仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 デュオル×ビャクア ユニゾンウォー   作:マフ30

1 / 14
エピソード0 ロストアウト/百鬼夜行・異世界道中

 

 

 これは仮面ライダーが空想であるはずの一つの世界を二人の戦士たちが救ったその後の物語。

 ほんのささやかなオマケであり、これからに続くとある出会いの記録である。

 

 月が綺麗な穏やかな夜に、その怪奇現象は前触れもなく起こった。

 真っ黒い霧のようなものが何処からともなく溢れ出してあっという間に街の一区画を包み込んでしまったのだ。

 あらゆる通信機器は使用不能となり、まるで世界と隔絶されてしまったその街はそこに暮らす人々の安否さえも定かではなくなってしまった。

 ただ近くに居合わせた人々は誰もが謎の気配に身の毛もよだつ気分を味わったという。

 姿も見えず、声も聞こえず――けれど、夥しい数の何かが其処にいることを彼らはその肌で理解せざるを得なかった。

 

 

――冥く愛しき暗天舞台よ、我らが客を誘え!!

 

 

 規制線が張り巡らされて、駆り出された警察関係者や野次馬たちがごった返したあちこちで、誰かが――誰もがそんな不気味な囁きを耳にしたような気になった。

 その囁きは本来ならば聞こえるはずのない久遠の向こう側からの呼び声。

 密かに魔人教団からの侵略に晒されているこの世界には在るはずのない穢れより生まれ落ちた異形たちの妖しき囁きのはずであった。

 

 

 赤い空が世界を食む。

 穢れを孕んだ黒い瘴気が膨大な霧のように広まって世界を侵食していく。

 そこはまるで夢と現の境目。真実と虚構が曖昧に濁る歪な世界。

 血染めのような空に月も太陽も存在せずに、模倣された街の景観こそ完璧だがそこに生命の気配は皆無だ。

 

 事実、この暗天と此処とは別の世界では呼ばれている異空間に人間の存在などありはしない。

 この閻魔の領地を再現したかのような赤い世界に跋扈するのは古来より恨み辛みといった人間の負の情念の吹き溜まりに意思が芽生えた異形の存在。――その名を化神。

 

 動植物と人間社会が生み出した武器や道具とが融合したような奇奇怪怪な外見をした人知の外にある化生の者たち。

 いまこの暗天の空間には驚くべきことにその化神たちが無数に徘徊しているのだ。

 その数はざっと百を超えるか否かといったところだろうか。

 化神たちはみな黒い靄に包まれた躯を得たばかりの個体たちばかりではあったがそれだけの数が揃えば圧巻であった。

 

 世界を蝕もうと蠢く百鬼夜行。

 立ち塞がるは一騎当千の仮面の者。

 

『スペリオルライダァアアアキィ――ック!!』

 

 人間の臓腑を思わせる不快な赤空を裂いて、流星のように駆け抜けた一撃が群がる化神たちを急襲した。

 

『キシャァアアアッ!!』

 

 謎の攻撃に突如として仲間を幾体かやられた化神たちは殺気立った奇声を上げて遥か彼方より駆けてきた乱入者を睨み、各々は鋭い牙や爪、腕と一体化した刃いった凶器を向ける。

 

『どこのどいつだお前ら? メタローかと思ったらまるで学校の怪談じゃねえか』

 

 粉塵が晴れたその先には一人の仮面の戦士がゆらりと構えて仁王立ちしていた。

 真紅の武骨な胸部装甲。

 白銀の手甲と脛当て。

 鍛え抜かれた体躯を包む漆黒のアンダースーツの側面を走る二条の金色のラインには古代文字が並ぶ。

 額から伸びる二本のショートアンテナを備えたフルフェイスの仮面はカマキリの頭を模したように鼻先がシャープに突き出たフォルムをしていた。

 

『けど、まあ……触れるってところは可愛げがあっていい。思いっきり殴って蹴れば退散するんだろう? シンプルでありがたい』

 

 清廉な炎を思わせる赤い双眸に数え切れない異形たちを捉えながら戦士は剽げた佇まいの裏で戦意を研いで拳を握った。

 男の名は双連寺ムゲン/仮面ライダーデュオル。

 歴代の仮面ライダーたちの力を借り受けて、高次元生命体メタローが結成した魔人教団と戦うこの世界でただ一人の仮面ライダーだ。

 

『ガルァアアア!!』

『とはいえだ……夏は過ぎたし、ハロウィンにゃ気が早過ぎるんだよなあ』

 

 凶暴な殺気を先走らせて単独で飛び掛かってきた野犬のような化神の攻撃に対してデュオルは敢えて一歩下がって間合いとタイミングを狂わせる。

 空振りする牙と両脚が地に着地した僅かな、しかし致命的な隙を狙い澄まして化神に繰り出された渾身の拳は化神の鳩尾にめり込むとそのまま異形を四散させた。

 

『ハッ……脆いな。これから成長していくって仕掛けか?』

 

 新たにまた一体蹴散らされた仲間に理性も知能も育ちきっておらず、生まれたばかりの獣同然に本能だけで活動する化神たちはデュオルを完全に敵と認識して一斉に襲い掛かっていく。

 

『どうだっていいか。どの道、お前ら全員……片っ端からぶっ潰す!』

 

 化神の群れによる大津波にデュオルは真っ向から殴り込んでいく。

 右へ左へと放たれる剛腕がまるで芝刈り機のような激しい攻勢で異形たちを殴り倒す。

 

『シィイイイヤァッ!』

『舐めんな! オオオリャア!!』

 

 背後から奇襲を仕掛ける昆虫型の化神の手首を紙一重で掴むとそのまま生来の超人的な握力で圧し折ると同時に一本背負いの要領で地面に叩きつける。

 更にデュオルは投げ倒した化神を踏み台に高く跳ぶと勢いを乗せたドロップキックで数体を纏めて蹴り飛ばしてみせた。

 

『どうしたぁ! そんなもんか……よぉおお!』

 

 何度か化神たちの攻撃を受けながらも、最小限の被害に抑えて反撃の一撃で確実に仕留めていく。逆水平の手刀は斧のように異形の胴を二つに割り、槍のように突き放たれる蹴りは相手の体を砕くか抉る。

 デュオルは無我夢中に暴れて、敵陣深くに驀進する――ように見せかける。

 

『ここらでいいか』

 

 気が付けば蟻が群がる巣に飛び込んだようにデュオルの周囲は化神たちで溢れかえっていた。まるで包囲網を敷かれたように、どこを見てもデュオルの視界には多種多様な化神たちが自分を倒そうと息巻いている。

 

『キシャアアッ!!』

『……ブチかますぜ!』

 

【FULL SPURT! READY!!】

 

 一見すると絶望的な景観。

 無数の雄叫びが重なり合って一つの巨大な怪物の鳴き声のように轟いて、化神たちが我先にとデュオルを狙って襲い掛かってきた。

 だが、デュオルはそれを待ちかねたとばかりに闘志を漲らせると腰に巻いたデュオルドライバーのライトトリガーを引いた。

 

『オラオラオラオラオラオラオラァアアア――ッ!!』

 

 四肢を駆け廻るエネルギーの奔流。

 特に双腕に敵を打ち砕く絶対の力が満ち溢れていることを実感しながらデュオルはガトリング砲のような苛烈な勢いで連続パンチを繰り出した。

 

『アギャ――――ッ!?』

 

 爛々と輝く鉄拳が乱れ飛んで化神たちを打ち抜いていく。

 多勢に無勢で勝ちを確信していた化神たちであったがいざ攻撃を仕掛けた途端にその密集さが仇となって回避にまごつくことになった。

 その結果、彼らはデュオルにとっての絶好の的、殴り甲斐のあるサンドバッグ状態になっていたのだ。

 

『――スペリオルライダーパンチ!!』

 

 砂塵が舞うほどに長く激しい拳打の嵐が止んだ。

 一息入れて、デュオルが残心を取ると一拍を置いて、殴り貫かれた化神たちが一斉に爆散した。

 それはまるで花火が地上で暴発したかのような強烈な光景であった。

 

『これで半分とちょっとってところか?』

 

 硬く握り締めていた指をほぐしながら、デュオルは残存する化神たちを睨んだ。

 数えるのが馬鹿らしく思えるほどの物量ではあるが一体一体は脆弱だ。

 敵の正体が不明なのは気掛かりだがこのままいけば大きな問題も無く、全て倒せるだろうと脳内でここからの戦いの流れを組み立ていた時だった。

 魑魅魍魎然とした化神たちの群れの最奥に異質な気配を感じ取った。

 

『よお、お前が親玉か?』

 

 いつでも仕掛けられるように神経を張り詰めて、デュオルが声を投げると気配の正体は静かに、されど堂々とした佇まいで眼前に姿を露わした。

 

『否定しよう。俺はあくまで協力者にすぎない。彼ら化神に定まった主君というものは存在しないようだ』

 

 デュオルの前に立ったのは全身を飾り気のない漆黒のアーマーで覆った人型だった。

 人間なのかメタローのような怪人なのかも判別が難しい。

 鬼を思わせる機械的な二本の角をあしらい、青い単眼を持ったフルフェイスの頭部が男の無機質な声色も相まって生き物なのか無機物なのかさえも怪しく思わせる。

 

『化神ねえ……知らない連中だ。不味いな、我ながら好き勝手に暴れ回ったから第一印象は最悪かもしれねえや』

『気にするな。俺もそうだが彼らもお前の……もとより、この世界の敵であることに変わりはない』

『だと思った。親切にどうも……で、お前はなんだ?』

 

 化神たちの怒気を孕んだ鳴き声を雑音程度に聞き流しながら、デュオルは機械的な調子を崩さない単眼の人物に凄む。

 瞬間に両者は同時に動いた。

 目的は一つ、先手必勝の攻撃を相手に叩き込むためだ。

 

『シャアッ!』

『ウラァアア!』

 

 寸分違わないタイミングで放たれた拳と拳がぶつかり合い、大気がビリビリと震えた。

 口にはしないもののデュオルの方は相手の手から伝わってくる底知れない実力に気を引き締めていた。そして、正体不明の単眼の戦士はついに自らの素性を明かした。

 

『俺の名はDマーダー。お前専属の殺人鬼だ』

 

 淡々と単眼の刺客はそう名乗りを上げた。

 この世界でただ一人、デュオル(お前)だけを狙う殺し屋なのだと。

 あまりにも突然に告げられた出来事ではあるが怜悧冷徹な攻撃がハッタリではないことを物語っている。

 

『……やってみろよ』

『遠慮なく。俺は俺のミッションを遂行させてもらおう』

 

 Dマーダーの二撃目の攻撃を目にも止らぬジャブで打ち払い、デュオルは側頭部に目掛けて鋭いエルボーを決める。だが、敵方も機械のような精密で無駄のない動きでこれを防いだ。

 

 デュオルの纏う気配はすっかり切り替わっていた。

 戦士から、確実に獲物を屠らんと意気込む獣のそれに意識を移して、この正体不明の敵に臨もうとしていた。しかし、次のDマーダーが取った行動にデュオルは愕然とせざるを得なくなる。

 

『さっそく、仕事に取り掛かろう。モード・マルチホッパー』

『な……にィ!? させねえよ!!』

 

 Dマーダーの肉体に起きた変化にデュオルは呆気にとられて、一瞬何も出来なかった。

 その驚愕も無理はなかった。

 何故なら意味深な単語をDマーダーが発した途端に首から下がモザイクのような光を纏い、形状を変え始めたのだから。

 

『沈め!』

『もう遅い』

 

 慌てて駆け出して右ストレートを放つデュオルだったが上半身を赤く生物的な装甲で覆いかけているDマーダーはバックステップで回避する。

 

『そうでもないさ!』

 

 だが、後方への回避を読んでいたデュオルは諦めることなく追撃を加える。

 パンチの勢いを利用して、弾むようなソバットを無防備な相手の腹に決めようというのだ。

 

『無駄だ。それはお前自身が熟知しているはずだ』

 

 当然だとばかりのDマーダーの言葉をデュオルの空振りした蹴りの風切り音が掻き消した。ジャンプ中だったDマーダーは背中に得た翅で瞬間的に飛ぶことで普通なら回避が難しい追い討ちを難なく避けたのだ。

 

『クッ……いまの避け方。何なんだお前このパクリ野郎が!!』

 

 思わずデュオルは声を荒げた。

 ギリギリで口には出さなかったが今しがたやられた避け方はまるで自分の――マイティアーツが持つ自在跳躍の模倣ではないかと。

 

『言っただろう。俺はお前専属だと……お前自慢の力は全て解析・再現されてこの俺に搭載されている』

 

 動揺を隠せないデュオルに赤い昆虫めいた生物的な鎧を纏った姿に変化していたDマーダー・マルチホッパーは死刑執行人のような冷たい口調で言い放った。

 

デュオル()のコピーってか!? 大先輩の力を借り受けてやり繰りしている模造品のコピーって、馬鹿じゃねえのか? 海賊版以下だぞ、レンタル屋の隅っこにある品のないパロディ映画のDVDの方が百倍マシだぜ!』

『否定する。俺はお前の全てを凌駕している。上位互換というやつだ。それを存分に教えてやろう』

 

 悪態をつきながら繰り出されるデュオルの殺伐とした攻撃を的確に捌いていたDマーダーが攻勢へと打って出た。専属殺人鬼の猛威が容赦なく牙を剥く。

 

『食らえ――!!』

『グウッ! 調子に乗るなよ!』

 

 キレのある攻撃がデュオルを襲う。

 速く柔軟でありながら、重い一撃の数々。

 ガードをしても、衝撃が肉体を襲うような格闘技。

 認めたくはないが本当にもう一人のデュオル・マイティアーツと戦っている様な錯覚に襲われる。

 

『オオオリャアッ!!』

 

 されど、そんなことで挫けるつもりは毛頭ないとデュオルは果敢に応戦する。

 相手のハイキックを肩で受けて耐え忍ぶと姿勢を低くして弾丸のようなタックルで押し倒す。そのまま馬乗りになって、殴りまくろうと試みるも寸前で押し退けられる。

 

『よくやる。だが、それでこそ仕留め甲斐がある!』

 

 すかさず起き上ったDマーダーもまた標的の決死の抵抗に氷のような凍てついた殺意を光らせて、攻撃の激しさを加増する。

 手刀と手刀が鍔迫り合う。

 拳打と掌打が打ち乱れる。 

 唸りを上げて繰り出されたハイキックと上段回し蹴りが交錯する。

 

 激突する二人の攻防はその余波で化神たちが巻き添えを食らうほどに熾烈なものへと加速していった。

 

『これで決める』

『ウォオオオオオ――!!』

 

 そして、一進一退の衝突を経てDマーダーとデュオルはお互いに最高の一撃が放てる間合いに立つと渾身の拳を打ち合う。

 大気を焼くような鋭く力強いパンチがクロスカウンターの形で双方の顔面に叩き込まれた。

 

『くぅ―――ぁああ!?』

 

 風が逆流するように吹き荒れて、粉々に砕けた仮面が宙に舞った。

 同時にマネキン人形のようにデュオルの体もDマーダーの拳を食らった衝撃で遥か後方へと吹き飛んでいく。

 

『……いいパンチだ。だが、俺はその更に上だ』

 

 デュオルの一撃に僅かに立ち眩みを覚えてふらつきながらも力比べに勝ったDマーダーは残酷に告げる。まるでお前に勝ち目はないと突きつけるように。

 

『かぁぁっ……眼鏡、カナタに預けといて良かったぜ。流石にいまの食らってたらお陀仏だったな』

 

 Dマーダーの宣告によって漂う絶望的な空気。

 けれど、素顔を晒したデュオルはまだまだ余裕そうな様子でそんな雰囲気を一蹴した。

 

『さて、どうやって勝とうか――!?』

『何故この状況で笑っていられる』

『のぉおおお!?』

 

 鼻血を乱暴に拭って、この難局を乗り越えるにはどうすればいいか算段しようとした矢先に一足飛びで目の前に姿を見せたDマーダーには流石のデュオルも肝を冷やした。

 

『お前は稀代の愚者か何かなのか?』

『痛――ッ!? それもいいな! 俺が愚者なら俺をパクったお前は救い難い超愚者だぜ?』

 

 間髪入れずに顔面を狙って刺し込まれた貫手。

 咄嗟に首を動かしてかわしたデュオルだったが鼻筋から右頬に大きな斜線を描くような裂傷がつけられて、鮮血が飛び散った。

 

『余所ならいざ知らず、こちとら代打がいないもんでな! 文字通り、あの手この手の総動員で勝つっきゃないのさ、俺は!!』

 

 直視しなければならない相手との実力差にも、流血の傷と痛みにもめけずにデュオルは気勢を吐いてDマーダーに抵抗する。

 

『理解しかねる』

『そう言ってくれて嬉しい限りだ』

 

 侮蔑とも唖然とも受け取れるDマーダーの単眼の眼差しを笑い飛ばすと起死回生の反撃を仕掛けにいく。

 両手と両手の掴み合いの形に持ち込んでのデュオル得意の競り合いだ。

 カナタ、ハルカという親友やクーやシスターという掛け替えのない仲間と暮らす世界と日々を守るために。またそれと同じぐらいに守らなければならない異郷の戦友との思い出がデュオルを突き動かす。

 それはかつて、ここではない戦地で一度だけ諦めかけてしまった恥ずべき負い目からも湧きあがる不屈の闘志だった。

 ムゲンの心に鮮烈に焼きついた白き不毀の刃があの時、隣で示してくれた仮面ライダーの在り方の一つだった。

 

『オオオラァアアアア! この指全部折り曲げてやらぁああ!!』

『ヌゥ―――これは!?』

 

 裂帛の気合と共に両手を中心に全身全霊の力を込めて踏み込む。

 元より常人離れしているデュオルの握力の前に初めて微かにDマーダーが退いた。

 

『そりゃあああ! もう一丁ォオオ!!』

『ガルゥアアアアア!!』

 

 この機を逃がすわけにはいかないとすかさずデュオルは至近距離からの飛び膝蹴りをDマーダーの顔面に当てると連続攻撃へと繋ごうとする。だが、折角の好機は背後から無作法に襲い掛かってきた化神たちによって台無しにされてしまう。

 

『てめぇッ……空気読めよな、こいつら!』

 

 背中へ不意打ちを浴びせて得意げに下卑た笑いを浮かべる化神を裏拳で粉砕して、デュオルは本日何度目かの悪態をついた。Dマーダーとの戦いで手一杯になっていたが本来退けなくてはいけない脅威はこの膨大な数がいる化神たちだ。

 

『仕方ねえ、大掃除といくか』

 

 二種類の敵を一度に相手にするためにデュオルは多少のリスクを覚悟で意を決する。

ベルトのメモリアホルダーから二枚のライダーメモリアを引き抜くとデュオルは展開したスロットにそれぞれを装填した。

 

【ストロンガー!×ウィザード! ユニゾンアップ!】

 

「ネクスト・ライド――!!」

 

【エレクトロキャスター! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 紫電の魔法陣を潜ってデュオルの姿が変わる。

 新たに纏う龍の角のようなアンテナを持つ仮面に、真紅のクリスタルで編まれた分厚いアーマー、腰からは白いマントをたなびかせる雷電と魔法を操る第三の姿。

 

『走れ! サンダービュート!!』

 

 デュオルの指先から迸る雷の鞭が飛び乱れて化神たちを強烈に打ち据える。

 黒コゲになって霧散していく化神たち。だがこの暗天に蠢く化神の数はこれぐらいの攻撃ではまだまだ削りきれない。

 

『畳みかけるぞ! 雷と炎……混ざって弾けろ!』

 

 右手に輝く魔法の始動キーであるキャスターリングが輝いて、デュオルの左手にはストロンガーの電力、右手にはウィザードの炎の魔力が溢れる。

 両の手を十字を組むように交差後に一気に振り抜いてから地面に突き刺せば二つの強大なエネルギーは一つに合わさり激しさを高め合いながら敵の集団へと向かっていく。

 

『纏めて吹っ飛べ! エクスプロージョンピラー!!』

 

 地面から噴き上がった巨大な柱のような雷電と火炎による爆裂が大量の化神たちを木端微塵に吹き飛ばしてみせた。

 消耗が激しいと言うウィークポイントを抱えながらも広範囲かつ強力な魔法の数々が一気に群がる化神たちを一掃する。

 だが――自分の物とは違う禍々しい雷撃がデュオルを襲う。

 

『フム、雷を主軸とした魔法とはこういうものか……創意工夫が求められるとみた』

『がぁああ!? 全く、流石に褒めてやるよ。これもパクリ済みってわけか』

『肯定だ。モード・サンダーマジシャン。電気椅子は用意できないが感電死を望むなら執行してやろう』

 

 そこには左腕をスパークさせながら、双肩に黄色いヘラクレスオオカブトムシを思わせる鎧を纏った姿に変化していたDマーダーがいた。驚くべきことにこの正体不明のヒットマンはデュオルのフォームチェンジにさえも対応してみせたのだ。

 

『データによれば確かお前はこういうことも出来たはずだな』

 

【ラッシュゲート・オープン】

 

 そういってDマーダーが手をかざすとその頭上に無数の魔法陣のような光の門が出現した。彼が目の前の魔法陣に手を入れるとそれに呼応して門は一斉に開き、中からは分裂複製されたDマーダーの手が出現した。

 

『雷電地獄を堪能しろ』

『ぬぅうがああああああっ!?』

 

 放たれた幾百の落雷に赤黒い暗天の世界が一瞬真っ白に照らされた。

 雷撃なのか爆発なのかも判別できない大規模な破壊の衝撃がデュオルを容赦なく呑み込んだ。

 

『……まだ生きているとはな。本当に人間か?』

『ハア……ハァ……クッ、よく言われるよ』

 

 光が収まった時、Dマーダーの視線の先には何度も雷に打たれて煤汚れてボロボロになりながらも、縺れたような痛々しい姿勢で立ち続けるデュオルの姿だった。

 

『諦めろ。ここまでやれば愚者でも悟る。お前は俺には勝てない』

『うるせえ。俺はまだ生きてるぞ? 来いよ! 首だけになっても戦ってやるからよ』

『人間には不可能な行為だがお前ならば実行しそうだな。いいだろう、念入りに殺してやる』

 

 雷撃による痛みと疲労に加えて麻痺にさえも襲われているいまのデュオルでは文字通り一歩も動けない状態であった。そんな絶望的な状況下で彼は音もなく一歩、また一歩と近付いてくるDマーダーと自分との距離をその目を凝らして見つめていた。

 

【エクステンド! プリーズ!】

 

『なんだと!?』

 

 Dマーダーがあと数歩で直接自分を殺せる距離に入った瞬間にデュオルは気力を振り絞って動いた。魔法を用いて両腕を伸ばすと相手に諸手突きを打ち込む。

 

『駆けめぐれ! プラズマストリーム!!』

『ッオオオ!?』

 

 そのままデュオルは一気にDマーダーの体内に超高圧電流を流し込んだ。

 凄まじい雷電の怒涛を無理やり体内に巡らされたことによりDマーダーもたまらず一時的に行動不能に陥った。

 

【FULL SPURT! READY!!】

『これならどうだぁあああああ!!』

 

 悲鳴を上げる体を無視してデュオルは大地を蹴って跳躍すると大敵であったネオ生命体ニューも退けた高威力を誇る必殺技に望みを託そうとした。

 風車のように大の字で超回転するデュオルからは無軌道な雷撃が幾つも放たれてDマーダーや化神たちによる反撃も寄せ付けない。

 

『超電! ビッグハンドォ!! ストラ――』

『残念だがそこまでにしてもらおう』

 

 デュオルが大鉄拳を打ち込むよりも前に何者かが彼の耳元で囁いた。

 あれだけの雷撃を掻い潜って、デュオルに近付いた何かの声、更には不気味な鍔鳴り音。

 

『ぐぅ……あぁ――!?』

 

 雷電が散り消えると代わりに血の雨が降った。

 デュオルの胸部装甲がパックリと何者かに袈裟切りに裂かれていたのだ。

 深手を負った彼はまるで猟師に撃たれた小鳥のように力なく地に落ちる。

 

『助力を感謝する』

『気にすることはない。若者を支えるのは年長者の密かな楽しみだ。君も敵ながら天晴れな暴れ振りだったよ。異界の御伽装士くん』

 

 老いを感じる男のような声だった。

 老いてはいるが衰えは微塵も感じない、愉快そうで底知れない威圧感のある声。

 霞んだデュオルの視界ではその姿はハッキリと見えないがずっと気配さえ感じられなかった何者かがDマーダーの隣に立っていた。

 

『すまないねえ、折角の死闘に横槍を入れるような真似をして。しかし許しておくれ、他でもない友人の頼みだったものでねぇ』

『なんだ……お前?』

『ハハハ。これから死ぬ君には必要のない知識だろう? 只でさえ彼に劣勢だったところに私という援軍。二対一、奇跡の助っ人が来ない限りこの戦局は覆らない。そして、この暗天の前に第三者の介入という奇跡はあり得ないものと知れ』

 

 謎の人物は杖のような物で倒れ伏すデュオルを小突きながら、穏やかにそれでいて傲慢さをチラつかせながら語りかけてくる。その多弁ぶりは余裕の表れではあったが油断や隙はまるでない。

 

『冥土の土産になにを企んでいるかぐらい教える余裕はないのかい? 器の小さい奴らだ』

 

 出血と共にどんどん体力が抜け落ちて弱っていくデュオルは性懲りもなく、軽口を叩く。その声は力なくか細いが隙がないなら抉じ開けて見せると言わんばかりの気概がまだ残っているようだった。

 

『そんな口車に私が乗るとでも思っているのかい? 青いな、少年よ』

『爺さん……一個忠告してやるよ、話なげえよ。おかげで悪あがきの準備完了だぜ?』

 

 不意に出たデュオルの言葉にDマーダーと謎の人物が僅かに動じた瞬間に再び魔法陣が出現した。二対一という状況になった瞬間にデュオルが閃き、重傷を負いながら悟られないように急ごしらえで構築していた新技が間一髪で発動となったのだ。

 敵方の言う通り、これだけの深手を負って二対一で勝つのは無理に近い。ならば逆に味方を作ればいいのだとデュオルは考えたのだ。

 幸いにもそのヒントになる存在にもかつての戦いで遭遇済みだ。

 鏡の中から現れて自分たちの窮地を救ってくれた忠義に厚い白亜の刃龍の勇姿を追想する。

 

『景気付けに言っとくか! アドベントってなあ!!』

『なに? 馬鹿な!?』

 

 デュオルが何気なく叫んだその単語。

 その言葉に過剰な反応を示したのは意外にもDマーダーだった。

 ストロンガーとウィザードの力を併せ持っているはずのいまのデュオルがこともあろうに仮面ライダー龍騎が由来の言葉を叫んだのだ。その事実にDマーダーは大きな動揺を感じて、デュオルを仕留める動きが遅くなってしまったのだ。

 全ては偶然。しかし運命は僅かにデュオルに味方した。

 デュオルも仮面ライダー龍騎だなんて戦士は知らない。

 彼が知っているのは外典のライダーバトルに挑む類稀なる剣腕を持った白騎士であったことをDマーダーは知る由もなかっただろう。

 

『一切合切を食い破れ! ドラゴニックボルトォオオオオ!!』

 

 デュオルの呼び掛けに応じて魔法陣が閃光を放つと極雷で形作られた龍が召喚された。

 大雷龍はこの世の終わりのような雄叫びを上げながら稲妻を吐き、その巨体の限りに暴れ回る。

 そこに敵味方の識別はない。

 化神もDマーダーもそしてデュオルさえも巻き添えにして大雷龍は暴走といっても差し支えのない大蹂躙を行った。

 誰が上げた悲鳴かも分からなくなるような稲妻と破壊の大盤振る舞いの果てに暗天は予想外の形で砕け散り、影も形もなくこの世界から消滅してしまった。

 

 後に残されたのは息が詰まりそうなほどの静寂。

 それもすぐに変わらない日常に上書きされて塗り潰されるだろう。

 異変はまるで悪い夢を見ていたかのようにその痕跡を完全に消していた。

 あれほど大騒ぎしていた街は普段の夜の賑やかさを取り戻していた。

 暗天舞台で大立ち回りを演じていた者たちだけが姿を消していた。

 誰もいない。

 誰も――いなくなった。

 

 

 

 

『ご無事か、客人よ』

『ああ。少々、痺れたが問題はない。それにしても最後の彼の一手にはしてやられたよ。まさか貴重な百鬼夜行をここで潰されてしまうとは』

 

 高層ビルの屋上にて、会話を交わすDマーダーと謎の怪人物。

 彼らは多少の手傷を負いつつも健在であった。

 

『肯定だ。それに俺も奴を取り逃がしたということは任務失敗。不甲斐ないばかりだ』

『君、あれで彼がまだ生きていると思っているのかい? あれだけの深手を負っていたんだ。自爆同然なあの技に巻き込まれて死体も残さず消し炭になったと思うのだがね?』

 

 月明かりに怪人物の姿が露わとなる。

 気品ある漆黒の燕尾服に袖を通して、舶来物のステッキを携えた五十がらみの壮年の紳士然とした男だ。

 好々爺のような親しみやすさと剃刀のような冷徹さを兼ね備えているかのような佇まいを感じさせる。

 

『貴方の意見は最もだ。通常であればその説の信頼性は明らかだ。だが、彼奴が仮面ライダーである以上、その首なり死体を確認しなければ俺は納得ができない』

『勤勉なことだねえ。しかしだ……ここは一度、私のいた世界に帰還することをお勧めするよ。どの道、手土産となる兵隊を失ってしまったのだ。これでは私の方が友への顔向けができない』

『了承した。俺は貴方の活動を支援せよとの命を受けている。気兼ねなく使うと良い』

『お言葉に甘えさせてもらうとしよう。なに、そう焦ることはない今回はタイミングが良かったので百鬼夜行に便乗する形になったが本命の実験は成功と言っていい。万難を排して本番に臨もうじゃないか』

 

 まるで物見遊山を満喫するように笑う老紳士の願いに従いDマーダーはメタローが平行世界を移動する際に使用する光の門を展開すると揃ってこの世界から転移を行った。

 残されたこの世界では夜が過ぎ去り、朝がやって来ようとも終ぞデュオルの姿はどこにもなかった。

 唯一の守護者を失った世界。

 それでも明日は訪れる。

 その命運の行方は誰にも分からない。

 

 

 

 

 無数に存在する並行世界。

 その一つにある東海地方のとある街に物語の視点は移り変わる。

 人工の光が空の星よりも眩しく夜の暗さを薄めて、人々は平和で賑やかな時間を過ごしている。

 けれども、夜闇の暗さも恐ろしさも決して無くなるわけではない。

 今宵も彼女は摩天楼の闇の底を走る。

 

「静かで綺麗な夜。本当なら喜ばなきゃいけないのに……変な気分です」

 

 濡羽色の長い髪と白と黒のセーラー服を躍らせて夜を駆ける彼女を偶然に目撃した者は幽霊を見たと錯覚するかもしれない。それぐらいに彼女の佇まいは幽かで夢幻のような儚さを秘めている。

 

 

「……今夜もハズレでしょうか。百鬼夜行が始まるなら、いつどこで起きてもおかしくはないはずなのに」

 

 だが、彼女は確かにそこにいる。

 前髪の奥に隠した澄んだ紫瞳に強い意志を宿して、目には見えずとも世に溢れる怨嗟や憎悪の吹き溜まりから生まれてくる穢れたる異形たちから無辜の人々の平穏を守っている。

 少女の名は望月沙夜/仮面ライダービャクア。

 

 

 役者は未だ揃わず。

 舞台は意図せずして砕けて散った。

 されど、物語の幕は上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。