仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 デュオル×ビャクア ユニゾンウォー 作:マフ30
五つの影が縦横無尽に躍動する。
三つの異形は荒れ狂う波濤のように。
二つの
それはまるで壊す者と守る者との相容れぬ熾烈な殺戮舞踏。
『そらそらそらぁああッ!』
『ハイヤッ!』
振り乱れる刃を掻い潜りデュオルの怪腕が敵を殴り抜く。
轟く爆音を白風で相殺しながら、ビャクアの連蹴りが大柄な異形を薙ぎ倒す。
『俺が合わせる。このまま好きに動いて押し通れ!』
『お言葉に甘えます!』
羽団扇を操って幾度も突風を巻き起こし、踊子のような足捌きと刺客めいた短剣術の合わせ技で怪人たちを翻弄するビャクア。
そんな彼女の動きに合わせてデュオルは三体の怪人の猛攻をその身を盾に弾き返し、強烈な反撃を容赦なく叩き込んでいく。
『上々だな。ニ、三発は誤爆食らうと思ってたが結構良く動けるじゃないか俺たち』
『っ……あなた超能力者か何かですか? ビックリするほどかゆい所に手が届くような動きばかりしてくれるので助かりますが正直怖いです』
『ケツ蹴られた仲だ。お前がどういう奴かは若ほどじゃないが見てきたわけだし、あとは信じるだけだ』
『それを簡単に言える胆力が羨ましいです。いえ……その信頼の基準は安心していいんですか!?』
自然とデュオルの口から普段通りの軽口が飛び出し始めた。
デュオルとビャクア、二人は初めての共闘にも関わらず阿吽の呼吸とまではいかないがまるで演武のような見事な連携を見せていた。その怒涛の攻勢は数で勝るメタローと化神の混成部隊を着実に弱らせていく。
『ぐあ……ああッ!? 御伽装士共め、疲れ知らずと言うのか!?』
『チィ……ッ! クソが! 俺に楽しく斬り殺されろよォオオ!』
『あ、おいよせ! 先走る奴があるか!』
二人の仮面ライダーの前に苦戦を強いられ、膝をつくほどに追い込まれたバケヒヒ、シザーハンズメタロー、バケムササビの三体。
同胞を倒された怒りも加わってこの劣勢に辛抱できなくなったシザーハンズメタローが鋭利な両腕を振り回しながら駆け出した。
『死ねぇええライダー!!』
真っ先に狙いを定めたのはかねてからの怨敵であるデュオルだ。
複数の武器を操るビャクアとは対照的に無手というのもこちら側が有利と判断して無軌道な激走から必殺の斬撃を決めるべくシザーハンズメタローは両腕を振るう。
『甘いぜ』
『ウ、ギィ!?』
しかし、メタローの思惑を一蹴するように鋏の腕はデュオルが瞬く間に召喚したスピアモードのDブレイカーに阻まれる。
『やっちまえ沙夜!』
『ハァアアアアアアア――お覚悟!』
デュオルが作った好機を見逃さずに裂帛の気合と共に放たれビャクアの手刀がシザーハンズメタローに炸裂する。
氷がカチ割れたような音色を響かせて、彼女が繰り出した二連撃の手刀が鋼鉄の鋏となっているメタローの両腕を叩き折った。
『ひいぃんぎいいいい!? お、俺の腕がァアアアアア!?』
『おいおい、前方不注意だぜ?』
『ぐっぶ、ぅ――!?』
『ぶっ飛べ!』
痛みよりも喪失感で絶叫して取り乱すメタローに更なる追撃が浴びせられる。
残心をするビャクアの背中を土台に豪快に飛び掛かってきたデュオルのフランケンシュタイナーが怪人を激しく吹き飛ばした。
『小童共が調子に乗りおってからに!』
このまま一気にシザーハンズメタローを倒してしまおうと頷き合ったデュオルとビャクアを音の暴威が襲う。
咄嗟に回避した両名だが休む間もなく猛然とこちらへと迫ってきたバケヒヒ、更に上空から支援爆撃のように突風を連射するバケムササビの相手に細心しなければならなくなる。
『素早さに秀でた敵と力自慢が同時に来るのは流石に面倒ですね』
『加えて片方は空の上ってのもな……なあ、お前飛べる?』
『鴉天狗みたいな恰好をしていて不甲斐ないですけど、いまは無理です』
『そうか、よし』
上空からの突風と砲撃のような太腕の乱打を捌きながら会話を交わす二人。
ビャクアの言葉に短く頷くとデュオルはベルトのホルダーから二枚のライダーメモリアを引き抜いた。
【スカイ!×ゴースト! ユニゾンアップ!】
『え、いまの声なんですか? 喋ったのそのベルトです!?』
『おう。悪いがこの騒音ゴリラの相手は任せたぞ。ネクスト・ライド――!!』
【エリアルファンタズマ! GO! GO! LET’S GO!!】
デュオルドライバーの電子音に動揺するビャクアを尻目にデュオルは橙色の紋様と黄緑色の旋風に包まれて姿を変える。
『セイリィイイイング・ジャンプッ!』
ライトグリーンのボディに黒フードを纏った大空と幻霊を司る戦士へとフォームチェンジしたデュオルは大先輩から継承した能力を駆使して天翔かけていく。
『姿が……それに飛んでますよムゲン!? なんですかそれ! すごくすごいです!』
『ありがとよ! ご期待に添えるよう暴れてくらぁ!』
ロングコートのように裾が延伸した黒フードを風に踊らせて急上昇したデュオルはそのまま目の前の光景に唖然としていたバケムササビに先制の一撃を加えるとそのまま得意の格闘戦を仕掛けにいった。
『く、ぬぅ……こっちにくるな!』
『出来ない相談だな。ダァアアアアッ!!』
飛行能力と風による遠距離攻撃、二つのアドバンテージを無力化されてしまったバケムササビに空を駆けるデュオルを止める術はなかった。
竜巻すらも寸断するような勢いの浴びせ蹴りをまともに食らい、そのまま拳法めいた動きから繰り出される連続攻撃で滅多打ちにされていく。
緒戦こそ空を支配して猛威を振るっていたバケムササビの墜落は時間の問題であった。
※
デュオルが大空にて暴れ回っている頃、地上では傷つきながらも清廉さを失わない白い鴉が麗しく大猿と切り結んでいた。
『すごいものを見せられました。こちらも負けてはいられません』
『ぬかせ! ついさっき案山子のように好き放題にされていたのをもう忘れたのか小娘!』
多勢に無勢だったと言うことを棚に上げて剛腕を間髪入れずに振り下ろすバケヒヒ。
一撃で大地を砕き歪ませるそれを紙一重でそれを回避し続けるビャクアとの戦いの様はまるで等身大のモグラたたきのようにも見える。
『肉塊になるがいい! ウホォオオオオ!』
『――退魔七つ道具が其の伍、海砕きの無双籠手!』
打ち降ろされたバケヒヒの右腕をするりと避けたビャクアは敵の巨腕を伝って片手側転のような動きで飛び上がると両腕に大きな鉄籠手を装着する。
『やぁああああ! せええいッ!』
『あがっ!?』
唸るビャクアの右拳がバケヒヒの横っ面を殴り抜く。
大きくよろけた隙を逃さずに彼女はそのまま一発、二発と重く力強い拳打を叩きつけていく。
『化神を舐めるでないわああああ!!』
だが、バケヒヒも意地を見せた。
揺れる脳と視界を堪えて踏ん張ると胸のスピーカーから破壊力抜群の衝撃波を浴びせて応戦する。
『なんのッ! その切り札も潰させてもらいます!』
同じ手は二度も食わないとビャクアは無双籠手をした両腕を咄嗟に盾のように構えて音の暴力を防ぎ切る。そして、即座にロケットパンチのように無双籠手をバケヒヒの胸に撃ち出してスピーカーを破壊する。
『ぐおおおっ!? やってくれたな……だがもうその細腕では我が怪力には太刀打ちできまい!』
『否定はしません。ですが道具でそれを補うのが人間の持ち味と思い知ってもらいましょう』
『ぐ……あ……それは!?』
そう言うや否やビャクアは手にした武器を拾うと目にも止らぬ斬撃を攻撃態勢に入っていたバケヒヒにお見舞いする。
粗微塵に切り裂かれ、たまらず悶え倒れたバケヒヒは彼女が手にした得物に目を丸くして驚いた。ビャクアが手にしていたものは七つの退魔道具のどれでも無く――。
「あっはー! お見事な槍捌き!」
「沙夜さん近くに落ちてたからってムゲンの武器を使っちゃったよ」
「ムゲンよりも扱い上手かもだね」
「ハハッ……同感だ」
戦いを見守っていた永春やクーの反応の通り、ビャクアはなんと七つ道具を召喚するよりも早く、更には敵の意表をつけると判断してデュオルが投げ捨てたままにしていたDブレイカーを自由自在に操ってみせたのだ。
『いざ、参ります!』
『そんな珍妙な槍一本でどうにかなるバケヒヒではないぞ!』
くるくると回る風車のようにDブレイカーを遊ばせて手に馴染ませたビャクアはより冴えた槍捌きでバケヒヒを翻弄する。
野太い手足から放たれる打撃を受け流し、刺突で翻弄したかと思えば気迫の乗った薙ぎ払いで怯ませていく。
『オオオ! こんなものでは終わら――なんだ!?』
『ぬ、う、おおわあああああ――!?』
全身に刀傷を負いながら威嚇の咆哮を上げようとしたバケヒヒの頭上から不意に悲鳴を上げながらバケムササビが落下してきた。
言うまでもなくバケムササビはデュオルに圧倒され、地上に投げ落とされたのである。
【1号!×クウガ! ユニゾンアップ!】
『ネクスト・ライド――!!』
【マイティアーツ! GO! GO! LET’S GO!!】
上空から電子音が響いたかと思えばマイティアーツに戻ったデュオルが着地してビャクアの隣に並び立つ。
『そっちも順調そうだな』
『おかえりなさい。私としてはケリをつける頃合いだと思いますけど』
『だな』
最初は何だかんだでぎこちなさがあった二人の共闘であったが両人のセンスと経験の賜物かその連携は急激な速度で錬磨されていた。
そしていま、二人の仮面ライダーはこの戦いに幕を下ろすためいま一度力強く構えて目の前の敵に相対した。
『さっきの羽団扇って横にも竜巻出せるものか?』
『少し溜めが必要ですけど……奴らを纏めて拘束する気ですね』
『ご名答! 俺に妙案がある。ちょっと耳貸せ、続きはこうだ』
『……なかなか過激なことを思いつきますね。でも、気に入りました』
『沙夜もいい趣味してるじゃないか。なわけで時間は稼いでやるとも!』
即座に必殺のプランを決定したデュオルは弾丸のように走り出すと一切の迷いなく二匹の化神に殴り込んでいく。
既に消耗しきっていたバケムササビはあっという間にダウンして、バケヒヒも重戦車のようにパワフルなデュオルの攻撃の前には棒立ちだ。
『いきますよ、ムゲン! オン・カルラ・カン・カンラ――!!』
『頼むぜ! いくぞ
『吹けよ嵐! 轟け雷鳴!』
後方にて神通力を練り上げて大技の準備をしていたビャクアが合図を上げる。
退魔の呪文を叫び、羽団扇を振ると雷電を孕んだ旋風が途切れることなく放たれて二体の化神を呑み込んだ。
『うぉおおおお!?』
『だ、脱出を……ぐああ、動けん!?』」
バケヒヒとバケムササビを捕らえた旋風はその後も絶えず羽団扇から吹き荒び続ける。
そして、そんな嵐で出来た回廊に全力疾走で駆け出したデュオルもまた飛び込んでしまった。
『いざ、いざ、いざ! 我らが敵を貫け! 天狗の――!!』
『螺旋槍! ウォオオオオオオ――――ッ!!』
旋風に飛び込んだ中でデュオルはその回転を推進力にするように自らの体を錐揉み回転させて敵へと突っ込んでいく。両の拳を矛に見立てて嵐と共に疾駆する彼はまさに悪鬼を刺し穿つ大槍と化していた。
『『ぎぃいいやあぁああぁあああああぁっ!?』』
デュオルとビャクアの合体技・天狗の螺旋槍は圧倒的な威力を発揮して二体の化神を紙屑のように突き貫いて爆散させた。
五体の怪人たちの総攻撃でビャクアを抹殺すると言う彼らの企みはこれでほぼ瓦解したようなものだった。
※
『あ、ああ……同胞が……畜生! チクショウが……!』
『残りはお前だけです』
『魔人教団がこの世界で何企んでるのか知らねえがお前らそういうの絶対に口を割らないし、悪いがこのまま倒させてもらうぜ』
『――残念だが却下させてもらおう』
一人、また一人と倒されていく仲間たちに愕然とするシザーハンズメタロー。
戦う手段を失い、自分もこのまま情けなく倒されてしまうのかと絶望しかけた彼だったがそれは音もなく地下から浮上してデュオルとビャクアの前に立ち塞がった。
『敵方に対して使用する言葉としては不適切だがよくぞ生きていたな。嬉しいぞ、デュオル』
『お前か……もう会えるとは思ってもみなかったぜ』
無意識にデュオルの体が強張った。
単眼の刺客。
デュオルの専属死神――Dマーダー。
その姿はマルチホッパーともサンダーマジシャンとも異なる第三の形態。
ボロボロの神父服のような衣装を纏い、背後に天使の輪のような飛行ユニットを装備したエリアルファンタズマを模倣したモード・ファントムフライヤー。
『ムゲン、この怪人は? あれもメタローですか?』
『大雑把に説明すると俺の違法コピーだ。認めたかないが難敵だ』
身長に身構えて忌々しそうに吐き捨てたデュオルの言葉にビャクアはおろか離れた場所にいた永春やクーたちにも緊張が走った。
『安心しろ。此度は同胞の回収のために足を運んだだけだ。俺も不本意だがお前を殺すのは次回に持ち越しだ』
『殊勝じゃないか。俺を殺した後に自分が何をして生きていけばいいのか分からねえから本気になれないんじゃねえのかい?』
無機質な声で宣言したDマーダーは一部の隙も見せずに満身創痍のシザーハンズメタローを担ぎ上げると不敵にその場から撤収しようとする。
だが、その歩みを遮ろうとデュオルはその場から動くことなく、あからさまな挑発を飛ばして刺激する。
(あれ……ムゲン?)
けれど、その行動に孕んだ微かな違和感をカナタは感じとっていた。言葉にも態度にも現さなかったがハルカもまた見逃さなかった。
一見すると普段のデュオルが得意とする相手を煽り、精神を乱して戦いの流れを自分の物とする基本戦法に見えた小さな異変を。
『考えもしなかったな。忠告感謝する。後日、お前を抹殺した後にゆっくりと検討しよう。また会おう、仮面ライダー』
『……いま俺を殺さなかったことを後悔させてやるよ』
『フッ、それは楽しみだ』
迸る凄みを以って他者の介入を許さぬままDマーダーはムゲンをあしらうとシザーハンズメタローと共に堂々と戦線を離脱していった。
不穏な余韻を残しつつもこうして魔人教団のこの世界への第二の侵攻は食い止められたのだ。
「あー腹立つ奴だな。ま、この場は追い払えただけ良しとするか」
「魔人教団……ムゲンは記憶喪失になる前も彼らと戦っていたんですか?」
「まあな。色んな世界に喧嘩を吹っ掛けてる傲慢な侵略者様共だ。それよか沙夜の方の怪我は大丈夫かよ?」
「これぐらいの傷なら平気です。ですが騒ぎが大きくなりすぎてしまいました。この公園も滅茶苦茶です」
「それなら心配するな。取り逃がしたあの鋏野郎が壊したものは少なかった筈だし、もうすぐ……」
そして、変身を解いたムゲン達だけが残った公園を中心に魔人教団によって齎された侵略の被害をリセットする修正力を秘めた光る風が吹き始める。
「また壊れた建物が勝手に直っていく!?」
「ムゲンと君の連れがメタローを概ね倒したからね。致命的な被害を出す前にああやって彼らを倒すことができればこうやって無かったことにできるんだってさ」
再び目の当たりにした奇跡のような光景に驚く永春にカナタは自分が知る世界修正の仕組みを教えた。
「君たちは一体?」
「自己紹介がまだだったね。私は天風カナタ。で、こっちが弟のハルカ」
「よろしく。ムゲンが世話になったみたいで礼を言うよ」
「はいはいー! クー・ミドラーシュと申します! ムゲンさんを探して別の世界からやってきましたのですよ!」
「は、はあ……?」
一難去ったがまだ何が何だか分からないことだらけで目が泳ぎっぱなしの永春にカナタたちは悠々自適に自己紹介を済ませた。
けれど、さり気なく飛び出した別の世界という言葉に更に頭の上に?を浮かべて困り果てる永春に彼らの許へと戻ってきたムゲンが満ち足りた笑顔を浮かべて口を開く。
「全部その通りだぜ、若。カナタたちは俺の大事な仲間で友達だ!」
「お疲れムゲン。言わなきゃいけないことは山ほどあるけど、これだけは言っておくよ」
「なんだぁ? 再会を祝って感動のハグか? 任せろ!」
「「今度世界跨いで迷子になったら首輪と縄つけるぞこのおバカ」」
「痛ったぁ!? ご、ごめんなさいでした」
「オマケに記憶喪失までしてたとかどこまでポンのコツなのさ!?」
ようやく再会が叶い、記憶喪失も治ってだらしない笑顔のムゲンにカナタとハルカの友情たっぷりの叱責とお仕置きのローキックが炸裂した。
お互いの事情や魔人教団の詳しい説明をするために六角モータースへ移動することになった道中で感動の再会を期待していたムゲンは二人からこんこんとお説教を受けて涙目になったと言う。
※
六角モータースにて。
「―――――……と、まあ私たちや魔人教団の事情はこんなところです」
メタローに憑依されていた不良たちの対応を含めた事後処理を安たち平装士に任せた光姫は沙夜と永春を伴ってムゲンたちの素性や魔人教団なる謎の敵のことなど諸々をリーダー格であるカナタから説明を受けていた。
「無数に存在する並行世界にそれを片っ端から侵略しようとする高次元生命体による集団ねえ……まるで長編SF小説みたいだね。現実の話なんだから質が悪いったらないよ」
カナタからより詳しい話を聞かされた光姫は事の壮大さにたまらず苦笑した。
映画などでも題材に上がることも珍しくなくなった並行世界が本当に存在して、各世界には改造人間や超古代の戦士、極限まで鍛えて鬼に至った人間などetcと力の源流こそ異なるが総じて仮面ライダーと呼ばれる御伽装士と似通った戦士たち。更には敵対する怪人・怪物で構成された秘密結社のようなものまで存在していると言うのだ。
「光姫さん、彼女の話信じるんですか? いや、ムゲンの知り合いを疑う訳じゃないけどあんまりにも突拍子もなさすぎて」
「坊やの言い分も分かるが現にその魔人教団が我が物顔で暴れたばかりだ。そも、化神だ御伽装士だも一般人からしたら絵空事だろう? あるがままを受け入れようじゃないか」
次々と齎される衝撃的な話の内容に動揺しっぱなしの永春を光姫は冷静に落ち着かせる。
まともな神経をしていたら無駄に設定を練った法螺話と一蹴されても可笑しくはない。けれど、六角光姫にはカナタが語る出来事が現実の話だと信じられるだけの根拠があった。
「なによりもシスターの手紙まで渡されたらあたしはこの別世界からのお客人たちを信じるしかなくなるからね」
「シスター? 光姫さんの口ぶりだとご友人の用ですけど……教会にいるあのシスターさんのことです?」
「うん? あー……古い友人ってだけ覚えとけばいいよ。見た目は実物に出会った時の楽しみにするといいさ」
沙夜の質問に何とも言えない表情を浮かべて光姫は世界を越えて自分に郵送されてきたシスターからの手紙をヒラヒラと遊ばせる。
なんと数奇な偶然かデュオルの世界に定住する前にシスターはこのビャクアの世界にも訪れていたことがあったのだ。更には学生時代の光姫と知己を結ぶというオマケ付きで。
「信じてくれてありがとうございます」
「気にしなさんな。実際にもう二度も連中に好き勝手されているのに人間同士で疑いあうなんてナンセンスなことやってる暇はないからね。それにムゲンがいなけりゃうちの沙夜ももう少し深手を負っていたかもしれない……感謝するよ」
「先に世話になったのは俺の方だろ? 水臭いこと言わないでくれ姐さん」
思わぬ縁の助けもあって、お互いの素性や状況を把握し合えたカナタたちはひとまず安堵の息を吐いた。
「じゃあ、ここからはより良い未来についての話をしようじゃないか。その魔人教団は化神と組んで何を企んでると思う?」
「そこまでは正直分かりません。私たちも自分の世界から漂流したムゲンの行方を捜すので手一杯だったので」
「ただ連中はオレたちの世界で怪人が大量に湧き出る赤い異空間を発生させようとしていました」
話題を切り替えて、魔人教団の目的を問い質す光姫にカナタは残念そうに首を横に振る。だがすぐさま付け足すようにハルカが手掛かりになりえる情報を伝える。
「百鬼夜行……まさか別の世界でおっ始めようとしてたとはね。御守衆としては歯痒いことこの上ないねえ」
「一人で食い止めようと思えばムゲンのあの大怪我や記憶を失ってしまうのも無理はないですね。よく生きていましたね」
「え? あ、あー……なんというか、その、だな」
「ムゲンさん?」
カナタたちとの接触によってようやく未発生で終わったと思われていた百鬼夜行の真相も判明した御守衆の面々。彼らの関心は死をも恐れず単身で百鬼夜行を阻止したムゲンの奮戦に向けられたのだがその話が出た途端に当の本人は急に慌ててバツの悪そうな様子だ。
「ム~ゲ~ンンン? その顔はあのDマーダー以外に何かアクシデントがあったんだね?それもムゲンのうっかりよりのヤツが?」
「まあ、はい。あのパクリ野郎と燕みたいなジイさんの化神に袋叩きにされたもんだから一泡吹かせてやろうと大技使ったら……力加減ミスって盛大に自爆しました。はい」
「ということは記憶喪失も敵との死闘ではなく、その失敗した技のショックでということですか?」
「たぶん、そうだな。すげえ雷だったからよ。パッと見て、やっちまったなぁって感じ」
照れ臭そうに暗天舞台での戦いの顛末をカミングアウトしたムゲンにその場にいた全員の呆れた視線が突き刺さった。こんなに事態を紆余曲折にした最大の原因がそんな理由だったとはカナタやクーたちも想像もしていなかったのだ。
「ムゲン、いくらあなたが人外の身体や力の持ち主だったとしてもそんな無茶なことをしては身が持ちませんよ。もう少し我が身を労わることも戦う者の努めです」
あまりにも破天荒な行動を取っていたムゲンに我慢できずに沙夜が沈痛な声色で窘める。その言葉に同感と言った様子で永春も悲しそうな顔をするが今度はカナタやハルカたちが遠い目をして苦笑を浮かべ始めてしまう。
「あのー……沙夜さんよぉ」
「はい?」
「俺ただの人間なんだけど」
「はい!?」
「うん。私たちのムゲンを勝手に人間から卒業させるのはちょっと困るかな?」
至極真面目なトーンで話すカナタや神妙に頷くハルカとクーの反応からムゲンが本当に冗談の類を言っていないと沙夜たちは認めるしかなかった。
しかし、真実を受け入れようとすればするほど沙夜と永春の脳裏には人間を木端のように殴り飛ばし、刃物を圧し折り、自動販売機を投げ飛ばすといったムゲンの姿がフラッシュバックする。
「「嘘でしょ!?」」
暮れかかる空の下で六角モータースからはこの日一番の大きな叫びが聞こえたと言う。
カナタたちはすっかり慣れてしまったがそれぐらい双連寺ムゲンという男は常識の埒外にいる人間だった。
※
六角モータースでの情報交換を終えて御守衆とカフェ・メリッサ一同は今回の魔人教団の企みを阻止するため共同戦線を張ることになった。
当面の間は情報収集をしながら教団や化神の出方を窺うという方針を定めて、今回の話し合いの場は解散となった。そして――。
「悪いな若、俺どころかこんな大人数でお邪魔することになっちまって」
「気にしないでよ。お静さんに連絡したらむしろ大勢に泊まってもらったほうが民宿時代を思い出して懐かしいって言ってくれていたから」
ムゲンやカナタたち、それに沙夜の六人は滞在先として泊めてもらえることになった笛吹荘を目指していつもと変わらぬ日常が流れる町を歩いていた。
「ねえ、望月さんビャクアの姿カッコ良かったね! 他にはどんな武器や技が使えるの?」
「あんな風に戦える君が羨ましいよ。知り合ったばかりで不躾かもしれないけど、あの変身って制限時間みたいなのってあるの? それにこの近くには他の御伽装士ってどれぐらいいるの?」
「か、カッコいいだなんて恐縮です。あ、あの一応往来ですのでそういったお話はいまはちょっと」
ぞろぞろと歩く一行の列では沙夜がカナタとハルカに質問攻めに遭っていて、人見知りかつ人慣れしていない彼女は垢抜けた様子でぐいぐいと話しかけてくる天風姉弟にあたふたとしていた。
「すまない。ムゲン以外のライダーに出会うのは初めてだからちょっと舞い上がってたよ」
「いやぁ反省、反省。今日はみんなで仲良く泊まりだし、そう言う話は後回しだね。代わりに望月さんのことをいろいろ教えてよ。ご趣味は? 休みの日はどんな過ごし方してるの? 大丈夫、私の秘密もあれこれ教えてあげるからさ」
「ひゃい!? いえいえ、そんな……お気になさらず! そのぅ、あまり喋るのは得意じゃないのでゆっくりになってしまうのですがいいでしょうか?」
「フフン、いいに決まってるじゃないの♪ 同学年なんだから、そんなかしこまらなくてもいいよ……ハハ、可愛いヤツめ♪」
「あ、あうう」
そんな風に顔の良い双子の姉弟に囲まれ揉みくちゃにされる沙夜を永春は一抹のジェラシーと新鮮な彼女の姿を見れる胸の高鳴りの二つを感じながら生温かい目で見守っていた。
(おやぁ? これはー……まさか? お二方もしやもしやです?)
だが一人、クーは余りにも初対面の相手である沙夜に対してフレンドリーすぎるカナタとハルカに何とも言えない違和感と不安な気持ちを抱いていた。
かくして、世界を越えて巡り会った少年少女たちに一つ屋根の下で過ごす夜が近付いていた。