ご存じの方いますか? さっちんです(●ꉺωꉺ●)
小学生のときに休み時間でせっせと書いた作品をリメイクしてみました。
当時はスマホもパソコンもなく、原稿用紙に手書き。読み返してみるとなんとまあ可愛い文字(笑)
というわけで第一話、どーぞー!
ここはムロタウン。
基本的にはのどかというか、どこか穏やかな町ではあるけれど、今この瞬間に限って言えばそうでもない。押し寄せる波の音と海から吹く潮風、そして降り注ぐ太陽の光にこれでもかと熱された砂浜のフィールドで2体のポケモンが対峙していた。
「バルキー! 『れんぞくパンチ』!」
相手のキノガッサの懐に潜り込んだバルキーは振り上げた拳を連続して叩きつけた。小さな体躯から繰り出された両拳がキノガッサの腹部にヒットすると、会場中から歓声が上がる。
会場といっても大きな大会と比べてしまえばけして大きいとは言えない規模だけど、それも決勝戦ともなれば観客のボルテージも最高潮だ。しかもバトルフィールドを丸く囲むように観戦しているから、声援も四方八方から飛んでくる。
「キノガッサ! 後ろに下がって距離を取れ!」
「逃がしちゃダメだ! そのまま畳み掛けるんだ!」
相手のキノガッサは後ろに跳躍してバルキーから離れようとする。それをバルキーは追いかけるけど、スピードは僅差で相手の方が上だった。
わずかに距離が開くと、トレーナーはキノガッサに指示を出す。
「キノガッサ! 『しびれごな』だ!」
「バルキー! 『あなをほる』!」
指示通りバルキーは砂浜に穴を掘り進めて身を隠すと、それとほぼ同時にキノガッサの頭部にあるきのこから『しびれごな』があたり一面に撒き散らされる。バトルフィールドを隙間なく、黄色い粉塵が覆った。
今地上に出て行ったら確実に麻痺を喰らうことだろう。『しびれごな』が晴れるまではバルキーは穴から出てこれない。
「今だ! キノガッサ! 『じしん』!」
キノガッサは一瞬身体を低く沈ませると、その場から飛び上がる。
(勝った!)
僕は内心でほくそ笑んだ。
この技は決勝に進むまでの試合で何度も見た。
正直、咄嗟にこの判断ができるのはさすがだと思う。着地の衝撃で地面を激しく振動させる技『じしん』。地面に潜っているバルキーにとっては回避不可能な技だ。技をよけられたあとにすぐさま次の最善手を打てるのはある程度経験を積んだトレーナーである証拠。けれどそれも裏を返せば、ある程度経験を積んだトレーナーであれば予測できるということだ。
さらには、わざとその技を使うように誘導することもできる。
「なんだ!?」
相手トレーナーの目が驚愕に見開かれる。
キノガッサが着地した瞬間、衝撃でその体が半分ほどまで地面にめり込んだのだ。砂浜が普通の地面と違って柔らかいとはいえ、それも『じしん』を使った衝撃で地面に埋まり、身動きが取れなくなるほどじゃない。ただしそれも『あなをほる』でキノガッサの着地点の地下に空洞を作れば話は変わる。
地面が揺れるほどの衝撃が加われば地下の空洞は簡単に崩落し、あとは落とし穴の要領でキノガッサの身動きを封じるというわけだ。
「今だバルキー! 『すてみタックル』!」
そこから抜け出す暇なんて当然与えない。勢いよく地面から飛び出したバルキーは身動きの取れないキノガッサに向かって走り出すと、そのまま渾身の『すてみタックル』を決める。
タックルの衝撃で落とし穴から抜け、そのまま背中から地面に倒れこむとキノガッサは戦闘不能に陥る。
「キノガッサ戦闘不能。バルキーの勝ち! よって優勝はカナズミシティのカイト!」
審判の判定が下り、勝敗が決した。
僕たちの勝ちだ。
「ふう...」
俺は試合を終えたバルキーをモンスターボールに戻す。それを腰のボールホルダーにしまう前に、そっと一言を添えた。
「よくやったなバルキー。やっぱりお前は優秀だよ」
〇
僕の名前はカイト。町から町へと旅を続けるポケモントレーナーだ。
生まれ故郷であるカナズミシティを出て、バルキーと旅を始めたのがつい半年前のこと。
もっとも僕の場合はあちこちのジムをまわってバッチを集めるようなことはしていない。旅のトレーナーの誰も彼もがポケモンマスターやポケモンリーグの優勝を目指しているわけじゃないし、それは僕も同じことだ。人の数だけ旅の目的や夢はあるというもの。
そう、僕には夢があるんだ。
そのためにこのホウエン地方を巡る旅の中で、ポケモンといろいろなものを見て、いろいろな経験をする。冒険の中で出会いや別れを繰り返して、少しずつ大人になっていく。
そしてそんな僕が今訪れているのがここ、ムロタウンだ。
ムロタウンはホウエン地方の中でも最南端の島にある小さな町で、離島というより孤島といって差し支えないだろう。それこそ僕が旅立ったカナズミシティと比べれば超がつくほどのド田舎。
とはいえホウエンリーグ公認のポケモンジムと四方八方に海、そして島の北側にそれなりの深い洞窟があったりと、旅のポケモントレーナーが長居できる要素は意外にもあったりする。
ただ、そもそも僕はここに来たこと自体がカイナシティに向かうまでの中継地点として寄るくらいに考えていた。それだけに今の状況にはため息が出る思いだった。
というのも、偶然行われていた大会に出場し、ものの見事に優勝を勝ち取ってしまった結果、少し面倒なことになっているのだ。
「あーあ、どうしたもんだろ」
僕は授与されたトロフィーをつついた。
海に囲まれた町だからか、トロフィーの細工は波のように流麗なカーブが多用されていて、それに包まれるように拳ほどの大きさの青い宝石玉が納められている。
毎年行われる町の大会のトロフィーにしてはなかなかに豪華な造りだと思う。ただ、優勝までしたのは正直ちょっと後悔していた。
なにせこのトロフィー、翌年の大会の際に主催していたムロジムに返還しなければならないらしい。そのときには当然、前大会の優勝者として大会参加は免れないだろうから、諸々含めて旅のトレーナーとしては少し面倒くさいことになってしまった。
「こうなると来年のこの時期に、ムロタウンに戻るように旅の順路を組まないとな」
そんなことを呟いて、僕は島の北にある洞窟の近くにテントを張って、焚き火に使う木の枝を拾い始める。
ここは町の近くではあるけれど、僕は旅の途中は基本的に野宿することがほとんだ。
拾ったヤシの実の繊維をむしって薪の中に押し込み、火種にする。こういうときに炎タイプのポケモンが手持ちにいれば楽なんだろうけど、あいにく僕の持っているポケモンはバルキーだけだ。ないものねだりをしても仕方がない。
「そろそろ新しい仲間をゲットしてみようか。この先の旅のことを考えると、できれば空を飛べるポケモンがいい。あと陸も海も進めてバルキーのタイプ弱点をカバーできるならなおのこといい。......って、いくらなんでもそれは望み過ぎだね」
一人きりで旅をするようになってから、なんだか独り言が増えたような気がする。
しかしそれも仕方ないというものだ。なにせ相棒のバルキーが一緒だとはいえ、旅を始めてからというもの、人と話をする機会は旅に出る前と比べたらずいぶん減ってしまった。
もしもバルキーが人の言葉を話せたら、そんな妄想すらしないではいられないくらい。けど笑わないでほしい。それくらいトレーナーの一人旅というものはなかなか堪えるものがあるんだ。
やがて仕込んだ火種が薪に燃え移って炎が上がる。ある程度火力が出始めたら、あらかじめ用意しておいた串刺しの魚を焚き火を囲むようにして地面に突き刺していく。これが今日の夕食だ。
味付けに使う塩はまだ残っていただろうか? そんなことを思って荷物を漁ろうとテントの幕に手を掛けた手を、僕は止めた。
「.........」
日も暮れかけてうっすらと暗くなったからすぐには気がつかなかった。テントのなかで、僅かではあるけれどなにやら影が動いて見えた。
「ポケモンか?」
ほとんど反射的に腰のベルトに装着したバルキーのモンスターボールに手を添える。息を殺して、中にいるであろうポケモンを驚かさないようにゆっくりと、僕はテントの幕をめくった。
「......!」
その正体を見て、思わず声をあげなかったのは奇跡だった。
「すぅ......ふぅ......」
そこには僕とさほど年の変わらないであろう女の子が、用意した寝袋にくるまってすやすやと寝息を立てていた。
中で動いて見えたのは、たぶん寝返りでもうったからだろう。
見た感じでは、もしかするとムロタウンの子ではないかもしれない。この町の太陽はいつもレモンが弾けたようにカンカン照りで、住んでいる人の肌はみんな小麦色に焼けている。
なのに目の前の女の子は日焼けどころか、むしろ同じ年頃の女の子なら誰もが羨ましがりそうなほど透き通るような白い肌をしている。
ただ言うまでもないけどこのテントはもちろん、くるまってる寝袋も僕のものだ。
気持ちよさそうに寝てるこの子を起こすことに一瞬躊躇いはしたけど、僕は寝ている女の子の肩を揺すった。
「ねえキミ、ちょっと......」
まったく起きる様子がない。
気が引けるけど、少し大声で起こしたほうがいいのかもしれない。
そんなことを思っているとさっき焚き火の前で焼き始めた串焼きの魚から香ばしい匂いが潮風に乗せられて漂ってくる。すると寝ていた彼女の鼻先がヒクヒクと動いた。
「ふあぁ〜...」
もぞもぞと寝袋から起き上がる様は、小さいころ偶然夏のキャンプで目にしたトランセルがバタフリーに進化した時の様子に似ていた。
やがて完全に身体を起こしきって特大のあくびをひとつ。そして周囲を見渡すように漂う瞳が目の前にいる僕より先に焚き火の前で油を滴らせる串焼きの魚を捉えた。
「あら、美味しそうないい匂い。ひとつ貰ってもいいかしら?」
言ってる言葉の字面自体は普通なのに、その声はどこか甘ったるい声音で思わずドキリとする。そんな心中を隠すように、僕は努めて冷静に言葉を発した。
「いいわけないだろう? 君が寝ていたテントも寝袋も、この魚だって僕のだよ。勝手に使って欲しくないし、夕食だって一人分しか用意してない」
けれどそんなことにはお構いなしに、女の子はテントの中から地面に刺した魚の串焼きに手を伸ばす。
そんなところから手が届くわけがない。というかテントから手が届く距離で焚き火なんてしたら大惨事になるのは、それこそ火を見るよりも明らかというものだ。
「いいじゃない。ひとつだけよ」
手を伸ばした女の子の瞳がわずかに細くなる。すると信じられないことが起きた。
地面に刺さっていた串焼きが独りでに空中に浮かび上がったのだ。それがふわふわと浮いたまま女の子の方に引き寄せられると、伸ばした手にしっかりと収まる。
「いただきまーす」
「.........」
開いた口がまったく塞がらない。
女の子はたちまち串焼き一本を軽く平らげると、指先についた油をペロリと舐めとった。
「あなた、その顔マヌケに見えるわよ?」
「え、いや、ちょっと今のなに?」
マヌケ呼ばわりされたことも気にならないくらいに、僕はただただ驚いた。
「知らないの? 『ねんりき』って言ってね、エスパータイプの技よ」
バカにしてもらっては困る。
僕はこう見えてカナズミシティのトレーナーズスクールを次席で卒業したんだ。(主席になるには才能が足りなかったけど)
ただ今聞きたいことはそういうことじゃない。
「僕だって『ねんりき』くらい知ってるよ。でもそれはポケモンの技だ。人間には使えないよ」
「あら、じゃあそれが使える私ってすごいのね」
いたずらっぽく舌を出して笑いながら、持っていた串をテントの外に捨てた。そしてまた大きなあくびをする。
テントの持ち主である僕に見つかったことはさほど気に留めていないようで、それどころか女の子は再び寝袋の中に戻ろうとするけど、さすがにそれは開き直りが過ぎるというものだ。
「あのさ、家出とかならすぐに帰った方がいいよ。家の人も心配してると思う」
「えー、そんなのつまんない。せっかく出てきたのに。それに私、人と話すのはずいぶん久しぶりなの。せめてもっとお話していたいわ」
「そう言われたって......」
病気かなにかで普段外に出られない子なんだろうか? だとしたらこの島に住んでいてこれだけ肌が白いのにも頷ける。
自由気ままに旅をする身の上からすれば気の毒ではあるけど、病気というならなおさら帰ってもらうしかない。万が一ここで病状が悪化したりなんてことになったら僕にはどうすることもできないんだから。
「そういえば、あなた名前は?」
「僕はカイト。カナズミシティの出身。聞いたことはある?」
「うーん全然。島の外のことはあんまりよく知らないし」
「そっか。ちなみに君の名前は?」
そう聞いた瞬間、女の子の表情が華やいだ。
うっかり見とれてしまいそうな笑顔だった。
いったい名前を聞かれたことのなにがそんなに嬉しかったのか、女の子は威風堂々と胸を張って答える。
「ラティアス」