

「カビゴン、そっち向かってメガトンパンチ。ピカチュウ、かみなり」

 

「カァア!」

「グウゥ……」

 

 

カビゴンの拳が叩き込まれたのはリザードンの腹部だった。えづくと同時にダブルとカメックスが空中で離れる。

 

 

「(まさか……そんな……!?)」

 

 

誰かに成っていれば状態を共有する。

故にダブルに対して迂闊に攻撃はできない。

逆に利用すれば、近づかずにダブルを痛みつけることはできる。

しかし、それを本気で実行するとは思っていなかったのだ。

 

呆気に取られているところを、かみなりが落ちる。一瞬の間だけ意識が途切れ、落下していくダブル。ラプラスのれいとうビームで大きな氷の塊にされてしまった。

 

 

「やったか!?」

 

「グアオオオ!!」

 

「クウゥ!?」

 

 

氷を突き破り、炎の一撃がラプラスに突き刺さる。フレアドライブがラプラスを撃ち抜いたのだ。反動のダメージはリザードンに回る。

 

 

「しつっ……こいのよ!」

 

 

リザードンは潰した。ならば、空中まで追ってはこれない。キクに戻ったダブルは空中から確実に始末することに決めた。いまだ体温は戻っていないが、もうこれは戦闘にならないから問題はない。

 

 

「これでっ……どう……!?」

 

 

一方的な攻撃を繰り広げようとしたとき、同じ高さまで飛んできたフシギバナを見る。

前足を掴んで飛んでいるのはリザードン。

 

 

「まだ……動けたの!? 動けたとしてもその巨体を持って飛べる訳が……!」

 

 

その疑問はすぐに解消された。

フシギバナの後方を空中で支えていたのはカメックスだった。両肩の大砲を下に撃ち続け、ジェットパックのように飛んでいたのだ。

 

 

「そんな……ッ飛び方ッ……!」

 

 

接近できたことで、ムチを防ぐ余裕をなくす。捕らえたのは両手首。

 

 

「ラプラス、ハイドロポンプ! カビゴン、ふぶきィ!」

 

 

ハイドロポンプが型をつくり、ふぶきが水を閉じ込めていく。大地から、胸までを氷で閉じ込め、氷柱を作り上げた。

 

 

「やるじゃないっ! レッド!」

 

「アワワワワ、でもリザードン達落ちちゃうよ〜!!」

 

 

カメックスのジェットパックと、負傷の大きいリザードンは、長く飛んでいられない。

そのまま落下していく。

ヨッシーが目を覆った時、レッドは冷静にボールへ戻していた。

 

 

「はあ〜……冷や冷やしたぜ……」

 

「……ホントにね」

 

「おっ、アシュリー起きたのか、怪我は?」

 

「………………チッ」

 

「だからなんで舌打ち!?」

 

「まあまあ……」

 

 

そして、そのままボールを起動させ、3体を呼び出す。

 

 

「大丈夫か!? ごめん……ホントごめんな……俺、バカだからさぁ……いい方法、思いつかなくて……」

 

「グウゥゥ……」

 

 

リザードンを抱きしめ、首を撫でながら号泣するレッドに、先程のような面影はなかった。

そして、リザードンもまた、普段のような荒々しさもなく、目を閉じてされるがままになっていた。

 

 

「……なんで」

 

 

キクの姿のまま、ダブルはそれを見ていた。

 

 

「私達に……我々にはそれはないのに」

 

「友に全力で攻撃してもなお、絆は切れぬというのか」

 

「羨ましい……ありえない……」

 

「どうして……」

 

 

俯く、その胸中は誰も知らぬ。

 

 

「やったな、2匹とも……なんか戻ってんな?」

 

 

ルフレの肩を借りながら、元に戻ったゼニガメとフシギソウへ近づくブロウ。

 

 

「それにしても一体何が……ルカリオやミュウツーのメガシンカみたいなものなのかな?」

 

「水たまりが海になったレベルで別モンに変わってたけどな……」

 

「フッ……フシフシ……」

 

「あん? どうし……ああ、それ破けちったか」

 

 

ブロウが2匹に巻いたスカーフは、戦闘が原因か、大きく破れてしまった。これではもう今までのように巻いたりはできないだろう。

 

 

「全然気にしてねえから、お前も気にすんなって、な?」

 

「ゼニャ!」

 

「お前はもう少し気にしろ」

 

「あはは……」

 

 

申し訳なさそうにしていたフシギソウには優しく、首を振ってあらぬ方向へ飛ばしたゼニガメには厳しく。恩着せがましくはないが、ガサツに扱われては不満だ。

 

 

「ふう、落ち着いたところでアイツから全部吐かせて……なんだ?」

 

 

リヒターの耳は物々しい音を捉えた。

暴れる音。うるさい音。外から聞こえていた。

 

 

「きゅわあああ!」

「ごおおくううう!」

「るががががが!」

 

「ナアアア!? ポケモン達の雪崩ガアアアア!?」

 

「あっ!! ボディが混じってます! まさかボディにポケモンを襲わせて!?」

 

 

ボディとポケモン達を襲わせた、ということは。

 

 

「ダブル!」

 

「絆ならどれだけ傷ついても平気か……勉強になったぞ。我々は失礼する、巻き込まれたくはない」

 

 

転がっていた岩を退かせば、見えた空間の裂け目。そこには大乱闘の世界の景色があった。

 

 

「追いたければ追えばいい……そいつら相手に生き延びられたなら……!」

 

「待てや!」

 

「ダメだ、ブロウ! 1人じゃダメだ!」

 

「クッソ!」

 

 

短気でひとり追おうとするブロウをルフレは止めた。待ち伏せされていないとは限らない。ボディを抜いても仲間がいることは確定なのだから。

 

 

「プロミネンスリボルト! キリがないです! ポケモン達まで襲ってきて!」

 

「俺たちとボディの違いがわかってないんだ! こんな状況なのに!」

 

 

もう全員、まともに戦える余力は残っていない。簡単に崩れる。

 

 

「ノォ!?」

 

「! カビゴン、10まんばりき!」

 

 

馬乗りにされたソードを、レッドが救出する。

この中で1番ポケモンに詳しいと感じているからこそ、頭をフル回転させる。余力もまだあった。

 

 

「カアァァ」

 

「……! 先行けって!?」

 

「カア」

 

 

カビゴンに背中を押され、その意図を理解した。カビゴンはここで生きてきた。見捨てられないのかもしれない。

 

 

「クウ、クウ」

 

「お前もか、ラプラス……」

 

 

確かに2匹ともここのポケモンだ。

ボディには攻撃されても、ポケモンには積極的には攻撃されないかもしれない。だが、仲間を置いていくなんて。

 

 

「クウウウ!」

 

「うおお!?」

「うわああ!?」

 

「えええ!?」

 

 

ハイドロポンプでルフレとブロウからぶっ飛ばされる。行き先はあの空間の裂け目。

 

 

「プッシャー!?」

 

「…………」

 

「きゃあ!」

 

「もう!」

 

「アワワワワ!?」

 

「うおおお!?」

 

「ピッカア!?」

 

 

どんどん吹き飛ばしていき、最後はてもちをボールに戻したレッドだけになった。

 

 

「あ、いや、ちょっと待て」

 

「クウゥ!」

 

 

待てと言うレッドも問答無用で吹き飛ばす。

げきりゅうで苦しみながらも、レッドは叫ぶ。

 

 

「勝手に負けるなよォ!! もうお前らは俺の仲間なんだからなァ!!!」

 

「クウゥッ!!」

 

「カァアッ!!」

 

 

喧騒に紛れても、その声だけははっきりと聞いた。





○タイトル
ポケットモンスターのチャンピオン戦BGM。金銀のそれは、レッド戦の印象が強すぎるが、名の通りチャンピオン、ワタル戦でも流れる。

完全に同名の曲はダイパと剣盾でもあるので、検索する時は注意。


○湯たんぽホムラ
ニアがくっつけば友情、ヨッシーがくっつけば微笑ましく、ソードがくっつけばただの犯罪。


○…………
レッドは別に喋れないわけではない。
だが、まさかマスターズで喋るなんて……


○カメックス! そらをとぶ!
元ネタはポケスペのブルーとカメちゃん(カメックス)。
トラウマが原因でとりポケモンを持たないブルーが空を飛ぶ方法。ゴールドのマンたろうもそうだが、ポケスペは意外な方法でそらをとぶ。


○今章のまとめ
全員にほどほどに出番を与えましたが、やはり今章通しての主役はレッド。
擬似的なレッドパーティを作るのが書きたかった。故にポケモンのゲストはラプラスとカビゴン。

ラプラスは前作でスピリットとして登場してた子です。ソードとは初対面じゃない。

ダブルに化けられたデイジーですが、きちんと別の章で登場するのでご安心を。


さて、次章の面子は〜?
安定性と混沌のバランスが異常の面子です。
安定側の胃に穴が空いてそう。


○現在の情報まとめ(すこし整頓済み)
●目的
・この事件の黒幕はキーラ、ダーズの生み出したボディを自分の肉体として再利用した集団である。
・既にファイターとしてのバランス調整やフィギュア化のシステムは停止済み。黒幕側がフィギュア化による分離を防ぐために、現在はマスターハンドを探し、抹殺を目論んでいる。
・そのために各々の世界から大乱闘の世界に帰る時点で、なんらかの方法で別々の世界へたどり着かせている。

●マスターハンドが逃げたファイター
・マスターハンドはスマッシュブラザーズの誰かに宿る形で身を潜めている。
・キクはその能力によってマスターハンドが宿っているかどうか見ただけでわかる。
・一部ファイターはルネ曰く裏技を使用して調査済み。
・裏技とは、ダブルの他者に成る能力を利用して間接的に調べること。本名がわからない、本名と顔が一致しない、寿命が存在しないファイターは未調査。

●その他
・ルネには、集団とは別の個人的な目的がある模様。
・ダブルには、自分の宿るボディのオリジナルであるルフレを始末するという個人的な目的がある。
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