Pokémon SAGA ; 勇者と3人の弟子 作:ソロ・アジュール
ポケモンたちが国を築き、ぶつかり合い支え合いながら暮らす世界
闇の脅威が迫る世界で、青年の旅路は綴られる
700年前、まだ大陸中で戦争が絶えなかった頃。
地下深くから黒いエネルギーが溢れ出した。
それはポケモンたちの心の闇を増強し、各地の戦火は一層激しさを増してしまった。
そこには正義は無く、戦う意味すら失った、暴走のみで溢れた。
その闇はいつしか大陸中に広がり、世界は混沌に包まれていった。
しかし、そこに希望の光が現れた。
神の加護を受け、一説には異世界からやってきたとも言われる光の勇者は、大陸中を巡って光の心の持ち主を集め、軍団を築いた。
光と闇の衝突。
西の最果てに顕現した元凶と激しい戦いを繰り広げ、そして闇は討たれた。
そしてバラバラだった世界は、闇の脅威というきっかけを機に手を取り合い、ひとつになったのだった。
時は経ち、光と闇の衝突が神話になった頃。
闇の脅威が復活の兆しを見せたところから、物語は綴られる。
これは、そんな闇に対抗するための旅路を描く物語である。
とある朝。
この大陸の中心に聳え立つ盟主国アルス・デ・パラドの王宮。
王宮を慌ただしく駆け抜けるエルレイドの姿があった。
普段目にすることのない彼の焦りにも似た慌てた姿に皆困惑するも、そんなことに一々構っていられぬといった様子だった。
彼は大きな扉を勢いよく開け放ち、その円卓に向かい言い放った。
「団長が、ダイン騎士団長が消えた!」
そこにある6つの席のうち4つを埋めていた面々が騒然とする。
彼らの視線がひとつ際立つ豪華な椅子に向けられる。
彼らは盟主国を、そして大陸を守護する光の象徴、光の騎士団。
復活しつつある闇の脅威に対し先頭に立って立ち向かう彼らの長、騎士団長の失踪。
彼らの戦いは不穏な幕開けを見ることとなってしまった。
平穏な日常を送るものたちで賑わう田舎町。
メインの通りでは多くのポケモンたちが往来し、元気なきのみ商や昼間から騒がしい酒場が並んでいる。
そんなほのぼのとした町に訪れた男がいた。
「ここではかえって目立つな。」
彼はそう言ってボロボロのフードを脱ぎ、明るくなった視界に目を細めた。
そんな彼を誰も気にすることなく日常が繰り広げられている。
ここは大陸の東部に位置する煌炎の国、その城下町から少し離れた山間部の田舎だ。
貿易などで訪れた旅人たちの中継地点となるこの町では他所者は珍しくなかった。
彼は長く尖った耳をすこし振るわせ、目についた酒場に入った。
店主のガルーラが忙しそうにカウンターで動き回り、フロアでは従業員と思しきカラカラが走り回っている。
彼はひとまずカウンターのいちばん端に座り、荷物を置いた。
忙しそうにしながらもガルーラは笑顔で彼を迎える。
「いらっしゃい! あんた、見ない
彼、ルカリオは応える。
「まぁそんなところです。」
「ここいらじゃ旅人は珍しくないがね、あんたさんみたいないいとこ育ちっぽいのは中々見ないよ。」
ルカリオは少し驚きを見せ、さっきまで羽織っていたボロボロのフード付きマントに目をやった。
「あぁあぁ、確かにそのマントとか袋とかはお高いようには見えないけどさ、毛並みでわかっちゃうのよ。」
彼の様子を見て察したのか、ニコニコしながらそう言葉を続けるガルーラ。
流石は多くの旅人が利用する酒場の店主といったところか。
ガルーラは彼にオッカラッシーを提供しながら会話を続けた。
「んで、あんたさんもお城に行くのかい? この先は山道がちと厳しくなるからみんなここで一旦泊まっていくもんさ。」
「いや、あるポケモンを探してるんです。」
「あらそうかい。確かにここは多くのポケモンが訪れるがすぐに行ってしまうからねぇ。まぁでも情報を集めるのにはいいかもしれない。」
ガルーラは交流するポケモンたちを視線で示した。
確かに、色々なところから集まってきているような雰囲気を感じる。
それぞれが様々な目的を持ったものたちだ。
そんな店内を見回していると、ふとあるポケモンが目に留まった。
「マスター、あのポニータは?」
店の角の方に大人しく座り込むポニータの姿。
まだ幼いようにも見えるが、周りに保護者らしき姿もない。
少なくとも酒場という空間には明らかに異質な存在だったが、今にも消え入りそうな小さな背中だった。
「あぁあの子ね…」
ガルーラの声色が悲しみを含んだ。
「ほら、最近例のあれ、闇のなんたらのせいで所々治安が悪化しているでしょう? この町も例外じゃなくってね、あの子みたいな孤児もちょっと増えてきちゃってるのよ。面倒見ようにも心を閉ざしてしまってるみたいだし、私に出来ることは食事を出すことと見守ることだけなのよ。」
ルカリオがポニータの背中を見つめる。
炎のたてがみは心無しか勢いが無いように見えた。
ルカリオは膝の上の拳に力を込め、この光景を目に焼き付けるようにしっかりと見つめていた。
「そうだ、それと旅人のあんたさんに気を付けておいてほしいんだけど。最近その孤児たちが集まって悪事を働いていてね。自分たちをヤミクモ団って名乗って旅人たちをターゲットにしているの。」
「ヤミクモ団…町の掲示板で見かけました。気をつけます。」
ルカリオはお代を置いて席を立った。
店を出る直前、目から光を失ったポニータを一瞥した。
翌日、彼は町の中心部にある広場に訪れた。
遊びに来た親子やくつろぐ老夫婦など、ほのぼのした光景が広がっていた。
しかし突然、大きく鈍い音と笑い声が広場に響いた。
途端に逃げるように広場を去るポケモンたち。
音の方へ目を向けると、複数のポケモンがポニータを囲んでいた。
「あのポニータ、昨日の…?」
抵抗することなく全身で攻撃を受け続ける。
完全にリンチだった。
見かねたルカリオは彼らに歩み寄って声をかけた。
「弱いものいじめがそんなに楽しいか?」
彼らが一斉にこちらを睨む。
見てみると彼らもまた、まだ若いポケモンばかりだった。
「あんたには関係無いだろ。」
「コイツには帰る場所も家族もない。だから傷付けてもだれも悲しまないし。」
「そもそもオレたちの道を塞いだコイツが悪いんだし。」
ルカリオが彼らの言動から、彼らが件のヤミクモ団であることを察することは容易だった。
彼は呆れながらも鋭い眼光で睨み返した。
「ってかあんた誰よ?」
「ムカつくんだけど。」
「なぁなぁ、コイツもやっちまおうぜ。」
標的がルカリオに移った。
ジリジリと歩み寄ってくるヤミクモ団。
彼はため息をついてしまう。
「舐めてんじゃねぇ!」
最初に飛びかかってきたのはコラッタ。
軽く身体を傾けて“ひっかく”攻撃を避ける。
続くヤンチャムの“つっぱり”を全て片手でいなすと、ヤブクロンの“アシッドボム“を顔面に蹴り返した。
「どうする? まだやるか?」
後退りする3匹を前に、横目でポニータに今のうちに逃げるよう視線で伝える。
ポニータが逃げていったのを確認すると、ルカリオは手のひらに波導を集中させた。
それを見て危険を感じたコラッタが真っ先に逃げ出し、ヤブクロンが腫れ上がった額を擦りながらそれに続く。
「こ、このやろう! グラム様に言いつけてやるからな! 覚えてろ!」
ヤンチャムは最後に”捨て台詞“を吐いて逃げ出した。
力を抜くルカリオ。
やれやれと振り返ると、もうポニータの姿はなかった。
その夜、ルカリオあの酒場を訪れていた。
ガルーラは相変わらず忙しそうで、カラカラは相変わらず慌ただしい。
酒を呑み交わす旅人たちで昼間以上に賑わう店内の角には、昨日と同じポニータの姿があった。
「今日も来てるんですね、あの子。」
「ん? あぁ…少し怪我をしているようだけど、何があったか聞いても何も教えてくれないから困っちゃうよ。」
「そうですか…」
ルカリオは席を立ち、ポニータにゆっくり歩み寄った。
確かに、傷が癒えていないように見える。
彼はゆっくり身を屈めてポニータに話しかけた。
「少年、無事でよかった。」
ポニータはゆっくり振り返ると少しハッとした表情を見せたが、尻込みするように俯いてしまった。
身体だけではなく心に傷を負っているのを感じた。
おそらく、大人と話すのに勇気がいるのだろう。
「大丈夫だ。俺は君が無事でいてくれて嬉しいよ。」
優しく微笑むルカリオ。
「ぁ………ぅ……ぃ……」
ポニータの口から今にも喧騒に掻き消されてしまいそうなか細い声が発せられた。
ルカリオは丁寧に耳を傾けて彼の言葉を拾い上げる。
「ありがとう…ございます……」
少し怯えながらもルカリオの目を見上げるポニータに、優しく笑顔を返しながら頭を撫でる。
全身の強張りが緩み、弱々しい目にかすかに光が戻った。
しかしその目は、店の扉が蹴破られた音によって再び怯えたものに戻ってしまう。
扉の破片を蹴飛ばしながら入ってきたのはズルズキン。
その背後には昼間見たコラッタ、ヤンチャム、ヤブクロンの姿もあった。
迷惑な来客を追い出そうとするカラカラを問答無用で蹴り倒すと、ズルズキンがルカリオを見つけてズカズカ近付いてきた。
「おうおうアンタかいな。昼間ウチのチビたちが世話になったようやなァ?」
入店から明らかではあったが、初っ端から喧嘩腰だ。
ルカリオはそんな勢いに怯むことなく向き合うと、ズルズキンの爪先から頭までをじっくり観察した。
「お前がこの子たちが言っていた
額を擦り付ける勢いで睨みつけるズルズキン。
ルカリオは表情を変えずに睨み返す。
「テメェなんかのためにわざわざグラム様が出向いてくるかよ。雑魚がイキがってんじゃねぇぞ。」
ズルズキンの言葉を聞いてフッと息が零れてしまう。
自分を馬鹿にされたと感じたズルズキンがその拳をルカリオの顔面目掛けて突き上げた。
しかし、ルカリオは余裕の表情でその拳を顔面でそのまま受け止めてしまった。
「まぁそうだよな。そこの子たちみたいな雑魚がちょっと怪我したくらいであっちこっち出向いていられるほどヤミクモ団のボスは暇じゃないよな?」
煽るようにわざと大きな声で言うルカリオにズルズキンはますます怒りを露わにした。
相手を威圧するように”ビルドアップ“して臨戦態勢になる。
目は血眼で怒りに身を任せて今にも襲いかかってきそうだ。
「今のパンチでだいたい分かった。お前、弱いだろ。」
追撃の煽り文句に怒りが頂点に達したズルズキンが、その拳に溜めた力を一気にぶつけてきた。
しかし今度もまたルカリオは楽々とそれを受け止めてしまう。
ズルズキンの表情が変わった。
恐れ、焦り、冷や汗が彼の額を伝う。
「まさか今のが“気合いパンチ”だなんて言わないよな?」
完全に受け止められてしまった拳を引き剥がして少し間合いを取るズルズキン。
埃を払うように肩を撫でるルカリオの様子に恐怖すら覚えた。
「テメェ一体…ッ!?」
ルカリオの全身に波導の力が通いはじめる。
足元に散らばる扉の破片がカタカタと震えるほどに強い力だ。
一度目を閉じて呼吸を整える。
店内にいる全員の肌がヒリつく。
再び開いたその瞳には闘志が宿っていた。
「俺はただの旅人だ。お前と戦ったところで何の損失も無ければ利益も無い。お前たちがどんな企みをしているのかも知ったことではない。そしてこの店にこれ以上迷惑をかけたくないとも思ってる、この意味、わかるな?」
ゆっくりとしたその言葉にズルズキンは怯む。
後ろの3匹は恐怖で震えていた。
その様子を見てか、ズルズキンは舌打ちを残して破れた扉をくぐっていった。
ズルズキンたちの姿が見えなくなると、ルカリオは肩の力を抜いて席に戻る。
騒然とする店内を気にすることなく、彼は袋の中から大金を取り出してカウンターに置いた。
「ごめんなさいお騒がせしてしまって。これでお店直しておいてください。」
薄まったオッカラッシーを飲み干して店を出ようとするルカリオ。
ぽかんとしていた店主のガルーラは慌ててカウンターを出て彼を引き止めた。
「旅人さん、あんたさんちょっと訳ありみたいだけど、名前だけでも聞かせてくれないかい?」
ルカリオは視線だけ振り返り、ボロボロのマントを肩に掛けながら応えた。
「ダイン。」
どうもソロ-です
なんかめっちゃ気まぐれなんですけどポケモンで物語を描きたくなっちゃいました
勢いだけで始めたので不定期投稿だし見切り発車気味ですが、マイペースに投稿したいと思います。