大乱闘スマッシュブラザーズ Histoire Artificielle 作:蘭沙
「も~う~!」
脇目も振らずに逃げ続ける数字のついた赤い服に半ズボン。すま村の村長むらびとは今現在、脇目も振らずに逃げ続けていた。
やはりプレシアに一撃加えようとしたときと同じく、自分の中の与えられた力が完全に抜けていたのだ。
『…………』
「はぁ……はぁ……!(いつまで追ってくるんだよ~!)」
むらびとの後ろから追ってくるのは1体のボディ。
あのプレシアとかいう奴に見つかったらまずいということで、仲間の誰かと合流するために霧が薄そうな方へ歩いていたところ、ばったり出会ってしまったのだ。
誰かとは考えたが、仲間とプレシア以外の三択目を願った覚えはない。ボディなんて全部で何体いるかもわからない奴等がいるならもっと慎重に動いていた。
見つかったボディが1体で、なおかつソニックのような足の速い姿をしていなかったことは不幸中の幸いだった。でなければ、狭い歩幅ですぐに見つかっていただろう。
「(どっか誰かいない~!? うちの村にベッソウ建ててもいいからさ~!)」
その幸運もいつまでも続くものではない。
ボディと相手ができる誰かとの合流はむらびとにとって急務だった。大声を出して呼び寄せるべきなのだろうが、敵も呼んでしまうし、何よりそれをしたらすぐに追いつかれる。どうにかして合流するか撒くかしなければ。
「とりあえずっ……! 足止め!」
自分が持っている中で唯一使えそうなものであるパチンコをボディの足下に撃つ。ちょっとだけ足を止め、少しだけ距離を伸ばした。
「でもまだ来るしー!!」
それでもそれ一つにこの敵1人をどうにかするほどの力はない。風船を撃ち落とす程度のパチンコはそもそも戦闘に使うようなものではなく、当たったとして急所でもなければ少し痛い程度でしかない。
「とにかくどっかに──!」
『…………!』
咄嗟に急ブレーキをかけたむらびと。絶望の表情が垣間見えるのは、前方を塞ぐように別のボディが飛び出してきたからだ。
「うわぁ……!」
やられたらやり返すと言わんばかりに先ほど同類にしたことをそっくり返される。しかし、四丁拳銃による射撃は足下ではなくむらびとの足に直接撃ってきたのだ。大乱闘では存在しない、感じたことのない痛み。マスターハンドの力のありがたみをこんなところで理解した。
地面に転がるむらびと。無意識に視線を足のほうに動かし、気づいた。
今まで無我夢中で逃げてきたせいで、銃撃を差し引いても、足に細かな傷が無数にあったのだ。走っている最中に葉や枝で負傷したのだろう。自覚した以上、もう動けなかった。2人のボディがゆっくりと迫ってくる。自分の心臓の音がやたら大きく聞こえた。
「(駄目だ……もう、最終手段しか……)」
『…………』
「誰か~!! 助けてッ!!」
敵も呼ぶ、でも味方も呼ぶ。
明確に命の危険が差し迫っている今を見捨てて、なくなるかもしれない未来はとれない。後は、天に、任せるしか、
「……何をしているのです」
「! ロゼッ……!」
歓喜の声は打ち切られた。ただ、唖然とした。
自分に寄るように、ボディの間に割り込むように近付くのは本物のロゼッタだ。ボディの模造品では決してない。
だが、彼女は今まで見たことがないような冷たさを放っていた。内から湧き出す激情を冷徹さという形で表に出している。それは二つ名の魔女という名に違わない様子だった。
放った言葉は疑問形のようなのに、口答えを許さない厳格さを持っていた。片方だけ見える目は据わっていた。こんな一面をむらびとは見たことがなかった。
『…………!』
その異質な雰囲気を感じ取っていたからか、座り込んでいるむらびとにとどめを刺すよりも静かに近付いてくるロゼッタを相手にすることを優先させた。
ボディの迫るキックを一切動かず瞬間移動でかわす。もう1体のボディと共に同時に攻撃を仕掛けてる。
「……」
月の柄のバリアを張り、2人まとめて弾き飛ばす。木に激突したボディに追撃するでもなく、ひたすら感情のない冷たい目で見ていた。感情が通り過ぎて込める価値すら感じなかった。
『……ッ!!』
即座に武器を持って真っ正面から斬りかかる。その一閃を滑るように避け、足払い。銃撃をはじめたもう1体のボディはスターピースで全弾を撃ち落とした。
「すご……」
ちゃんとした褒め言葉が出てこない。一切自分からは仕掛けていないのに2人の敵を完全にいなしている。いや、仕掛けていないからか。攻撃にまわす余裕を対処に集中できるからこそ、完璧に戦えているのだ。
『……!』
「あっ……!」
ロゼッタを落とすのは難しいと感じたのか、むらびとへ向けられる銃口。即座に立ち上がるのも難しい彼にかわすことは不可能だ。どうしようもない、が。
「……そちらを狙うのですか。ああ、許されません」
それは第三者の介入がなければの話だ。引き金を引き、放たれた弾丸が急に軌道を変え、ぐるりと彼女の周りを回った後、ボディ2人に突き刺さる。
「アイテムキャプチャー!?こんな使い方できるんだ……」
立ち上がるボディの後ろへ回る。これは瞬間移動によってだ。反応の遅れた1体がまるで星の引力に引っ張られるようにぶっ飛ばされていく。
「つよ……」
それに気を取られているもう1体のすぐ前に立つ。今度は瞬間移動でもなく、気配もなく近づいていた。
「ハッ……!!」
『…………!』
そして同じように、磁石の同じ極が反発するようにぶっ飛んでいった。
「ロゼッタ、こんなに強かったの……?」
失礼だが、むらびとはロゼッタ本人がそこまで強いとは思ってなかったのだ。星の子に指示して戦う技巧派のイメージがあった。
しかし、その実態は名の如く魔女。ほとんど触れすらせずにボディ2体をあしらった。
「すごいや……」
「無事ですか……?」
先程のような冷たさを一瞬に無くし、ほのかな焦りを馴染ませながらこちらへ近づくロゼッタ。そういえば、痛みも傷も忘れていた。
「うん、だいじょ……あたた……」
そして立ち上がろうとした時に思い出した。片膝をついた体をロゼッタが支える。両肩を掴んだ彼女の顔は本当に心配そうに眉を下げていた。
「……こんな時に言うことじゃないけど、そんな顔もするんだ」
「……そんなに意外ですか」
「えっ、あっ、ごめん!」
「いえ、気にしているというよりは……なんと言いますか、表情が動いていないように見られているのを反省しているのです」
「表情がないって思ってるわけじゃないけど……」
ロゼッタは大抵、微笑か素の表情であり、余裕のある大人というイメージがあるので、先ほどのような焦った顔をするのは意外だったのだ。そして、その言葉に傷つきもする。
「あー……でもたしかにあんな元気いっぱいのチコの親だから変でもないのか」
「……ふふ、探検のために応急セットを用意しておいて正解でした。応急処置をしたら他のみんなも探しに行きましょう。私だけで動けたら良かったのですが……」
「一度はなれたら合流できそうにないもんね、歩くよ」
仕方がない。そう返すと再びロゼッタは笑う。母親だからこその面。子供で、力のない自分にもできること。それはちゃんと守られることだ。それが子供で無力な自分の義務だ。
冷たくて心地の良い手が、足の傷に包帯を巻くのを眺めながら、ようやく友を心配し、今後を思考する余裕が生まれた。
「(なんで戦えなくなってるんだろ……ファイターじゃなくなってるってことかな。なんで僕だけ……あ、だけじゃない、
自分のことはなにもわからない。とりあえずは仲間を探しながら、その謎も解明していくしかない。
「(武器持ってるトゥーンとかはまだしも、リュカとかネスは大丈夫なのかな。僕みたいに戦えなくなってなければいいんだけど)」
理由がわからないから、彼らも戦えるとは限らない。それでもむらびとは祈るしかできなかった。
◯タイトル
MOTHER2のキャッチコピー。エンディングまで〜は初代の方です。
ただ、今話だと、おとなも(ロゼッタ)こどもも(むらびと)、おねーさんも(ロゼッタ)になりそう。ほんとは他の面子もまとめて書く予定だったのですが、ブチギレロゼッタさんが暴れ散らかしたので予定を変更しました。
◯パチンコ
主に風船を撃ち落とすのが使用用途ですが、たまにペリカンも墜とせます。唯一使えそうなものとして挙げられましたが、工夫さえすればもうすこし使えるものは増えます。
ただファイターの力なしでは動く標的に斧を当てられません。なのでむらびと本人が戦闘用途に斧を使うことはないでしょう。
◯ロゼッタ
大乱闘でも使える技の他、ラケットを手を触れずに動かすことから、軽い念力、そして踏んだ時に使う月のバリアも使用できます。
現状チコはいませんが、いなくても普通に強い。
◯作者の気まぐれコメント
むらびとは、普段のネスリュカが治療系能力を持っていることは知ってます。ですが、ファイターの力がマイナスにしか働いていないので、『特定の人物の力を封じている』と思っているため、治療能力も使えないと思ってます。
ロゼッタはファイターの力が封じられた結果、使えなかった技が使えるようになった=普段と同じになったとわかっていますが、治療能力のことを知りません。
すれちがいまくってます。すれちがい伝説です()