Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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第17話 周りの動向

 冒険者組合の出来事から数日後、昼下がりの街中をパベルは歩いていた。彼はある信じ難い噂を聞いた為、カンパーノの自宅へ向かっていたのだ。

 

 

──オルランド・カンパーノが一対一(タイマン)で負けた──

 

 

 噂を聞いた時、耳を疑った。

 この国では上位に入る強者である彼と戦って勝てる人間などパベルが知る者の中では片手で数える程度しかいない。パベルは本人に直接会って話を聞く必要があると考えた。

 

 暫く歩いた先に彼の家が見えて来た。住宅街でよく見かける借家でパベルも何度か訪れた事はあるが、外から見る限りだと別に変わった様子は見られない。

 

 唯一、気になるのは静かだという点だ。

 

 彼が家の中にいる時は酒を飲んでいるか、大鼾をかいて寝ているか、それとも鍛錬をしているかのどちらかだ。少なくとも彼が家にいて大人しくしているというのは想像もつかない。

 

 

「俺だ。入るぞ」

 

 

 パベルはドアをノックした後、一言声を掛けてから扉を開けた。扉の開けた先にはテーブル席に腰掛けるカンパーノの姿があった。左手に薄汚れた布、右手に鞘から抜かれた片手剣が握られており、どうやら手入れをしている最中のようだ。

 

 

「おっ? ダンナじゃねぇか」

 

「あぁ。急に悪いな」

 

 

 普段と変わらない態度に内心安堵したパベルは適当な木製の椅子に座った。テーブルの上には他にも彼が携えている武器が綺麗に整列されている様子から朝からずっと手入れをしていたのだろう。

 

 カンパーノは手入れをしていた片手剣をテーブルの上へ置き、パベルへ体の向きを変えて正面から話し掛けてきた。

 

 

「もしかしてダンナが此処へ来た理由は、俺が負けた件のことですかい?」

 

 

 いきなり彼からその手の話題を振って来た事に驚いた。それは、彼が負けたという噂の肯定を意味している。

 

 

「…本当だったんだな」

 

「あぁ。オマケに俺は〝手合わせを願い出た〟っつぅ体になっててよぉ。まぁ俺が負けた事実は変わんねぇが……あーあー、もう完敗だぜこん畜生」

 

 

 腕を組んで天井を仰ぐ彼だが不思議と悔しさはパベルの感覚から感じ取れなかった。寧ろ…

 

 

「随分と嬉しそうだな?」

 

「え? うーん…まぁなんつーか、超えられねぇ壁ってヤツにぶつかった感じでよ。でも不思議とバザーと戦った時みてぇな悔しさは全く湧いてこなかったんだよ。どっちかっつーと清々しい気分だな」

 

 

 カンパーノはいつもの獰猛さの影すら見えない、ありふれた満面の笑みを向けて言い放った。しかし、彼の性分を考えるとそれで諦めるような人間とは考え難い。そして、彼ほどの戦士をそこまで圧倒したという相手……『漆黒』のモモンについても一層(・・)興味が湧いた。

 

 

「それほどの実力だったのか? モモン殿は」

 

「あぁ。間違いなくアレに敵うヤツぁこの国には存在しねぇな。『白』のレメディオスだって無理さ、断言出来る」

 

 

 そこまで言わせる程かと思った。かの歴代最強の聖騎士団長さえ凌駕するとなればとんでもない事態になる。良くも悪くも聖王国の力のバランスが大きく崩れかねない。

 

 レメディオスは間違いなく英雄の領域に到達した本物の強者だ。彼女と言う存在1つで国内の保守派は勿論、アベリオン丘陵に住まう亜人部族達に対しても大きな抑止力となり得ている。

 

 少し思案し、再びカンパーノへ顔を向ける。

 

 

「それで…お前はモモン殿を越える為にこれから鍛錬をする気か? 治癒魔法を受けたとは言え、無理は──」

 

「それなんだがよぉダンナ。実は折り入って相談があるんだ」

 

「ん? 何だ改まって」

 

 

 ソワソワした様子の彼だが何をそんなに言い難い事があるのだろうか。普段の彼からしたらかなり珍しい光景である。やがて「あーもういいか‼︎」と踏ん切りがついたのか、自身の頭を乱暴に掻きむしり、パベルへ視線を合わせた。

 

 

「俺、九色を辞めようと思ってんだ」

 

 

 まさかの言葉に絶句する。

 

 だが彼の様子から決して冗談で言っている風にも思えない。色々と聞きたい事はあるが取り敢えずはそれに至った原因を聞く事にした。

 

 

「まさか…モモン殿に負けたからか?」

 

「あぁ。アイツは強者としての1つの『高み』だと思ってる」

 

「そ、そこまで…なのか…モモン殿は?」

 

「〝超えられねぇ壁〟…ヘッ! 上等だよ。だったら命ある限り挑み続けてやる…って思ったんだ。その為には今の環境じゃ無理だって気付いたんだ」

 

「これから…どうするつもりなんだ?」

 

「取り敢えずは武者修行だな。この国を出て、王国へ行って、それから帝国。あとは…まぁとにかく色んな強ぇ連中と戦って経験を積みてぇんだわ。だから今の肩書きは言っちゃ悪いが邪魔でしかねぇんだ」

 

「上が…認めると思うのか?」

 

「適当に書き置きしてコッソリ出るつもりだ。一応、俺の部下達にはその為の段取りを手伝って貰う予定ではある」

 

 

 彼の眼は本気だった。

 恐らく自分が止めた所で彼は聞かないだろう。

 

 

「はぁ〜……俺は何も聞かなかった事にする」

 

「へへ、悪ぃなダンナ」

 

「全くだ。残されたコッチの身にもなってみろ。お前が抜けて『九色』に穴が空くんだぞ?」

 

「グスターボはどうだよ? 実力的にはイサンドロと拮抗してんだろ」

 

「……アイツの胃が保たん」

 

 

 全くどこまでも気楽で勝手な奴だと呆れ果てるが、それこそがカンパーノと言う人間なのだと納得してしまう自分もいる。恐らく上は新たな後任となる『九色』を早急に決める為、躍起になるだろうがそこはもうパベルの及ぶ所では無い。

 

 だが本当の問題は国内ではなく国外…アベリオン丘陵にある。

 

 

「亜人部族…『十傑』だって健在なんだぞ」

 

 

 アベリオン丘陵に住まう亜人部族の中で『英雄級に匹敵する』と謳われている10体の強者達。連中に対抗する為、聖王国としては『九色』は決して欠けることなど許されない必要不可欠な存在なのだ。

 

 カンパーノを勧誘する前の席が一つ空いていたあの頃も上層部は大分焦っていた。

 

 あの時の混乱が再び起きようとしている。

 

 ハッキリ言って無責任だが、それを咎めた所でカンパーノは止まりはしないだろう。

 

 

「……頼みは、お前の愚連班の連中か?」

 

「あぁ。アイツらは俺に似て捻くれてるからな。何処の馬の骨とも知らねぇ奴が上に就いても反抗するのは目に見えてる。だがアンタは別さ、ダンナ。アンタの命令ならアイツらも素直に聞く」

 

「……それだけだぞ。あとはお前の好きにすればいいさ。言って置くが、仮に道中お前が巡回吏とかに見つかっても俺は知らぬ存ぜぬでいくからな」

 

「恩にきる…‼︎」

 

 

 カンパーノは深々と頭を下げて礼を言う。

 立場的にパベルは彼を首根っこを掴んででも止めるべきなのは重々理解しているが、それだけでは割り切れない想いと言うのがあると言うもの。

 

 手の掛かる後輩が自分の夢のために覚悟を決めて旅に出ようと言うのだ。

 

 一人の人間として、そんな彼を後押ししたいと思ってしまった。漠然としているがそれで十分である。

 

 

(やれやれ。あとは残った俺達で上手く回していくしかないか。それから…近いうちに()と会う必要があるな。『九色』の1人として…1人の父親として)

 

 

 パベルの中でも1つの覚悟を決めていた。

 

 それはカンパーノとはまた別の覚悟である。

 

 

 カリンシャの大通り沿いにあるとある喫茶店。そこの2階バルコニーに設置されたテーブル席に2人の男女が座っていた。

 

 

「ねぇ〜? まだ動かないのぉ〜?」

 

「もう少し待って下さい。彼が報告に来るまでの我慢です」

 

 

 男女のテーブルには其々の飲み物が置かれている。男性の方には紅茶が入った白いシンプルなカップ、女性の方には甘い果実水が入ったグラス製のカップが置かれている。男性は特に急ぐでもなく優雅に紅茶を嗜んでいる一方、女性は退屈そうに頬杖を突きながらグラスに添えられているストローを咥え、ズゾゾゾゾ〜ッと音を立てて果実のジュースを飲んでいる。

 

 

「音を立てないで飲んで下さい」

 

「やぁだぁ〜」

 

 

 男──『一人師団』が見兼ねて注意するも、女性──『無限魔力』は知らん顔で聞く耳を持たず更にジュースを吸う音を立てた。『一人師団』は軽く溜息を吐き、諦めたように自身の紅茶へ再び口を付ける。

 

 『無限魔力』は退屈そうにテーブルをトントンと指で弾く。その瞬間、2人の周りの音が消えた。

 

 

「って言うか、いっその事宿にみんな集まってた方が『天上天下』も楽じゃない? アンタの梟ちゃんで居場所は見つけたんならあとはもうラクショーじゃん?」

 

「別行動をする事に意味があるのですよ。万が一、我々を付け狙う輩が出てきた場合は直ぐに他の2人へ〈伝 言(メッセージ)〉を使い連絡し、各々時間と隙をずらして撤退させる。その為の手段です」

 

「うげぇ…何度手間よソレェ」

 

「『石橋は叩いて渡る』…何事も慎重に、ですよ」

 

「はぁ? なにそれ?」

 

「神が残した有り難き御言葉です。貴女も聖典加入時に習いましたよね? 必修科目ですよ」

 

「あーー…た、多分」

 

「……不敬ですよ」

 

「あーーもう、ゴメンって‼︎」

 

 

 そこへ2人とはまた別の声が入って来た。

 

 

「戯れあっている所悪いが報告だ」

 

「ッ! 『天上天下』ですね、ご苦労様です」

 

 

 姿は見せないが間違いなく2人の直ぐ近くに『天上天下』は居る。

 

 

「モモンは近々、例のギガント・バジリスクが出現した公道沿いの調査任務の護衛を請け負うらしい」

 

「そうですか。気付かれていませんね?」

 

「無論だ」

 

「では引き続きお願いします」

 

 

 『一人師団』の言葉を最後に見えざる者の声と気配は消えた。

 

 

「ねぇ、アイツが言ってた例のギガント・バジリスクってアンタが召喚したヤツの事よね?」

 

「えぇ。邪魔な亜人を任務のついでに掃討するために召喚した魔獣です」

 

「嘘ばっかりね。本当はさりげな〜くモモンの力量を測る為にワザと召喚して暴れさせたくせに」

 

「おや? 何の事でしょう?」

 

 

 呆れて顔を背ける彼女に『一人師団』はいつもの優しい笑みを向けている。

 

 

(ギガント・バジリスクを撃退(・・)出来なければ人類の守り手たる『漆黒聖典』の隊員は務まりません。ですが…モモンは討伐(・・)してしまった)

 

 

 『一人師団』はカップの入った紅茶の波紋を見つめながら考える。

 

 

(今度は我が家の汚点のような人物で無ければいいのですが…)

 

 

 しかし、最悪強ければ問題ない。

 人類の守り手は多くても困りはしないのだ。

 

 そんな期待を抱きながら『一人師団』は紅茶に口をつけた。

 

 

 

 

「がはッ‼︎ も、もう…やめて…くれ…」

 

 

 聖王国南部の某所にてミスリル級冒険者チーム『戦牙』のリーダーは血反吐塗れの地面に倒れ伏していた。彼を取り囲む怪しい装束の集団と彼らとは明らかに風貌が違うスキンヘッドの巌のような男が仁王立ちしている。

 

 他のメンバーは既に激しい拷問と暴行によって死んでおり、今はリーダーの視界の片隅でゴミの様に放置されていた。

 

 スキンヘッドの男がリーダーへ声を掛ける。

 

 

「余計なコトをしてくれたな。貴様らのくだらない私怨とプライドのせいで、我々は計画の大幅な修正を余儀なくされたのだぞ」

 

 

 男がしゃがみ、その鍛え込まれた大きな手で倒れているリーダーの顔を鷲掴み上げた。メリメリと音を立てるその握力にリーダーは堪らず悶絶する。

 

 

「南部の保守派貴族を使った貴様らへの投資支援は少なくない。金は勿論、武器や防具、マジックアイテム、人材……拠点としている街の冒険者組合にも俺たちの手駒を潜ませた。そのお陰で今のお前達…ミスリル級冒険者チーム『戦牙』があるのだ。分かるだろう?」

 

 

 リーダーは涙目になりながらも必死に頷き、スキンヘッド男の言葉を肯定する。それでも男の手の力は微塵も緩まない。

 

 

「何故俺たちが貴様らを支援したか分かるか? 南部聖王国の冒険者の中でお前達の評判が一際悪いからだ。〝実力はあるが人間性に問題あり〟『手駒』として最高だ」

 

 

 リーダーは自分達を積極的に支援してくれた南部貴族が彼ら(・・)と繋がっていることは薄々勘付いていた。それでも知らぬ存ぜぬで付き合っていたのは、危険だと理解していても貰える旨味が多過ぎたのが正直な理由だった。

 

 今は後悔している。

 しかし、後悔した所でもう遅いのだ。

 

 

「だから貴様らを支援した。貴様らの名声を高めれば、それを後押しした貴族…即ち我々が南部でより活動し易くする為の基盤作りになれる。お陰で俺たちは王国以外の版図では南部聖王国が最も成功した地域となっている」

 

 

 リーダーの顔を鷲掴む力が徐々に強くなり、リーダーはその手から逃れようと必死もがき始めた。

 

 

「そこへ現れた期待の超新星『漆黒』のモモン。瞬く間にただの新米冒険者から〝救国の英雄〟へ成り上がったヤツを利用しない手は無い。籠絡する為の橋掛けとしてお前達を使ったのが…全ての誤りだった」

 

 

 スキンヘッド男の手の力に更なる力が込められると、骨が軋みを上げる音が聞こえて来る。リーダーの暴れる動きが一層激しさを増した。

 

 

「表も裏も、国を効率良く動かすには〝求心力〟が重要だ。モモンは貴様ら以上に価値の高い存在だったが、もはや意味を成さなくなった。モモンは南部に対して強い警戒心を抱く事だろう。他の手駒となる南部冒険者に対しても同様にな」

 

「ず、ずびば…」

 

「更に南部の冒険者組合にも国からの調査が入る事になった。流石に今の俺たちでは証拠を揉み消したりする程の影響力はこの国にはまだ無い。貴重な手駒は減るが、切り離すしか無くなった。芋蔓式に摘発されるよりはマシだがな」

 

「ゆ〝、ゆ〝る〝…」

 

「このぉ…使えんゴミがァ!!」

 

 

 スキンヘッド男はリーダーを地面へ豪快に叩き付けた。後頭部からその衝撃とパワーをまともに受けたリーダーは、少しだけ痙攣してからやがて動かなくなってしまった。

 

 まだ苛立ちが治まらないスキンヘッド男はゆっくりと立ち上がり、周囲の部下へ命令を告げた。

 

 

「コイツらの死体をいつも通りに始末しておけ。冒険者が依頼中にモンスターに襲われて命を失う事など、よくある話だ」

 

「分かりました」

 

「そのあとは…暫くは闇に潜むぞ。流石に『九色』とやり合えるほど、この国における俺たちの力はまだ強くはない」

 

「ハイ。モモンについては…?」

 

「そのまま情報収集を続けておけ」

 

 

 一通り命令を告げた後、スキンヘッド男はその場から離れて行った。

 

 

「だが…フッフッフッなかなか面白いぞ。『漆黒』のモモン、か。いつの日か必ず相見えようぞ。『六腕』最強である、この〝闘鬼〟ゼロとな!!!」

 




個人的にオバロアニメの4期の作画は素晴らしい
地道に再登場した『占星千里』ちゃん可愛かった


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