仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 デュオル×ビャクア ユニゾンウォー 作:マフ30
陽が昇り、朝が来る。
街の往来には少しずつ一日をスタートさせた人々が姿を見せる。
当たり前に繰り返す日々の営みだ。
小川がゆっくりと激流に変貌するように少しずつ増えていく人々が鬱蒼と立ち並ぶコンクリートのビル群を所狭しに行き交う。
代わり映えのない一日を過ごす人もいるだろう。
憂鬱な一日を送らなければいけない人もいるだろう。
今日が来る日を待ち望んでいたそんな最高の一日を迎える人も、思いがけない運命に巡り合う人もいるはずだ。
ありふれた日常を普通の一日とどこかで苦笑しながら生きていくはずだった全ての人々を嘲笑うようにその異変は突然に始まった。波一つない鏡のような湖に石を投げ込むように世界の日常は崩壊していく。
「緊急速報をお伝えします。ただいま突如としてナゴヤドームに巨大な石灯籠に似た柱のようなものが空から落下した模様です。現在被害状況や怪我人の報告は……」
「現場よりお伝えします! ドームに落下してきた大きな柱は少なくとも八本は確認され、ただいま地元の警察によって調査のための規制線が張られ始めていま……大変です! ドームから突然赤黒い何かが……これはガスか何かでしょうか!? お近くにお住まいのみな――」
「おい! いますぐSNSを見てみろ! ナゴヤに降ってきた変な柱! 海外のあちこちでも空から降ってきたみたいだぞ!」
「ねえ……ちょっと、なにアレ? なにかいる? ヤバいってナニかがいるよ!?」
「怪物が……! 怪物がああっ!?」
天からの裁きが始まったようにも思える異常事態。
日本の一都市を中心に世界各地に降り注いだ妖しげな巨大石灯籠――それは神罰などではなく、老獪な魔性が綿密に計画した恐るべき破滅の謀り。
『喜びたまえ人類諸君。新世界を馳走してあげよう……冥く愛しき暗天舞台よ、我が隣人を言祝げ――!!』
※
ムゲン達が笛吹荘で一泊した翌日に事態は急変した。
光姫の指揮下にある平装士が担当エリアを巡回中に一つ目の化神のような怪人物が海辺の寂れた洋館に出入りしているのを目撃したと言う報せがあった。
光姫はそれが魔人教団のDマーダーだと確信して沙夜とムゲンの両名、更にカナタたちも安を移動役にして急行させた。
「あれだな」
「はい。御守衆の者が遠方から式神を使ってずっと監視してくれていましたが最初の目撃移行は特に誰かの出入りはなかったそうです」
先行して目的地に到着した二人はビッグストライダーとハヤテチェイサーに跨ったまままるで時間の流れから取り残されたようにポツンと建てられた洋館を一瞥する。
「見たところ何の変哲もない普通のお屋敷ですが……」
「中は
「外観は良さそうなだけに仮にそうなら残念です」
「どうする? 先制攻撃に遠距離からとりあえず屋敷ごと吹き飛ばすか? 手段はあるぞ」
「賛成したい気持ちもありますが万が一、彼らが一般人を攫って捕らえているようなら取り返しのつかないことですし」
ここは既に敵地だと不意打ちなどに注意しながら洋館を遠巻きに窺いながら出方を相談するムゲンと沙夜。もうすぐ追いついてくるカナタたちと合流してから本格的に攻めの手を考えようかとしていた時だった。
『安心しろ。人質などという下策、我ら魔人教団は好まない』
不意に洋館の屋根から何かが通り抜けて外に飛び出したかと思えばその飛行体はボロボロの神父服のような装飾をなびかせてゆっくりと二人の前に降着してきた。
『そも、策など弄さずとも貴様を殺すなどわけではない』
「……よお、会いたかったぜ」
背後に装備した天使の輪を思わせる飛行ユニットを淡く光らせ佇むモード・ファントムフライヤーの姿をしたDマーダーは機械のように冷たい口調で殺意を浴びせる。
単純明快な宣戦布告にムゲンも負けじとデュオルドライバーを腰に巻き付けて二枚のライダーメモリアをセットする。
【スカイ!×ゴースト! ユニゾンアップ!】
「変身――!!」
【エリアルファンタズマ! GO! GO! LET’S GO!!】
「私もいきます! オン・カルラ・カン・カンラ」
眩い光に包まれて姿を変えていくムゲンの隣で沙夜もまた白鴉の怨面を素顔に纏い、白い肌に妖しげな蛇紋様を浮き上がらせる。
「クゥ……ア、ァ――――変身」
黄緑と白亜の双旋風が吹き止むとそこには二人の仮面の戦士が立つ。
デュオルとビャクアは無言で頷くと悠然とこちらの変身を待ちかねていたDマーダーへと駆け出していった。
『素早い対応、感謝する。では俺も仕事に取り掛かろう』
迎え撃つDマーダーは相手にとって不足無しとばかりに僅かに浮遊して双腕を構える。
こうして些か唐突に戦いの火蓋が切られた。
※
「みなさん! ムゲンさんたち敵と戦いを始めたみたいです! ここからは危険がいっぱいですのでどうか十二分にお気をつけて」
「了解です」
「沙夜さん、ムゲン……がんばれ」
一方その頃、遅れて現地に到着してムゲンたちと合流しようとしていたクーたちはデュオルたちの変身と思われる激しい光を離れた場所から目撃して早くも魔人教団との戦闘が開始されたことを知った。
噛み締めるように仲間の健闘を祈る永春たちとは別にカナタは淡々と進んでいくこの状況に渋い顔をして黙り込んでいた。
「カナねえどうした?」
「……なんかね、ハルくん。私たち敵の掌の上で踊らされているような気がして仕方ないんだよ」
「何か罠でも仕掛けられていると? でしたら、ムゲンさんたちの戦いの邪魔にならないように警戒しながらこの場で待機しておきますか?」
「いや、それはやめましょう。私の杞憂かもしれませんし、判断材料が少なすぎます。噂の洋館とやらは見ておきたいところです。急ぎましょう!」
自分たちの世界で発生した暗天の出現から始まった一連の怪事件と魔人教団の纏まりの見えない動きにカナタはずっと腑に落ちない何かを感じていた。
妙な胸騒ぎを覚えながら道中を更に数分ほど進んだ先で彼女たちはデュオルとビャクアがDマーダーと交戦している現場へと辿りついた。
『幽霊の俺に対して天使気取りか? いまから棺桶にぶち込んでやるよ!』
『フン。銘には俺ではなく貴様の名前を刻んでおいた方がよさそうだな』
黒いフードを翻して距離を詰めたデュオルが左右から流れるように手刀の連続攻撃を仕掛けるがDマーダーはプログラミングされたような精密で無駄のない動きでそれを全て防ぎ切る。
『では……死神に代わってその首、刈り取らせていただきます!』
『笑止。雑草を薙ぐのと一緒にされては困るな……ム?』
防御から攻勢へと切り替えて、ジリジリとデュオルを押し返そうとするDマーダーの背後から雲薙ぎの大鎌を振りかぶったビャクアが肉薄する。まともに食らえば深手は避けられない一撃だがなにせ得物の大きさが弱点となって見切るのは容易いと回避行動を取ろうとする。
『沙夜! いまだぶちかませ!』
『やぁああああっ!』
だが、そうは問屋が卸さないとデュオルがDマーダーの手首を掴んでその動きを抑制する。そうして作り出した好機を逃さずビャクアは怖気のするような横一文字の斬撃を放つ。
『良い攻めだ。だが、残念だったな』
唸りを上げて迫る大鎌の曲刃に一切の恐怖を感じる様子もなくDマーダーはその肉体を一時的に透明化させてビャクアの攻撃を無力化して、そのままデュオルの拘束からも脱出してしまった。
『すり抜けた!?』
『こいつ……また人様の能力のパクリかよ!』
『オリジナルの貴様ならばこの回避手段も予測できただろう? 自らの手の内を失念しているとは二流の戦士のすることだ』
『目玉しかねえくせに耳障りな野郎だなテメエ!』
飛行のみならず文字通り、デュオルの各フォームの特徴を模倣再現して会得するDマーダーにムゲンは毒舌を吐く余裕もなかった。
二人から距離を取ったDマーダーは上空へ飛び上がり、そのまま無数の火の玉による弾幕を張って牽制する。
『くっ……難敵ですね』
『最後に勝つのは俺たちだ! もう、あきらめねえぞ……俺は仮面ライダーだ!』
退魔道具を大鎌から羽団扇に変更して降り注ぐ火の玉を吹き払うビャクアの隣でデュオルもまた自らの拳で殺意がひしひしと伝わる敵の攻撃を弾きながら自らに言い聞かせるように檄を飛ばす。
「ムゲン! 沙夜さん!」
『カナタ? お前ら危ねえぞ! 離れてろ!』
「二人とも洋館の中には入ったの?」
『お宅訪問する前にコイツの方から仕掛けてきた! つまりまだ入ってねえよ!』
友人たちに流れ弾が飛んでいかないか気が気でないデュオルだが大声を張り上げて尋ねてくるカナタの神妙な表情を見て未だに洋館の詳細が不明なことをなんとか伝えた。
「分かった! なんだか悪い予感がするの……私たちはこのままあの洋館を調べてみるよ!」
『よし。沙夜、カナタたちについていけ!』
「え……ですが!」
『少なくとも敵方には俺を襲った燕みたいなジジイがいるはずだ。みんなを守ってくれ』
落ち着かない様子のカナタから薄々自身も感じて奇妙な不安に確信を持ったデュオルはこの場の戦いを一人で担い、ビャクアを仲間たちの護衛に向かわせることを即断する。
突然にそんなことを託された彼女はDマーダーの底の見えない実力からデュオルの心配をするがムゲンと天風姉弟との深い友情を思い出し、その意を汲むことにした。
『分かりました。ムゲン、あなたの弔い合戦なんてしたくないですからね』
『任せとけ。あいつの頭で祝勝記念のくす玉でも作ってやるさ』
『ご武運を!』
やや物騒な軽口を叩き合ってお互いを鼓舞し合うとビャクアは戦線を離脱。カナタたちに合流すると雪崩込むように洋館へと突入していった。
『待たせたなパクリ野郎。これでお互いに遠慮なくやり合える』
『愚かな選択をしたなデュオル。あの女戦士と共闘すればまだ生存の望みもあっただろうに』
『縫い合わせてやる口がないのが本当に残念だ。大急ぎでただのマネキンみたいに黙らせてやるよ』
まるで道端を這う蟻でも見るように自分を見下すDマーダーにデュオルはその闘志の炎を無数の薪をくべるかの如く激しく焚きつけて叫ぶ。
『セイリィイイイイン・ジャアァァァンプ!』
しなりと前面で交差させた両腕を一気に振り降ろせばレジェンドライダーから継承された能力が発動してデュオルの身体もまた大空へと飛翔する。
『正真正銘のリターンマッチだ! 覚悟しやがれ!』
『このままあの世へと昇天させてやろう』
大空を我が物顔で飛び交いながら激突する二つの影。
鳥でも無く、羽虫でも無くそれは幽霊と天使をいうこの世あらざる姿を象る、相反する強き者たち。
雲を蹴散らしながら屈強な肉体と肉体がぶつかりあう。
大刀の一太刀と錯覚するような脚撃を交錯させデュオルとDマーダーは死闘を再開させる。
※
『いまのところ何もありませんね。それに敵らしき気配もまるで感じません』
ビャクア達が踏み込んだ洋館は拍子抜けしてしまうほど何の仕掛けもない普通の館だった。古い建物だと見受けられるが隅々まで掃除も行き届いており、まるでついさっきまで誰かが暮らしていたと言われても不思議ではない生活感の残り香が漂うほどに。
「うん。なんていうか怖いぐらい普通な感じ」
「……みんなこの先の扉の向こうが大広間みたいだ。何か音が聞こえる。
人差し指を立ててみんなを静まらせてハルカが用心しながら一枚の木製扉を指差した。
全員が息を呑む中でビャクアが片手に羽団扇を構えてドアノブに手をかける。
『……ッ! ここも誰もいない。いえ……誰かはいた?』
意を決し大広間の中に飛び込んだビャクアがその研ぎ澄ました戦意を嘲笑うようにそこもまたもぬけの殻と言った様子だった。
けれど、まるでこの大広間にまでやってこいとまるで誘蛾灯のように音楽を垂れ流す蓄音器が彼女たちに言い知れぬ不安を与える。
『やあ。ようやくご到着かね? 全く待ちくたびれたよ……老い先短い老人の貴重な時間を浪費して欲しくないものだ』
突然のしゃがれた男の声に思わず背筋が凍った。
五人がきょろきょろと大広間を見渡していると突然壁際に置かれた大きな液晶画面にスイッチが入り、気品のある老紳士の姿が映ったのだ。
近くBDレコーダーなどは見当たらずどうやら特殊な術で映像が流れる仕掛けが施されていたようだった。
『ごきげんよう仮面ライダーと愉快な仲間たち諸君。私の名はバケヒエン、今回の君たちの大敵である』
「本当にこの人が化神だって……どっからどうみても人間にしか」
『私の姿を見て戸惑いを覚える善良な者もいるかもしれないが安心したまえ、私は正真正銘の化神……君たちの敵であることに間違いはない。長き歳月の中で研鑽を積めばこういう芸当もできる化神も現れると理解してもらおう』
まるで自分の独り言に返事を返すような内容を話す映像の中のバケヒエンに永春は驚きで心臓が止りそうな気持ちだった。
もしもに備えてランプを握り締めたままのクーや双子たちも固唾を呑んでバケヒエンが何を語るのか映像が先に進むのを見守る。
『質疑応答ができない故にこの場では全て真実と事実だけを語らせてもらうとしよう。残念だが君たちがこの映像を見ていると言うことはすなわち諸君の敗北だと受け入れることだ仮面ライダー』
「なっ……!?」
「どういうことでしょう!?」
予期せぬ展開にこれが本当に現実なのかと疑うほどの心持ちだった一同に突き刺さるバケヒエンの衝撃的な勝利宣言。
混乱するばかりのクーや永春たちの中でカナタはここまでの状況から最悪の仮説を脳裏によぎらせる。
『今回、私は魔人教団への仲間入りを果たすためにいくつかの手土産を用意することにした。第一に他世界での暗天が可能か並びに意図的な百鬼夜行の発動の有無。実験の検証によりそれらは可ということが判明した。残念ながら持参金代わりの手駒は仮面ライダーデュオルくんによって台無しにされたがね』
『信じられません。こんな大掛かりな企てを……それに一介の化神がなぜ世界が違う魔人教団のことを知っていたんですか?』
『続いて第二弾……の前に副産物として発生した第三の計画。御伽装士討伐計画についてだが……これについては本当に偶然にやれる余裕が生まれたからやってみたオマケである。友人が配下の血気盛んな衆を景気付けに暴れさせてやりたいと言ってきてね。私としては御守衆など無視しても良かったのだが御伽装士が一人でも多く死んでくれるのなら、それはそれで愉快なことなので許可を出した。結果は……お粗末だったがね』
好々爺が可愛い孫に宛てたホームビデオのような愉快かつ穏やかな様子で血生臭いことを愉快そうに語る映像は異様に見えた。
明らかになっていく真相と新たに浮上してくる謎の波状攻撃でカナタたちは蛇に睨まれた蛙のような心境だった。
『お待ちかねの第二にして本命の計画。これはだね早い話が異なる世界の侵略だよ。単純明快にここに至るまでの実験の成果の映えあるお披露目式だ。つまりは……御伽装士のいない別の世界で百鬼夜行を発生させて、無数の化神を放流してやろうと言う企みさ』
「……やられた」
口元の髭を撫でながらバケヒエンは嬉しそうに口角を吊り上げた。
おぞましき笑顔を見せつける画面の向こうの老人を睨みつけながらカナタは無意識に目元を片手で覆い悔しがる。彼女の脳裏でバケヒエンが描いたシナリオがどんなものだったのか全てが繋がったのだ。
自分たちの存在は意図せずにバケヒエンの卑劣な計画に最高のスパイスを効かせる結果となったのだと痛感した。
「カナタさん?」
「してやられたよ……私たちはずっと蚊帳の外で知らない間に道化役にされてた」
『先程第三の計画はお粗末な結果と言ったがここで私は閃いた。折角無力な世界を滅茶苦茶にするのなら観客が必要だとね――すなわち君たちだ』
大胆不敵に眼中にない敵方の名前を呟きながらバケヒエンは最後の種明かしを語り始めた。
『これから私はこの移り飛んだ別の世界の各地で百鬼夜行を一度に複数発生させる。それが齎す世界への混乱など容易に推し量れるだろう? 我々の暴挙を止める術がありながら、何もかもが手遅れで何も出来ずに終わってしまった現実に直面した時に君たちがどんな顔を見せてくれるのか私はここで何時までも楽しみに待っているよ』
意味深な言葉を残してバケヒエンの映像は途切れてしまい、大広間には再び蓄音機からほこり臭い音色が延々と流れ続けた。
自分たちの預かり知らないところで一つの世界が侵略され、こうして立ち尽くしている間にもそこに生きる人たちが滅茶苦茶にされている。押し寄せる敗北感に沈黙が続く中で真っ先にビャクアが叫んだ。
『いきましょう! お願いします。別の世界へと移動する手段をあなたたちはお持ちなんですよね!?』
「それはそうですけど……もしも、いま映っていたバケヒエンの言葉が事実なら」
『あきらめられません。いえ、
お前の悪意には屈しないとばかりに液晶画面を羽団扇で切り裂いたビャクアは気を吐いた。そして、クーの手を取ると清廉な眼差しで懇願する。
「望月さん気持ちは分かるけど肝心の行き先が分からない……あの爺さんは悪趣味全開でそれだけは明かさなかった」
「待って……!」
絶望的な状況でハルカが論理的にビャクアを落ち着かせようとするのを一か八かの推察を組み立てたカナタの手が遮った。
「クーさん……前にムゲンが迷い込んだ世界にはいけますよね?」
「は、はい! 座標は分かってるのですぐいけますけど……でもですねカナタさん! 魔力の残量的にも外れだったらお手上げですよ!?」
「いまだって崖っぷちでしょう? だったら、腹括って賭けるしかないでしょう」
藁にもすがり、奇跡よ起きてくれと天に祈るしかないと顔に書いているように引きつったカナタの顔色は――されど、私の予測ならば当たりのはずという自信にも溢れていた。
「わっかりました! やってやりますとも!」
『クーさん、それにカナタさんありがとうございます!』
カナタの啖呵にやる気を再起動させたクーはランプから多次元渡航装置ホッピング・ジャーニーを取り出すと慌ただしく移動先の細かな設定を行っていく。
「お礼を言うのは世界を救ってからだよ。それから私とハルくんはムゲンと一緒に行くから沙夜さん、永春、クーさんの三人で先に急いで」
「えっ!?」
「なんと!?」
僅かに光明が見えた先で飛び出した思わぬ言葉に永春とクーは揃って上擦った声で驚いた。対照的にハルカは姉の思うところを瞬時に理解して三人の後を押しにかかる。
「ムゲンを連れていく役目がいるだろう? クーさん予備の装置を貸してください」
「ですけどこっちは……まだ世界移動のための魔力が充填できてなくって」
「大丈夫です。私たち三人ですよ? 何とかしますよ、いえ出来ます」
「そうですね……お三方ですもの! ではなるべく早く追いかけてきて下さいよ!」
アーティファクトの製造者として不足が見られるものを渡すことに難色を示して困り眉を浮かべるクーだったが自信満々に微笑むカナタとハルカの姿にムゲンを合わせた彼ら三人の秘めた爆発力を思い出してスペアのホッピング・ジャーニーを預けることにした。
「お待たせしました! 準備OKですとも! 沙夜さん、永春さんわたしの傍に寄ってください」
二人が十分に近くにいることを確認したクーは他世界渡航装置のスイッチを押した。
ゆっくりと三人の周囲に光が迸り、やがて真っ白な強い閃光が瞬く。
カナタとハルカの視界が再び目の前の景色を確認できたときにはクーたちの姿は忽然と消えていた。彼らは無事にこの世界から別の世界へと移動を成功させていた。
※
高層ビルの屋上に燕尾服を着こなす老紳士が優雅に佇んで地上を眺めていた。
目を凝らして現在進行形で描かれている地獄絵図を鑑賞していた。
十人十色の悲鳴が織り成す阿鼻叫喚の大合唱に耳を傾けて堪能していた。
「悪くはないねえ。戦国の世の人間が人間を殺戮し、犬畜生の如く我欲のままに振舞っていた頃と比べれば随分と気品のあるものになったがやはり彼らの絶叫は心が躍る」
楽団の指揮者のように人差し指を宙に遊ばせて、鼻歌を口ずさむこの老紳士は無論人間に化けたバケヒエンである。
彼の眼下では魔人教団と共同で製造した呪いの石灯籠を媒介に発生した百鬼夜行によって雨後の筍のように無数に出現する化神たちを目の当たりにして大パニックに陥った人々が逃げ惑う光景が広がっていた。
「ふぅん……しかし、やはり突貫工事が災いしたねえ。これでは少し羽目を外したハロウィンの仮装パレードと同じだ」
「オイオイオイオイオイ! 随分と辛口じゃないのぉ! 珍しく馬車馬のように働いたのに俺ちゃん泣いちゃうぜ!」
高所ということを差し引いても嵐のような強風が一吹きしたかと思えばバケヒエンの隣にはカウボーイハットが似合う山のような半裸の大男が立っていた。筋骨隆々な肉体にトライバルタトゥーが映える彼はアロンダイトの人間体である。
「なに。君は十分にやってくれたとも。私とて物部天厳の計画を偶然知ることがなければこんな数奇な仕掛けは思いつかなかった。必要な資材の用意から設置までほぼ全てを私の指示通りに進行してくれたこと、改めて礼を言わせてくれ」
「あんがとよ! しっかし、生まれてくる化神ども本当に徘徊して人間を驚かすだけじゃねえか。これ、ホントに大丈夫なん?」
バケヒエンの言葉に気を良くしながらもアロンダイトも地上の有様を見て多少の不安を隠せなかった。
確かにバケヒエンの目論見どおりに八本の石灯籠を突き立てたナゴヤドームを儀式の拠点にこの世界のあちこちを局地的にだが暗天に塗り替えて百鬼夜行を起こすことに成功はした。けれど、無数に湧き出てくる化神たちは全て辛うじて人型を成している黒い靄のような幼体ばかりだった。
これでは人間たちを混乱させて恐慌状態にすることはできても破壊や殺戮などはとても出来ない。
「大成功だとも。少なくとも私のポリシーに則れば既に勝利したと言ってもいい。なにせ、人が不必要に死することを私は望まないのでね」
「物好きな奴だぜ」
「とはいえ、私が良くても君ら魔人教団はこの世界の崩壊を望むのだろう? ならば、ひと手間を加えるとしようじゃないか」
バケヒエンの心中にも不安材料がなかったわけではなかった。
何故ならこうして最終計画の発動が叶ったのも時間としてはビャクアの世界でカナタたちが洋館に踏み込んだ頃と一時間ほど前という際どいものだった。
殿と陽動としてDマーダーを残してきたものの仮面ライダーが計画の真相に勘付いてこの世界にまで追いかけてくる危険性は十分に懸念していた。
そして、発生したばかりの複数同時発動型のこの百鬼夜行はまだ術式としては脆く、一手誤れば解除されてしまうほど不安定なものなのだ。
「お? いいのか? お前ちゃんってば人間の文化や娯楽は愛でるんだろう? もうちょっとこの世界で遊んでも他の連中に文句は言わせねえつもりなんだったけどなぁ俺ちゃん」
「構わないさ。友である君と私のような老骨を受け容れてくれた君の朋友であり長であるネメシス殿に報恩しなければ魔人教団のお仲間にしてもらっても肩身が狭くなりそうだ」
人界を乱し穢れを生み出すという化神としての本分とバケヒエンとして異世界の友人アロンダイトとの友誼に応えるためにも老紳士は永らく鎮めていた闘争本能を揺り起す。
『夜の怖さを忘れた衆人よ。暗闇への恐れを学ばなくなった衆人よ。いま再び人知の及ばぬ怪異に慄きたまえ』
妖しげな光を放ち老紳士の姿が世にも恐ろしい異形へと変貌を遂げていく。
まるで千を超える修羅場を潜った無頼の渡世人を思わせる燕の怪人。
肩には般若面に似た白骨の鎧を纏い、漆黒の巨大な両翼を道中合羽のように身体に纏わせている。
手には数百年の時を共に過ごした得物の仕込杖を携え、目元は後ろに伸びた二本の長い角を持つ赤い仮面で覆われていた。
『ではな、アロンダイト。私は少し武働きに邁進してくるよ』
「おう!
『ハッハハハハ! 心得た! 我が友よ、刮目したまえ!』
いつかの酒の席でふと語ったことのある血気盛んだった頃の異名をアロンダイトに呼ばれたバケヒエンは老骨の身に煮えたぎる血が疾風のように通う昂りを覚えると高らかに宣言した。
言葉という名の音をアロンダイトの聴覚が拾う頃には飛翔したバケヒエンの姿はすっかり見えなくなっていた。
けれど、バケヒエンの飛行に伴って発生した衝撃波が次々と建ち並ぶビルのガラスや外壁を破壊してその軌跡を示す。
ただの飛行。
ただの移動。
バケヒエンにとってはただ道を歩くだけに等しい行為で生み出される大破壊が仮面ライダーという守護者が空想の存在でしかない、か弱き世界を蹂躙していく。
人は傷つき怯え、逃げ惑い――図らずも化神の根源である穢れを生んでいく。
※
ビャクアの世界。
同じ空でもこちらの大空の一角は熾烈な戦いを繰り広げるデュオルとDマーダーの攻防で焼けつくような熱気を帯びていた。
『オオオラァアアッ!』
『この程度か』
足場のない空中で縦横無尽に拳や蹴りの連続攻撃をしかけるデュオルだがDマーダーは精密機械も真っ青な動きでその全てを受け止める。次いで振り下ろされたハイキックを掴み取ると力を込めて振り回しデュオルの姿勢を崩す。
『ぐっ、ぬううう! なんの!』
『やるな……だが!』
『うおっ!?』
不格好な独楽のように回されるデュオルだが歯を食いしばって奮起するとその回転を利用して身体を軋ませながら反撃のソバットを叩き込む。
だが、Dマーダーは重い衝撃に耐えきるとそのまま弾丸のように体当たりをしかけてデュオルと共に地上へと急降下を始める。
『やらせるかよ……か、はぁ!?』
デュオルはこのまま踏ん張っても墜落は避けられないと判断すると先程Dマーダーがやったように自身も透明化しての脱出を試みる。だが、能力を使用した瞬間に伸びてきた敵の手が首を掴み呼吸を阻む。
『貴様の透明化には無呼吸状態という制約がある。把握していないとでも思ったのか?』
『――――!?』
喉にめり込んでくる指の感触に仰け反りながらデュオルはそのままDマーダーによって地上に激突させられてしまう。大地が砕け飛び、砂塵が舞う中で横たわるデュオルの腹を冷徹な専属殺人者は容赦なく蹴り飛ばして転がす。
『ごほっ! がはっ……ぐぅ、この野郎が!』
『驚嘆。いまので首の骨を折ってやったつもりだがしぶとい』
『しぶといぜ俺は……お前に勝つまで死なないからな』
『その割には歯応えが足りないな。以前戦った時の貴様の方が殺し甲斐があったぞ』
『ほざいてろ!』
口の中に血の味を充満させながら立ち上がったデュオルはすぐさまDマーダーに飛び掛かっていく。お互いに素早さに優れたフォームだ。手数に物を言わせて無手格闘の応酬を演じるがデュオルの攻撃は序盤は勢いがあるもののすぐにDマーダーにいなされて、反撃を浴びてしまう。
『理解しろ。俺はお前の模倣でも複製でもない。全てにおいて勝る上位互換だ』
『そういうめでたいこと言ってる奴が足元すくわれるのが定石ってんだよ! これならどうだ』
相手が仕掛けた跳躍からの二段蹴りをなんとか耐えて一度距離を取ったデュオルはベルトのホルダーから新たに二枚のライダーメモリアを引き抜く。
【2号!×響鬼! ユニゾンアップ!】
『ネクスト・ライド――!!』
【ストロングオウガ! GO! GO! LET’S GO!!】
『うおりゃああああ!!』
けたたましく響き渡る鼓の波紋めいたオーラを纏って姿を変えたデュオル。
深緑の右籠手と真紅の左籠手に左胸にあてがった風車を思わせる白銀の胸当てが特徴的な双角の剛腕戦士へとフォームチェンジを完了すると全力全霊で地面を叩きつける。
デュオルの拳骨を受けた地面はDマーダーの所まで一直線に激しい揺れを伴って岩盤が隆起して襲い掛かる。
『むう!? 成程、このような手も可能か……参考になる』
『俺の授業料は高いぞ?
足元から噴き出した岩石の奇襲に怯んだDマーダーの懐に潜り込んだデュオルの剛腕が炸裂する。胸板を殴り抜かれたDマーダーは木端のように吹き飛ぶが頭から真っ逆さまに落ちる寸前で飛行能力を活かして中空で留まった。
『支払いの前に実技の相手を所望しよう。モード・パワードイビル』
再びDマーダーの首から下の肉体がモザイク状の光を放って姿形を変えていく。
これまでの行動パターンから予想される敵の変化の結果を予想してデュオルは身構える。
悪い予感は的中してデュオルの前には自分よりも大柄な筋肉の鎧と剛力で武装した悪魔のような相手がそびえ立つ。
『いくぞ? 貴様に完全なる敗北と死を与えよう。ア゛ァアアアア!』
『舐めるなぁあああ……あ? あがぁああ!?』
背中から四本のねじれた角を生やした異形のDマーダーは野獣のような雄叫びを上げながらデュオルに突っ込む。負けじと正面衝突で迎え撃つデュオルだったが競り合うことも許されずに撥ね飛ばされると言う屈辱を突きつけられる結果となった。
『ハア……ハァ……まだだ! 情けねえ姿みせられねんだぞ? 頑張れ俺!』
『見苦しいな。現実を理解しろ。貴様に俺は倒せない』
粉塵に塗れてボロボロになっていくデュオルは何度痛ましい攻撃を受けても立ち上がる。立ち上がり挑み続ける。もうあきらめないと数奇な運命から戦友となった同じ仮面を纏う少年少女に誓ったから。
何度も果敢に攻撃を仕掛けるが怪力特化のモード・パワードイビルとなったDマーダーに自慢の拳打は悉く耐え切られ、あべこべに体がバラバラになりそうなほどの猛攻で打ちのめされてしまう。
『ぐぅうあ……あああ!?』
何度傷つき、倒れてもその心は未だ膝を付くことはない。
だが、ムゲンは気付いていなかった。
ツルギ、そしてビャクアという自分とは違う仮面ライダーと巡り会ったことで微かに、けれど確実に彼自身が備えていた戦士としての技量によどみのようなものが生まれていたことに。
それは劣等か情景か――ムゲンにも分からない感情が在るべき強さを曇らせる。
仮面ライダー……その称号は勇気を与える誇りか、それとも呪縛にも似た枷なのか。
※
「お二人ともご気分はどうですか? 異世界移動、無事成功ですとも!」
眩い光が晴れて、意識が鮮明になった頃合いでクーの声が沙夜たちに聞こえた。
寝起きのようなうわついた心地で周囲を見渡せばそこには見覚えのある街の景色が広がっている。さっきまで人気のない海辺の洋館の中にいたはずなのに。
「ここが本当に……私たちの生きていた世界とは別の世界」
「なんだか何の変わり映えもなくて実感湧かないね」
いつの間にか変身が解かれていた沙夜と永春はお互いの顔を見合って不思議な様子で苦笑し合う。けれどすぐに周囲の人々の只ならぬ気配に気持ちを引き締める。
「時間がありません。一刻も早くバケヒエンなる化神を探し出して騒動を食い止めませんと!」
「沙夜さん……探し物はそんなに時間掛からずに見つけられそうだよ」
「え……?」
唖然とした様子の永春の指差す方向を追ってあるビルに設置された大型ビジョンに流れる映像を目にした沙夜は絶句した。
大型ビジョンからはバケヒエンが引き起こした事件の数々が謎の怪現象や正体不明のテロリストによる仕業なのではないかという有識者たちの激論を交えながら延々とニュースとして報道されていたからだ。
「なんてことを……化神め、一体何を考えているのです?」
「こんな世界規模のパニックをボクたちだけで本当に止められるのか?」
魔人教団という支援者がついたことで実現したバケヒエンの侵略のあまりの規模の大きさに二人は思わず戦意を削がれそうになる。
しかし、狼狽する二人にずっとそんな大いなる侵略者を相手に戦う力はなくとも希望の芽を探すと言う手段で抗っていたクーの声が響く。
「お気を確かにお二人とも。まだまだ戦いはこれからですとも!」
「クーさん。なにか策があるんでしょうか?」
「洋館で聞かされた話といまみたニュースから分かった事件の情報を総合的に纏めると世界各自で怪現象を発生させるための媒介が必須と思われます。逆に言えばそれがこの事件の生命線……心臓部です」
「つまりナゴヤドームに降って来たっていう柱みたいなのを壊せればまだ何とかなる可能性はあるってことですか?
「十中八九は!」
ムードメーカーと思われがちだが類稀なる魔術師でもあるクーの冴えた洞察力と観察眼がバケヒエンの企みに隠された弱点をたちどころに暴き出した。
「急ごう! 土地や建物が殆ど変わらないならドームまでの近道、ボク知ってる!」
「はい! 必ず……必ず勝って、全部守ってみせましょう」
「あのジジイ……失礼。バケヒエンとかいうのに調子に乗ってベラベラと手の内を明かしたことを後悔させてやりますとも!」
不安と戸惑いも吹き飛ばし、気合を入れ直した沙夜たちは永春の道案内でドームへの道を急いだ。目的地に近付くにつれて街の混乱は色濃くなり、道中で徘徊する幼体の化神とも出くわすこともあったが最優先の目的を果たすために三人は一心不乱に走り続けた。
「もうすぐだよ! 後はこの広い通路を一直線に進めばドームだ!」
「クーさん……確認ですが魔人教団が関わっている事件はその首謀者を倒せば全て無かったことにできるんですよね?」
「ええ。いままでのパターンでいけばわたしが知る限り例外はないはずです」
「ありがとうございます。最悪の場合七つ道具でドームごと破壊しなければいけないかもしれませんので」
「いいですとも! 景気良くぶっ壊しちゃってくださいな!」
大逆転まであと僅かと自然と晴れた気持ちで走り続ける沙夜たち。
だが、そんな彼女たちに試練を与えるかのようにソレはやって来た。
『ウワッハハハハハハ!! 脆い! 軟い! 弱すぎる!』
「な、なんだぁ!?」
「黄金の……風?」
野太い男の高笑いと共にそれは沙夜たちの目の前に顕現した。
金色に輝き、驀進する先になる万物を塵芥に粉砕する激しい砂嵐。
「う、嘘でしょ!? なんでまた……よりにもよってコイツがここにぃ!?」
「クーさん!? 何か知ってるんですか?」
百鬼夜行や暗天とは毛色の異なる怪現象に戸惑う沙夜と永春とは裏腹にクーは血相を変えて大いに驚き始める。ただごとではないと永春が問い質そうとするがそれよりも前に世界に死を奏でる剣の一振りが三人の前に堂々と姿を見せた。
『お、ギギの民の魔術師じゃねえか! 祭壇に近付く命知らずがいると思って顔を出してみれば面白い獲物が釣れたみたいだな! 俺ちゃん今日は超ハッピーって感じだわ!』
砂嵐が収まっていく。
否! 巨大な黄金の砂嵐――正しくは吹き荒れる砂金の嵐がゆっくりと大柄な人型へと集結しているのである。
「ア、アァアァアァ……アロンダイトォオオオ!? なんでぇえええ!?」
『イエエエェェェェェェェイッ!! 俺ちゃんだぜえええええ!!』
恐怖で裏返ったクーの絶叫と酩酊したような陽気な大声が二重奏を響かせた。
素っ頓狂なやり取りで勘違いしそうになるが目の前に仁王のように立つ黄金の魔人から醸し出される桁外れのプレッシャーに永春はおろか沙夜さえも噴き出る冷や汗を容易に拭えないでいた。
「クーさん! こいつは!?」
「死奏剣と呼ばれている魔人教団の中でも最強の実力者と言われている四人の一人です」
「なんだって!? そんなのが……マジかよ」
謎の怪人の正体を聞かされた永春は震える手を何とか握り締めて最悪の敵の姿を見つめた。
一騎当千の剛力を秘めた四肢は丸太のように太く逞しい。
片手に軽々と握る軍配のような形の両刃斧の巨大さと言ったら軽自動車の面積を上回るのではないかと疑いたくなるほどだ。
これがアロンダイトの怪人としての姿。
高次元生命体メタローの中にあって更なる高みへと至ったハイメタローとしての威容だった。
『そこの女! お前がビャクアで相違ないな?』
酒場の酔客のような態度でケラケラと笑っていたアロンダイトは沙夜を視界に入れると途端に狩り場の獣のような鋭い声調で問うた。
「はい。あなた方魔人教団の敵……無辜の人々を守る仮面ライダーの一人です」
『そうかい! 俺ちゃんの好みとはちと外れるが別嬪なもんだから分捕り品にしても良かったんだが残念だ』
「……お前」
「永春くん、ご安心を」
沙夜を見て蛮族さながら強欲全開な物言いをするアロンダイト。
そんな不遜で傲慢なアロンダイトに永春は堪らず歯を噛みしめて短く憤りを露わにする。
しかし、ふと肩に添えられた温かな沙夜の手の感触で我に帰る。
「アロンダイトと言いましたね。どうかお気を病まないでください。私もあなたのような殿方は吐き気がするほど好みではありませんから……ムゲンに代わって成敗してあげますよこの不埒者」
『ウホッ! ウワッハハハハ!! おいおい……良い眼をするじゃねえかビャクアよぉ?』
自分を案じて怒ってくる永春に優しく微笑んで沙夜は真っ向からアロンダイトに退治すると前髪から微かに露わになった左目にこれでもかと研ぎ澄ました剃刀のような覇気を込めて睨みつけた。
彼女の眼光を受けたアロンダイトは上等な美酒を見つけたかのように上機嫌でひとしきり手を叩くと大きく深呼吸をした。そして――。
『その意気や良し! そして非礼を詫びよう、気高き戦士……我らが宿敵よ! これより先、俺は貴様を女とは見ぬ! いまからお前は改めて打ち滅ぼすべき好敵手だ!』
「望むところです。御伽装士の底力、存分に思い知るが良い!」
雰囲気を一変し、百戦錬磨の大戦士に恥じない風格を瞬時にその身に纏ったアロンダイトは大いなる試練としていま沙夜たちの前に立ち塞がった。
『我が勇名を冥土の土産に携える権利を与えよう! 我が名は大戦士アロンダイト! 魔人教団が誇る世界を滅ぼす魔剣が一振り!』
「オン・カルラ・カン・カンラ……白鴉の怨面よ、お目覚めよ」
軍配斧を振り回して演武のような動きで名乗りを上げるアロンダイトを前にして、沙夜もまた凛とした佇まいで白き面を被り、退魔の呪文を唱える。
『我ら魔人教団の大願のため! 我が朋友ネメシスの宿願のため! 我が武芸の悉くを以って貴様を殺そう! 覚悟は良いな仮面ライダー!!』
「――変身!」
死を呼ぶ金剛大旋風が吹き荒れる。
挑むは翼なき白き鴉。
世界の命運を双肩に懸けた決戦が始まる。