大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle   作:蘭沙

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93話 きみよ立ち上がれ

 

「…………」

 

 

またここだ。青く、神秘的な部屋。

 

円状に設置された牢獄の一つにジョーカーは閉じ込められていた。手錠も足枷もなくただ檻に閉じ込められているだけ。

 

 

「誰か、いないのか?」

 

 

ただそれだけ。自分以外の人類が絶滅してしまったかのように、いるべき人が誰もいない。静かすぎる場所。

 

 

「ラヴェンツァ、イゴール!」

 

 

従者と主の名前を呼ぶ。返事はない。

 

 

「ジュスティーヌ! カロリーヌ!」

 

 

念のために分かたれた半身、二人の名前も呼んでみるがもちろん返事は返ってこない。

 

 

「なんなんだ……本当に……」

 

 

なんのためにここに招かれたのか、誰がここに招いたのか。

何もわからない。どうしていいかもわからない。

 

相当混乱していたのかいつの間にか意識が暗んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い、……!! 生きてるか!」

 

「あっ……」

 

 

呼ぶ声がはっきりしてきて、その意識は明確なものとなっていく。

仰向けで倒れていた自分の肩を強く揺らしていたのはモルガナ。

 

 

「くぅっ……そうだ、俺は……」

 

 

水に打たれたからか無意識に飲んでしまったからか、頭が痛い。鈍重ながらなんとか起き上がるも、水分をたっぷり吸った肉体と衣服は思った以上に重く、へたり込んでしまう。湿気と水分でべたつく衣類がうっとうしい。

 

 

「おい! 無理すんな、動けねえならまだ座ってろよ」

 

「……モルガナは無事だったか?」

 

「なんとかな、バックにしがみついてたからはぐれずに済んだぜ。だが、他のみんなは散り散りにされちまったな」

 

 

木々の葉から水がしたたり落ちる。一体どれだけ流されたのだろうか。直前に現われた濃霧のせいで何も見えない。

 

 

「誰かいないかー!」

 

「おいバカ! あんまり声出すとあのプレシアとか言うヤツにバレちまうぞ」

 

「あっ……」

 

 

思わず口に手を当てる。

湿っぽい霧は静かさを辺りに響かせ、視覚を潰すかわりに聴覚を研ぎ澄ます。それは相手にも同じことで、大声など出したらすぐに見つかってしまうだろう。

 

 

「アイツのことどうにかしないと。またさっきの攻撃が来たらどうしようもない……」

 

「どうにかってオマエ、ペルソナどころか銃も使えなかったぞ」

 

「くっ……!」

 

「おそらくだがナイフも期待できないだろうな……文字通りの無力だ」

 

 

ワガハイも戦えないしな、という言葉を聞きながら、もう一度ペルソナを使おうと試みるが、忘却状態でもないのにうんともすんとも言わず、服装が変化することもなかった。

 

 

「何かの力でペルソナの力が封じられているのか?」

 

「というより認知の歪みによる力が使えなくなってるっていうのが正しいかもな、あの守銭奴の子供も似たようなこと言ってただろ」

 

 

ペルソナが使えたイセカイは認知の歪みによる産物。

 

それがこの世界で使えるのは付与されるファイターの力にペルソナが付属しているからか、この世界そのものにイセカイと似たところがあるからという解釈をしていた。

前者ならば、むらびとも同じようなことになっていてもおかしくはない。

 

 

「……ファイターの力がペルソナの力だから、今の俺は……まずい……!」

 

 

思考を巡らせる傍らで、足音がこちらへ近付いてくるのに気づく。

怪盗として戦えなくても、その活動によって研ぎ澄まされた感覚は衰えない。敵意に気づき咄嗟に茂みに隠れる。霧のおかげで身を潜めるのに適していた。

 

 

「あれは……」

 

 

こちらの行方を捜すように、辺りを見渡す人物。しかし、それは雨宮蓮もよく知るスマッシュブラザーズとそっくりだった。

 

 

「……いや、あれは本物じゃねえな。アカネのジェイルに出てきた認知の産物でもない。粗悪なパチモノって表現が一番近いか」

 

 

キーラとダーズの戦いを知らない彼らはボディのことを知らない。だが、その本質は正確に捉えていた。

 

 

「どうする? 実力でどうこうするのは非現実的だぞ」

 

「……やり過ごそう。動こうとしたらそれだけで見つかる……」

 

 

今隠れているのは、建物の柱や壁ではなく茂みだ。

 

どれだけ気配を消そうが、動こうとすれば葉が擦れて確実に見つかる。森林の中のパレスなどなかったからこそ、今は戦えないからこそ、焦る訳にはいかなかった。

 

 

「(ペルソナさえ使えれば……!)」

 

 

無力さのせいで歯がゆい気持ちになるのは久しぶりだった。

握りしめた拳が痛いほど力が込められて、張り詰めた弦が切れてしまう。

 

 

パキッ

 

「ッ!」

 

「しまった!」

 

 

集中はいつまでも保つものではない。足下の枝を踏みつけてしまい、軽い音が鳴ってしまう。

 

気づかれないはずもなく、リンクのボディから放たれたソードビームが茂みを一直線に刈り取る。

 

 

「くそっ……」

 

『……』

 

 

3体のボディ。絶望の数。横飛びした体はなんとか泣き別れを回避した。

ないよりマシだとナイフを構えるが、認知の歪みがなければただの模造品だ。焼け石に水が正解なのかもしれない。

 

追い詰められて少しずつ後ろに下がり、滅びまでの時間をほんの少しでも延ばしていく。

 

 

「やめろお!」

 

「モルガナ!?」

 

 

モルガナが3体のボディのうちの先頭の顔に貼り付く。引き剥がそうと暴れられてもしがみついたまま顔をひっかく。

 

 

「蓮! 今のうちに遠くに逃げろ! うわああ!」

 

「っ……! できるわけがない!」

 

 

しかしついには引き剥がされてしまう。

仲間を置いて一人だけ逃げるなどできるものか。今の自分は無力だが、モルガナも同じように無力なのだ。

 

 

「こ……のっ!」

 

 

覚悟と助走をつけて直接殴りにかかるが、易々と受け止められ、返しのカウンターで正拳突きが飛んでくる。

どうにか左腕で直撃は防ぐが、骨を砕くほどの衝撃を受け、後ろへのけぞりながら痛みで痺れた左腕をかばう。

 

 

「うぐっ……くうぅ!?」

 

「蓮!」

 

 

更に追撃の剣の一薙ぎが左腕を襲い、長袖の服ごと切り裂いた。ざっくりと深手を負い、赤い血液が流れ出る。

飛ばされたモルガナが叫ぶ。自分が、彼が、ペルソナを使えれば。どうだってできるのに。

 

 

「っ!」

 

「おいっ!」

 

 

なにかの覚悟を決めたように、蓮が咄嗟にモルガナの前方に立つ。自分の失態でこのピンチを招いたのだから、逃げるのはモルガナの方なのだ。

 

 

『……!!』

 

「……っ!」

 

 

敵意が動き、襲いかかる3人。思わずギュッと目を瞑る。だが、ここだけは動かない。例え自分がどうなろうとモルガナは守る。そのつもりだ。モルガナの声がやけに遠くに聞こえる。

 

それを切ったのは、近くで何かの爆発する音だった。

 

 

「えっ……」

 

 

眼前のボディがいない。そこにあったのは焦げた地面だった。

 

 

「だ、大丈夫ですか」

 

「あっ!」

 

「リュカァ~……!」

 

 

木の陰から少々オロオロしながらひょこりと顔を出す。

 

無力な2人ではない。さっきの炎はPSIの力。超能力。それはリュカ本人の力であった。





◯タイトル
MOTHER3におけるゲームオーバー画面のBGM。
MOTHR3の曲名ってなんとも気の抜けた感じのタイトルがいいですよね。


◯ラヴェンツァ
彼女だけスピリットに登場していなかったので記載。まあ重要なネタバレ区間なので仕方ないですが。
ざっくり説明すると、色々あってカロリーヌとジュスティーヌに分けられた、いわば元の存在。本来は彼女がジョーカーを支援するつもりだったが、双子にわけられてしまったために終盤まで出てこない。
しかし、続編にあたるスクランブルでは時系列的に後の作品ということもあり最初から支援してくれる。かわいい。
その後も自由に双子になったりできるようで、総攻撃してきたり外伝でわかれたりする。かわいい。


◯モデルガンとナイフ
ジョーカーの武器である銃とナイフはレプリカであり、現実世界で殺傷能力はない。認知の世界ではいかに本物らしく見られるかが威力を左右する。


◯リュカ
原作では、物理攻撃と回復を主に使い耐久に恵まれたステータス。
ネスも大体そんな感じだが、スマブラで使えるPSIの中に原作で使えるのは一部のみなのは有名な話。
ですが、PKスターストームはクマトラという仲間から教わったものではとXあたりのフィギュアにあったので、その他のPSIも扱えるものと設定しています。本格的に隙のなくなったリュカくんは救世主になり得るか。ちなみにネスも同じように考えています。
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