大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle 作:蘭沙
「異常なーし! この辺じゃないかー」
「ピーチュ」
少し時は戻る。
天幕からこそこそと抜け出したインクリングとピチュー。戦争だと聞いてこっそり、慎重に進んでいるが、特に変化はない。遠くで刃と刃がぶつかる音や断末魔が聞こえるが、この場所には何もなかった。
二人はその音の真の意味を知らない。
知らないままに進んでいる。
「ロイとカムイはどこにいるんだろう? あたし達だって戦えること教えてやらなくちゃ」
「ピチュ!」
「後でロイに教えるから倒した数を忘れないでね? ナワバリバトルだと後でカウントしてくれるけど、ここじゃそんなのないからね」
「チュ〜…」
「あはは! ナワバリバトルわっかんないよね!」
こっそりと自分で伝えたにもかかわらず、つい大声になってしまうインクリング。ピチューに制されなければ、そのまま隠密だと忘れるところだった。
「といっても、ずっと何もないし… がっつり前にでちゃお」
茂みや木々に隠れて進む。先程の会話で、自分達の事情を知っている人が少数派なのは知った。だからこそ、どこか敵しかいない場所を見つけなければいけない。
といいつつも、何も変わらない状況にインクリングは飽きてきたのだ。隠れつつも慎重さを失ってぐんぐん進む。草むらを踏み締める音が鳴った。
「…!? 誰かいるのか!?」
「あわっ…!」
「〜ッ!」
知らない声がこちらへ向かってくる。咄嗟にピチューの口は塞いだが、無意識のうちに口から漏れでた声を受け取られてしまった。
「子供…!? ここは危険だ! はやく逃げろ!」
「あた、あたしは」
どうにか取り繕うとなんとか言い訳を考える。武器のぶつかる音が焦らせ、そのまま逃げるという選択肢が思い当たらない。
「逃げ…っ、ぐああ…!」
「えっ」
吹き飛んだ男。二人の側にあった木の幹にぶつかる。そのまま重力で落下する。目は開いたまま。こっちのことは見えているはず。なのにインクリングを見ても驚かない。
そうだ、驚くはずがない。
一見なんの特徴も持たない一人の人間。道を通り過ぎただけなら記憶にも留めないだろう存在。どこもイカしていない普通の人間。
そんな存在にインクリングは目を離せなかった。
見開いたままの目は閉じない。瞬きの一つもしない。所々から溢れる赤が物語っていた。理解が追いつかなかった。信じたくなかった。
死んでる。何にもならないようなちっぽけな存在は絶命していた。数瞬前まで会話をしていたはずの人があっけなく死んだ。
もう話さない。
名前もわからない。
どうやって笑うかも知らない。
知る機会は永遠に失われたのだ。
「ぅぁ… わ、が…」
「ピチュチュ!!」
動揺しながらも、ピチューは肩から降りて臨戦体勢を取る。でもインクリングはそれができない。目の前に大量の敵がいる聞いた通り集中しないと形が捉えられない透明なインクを纏っているような存在で戦わなくちゃ戦わなくちゃとスプラシューターを構えて敵に向けるもその手は震えていてもし相手が見え方が奇特なだけでただの人間だったら死ぬ原因を自らの手でつくることになってさっきの男の人と同じように目を見開いて何も感じないかんじられないようにしてしまうんだとかんがえるとふるえてふるえてあいてのぶきにちゅうもくしてせんとうのたいせいにはいろうとするもみえなくてなにももたないそのみひとつでたたかうそんざいであることにようやくきづいてあしくびがかたくてうごかなくてともだちのこえもきこえなくなってにげないとにがさないとにがさないといのちがきえるはなせなくなるなにもできなくなるたたかわなくちゃたたかわなくちゃたたかわなくちゃ───
「あ゛あ゛あ゛!!」
勢いだけの膝蹴りは敵の顔面らしきところへクリーンヒットした。あたり構わずインクを撒き散らし、最初に崩れ落ちた敵に何度も何度もスプラシューターを叩きつけた。視界の端にピチューがいる。口を開いて動かして。何かを言っているのに何を言っているか聞こえない。
「逃げて逃げて逃げてぇ!! 逃げてよぉ!!」
自分の言っている言葉が支離滅裂になっているのを自分ではわからない。逃げてという言葉。ピチューに対して死なないように言っているのか、相手に対して殺したくないから言っているのかもわからない。
「ピ… ピチュウウウゥゥ!!」
錯乱した友人を止めたくて。発する言葉に悲壮感が満ちていて。気がつけば自身の身などお構いなしに全力の電撃を放っていた。
「あぐう…! あああ゛!!」
周りの敵全ては勿論、インクリングすら焼き尽くすほどの電撃。敵達は全て虚空へ消え去り、ようやく彼女の焦点が合う。その代償にピチューは限界だった。
「あれ… ピチュー…?」
「ピィ… ピィ… ピィ…」
自分のせいで、なんて考える余裕はなかった。錯乱しててピチューのことはほとんど覚えていない。理解できないと周りを見渡す。もう敵はいない。どうして? いや、一人いた。焦げた戦場を悠々と横断してやってくる。
『逃げて、か。逃げる必要はない。はっきりわかった。おまえは俺に勝てない』
「えっ、喋った…?」
『話せたら悪いか?』
その格好は周りの存在と同じ。はっきりと見えない蜃気楼。しかし、喋れることよりも二人の意識は得物に向かっていた。
「(綺麗…)」
その武器の美しさに目を惹かれた。赤い宝玉が埋まった金縁の洋風の柄、和風刀の刃。そんなチグハグな武器だというのに、その白い刃から目を離せない。深雪のような穢れなき刃。一般的な武器に興味がなくともわかる、名刀の一振りだった。
その武器だけははっきりと視認できたのがおかしいことだと判断が遅れるほどに見惚れた。
「ピチュッ! ピチュチュ!!」
『どうして俺が無事なのか、だと? 敵であるお前たちに話す必要はない。』
「ピチューの言ってることわかって…!?」
ピチューの言葉が理解できることに驚いた束の間、白刃が突かれる。インクリングのゲソを少し引き裂き、開戦の合図をだした。彼女は動けなかった。
「えっ…」
『インクリングか… おまえはまだ
反射的にスプラシューターを発射した。後ろへ飛び上がった敵には届かない。すぐにホットブラスターを撃つも、爆発の範囲外だ。
「高い…!」
「ピーチュ!!」
敵は高く高く飛び上がった。鳥のように飛んでいないのに。跳躍力が高いのだ。
そこへピチューが決死の思いでかみなりを放つも…
「効いてない…!? 嘘でしょ…!」
確かに当たったはずなのに、敵はなんのアクションも起こさなかった。仰け反ったりもしていない。
『安い電撃だ。さっきの攻撃で力を使い果たしたな。手本を見せてやる。』
空中にいるまま、刀を空へ向け、振り下ろす。さながら、地上に天罰を下す神のように。
『
辺りに落ちる雷。何度も何度も。既に荒れ果てた大地を焼き払う。素早いピチューはかわせたが、インクリングは動けなかった。視界がチカチカする。体が引き裂かれるように痛い。インクリングが味わったことのない痛みだった。
「いっ…あ…」
立たなければ。体が動かない。
逃げなければ。体が動かない。
「ぴ… ちゅ…」
「チュ…」
「逃げ…て、誰かが止めないと…! ピチューじゃできない…!」
せめて、ピチューだけは逃さないと。
本人もわかってる。今出せる最大の火力で動じもしなかったのだから、ピチューにできることはない。悔しいけどその通りなのだ。
「ピチュ… ピーチュピチュ! ピッチュチュ!!」
遠くへ走っていく、ピチューの後ろ姿にほっとする。まだ、痛い。けど、気負いがなくなったからか、立ち上がるぐらいの気力は戻った。
『さて、そうそうに肩をつけたいところだな。捕らえるか、追い込むか…』
「あたし達が狙いってこと… あたしは調べてなくて… ピチューは調べたんだね…」
『…………』
「黙ってるってことはYesってことか…」
少しでも時間を稼がねば。
ピチューが逃げる時間を少しでも増やさないと。普段ならばやらないような話術で気を逸らせ。
「あたしがいるとはいえ… ピチューを無理には追わなかった。」
『手負の獲物ほど厄介なものはない。そして固執する理由もなかった。それだけだ。』
「あたしとピチューってことは狙いはファイター…? ロイが狙い?」
『違うな。奴ではない。世界のつながりを乱し、あの世界にたどり着くはずのファイターを別の世界へ行かせる。後は炙り出して調べるだけだ』
「………ロイも調べた側ってことか」
『黙れ』
この殺気、悪意。顔も仕草もほとんど見えないのに不快に思っているのはわかる。
戦わなくちゃ戦わなくちゃ。生かすために戦わなくちゃ。
例えこの手が血に塗れても。
○タイトル
タクティクスオウガの第一章タイトル。
このゲームの章タイトル全部好きです。
○死んだ男
地の文で言及されていますが、名前のないモブです。流石に名有りのキャラクターを殺す勇気はなかった。
○スプラトゥーン
このゲーム内に死という概念はあります。オクトエキスパンションの最後の辺りはリスポーン地点の更新に誰も言及せず、本当に死んでいます。この作者悪魔だぞ! と思われるかもしれませんが、今後のことも考えて、彼女には成長してもらわねば。
○調べた調べてない
ちゃんと基準があります。当たった方の家にピチューが逃げてきます。(嘘だけど)
○オリキャラ
タグにもある通り、本作では敵側に半オリキャラがいます。…半?
その意味は今後の展開をお待ちください。半というか九割八割ぐらいオリジナルな気もする。