Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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第15話 PvP

 今日のオルランド・カンパーノは非番だった。

 

 

「あぁ〜退屈だ。退屈で退屈で死にそうだぜ」

 

 

 彼の休日の過ごし方は、九色の一色を下賜される前から変わらない。装備品の手入れを行った後は、ひと汗かくまで鍛錬を行い、最後に酒場で朝まで飲み明かす。あとは屯所や冒険者組合へ顔を出しては強そうな新兵や新人冒険者相手に腕比べを一方的に申し込むくらいだろう。

 

 

(どっかで揉め事とか起きてないもんかねぇ)

 

 

 そんな事を考えながら街中を散歩する彼だが、彼の存在自体が治安維持に繋がっていると言っても過言では無い。下手に暴力沙汰を起こせば兵士が出てくる前にカンパーノが嬉々として現れるのは分かっている為、余程この辺りに疎い流れ者でも無い限り揉め事を起こそうなどとは思わないだろう。

 

 だから彼は今退屈なのだ。そんな自分を刺激してくれる出来事が起きるのを彼は心の中で願っている。

 

 

「あァ? なんだあの人集りは?」

 

 

 彼が何の気なしに冒険者組合の前を通ろうとした時だった。何やら次々と冒険者達が組合へ足早に入っていく姿が目に入った。確かに時間的にもそろそろ冒険者達が依頼を受注する為、活発になる頃合いではあるが、あんなに人が集まるのはあまり見ない光景だ。

 

 

(へへへ、丁度いい暇つぶしになりそうだぜ)

 

 

 彼は冒険者では無いが野次馬気分で見に行く分には何の問題も無い。もし仮に何か揉め事が発生していたのであれば願っても無い事態だ。

 小難しい問題なら正規の軍人達に任せ、下らない喧嘩騒動なら事態の沈静化を名目に自分が出張る。ゴロツキ出身の性分故かこう言った事態に出会す、もしくは察知する能力は人一倍だと自負している。

 

 カンパーノは軽い気持ちで組合へと向かった。その足取りはガタイに似合わず軽やかだったと言う。

 

 

 

 

 グスターボは憔悴しきった面持ちで街中を歩いていた。

 

 

(はぁー…全くどうすれば良いのだ)

 

 

 ついこの間までの自分は油断していた、浮かれていたと猛省する。レメディオス団長から受けた『“漆黒の英雄“モモンの調査』という命令は、最初こそ雲を掴むような命令に比べれば大分マシになったと内心喜んだものだ。しかし、そこにイサンドロが話してきた別の指令…『べサーレス聖王女陛下の恋路』が関わるとなれば大きく変わってくる。

 

 聖王女が恋に落ちた相手がモモンなのだ。

 

 そうなると自然と『モモンの調査』は単純な素性やら実力に探りを入れるのではなく『為人』と言う事に変換される。

 

 

(ただでさえ独身の俺が色恋沙汰に関与するのは明らかに間違いなんだろうが、イサンドロの負担を減らす為ならば仕方無い)

 

 

 本音を言えば王族の恋愛事情に首を突っ込むくらいなら彼の悩みを聞かなければ良かったと少しだけ後悔はしている。だが、今回自分が彼を助けるのと同様にグスターボ自身も彼に助けられた経験は何度もある。

 

 持ちつ持たれつの良き関係。

 

 自分だけ助けて貰おうなど出来るはずが無い。

 

 

(そういう探りを入れるとなると中々難しいモノがある。重要なのは如何にしてモモン殿に悟られないようにするかだが…やはり個人的な友好関係を築くのが一番だろうな)

 

 

 こちらから近付き彼と親しい友人関係を築く…果たしてそんな事は可能なのだろうか。

 

 この様な事情を知っている人物は自分を含め非常に限られているし、それらの人物は皆何かしらの要職に就いている者ばかりだ。そんな人物が近づいた所で「邪な狙いがあるのでは?」と警戒心を抱かれ、腹を探られるのは目に見えている。若しくはコチラの立場を利用してコネを得ようとしてくるやも知れない。

 

 これはかなりのリスクが伴う結果となる。

 あまり良い案とは言えないだろう。

 

 

(これまでのモモン殿の行動を考えればその可能性はあまり無い気もするが、飽くまで希望的観測に過ぎないしなぁ)

 

 

 もし仮に上手く進められるとするならば、彼が冒険者になるよりも前…つまりは彼が聖王国へ訪れるより前に彼の事を知っている人物で無ければ難しい。しかし、その様な人物が聖王国には居るはずもないだろう。

 

 

(しかし、なぜモモン殿なのだ? 確かに南方出身者は珍しいが、顔は平凡そのものと言っていい。明らかに『聖女』と謳われている陛下とは不釣り合いだ)

 

 

 恋に落ちた相手が他国の王族ならまだ分かる。その最たる例がバハルス帝国の『鮮血帝』だろう。彼は容姿端麗で統治者としてのカリスマ性や実力も有している為、それだけで見れば文句は無いだろう。だが、彼が『鮮血帝』と呼ばれる事から体裁的な問題が出てくる。しかし、そこはもうグスターボの関与する所では無い。

 

 

(面食い、では無いのだろう。まさか陛下は南方出身者がお好みか? むむむ、だとすると、かの周辺諸国最強と謳われるガゼフ・ストロノーフも……いや、それは無いか? っと、いかんいかん、思わず現実逃避してしまった)

 

 

 カルカが好む異性の特徴を考察する事は彼女の恋愛事情を補佐する上で有益とも言えるが、満足に相談出来る相手はほぼ存在しない上に自分は恋愛ごとには疎いと来ている。

 

 王族の恋愛事情に関与するなど自分は明らかに分不相応だ。だが現実そうなっている為、胃痛が悪化するのも当然と言える。

 

 

「巡回がてら何か良い方法をと思っていたが、かえって胃が痛くなっただけか…イタタ」

 

 

 グスターボが胃の辺りを擦りながら街を歩き続けていると、人混みの中で一際目立つ人物が目に入った。あの筋肉質でガタイの良い後ろ姿は見間違うはずも無い。

 

 

「アレは…カンパーノ班長か?」

 

 

 『九色』の一色を下賜された一人、要塞線の班長オルランド・カンパーノである。彼が今しがた嬉々とした様子で冒険者組合へ入っていく姿が見えたのだ。

 

 

「冒険者組合に何の用が?」

 

 

 彼が冒険者組合に用事があるなどあまり無い様な気がする。それにあの嬉しそうな顔は明らかに揉め事を嗅ぎ付けた時のソレと全く同じなのだ。そう考えると、心なしか冒険者達が足早に組合の中へ次々と入って行っているように見受けられる。

 

 

(もし本当に揉め事で並大抵の兵士よりも強い冒険者が相手となるとカンパーノ班長ぐらいが丁度良いか。でもあの人加減を知らないからなぁ)

 

 

 以前、彼がゴロツキ同士の喧嘩騒動に遭遇した際、鎮圧行為という名目で逆にゴロツキ達を1人でブッ飛ばしたと言う出来事があった。だが、誰が見てもアレはやり過ぎだ。

 

 

(仕方無い。聖騎士団副団長として、揉め事を看過する訳にはいかないか)

 

 

 加えてカンパーノが再び過剰鎮圧に乗り出さない為のストッパー役としても自分が何もしない訳にはいかない。『九色』では無いが聖騎士団副団長としてそれなりの実力はあると自負している。流石に暴走するカンパーノを止めるのに無傷とはいかないだろうが、面倒な事態になるのは防げるだろう。

 

 それに加えてちょっとした気分転換の意味も含まれている。最近鬱屈した仕事が多過ぎる故に何かしら気を紛らわせたいのが正直なところだ。

 

 結局のところ『現実逃避』である。

 

 

 

 組合の扉を開ければ案の定、人集りが出来ていた。こういう混み具合は大体破格の高額報酬依頼が張り出される場合にのみ起きるのだが、その場合は大体掲示板の周囲で起きる。

 

 今回の人集りは組合の裏手へ続く扉の奥まで続いているのだ。

 

 

「確かあの奥は訓練場だった筈。そうなるとやはり冒険者同士の喧嘩か?」

 

 

 あまり当たってほしく無い読みが当たってしまった事に溜息を吐きたくなるが、それよりも先にカンパーノを見つけなければならない。

 

 人混みを掻き分けながらやっとの思いで訓練場まで進むと、カンパーノの巨躯を容易に見つける事が出来た。まだ離れた位置に居るが、彼が暴れ出していない事にホッと胸を撫で下ろす。だが、肝心の騒動の原因がこの位置から確認出来ない。掻き分けて進むにはかなり厳しい人の密度だ。

 

 

「失礼。一体これは何事だ?」

 

 

 しょうがなく彼は近くの冒険者へ声を掛けた。

 

 

「喧嘩だよ喧嘩。南部のミスリル級が喧嘩ふっかけたって話だぜ」

 

「み、ミスリル級が?」

 

 

 彼は我が耳を疑った。ミスリル級と言えば聖王国内では少し前まで最高クラスの冒険者だったからだ。その数は非常に限られている為、チーム名を言えば直ぐに何者なのか分かる筈なのだが、果たしてそんな折り紙付きの実力者からの喧嘩を受けた命知らずは一体何処の誰なのだろうか。

 

 

「それでその喧嘩を買った相手は誰なんだ?」

 

「モモンさんだよ。オリハルコン級冒険者『漆黒』のモモンさん」

 

「……え?」

 

 

 我ながら間抜けな声を出したと思った。そして、気が付いた時には先程話をしていた冒険者の呼び掛けを無視して無我夢中で人混みを掻き分け漸く訓練場の中央部が見える位置まで移動していた。

 

 その場には確かに漆黒の全身鎧に身に纏ったモモンが仁王立ちで佇んでいた。そんな彼の目の前には戦斧を肩に担いだ戦士風の男がいかにもやる気満々の雰囲気で相対していた。

 

 

(嘘だろォォォ‼︎‼︎?)

 

 

 グスターボは顎が外れる勢いで口をあんぐりと開けて心の中で叫んだ。いや、本当に叫んでもいいくらいなのだがあまりにも驚愕が過ぎる光景だった為、偶々声が出なかっただけである。

 

 聖王国の英雄に喧嘩を吹っかけるだけでも大問題だ。別に『英雄に決闘を申し込むのは違法』というのは無いが常識的に考えてあり得ないだろう。ただの手合わせ程度なら兎も角、先ほどの話の通りそんな生易しい雰囲気でも無い。

 

 周りは野次馬根性か好奇心からなのか誰一人として止めようとする者はいない。

 

 無理もない話だ。

 

 片方はオリハルコン級で聖王国の英雄、もう片方は階級はひとつ下のミスリル級とは言えそれでも冒険者としての実力は申し分無い。そんな二人の喧嘩を止められるかと聞かれれば否と答えるのが当然とも言える。

 

 

「なぁ、お前さんはどっちが勝つと思う?」

「そりゃモモンさんだろ!」

「俺もモモンさんだな」

「いや、俺は『戦牙』のリーダーに賭けるぜ」

「俺も俺も! 若い頃手合わせした事があるが『戦牙』のリーダーは強ぇぞ〜‼︎」

 

 

 何と不謹慎だろう。冒険者達は次々と何方が勝つのかの賭け事を始め出した。『どちらが強いのか』と言う好奇心から一転。そこへ金が絡めばそれは一気に博打へと早変わりだ。瞬く間に周りは物々しい雰囲気から祭りの如き賑わいと喧騒に包まれる。

 

 

(じょ、冗談じゃない、相手はべサーレス陛下の思い人なんだぞ!?)

 

 

 此処でカンパーノの方へ視線を向ける。彼はこれから起きる事を楽しそうに眺めていた。どう見ても止めようとは考えていないらしい。

 

 

(カンパーノ殿、あなたは分かっているのか!? 彼にもしもの事があったら聖王女陛下は…‼︎)

 

 

 と心の中で叫んだ所でカルカがモモンに恋をしているなど知っているはずもない。しかし、ここで彼に何かしらの重い怪我を負わせるような事になり、その時の怪我が原因で冒険者を引退して聖王国を去る、なんて事態になれば我が国の損失は勿論、カルカの傷心は計り知れない。

 

 そこまで考えたところでグスターボは「待てよ…」と顎を片手で触れながら思案する。

 

 

(陛下が惚れ込んだモモン殿は冒険者として偉業を成し遂げた彼であるか、それとも冒険者云々は関係無い彼そのものであるか…どちらかによってまた調べ方も大きく変わる)

 

 

 それに万が一モモンが冒険者を引退するような事態になったとしても、彼がこの国から出ていくと言う確証は無い。もう旅をするチカラを有していないならばこのまま聖王国に腰を下ろすのではないだろうか。

 

 意図的に今後の冒険者稼業に支障を来す怪我を負わせる…我ながらゾッとする考えだが彼をこの国に置いておくと言う目的は達成出来る。

 

 

(だが、聖王国を救った英雄という、王国のガゼフ・ストロノーフ、帝国のフールーダ・パラダインのような優位性を失うだけで無く、市民達の安寧の拠り所をも失う事になる為一概に良い案とも言えない)

 

 

 メリットとデメリットで考えるなら明らかにデメリットの方が大きく、またリスクも高い。〝国が意図的に自分を襲おうとしている〟と思われかねず、最悪他国へ居を移し、聖王国の非道を告げていく事になるだろう。そうなればカルカの恋路など関係無しに国内外の問題が一気に爆発する事は火を見るよりも明らかだ。

 

 改めて冷静になって考えてみると今目の前で起きようとしている喧嘩騒動はある意味僥倖と言える。此方には何の意図も無く、モモンの力量をこの目で確認する事が出来るのだ。今後何かしらの工作を仕掛ける上でも彼の実力に関する情報収集は非常に重要となり得る。

 

 

(彼の功績を疑うつもりは無いが、やはりただ聞くのと実際に見るのとでは大きく違う)

 

 

 それにグスターボとて戦士なのだ。

 相手の実力を分析するのは慣れている。

 

 

(恐らくカンパーノ殿もそれを見越して…では無さそうだな。あの人の場合は単純に興味本位な所が大きいだろう)

 

 

 だがそれでも戦士としての実力は彼の方が上なのだ。自分では気付かない点があるかも知れない。後で彼にモモンの実力について色々と聞いてみるのも良いだろう。

 

 そうと決まれば自分は傍観者だ。サーコートに備えられたフードを深々と被り彼の実力の分析に努めるのみ。無論、最悪の場合、仲裁に入る準備もしておく。

 

 

「それでもどうか無理はなさらないで下さいよ、モモン殿」

 

 

 自分の判断が間違いでは無い事と彼の無事を祈りながらボソリと呟いた。

 

 

 今、モモンはミスリル級冒険者チーム『戦牙』のリーダーと対峙していた。

 

 

(面倒くさい。それになんかギャラリーも増えて来てるし、こんな形で目立ちたくなんかないんだけどなぁ。いやいや、そもそも目立つ事自体望んでないワケだし。なんでこうやる事なす事全部が裏目に出るんだ?)

 

 

 目立ちたく無いのに目立ってしまう。まるで何か呪い系のデバフでも受けているかのような出来事の連続にモモンは辟易していた。普段の死の支配者(オーバーロード)の姿と違って落ち着いたデザインの全身鎧なのだが…。

 

 

(それにコイツらもコイツらだよ。先輩冒険者としての威厳云々垂れるなら、もっと寛容な姿勢を見せて欲しいのに何でここまで喧嘩腰なんだよ)

 

 

 何故こんな事態になったのかよく分からないが、キッカケは単なる嫉妬と私怨と考えて良いだろう。ポッと出の新人がイキナリ飛び級でオリハルコン級になったモモンが気に入らないと、そんな事ばかりを口にしている。

 

 

「『漆黒』…『漆黒』ねぇ。その一級品っぽい全身鎧に相応しい名前じゃねぇか。大方、どっかの遺跡から偶然見つけたモンなんだろうよ。その背負ってる2本の大剣含めてな」

 

 

 小馬鹿にした態度で嘲笑を浮かべる『戦牙』のリーダーに、モモンは小さく溜息を吐く。

 

 

「どう思っても構いませんが。結局何が言いたいんですか?」

 

「否定しねぇってのか? いいか、冒険者の実力ってのは装備で決まるんじゃねぇ。『経験』と『実力』で決まるんだよ。テメェは一気にオリハルコン級に昇級して周りからチヤホヤされて勘違いしてるようだから、先輩として忠告しておいてやるよ」

 

「それはどうも。肝に銘じておきます」

 

「……いけしゃあしゃあとしやがって。調子に乗るのもいい加減にしとけよ‼︎ 例のアンデッド騒動だって、俺たちでもやろうと思えば1万のアンデッドを相手取ることは出来たんだぜ! それにギガント・バジリスクだって、準備さえしてれば討伐する事ぐらいワケねぇさ‼︎」

 

「…はぁ」

 

 

 何故こうも癇癪を起こした子供みたいな態度を平気で取れるのかモモンには理解出来ない。呆れ果てて反論する気などまるで起きず、一言面倒臭そうに応えるだけで精一杯だ。

 

 

「テメェの偉業なんざ実際は大した事無ぇ、手柄に尾びれ背びれが付いて過剰に持ち上げられてるに過ぎねぇんだ。特にギガント・バジリスクの単独討伐なんざ冷静に考えれば分かる事だろうが。伝説級の魔獣を相手にたった1人の戦士職が敵うワケねぇだろう? 」

 

 

 男はモモンの下へ静かに歩み寄ると周りに聞こえない程度の声で話し始めた。

 

 

「(分かってんだぜぇ…お前さんの正体。大方、聖王女派の連中に担ぎ上げられた傀儡か何かだろう?)」

 

 

 全てを見透かしたニヤついた笑みを見せながら話す彼にモモンは「何を言ってるんだコイツ」と素直に思った。

 

 

(聖王女派? 傀儡? 何の話をしてるんだ?)

 

「(かく言う俺たちも南部の保守派の後ろ盾があって今があるからな、お前さんもそのクチと見たぜ。なぁお前は幾ら貰ってんだ? 場合によっちゃそっち側に鞍替えしてやっても良いんだぜ。カストディオ姉妹の出来の良い方が後ろに付いてんのか?)」

 

「何言ってんだお前?」

 

「はぁ?」

 

「南部の保守派とか鞍替えとか…悪いが俺はお前達が思ってるような卑しい存在ではない。見当違いも良い所だ」

 

「なっ!?」

 

 

 驚き身じろぐ彼にモモンは「はは〜ん」と相手がまんまとドジを踏んだのに気付いて一気に畳み掛ける。

 

 

「話を聞くとお前たちは南部の保守派から色々と後ろ盾になって貰って今の地位にいるみたいだが、それは冒険者組合の規則を著しく違反している行為じゃないのか?」

 

 

 墓穴を掘るとはまさにこの事だろう。気が付けば周りからも『戦牙』に対する不審の声が相次いで聞こえてくる。

 

 

「え? アイツら南部から裏金貰ってんの?」

「国家運営に加担してるって事か?」

「実力はあってもミスリル級に相応しい器量かと言われれば確かに疑問はあったな…」

「おい、それじゃ『戦牙』が利用してる組合も怪しいんじゃねぇか?」

 

 

 周りから段々と不審の視線が彼らに集まり始めた。雰囲気的に不利になりつつあった『戦牙』が狼狽える中、リーダーは激昂してモモンに指を差した。

 

 

「で、デタラメ言うんじゃねぇ‼︎ 言い掛かりだ‼︎」

 

「その割にはだいぶ焦ってるようだが?」

 

「ぐっ…!」

 

(分かり易過ぎだろ…)

 

 

 例え図星だとしてもそこは無理にでも平静を装うべきなのだが、それすら頭によぎらないくらい勝手に追い詰められているらしい。

 

 まぁ十中八九事実なのだろうが…。

 

 

「だったら今ここで証明してやるよ‼︎ 俺たちが本物のミスリル級だってことを、そしてお前がお飾りに過ぎないニセモノだって事をなァ‼︎」

 

 

 リーダーは激昂しながら戦斧を取り出した。

 

 一方、モモンは大剣を抜くでも無く腕を組んだまま顔を他の『戦牙』メンバーたちへ向ける。

 

 

「アイツらは呼ばなくていいのか?」

 

「へっ、テメェなんざ俺1人で十分だ‼︎」

 

「あっそう」

 

 

 どうでもいいかとばかりに適当な返事をしたモモンは背中の大剣を引き抜くとそれを地面へ深々と突き立てた。その手には何も持っていない。

 

 

「さぁどうぞ」

 

 

 この舐めているとしか思えない態度にリーダーはブチ切れた。

 

 

「〈肉体向上〉‼︎〈戦気梱封〉‼︎ 」

 

 

 武技を発動させた後、地面を踏み込んで一気に詰め寄る。その速さは並大抵の冒険者では反応するのが困難であり周りからは驚きの声が上がる。卑しい連中とは思っていてもその実力はやはりミスリル級なのだと改めて思った。

 

 

「〈剛撃〉‼︎ 死ねェェェェ‼︎‼︎」

 

 

 更なる武技を加え、振り上げた戦斧をモモンの頭部目掛けて迷い無く振り下ろす。『戦牙』のメンバーたちは訓練場の中央部にモモンの血が飛び散る光景を脳裏に浮かばせた。

 

 一方のモモンは相変わらず腕を組んで佇むばかり。

 

 

(フッ、無駄だな。アイツはリーダーの攻撃にまるで反応出来てない。偽りの偉業を聞かされ続けた事で本当に自分は英雄と陶酔した愚か者というわけか)

 

 

 『戦牙』の魔法詠唱者がほくそ笑みながらモモンの実力を改めてニセモノであると評価する。そもそも『戦牙』のリーダーという役はチームとしての統率力だけで無く、完全実力者主義で選ばれる決まりになっており、彼は3人の中でも頭1つ抜きんでた実力者故に『リーダー』となったのだ。

 

 

(これでクソ生意気な新参をぶっ潰せる上に、ヤツの偽りの実力も証明出来る。さっきの雰囲気は流石に不味かったがアイツを潰せばそれもどうとでもなるさ)

 

 

 実はモモンの言っていた事は的を射ていた。どのみちここでヤツを倒さなければ冒険者としての自分達は終わりだ。そうなったらこの国を出て行く他無い。

 

 

(まぁその心配も杞憂に──)

 

ドゴォォン!!!!

 

「「……え?」」

 

 

 次の瞬間、何かが凄い速さで自分達の横を通り過ぎて行き、何かがぶつかり崩れる轟音が響き渡る。何事かと思いその音が聞こえた方向へ振り返ると、そこには壁に突き刺さっているリーダーがいた。上半身は完全にめり込んでおり、下半身のみが力なくブラブラと宙に揺れている。

 

 メンバー2人は恐る恐るモモンの方へ顔を向けた。モモンは右拳を突き出した状態で静止しており、その後ゆっくりと再び腕を組んで佇む姿勢に戻った。

 

 

「まだやるか?」

 

 

 その一言を受けた2人は冷たい汗を一気に噴き出させた。自分達は大きな間違いを犯したことに漸く気付いたのだ。

 

 

「「ヒィィィィィすみませんでしたぁぁ‼︎」」

 

 

 2人は情けない声を上げながら壁からリーダーを引っこ抜き、そのまま彼を抱えて訓練場から逃げるように去っていった。彼らの悲鳴が段々と小さくなり、取り残された訓練場の野次馬たちは呆然となる。

 

 訓練場に僅かな静寂の一時が訪れた瞬間――

 

 

「「うぉぉぉぉォォォォォォ!!!!!」」

 

 

 この場では収まりきれない程の大歓声が火山の噴火の如き勢いで溢れ出した。皆が口早にモモンを讃える。

 

 

「スゲェェ!!!スゲェよモモンさん!!」

「ざまぁみやがれ『戦牙』の奴ら!!」

「俺たちのモモンさんの実力思い知ったか!!!」

 

 

 たった一撃、たった一発の拳でミスリル級をぶっ飛ばした。それも皆が釘付けになって見ていたというのに彼の初動さえ全く気付かない程に。

 

 

(い、一体何が…拳一つで倒したのは分かったが、何一つ動きが見えなかった…!)

 

 

 グスターボは目を見開いて驚愕していた。唯一捉える事が出来たのは他の皆と同じように右拳を突き出した後の姿だけで他は何も見えなかった。右の拳を出そうという動きは一切捉えられなかったのだ。そして、『戦牙』のリーダーも見事な動きであったのは間違いない。

 

 相手は決して弱く無い。

 モモンが桁違いに強過ぎたのだ。

 

 

(これでは分析のしようが……い、いやいや、『モモン殿の実力に偽り無し』。これだけでも大きな収穫だ)

 

 

 当初の思っていた事とは違ったが、1万にも及ぶアンデッドの群勢の件、そしてギガント・バジリスクを単独で倒した件…どちらも更に信憑性が増したのだ。

 

 

「これはひょっとすると…あ、アダマンタイト級にも」

 

 

 グスターボが下を向いて思案していると周りの群衆から歓声とは別の声…どよめきが聞こえた。何事かと思い再びモモンの方へ顔を向ける。

 

 そこには、巨漢がモモンの前に立ち塞がっていた。

 

 

「…なッ!?」

 

 

 グスターボは青褪めると同時に今日最大級の胃痛に襲い掛かられた。彼が此処へ入って行くのを見た時から薄々嫌な予感はしていたが、此処に来てその予感が的中してしまったらしい。

 

 

「お、おい…あの人って…」

「嘘だろ…」

「マジかよ。何で『九色』の1人が…!」

 

 

 群衆からも驚きの声が上がる。皆の注目を集めている、巨漢がオルランド・カンパーノだったからだ。

 

 

「よぉ英雄さん。マジで強ぇんだな」

 

 

 モモンよりもやや背が高いオルランドは歯茎が見えるくらいの満面の笑みを浮かべていたが、その目は明らかに獲物を見つけた獰猛な獣そのものであった。

 

 モモンはまたしてもガラの悪そうな輩に絡まれたという事実に心底ウンザリしていた。

 

 

「……またかよ」

 

 

 ここで漸く精神安定化が発動した。




書籍15巻買いました読みました
ネタバレはしませんが色んな新しい情報が出てきましたね
早く16巻が待ち遠しいです

感想はマジでモチベに繋がりますのでよろしくお願いします
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