仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 デュオル×ビャクア ユニゾンウォー 作:マフ30
ついさっきまで平和だった自然公園を侵略する夥しい炎。
瓦礫が散らばる荒れ果てた惨状を晒し、嗤う異形の数五つ。
しかし、未だ膝をついて苦しげな呼吸を繰り返すビャクアの視線は別の方向へと向いていた。
「嘘、ですよね……ムゲン? そんな……」
自分を助けようと生身でメタローたちに挑み、無慈悲にも自動販売機の下敷きとなってしまったムゲン。彼自身の姿は確認できないがまるでその生命が脱け出していくように真っ赤な水溜りはとめどなく大きく広がっていくばかりだ。
『貧弱な人間風情が俺たちメタローをどうにかできると思ったのか?』
『カッカッカ! ただのバカなんだろう。顔に仰々しく包帯を巻きつけて、おめでたい死にたがりだったんだろうよ』
『違いねえ! イッヒャッハッハッハ!!』
守らなければならないはずの一般人のムゲンに庇われ、あまつさえ目の前で彼が怪人にやられてしまうのを見ることしか出来なかった無力さと悔しさに苛まれるビャクアに不快な嘲笑が降り注ぐ。
何の罪もない人々の平穏を理不尽に踏み荒らすことを戯れにしか思っていないメタローと化神の連合を睨むとビャクアは痛む肉体に鞭を打って立ち上がる。
「お前たちだけは……意地でも倒します」
『カカッ! できるのかぁ? お前のような雑魚に?』
『今度こそ殺してやるぞ御伽装士! 晒し首にして他の化神たちにも見せつけてやるわい!』
「あああぁぁっ!!」
この世界を蹂躙するために無法を楽しむメタローと宿敵打倒のために息巻く化神たちを相手にビャクアは新たに召喚した快刀を握り締めて駆け出した。
怒声を張り上げて、敵集団の動きに目を凝らし、危機迫る覇気で刃を振るって応戦する。
『チィ……活気付かせてやるものか! おい!』
『ああ! バケヒヒとか言ったな、コイツを押さえておけ……まずは足の一本もスパッと切り落としてやるぜ!』
『ウホッホ! それは愉快そうだわい!』
「この……ゥウウッ!」
彼女らしくないビャクアの果敢な攻めは僅かに五体の怪人たちを怯ませた。
しかし、手負いの状態ではそこまでが限界だ。
正面からビャクアの太刀を赤い鋼鉄のボディと得物の手斧で迎撃しながら指揮を担うフレイムメタローの号令で怪人たちが再び彼女を包囲戦と動きだす。
『ウホオオオオオ!』
『チェヤァアアアアア!』
疲労困憊の傷ついた身体ではついに捌き切れずに背後に隙を作ってしまったビャクアにシザーハンズメタローとバケヒヒが飛び掛かる。
剛腕が彼女の両腕を砕き、凶刃がその片足を切断してしまう。
「ちょっと待ったぁ!」
そう思われた絶望の瞬間――異郷から来た客人の声が響く。
ああ。しかして、希望はやってきた。
ビャクアとメタローたちの周囲に摩訶不思議な青白い煙がもくもくと溢れ出したと思えば煙は怪人たちだけを取り囲んで身動きを封じるとゆっくりと人型へと変わっていった。
『なんだこの気味の悪い煙は!? う、動けないぞ!』
『おい、教団の! どうなっているのだ!?』
『これはギギの民の……チッ、鬱陶しい! あの魔術師の仕業か!』
謎の妨害を食らった怪人たちに動揺が走る。
特に化身側の混乱は大きく、メタローたちへ苛立ちを堪えることなくぶつける始末だ。
利害の一致で結託していただけの関係もあって、一度綻びを見せた怪人たちの連帯が立ち直るのには時間を要した。
その間に黄金のランプを手にした異国情緒あふれる褐色の女性が怪人たちとの距離に警戒しながら戸惑うビャクアへ大声を掛けてきた。
「今度は一体なにが……?」
「そこのー! ご無事ですかこっちの世界の仮面ライダーさん!」
「わ、私のことですか!?」
「はい! もちろん、そうですとも!」
自慢のアーティファクトでビャクアに助太刀したのは紛れもなくムゲンを探してこの世界へやってきたクーだった。
当然のように自分のことをその名で呼ぶ彼女にビャクアはますますこの状況に追いついていけない様子で気の抜けた声を出してしまう。
「体勢を立て直すのなら今ですよ! 正直なところ、わたしのスモークゴーレムではそう長くはメタロー体の動きを抑えることは出来ないですので」
「メタローをご存じなんですか!?」
「詳しい話は後ほどに……お二方ぁ、そっちは任せましたよ!」
ビャクアにこちらへ下がれと手招きをしながらクーはランプを操る手に力を込めて、同行者たちに叫んだ。自分たちが探している少年がこの世界でどんな状態に陥っているのかは簡潔にだが既に光姫から聞いていた。
けれど、何の憂いもないと言う根拠のない自信がクーにはあった。
なにせ今回はムゲンにとっての最大最高の助っ人であり、特効薬の二人がついているのだから。
※
あちこちで燃え盛る火の熱気でちょっと走っただけで汗が噴き出した。
そこまで近場で黒煙が煙っているわけではないのに心なしか苦しい呼吸を堪えて、ボクはなんとかそこに辿りついた。
「ハア……ハァ……頼む、頼むよ。これぐらいで死んだりしないでくれよ……ッ!」
折り重なった数台の自動販売機の下に出来た真っ赤な水溜りを前に不安で鼓動が速くなるのが分かった。この下にはムゲンが下敷きになっている。
彼が他人よりも丈夫なのはこの立った数日間の交流で分かってはいるつもりだ。けれど、それはあくまで普通の人間の範疇の話だ。
「ぐ……熱ッ!? くそ……なめるなよ、火傷ぐらいなんだっていうんだよ」
少しだけでも位置をズラせればと無我夢中で触れた自動販売機は公園を焼く悪意に塗れた炎の熱で高温を帯びていた。
手に走る鋭い痛みと熱に咄嗟に後ずさってしまった自分に喝を入れて、ボクはもう一度自販機を押し退けようと力を込める。
無駄かもしれない。
手遅れかもしれない。
人間は脆く弱い生き物だ。
この下に埋まっている少年はもう、生きていないのかもしれない。
脳裏に浮かぶ最悪の想像を何度も振り払った。
こんな形で死とは恐ろしいものだと思い知らされることになるなって、
「死なないで! こんなところ死んじゃダメだろ、ム――……」
「こぉらムゲェエエエエエン! なに呑気にお昼寝してるのかな!!」
「は……!?」
どれだけ懸命に押しても自分の力ではビクともしない自販機の重さに焦りを募らせている中で聞こえてきた少女の叫びで永春はやっと周囲に起きていた状況の変化に気付いた。
アラビアンナイトに出てくるような煙で出来たランプの魔人が化神たちの動きを封じ込め、それを操る紅衣を纏った女性がビャクアを助けているではないか。
そして、いまの大声のする方向に視線を向けると双子だと思われる見た目がよく似た二人の高校生らしき少年少女が永春と倒れた自販機の少し離れたところに立っていた。
「カナねえ、まだ起きないぞムゲンのやつ」
「そうみたいだね、ハルくん。全く困った大親友だよ。さて――」
カナタとハルカの天風姉弟は乱雑に倒れた自販機と血溜まりを一瞥して、ムゲンがどういうことになっているのかを素早く把握した。しかし、別段驚くことも心配する素振りも見せずにただ親友への絶対の信頼を胸に大きく息を吸う。
「ムゲエエエエン! 早く起きなさああああぁぁぁい! カウント取っちゃうよ!」
「オレの3カウントは早いぞムゲン! いくぞ、1! 2!――」
「だぁあああああッ!!」
3カウントは取られなかった。
代わりに爆発のような轟音を響かせて、自動販売機が宙を舞った。
高らかに鳴る二人の声に呼応するかのように彼は遂に、そしてあまりにもあっけなく目覚めたのだ。
「あぶねー! もうちょっとで醜態晒すだけ晒して退場するところだったぜ」
「マジか……あんな目に遭っても生きてるよ? それにもしかして」
「よぉ、若。さっきぶりだな、そしてはじめまして。正真正銘の双連寺ムゲンだ。よろしくぅ」
蹴り飛ばされた衝撃で壊れた自販機から吐き出される缶ジュースやペットボトルの雨。
その中から拾い上げたミネラルウォーターを頭から被って血を洗い流し、雰囲気が変わったムゲンは唖然としっぱなしの永春にニヤリと微笑んだ。
激闘の代償に失われていたムゲンの記憶はカナタとハルカに呼ばれたことで簡単に元に戻ってしまったのだ。
「記憶が戻ったんだね! それにあの子たちはムゲンの知り合いでいいの!?」
「おうよ。この後のお叱りを想像すると気が重いけど、まずは溜まった汚名の返済から始めるとするか」
「なに言ってるの! ムゲンはただの一般人なんだから、今度こそ死んじゃうよ」
あちこちで燃え盛る炎と跋扈する怪人という地獄のような光景を前に妙に落ち着いた様子で歩き始めるムゲンに永春は心臓が止りそうな気分だった。
「それがそうでもないのさ。おーい、カナタ! 俺のメガネ持ってるよな!」
「これがないと私たちのムゲンじゃないからね。ほら!」
「言いたいことも、聞きたいことも色々あるけど、まずは分かってるよなムゲン」
「「
「任せとけ!」
熱い激と共に投げ渡された友情の印でもある自身の眼鏡をかけ直し、ここに完全復活を遂げたムゲンは五体に力を漲らせて怪人たちを目掛けて進み始めた。
「ムゲンさん、ご無事で何よりですとも!」
「お陰さまで。クーさんにも助けられっぱなしだな。それに……いまはビャクアって呼んだ方が良いのか? お前にも世話になった。ちょっと休んでろ」
「ムゲン……あなたは、あなたたちはどういう?」
「まあ、あれだ。簡単に説明すると同業者ってやつだな」
ビャクアとすれ違いざまに僅かに言葉を交わしたムゲンはアーティファクトの指輪からデュオルドライバーを召喚して見せると眼差しを狼の如く豹変させた。
『なんだァ! 死に損ないがまたのこのこ出てきやがったぜぇ!』
『滑稽よな! 小汚い肉団子になりたいようだわい!』
闘志という名の牙を剥いて自分たちの前に立ち塞がるムゲンに化神たちは盛大に嘲笑をぶつける。しかし、顔の包帯が取れて更に眼鏡をかけて本来いる世界と変わらぬ見た目に戻った彼を一目見たメタロー達には衝撃が走った。
『馬鹿な……なんでテメエがこんなところにいる!?』
『や、やっちまったぞ俺たち! ど、どどどどうするよ!?』
『最悪だ。俺たちは千載一遇の機会を無駄に振るってしまった。だが、まだ巻き返しは出来る。落ち着け貴様ら!』
「させねえよ! お前ら相手にゴングは鳴らさねえ。こっからは何でもありの場外乱闘だ」
狼狽するメタローたちを鼻で笑い、ムゲンはデュオルドライバーを装着すると両端のグリップを強く引き、展開されたカードスロットに二枚のライダーメモリアを装填する。
【1号!×クウガ! ユニゾンアップ!】
武術の型のような動きでゆっくりと円を描くように大きく両の腕を広げて、曇りなき心に気合を入れ直した声と共に左腕を勢い良く斜め上に振り上げた。
「変身――!!」
【マイティアーツ! GO! GO! LET’S GO!!】
電子音声が高らかに鳴り響き、ベルトから溢れる緑と赤の二色の眩い光の奔流がムゲンに纏わり、彼の肉体を戦うための存在へと変えていく。
目の間で起きている光景にビャクアと永春は驚くばかりだった。
なにせ光が晴れたそこには御伽装士とよく似た仮面の戦士に変わったムゲンがいたのだから。
「いくぞデュオル! 仮面ライダーデュオル! ぶちかますぜ!!」
変身完了!
真紅の装甲、白銀の具足。
無尽の技を駆使する大いなる者たちを超えていく戦士がいまここに復活した。
『いくら貴様が相手とて! この数の猛威を覆せるわけがないだろうが!』
『殺せええ! 殺しちまえば全部解決ってやつだ! イッヒャッハッハッハ!』
ゴングはいらない。
デュオルがそう宣言したようにシームレスに戦いは再開された。
フレイムメタローの炎とバケムササビの突風が先手を打ってデュオルを襲う。
「オオオオリャアッ!」
『ひぇ……ッ!?』
だがデュオルは止らない。
炎も風も突き破り、暴走特急のように敵の集団に駆け込むと他の敵は目もくれず空を飛べるバケムササビに殴りかかった。
「まずはお前だ」
『いぎっ……あが!?』
馬乗りにされて動けないバケムササビに鋼のように硬く強い拳の集中豪雨が降り注ぐ。
自慢のファンによる強風で押し退けるという選択が思考出来ないほどの猛攻にバケムササビはだらしなく昏倒してしまった。
『ふざけやがって! 食らえオラ!!』
「ぬう……調子に乗るなよ羽虫みてえに群がる雑兵共が!!」
風を叩き潰したデュオルだが残る四体の怪人が殺意を滾らせて彼を取り囲み襲い掛かる。
クロコダイルメタローの大木のような尻尾がデュオルの背中を叩き、岩盤の崩落めいた衝撃が体に走る。それを皮切りに火炎や刃、剛腕が次々にデュオルに浴びせられる。
「ウウウルゥアアアアアァァッ!!」
『ぐおお!? クソ……さっさとくたばれよ仮面ライダー!』
「嫌だね! そう言われると意地でも倒れてはやれねえな!!」
『ぎぃあぁ!? 俺たちの攻撃も当たってる筈なのに、なんであいつだけピンピンしてるんだよ!?』
だが、デュオルは沈まない。
呼吸の代わりに闘争が生命維持の役割を果たす存在のように根性の一撃を叩きつけていく。嵐の中で食らい合う獣たちのような激戦。メタローたちはビャクアがそうであったようにすぐにデュオルも多勢無勢の暴力の前に倒れるものと思っていたがその見込みは大きく裏切られた。
『デュオル……こいつ! 俺たちの本命の攻撃だけは見切ってやがる!?』
「ご名答! だが、気付いたところでもう遅い!」
『うぎゃああああ!?』
首を狙って振り降ろされたシザーハンズメタローの刃を紙一重でかわしたデュオルは軽量級の相手をベアハッグで捕らえてダメージを与えながら近くのジャングルジムに叩きつけた。
「悲鳴上げるにはまだ早いぞ! せえええいっ!!」
『ふぼぉ!?』
シザーハンズメタローの体が地面に付くよりも前に大砲の連続発射のような重い足刀蹴りの乱れ打ちが炸裂する。抵抗しようと刃になっている両腕を振り回すが遅すぎた。
ダメ押しとばかりに繰り出されたデュオルの跳び膝蹴りを顔面に喰らったシザーハンズメタローは虫籠に突っ込まれた昆虫のようにジャングルジムの奥深くにめり込んで動かなくなった。風に次いで矢継ぎ早にデュオルは刃を封じて見せた。
「さて、ちょこまかと鬱陶しい連中にはしばらくご退場ってわけだ。こっからは更にやり易いぜ」
『この小童め、一体どんなイカサマをしておる!』
『テメエらの怨敵の御伽装士が弱過ぎただけじゃねえのか!? ふざけやがって!』
「タイマンも張れない根性無しの分際で口だけは立派だな。その口から引き裂いて敷物にでもしてやろうか」
全身に傷と汚れを作りながらも微塵も倒れる気配のないデュオルを前に化神とメタローは見苦しく言い争いをする始末だ。
しかし、不意にクロコダイルメタローが口にしたビャクアを侮る言葉にデュオルは剣呑な凄みをぶつけて威圧する。
「さっき胸糞悪く寄ってたかってビャクアをいたぶってくれたお陰でこちとらお前らの手の内は把握済みだ。解るか? お前らは俺に負けるんじゃない、俺たちに負けるんだ」
デュオルは意思強くそう告げる。
ここまで一見すると我武者羅に力尽きるまで暴れている様なデュオルの戦い方ではあったが彼は密かに勝利を掴むためのシナリオを綴っていた。
勝ちに至る脚本を仕上げるための手札は他でもないビャクアから受け取っていたのだから。
「さあ、正念場だぞ。覚悟は良いか高次元生命体! 人間様が怖くないなら掛ってこい!」
ここまで飢えた獣のように自らが果敢に仕掛けていたデュオルは大きく腕を広げるとわなわなと指を動かして、手四つの姿勢でメタロー達を迎え撃つ形で構えて見せた。
『この下等生物が! 俺たちメタローを……魔人教団をコケにしやがって!!』
『おいよせ!』
『うるせえええ! あんな野郎、ぶっ殺してやるぅ!!』
あからさまな挑発。
だが、自らが優れた生命体だと信じて疑わないメタローにデュオルの口撃は効果抜群だった。フレイムメタローの制止を振り切ってクロコダイルメタローはバケヒヒを伴って真っ向から突進していく。
「よく来たな、褒めてやるよ」
『ほざけええええ!』
デュオルとクロコダイルメタローは互いの手を掴み合って力比べの形となりぶつかり合う。両者が激突した瞬間に生じた衝撃波は離れた場所で戦いを見守るカナタたちの周囲の大気を震わせる程に凄まじい。
「るぅうああああああああああッ!!」
『おお!? おわああああ!?』
力と力のぶつかり合い。
勝敗は驚くほどに歴然だった。
裂帛の気合を込めて怪力を発揮するデュオルの前にクロコダイルメタローの両腕は簡単に捻り上げられて悲鳴を漏らす。
「ハハッ……バケモンが人間相手に悲鳴あげたら終いだぜ」
『うひっ!?』
「ビビった姿見せたら負けだ。喧嘩ってもんはそういうもんだ」
眼前で自分を睨む真紅の双眸にクロコダイルメタローは戦慄した。
体格では圧倒的な格差が在る筈なのに怪人にはデュオルが見た目とは裏腹な得体の知れない強大なナニかに思えた。
「そぉるらぁああ!!」
『げふっううう!?』
怯んだクロコダイルメタローの喉笛にデュオルは強力無比なアックスボンバーを叩き込む。彼一人ではなくカナタたち友人たち、そして沙夜と永春というこの世界で巡り会った新しい仲間への想いも込めた一撃が漆黒の巨体を薙ぎ倒す。
「こちとら今日は五人分の恩義背負って戦ってるんだ。舐めるなよ」
ずっと
自分なりの正義を信じた結果、全てに虐げられる側になったあの日から。
数え切れない大勢からの敵意と暴力を一人で受け止めて抗った。
どんな痛みも、傷も全て一人で耐えてきた。
正義も家族も何もかもが少年を見捨て、少年もまた全てが疎ましくどうでもいいものになった。
ただ、決して晴れてくれない鬱屈としたどす黒い想いから気を紛らわせるように自分を害獣のように見てくる者たちと喧嘩した。
弱い者いじめはいけないと当たり前の行動が間違っちゃいないものだと証明するために理不尽を相手に負けてはいけない喧嘩を延々と続けてきた。
一人で十分だった。独りがよかった。
誰も要らなかった。
だが、それらはもう過ぎ去った昔の話だ。
何気ない出会いで少年は救われた。
全てが元通りに直りはしないし、癒えることもない。
けれどいま
まだ心を許した者たちは少ないが誰かのために戦っても良いと思えるようになったのだ。
「俺の恩人に粗相しやがったケジメはこんなもんじゃねえぞおお!」
『ぐぅおおおおお!?』
倒れたクロコダイルメタローの尻尾を掴んだデュオルは渾身の力で相手をジャイアントスイングで何度も振り回すと上空へと放り投げた。途中、バケヒヒなどは豪快に回されるクロコダイルメタローにぶつかって弾き飛ばされる始末である。
「そおおりゃ!」
『うぎぃ!? な、何をする気だ!?』
空高く投げ捨てられた相手を追ってジャンプしたデュオルはクロコダイルメタローの両腕を自分の腕に組ませてダブルアーム・スープレックスの体勢から全身のバネを活かして大きく相手を振り上げる。
「あれをやる気か! あの高さからだと相当エグいぞ」
「いいねぇ……やっちゃえムゲェエエエン!」
上空でメタローと組み合うデュオルの姿勢に見覚えがあったハルカとカナタは晴れやかな笑顔を浮かべてエールを飛ばした。そんな友の声援を受けたデュオルは仮面の奥で嬉しげに口角を吊り上げると筋肉を滾らせて大技を仕掛ける。
「スペリオル・アヴァランチャアアァ――――ッ!!」
『ぎぃやあ……ああああああ!?』
地表を揺らす雪崩のような衝撃。
まるで巨人が振り下ろした戦槌のような軌道で頭部から大地に激突したクロコダイルメタローはダメージに耐えきれずに全身に亀裂が走ったかと思うと瞬く間に爆発四散した。
「まずは一体……どんどん片付けていくぞ」
『いや、ここまでだ』
怒涛の攻勢で一人目の怪人を倒したデュオルの前に一番の手練と思われるフレイムメタローが立ち塞がった。金属生命体のような禍々しい赤いボディを輝かせる異形からは激しい殺意が漏れ出している。
『よくも同胞を殺めたな。今度こそ確実に始末してやるぞ』
「そっちこそやれるもんならやってみろだ。ちゃんと首はちょん切るんだぞ? 体はそのご自慢の火炎放射機で炭にしとけよ? でないと首と胴がすぐにくっつくかもしれないからな。それに心臓に打ち込む杭のは持ってるのかよ?」
『減らず口が叩けないようにその唇も溶接しておいてやろう!!』
敵の気勢を削ぐためのマイクパフォーマンスさながらなデュオルの煽りを掻き消しながらフレイムメタローが手斧と火炎を武器に迫りくる。
ならず者気質の怪人が多い中でこのフレイムメタローだけは獰猛さと冷静さを持ち合わせて実力も抜きん出たものがあった。
「そらぁあああ!」
『この程度! フン! 燃えろ! 燃えろぉ!』
飛蝗さながらの跳躍を織り交ぜた蹴り主体のデュオルの格闘を手斧でいなしたフレイムメタローは反撃に片腕の火炎放射機から放つ真っ赤な業火を絶え間なく浴びせて距離を話そうとする。
この判断は賢明だった。
数年間休まず喧嘩に明け暮れたことで培った経験値と人間離れした怪力が合わさったデュオルに近距離格闘で戦うと言うことは並のメタローにとっては自殺行為と言うほかない愚行と言って過言ではない。
『何をぼさっとしている木偶の坊! お前も自慢の音波砲でヤツを追い込め! 懐に入らせなければこちらの勝算は跳ね上がる』
『む? お、おう! ウホッホオオオ!!』
更にフレイムメタローは二人の戦いに割り込むタイミングを見失っていたバケヒヒに指示を飛ばして加勢を促す。炎と音が執拗にデュオルの命を狙っていく。
「デカイ図体の割に器用なことをするもんだ。だけど、お前らが小細工ならこっちは奇策といこうじゃないか!」
四方八方から猛威を振るう敵の攻撃をしなやかな身のこなしと自在跳躍による空中での連続移動でなんとか凌いでいたデュオルだがこの窮地を覆す妙案を思いつき、素早く実行へと移す。
【FULL SPURT! READY!!】
デュオルドライバーのライトトリガーの撃鉄を起こして引き金を絞る。
ベルトの風車が激しく回転して全身にエネルギーが溢れるのを実感すると敵へと向かって真っ直ぐに駆け出した。
『死にに来たか! これで終わりだ!』
『ウッホォオオオオオオ!』
「いくぞ強行突破だ! デエエヤアアァ!」
無謀な吶喊にしかみえないデュオルの行動にメタローと化神がそれぞれ大火炎と音の大砲を重ねるように浴びせた。だが、その死の二重壁を光の矢のような蹴りが突き破る。
デュオルはライダーキックを応用した移動法を用いて正面から押し通ってみせたのだ。
「沈め……マイティナックル!」
『がふっ!? ぬあ、ああ……!?』
二体の怪人の懐に飛び込んだデュオルは揺らめく炎のようなオーラを宿した鉄拳をバケヒヒに繰り出す。クウガの封印エネルギーを断片的に模倣したその一撃が一時的に相手を行動不能にしている間に返す刀で本命との決着へと赴く。
「いくぞロボットモドキ! バラバラにしてやるぜ!」
『貴様こそメタローを侮るんじゃない!』
邪魔者はいなくなった。
今度こそ正真正銘の真っ向勝負。
最悪の戦況に苛立つフレイムメタローとは対照的に水を得た魚のように生き生きとデュオルは躍動する。
「オオオリャア! ガンガンいくぜ!」
フレイムメタローの放つ火炎を掻い潜り、振り回される手斧を巧みな蹴りで弾いて迫る。そして、絶好の間合いにまで入り込んだデュオルの腕がフレイムメタローを捉えた。
鞭のようにしなる裏拳が横一文字に鋼鉄のボディに決まると反動を利用した回し蹴りが敵の頭部を刈ろうと光る。
『効かぬわぁ!』
「やるじゃないか! そうこないとなあ!」
しかし、フレイムメタローもやられっぱなしでは終わらない。
堅牢な異形を武器にデュルの蹴りを受けきると強烈なタックルで反撃する。
地面を激しく転がるデュオルだがその戦意は削がれるどころか更に燃え上がる。
すぐさま立ち上がり、突っ込んでいくがそんなデュオルにフレイムメタローは不敵にほくそ笑む。
『俺たちの手の内は分かっているとほざいたな? あの言葉、地獄で後悔するといい!』
「なっ!? 梯子か、がぁああ!?」
突然しゃがんだフレイムメタローの背中に備えられたはしご車を思わせるラダーがものすごい勢いで延伸すると第三の拳となってデュオルに直撃した。
不意を突かれて動きが止まったデュオルに再度ラダーが恐ろしい速度で飛び出すと彼を巻き込み近くにあった瓦礫に叩きつけてしまう。
『決まったな……このまま骨も残さず焼き尽くす!』
大量の土煙が舞い上がる。
曇った視線の先にいるであろうデュオルを一気に焼却しようと右腕の砲口に炎を灯すが
そこで異変が起きた。
フレイムメタローの体の一部でもあるラダーを戻そうと思っても伸びきったそれはピクリとも動かないではないのだ。
『どうなっている? まさか!?』
「フゥゥゥ! 捕まえたぜ?」
『は、放せ! クソ……動かないだと!?』
「ぬおおおりゃ!」
なんとデュオルはフレイムメタローの奥の手であるラダー攻撃を受けながらも怪物級の握力でそれを掴み取るとあべこべに相手から逃走という手段を奪っていた。
デュオルはそのまま巨木を引っこ抜くようにラダーを振り上げると渾身の力で一本背負いよろしくフレイムメタローを投げ飛ばした。しかし、デュオルの手はまだラダーから離れず、今度は脇に抱え込むとドラゴンスクリューの応用で錐揉み回転に巻き込んで見事に捩じ折った。
『ぐぅううう!? お、俺のとっておきがこんなことで!?』
「お返しに俺のとっておきをくれてやるよ!」
強力な炎以上に信頼を置いていた自らの奥の手を封殺されて狼狽えるフレイムメタローの股下をスライディングで抜けたデュオルは雌雄を決しようと背後から相手に飛び掛かった。
「サブミッション・マスターに捧ぐぜ! オオオリャアッ!!」
『うぐ、ぁああああ!?』
デュオルは一瞬でフレイムメタローに組み付くと右足で首をフック、左足は膝蹴りの体勢背中に押し付ける。さらには相手の両手首を掴み取り、十字架に磔にするような格好で動きを封じた。
「マイティロック・スクラッパアァァ――!!」
「決まったな……!」
「ムゲェーーン! 解体開始だ!」
上半身の身動きを完全に固められたフレイムメタローをデュオルの剛力が容赦なく締め上げる。
見る見るうちに赤い鋼の異形はひしゃげて各部で火花が噴き出していく。
悶絶の悲鳴も上げられずにボロボロになっていくメタローに友の勝利を確信したカナタたちの声援が飛ぶ。
「だあああああありゃあッ!」
『ぐあ、がぁあああああ――!?」
裂帛の気合と共にダメ押しでデュオルが絞り上げると限界を迎えたフレイムメタローの異形はバラバラに崩壊すると爆散した。
「良し! これで二丁上がりだな。お次は……!?」
こうして二体の怪人を撃破したデュオルは先んじて動きを封じておいた残る三体の敵を仕留めようと視線を向けようとする。しかし、その瞬間に鋭い痛みがデュオルの背中に走った。
「ぐうう!? 早かったな……どいつだ!?」
『イッヒャッハッハッハ! 殴る蹴るしか能がない野郎ならこうすればいいんだろ!』
顔面をグシャグシャに歪めたシザーハンズメタローは半狂乱になりながら無軌道に駆け回り刃物の腕を振り回し、ヒット&アウェイの攻撃でデュオルを執拗に襲う。
「この……! ウロチョロするな!」
『じわじわと切り刻んで殺してやるよ! イッヒャッハッハッハ!』
軋んだような音を立てて、疾走する車輪の脚。
真夏の蚊のような煩わしさで駆けまわるシザーハンズメタローの刃が幾度もデュオルを切り裂き、微弱だが絶え間なくダメージを与えていく。
『死に晒せええええ!』
「退魔七つ道具が其の壱――!」
フォームチェンジする間も与えられず、攻めあぐねるデュオルに調子に乗り始めたシザーハンズメタローは腕の切っ先を突き立てると一気に深手を与えようと意気込んだ。
しかし、そんなメタローの企みを吹き払うように凛とした声が澄んだ風に乗って響く。
「天狗の羽団扇! カンラ!」
『ぬぎええええ!?』
突如として巻き起こった竜巻に飲み込まれてシザーハンズメタローはぐるぐると空高く吹き飛ばされると仲間の怪人たちがダウンしている近くに墜落した。
そして、入れ替わりにデュオルの隣に傷だらけになりながら尚も清廉な佇まいを纏うビャクアが馳せ参じる。
「まだ休憩していて良いんだぜ?」
「お気遣いなく。それに二人でならもっと早く片付くでしょう」
「ハッ! 違いねえ!」
デュオルとビャクア、並び立つ二人の仮面ライダーの視線の先には戦線に復帰が叶ったバケムササビやバケヒヒにシザーハンズメタローがいた。敵方も負けられないと殺気を飛ばすがその士気は明らかに陰りが見える。
ビャクアが苦痛に耐えながら敵の戦力を暴き、バトンを繋いだデュオルの奮戦が圧倒的な数を完全に覆した瞬間だった。
「いきますよデュオル!」
「おうさ! 頼りにしてるぜビャクア!」
このまま一気に押し切ると二人は頷き合い、それぞれ得意の構えを取って駆け出した。
紆余曲折を経てついに役者は全員揃った。
最初の共闘、その戦いの幕がゆっくりと下りようとしていた。