Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

16 / 39
誤字報告・感想・評価・お気に入り登録、誠にありがとうございます

今回は少し長めです


第16話 オルランド・カンパーノ

 

 首都ホバンスの裏路地。此処は昼間でも薄暗く、荒くれどもの絶好の溜まり場となっていた。一般人なら余程の用事でも無い限り近寄ることすらしない。

 

 

「お前が最近巷で話題の暴れん坊か?」

 

 

 ある日、俺がいつものようにその辺に座り込んで酒を飲んでいると、闇夜に溶け込みやすい浅黒の外套を纏った軽装革鎧の男が話し掛けてきた。

 

 ただの痩せっぽち…かと思ったがどうやらそうではないらしく、細く見えるが身体はだいぶ鍛え込んでいる。明らかにその辺のゴロツキどもとはワケが違う。

 

 何よりもコイツの眼がそれを物語っている。

 先程から俺を睨み付けてくるその眼は並々ならない凄味と鋭利さを含ませていた。

 

 俺は気怠そうに立ち上がった。

 俺は男を見下ろし、男は俺を見上げた。

 

 

「誰だテメェ? 俺に何の用だ」

 

 

 目の前の男は驚きこそするが俺に対して怖気付く様子が微塵も感じられなかった。寧ろ感心していると言っていい。

 

 

「中々の巨漢だな。正に持って生まれた天性の肉体ってヤツか」

 

「ケッ、癪に障る言い方しやがるぜ。ってかテメェいつまで睨み付けてんだ」

 

 

 男は「あ〜〜」と苦笑いを浮かべ、頬の辺りをポリポリと掻く仕草を見せた。

 

 

「不快に思わせてしまったのなら申し訳ない。この眼は生まれつきなんだ。別に睨んでいたつもりは無かったんだが…」

 

「…それで普通なのか?」

 

「これで普通なんだ。悪いな」

 

 

 その眼光で睨んでいないなら本気で睨んだ時は一体どれだけの迫力になるのだろうと言う好奇心が湧き上がる、と同時に最近小耳に挟んだある人物に関わる話を思い出した。

 

 

「『凶眼の射手』か? 『九色』の…」

 

「俺のこと知ってるのか?」

 

「〝相手を射殺すほどの眼光を持つ男〟…お前を見ればその噂も納得だ」

 

 

 その男──『九色』の一色である『黒』を下賜された〝夜の番人〟〝凶眼の射手〟こと兵士長パベル・バラハはバツが悪そうに後頭部を掻いた。照れ隠しか、それとも不快に思っているのか。

 

 先程の言動から恐らく後者な気がする。

 

 だがそれよりも問題なのは、聖王国九色の1人が自分なんかに何の用事があって訪ねて来たのか。国の兵隊からも手を焼かれている俺のことだ。恐らく自分を捕縛するか殺せと国から命令を受けたのだろう。

 

 もしそうならやる事は決まっている。

 返り討ちにするだけだ。

 

 

「その九色の1人が俺に一体何の用だい?」

 

「あぁ。先日獣身四足獣(ゾーオスティア)の襲撃があったという事件は知っているな?」

 

 

 その話はつい最近だが聞いた覚えがある。獣身四足獣(ゾーオスティア)の群れが要塞線へ攻めて来たと言う話だ。撃退には成功したもののこちら側も手痛い被害を受けたらしいが、それと自分に一体何の関係があると言うのだろう。

 

 

「実はその時の戦闘で九色の1人が引退を余儀無くするほどの負傷をしてしまってな。席…いや、色が1つ空いている状態なんだ」

 

「ふーん、そいつぁご愁傷様」

 

「最近、亜人部族どもは勢いを増しつつある。中でも『十傑』は歴代最強と謳われるほどだ。国は今、ここで奴等に弱味を見せるわけにはいかない状況にある。ましてや『九色』の1人が欠けてしまうような事態が亜人どもに悟られたら、奴等の攻撃はより激しさを増していく事は明白だ」

 

「そりゃあ大変なこって。んで、それと俺に何の関係があるんだ?」

 

 

 パベルは一呼吸置いた後、彼から一切目線を外す事なく見据えながら口を開いた。

 

 

「お前を勧誘しに来た。空いた『色』を埋める為に」

 

 

 まさかの勧誘に一瞬目を見開くが、直ぐに興味も失せた男は鼻で笑った。

 

 

「嫌だね。なんで態々国とか軍とかそんな規律に縛られる様な所に籍を置かなきゃならねぇんだ。そもそもなんで俺みたいなゴロツキなんだよ。もっと体裁の良い優秀な奴はいるだろが」

 

「確かに優秀な若者はいるが未熟者ばかりだ。現役の者は亜人どもとの戦闘で死ぬか負傷するかでそれも難しい」

 

 

 なるほど、と男は納得した。ちゃんとした役職を持つ優秀な人材が不足しているのだ。確かに好き好んでこんなゴロツキを勧誘しようとはしないだろう。誰だって揉め事を起こすような輩を抱えたくはない。

 

 国は今そのくらい追い込まれていると言う事だろう。

 

 

「勝手ながらお前の事を色々と調べさせて貰った。確かに粗暴性は問題点だが単純な戦力と言う意味では文句無し、と俺は思ってる」

 

「…テメェらいつの間に」

 

「それに無理に軍人になる必要は無い。流石にゴロツキのままと言うわけにはいかないが、傭兵に近い役職はどうだ?」

 

「おいおい勝手に話を──」

 

「要塞線ではいつどこから亜人どもが攻めてくるかも分からない。先日の襲撃のように『十傑』の一体が現れるかもしれんぞ?」

 

 

 その言葉を受けて男の言葉が止まった。

 

 もっと強い奴と戦える──

 

 その可能性に強く惹かれたのだ。

 

 

「お前が暴力沙汰を引き起こす動機の中に〝強い奴と戦いたい〟というのがあるのも知っている。今の暮らしを続けても相手なんてたかが知れてるだろ? 『九色』だって皆が高い戦闘能力を持ってるわけでは無いし、大体がゴロツキを相手にする程暇じゃない」

 

 

 男の表情が不快に歪む。自分が軽んじられている節が言葉の中にあったからだ。しかし、同時に自分が何を望んでいるのかも的確に当てている。国に縛られるのは癪だがパベルの提案は悪くない。だが、ここで「分かった」と素直に応えるのも彼の心が許さない。

 

 

「どうだ? 待遇は悪く無いぞ」

 

「……」

 

 

 そもそも腕力だけで生きてきた彼にとって権力者や有名人に顎で使われたり、命令されるのが心底嫌なのだ。だからこそ農民なり商人なりと一般的な平民らしい暮らしではなく、敢えて道を外したゴロツキになった。

 

 自分に命令出来るのは、強い奴だけ─

 

 

「…気に入らねぇな」

 

「気に入らない、とは?」

 

「テメェの上から目線の態度が気に入らねぇ」

 

 

 男はそう吐き捨てると右拳を振り上げるやいきなりパベルに向けて振り下ろした。その巨体からは想像出来ない素早い奇襲攻撃だったが、パベルはその攻撃を背後へ跳び退いて躱した。

 

 

「ほう?」

 

 

 空を切る音を残し空振りに終わった右拳だったが、男は面白くて堪らない表情を浮かべていた。その顔は獰猛な獣同然でパベルに狙いを定めている。

 

 追撃がない事を確認したパベルは話しかけた。

 

 

「交渉決裂か?」

 

「いや、そうでもねぇぞ。寧ろ悪い提案じゃねぇと思ってる。これは俺の性分の問題だ」

 

「…?」

 

 

 男は握った拳を反対の手で包み骨を鳴らす。

 明らかにやる気満々だがこれで交渉決裂では無いと言うのはどう言うワケなのか。

 

 

「俺に言う事聞かせたかったら俺と一対一(タイマン)張りやがれ! テメェが勝ったら喜んでアンタの勧誘に乗ってやるよ‼︎」

 

 

 なるほど、とパベルは思った。

 厄介だが非常に分かり易い。

 

 パベルは腰の重心を少し下げて身構える。

 

 

「やれやれ、近接戦闘はあんまり得意じゃないんだがなぁ」

 

「だったらお前にお使いを頼んだ上の連中を恨むんだな」

 

「いや、それは無い」

 

「??…まぁいい。それじゃあ…行くぞォ!!!」

 

 

 九色の1人と喧嘩自慢のゴロツキが人通りの無い裏路地で衝突した。

 

 

 

「はぁー…! はぁー…! ガハッ‼︎」

 

 

 パベルとの一対一(タイマン)は男の敗北で決着が付いた。男は大の字で地面に背中を付けて息を荒げている。顔中傷だらけアザだらけで鼻からは止めどなく鼻血が流れている。無論、顔だけで無く、頑強と自負していた自身の体全体が傷だらけで悲鳴を上げている。

 

 一方、パベル自身も流石に無傷では無かったが、地面に背中を付けて倒れている彼を息一つ乱れる事なく涼しげに見下ろしていた。

 

 

(つ、強ぇ…‼︎ 対峙した時から察してたがまさかここまでとは……! コイツ…ほ、()()だ!)

 

 

 今まで敗北どころか苦戦すらしたことの無い彼にとってパベルの強さは本物でその衝撃は凄まじかった。

 

 正直、『九色』なんて大層な役を貰ってる奴らの実力を軽んじていた。「戦えば俺の方が強い」と言う慢心に似た自信もあったのは事実だ。

 

 初めての敗北…だが、不思議と悔しさは無かった。彼の強さ、そして自分よりも強い相手がいる事にただただ感動していた。そして、決して届かない強さでは無いということも理解出来た。

 

 

「さっきの話なんだが、お前を勧誘する事に関して上の連中や他の九色達の大半は反対だったんだ。完全に俺の一存なんだ。他が反対していた理由はまぁ…お前の素性を考えて察してくれ」

 

「……!?」

 

 

 パベルが彼を見下ろしながら話を始めた。

 

 

「けど俺は体裁云々は関係無く、実力のある奴は素直に評価して認めるべきなんだと思ってる。実際、『十傑』の1体である『魔爪』が現れて九色の1人…『黄』に瀕死の致命傷を与えたのを知ってそう感じた。奴らは日に日に力を増し、蓄えている。今の『九色』のままではいつかは奴等に決定的な敗北を喫するとも思ってる」

 

「……」

 

 

 男は既に上体を起こしていたが黙ってパベルの話に耳を傾けていた。

 

 

「俺はお前の実力を認める。それにお前みたいな気合いの入った奴が仲間だと心強いしな」

 

「フンッ、変な慰めしやがって…」

 

「別にそんなつもりはないんだが?」

 

「あーあー分かってるよ、()()()。約束は約束だ。アンタの勧誘、受けさせて貰うぜ」

 

「その答えを聞けて嬉しいよ、宜しく頼む」

 

 

 男はニヤリと笑い漸く立ち上がる。

 パベルは右手を差し出し、男も右手を差し出して硬い握手をする。

 

 

「兵士長のパベル・バラハだ。分かってるだろうが、九色の一色である『黒』を下賜されている」

 

「オルランド・カンパーノだ。知っての通り喧嘩自慢のゴロツキだ」

 

 

 こうして男──オルランド・カンパーノはパベルの勧誘を受け、空席であった九色の一色である『黄』を下賜される事となった。その後、彼を慕う他のゴロツキ達も次々とオルランド直属の部下として加入する事となり、『愚連隊』ならぬ『愚連班』となり要塞線に配属されている部隊の中で最も好戦的かつ凶暴な部隊としてその名を轟かせる事となる。

 

 

 

 オルランドは昔初めて自分を負かしたパベルとの出逢いを思い出しながら、目の前にいる漆黒の全身鎧を纏った男─モモンと対峙していた。自身よりも約頭1つ分ほど小さいモモンを見据えて獰猛な笑みを浮かべるが、決して侮っているつもりは無い。

 

 彼は強い…それは間違いない。

 

 まだ見ぬ強者との出逢い。

 

 それはかつてパベルと出逢ったあの日の出来事を彷彿とさせ、ジワジワと感動を湧き上がらせていた。

 

 

「よぉ英雄さん。マジで強ぇんだな」

 

「……またかよ」

 

 

 一方でモモンは相手に聞こえない程度の声量で溜まりに溜まった苛立ちを含めた愚痴をボソリと呟いた。

 

 その瞬間、アンデッド種の種族特性の1つである精神安定化が漸く発動される。一瞬で苛立ちが鎮まるモモンであったが、それでもやはり燻るような腹立たしさは残っていた。

 

 不完全燃焼…余計にストレスが溜まる。

 

 

(なんでこうやる事なす事全てが裏目に出るんだ? そんな縛りプレイ専用のデバフアイテムを装備していた記憶は無いんだが…)

 

 

 念のため、自身の装備類や所持品を再確認する必要があると思っていると、目の前に現れた粗暴そうな輩──カンパーノが話しかけて来た。

 

 

「なぁ、次は俺とも一対一(タイマン)張ってくれねぇか?」

 

 

 突拍子もないカンパーノの発言にモモンは内心呆れ果てながらも、さりげなく大男が身に付けている装備類へ目を向けた。

 

 牛皮を何枚も重ねた重装革鎧、小型の円形盾(バックラー)、左右の腰に片手剣が4本ずつ、両大腿部には短剣が数本、後ろ腰に手斧、背中には先程のバックラーと共に長剣が、あとは武器と言うよりも伐採用と思われる鉈が1本。

 

 彼の巨躯から見ても中々の重武装だ。それにどれも何か突出して優れた効果が付与されているようにも見えない。

 

 ごく普通の一般的な武器だ。

 

 それが余計に違和感を覚える。

 

 

(なんでこんなに武器を持つ必要があるんだ? 見た感じ脳筋っぽいけど、武器を沢山持っていれば良いみたいな考え方の人にも見えないし)

 

 

 モモンはその意味が分からなかった。もしかしたら何かしらの浪漫か拘りを大事にするタイプの人間と言う可能性もある。

 

 

「生憎、貴方と戦う理由がありません」

 

 

 とにかく、相手はやる気に満ち溢れている事は確かだ。モモンとしてもこれ以上関わらない方がいいと判断して、出来るだけ彼と目線を合わせないよう左側へ避けて通り抜けようとした。

 

 カンパーノの右横を通ろうとした瞬間、ふいに自身の右肩に彼の大きな手が置かれる。

 

 

「おいおい、ツレねぇ事言うなよ。ちょっとだけ手合わせがしたいだけだって」

 

 

 モモンの右肩に置かれた彼の右手に力が入る。力尽くでもモモンを逃がさないのが右肩から感じる力みで感じ取れる。

 

 だが、何よりも驚いたのはモモンを押さえ付けている筈のカンパーノ自身だった。

 

 

(ビクともしねぇ…!?)

 

 

 カンパーノは自身の横を通り過ぎようとするモモンを押し返すつもりだった。しかし、モモンはその場から一歩たりとも動いていない。

 

 

(ぐッ……何て体幹してんだコイツ!?)

 

 

 カンパーノが息むほど自身の右腕が震えるが、やはり微塵も動く気配が無い。更に言えばモモンはその場から止まっているに過ぎない状態で、肩に手を置いている(・・・・・・・)から動いて無いだけで進もうとすらしていないのだ。

 

 彼の脳内にイメージとして浮かび上がったのは、地底深くまで根を張った巨木だった。先程カンパーノは「体幹が尋常じゃない」と一瞬、過ぎったがそんな簡単なモノではないと分かる。

 

 体幹?…ではない

 重量(おも)い?…いやそれも違う

 〈武技〉?…いや使用する気配は無かったはず

 装備の性能?…それかマジックアイテム?

 

 

 色々な考えが浮かぶが直感的にどれも違う気がしてならない。もっと根本的な何かな気がする。

 

 唯一わかる事は、(モモン)はカンパーノが今まで出逢ってきたどの強者とも違うタイプである事だ。

 

 

(おいおい、本当に何者だよコイツ…)

 

 

 カンパーノが困惑していると自身の右腕を不意にモモンが左手で掴んできた。

 

 

「はぁ…もういい加減にしてくれませんか?」

 

「ッ‼︎」

 

 

 その瞬間、モモンの左手に掴まれた右腕から、ミシミシッと軋む音が聞こえて来ると同時に万力で締められたような強烈な痛みが走り思わず顔を歪める。

 

 

「ぐおッ…!?」

 

 

 突如、カンパーノは全身に浮遊感を覚えた。一瞬何事かと思ったが、それがモモンによって左手一本で軽々と持ち上げられていた事に気付くのにそう時間は掛からなかった。

 

 周りの野次馬(ギャラリー)達は、明らかに一回り近くも大きいカンパーノを片手で軽々と持ち上げたモモンに驚愕の声を上げた。

 

 

「はぁ!?」

「おいおい、嘘だろ‼︎?」

「ど、どんな腕力してんだよ、モモンさんは…」

 

 

 モモンが一切の重さを感じる事もなく持ち上げた事実に困惑するカンパーノは、何とか我に返り地面へ足を付けようと抵抗しようとした。

 その瞬間、何とモモンはそのまま彼を自身の背後へ軽々と投げてしまってのだ。

 

 まるで小枝を道端に放り捨てるかのよう簡単に、である。

 

 

「〜〜〜ッ‼︎?」

 

 

 投げられたカンパーノは困惑しながらも何とか投げられた宙の最中、無理矢理体を捻って体勢を修正して背中などを地面にぶつけるような惨めな落ち方はせず何とか上手く着地した。その身のこなしと反射神経に周りは「おぉ〜〜‼︎」と思わず感嘆の声を上げる。

 

 ドスンッと重量のある着地をしたカンパーノは全身に冷汗を流しながら、息を荒げモモンを見据える。

 

 

(右腕は…まだ動く。しかし、なんつぅバケモンだよコイツは)

 

 

 モモンの万力によって掴まれた右腕が無事である事を確認しながらカンパーノは思った。持ち上げられる瞬間、全く気付かず、そして抵抗する暇も無く簡単にしてやられたのだ。

 

 今まで出逢ったことのないタイプの強者が目の前に現れたという事実に、カンパーノは歓喜せずにはいられなかった。かつての九色の一人であるパベルと戦った時に匹敵…いや、それ以上と言っても良いくらいの高揚感は〝彼に武器を抜かせる〟と言う行動に一切の迷いを与えなかった。

 

 

「お前…最高じゃねぇか‼︎」

 

 

 カンパーノは両腰に二対ずつ備えていた片手剣を両手に一本ずつ携えた。

 

 

「さぁお前も剣を取れ‼︎」

 

 

 彼はモモンに対して剣を抜くよう声を荒げた。周囲からはどよめきと興奮の声が聞こえてくる中、肝心のモモンは肩を竦め溜息を吐く。

 

 

「『九色』と言うこの国の顔役と言っても過言ではない役職に就いている人が、そう簡単に剣を抜いて誰かと闘いを申し込む、と言うのはあまりよろしくないのでは?」

 

「馬鹿言うなよ、先に仕掛けたのはお前だぜ。俺は呼び止めただけだが、お前は俺を投げ飛ばしたんだ。事態を鎮めるのは当然の行動だ」

 

「…投げたのは避難措置で他意はありません」

 

「へへ、悪いな。話は後で聴かせてもらうぜ」

 

 

 カンパーノは両手に持った片手剣を構え、深く腰を下ろす。完全にやる気満々な様子に、モモンは背中の大剣2本をゆっくりと引き抜いた。

 

 

「お、おいおい、カンパーノ班長閣下とモモンさんの一騎討ちだぞ」

「こ、これは喧嘩なのか? どうなんだ?」

「いやいや、喧嘩じゃ…無いよな?」

「断言しても良い。この決闘は一生に二度とお目にかかれねぇ」

「ど、どっちが勝つんだ?」

「モモンさんじゃねぇか」

「いや、カンパーノの強さも本物だ」

 

 

 外野がこれから目の前で起きる出来事の結果を予測した。気が付けば外野の声は聞こえなくなり、固唾を呑んでその行く末と結果を見守る。

 

 緊張の静寂で張り詰めた場の空気。誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえると同時に事態は動いた。

 

 

「いくぞォォォ‼︎」

 

 

 先に仕掛けたのはカンパーノだった。

 

 踏み蹴った勢いで抉れた大地を背後に、2本の片手剣を上段で構えて一気にモモンとの距離を詰める。

 

 

「〈剛撃〉!!!」

 

 

 脳天目掛けて躊躇無く振り下ろされた2本の片手剣をモモンは同じく2本の大剣をもって真正面から受け止めた。

 

 

「うぉぉぉぉ!?」

「この2人ヤベェぞ‼︎」

「ち、近づけねぇって‼︎」

 

 

 〈武技〉と渾身の力を込めて振るわれたカンパーノの一撃、それを防ぎ受け止めたモモンの大剣。甲高い金属音が訓練場全体に響き渡り、その衝撃波が周りの野次馬まで伝わる。

 

 

「ハッ、俺の一撃を受け止め切れる奴ぁなかなかいねぇぞ‼︎ やっぱりお前はスゲェよ‼︎」

 

「それはどうも。それで? 満足しましたか?」

 

「馬鹿言いなさんな‼︎」

 

 

 続けざまにカンパーノは両手の片手剣を巧みに使った攻撃を連続で繰り出した。対してモモンも2本の大剣をまるで小枝を振り回すかの如く軽々と振り回し、それら全ての攻撃を防ぎ続ける。けたたましく鳴り響く金属音は2人の間に激しい火花を散らした。

 

 彼の戦法はその外見通り、自慢の巨躯と力を活かすことを得意とする。並大抵の相手であれば防御に徹していたとしても最初の一撃で終わっていただろう。

 

 無論、ただの力自慢では『九色』の一角を担える筈も無い。

 

 

「ハァ‼︎」

 

「おっと‼︎」

 

 

 薙ぎ払われたモモンの大剣をカンパーノは左の片手剣を巧みに扱い受け流した。攻撃を受け流された事で僅かに姿勢が崩れると、カンパーノはその隙を逃さずもう一方の片手剣で刺突攻撃を繰り出した。剣先が狙うのは全身鎧の弱点とも言える関節部位、モモンの肩と腕の間だ。

 

 

「うおッと…!」

 

「チィ、外したか!」

 

 

 だがモモンは寸前の所で何とか身を捩って躱し、僅かに肩を掠める程度で済ませた。渾身の一撃が決まらなかった事に舌打ちをするカンパーノだが、その胸中は躍り昂っており苛立ちは微塵も湧いてこない。

 

 

「ぜやぁあ‼︎」

 

「〈重要塞〉‼︎ ぬぅおおおッ!?」

 

 

 仕返しとばかりにモモンは2本の大剣を使った袈裟懸けの一撃をカンパーノへお見舞いする。彼は避けずに2本の片手剣で防御の体勢を作り、更に武技を加えて身構える。だが、モモンの一撃は持ち前の強靭な体幹と防御用の武器を以ってしても受け止めきる事が出来なかった。

 

 咄嗟にカンパーノは背後へ飛び退く。何とか衝撃を和らげる事に成功するが、モモンの振るった剣圧はカンパーノの身体の奥深くまで響かせるほどの一撃だった。

 

 地面へ着地したカンパーノだがその影響もあって体勢を崩してしまう。そこへ間髪入れずに今度はモモンが距離を詰めて来た。

 

 右手に持つ大剣を引きながら迫るモモンにカンパーノは冷汗を流すもその顔はやはり笑っていた。

 

 繰り出される強烈な突きの一閃。

 カンパーノは再び〈武技〉を発動させて躱す。

 

 

「か、〈回避〉‼︎」

 

 

 それなりの熟達者が扱う刺突剣(レイピア)、その刺突攻撃は甲高い空を切る音を奏でる。それが大剣級の武器となればまるで顔のすぐ真横で突風が吹いたかの様に思う程の暴音が耳と肌を通して伝わって来る。

 

 追撃にモモンが左手に持つ大剣を振う直前、カンパーノは彼の腹部目掛けて蹴りを放った。

 

 

「オラァァ‼︎ うぉっと!?」

 

 

 普通であれば蹴りを受けた方が背後へ押し退かれるのだが、どう言うわけか蹴った側のカンパーノが体勢を崩し背後へ後退してしまった。

 

 

「〈即応反射〉!」

 

 

 直ぐに武技を発動させて崩れた体勢を攻撃する前の姿勢に戻した。

 

 幸いと言って良いのかモモンの追撃は来ない。

 

 再び両者睨み合いの状態へ戻る。

 

 周囲からは止めていたのであろう息を一気に吐き出す声が一斉に聞こえる。

 

 

(へへへ、ヤベェなマジで強ぇぞコイツ!)

 

 

 久しく出逢えていなかった、己の全てをぶつける事が出来る強者。

 

 これほどの手応えはかつて『十傑』の1人、山羊人(バフォルク)の王〝豪王〟バザーとの死闘以来だろうか。

 あの時は終始防戦一方で増援が来るまでの時間稼ぎぐらいしか出来なかった。周りは「あの〝豪王〟相手に生き残った戦士」と讃えるが、カンパーノ本人からしてみれば敗北したも同然の戦いとも言える。

 

 バザーから「早急に討ち倒しておくべき存在」として認知されなかった…強者と見做してくれなかったのが無念でしかなかったのだ。

 

 今の自分は当時よりも強くなっていると自負しているが、それでもバザーに勝てるかと言われれば「勝てる!」と断言は出来ない。

 

 あの時のバザーは本気では無かっただろう。

 

 もっともっと強さに貪欲にならねばならない。

 

 それにはもっと強者と戦い、そして超えねばならない。

 

 

(その為にも俺は…)

 

 

 カンパーノは片方の片手剣の剣先をモモンへ向けながら言い放つ。

 

 

「お前をぶっ倒すぞ、モモン!!!」

 

「……そうですか」

 

 

 モモンの反応は素っ気無く、特に武器を構えるでもなく2本の大剣の剣先を地面へ向けて下げたまま佇んでいるだけだった。

 

 隙だらけで『構え』の『か』の字もない。

 

 

(オレを舐めてる? いや違う…これは知らない(・・・・)、のか?)

 

 

 カンパーノが彼と戦っている最中、違和感を抱いていた。漆黒の全身鎧を纏い、2本の大剣を軽々と振るうその姿は正しく豪傑なる戦士そのものであるが、実際に対峙してみると彼からは戦士然とした技量が全く感じられない。正直、戦士としてド素人と言っていい。

 

 

(確かにあの身体能力は脅威的だが、戦士としては青二才以下……単純に自分の膂力を利用して大剣を振り回してるに過ぎない戦い方だった)

 

 

 だが聞いたところによると彼は『魔法戦士』らしい。魔法は彼の及ぶ領域では無いが、戦士という点で考えるならば彼の職業はかなり異質だ。

 

 戦士としての技量が無いのに『魔法戦士(・・)』を自称している。だったら最初から『魔法詠唱者』と名乗ればいい。

 

 何故態々専門外である『戦士』の真似事などしているのだろう。

 

 

(まぁ、俺にとっちゃどうでも良い話だがな。強ぇ事に変わりはねぇわけだし)

 

 

 「ただ…」と一言呟きながらカンパーノは両手に持っていた片手剣を元の鞘へ戻した。予想外の行動に首を傾げるモモンを他所に、彼は両手を背中に携えていた長剣へ伸ばし、その柄を握ると一気に引き抜いた。

 

 

「それが貴方の本命ですか?」

 

「別にそういうわけじゃねぇが、まぁ使い慣れてるって意味じゃそうかもな。それに俺にとっちゃ身に付けてる武器全部が()()()()()()()()んだぜ」

 

「…?」

 

「分かんねぇか? なら先ずは()()()()()()()‼︎」

 

 

 カンパーノがそう吐き捨てると、複数の武技を同時に発動させる。

 

 

「〈腕力向上〉‼︎ 〈肉体強化〉‼︎ ヌゥオオオオオオオ!!!」

 

 

 武技を掛け終えたカンパーノは、長剣を頭上へ掲げて強化された身体能力を活かしモモンとの距離を詰めた。対するモモンは避けようとはせずに2本の大剣を持ち上げ受け止める姿勢を見せた。

 

 それを見てカンパーノはニヤリと笑う。

 

 これこそ彼が狙っていた状況だからだ。

 

 

(そうだ! 受け止めてみろ! その瞬間、お前の自慢の大剣が砕け散る‼︎)

 

 

 実はカンパーノは生まれながらの異能(タ レ ン ト)持ちなのである。それは〝使用している武器を破壊する代わりにその数倍の一撃を生む〟という文字通り諸刃の剣である。だがその能力は極めて強力で、カンパーノが持つ膂力と武技による強化、そこに彼のタレントを加わるとその破壊力は、例え魔力を付与された頑強な鎧や盾だろうが、ましてや武器であろうが容易く粉砕する事が出来る。

 

 カンパーノの狙いはモモンの2本の大剣を破壊することであった。

 

 モモンは間違いなく戦士職では無い。

 つまり彼の本職は別にある。

 

 何故彼が戦士職の装備を身に付けて活動しているのかは不明だが、どんな事情があるにせよ仮に今の彼に勝てたとしてもそれはカンパーノにとって『勝利』とは言えない。

 

 その武器を破壊して、無理やりにでもモモンの得意とするやり方へ持って行く。

 

 それで倒す事が出来ての『勝利』なのだ。

 

 

「ハァァァァァ!!〈剛撃〉!!!」

 

 

 振り下ろされるタレントが付与された渾身の一撃。モモンは2本の大剣を交差させて受け止める姿勢を取り…そしてぶつかった。

 

 

「「おわぁぁぁ!?」」

 

 

 凄まじい衝撃波と轟音が鼓膜を破るかの勢いで響き渡る。周りは反射的に耳目を閉じてしまった。

 

 

「す、すげぇ…」

「どうなった!?」

「い、生きてんのかよ? モモンさん」

 

 

 2人の周りには大きな土煙が舞い上がっていて、その様子を伺う事が出来ない。皆が2人…特にモモンの身を案じながらもその行方を見守っていると、少しずつ土煙が晴れてきた。

 

 徐々に見える2人のシルエット。

 

 どうやら両者共に持ち堪え立ち続けている。

 

 そして、完全に土煙が晴れた先にはカンパーノが振るった長剣を2本の大剣を以って受け止めた姿勢を保っているモモンの姿があった。

 

 そして、カンパーノの長剣は砕けた。

 

 

「今のは流石にビックリした。やはり〈武技〉は馬鹿には出来ないな」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!???」

 

 

 信じ難い目の前の光景にカンパーノは顔から滝のような冷汗を流しながら思わず固まってしまった。今の今まで自分のタレントを上乗せした渾身の一撃を武器・防具を破壊されずに受け止めきれた者はいない。

 

 いつか〝豪王〟を正面から討ち倒す為に編み出した一撃なのだ。そう易々と受け止めきれて良いはずが無い。

 

 

「あ、アンタ……マジで何者だよ」

 

 

 混乱、困惑、衝撃、無念の想いを抱きながら漸く喉の奥から出した言葉を、モモンは相変わらずの余裕のある声で答えた。

 

 

「とある騎士に憧れた、ロールプレイヤーだ」

 

 

 次の瞬間、モモンは大剣を構え直した。カンパーノは慌てて再び2本の片手剣を引き抜くが、左手に持つ大剣を掬い上げるように振るい、彼の片手剣を宙へ弾き飛ばした。

 

 彼の胴体はガラ空きだ。

 

 

「色々言いたい事はあったんだが…良い体験が出来た。感謝する」

 

「へっ…そうかよ」

 

 

 カンパーノは笑った。

 乾いた微笑だが、不思議とこの結果を受け入れていた。モモンの右手に握られていた大剣がカンパーノの胴体部へ強烈な一撃を加える。

 

 

「がはッ!!!」

 

 

 刃部では無く平面部による打撃攻撃だが、カンパーノに多大なダメージを負わせるには十分過ぎる程だった。勢いのまま壁に背中から激突したカンパーノは、そのまま力無く地面へ倒れ込む。死んではいないが、起き上がる気配は感じられない。

 

 周りから漏れ聞こえて来るのは歓声ではなく、感嘆の声だった。

 

 モモンの強さを知っていた。

 カンパーノの強さも知っていた。

 

 そして決着が付いた。

 その結果にただただ呆然としていた。

 

 そこへ野次馬の中から1人の男性が慌てて駆け出てきた。その男──聖騎士団副団長グスターボは、倒れ伏すカンパーノの下へ駆け寄ると彼に回復魔法を掛けた。

 

 

「〈軽 傷 治 癒(ライト・ヒーリング)〉」

 

 

 魔法を掛け終えたグスターボは群衆へ顔を向けるとその中から数名の聖騎士たちが現れた。聖騎士たちはカンパーノの下へ駆け寄り、協力して彼を運び始める。

 

 その姿を見届けたグスターボは、今度はモモンの下へ駆け寄る。

 

 

「お初に目に掛かります。私は聖騎士団副団長のグスターボ・モンタニェスと申します。事の事情は見……聞き及んでおります。モモン殿、此度はカンパーノ班長のご無礼、誠に申し訳ありませんでした」

 

 

 グスターボはモモンに対し頭を下げた。

 周りのどよめきなど蚊ほども気にせず、ただひたすらに自らの非を詫びたのだ。

 

 

「どうかお気になさらないで下さい。確かに驚きましたが、九色の1人と戦えた事はとても貴重な体験でした」

 

「…あのカンパーノを倒しただけでなく、その寛大な度量、誠に感謝申し上げます。そう仰って頂ける事は此方としてもありがたい」

 

「ですが、彼は大丈夫でしょうか? 事情が事情ですから私も付いていった方が──」

 

「御安心ください。彼は気を失っているだけで、治癒魔法も掛けたのですぐに目を覚ますでしょう。それに彼の粗暴は…恥ずかしながら昔からでして、今回の騒動の発端が彼なのも既に確認済みです」

 

「そうですか…」

 

「それから、これはほんのお詫びの印に…」

 

 

 グスターボは懐から片手ほどの小袋を取り出した。取り出す際のチャリチャリした音から中身は金銭である事をモモンは瞬時に察した。しかし、モモンはそれを受け取らなかった。

 

 

「いえ、それを受け取る事はできません。今回、私は九色の1人と手合わせ(・・・・)いただきました。既に満足に値するモノを得ています」

 

「ッ‼︎ …分かりました、ではそう言うことにさせて頂きます」

 

「はい、ありがとうございます。では私はこれで」

 

 

 モモンはグスターボに軽く頭を下げた後、そのまま訓練場の出入り口へ向かった。

 

 

(……「手合わせ」か。飽くまで喧嘩騒動では無く、九色からの手ほどきを受けた、と言う体にすれば九色の評判に傷が付かなくなる……まさかここまで気遣われるとは)

 

 

 かの人物は一体どれだけ寛大な度量を有しているのだろう。もし彼がこの先も聖王国に居てくれるのであればこれほど心強い事はない。

 欲を言えば我らが団長の良いストッパー役になってくれれば幸いだが…。

 

 

「ハハハ、希望的観測か」

 

 

 諦めの苦笑いを浮かべる。

 それよりもモモンがカンパーノを凌駕する程の実力者であると言う事実が判明したのは大きな成果だ。下手をしたら団長にも匹敵する力を有している可能性だって十分ある。

 

 

(英雄に匹敵する実力と器量は、確かに良くも悪くも無視出来るものではない。この報告は団長よりも妹でもあるケラルト殿に伝えるのが得策だろう)

 

 

 彼女であればきっと何かしら良い案を出してくれるに違いない。姉の団長とは違い非常に明晰な頭脳を持っているのだから。そして、彼女は聖王女陛下の恋愛事情を知る数少ない要人だ。

 

 

(…ん? ケラルト殿に恋愛経験など果たしてあっただろうか?)

 

 

 不敬とは思いつつ不安を感じてしまう。

 グスターボの胃痛が安らぐ日はまだ少し先かもしれない。

 

 

 

 

「はぁ…なんでこう変な方向にばかり動くんだ?」

 

 

 冒険者組合を後にしたモモン──鈴木悟はカリンシャ郊外にある短い草原(くさはら)の生えた小丘で大の字に横になっていた。清々しいくらいに雲一つない空は今の悟の心をジワジワと浄化してくれる。

 

 組合を出る際、悟は受付嬢に訓練場を荒らしてしまった弁償を一方的に払った後、周りの声を出来るだけ無視してこの憩いの場所まで移動していた。

 

 此処は悟以外、通る人はまず居ない。

 彼のプライベートゾーンとも言えるだろう。

 

 

(やっぱり飛び昇級は不味かったんじゃないか…実際、絡まれたし)

 

 

 彼はつい先ほど組合の訓練場で起きた出来事について考えていた。

 例のミスリル級冒険者チームは賄賂の受け取りなど冒険者組合規定から逸脱する様な行為をしている可能性が濃厚である為、同情の余地などありはしない。だが、これが続かないとも限らない。少なくとも今の悟の出世を面白くないと思う輩がいたのは事実だ。

 

 

(リアルでも優秀な新入社員は、妬みの対象になるって聞いた事があるし。俺は受けた覚えないけど……ん? それって俺は優秀じゃ無いって事を裏付けているんじゃ?)

 

 

 自分が優秀だと思った事は無いが、冷静に分析して考えてみるとホロリと悲しい気持ちになるのは何故だろう。だからこそ、嫌味の対象にならなかったのだから結果的に良かったと考える事にした。

 

 

「でも、暫く南部は行こうとは思わないかな。アイツら南部から来たって言ってるし」

 

 

 つまり南部は自分を快く思わない同業者が北部より多い可能性がある。

 

 

「まぁそれは良いとして…うーん、武技か」

 

 

 悟はカンパーノとの闘いを思い出した。

 

 

(『ユグドラシル』には無かった特殊技術(スキル)で、恐らくだけど戦士職専用のこの世界独自のモノだろう。発動時の消費対象はMPっぽくは無いから……もしかしてHPかな?)

 

 

 この世界に来てから初めてマトモに武技を受けた彼にとって新鮮で実りのある貴重な体験だった。確かにカンパーノにイキナリ絡まれた時は「何だこいつ」と苛立ちを露わにしていた悟だったが、この国のトップクラスの実力者と戦えるという点、そして戦士としての経験を積むという点で非常に有意義な時間だったと言える。そして、まだまだ練習が必要なのだと改めて理解できた。

 

 

(レベルカンストの俺はこれ以上レベルアップする事は無いだろう。けど経験は積む事は出来るし、ソレを活かした闘いをする事も出来る筈だ)

 

 

 自分は完全な戦士職を会得する事は無いが経験値では無く、戦士としての経験は積めると踏んでいた。それによって被るメリット、デメリット関係無くである。

 それに彼がこの世界に来て魅力に感じた物の1つが『武技』だ。『ユグドラシル』には無いスキルをあわよくば会得したいと考えていたのだが、悟の考えでは恐らくそれは難しいと思っている。

 

 

(戦士職専用のスキルと仮定するなら魔法職の自分は会得出来ないと考えるのが今のところ普通かな? 攻撃力や防御力の強化…見たところ他にも色々な種類があるっぽいし、実際の効果はともかくとしての汎用性は高そうだな)

 

 

 もし『ユグドラシル』では出来なかった魔法の新規開発がこの世界で出来る様に、武技もオリジナルで編み出す事が出来るなら非常に有用な独自スキルとなり得る。

 

 

(場合によっては初見殺し、なんて武技も出来るだろうな。いや、既に会得してる現地人がいるかも知れない)

 

 

 下手したら圧倒的レベル差を無視した大ダメージの至即死効果のある武技が無いとも限らない。この世界基準の強者と戦う時は慎重にならざるを得ないだろう。

 

 それは『タレント』にも同じ事が言える。

 

 以前『ズーラーノーン』が起こしたアンデッド騒動(ということになっている)で保護した9割全裸青年が〝あらゆるマジックアイテムを装備可能〟というぶっ壊れチート能力を持っていた件もある。

 

 平均レベルが低過ぎるからと言って油断は出来ない。

 

 

「でもなぁ、そう言った知見を深める為にももっと広い世界を見てみたいのに、出れないんじゃなぁ〜」

 

 

 いっそのこと、あの時副団長のグスターボに「ちょっと国外に出たいけど良いですか?」と聞けば良かっただろうか。少し後悔しながらこのモヤモヤした気持ちを忘れさせる為、悟は再び青空へ集中させる。

 

 

「……ん? 鳥?」

 

 

 青空を飛ぶ1匹の鳥が目に入った。他に鳥も飛んでいない為、目立つには目立つが距離が大分あるにも関わらず、その鳥はかなり鮮やかな色をしている事に気付いた。中々に綺麗だ。

 

 悟は何となく〈浮遊する視界(フローティング・アイ)〉でその鳥を近くで見てみた。

 

 

「へ〜真 紅 の 梟(クリムゾン・オウル)か…この世界にも居たんだなぁ」 

 

 

 ユグドラシルではただの雑魚モンスター程度の認識だったがこの世界に来てからは綺麗な翼と色合いを持ったモンスターだと改めて認識出来る。

 

 こういう発見もある。

 

 やっぱりこの世界に来て良かった。




アニメ4期が来ましたよ皆さん
今月末には書籍16巻が出ますよ皆さん
漫画版も新巻出ましたよ皆さん

オバロ熱再燃ですよ皆さん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。