Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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モモンガ単独転移ザ聖王国の二次です



第1話 Where is this?

DMMO-RPG《Yggdrasil(ユグドラシル)

 

 それは西暦2126年日本のメーカーが満を持して開発した、仮想世界内を現実にいるかのように遊べる体感型ゲームだ。

 

 ユグドラシルは北欧神話を大元とした世界観である。プレイヤーは人間種、亜人種、異形種など実に700種類にもなる豊富な種族から自身のアバターを作り、9つの広大な世界を自由気ままに探求し楽しむ事を最大の目的としている。運営側が余りにもゲーム情報を公開しない為、多くが不親切なほどに情報が無く、尚且つ馬鹿みたいな難易度や初見殺し要素が豊富であった為、プレイヤーからは「クソ運営」などと呼ばれる事は珍しくもない。

 

 それでも『ユグドラシル』は世界中で絶大な人気と良くも悪くも数多の熱狂を生み続けていた。

 深刻な環境汚染で空も海も大地も壊滅状態、巨大複合企業が国家を支配し警察組織は形骸化、治安悪化に凶悪犯罪の増加、富裕層と貧困層の超格差とまさに絶 望 郷(ディストピア)。そんな現実、誰だって目を背けたくなるに決まっている。

 

 しかし、そんなユグドラシルも12年の時を経て、遂にサービス終了の日が迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 「よし、こんなもんか」

 

 

 ユグドラシル最終日、1人の異形種プレイヤーが不気味な沼地のあちこちに打ち上げ花火を設置する作業をせっせとこなしていた。彼…鈴木悟は、アンデッド種のスケルトン系の中でも最上位種族、死の支配者(オーバーロード)のアバターを持つプレイヤーでHNは『モモンガ』である。

 

 モモンガはユグドラシル最終日と言う事もあり、運営側が格安で販売していた花火を1万発購入。それをサービス終了10秒前で一斉に打ち上げようと思っていた。

 

 

「本当ならみんなと一緒に最終日を迎えたかったんだけどなぁ…」

 

 

 寂しげな不満が思わず漏れてしまう。

 ユグドラシルの過疎化に伴い次々とギルドメンバー達は引退した。理由は様々だがモモンガに彼らを引き止める事など出来なかった。彼らにはリアルでの生活があるし、家庭を持つ人だっている。何も無い自己中心的な自分の為に〝残って下さい〟などと言える筈がない。

 

 ユグドラシルだけが唯一の生き甲斐だった。ブラック企業で稼いだ金も必要最低限の生活費だけを残し全て課金に費やした。貴重な休日も、くたびれた身体でも、食事や睡眠の時間も極力削り、人生の全てをユグドラシルに捧げたと言っても過言ではない。しかし、それももう終わる。鈴木悟という男は唯一の生き甲斐を失い、この滅亡しかけた世界と再び向き合わなければならなくなった。

 

 

「玉座の間で最期を迎えようと思ったけど、花火でパァーッと華々しい形で終わるのも悪くないよな…まぁ1人だけど」

 

 

 明日は四時起きかと考えている内にもうサービス終了10秒前になっていた。慌ててモモンガは花火の発射スイッチを起動させると、1万発の花火が次々と打ち上がり沼地に不相応な花を空に咲かせた。

 

 

「おぉー流石に1万発は爽快だな! ハハハハ、結構綺麗じゃないか!」

 

 

 想像以上の迫力と華麗な花火が空いっぱいに広がる光景にモモンガは久しぶりに感動を覚えた。この光景を仲間達と一緒に眺める事が出来なかったのが残念でならないが今だけはその寂しさを少しでも忘れる事が出来るよう、モモンガは全力で楽しむことにした。

 

 

 (楽しかったなぁ……)

 

 

 かつての思い出に浸りながら花火を眺めるモモンガ。少し心残りがあるとすればどうせ最期だからとタブラ・スマラグディナのNPCアルベドの設定を『モモンガを愛している』と変更してしまった事だろう。

 

しかし、それももう直ぐ消える事となる。どうせ消えてしまうのだからちょっとした悪戯くらい問題無いだろう。

 

残り5秒前、モモンガは静かに瞳を閉じた。

5秒後には『NO DATA』の文字以外、真っ暗な画面が視界に映り込む事となる。

 

 

4…3…2…1……0

 

ユグドラシルは終了を迎えた。

 

 

 

 ゲームのフィールドではなく真っ暗な画面に『NO DATA』の文字が現れる…筈だった。だが、どういう事だろう、未だ視界にサービス終了を意味するその文字は現れない。流石に可笑しいと思ったモモンガがソッと瞳を開けると、そこには広大な丘陵地帯が星々煌めく夜空と共に広がっていた。

 

 

「…え?」

 

 

 人は本当に驚いた時、思考が止まるという話をギルドメンバーの1人ぷにっと萌えが言っていたが、まさかここでそれが証明されてしまうとは思わなかった。サービス終了まで彼が居た場所は猛毒の沼地であった筈なのにどういうワケか全く違う場所へいつの間にか移動していたのだ。

 

 

「ま、まさか…噂に聞く『ユグドラシルⅡ』か!? サービス終了まで残っていたプレイヤーにのみ先行体験版を無料で提供とか!?」

 

 

 どこぞの掲示板で何度も話題になっていた『ユグドラシルⅡ開発中』だが、何名かのプレイヤーが運営に確認したところなんの返答も無かったという。肯定はしなかったが否定もしなかったのだ。可能性はゼロでは無い。

 

 

(だが、何の告知も無しにそれは…いやでも、あのクソ運営の事だしなぁ)

 

 

 だとするとこれはとんでもないサプライズイベントだ。早速、この事実をギルドメンバー達へ伝える為、一度ログアウトしてから、各メンバーへメッセージを送ろうと行動する。しかし、どういうわけかログアウトが出来ない。

 

 

「どういう、事だ……?」

 

 

 慌てたモモンガは今度はコンソールを開こうと指を動かした。しかし、コンソール画面は一向に現れない。骨の指が何もない空間を虚しく動かすのみである。GMコールも強制ログアウトも試してみるが、全く機能する気配がない。ありとあらゆるシステムから完全に外されているように感じてきた。

 

 いくら先行体験版でもここまで酷いなんて事はないだろう。この瞬間、『ユグドラシルⅡ説』がモモンガの頭の中から除外される。そうなるとコレらの現象がゲームバグという可能性が高くなってきた。どうやら運営は最期の最期まで綺麗に終わらせてくれないようだ。

 

 

「はぁ〜、いくらなんでもこれは無いんじゃないのか?」

 

 

 怒りを通り越して呆れてしまうレベルだ。しかもシステムメニューにすらアクセス出来ないという致命的なバグを引き起こしてしまっている。

 

 

「やれやれ……取り敢えず現在地の確認…は、メニュー画面も出ないから無理か。でも此処って、ユグドラシルには無かったフィールドだよ、な?」

 

 

 モモンガは周囲をグルリと見渡す。彼は某ギルドには及ばないものの、ユグドラシルの全フィールドを見て回ってきたし、どんなモンスターが生息しどんな地形だったのかなど結構覚えていると自負している。

 所々草木が生える程度の荒れた丘陵地帯だが、彼が今まで見てきたフィールドのどれとも一致しない光景だった。

 

 それよりもずっと気になっている点がある。

 

 草木や土があまりにもリアル過ぎるのだ。ユグドラシル各フィールドの自然はかつてリアルで生息していた自然界をかなり忠実に再現しているが、今モモンガの視界に入るそれらは明らかにユグドラシルのモノよりもリアリティが有り過ぎる。

 

 

 「こ、コレは…… に、匂いが分かるぞ!?」

 

 

 モモンガは草木や土に手を触れたり、しゃがみ込んで嗅いだりしてみると間違いなく『触覚』と『嗅覚』が働いているのが分かった。仮想世界と現実世界を混同しない為の電脳法を思い切り破る違法行為だ。『触覚』に関しては元々ある程度機能はしていたがここまでリアルな感触はない。

 

 流石に運営が違法行為まで犯すとは到底思えないし、何より今直接『観て』『触れている』体験が明らかにDMMO-RPGの枠を大きく超越しているとしか思えない。

 

 そして、モモンガはある結論に至った。

 これは夢幻で無ければ電脳世界でも無い…現実なのだ。恐らく地球ですらない。

 

 

「エェェェェェェェェェェ!?」

 

 

 絶叫を上げる死の支配者(オーバーロード)の声が、深夜の丘陵地帯の彼方まで響き渡った。

 

 …とほぼ同時に感情が抑制される不思議な体験をする。

 

 

「…………ふぅ。ん? 何だ今の?」

 

 

 

 冷静になれば異常もなんのその。取り敢えずモモンガは自分が今置かれている状況を確認する為の行動を始める。

 

 

「多分、さっきの感情が抑制された感覚は種族スキルの『精神作用無効』が自動で働いたんだろう。 スキルが使えるという事は他のスキルや魔法も扱える可能性があるな」

 

 

 早速、モモンガは会得している第一位階から第三位階までの魔法をその辺に生えている枯れ木や岩目掛けて一通り発動させる事にした。

 

 

「〈火 球(ファイヤーボール)〉……お、出来た」

 

 

 正直不安だったが結果は大成功。他にも補助魔法も問題無く発動する事が出来た。第四位階以上も試してみたかったがエフェクトが些か派手になる魔法が多くなる為、今ここで試すのは控えるべきだろう。もしこの世界でモモンガの敵となるプレイヤーが現れた場合、自分の身を守るどころか逃げる事すら難しくなる可能性だってある。

 

 

(レベル100とはいえ、結局は〝アンデッドの魔法使い〟のロールプレイヤー(役割演技)に過ぎない。無論、ただでヤられるつもりは毛頭無いけど、それでもガチ戦闘特化のプレイヤーに勝つのは難しい)

 

 

 モモンガは自身の実力を理解している。強さを無視し浪漫を優先した職業構成である為、あらゆる神器級(ゴッズ)アイテムや課金アイテムを加味しても上の下、精々上の中と言ったところか。

 

 

「先ずは情報収集が先だな。 《上位アンデッド創造》……集眼の屍(アイボール・コープス)

 

 

 種族スキル《上位アンデッド創造》を発動すると、目の前の宙に白濁した無数の眼を持つ2m弱の浮遊するピンク色の肉塊が現れた。集 眼 の 屍(アイボール・コープス)は看破や探索能力に優れており、ユグドラシル時代でもそれなりに重宝したモンスターだ。特にこの未知の世界を探らせるには打って付けだろう。

 

 

「よし、スキルも問題無く発動出来るみたいだ。それじゃあ、安全確保の為に周辺の状況を見て回ってくれないか? 何か発見したら直ぐに俺へ知らせてくれ。人でもモンスターでも何でもだ、いいな?」

 

 

 創造主であるモモンガの命令に集眼の屍はブルブルと肉塊を震わせた。不思議と彼にはそれが使命感に燃えるヤツなりの返事だと理解出来た。「任せて下さい我が主人!」と言う熱意が心を通して伝わってくる事に戸惑いつつも「お、おう」と一応の返事は返した。

 

 フワフワと上空へ移動する集眼の屍を見送った後、歩きながら移動を始める。

 

 〈飛行(フライ)〉を使ってあの星空を飛び回りたい衝動にかられるが、まだこの世界に何が潜んでいて、何が脅威となるかまるで分からない。

 

 慎重に行動をするのが吉と考えるべきだろう。

 

 

「出来る事なら、敵対とかしたくないなぁ」

 

 

 

 

 

 

 モモンガは暫く丘陵地帯を歩き続けていた。幸いな事にこれと言って脅威と言える存在に遭遇する事は無かった。

 

 

「モンスターのレベルは大した事ない雑魚ばかりだったのは幸運だったな。いい盾役も手に入った事だし」

 

 

 隻眼の屍を通して発見したモンスターを調べてみるとせいぜいレベル5〜10程度とかなり弱い。試しに〈火球〉や〈雷 撃(ライトニング)〉を撃ってみたところ簡単に倒す事が出来た。ついでに殺したモンスターを媒体にして種族スキル『中位アンデッド創造』を使い、お気に入りモンスターの死の騎士(デス・ナイト)を5体ほど創り出した。

 

 デスナイトは35レベルのモンスターで攻撃能力は25レベル相当とかなり低いが、防御能力は40レベル相当と実際のレベルよりも高い性能を持っている。また、他にも有能な特殊能力を持っている為、中位アンデッドと言えどもモモンガが現在愛用し続けているモンスターである。

 

 

(ここまで盾役のデスナイトが揃っていれば、ガチ構成のプレイヤーに遭遇したとしても最悪、逃げ切ることは出来るはずだ)

 

 

 まだ油断はできない。ただ単に弱いモンスターとしか遭遇していないだけか、ここら丘陵一帯に生息しているモンスターが弱いだけなのか…もっとこの世界の知見を広めなければならない。

 

 

 (〈伝言(メッセージ)〉を使っても誰とも繋がる気配が無い。連絡交換をしているプレイヤー同士なら妨害措置を受けていない限り〈伝言〉のやり取りは出来るはず。なのにそれが出来ない、という事は…………)

 

 

 やっぱり俺1人だけなのかなぁと半ば諦めムードで、丘陵地帯を歩き続けていると再び集眼の屍が何かを見つけたらしい。

 また雑魚モンスターならデスナイトを創るための良い媒体になると考えていた。中位アンデッド創造は1日12体までと制限こそあるものの、盾役は幾らいても困る事は無い。しかし、今度の獲物は少し違う。

 

 

「…………人間?」

 

 

 ここから多少距離はあるが、集眼の屍は丘陵地帯を移動する1人の人間を見つけたらしい。その人物がユグドラシルのプレイヤーかどうかは分からないが、今のモモンガの姿はオーバーロードと言うアンデッドだ。常識的に考えて良い印象は期待出来ない。もし相手が『異形種狩り』プレイヤーであった場合、問答無用で敵対行動を取ってくる可能性が高い。

 

 モモンガは〈浮遊する視界(フローティング・アイ)〉を発動。遠くから視界を飛ばし、こちらからも発見した人間の様子を伺う。

 

 無論、対探知妨害対策に抜かりは無い。

 基本中の基本である。

 

 すると結構あっさりと覗き見る事に成功した。どうやら相手は何の探知魔法対策も施していないようだ。かなり不用心であるが、恐らくプレイヤーでは無いだろう。初心者なら話は別だが、ある程度プレイしている者なら探知魔法対策の一つや二つやっているのが当然と言っても良いからだ。

 

 

(見た目は盗賊職に近いかな? 身を隠しながらの移動しているが片脚を軽く引き摺っている…ふむ、怪我をしているみたいだ)

 

 

 かなり周囲を警戒しながら移動しているようだが、怪我の具合を見るかぎり中々の深傷みたいだ。装備品もかなりボロボロで生々しい血の跡が見て取れる。

 

 

「何か強敵と戦って逃げてきたのか。この辺にそんな強いモンスターって居たかなぁ?」

 

 

 モモンガはこのよく分からない世界に来てから何度かモンスターと遭遇しているが、よくてレベル10前後の雑魚ばかりだ。ただ単にまだ高レベルモンスターに遭遇していないだけかも知れないし、この人間が単純に弱過ぎるという可能性もある。

 

 

「しかし……何とも思わないな、コレは」

 

 

 〈浮遊する視界〉に映る人間の傷を見ても特に何も感じない。普通の人間であれば何かしら動揺や恐怖感、「助けなきゃ」という考えが浮かんでくる筈なのだが、今の彼にはそんな感情は何一つ現れていない。

 ただ〝死に掛けている虫を見つけた〟ぐらいの感想しか出てこないのだ。明らかに人としての感情が欠落している。本来で有れば恐怖心を抱くはずの自分自身の変化を冷静に受け入れてしまっている。

 

 

(…………助けるべきか? いや、もし敵だった場合どうする? 伏兵はいないようだが、下手に此方の存在を教えない方がいいか? 彼を助ける事で恩を売り、この世界の情報を聞き出せる可能性があるメリットを考え…………め、メリット、だと?)

 

 

 今自分は損得勘定で助けるか否かを自然に決めようとしていた。明らかにマトモな人間が持つ思考では無いと実感する。何の違和感も感じていない事に違和感を感じ、何とも言えない気持ちになるが、この変化を受け入れてしまっては駄目な気がした。

 

 

(『モモンガ』の姿をしているが、俺は『モモンガ』じゃない…………!)

 

 

 モモンガは意を決して自らに言い聞かせるように呟く。

 

 

「俺は……『鈴木悟』だ!」

 

 

 付近に〈転移門(ゲート)〉のマーカーを設置後、あの男性を救出すべくモモンガは〈転移門〉を発動させた。目の前に楕円形の暗黒空間が現れると、その中をデスナイトを引き連れて潜り抜ける。

 

 〈転移門〉を抜けた先は先程までモモンガが居た場所と大した差の無い、荒れた丘陵地帯だ。ここから少し先に深傷を負ったあの男がいる。

 

 集眼の屍から再び報告が届いた。

 どうやら思ったより傷が深かったのか死に掛けているらしい。これは急がねばならない。

 

 

(最悪、逃げればいいだけの事だ。今は助ける事を優先せねば…………でも、あの男──)

 

 

 モモンガは〈浮遊する視界〉で見た男の特徴を思い出していた。

 

 

「凄ッッッく…眼が怖いんだよなぁ…」

 

 




早く書籍15巻でねぇかな〜
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