Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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第14話 天才姉妹の考察

 

「これが例のギガント・バジリスクね…」

 

 

 冒険者組合が管理している幾つもの倉庫の1つ。そこに収められているギガント・バジリスクの死体をケラルト・カストディオは興味深く眺めていた。〈保 存(プリザベイション)〉が施されているこのギガント・バジリスクの死体は、先日モモンが商隊護衛依頼をこなしている最中に偶然遭遇し討伐した個体である。

 

 予想だにしていなかったギガント・バジリスク討伐により、組合の冒険者達は勿論、カリンシャに住まう人々はその話題で持ちきりだ。紛れもなくモモンは聖王国の歴史に名を残す英雄であると多くの人々が断言し、聖騎士団や兵士達の間でも周辺国家最強の戦士として名高いあのガゼフ・ストロノーフさえも超える存在であると口にする者も少なくない。

 

 ケラルト自身も彼の偉業については認めている。今の不安定な聖王国には必要不可欠と言っても過言ではない。だが、同時に彼に対して一定の危機感も抱いていた。

 

 

(英雄の領域に及んでいる可能性を秘めた彼のチカラが聖王国へ向けられないとは限らない。そうならないよう注意深く情報を集めて、対応するつもりであるけれど…)

 

 

 彼女は手を顎に当てながら静かに思案する。英雄に匹敵する力を持つという事はそれだけで脅威なのだ。帝国に存在する『逸脱者』フールーダ・パラダインがそうであるように。彼の実力は聞くところによれば帝国全軍に匹敵するとも言われている。

 

 

(モモンは基本的に温厚な性格で物腰も柔らか。決して自分から無礼を働くようなマネはしない…)

 

 

 今のところ彼について分かっている事を踏まえれば、自分から全てを敵に回すような行動を取る可能性は低いように思える。しかし、何事にも絶対は無いように、彼が急に心変わりをする可能性もゼロでは無い。

 

 ケラルトはそう言った最悪な事態も想定した上で彼に関わる情報…弱味などを収集しつつ、良好な関係を築けるよう関わっていくつもりなのだ。

 

 

「さて、そろそろ来る頃かしら?」

 

 

 殆ど外部の光を遮断している倉庫内で、とある人物が来るのを待っていた。やや薄暗い倉庫内で伝説級の魔獣の死体と一緒にいるのは決して良い気分では無いがこればかりは仕方無い。

 

 少しでも多くの情報を得る為、この穢らわしい魔獣の死体を下手にいじって欲しく無いのだ。

 

 それから半刻程経過してから倉庫の扉がゆっくりと開かれると、そこから現れたのは自身の姉であり聖騎士団団長のレメディオス・カストディオだった。実は彼女こそケラルトが待っていた人物であった。

 

 

 

「すまない、待ったか?…むッ!?」

 

 

 普段と変わらない聖騎士の格好をしたレメディオスが軽く謝罪しながら入って来た。彼女は倉庫に入るなり、建物の中央にドンと置かれたギガント・バジリスクを見て一瞬目を見開いて驚き身構えた。しかし、既に死んでいる事に気付くと静かに構えを解いた。

 

 

「いいえ、私が無理を言ったのだから姉様が謝る必要はありません」

 

「そうか? 私としてはずっと鍛錬してるだけだったから別にもっと早くても構わなかったぞ。まぁ鍛錬に夢中になり過ぎて少し遅れてはしまったが」

 

「あら? 確か今日は参謀達の会議に参加する予定ではなかった?」

 

「小難しい話は私には分からん。時間の無駄だと思って、途中から抜け出して来たのだ。なに心配するな、グスターボとイサンドロを会議場にちゃんと置いてきたからな」

 

 

 悪意の無い自信満々の顔で説明されたケラルトだが、毎度の事ながら悩ましい問題だと溜息を吐き眉間を押さえる。姉であるレメディオスの頭脳が酷く残念な事実は既に周知の事だが、せめて大事な会議くらい最後まで参加はして欲しかったのが正直な所だ。そして、毎回彼女の不始末の被害を被る2人の副団長を心の底から気の毒に感じた。

 

 今度見かける事があれば労いの言葉の一つでも掛けておくべきだろう。

 

 

「はぁ…姉様は聖騎士団の団長なのだから、会議には表面的でも構わないから参加するべきよ」

 

「何故だ? 理解出来ない話を黙って聞くよりも己を精進していた方がずっと有効的ではないか?」

 

「それは……否定しないけど、はぁ…」

 

「ん? ん???」

 

 

 やはり理解してくれそうに無いと理解出来ずに首を傾げ困惑する姉を見て思った。分かりきった結果ではあるが、カルカを支える二柱の1つであり自身の実の姉と言う事情もある為、一応「これからは会議を抜け出さないように」と忠告だけはして本題に移る。

 

 レメディオスも倉庫に入った時から当然視界に入っていたであろう、先日モモンが依頼途中で偶然討伐したギガント・バジリスクの死体についてだ。

 

 

「そんな事より、姉様を呼んだのは他でも無いわ。もう気付いてるでしょうけど」

 

 

 ケラルトが顎でしゃくりながら「コレのことよ」と言うと、レメディオスは改めてギガント・バジリスクの死体を回るようにゆっくりと歩き出し眺めた。

 

 

「しかし、ギガント・バジリスクとは懐かしいな。私も一度だけだが討伐した事があるぞ。覚えているか、ケラルト?」

 

「えぇ、もちろん。姉様が団長に就任する前の事でしたわね」

 

「あぁ! 攻めてきた亜人どもの掃討戦をしていた時に偶然、遭遇してしまってな。ハハハ、あの時は流石の私も驚いたものだった!」

 

「姉様を筆頭に部下の聖騎士達と神官、従軍魔法詠唱者らと協力して見事に討伐。亜人達に姉様の武勇と名を知らしめたきっかけの1つでしたわね」

 

「うむ‼︎ 我ながら誇るべき戦果だったぞ‼︎」

 

 

 レメディオスはかつての自身の武功を誇らしげにケラルトと共に嬉しそうに思い出していた。

 

 アベリオン丘陵にギガント・バジリスクが出て来る事など滅多に無かった為、聖王国内は勿論、亜人部族達にも『聖王国にレメディオスあり』と思い知らせた一件である。

 

 

(戦士としては一流の姉様なら、この死体を見て何かわかるかも知れないと踏んだけれど…フフフ、流石は姉様ね。早速、死体に何か違和感が無いか調べ始めたわ)

 

 

 実は彼女を此処へ呼ぶにあたって、ケラルトは「姉様に見せたい物がある」とだけ書いた手紙を送っただけで詳しい情報を何も伝えていない。

 

 理由は大きく2つある。

 

 1つは仮に詳細を書いて送ったとしてもレメディオスが手紙の内容をキチンと理解するとは思えなかったからだ。そうなると彼女は周囲の聡そうな部下に声を掛けて「これの意味が分かるか?」と手当たり次第聞いてくるだろう。基本的にその対象は副団長の2人でその場合は大きな問題にはなり得ないが、必ずしもそうするとも限らない。

 

 

(それに詳しい内容を書いても、此処へ来たら十中八九手紙の中身を半分以上忘れて聞いてくる。これじゃ只の二度手間…なら此処へ来てから説明すれば良いだけのこと)

 

 

 もう1つは彼女の暴走を防ぐ為だ。レメディオスは脳筋故に猪突猛進で良くも悪くも行動力のある性格をしている。彼女が手紙を見て「モモンが今度はギガント・バジリスクを単独で討伐した」などと言う話を知った途端、性格上ほぼ間違いなく彼女はモモンと接触を図ろうとする事だろう。それでもし彼がこの国を出ていくキッカケになってしまったら元も子もない。

 

 『漆黒』のモモンを可能であればこちら側へ引き込む為にも彼に関わる情報は出来るだけ誰よりも先に把握しておく必要性がある。

 

何より()()()()()()もある。

 

 

「……綺麗だな」

 

「え?」

 

 

 レメディオスがギガント・バジリスクの死体全体をぐるりと眺めたあと呟いた。その言葉に一瞬だけ瞠目したケラルトだが直ぐにその意味を心の中で汲み取る。

 

 

「死体が、だ。ケラルト、このギガント・バジリスクは些か綺麗過ぎる」

 

「それは…どういう事か説明出来ます?」

 

 

 ケラルトはその理由を尋ねた。レメディオスはうむと一つ唸った後、斬り落とされた頭部から胴体、尻尾まで指を差しながら横へ移動させながら答えた。

 

 

「よく見てみろ。このギガント・バジリスクの目立った傷は切断された首の部分だけだ。鱗にも爪にも他に目立った傷と言えるようなモノは見られない」

 

 

 それを言われてケラルトは初めて気付いた。確かに言われてみると目立った傷痕は殆どと言って良いほど無かったのだ。

 

 

「知っている通り、以前の私が倒したギガント・バジリスクは多数の支援があってこそ倒す事が出来たのだ。無論、支援ありきでも簡単に出来るはずも無く、ヤツの爪や牙、鱗など数え切れぬ程剣をぶつけた…まぁ要するに、激しい戦闘らしい戦闘の跡が見受けられんのだ」

 

 

 なるほどと拳を口元に当てながらケラルトは頷く。当時の姉は今のような強さを有してはいなかったと言っても、ギガント・バジリスクのような伝説級の魔獣を相手に勝利するには様々な支援魔法や装備、マジックアイテムが必須である。それは聖剣を有している今の彼女でも同じである事は間違いない。アレを一撃で倒すなどレメディオス自身も困難を極める事は百も承知──

 

 

「おっと‼︎ 言っておくがなケラルト、今の私は昔の私よりも遥かに強いぞ‼︎ ギガント・バジリスクの1匹や2匹恐るるに足らずだ‼︎」

 

 

──という訳では無いようだ。サーコートのマントを腕で払い靡かせながら自信に満ち溢れたその瞳を見せる様では、どんな正論を言ったところで大して聞く耳を持たないだろう。

 目頭を押さえながら溜息を吐く妹を他所に、その原因である姉のレメディオスは「それから」と話を続けた。

 

 

「1番目立つ、と言うよりも唯一にして絶対な致命傷である切断された首なのだが…これも凄いぞ。傷跡を見ればそれがどんな武器を使って出来た傷なのか大体見当がつくのだが、これは刀のような切れ味の鋭い武器と言うよりも、ずっと大型の武器……大剣か大斧に近い武器で斬れ味ではなく膂力で圧し斬った可能性が高い。それも途轍もない程のな」

 

 

 気を取り直して彼女の言葉に耳を傾けた。ケラルトは魔法詠唱者である為、戦士職の着眼点などはイマイチよく分からない事が多いのだが、少なくとも戦いに於ける彼女の分析力や判断力(野生の勘)はかなり信頼出来る。そして、モモンの武器を想像する辺り、やはりレメディオスの分析は当たっているのだ。

 

 

(少なくとも彼の実力は本物である可能性が非常に高い……それだけでも大きな収穫ね)

 

 

 ケラルトは改めて姉の分析力(野生の勘)の高さを評価する。

 

 

「ふむ。短時間で、しかも一撃…。ケラルトよ、このギガント・バジリスクを見事に仕留めたのは何者だ?」

 

 

 目をキラキラさせながら問い掛ける姉に、ケラルトは少し顎先に指を当てて「果たして教えて良いものか」と一瞬考えたが、ここまでのモノを見せておいて下手に誤魔化す行為はかえって暴走を助長させると判断した。

 

 故に素直に答えたのだ。

 

 

「『漆黒』のモモン。彼がギガント・バジリスクを単独で仕留めたのですよ」

 

「何と‼︎ モモン殿がコレを…!?」

 

 

 瞠目し感嘆の声を上げるレメディオスを見て、ケラルトは彼女の意外な反応に少し驚いた。普段の彼女であれば名前を言ったところで「誰だソイツは?」と首を傾げるのが殆どで、良くても「何処かで聞いた名だな?」程度だ。

 

 彼女は名前を聞いて直ぐに誰なのか理解している…戦い以外の記憶力が残念な彼女に名前と人物像がしっかりと記憶に残るとなれば、レメディオスにとってモモンが如何に強い印象を与えていたのかが見て取れる。

 

 レメディオスは歓喜の笑顔で再びギガント・バジリスクの死体を眺めながら頷く。

 

 

「実に素晴らしい‼︎ 冒険者にしておくには余りにも惜しいぞ‼︎ そうだ、ケラルト。私は良い考えを思い付いた!」

 

「駄目です」

 

「む? 我が妹ながら失礼ではないか? 私はまだ何も言っていないぞ?」

 

「分かりますよ。姉様の事だから『聖騎士団へ入団させたい』と言うつもりだったのでしょう?」

 

「うっ…! な、何故ダメなんだ?」

 

 

 これこそケラルトが最も懸念していた状況の一つだ。事前の手紙で詳細を記載しなかった自分の行動が改めて正しかったと再認識しつつ、本気で理解していない姉の疑問に答える。

 

 

「まず第一に聖王国の内情は未だ不安定だからです。今では南部の保守派からも強い関心を与えている彼を一方的に自陣へ引き込めば、益々対立が激化するのは目に見えているからです。ただでさえ一枚岩とは言い難い状況にトドメの楔を打ち込んでどうするのですか?」

 

「うぅ…そう、なのか?」

 

 

 眉間に皺を寄せ、人差し指でこめかみを押さえるレメディオスはやはり納得はしていない。元より国内情勢に疎い彼女は、妹の言っている意味を理解するのに必死だが、ケラルトは間髪入れず話を続ける。

 

 

「もう一つが彼を此方の都合で縛り付けるのはかえって逆効果だからです。彼はこの国へ来てまだ半年も経っておらず、そんな彼を無理に管轄下に置くような真似をすれば聖王国に対する彼の印象は最悪になり兼ねません。彼自身の強い希望、もしくは何かしらのこの国へ腰を下ろす明確なキッカケが無い限り、下手な勧誘は控えるべきです」

 

「し、しかしだな、ケラルト…」

 

「カルカ様の事も少しは考えて下さい」

 

「む、むぅ…」

 

 

 ここまで言って仕舞えば流石のレメディオスと言えど下手に動こうとはしないだろう。主君であるカルカの名を利用するようで気が引けるが、嘘は言っていない。姉が下手に暴走して状況を掻き乱した挙句、モモンが聖王国から去る様な状況になれば最悪だ。

 

 

(私自身、恋愛感情を抱いた事が無いから何とも言えないけれど……失恋は心を壊しかねない、とか)

 

 

 友人としての心配もさる事ながら、一国の君主がそのような事態になるなど冗談では済まされない。下手すれば保守派に足を掬われ、全てを奪われる可能性も高い。

 

 非常に難しい責務だ。

 

 国の行く末を案じつつ、友人の恋を成就させるという使命を並行しなければならない事とほぼ同義なのだから。

 

 

(その為には少しでも彼に関わる情報を誰よりも早く把握する必要がある……暫く気が抜けないわね)

 

 

 国内の保守派は勿論、諸外国の動向にもより一層目を光らせねばならない。特に王国の貴族達がアプローチをかけ始めている。彼が自陣に加わるならばとても心強い。しかし、もし保守派などの敵側へ加担する様な事になれば忽ち脅威となる。

 

 上手く立ち回らなければ危険だ。

 

 ふとレメディオスの方へ顔を向けると、腕を組みながら難しい顔で相変わらずうーむ、と唸っていた。ケラルトはくすりと小さく笑いながら、やはり彼女を連れて来て正解だったと思った。

 

 何だかんだ言っても姉の裏表のない真っ直ぐな性格には、一時的とはいえケラルトも心が安らぐ場合があるのだ。

 

 

「む? どうしたのだ、ケラルト」

 

「いいえ。姉様は何も変わらないのですね」

 

「何を言う。私は日々厳しい鍛錬を積み重ね、強くなっているぞ‼︎」

 

「えぇ、そうですね。フフフ」

 

 

 此方の心情を知らず、全く見当違いな発言をする彼女の言葉にケラルトはクスクスと笑った。

 

 

 

 商隊護衛の依頼を終えてから数日後、悟は今日も今日とて何か良い依頼が無いか確認するべく冒険者組合へ訪れていた。

 

 

「おはようございます、モモンさん」

 

「あぁ、おはよう」

 

 

 既に顔馴染みとなっている受付嬢に軽く挨拶をした後、掲示板へと向かう。しかし、貼られている依頼書はどれも等級の低い依頼ばかりだ。

 

 

(今日も目ぼしい依頼は無し、か。金銭的余裕はまだあるとは言え、そろそろちゃんとした依頼を受けたい所なんだけど)

 

 

 あまり我儘は言えないなと半ば諦めながら、組合に設置されているテーブル席の1つへ腰を下ろした。個人指名の依頼があった場合は朝の挨拶をした時点で受付嬢が声をかけてくるのだが、それが無いという事は個人指名の依頼も無いのだろう。

 今のモモンはオリハルコン級である為、別段自身の階級より下の依頼を受ける事は何の問題も無いのだが、他の冒険者達の食い扶持を奪うような真似はあまりしたくない。

 

 つまり…今日も暇なのだ。

 

 悲しいかな社畜根性故に何もない日というのはそこそこ苦痛なのである。

 

 

(もう街中で寄りたい店はあらかた寄ったし、欲しいアイテムもあるわけじゃないし……暇だ)

 

 

 カリンシャでやりたい事は既にやり尽くしたモモンにとって、何も無い日と言うのは退屈以外の何物でもない。リアルであれば『ユグドラシル』へ終日ログイン出来るのだが、そんな事が出来るはずも無い。『ユグドラシル』以外の休日の過ごし方をあまり良く知らないのだ。

 

 モモン…悟は両肘をテーブルの上に立て、両手で兜のスリットを隠すようにして項垂れる。

 

 

(あーあ、本当なら少しずつ階級を上げていく過程で、同業者と仲良くなって、ギルドメンバー程とはいかないまでも友人関係を築いていこうと思ってたのに…)

 

 

 何度溜息を吐き、何度自問自答したことか。

 今の彼は聖王国を窮地から救った英雄で、国内最高峰のオリハルコン級冒険者となっている。そんな彼が気軽に「友達になりましょう」と言ったところで周りは変に萎縮するに決まっている。リアルで部長や専務クラスがいきなり一介の平社員に対して「プライベートでも仲良くやろう」とか言われれば誰だって気まずくなるし、かと言って断るとどんな目に遭うか想像も出来ない。

 

 何処か遠くへ行こうにも先日の組合長との話を受け、了承した身としてはそうする訳にもいかない。

 

 実際周りで色々と称賛の声を上げている人々とどこか心の距離…壁を感じている。無論、皆悪気があって心の壁を作っているわけでは無いのは理解しているが、愚痴を言える親しい人のいない悟にとってはリアルの時とはまた違った「孤独」を実感していた。

 

 

(心から安らげる居場所が無い…本当の俺を知らない世界って、なかなか堪えるものがあるなぁ)

 

 

 1人の時間が増えると考えたくも無い事を考えるようになってしまう。リアルでは『ユグドラシル』と言う逃げ場があったが此処には無い。気が付けば段々と燻るような苛立ちが沸々と湧いて来ていた。

 

 モモンは首を左右に何度も振って、気分転換の意味合いも含めて何か適当な依頼を受けることにした。

 

 

「いかんいかん。こういう時は何かに没頭するに限る。そういえばさっき掲示板にゴブリン小隊討伐の依頼があった筈だ」

 

 

 あんまり他の冒険者の仕事を奪うような真似はしたく無かったが、何かやっていないと苛々が溜まって仕方が無い。彼は早速席を立ち、掲示板へ足を運ぶ。

 

 そこへ一組の冒険者チームが乱暴に組合の扉を開けて入って来た。

 

 戦士職、魔法詠唱者、斥候の3人組のようだったが見るからに素行が悪そうな人相だ。其々の首にはミスリル級を示す冒険者プレートがさげられている。

 

 

「おう、姐ちゃん。俺たちミスリル級冒険者に相応しい依頼はねぇか?」

 

 

 背中に戦斧を携えた戦士職風の男がカウンターの上に片腕を乗せながらミスリル級プレートを見せつけるように受付嬢へ声を掛ける。

 

 

「申し訳ありません。当組合にはプラチナ級以上の依頼は今現在出ておりません」

 

 

 色々な冒険者の応対をしていただけに受付嬢の態度は淡々としたものだった。

 

 一方、戦士職の男は大した依頼が無いと分かった途端あからさまに不機嫌な顔になっていた。

 

 

「チッ! シケてんな!」

 

 

 不機嫌な男はカウンターを蹴ると流石に驚いた受付嬢がビクリと肩を震わせた。その反応をニヤニヤと面白そうに見ていた男は、踵を返して仲間達が待っているテーブル席……ではなく、掲示板の前に立っていたモモンのもとへ移動して来た。

 

 

「よぉニイちゃん。随分とご立派な鎧と武器を持ってるじゃねぇか? さぞかし羽振りが良いんだろうなぁ〜?」

 

 

 もし自分の目に間違いが無ければ首に下げられている冒険者プレートはやはりミスリル級だ。面倒臭い連中に絡まれてしまったとモモンは軽く溜息を吐いて答えた。

 

 

「いいえ、そんな事はありませんよ」

 

「俺は聖王国南部で活動してる『戦牙』っつゥミスリル級冒険者チームのリーダーだ。最近までこの国のトップを張ってたんだが、最近オリハルコン級の冒険者が出て来ちまってよぉ。めちゃくちゃ落ち込んでんだ」

 

「それはお気の毒に─」

 

「だからよぉ、こんな可哀想なセンパイの為に何か奢ってくれよ」

 

「生憎、持ち合わせがありません」

 

「あァ? テメェなに生意気な口きいてんだ?」

 

 

 適当にあしらうモモンに対し、ミスリル級の戦士が彼の正面に回り込み下から睨みつけてきた。男がモモンの首にぶら下がっている冒険者プレートに視線を向けた瞬間、彼の目が完全に敵意に満ちたものへと変わる。

 

 気がつくとテーブル席にいた男の仲間たちもモモンを取り囲むように集まり、組合にいた他の冒険者達からの視線も集まっていた。その中でミスリル級冒険者チームは一言も発さずただ静かな敵意をモモンに向ける。

 

 

「はぁ…分かりました。場所を変えますか?」

 

 

 モモンはミスリル級冒険者チームらと共に裏口にある組合の訓練所へ足を運んだ。他の冒険者達は野次馬根性で彼らの後をついて行く。

 

 気がつくとモモンはちょっとした御覧試合規模の人々に囲まれた状態となっていた。




中々話が進まず申し訳ないです

また別の二次作品を投稿しようかと近々考えておりますが、あくまでメインは本作になります。因みにゴブリンスレイヤーです。

投稿ペースとしては本作の方が優先ですが気分転換としてやっていきたいなぁと思ってます。
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