仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 デュオル×ビャクア ユニゾンウォー   作:マフ30

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エピソード11 愚者を騙りて勇者(キミ)は立つ

 

 吹き荒れる突風とぶつかり合う衝撃が何度も肌をビリビリと震わせた。

 それはボクの目の前で、大柄な黄金の怪人と戦うビャクア(彼女)の奮闘の証明だ。

 

「負けるな……沙夜さん」

 

 絞り出すように、どうにか音になる声援はきっと彼女に届くことなく戦士と戦士が激突する戦場を包む轟音にかき消されるのだろう。

 喉が張り裂けるほどの大声で見ず知らずの世界の命運を双肩に懸けて戦う彼女を応援してあげたいのにボクにはそれが出来なかった。

 巨大な斧を棒切れでも振り回すかのように操り暴れるアロンダイトと呼ばれる怪人が全身から醸し出すプレッシャーがそれを許さなかった。

 ボクとクーさんはまるで空腹の肉食獣たちに囲まれたような重圧に耐えながらビャクアの戦いを見守ることがやっとだったんだ。

 ドーム内観客席エリアの一角で手すりを痛いほど強く握り締めながら徐々に劣勢を強いられていくビャクアの姿に固唾を呑んでいると彼女が勝負を仕掛けにいったのが見て取れた。

 

『退魔覆滅技法! 乱鴉・七殺凶鳥――いざ、お覚悟!!』

 

 七人に影分身をしたビャクアがそれぞれ異なる退魔道具を装備して一斉に攻めかかる。

 こんなことが出来たのか!?と圧巻の光景にボクは無意識に握り拳を作って沙夜さんの勝利を確信した。

 平時からビャクアの戦いを支える大鎌や無双籠手はおろかあの大具足の片腕まで召喚して攻撃しているんだ。これをまともに食らって無事な怪人なんているはずないと何度も御伽装士ビャクアの戦いを見届けてきた自分だからこそ、そう思えたんだ。

 だけど――。

 

『ンンハッ――ハッハッハ! 素晴らしい攻めだなあビャクア!!』

 

 金色の大戦士のハツラツとした大声が轟いて、まず白旋風が掻き消された。

 これが絶望の始まりだった。

 

『されど! このアロンダイトを仕留めるにはまだまだ足りねえぜええ!!』

 

 快刀の乱れ切りは強烈な張り手で砕かれた。

 左右から迫った大鎌と砲火は唸る剛腕に弾き返された。

 無双籠手による鉄拳は石柱のような脚から繰り出された蹴りによって相殺。

 一拍タイミングをズラして急所を狙う鎧下駄による一撃も軍配斧で捌かれてしまう。

 ダメ押しとも思えた腕のみ具現化された大具足の拳打をもアロンダイトは正面から受け止めると信じられないことに拳を殴りつけて押し返してしまったのだ。

 

 

 

 

『そん……な』

 

 乾坤一擲の大技があっけなく不発に終わってしまった現実にビャクアは愕然として呟いた。いまの自分が放てる最大の攻撃をこうもあっさりと破られたのだから無理はない。

 無理はないがショックのあまりに生まれてしまった隙はこの状況に置いては命取りだった。

 

『七人のうちのどれかを潰せばいいんだろうが……俺ちゃんそういう面倒臭い作業は嫌いなんだ。まとめて潰えていろ!!』

『うぅ……あ、ぁぁ、っああああああああああ!?』

 

 アロンダイトの巨躯が再び解れて金の流砂へと変わる。

 そして、ドームの中で渦巻く巨大な黄金の砂嵐。

 非常識なその光景が齎す大破壊がビャクアをドーム諸共に滅茶苦茶に傷つける。

 逃げる間もなくアロンダイトの金剛大旋風に呑み込まれたビャクアは本体の一人を残して掻き消されてしまった。当然、消滅しない本体もまるでミキサーの中に投げ落とされたように砂嵐に掻き混ぜられてボロボロの状態で永春たちがいる観客席エリアの近くにボトリと落下した。

 

「沙夜さん……沙夜さんしっかりして!!」

「ちょっ!? 永春さん行っちゃダメです!」

 

 羽を毟られた小鳥のような惨たらしい姿で観客席の階段に倒れ伏したビャクアの姿を見て永春は無我夢中で駆け出した。

 クーの制止の声も振り切って一目散にビャクアの許へと走る永春だったがあと少しの所で背後に感じた強烈な重圧に足が動かなくなる。

 

「……ッ!?」

 

 吸い込む空気がどこかザラつくと感じた時には既に永春の後ろで砂嵐が威圧的な人型へと形を成しかけていた。

 アロンダイト――これまで遭遇してきた怪人や怪物とは桁外れに強大な敵が自分の後ろにいるという実感に永春の心臓は爆発してしまいそうなぐらいに激しく脈打った。

 

「はっ、はっ……はっ、……くっ! 待て! 彼女に近づくな!!」

 

 荒っぽい鼓動を刻む心臓を胸の上から強く叩いて黙らせると踵を返してアロンダイトを睨んだ。

 大の字に立って道を阻む。

 無力な自分にはそれしかできない。

 そんなことしかできない。

 

「彼女を……沙夜さんを殺すつもりなら先にボクをどかしてみろ!!」

 

 悔しさを噛みしめながら、同時に永春は自分の不死身(強み)を信じて歯を食いしばる。

 例え何度肉塊にされてもこれ以上アロンダイトを沙夜に近づけさせはしないと。

 

『ん? うお? 何だお前? あー……お前、いまなんか俺ちゃんに言ったか?』

「……は?」

 

 ガツン、ガツン――と大きく無骨な足音が近づくたびに、永春は自分の体が破壊される痛みに備えた。だが、アロンダイトが自分と触れるかどうかのギリギリの距離で頭上から降ろした気の抜けた声に永春の心は怒りと困惑でグチャグチャに乱されることになった。

 アロンダイトはいまのいままで永春のことを気付いていなかったのだ。

 視覚としては見えていたのかもしれない。けれど、まるで人間が道端を這う蟻を知らず知らずのうちに踏み潰してしまうように永春というちっぽけな存在をその叫びに至るまで認識していなかったのだ。

 

『邪魔くさいとこに立ってんなよなぁ? 常識を疑うぜ』

「あ……ま、待てって!」

 

 歯牙にもかけられない。

 いや、そんな表現さえも生ぬるい対応をされた永春が精神的ショックでフリーズしている間にアロンダイトはぼやきながら僅かに道を逸れ、観客用のベンチを踏み潰してビャクアに接近しようとする。

 

『うるせえなー! ただの人間一匹が何様のつもりだオイ? お前らなんざはなぁ! 俺ちゃんたちが世界をぶっ壊すその隅っこで片手間にくたばっていく程度の存在なんだよ』

「ぐっううあ!?」

『気安くじゃれついてくるん――』

 

 どんな行動が最善の選択なのか?

 そんなことを考えている余裕も無く、咄嗟にアロンダイトの足にしがみついて永春はその行く手を阻もうとする。

 高次元生命体の驕りもあって、人間一人の無粋程度は無視するものだが血肉湧き踊る死闘の最中に水を差されたこともあってアロンダイトは鬱陶しそうに永春を片手で掴みあげてそのままドームの外へと投げ捨てようかと考える。

 しかし、次の瞬間に唐突に突っ込んできた白影がアロンダイトの首を串刺しにした。

 

『……これでも死にませんか』

『ほへー! 不意打ちとは似合わないこともやるんだな? その意気や良しと言っておくぜ』

『ハア……ハァ……永春くんを離しなさい。お前の相手は私でしょう?』

『よく言ったぜ! 楽しい殺し合いの再開だ!!』

 

 アロンダイトへと放たれた急襲の一刺し。

 それは心身共に激しく消耗しながらも何とか持ちこたえたビャクアの攻撃だった。

 二つ同時ですら本来なら負担の大きい退魔道具の一斉使用によって疲労困憊ながら、なんとか召喚した一振りの快刀を握るその双眸に宿る戦意に陰りが無いことを見抜いたアロンダイトは意気揚々と彼女をグラウンドへと投げ戻して自らもその後を追い巨体を大きく跳躍していった。

 

 

 

 

「っはぁ! はぁ……はぁっ、はぁっ、く……そッ!」

「ご無事ですか!? 無茶しすぎですよ! こっちの心臓が止まるかと思いましたとも!」

 

 グラウンドでビャクアとアロンダイトの戦いが再開された傍らで捨て置かれた永春は汗だくになって乱れた呼吸を整えていた。

 ほんの少し首根っこを掴まれて振り回されただけだと言うのに彼の全身には渓谷の桟橋からバンジージャンプをしたかのような負荷が掛っていたのだ。

 人間の意地を見せて微々たる抵抗を見せるどころか路傍の石ころ同然にしかみられていなかった無力さと悔しさが永春を苛んだ。

 

「クーさん! ムゲンから聞きましたけど、ランプの中に魔法の道具みたいなの色々入ってるんですよね? 武器か何かないんですか? 爆弾……爆弾とかでもいいです! アイツをちょっとでも怯ませられるならボクが抱えてぶつけてきますから!」

「ありませんし、そんな方法じゃ死んじゃいますからダメに決まってるでしょう!?」 

 

 自分の無謀な行動を叱責する声でクーがすぐそばにいることに気付いた永春は藁に縋るような気持ちで懇願する。その遮二無二な姿はまるで薬物の依存症を起こしたような危うさがあった。

 

「残念ですがいまのわたしたちには沙夜さんが勝ってくれることを祈ることしか……」

「そんな! ボクら野球の試合観戦しに来たんじゃないんですよ!?」

「わたしだって悔しいですとも……ですがもしも永春さんの身になにかあったら彼女やムゲンさんたちに顔向けできません」

「ボクは! その沙夜さんを手助けするために違う世界(ここ)までついてきたんですよ! なんでもいい……ちょっとでも、何か一つでも二人の戦いの役に立たなきゃここにいる意味なんて無いだよ!」

 

 クーの言っていることは正論だ。

 彼女だって手をこまねいて歯痒い思いを耐えているんだと理解も出来る。

 だけど、だけど――ただの人間として、彼らの友人として、仮面ライダーに助けられたものとして、このままで良いわけがないと永春は叫ぶ。

 

「もう! あなた意外と分からず屋ですねえ! ただの人間があの魔人と超人の戦いの間に割り込んでいって何が出来るんですかっ――……」

「え、あの……クーさん?」

「永春さん、あなた……ただの人間ですよね?」

「はぁ?」

「手短に永春さんになら使える切り札の説明をします。けれど最初に、もしもあなたがこれから死んだら責任とってわたしも死にますのでそれぐらいの覚悟を決められますか?」

 

 見かけによらず頑固な一面を見せる永春に自分自身も碌なことが出来ないもどかしさで焦っていたクーがついに堪らず怒鳴りかけた時だった。自分にできなくて永春にならできる、とっておきの切り札が残されていると閃いたのだ。

 

 

 

 

 アロンダイトが巻き起こした黄金の砂嵐で荒らされたグラウンドで死合う二人。

 だが一進一退の攻防を繰り広げていた緒戦とは大きく変わり、その戦いは圧倒的だった。

 消耗が激しく、満足に退魔道具も使えずなんとか徒手空拳で食い下がるビャクアに合わせて素手で相手をするアロンダイトの絶対的な有利な戦況である。

 

『もうガス欠か? 動きがダメダメになってきてるぜ!』

『がっ!?』

 

 掌打を放ったビャクアの片腕を難なく捻り上げたアロンダイトはガラ空きになった彼女の腹部を思いっきり殴り抜く。

 くぐもった呻き声を漏らして、くの字に曲がるビャクアをアロンダイトはそのまま容赦なく抉れた芝の地面に叩きつける。

 

『げふっ……うぅ、ああああ!』

『おっと!』

『御伽装士を侮るなぁああ!』

 

 地面に伏したビャクアをアロンダイトは何度も蹴りつけ、あるいは踏みつけて体力を奪っていく。だがビャクアは折れずに我武者羅な雄叫びを上げながら敵の攻撃から脱け出すとアロンダイトの頭部を狙って蹴りを連発する。

 

『そうこなくてはなあ!』

『あが……っ!? なん、のぉおお!!』

 

 何発目かの蹴りのタイミングを見計らってビャクアの足を掴んだアロンダイトはそのまま彼女の体を独楽でも回すように放る。飛行に失敗した竹トンボのように錐揉みしながら墜落したビャクアのあちこちを軋むような痛みが襲うが彼女はすぐに立ち上がり目の前の強敵にぶつかっていく。

 

『うわっはっはっははは! これはいい! 当たりのくじを引いた気分だ! 楽しいぞ!』

 

 ビャクアの姿は傷と汚れに塗れて本来の清廉とした純白さは嘘のように損なわれている。だが、どんな見てくれになっても気にも留めずに自分を倒すただそれだけのために立ち上がり続ける彼女の気概にアロンダイトは機嫌が天井知らずに良くなっていった。

 

『本当はもっとこの闘争を楽しみたいがそろそろ我らが魔人教団としての責務を我が友と一緒に成すとするか!』

『ぐあぁ!?』

 

 戦闘においても常に軽口を飛ばし、余裕に構えるアロンダイトではあるがそこに驕りはない。情け容赦のない諸手打ちでビャクアを打ち崩すと得物の軍配斧をゆらりと構える。

 

『ここまで楽しませてもらった礼だ……一瞬の痛みも与えず、楽に殺してやろう』

『ぐぁ……こ、の! 』

 

 逃れられないようにビャクアをしっかりと踏みつけて捕らえるとアロンダイトは狙いを決めてついに軍配斧を大きく天に向けて振り上げた。

 頭上に現れた自身の死を感じ取り、背筋を凍らせながら必死にもがくビャクアだが無情にも彼女を踏み止めるアロンダイトの足はビクとも動きはしなかった。

 

『さらばだ! 死ねえい!!』

「させるかぁあああ――!!」

 

 アロンダイトの軍配斧がビャクアの頭部に振り下ろされようとしているその時だった。

 猛牛の嘶きのような爆音がドームに響き渡り、観客席からフロントカウルに双角を有する漆黒の機影が飛び出したのだ。それは紛れもなくデュオルの愛機ビッグストライダーに跨った永春だった。

 

『ガキが……性懲りも無く、この愚か者めが!』

「ああ! 聞き分けの悪い愚か者のお通りだ!」

 

 ちっぽけで惰弱な人間の分際でまたも自分の邪魔をしようと試みる永春をアロンダイトは鬱陶しく睨んだ。対する永春は託された力とこれから自分が挑むことになる途方も無く大きな役目を胸に秘め、覚悟を決めた眼差しでガンガンとビッグストライダーを加速させていく。

 

『鉄の駄馬だか牛に跨ったぐらいでお前に何ができるってんだ? 俺ちゃんの視界に入るんじゃねえこの小バエ野郎が!』

「危ない!? 避けてください!!」

『いけない……永春くん!』

 

 直接相手をするのも煩わしいとアロンダイトは足元に転がっていた鉄筋の残骸を投げ槍のように永春に投げつけた。クーやビャクアの悲鳴にも似た叫びは既に遅く、高速で飛来した鉄筋は永春の左胸を貫通する。

 皮膚を、肉を、骨を突き破り背中から貫き飛んでいった後には永春の胸に開けられた穴からは鮮血が噴水のように溢れ飛んだ。

 

「――そんなの決まってる! 沙夜さんを助けるんだ!!」

『なんだとぉ!? ガキおめえ……なんだ(・・・)?』

「別に、ただの人間だけど?」

 

 身の程を弁えない愚者(バカ)を片付けて、少しばかりスッキリした気分を味わうつもりだったアロンダイトは顔色一つ変えずにビッグストライダーを飛ばす永春に驚きのあまり目が釘付けになった。

 

 なんでこの少年は死なないのだ?

 気が付けば貫かれた穴は全身どこを探しても見当たらなくなっていた。

 噴き出していた血は何だったのか?

 一緒にいるギギの民の魔術師が仕掛けた幻覚かなにかの類か? 

 そんないくつもの謎や疑問でアロンダイトの脳内が埋め尽くされている最中に永春は本来の持ち主たちに代わって機獣鉄人の命となる。

 

「うおおおおおおッ! アステリオスモード!!」

【FORM UP! ビッグダイン・ゴー!!】

 

 牡牛を模したエンブレムを叩き始動キーを起こした永春の体が光の粒子となってビッグストライダーと融合する。

 そして、緑の光を放ちながら双角を持った大型バイクは咆哮にも似たエンジン音を轟かせて人型の重戦士へと形態(かたち)を変える。

 

『ビッグダイン! エンゲエエエェェェジィッ!!』

『ぬおっ――ぐぉああっ!?』

『沙夜さんから……退けぇええええええええええええええ!!』

 

 永春が融合合体したビッグダインは翠光を弾けさせながら弾丸のような勢いでアロンダイトに肉薄すると黒鉄の拳でその巨体を全力で殴り飛ばしてみせた。

 いま二つの世界の境界を超えて一つの奇跡が生まれた。

 愛する人を守るため、少年が強き鋼と結び重なって不死身の鉄人がここに立つ。

 

『沙夜さん大丈夫!?』

『え、永春……くん、ですよね?』

『――うん。そうだよ』

 

 信じられない出来事が目の前で起きたショックでどこか浮ついた声のビャクアに漆黒に翠の稲妻模様を走らせた鋼の戦士は彼女がよく知る少年の声で答える。そして、まだ倒れたままのビャクアにそっと手を差し伸べる。

 

『借り物の力だけど、きっと全然頼りないかもだけど、これでようやく沙夜さんを直接助けられる……だから、一緒に勝とう。あいつに二人で』

『……はい』

『あのさ、ちょっと不謹慎だけど……ボク、いま少し嬉しいんだ』

『え?』

『ずっと、みんなのために戦う沙夜さんの後姿ばかり見てきた。けど、いまだけはこうして隣で沙夜さんの力になれるんだって。だから、頑張るよ』

『本当に不謹慎ですね。でも……沙夜は幸せ者です。なので、負けません』

 

 硬く冷たい指先におっかなびっくり手を重ねて、伝わる永春(かれ)の何も変わらないぬくもりにビャクアは不安や戸惑いの一切を吹き飛ばして凛とした返事を返した。

 何故だろう。

 とっくに全身はバラバラになりそうなぐらいの痛みを感じて、鉛のように重く疲れ切っていたのに永春のその言葉を受けて沙夜は活力が再び燃え上がる気分だ。

 

『ケッ……まさかその玩具だけ先にこっちに持ち込んでたとはな。一本取られたぜ』

 

 並び立つビャクアとビッグダインの前に思わぬ一撃を受けてダウンしていたアロンダイトがゆっくりと歩を詰めていく。今更敵が一人二人増えようと些細なことだと言うように戦意が増していくのが分かった。

 

『敵がもう来る!? ボクが盾になるから沙夜さんは攻撃に集中して!』

『ええ……ですが敵にもどうやら不死身に近い秘密があるようでそのカラクリを解き明かさないことには勝ち筋が見出せません。』

『だったらどうすれば……?』

『永春くん、少しだけ一人で時間を稼いでくれませんか……私も最後の切り札を使います』

『っ、アレだね! 分かった。任せておいてよ!』

 

 ビャクアの考えを察したビッグダインはすぐさま自らの役目を果たすべくアロンダイトへと突撃していく。黄金の怪人と黒鋼の闘士は真っ向からのぶつかり合いという原始の戦闘スタイルで以って激突する。

 

『うおぉおおおおお!!』 

『素人が! 気合だけで勝てるほどこのアロンダイトは甘かねえ!!』

 

 戦いに関して全くの素人な永春が出来るのは単純明快な殴り合いだけだ。

 無鉄砲で我武者羅で、無駄な動きも多いぎこちなさが拭いきれない戦い方でとにかくアロンダイトを鋼の拳で殴り続ける。

 

『戦いってのはな! こうやってするんだ!』

『痛ぃいいい!? ふっ……ざっけんな! タ……タウ・カノン!』

 

 火花を噴き上げながら激しく殴り合う両者。

 しかし、アロンダイトは即座にビッグダインの拙い動きを見切り、攻撃を捌くとアームロックを仕掛けて片腕をもぎ取ろうとする。だが、ビッグダインも激痛に苦しみながら負けじと自由の利く腕を変形させてエネルギー弾を乱射して脱け出す。

 

『小細工を! 弓鉄砲の類は効かねえって言っただろうが!』

『うわっ!? この!』

 

 至近距離からの思わぬ射撃故に最初の数発は直撃を許したがすぐに肉体の一部分を流砂化してビッグダインのカノン砲を無効化したアロンダイトはそのまま相手を押し倒すと馬乗りになって拳の雨をお見舞いする。

 

『惚れた女の前で良いところを見せたかったようだが悪いな! お前に俺ちゃんは倒せない!』

『ハハッ……倒すだなんて誰が言ったんだよ!』

『んなっ!?』

『それからもう一つ間違いを訂正するよ。ボクら、相思相愛だよ……羨ましいだろ?』

 

 アロンダイトの強烈な拳打を何発も食らってボディを凸凹にへこまされていくビッグダイン。だが、果敢に抵抗を続けながら不敵に意地を見る姿に不穏何かをアロンダイトが感じ取った時、ビャクアが満を持してとっておきの切り札の準備を完了させていた。

 

『永春くん、ありがとうございました。そして、お待たせしました』

 

 幽かに、されど凛と佇むビャクアの全身に金色の蛇紋様が浮かび上がる。

 いま怨面に沁み込み宿った呪を祝へと反転させて唯一無二の力を呼び起こす。

 

『オン・カルラ・カン・セキシン・カンラ――!!』

 

 悪しきを退けるための言の葉を叫び、白く輝く疾風に包まれて御伽装士ビャクアは姿を変える。

 燃えるが如く緋色のアンダースーツに大袖を飾る翡翠の勾玉。

 白い籠手には煌めく宝輪が重なり、双肩には紺碧の羽衣が浮かぶ。

 白き仮面を彩る真紅の隈取りと蒼い宝玉を備えた片翼を模した黄金の胸当て。

 

『我が名はビャクア。ビャクア・セキシン! 退魔が担い手、御伽装士が一柱。いざ、いざ、お覚悟を!』

『速い!? ぬおっあああ!?』

 

 勇ましく、神々しい太古の戦神を彷彿とさせる強化形態へと変身を完了させたビャクアは護恵の勾玉の効力で周囲のエネルギーを吸収して体力を回復させると、神足通による高速移動からアロンダイトを蹴り飛ばした。

 

『大した奴だ。さっきの七分身からの一斉攻撃を超える奥の手なんて隠していたのかよ』

『ええ。ですが今日はそれ以上の大きな力が傍にいてくれています。勝つのは私たちです』

『揃いも揃って惚気やがってよぉ……俺ちゃん、そういうのは嫌いじゃないぜ? 嫌いじゃないから、二人仲良く頭でもカチ割ってあの世へハネムーンに送り出してやるぜ』

 

 たった一撃受けただけでビャクア・セキシンの尋常ではない強さの跳ね上がりを感じ取ったアロンダイトは歓喜と殺意で武者震いをしながらゲラゲラと大笑いすると軍配斧を握り直す。

 

『永春くん、ここが正念場です。ついて来てくれますよね?』

『当然だよ。心臓や肺が爆発しても君のことを追いかける』

『クス……頼りにしてます。では――』

 

『『いざ、いざ、参る!!』』

 

 二色の声が重なって、ビャクアとビッグダインが飛び出した。

 ローラーダッシュを駆使しながら先陣を切ったビッグダインがカノン砲に変形した両腕から弾幕を張り、その身を不落の城壁のようにビャクアの攻勢を支える。

 

『万象剣・森羅――抜刀!』

 

 ビッグダインのすぐ背後に控えて走るビャクアもまた右手で退魔の印を結び作り出した召喚陣から千変万化の名刀を引き抜くと機を窺ってアロンダイトへと切り込んだ。

 

『――発剣。万象剣・光破の太刀!』

『グッ!? 俗にいうビームサーベルってやつか!』

 

 ビッグダインのエネルギー弾を取り込んだ万象剣は高熱を帯びた光の刀身を生み出してアロンダイトの堅牢な胸部を切り裂いて見せる。

 

『ハイヤァアアア!』

『俺ちゃんの得物はそんなもんで潰されるようなナマクラじゃねえ!!』

 

 光刃の軌跡が幻想的に幾重にも走る。

 羽衣を結った紺碧のマフラーを躍らせながら万象剣を逆手に握ったビャクアは剣の舞を演じるように流麗にアロンダイトと切り結ぶ。

 アロンダイトが自負するように彼の操る軍配斧はその分厚さ故にか、光破の太刀と何度も打ち合いながら刀身に傷を作ることはあっても決して溶断されることなく、初太刀以降担い手に手傷を負わせることなく競り合う。

 

『だったら! はああああ!!』

『うざってえな! このウシ公が!!』

『ぐぅ、ぅううううッ!?』

 

 二人の剣戟が膠着状態になると横からビッグダインが強烈なタックルをアロンダイトにぶちかます。そして、敵の軍配斧を奪い取ろうと手を伸ばす。

 だが、アロンダイトは敢えて一度ビッグダインに軍配斧を手にさせるとその隙を突いて力任せに相手の左腕を引き千切る。

 

『案山子にでもなってろ! このクズ鉄野郎が!!』

『ぎぃっ、があぁ――!?』

 

 破損場所から火花と漏電を起こしながら怯んだビッグダインにアロンダイトは容赦なく軍配斧を振り下ろす。何度も重く分厚い刃を叩きつけられるビッグダインの装甲は瞬く間にズタズタにされていく。

 

『ハァ……ハァ……根性ぉおおおお!』

『ぬおおっ!?』

 

 だが人体が欠損したのと同等の痛みを感じながら機体と融合している永春は不屈の精神でアロンダイトにしがみついて動きを止めようとする。

 

『沙夜さぁん!』

『ハイイイィィィィヤッ!!』

 

 ビッグダインが作った絶好の機会を狙い澄まして、裂帛の気合と共にビャクアがいく。

 

『お……おおっ――!?』

 

 神通力を宿した腕にて繰り出した双掌打を叩きつけ、アロンダイトの上半身を内側から吹き飛ばしたのだ。

 

『やったか!?』

『……あれは?』

 

 風で崩れる砂山のようにゆっくりと大量の砂金として散らばっていくアロンダイト。

 何処か呆気ない勝利の予感にビッグダインは心を逸らせるがビャクアはアロンダイトの肉体を形成していた砂金の中からほんの一瞬不自然な丸い混入物のような何かを目撃して首を傾げた。

 

『死奏剣が簡単に折れるわきゃねえだろうが――!!』

 

 豪放だが殺意で冷え切ったアロンダイトの声が響いたと思うや否や再び巻き起こった黄金の砂嵐がビャクアとビッグダインを襲う。肉体の半分を内側から爆散させられようともアロンダイトは生きていたのだ。

 

『沙夜さん、ボクに掴まって』

『はい!』

 

 この砂嵐に巻き込まれれば再び深手を負ってしまうとビッグダインは慌ててビャクアを抱き寄せると彼女を守るように脚部底のアンカーを展開して踏み止まる。

 

『他人のこと言えないけどアイツ本当に不死身なのか!?』

『限りなくそれに近い存在なのかもしれません。ですが……弱点はあるかもしれません』

『本当に!?』

『先程アロンダイトの半身を吹き飛ばした時にその体内に奇妙なものが紛れているのを見ました。永春くん、手伝ってください』

『もちろん。で、なにをすればいいの?』

 

 砂嵐の余波を少なからず受けて、徐々に装甲が削れて更にボロボロになったビッグダインをビャクアは密かに心を痛めながら、けれど尚更勝つためにある作戦を彼にそっと耳打ちする。

 

 

 

 

『うわっはっはっははは! 如何にお前たちが強き戦士であろうとも砂嵐を踏破する術はないだろう? なぁに、お前たちはよく戦った! 胸を張ってあの世で誇れ!!』

『勝手に勝敗を決めないでください。生憎ですが私たちはこの世でお前に勝ったことを誇る予定です。永春くん、お願いします!』

『ああ! ジェットナックル!』

 

 激しく渦巻く砂嵐の状態で哄笑するアロンダイトを反論して、ビャクアたちが反撃出る。

 ビッグダインの有線式ロケットパンチをエレベーター代わりに砂嵐の暴風を突っ切ってドームの天井スレスレまで飛び上がったビャクア。

 それを確認したビッグダインは小破して軋むボディを気合で動かすと全エネルギーを頭部の双角に集めた。

 

『タウロホーン・ブラスタアァアアアアア!!』

 

 ビッグダインの双角から放たれた翠色に輝く膨大なエネルギー波が天を衝く。

 そして――。

 

『――宝輪逆天鏡! 全てを受け止め、返し給え!!』

 

 上空ではビャクアが宝輪を広範囲に展開して形作った透き通った鏡でビッグダインの無数に枝分かれした稲妻のようなエネルギー波を反射して地上に返した。

 

『ぐぅう……うおおおおおお!』

『ハァアアアア!!』

 

 砂嵐の中をまるで大瀑布の激流のように縦横無尽にエネルギー波が駆け廻る。

 上空のビャクアはまだしも、地上にいるビッグダインは反射して降り注ぐ自らの攻撃で傷つくことも厭わずに双角から翠色の光波熱線を放ち続ける。

 

『なんのつもりだコイツら!? むっ!?』

 

 その意図を理解しかねる二人の行動にアロンダイトは言い知れぬ不安を抱いた頃、ちょうど二人の作戦の真意が効果を見せ始める。

 

『ぬああ……あああああ!? 熱っ……しまった……これが狙いか!!』

 

 砂嵐の勢いが衰えていく。

 焼け溶けてしまうような高温に突如として襲われたアロンダイトが苦しみ始めたのだ。

 これがビャクアの作戦の狙い。

 黄金の流砂で嵐に化けるアロンダイトをならば彼が砂嵐として存在する空間ごと融解するほどに急激に熱して攻めてしまおうという物だった。

 

『焼けるぅうう!? チクショウ……大ポカかましちまった!!』

 

 灼熱地獄に悶絶したアロンダイトはたまらず砂嵐形態を止めて、怪人体へと戻ろうとする。収束していく流砂に紛れる謎の赤い球体をビャクアは見逃さなかった。

 

『見つけた! それがお前の心臓ですね!』

『いかん! 勘付かれたか!?』

 

 ビャクアの指摘に思わず反応してしまった迂闊さがアロンダイトの運の尽きだった。

 彼女が推測した通り、この球体コアこそが何度肉体を破壊されようと復活するアロンダイトの唯一の弱点だったのだ。

 コアを砕かれることだけは避けねばと大量の黄金流砂がそれまでと違った動きで球体コアの許へと集まり怪人体を形成していく。

 

『いけぇえええええ! ビャクアァアアア!!』

『いざ! お覚悟を! オン・カルラ・カン・カンラ!』

 

 捨て身の作戦で半壊してついに片膝を突いて崩れ落ちてしまったビッグダインから、それでもなお不屈の永春の激励を受けてビャクアがこの戦いに幕を下ろそうと力を奮い起こす。

 

『オン・セキシン・カンラ――テンジョウ!!』

 

 ビャクアの五体を莫大な神通力が駆け廻る。

 全身に満ち溢れ、それでも有り余る力が燃え滾る蒼炎のオーラとなって彼女の身に纏わるとビャクアは天翔る流星のように宙空を駆けていく。

 

『退魔覆滅技法! 光鴉一殲!! ハイヤァアアアアア――!!!!』 

『ぐわぁあああああああああ!?』

 

 光り輝く大鴉の如きオーラを纏って繰り出されたビャクアの飛び蹴りがアロンダイトを射抜いた。悪運強くコアの全壊は免れたものの怪人体をも維持できなくなったアロンダイトは全身焼け焦げた人間体の状態でぼとりと地上に落下した。

 この瞬間、勝者がどちらなのかは誰が見ても明らかだった。

 ビャクアとビッグダインはこの圧倒的な強さと厄介さを有した魔人を相手に勝利を掴み取ったのだ。

 

「やった……やったよ沙夜さん!」

『いえ、まだです』

 

 ビッグダインとの融合が強制解除された永春を庇うビャクアの視線を追うとそこには満身創痍となりながらゆっくりと立ち上がるアロンダイトの姿があった。

 

「うわっはっはっははは! いやー参ったぜ。見事にしてやられたわ、俺ちゃん」

 

 咳き込みながら自虐的に笑うアロンダイト。

 その態度はまるでまだ余力が残っている様な気配さえあった。

 咄嗟に身構えるビャクアをアロンダイトの方からバツの悪そうな顔で制止した。

 

「今日はもうやらねえよ。そこのガキ、永春とか言ったな……先の無礼は詫びるぜ。お前も確かに肝の据わった戦士だった。楽しかったぜ」

 

 背後に光のゲートを展開したアロンダイトは気だるそうな足取りでそれに身を投げた。

 

「バケヒエンに最後まで付き合ってやれないのは忍びないが今回はお前ら二人に華を持たせてやる。また戦場で会おうや」

 

 どこか憎めない陽気な笑みを浮かべてアロンダイトはゲートを通過してこの世界から退去した。こうして彼らはまた一つ、世界を守るための試練を超えたのだった。

 

 

 

 

「ふーっ……どうにかなった。よかったぁ」

「本当に噂に違わぬ強敵でした。私もまだまだ精進しないといけません」

「あー……まだちょっと手が震えてるよ、カッコ悪い。沙夜さんやムゲンみたいにはいかないなぁ。当たり前だけど」

「いえ! そんなことは……とっても恰好良くて頼りになりましたよ! いえ、永春くんのことはいつも恰好良くて、頼りにさせてもらっていますけど。その、えと……たはは」

 

 一難去ってしばし静寂が訪れたドームで二人は仲良くボロボロになりながら、じんわりと湧きあがる安堵感に微笑んだ。

 沙夜と永春が照れ臭そうに互いの健闘を称え合っているとずっと傍観者に甘んじていたクーが大慌てで駆けつけてくる。

 

「沙夜さーん! 永春さーん! ご無事ですかー!?」

「クーさん、ごめんなさい。ムゲンのバイク、ぶっ壊しちゃいました」

「それよりも永春さん先程のお怪我は大丈夫なんですか!? だって、鉄の棒がお胸をブスっと!グサーって!」

 

 クーの指摘に永春はやっぱり見られていたかと表情を曇らせる。

 どうやって説明しようかと困っていると突然目の前の空間がパリパリとスパークを始めるという不思議な現象が発生して目が点になってしまう。

 

「いよぉっし! クーさん発見! 沙夜さんと常若くんも発見! 世界移動無事完了!」

「うえぇ……なんか気持ちわる。乗り物酔いしたみてえだ」

「慣れてないせいか、あまり快適なものじゃないよな」

 

 光が晴れるとそこには三者三様の反応を見せるカナタ、ムゲン、ハルカの姿があった。

 どうやって多次元渡航装置の魔力不足を解決したのか定かではないがこうして彼らは無事にそれぞれの難局を乗り越えて再会を果たすことが出来たのだ。

 

「お三方! よくぞ無事に追いついて来てくれましたとも!」

「クーさんたちも元気そうで何よりだ。どうやら一戦交えた後らしいけど……で、状況はどうなってんだい?」

 

 クーがムゲンたちにこちらの状況を説明しようとした時だった。

 ドームの外壁がバラバラに切り刻まれて大きな穴が開けられる。

彼らにはまだ乗り越えなければいけない最大の関門が待ち構えていた。

 そして、それは向こう側から来襲してきた。

 

『キッシャシャシャシャ――!! 切る! 斬る! KILL! きる! キル! キルキルキルキルキル!!』

「な、なに!?」

 

 狂った高笑いと支離滅裂な独り言を喚き散らしながら姿を現した異形。

 巨大な一輪のホイールの下半身に先端が鋭利な刃物や鋏になった無数の腕が無秩序に生えたグロテスクな外見の怪人。

 それは他でもない融合強化を経て突然変異を起こしたシザーハンズメタローのなれの果て、シザーマンメタローだった。

 

「あいつ、公園で戦ったハサミ野郎か! あの様子だと仲間から融合強化でもされたんだろうよ」

「どうするムゲン? まさかこんなに早く戦闘だなんて……状況最悪だぞ」

「ハルカさん、それはどういうことでしょう!?

 

 顔を見合わせて苦虫を噛み潰したような表情をする二人にクーが尋ねるとムゲンはデュオルドライバーのホルダーから何故か色褪せてしまった数枚のライダーメモリアを取り出してみせる。

 

「ホッピング・ジャーニーを動かすための魔力をメモリアで補ったらこのザマです。ちょっといま、デュオルの4フォームにはどれも変身不可なんですよ」

「なんですとぉおおおお!?」

 

 まさかの緊急事態の発覚にクーはムンクの絵のような表情で驚愕の悲鳴を上げた。

 

「だったら、私がいき……ま、すっ?」

「沙夜さん!?」

 

 ならばと怨面を手に取り、再び変身しようと構える沙夜だったがアロンダイトとの死闘で疲弊した体は不意に立ち眩みを起こすほどに弱っていた。

 もしもの時の隠し戦力であるビッグストライダーも中破して転がっているのが目に入ったムゲンたちも運悪く訪れた絶体絶命のピンチに押し黙って冷や汗を流すことしか直ぐには出来なかった。

 

「これは思わぬところで万事休すってやつだな」

「全滅するのだけは避けたい。悔しいけど、ここは逃げて体勢を立て直すよ、みんな!」

「あぁ! 思い出した……ムゲン、これを!」

 

 被害や犠牲が拡大してしまうことになってしまうが最悪の結果を防ぐために非情な決断をカナタが呼びかける中で永春が待ったをかけた。

 ムゲンがチラつかせたライダーメモリアを見たことで彼はこの土壇場で自分が上着のポケットに突っこんだままだったあるものの存在を思い出せたのだ。

 

「これってライダーメモリアってやつじゃないの!?」

「若ぁお前これどこで?」

 

 大慌てで永春がムゲンに手渡したカードは確かにビャクアの姿が写ったライダーメモリアといって間違いのない代物だった。

 

「知らない間にポケットに入ってたんだけど、いまはそんなことより……これでムゲンは変身できるんでしょ!?」

「永春さん、一枚じゃダメなんですよ……残念ですが」

「そんなっ!?」

 

 僅かに灯った逆転への光明。

 しかし、残念そうにデュオルのシステムを語るクーの言葉にみんなは落胆と絶望に叩き落とされかけてしまう。ムゲン一人を除いて。

 

「大丈夫だ。問題ねえぜ」

「ムゲン?」

「ありがとうな、若ぁ! これで望みは繋がったぜ!!」

 

 爛々とした目と犬歯を剥き出しにした笑みを浮かべるムゲンは労うように永春の叩きながらビャクアのライダーメモリアを受け取る。

 

「切り札ってのは一つ限りってのが相場だがデュオル()に限っちゃ別もんだ」

『デュオルゥウゥウウウ! 見つけた! ミツケタァ! コロスゥゥウウウ!!』

 

 ムゲンが何を言っているのか理解しかねて不思議そうに見つめる沙夜たちを尻目に彼は自分たちを認識して猟奇的な叫び声を上げながら迫ってくるシザーマンメタローに対峙する。

 

「いつだって、俺には切り札が二つセットでついてくる! 見てろよ新しいデュオルの爆誕だぜ!」

 

 高らかに宣言してムゲンはドライバーのホルダーから色彩を失っていない一枚のライダーメモリアを引き抜いてビャクアのメモリアと重ねて見せつけた。

 メモリアに写るは竜の意匠を持った純白の剣士。

 この世界でムゲンが巡り会い共闘した仮面ライダーツルギだ。

 

「……一緒に戦ってくれ、燐くん。それから、遠慮なく力を借りるぜ沙夜!」

 

 どんな窮地でも決して折れずに立ち向かった不毀の刃の如き彼を追想する。

 どんな悪意にも屈しない清廉な守り人だった彼女を追想する。

 

 彼のように、彼女のように、いま立ち塞がるあらゆる困難を自分だけのやり方で斬り祓ってみせるとムゲンはデュオルドライバーを装着すると両端のグリップを強く引き、展開されたカードスロットに二枚のライダーメモリアを装填した。

 

【ツルギ!×ビャクア! ユニゾンアップ!】

 

 いまデュオルドライバーが世界の境界を超えて巡り出会った二人の仮面ライダーの名を高らかに呼び上げて、双つの風車を回転させる。

 満ち溢れる凄まじい力を実感しながら武術の型のような動きでゆっくりと円を描くように大きく両の腕を広げて、曇りなき心に気合を入れ直した声と共にムゲンは左腕を勢い良く斜め上に振り上げた。

 

「変身――!!」

 

【オトギパラディーン! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 巻き起こる白い竜巻と自らを囲むように出現した七つの鏡から放たれる光に包まれて、ムゲンの姿が変わっていく。

 やがて白風と絡み合って砕けていく鏡がダイヤモンドダストのように煌めき舞い上がる中で神秘の息吹を纏った白き仮面の竜騎兵が産声を上げる。

 

「やったぞ……上手く変身出来た!」

「これが新しいユニゾンアップをしたデュオル!」

 

 自分たちの目の間に顕現した新たなフォームのデュオルにカナタたちは息を呑んで歓喜に震える。

 そこにはツルギとビャクアの特徴を併せ持ったフォルムを持つ白き戦士が立つ。

 肉体は白いアンダースーツに天狗を思わせる羽織のような白銀に蒼の差し色の入った 鎧を纏う。

 両腕はツルギのライダークレストである竜面の装飾が施された紺碧の籠手に覆われている。

 頭には鶏冠のような一本角の飾り。

 仮面の目元は黄緑のバイザーの奥に赤い双眸が隠され、口元は鎧武者の面頬に似た和洋折衷の形となっている。

 そして、背中に装備した左右で竜と鴉の翼を模した二基のイオンブースターが異彩を放つ。

 これこそが鏡界を駆ける退魔の聖騎士デュオル・オトギパラディーンだ。

 

『いくぞ。俺も――ぶった斬るぜ!!』

 

 竜の刃が吼える。

 仙鴉の術が冴える。

 最終決戦は加速する。

 

 

 

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