仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 デュオル×ビャクア ユニゾンウォー   作:マフ30

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エピソード10 お前の道を駆けていけ/戦士の本領

 

 

 化神バケヒエンと魔人教団により同時多発的に百鬼夜行が引き起こされ混乱が加速していく世界。空想の英雄(仮面ライダー)無き世界の命運を懸けて、ビャクアは魔人たちの頂点に至ったその一柱に挑んでいく。

 

『まずはお手並み拝見だ! 好きに打ち込んでくるが良い!』

『では遠慮なく。ハイヤァアアア!』

 

 ふてぶてしく構えるアロンダイト相手にビャクアはにべもなく呟くと俊足を活かして瞬く間に敵の背後上空に間合いを詰める。

 期待以上の動きに嬉々と双眸を光らせるアロンダイトの顔面を賽の目切りにするかのように両手に持った裂空の快刀を振り抜く。

 

『善きかな! 見てくれに似合わず過激な攻めをする奴だ! 俺ちゃん、そういうの大好きだぜぇ!!』

『……それはどうも!』

 

 下級の化神ならばいまの連斬で撃破に持っていける――それほどの手応えのビャクアの初撃をアロンダイトは盾のように突き出した人差し指一本で防ぎ切る。

 黄金の巨躯は飾りではなく、相当な防御力を有しているようだ。

 戦士としての自信かあるいは慢心なのか意気揚々と饒舌な口ぶりの強敵にすかさずビャクアは空中で身を翻すと踏みつけのような連蹴りをアロンダイトの頭部へと叩き込む。

 

『オイオイ……肩叩きのつもりか? 気持ち良くなっちまうぜ』

 

 金属に研磨機を押し当てたような激しい火花を頭部から噴き出しながらも口笛を吹く余裕を見せるアロンダイトに内心唖然としながらもビャクアの戦意に陰りは見られない。

 ここまではあらかじめ脳内で組み立てた戦術の想定内だ。

 

『退魔七つ道具が其の弐――雲薙ぎの大鎌! せぇえええい!!』

『ぬうぅん!』

『まだ……いきます!』

 

 着地したビャクアに目掛けてお返しとばかりにアロンダイトが振るう軍配斧が襲い掛かる。綺麗にコンクリートタイルを敷き詰めたドームへと続く通路を数秒と掛らず滅茶苦茶に破壊する斧撃の猛威を機敏な身のこなしで回避して、ビャクアは死角へと回り込むと得意の大鎌を振りかぶる。

 凍てつくような輝きを放つ鎌刃が地上から飛び立つ猛禽の軌跡を描いてアロンダイトを逆袈裟に両断せんと迫るが間一髪で巨大な軍配斧がそれを阻んだ。

 残念だったなと慰めの言葉を送ろうとしたアロンダイトを尻目にビャクアは大鎌を握り締めたまま、突如として足に力を込めると逆回転に全身を躍らせる。

 

『何をする気だぁ!?』

『――食らえ!』

 

 目の前であっという間に大きくなっていく敵の武器に思わず驚くアロンダイト。

 僅かに生まれた隙を逃さずにビャクアは神通力をたっぷりと注いで三倍に巨大化させた大鎌の峰の部分でアロンダイトの巨体を思いっきり殴りつけた。

 

『ぐお――ッ!?』

『いただく! 退魔七つ道具が其の肆――山崩しの大筒!』

 

 ハンマーで殴打されたような衝撃の前についに威風堂々とした肉体を地面に転がしたアロンダイト。見た目通りに俊敏さに若干欠けるその体躯は起き上るために時間を要した。

 その僅かな、けれど致命の時間を突いてビャクアはここまでの戦闘を考慮して難攻不落な防御力を誇るこの強敵に効果抜群の一撃になりうるのはどれか、導き出した決め手を構えた。

 

『これで……沈め!』

 

 一呼吸を経て心身に集中力を張り巡らせると迷わず長銃の引き金を引く。

 無慈悲に銃口から撃ち出されたエネルギーの奔流は流星のようにアロンダイトの胴の中心を捉えていた。

 

『ウワッハハハ! やっぱりお前もそれを狙うか? 狙うだろうな! 戦士ならばそれは定石だ!!』

『ッ……なにを!?』

 

 聞きたかったものは悪しき者の絶叫。

 されど、返って来たものはあろうことか高らかな哄笑。

 敵にはまだあきらかにしていない大きな秘密があると察して不安を抑えて身構えるビャクアの目の前でアロンダイトは悠然と大筒の一撃を無防備に受け止めようとする。

 

『だがなぁ! 常識定石をぶち壊してこその魔人! 高次元生命体と知れい!』

 

 アロンダイトの金色に輝く硬質な肉体の一部が蠢き始める。

 部位はまさにビャクアの銃撃の着弾予定地点。

 それはまるで風に吹かれて千変万化を繰り返す砂の如く。

 無情かな、大ダメージを確信した大筒の一撃はアロンダイトの流砂のように変質した身体を通り抜けてドームの壁に大穴を作るに留まってしまった。

 

『かわされた? いや……無効化された?』

『我が肉体は黄金! 剛柔兼備の金剛流砂! 故に豆鉄砲なんぞ、例え億兆京食らったとしても痛くも痒くもないんだよおお!!』

『そうきましたか……これはまた』

 

 大気をビリビリと震わせて己が強さを誇示するアロンダイトの咆哮。

 一方のビャクアは彼の言葉を聞いてたまらず絶句した。

 硬いだけの黄金の敵ならば幾らでも勝機を見出せるところではあるが硬軟自在の砂金の肉体となると話が違うのだ。

 

『私はお前のことを見誤っていたようです。確かに大戦士と嘯くだけのことはある』

『そいつは光栄だ! それで絶望して素直にその首を差し出す気にでもなったか?』

『まさか。例え首だけになっても勝ってみせますよ』

 

 だが、だからといって匙を投げるつもりもビャクアには毛頭なかった。

 自分は同じ名を持つ戦友にこの世界を先んじて任されたのだ。

 それに自分の背の後ろには世界に立った一人の大切な人が見守ってくれている。支えてくれている。負けるわけにはいかないとビャクアはいま一度、雲薙ぎの大鎌を手に構えた。

 

 

 

 

 ビャクアの世界。

 

 沙夜たちを送り出したカナタとハルカはというと迷うことなく強敵と戦う親友の許へと向かおうと進み出していた。

 自分たちが戦力としては何の足しにもならない存在だと自覚はあったがいまのムゲンには自分たちの姿と声が必要だと確信を以って。

 

「昨夜の食事の席の時は半信半疑だったけどさっきのムゲンの戦いをチラッと見て悪い予感が的中しちゃったよ」

「ああ。……あいつ、気負っていつもの半分も戦えてない」

 

 洋館の廊下を小走りで駆けながらカナタの言わんとしていることを理解して、ハルカはきっぱりといまのムゲンのコンディションを断言した。

 

「他の連中と比べる意味なんてないって言うのに……しかも、無自覚そうなのがタチ悪い」

「ムゲンってば顔に似合わず繊細なんだから」

 

 デュオルとして自らの模倣とも言えるDマーダーに苦戦するムゲン。

 単純なスペックを抜きにした彼自身も気付いていないその不調をこの姉弟は僅かな時間で看破していた。

 それは端的に表現するのなら一種の劣等感。

 自分以外の仮面ライダーを知らず、ただ一人の守護者として戦っていたムゲンがツルギ、そしてビャクアという戦う理由も状況もことなる同業者と出会ったことは彼にとって大きな刺激と実りを授けていた。

 しかし、堂々と世界の平和や人々の命を守るため戦う仮面ライダーたちとの出会いは過去の経験から少なからず人間嫌いで正義や清廉な理想といったものに懐疑的な心情を捨てきれないムゲンに仄暗い羨望や無意識の自己嫌悪を与えてもいたのだ。

 

「さあ、早くムゲンのお尻蹴っ飛ばして気合入れ直してあげないと!」

「ッ!? カナねえ、下がれ!」

 

 もう少しで洋館の玄関というところで只ならぬ気配を感じ取ったハルカがカナタの手を引っ張って後退したと同時に外から何かが壁を突き破って吹き飛ばされてきた。

 それは間違いなく絶賛苦戦を強いられるデュオル・ストロングオウガであった。

 

『ぐぅ……舐めやがって!』

 

 既に砂泥と傷でボロボロのデュオルは尚もしぶとく立ち上がり、ゆっくりと闊歩して迫る巨大な悪魔と錯覚するようなDマーダー・パワードイビルを睨む。

 

「ムゲン大丈夫か!?」

『おお!? カナタにハルカ! そんなところにいたのか! お前らこそ怪我してないか!』

「私たちよりも自分の心配しなさいって! 敵が来るよ!」

 

 耳に届いた二人の声にデュオルが纏う鉛のような重苦しい雰囲気が僅かに和らいだ。

 しかし、冷酷無情な専属殺人鬼は三人に語らう時間など与えずに殺意に溢れた猛攻を仕掛ける。

 

『お前の世界の仲間か? 探す手間が省けたぞ。このまま纏めて始末しよう』

『させるかよ!』

 

 進行方向にある瓦礫の山をその腕力で破砕しながら襲い掛かるDマーダーをデュオルは迎え撃つ。けれど、果敢に拳打をぶつけて敵の攻撃を相殺し反撃に転じようとするが地力の差で競り負けてあべこべに押し負けてしまう有様だ。更に普段のデュオルの戦う姿を知る物ならばその動きの単調さは一目瞭然であった。

 

『学習しろ。お前に俺は倒せない』

『があ!?』

 

 何度でも挑み、その度に殴り飛ばされ、蹴り飛ばされていくデュオル。

 しぶとく粘る敵にDマーダーが辟易しながら繰り出した強烈な蹴りが両腕を構えたデュオルのガードを崩す。そのまま二撃目に放たれた右ストレートがデュオルの腹部に突き刺さり、大砲の砲丸をぶつけられたような衝撃に苦悶の呻きを漏らしながら、ついにその片膝が地面についてしまう。

 

『そろそろ終わりしよう。手始めに四肢の機能を完全に破壊する』

『ぬう!? くぅうう……おおおお!!』

 

 その場で蹲るデュオルに死刑執行を告げるようにDマーダーの両腕が伸びる。間一髪で反撃が間に合い手と手の掴み合いを演じることとなったデュオル。

 奇しくもその構図は暗天にて繰り広げた初戦と同じ状況だった。しかし、今回は得意の力比べでありながらデュオルはジリジリとDマーダーの強大な力の前に押されていく。

 

『諦めろ。お前の戦いはここで終わりだ。救えるものはもうなにも無い。守れるものも……潔く死を受け入れろ』

『っあああああ! うるせぇええええ!』

 

 四肢どころか全身がズタズタになりそうな痛みと重みがデュオルを苛む。

 しかし、皮肉にもデュオルの闘志だけは決死で陰りを見せない。

 ツルギのようにあきらめてはいけないと。

 ビャクアのようにくじけてはいけないと。

 デュオルは必死に自分を鼓舞する。

 自分も彼らと同じ仮面ライダーなのだろうと。

 彼や彼女のように気高く戦わねばと。

 けれど、自分でも戸惑うほどに身体は重く、いつもなら容易く発揮できる火事場の底力が湧き出てこない。

 

『負けてたまるかああっ!』

 

 声の限りに叫んで決死に踏ん張るデュオル。

 しかし、現実は非情である。

 他でもないムゲン本人がいまのDマーダーと自信の実力差を痛感していた。

 戦いの最中、何度思案しても勝ち筋が見えてこない。

 本当にここで終わりなのか?

 終わってしまうのか?

 目の前の強敵と心の裡を蝕む不安に独り苦しむムゲンだったが彼は初歩的な見落としをしていた。

 

「ムゲーン! そのまま5秒意地でもキープしなさい! ハルくん、援護よろしく!」

「いけぇカナねえ!!」

 

 誰がお前を孤独(ひとり)で終わらせるものかと二色の声が響き渡る。

 そして、人知を超えた戦士たちの殺戮舞台の真っ只中へとカナタは迷うことなく駆け出した。

 

「先に言っとく! ムゲン、当たったらすまん!!」

 

 苦笑するハルカの言葉に続いて轟く銃声。

 なにが起こっているのか状況が理解できずにデュオルが音のする方角に視線を向けるとそこには自分たち目掛けて全速力で走ってくるカナタの姿。更には自分が使いDマーダーとの戦いの道中で落っことしたDブレイカーで丸腰の姉をフォローするように牽制射撃を行うハルカの姿あった。

 

『ただの脆弱な人間がなにをするつもりだ?』

「あれ、分からないわけ? アンタに勝つのよ、私たちでね!」

 

【FULL SPURT! READY!!】

 

 訝しむDマーダーを薄ら笑って挑発しながら危険を顧みずに両者の間に滑り込むように駆けこんできたカナタはなんとデュオルドライバーのライトトリガーの撃鉄を起こして引き金を引いた。

 

「さあ、ムゲン! 反撃の一発だよ! 景気良くぶちかましちゃいなさい!」

『お、おおりゃあ!!』

 

 カナタにより強制的にエネルギーをチャージすることになったデュオルは驚きつつも全身に満ち溢れる力を実感して咄嗟にDマーダーに渾身の一撃を叩き込んで数メートル先へと殴り飛ばしてみせた。

 

『ハア……ハア……助かったけど、カナタお前なあ! 一歩間違えてたら死んでたぞ!?』

「ムゲンがいつまでもしょっぱい戦い方してるから気合入れにきたんでしょうが!」

『は……!? しょっぱい? 俺の戦い方がしょっぱい!?』

「聞こえなかったのかな? いまのムゲン全然カッコ良くないからね。お行儀の良いお利口さんなヒーローみたいな戦いしちゃってさ? ムゲンらしくないったらもう、酷い」

『……それ、マジか? どうなんだハルカぁ!?』」

 

 あまりにも無謀な行動を取ったカナタを流石に窘めようとした矢先、浴びせられた思いもよらぬブーイングの数々にデュオルはビックリして固まってしまう。

 しゃんとしなさいと繰り出されたカナタのローキックで再起動したデュオルは何かの間違いではないかと後方にいるハルカにも問い質す。

 

「オレたちがここまでしてムゲンに伝えた言葉が嘘だと思うのか?」

『それは……!』

「別にオレやカナねえはムゲンがどんな仮面ライダーと自分を比べようが口出しする気はない。きっと、仮面ライダー同士じゃないと解らないってものがあるだろうからな」

 

 生身でDブレイカーを連射した反動で痺れる手をぎゅっと握り締めながらデュオルの傍へと歩み寄るハルカと彼と添い並ぶように立つ砂埃に塗れたカナタは共に仮面を挟んで世界で一番の親友の瞳を真っ直ぐに見つめて言葉を繋ぐ。

 

「けどな、ムゲンが自分のことを他の仮面ライダーたちに及ばない不出来な奴だなんて卑屈になっている姿を見せられるオレたちは面白くもなんともないんだよ」

「初めてデュオルになった日に偽物だろうと紛い物だろうと半端者にだけはならないって啖呵切ったのはムゲンでしょ? いいんだよ、それで。それも正解なんだよ。他の誰かを見習ったり真似たりしなくてもデュオル(ムゲン)は私たちの最高の仮面ライダーなんだから」

 

 世界の常識なんて知ったことかとかつて笑ったハルカ()が言う。

 名前も顔も知らない誰かの価値観なって知ったことかとあの日笑ったカナタ()が言う。

 自分の世界で生きる日々がどうでもよかった時間を終わらせてくれたいつかと同じ自由で不敵な笑顔を見せて。ムゲンを縛る劣等という不可視の鎖を引き千切っていく。

 

『ハルカ、カナタ……』

「いままでも、これからも――!」

「誰でも無いムゲンのやり方で――!」

 

「「カッコいいとこ見せてやれ! オレたちの仮面ライダー!!」」

 

 心のゴングを響かせるように万感の思いを込めたカナタとハルカの握り拳がデュオルの硬い胸板を強く叩いた。そんな友の激励に応えられないようなムゲン(デュオル)ではない。

 

『おうよ! 任された……ありがとよ!!』

「も一つ、ムゲンにアドバイス。敵はデュオルをコピーできてもムゲンをコピーしたわけじゃない。あとは解るよね?」

『ああ……恩に着まくりで感謝だ』

 

 身体を軋ませる痛みも傷も跳ね飛ばし、デュオルの全身に力が漲る。

 颯爽と踵を返して再び正面から相対するその五体から溢れる裂帛の気合いはDマーダーは無意識に先手を打つという選択を放棄して身構えるほどだ。

 

『いくぞデュオル! ゴング……鳴らせぇええええ!!』

『好きにならせばいい。ただし、貴様の魂葬の鐘をだ』

 

 仕切り直しと自信を鼓舞するルーティーンを決めて駆け出したデュオルのしぶとさにDマーダーは驚きつつも冷静に対応する。

 ここまでの戦いでデュオルの各フォームの戦力や戦闘パターンのデータは十分に採集・解析が出来ている。いくら精神論で振り絞った戦意を頼りにぶつかってこようとも迎撃の備えに不足はないと。

 

『沈め!』

『いや……翔んでやるよ!!』

 

 デュオルが攻撃動作に入る僅かに先を計らい、その首を圧し折らんと放たれたDマーダーの上段の蹴り。だがデュオルはそれをハンドスプリングで回避するとそのまま流れるようにエルボーを打ち下ろす。

 

『なんだと!?』

『喜びな……ここからもっと驚かせてやるからよ!!』

 

 何とか防御が間に合い両腕でデュオルの攻撃を受け止めるDマーダー。

 懐に入り込んできた敵を逃すマヌケはいないと反撃に転じようとするがその視界にデュオルの姿はない。ただ上空から高らかに木霊する声に虚を突かれるのみだ。

 

『お前がパクリ野郎とかもうどうでもいい! 俺の手札全部使って勝ちゃいい……シンプルな答えだぜ!』

 

 空を見上げたDマーダーにデュオルが落とした白昼に煌めく三日月(ムーンサルトプレス)が炸裂する。怪力に任せた闘法が主流のストロングオウガが使ってきた思わぬ技にDマーダーは面食らう。

 

「よし! それでいい……ガンガンぶちかませ!」

「デュオルが強いのはムゲンが強いからってことをそこのくだらない違法コピーに思い知らせてやりなさい!」

『ようやっと、反撃開始だぜええええッ!!』

 

 その強さの本領を誰よりも知るハルカとカナタの声援に心身共に強く背中を押されてデュオルの闘魂がよりは激しく燃え上がる。

 未だ地面に伏すDマーダーの首根っこを掴んで立ち上がらせるとローキックを左右から蹴り込み意識を逸らし、そのまま浴びせ蹴りを叩き込む。

 

『いい気になるな!』

『おおっと!?』

『惨めに潰れていろ』

 

 しかし、専属殺人者のプライドに懸けてDマーダーもやられっぱなしでは終わらない。頭部にぶつけられたデュオルの足を掴み取るとそのまま振り回して大地に叩きつけようとする。

 

『力抜けよ。勢い余って腕の骨折っても知らねえぞ? こんな風にな!』

『むっ!?』

 

 デュオル・ストロングオウガに勝る剛力を有するDマーダー・パワードイビルの手はその足を握り締めて逃がさない。だが、負けじとデュオルも力に秀でたいまのフォームを駆使して無理やりにその野太い腕に絡みつくと変形式の腕ひしぎ十字固めをお見舞いする。

 

『ぐぁあああ!?』

『いくらお前でもタコやイカみたいな軟体動物になれないらしいな。俺は限定的だがなれるぜ?』

 

 あわやマッチ棒のように折られかけた右腕を庇って怯むDマーダーに距離を取ったデュオルは二枚のライダーメモリアをセットする。

 写るのはストロンガーとウィザード――エレクトロキャスターの組み合わせだ。

 

『ッ……その姿は既に俺に敗れたことを忘れたのか? 愚かな』

 

 フォームチェンジを試みるデュオルに負けじとDマーダーも対応する。

 首から下のボディがモザイク調に妖しげな光を放って変化していく。モード・サンダーマジシャンへのモーフィングだ。

 

『ハハッ……ひっかかったなぁバーカ!』

『は!? 待て貴様!?』

 

 ベルトのスロットに二枚のメモリアを挿入する動作が入る都合、フォームチェンジへの時間はDマーダーが速い。デュオルが全力の攻勢に出られないように後ろで見守る広域破壊を先んじて開始しようと目論んでいたDマーダーではあったがメモリアを投げ捨てて一直線に驀進してきたデュオルに初めて大きな動揺を見せた。

 

『猿真似ばっかりしてるからよ! だあありゃああああ!!』

 

 フォームチェンジは真っ赤な嘘(フェイク)

 敵の隙をまんまと付いたデュオルはフォームチェンジが完了せずに反撃に出られない無抵抗なDマーダーを全力で殴り飛ばした。

 

『お前には一応感謝しとくぜ。お陰で自分の強みを見つめ直せた』

 

 小石のように何度も地面を跳ねながら吹っ飛んでいったDマーダーに憑き物の落ちた声で告げながらデュオルは改めて展開したベルトのスロットに二枚のメモリアを挿し込む。

 

【1号!×クウガ! ユニゾンアップ!】

「ネクスト・ライド――!!」

【マイティアーツ! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 電子音声が高らかに鳴り響き、ベルトから溢れる緑と赤の二色の眩い光の奔流がデュオルを包むとその姿を真紅の装甲と全身に二条の黄金のラインが特徴的なフォルムへと変える。

 

『好きな格好で掛ってきなDマーダー。待っててやるよ……決着をつけようぜ?』

 

 偉大な先人たちから受け継ぎ重ねた力は確かに強力無比だ。

 だが、何よりも強靭な強さ。

それは紛れもなくデュオルの変身者が双連寺ムゲンであること。

 初歩的な――されど自分自身では自覚できない強さの本領に気付けたデュオルは悠然と自らの力の写し見に雌雄を決する宣言をした。

 

『その提案には賛同する。だが――』

 

 砂煙を食い破って禍々しい赤に身を包んだ昆虫を象った戦士が突っ込んでくる。

 Dマーダー・マルチホッパーは鬼気迫る殺意を剥き出しにして襲い掛かって来た。

 

『いい気になるな。デュオル!』

『そいつは無理な話だ!』

 

 牙を光らせて食らい合う力と力。

 獰猛に研ぎ澄まされた技と技。

 大気を焼き焦がすような凄まじい攻撃と防御の応酬が繰り広げられていく。

 

『逝ね!』

『なんの! オオオリャア!』

 

 Dマーダーが貫手を放てばデュオルはそれを捌き、背負い投げで反撃する。

 だが機械染みた動きで両脚から地面に着地したDマーダーはすぐさま怒涛の連続攻撃を仕掛けていく。

 逆も然りだ。

 拳の乱れ打ちを掻い潜ってDマーダーがデュオルの顔面に一発入れようとその反動を利用して鉈の切れ味を秘めた回転蹴りで押し返す。

 

『もう一丁! 食らえオラァアアア!』

『がぁ!? く、クソ……!』

 

 デュオルは更に一歩踏み込みながらDマーダーの両腕を掴むと捻り上げる。曲がってはいけない方向に曲げられて軋む両腕の痛みに意識を乱されるDマーダーの不意を突いて、そのまま強烈な飛び膝蹴りを顔面に繰り出してやり返す。

 

 戦力(スペック)はやはり同等。否、僅かに全てにおいてDマーダーがデュオルを凌ぐ勢いを見せている。

 ならばこそ、だからこそ。

 天風姉弟が誰よりも理解し、いま改めてムゲン自身が悟ることができた喧嘩殺法(スキル)が勝負の明暗を分かつ。

 

『俺はお前を殺すために誕生した! 貴様の排除こそが我が生き甲斐! 戦う目的!』

『辛気臭い理由だな……もっと景気の良いお題目掲げておけって』

 

 背中の翅で断続的に飛行してフェイントを織り込んで苛烈な攻撃を仕掛けるDマーダー。先のデュオルであるならば防戦を強いられていたであろうソレを彼は真っ向から受け止め、なお且つ柔軟で豊富な手数で捌き反撃に転ずる。

 

『ならば問おう。仮面ライダーデュオル……お前は何のために戦う。何の価値があって我ら魔人教団と単騎であろうと戦い続ける!?』

『――決まってる!』

 

 Dマーダーの剃刀のような手刀を弾き返して、身を翻しながら鋭いローリングソバットを決めるとデュオルは清々とした声で答えを口にする。

 

『俺は俺の親愛なる人たち(せかい)のために戦うさ』

 

 穏やかに、けれど自信と覚悟に満ち溢れた口調でデュオルは告げた。

 正義や気高い理想に興味はない。

 名前も顔も知らない人々のために命を捧げるだなんてことを今更する気も起きない。

 だからこそ、一握りの大切で仕方のない人たちのためならば何も恐れず戦える。

 不埒で不純な理由かもしれないが平和で幸福に生きていて欲しいと願う仲間たちのためにデュオルという男は世界を丸ごと守り戦うのだ。

 

『随分と……俗な仮面ライダーだ』

『おうよ。運が無かったな。こんな奴の海賊版になるために作られるだなんてよ』

『誤解なするな。俺は俺の宿命に一切の後悔など抱いていない。そして――』

 

 Dマーダーの右足にエネルギーが収束。赤熱化した蹴撃がデュオルに迫る。

 

『俺は俺の任務を完遂する! デュオル……俺のために死ね!!』

『舐めた注文だぜ。今更だけどよ、お前――出禁だわ!!』

 

【FULL SPURT! READY!!】

 

 負けじとこちらもベルトのトリガーを引いてエネルギーを右足に満たしたデュオルは真っ向からDマーダーの必殺の一撃に立ち向かう。

 

『シャアアアァァッ!!』

『スペリオルライダーキック!!』

 

 膨大な力を纏った一撃と一撃がぶつかり合い、爆風が巻き起こる。

 衝突の際の感触にDマーダーはこのまま押し切れると勝利を確信する手応えを覚えていた。己の必殺技はやはりデュオルに勝っていたのだと。

 だが、その数秒後……自分の足に纏わりつく違和感を覚え、直ぐに一手先を行かれてしまったことを思い知らされる。

 

『お前はやる奴だ。確かに単純な技のぶつけ合いじゃ俺に勝ち目はないだろう』

 

 閃光と砂煙が晴れるとそこにはDマーダーの右足を両腕でがっちりと抱きかかえるデュオルの姿あった。

 

『けどよぉ……過信は厳禁だ。こんな風に肝心なところですっ転ぶぜ』

 

 デュオルには最初から蹴りで押し勝つつもりはなかった。

 ほんの一瞬だけでもDマーダーの大技の勢いを削げればいい。

 そして、デュオルは相手の足をクラッチしたまま錐揉み状態で倒れ込んだ。

 

『ぬ……のおっ!?』

『今度は俺の番だ!』

 

 デュオルのドラゴン・スクリューで文字通り足元を掬われて強烈な回転力で投げ飛ばされたDマーダーを更なる追撃が襲う。

 豪快にDマーダーを両肩に担ぎ上げたデュオルは相手の片腕と腿を掴むと自分の首を支点としてその背中を弓なりに反らせていく。

 

『タワーブリッジ・エンドロオォォォル!!』

『あ……が……ぅうぐぁあああああ!?』

 

 アルゼンチン・バックブリーカーとも呼ばれる豪快なサブミッションである技であるがデュオルはそれを独自に改良。反りと同時にDマーダーの全身を雑巾を絞るように捻ることで計り知れない衝撃を全身に刻み込んでいく。

 何とか抵抗しようとするDマーダーではあったがデュオルの桁外れな握力で掴まれた肉体では脱出叶わず、すぐに肉体のあちこちに亀裂や小規模の爆発が起き始める。

 

「いまだムゲン!」

「畳みかけちゃえ!」

『そぉうりゃあああ!!』

 

【FULL SPURT! READY!!】

 

 絶対の勝機を見取った双子たちの声に応えるようにデュオルはDマーダーを上空高方に投げ飛ばすと三度目のトリガーを弾く。決着の撃鉄をだ。

 

『スペリオルライダァァァクロォオオオオ――!!』

 

 自在跳躍を駆使して青く澄んだ大空へと断続的に飛び上がりDマーダーを追い抜いたデュオルの右手に宿る凄まじいエネルギーの奔流。

 大きく開いた五指に野獣に勝る獰猛な闘志を込めて繰り出された貫手にも似た掌撃はDマーダーの半身を呆気なく抉り裂いて見せた。

 

『俺の……勝ちだ!』

『――――見事……ッ!!』

 

 冷酷に、冷淡に幾度となくデュオルを追い詰めたDマーダーはその敗北に悔しさと微かな充足感を帯びた断末魔を小さく上げると爆発四散して果てた。

 地上へと舞い戻ったデュオルを友の歓声が出迎える。

 いつかのあの日も、そしていまも迷い進めなくなった自分を救い上げてくれた命よりも大切な親友にデュオルは控え目に握った拳で小さくガッツポーズを見せて応える。誰の真似をするわけでもなく。

 

 

 

 

 デュオルがDマーダーに勝利を収めたのとほぼ同時刻。

 魔人教団とバケヒエンの姦計が蝕む別の世界でアロンダイトと交戦中のビャクアは苦戦を強いられていた。

 黄金流砂のボディにより、遠距離攻撃を無力化するという驚きの特性を持った難敵に接近戦のみを強いられる状況は七つ道具を自在に操り多彩な距離と攻撃方法で相手を翻弄・制圧するビャクアの強みを著しく鈍らせた。

 そして、魔人教団の最強戦力。死奏剣のメンバーであるアロンダイトと白兵戦を演じるということの危険度の高さは並大抵の物ではないと言うことを懸命に切り結ぶ彼女は痛いほど痛感している真っ最中であった。

 

『うわっはっはっははは! 最初の威勢はどこへ消えた? 俺ちゃんはお前の武芸の先生になった覚えはないぞお?』

『チッ……! 私もお前のような輩に師事するのは真っ平御免です!』

 

 風を切り、宙を踊るように繰り出される軍配斧のおびただしい斬撃を紙一重で避けながら双刃形態の快刀による刺突で果敢に対抗するビャクア。

 だが、素人目で見てもビャクアが劣勢なのは明らかであった。

 アロンダイトの攻撃は見た目と得物の大きさからは想像も出来ないぐらいに速さと多彩さを帯びていた。加えて高い防御力を誇るアロンダイトの肉体そのものがよりビャクアをジワジワと苦境に追い込んでいた。

 

 敵の攻撃を回避しようと思えば身の素早さを優先して、まともな攻撃を与えられない。

 敵に着実にダメージを与えようと高威力の七つ道具を選べば身軽さを失い、アロンダイトの見た目に似つかわしくない疾き攻めを食らって命取りになりかねない。

 硬く、強く、そこそこ速いというシンプルな強さを無駄なく兼ね備えたアロンダイトはフォームチェンジにより特化した戦闘に適応した姿を持たないビャクアには非常に戦い難い敵だったのだ。

 

『こうなったら……電撃戦です』

『お? 何か面白いことをする気になったか? いいぞぉ! やってみろ!』

『退魔七つ道具が其の漆――韋駄天の天狗下駄!』

 

 このままでは埒が明かないと判断したビャクアは多少のリスクを承知の上で大勝負に打って出た。朱色の一本歯が特徴的な足鎧、通常なら敵を下す最終局面で使用するその退魔道具を装備したビャクアはその身を七つに分けて疾駆する。

 

『やぁああああ!』

『む!? 打撃七つ全てに重み……ほお、幻術ではなく正真正銘の分け身、影分身という訳か! 愉快なことをする!』

『まだまだ――!』

 

 神通力を用いた高速移動と一時的ながら7VS1という数の有利を以ってアロンダイトに挑むビャクア。しかし、これだけではまだ届かないということは彼女も理解していた。故にビャクアはまだ永春にも明かしたことのない奥の手中の奥の手を使用する決断に至る。

 

『退魔七つ道具が其の壱――天狗の羽団扇!』

 

『其の弐――裂空の快刀!』

 

『其の参――雲薙ぎの大鎌!』

 

『其の肆――山崩しの大筒!』

 

『其の伍――海砕きの無双籠手!』

 

『其の陸――天地守りの大具足、限定顕現!』

 

 ドームを縦横無尽に踊り駆ける七人のビャクアが次々に異なる七つ道具を召喚していく。

 その光景は猛々しさの中に神秘さをも内包した荘厳なものにも見えた。

 

『いざ、いざ、いざ――!!』

 

 無論、一度にそれだけの退魔道具を使用すればビャクアへの負担も莫大なものだ。少しでも気を抜けば心身共に摩耗して無様に昏倒してしまうのを気合で踏み止まり七つの白影が一斉にアロンダイトを急襲する。

 

『ハイヤァアアアアア――ッ!!』

 

 まず羽団扇より巻き起こる旋風が敵を惑わし動きを止める。

 氷雨のように無数に煌めく二刀の剣閃は気勢を削いで心を乱す。

 分厚く大きな首刈り刃と轟く砲火が定めし獲物を冥途の淵へと追い立てる。

 朱色の天狗下駄が軽やかに歩を奏で尚もしぶといその背を黄泉比良坂へ蹴り飛ばす。

 それで足りねば虚空より喚びし巨人の(かいな)が地獄諸共押し潰そう。

 命燃やして翔ぶが如く。

 七人装士が推して参る。

 ビャクア秘奥義いまこそ開帳。

 

『退魔覆滅技法! 乱鴉・七殺凶鳥――いざ、お覚悟!!』

 

 

 

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