◇
這々の体で周囲を警戒しながら丘陵地帯を移動する1人の男がいる。
「全く…俺ともあろう者が、何という失態だ……はぁ…はぁ…こりゃあ、妻にまたどやされてしまうな…は、ははは」
彼は
「はぁ…はぁ……くそッ、もう、力が…あ、あと少しだと、言うのに」
応急処置は施した、ポーションも飲んだが、傷は塞がらず思った以上に血を多く流してしまっていたのだ。視界は霞み、全身に力が入らず、寒気も感じる。もう体力の限界が近い。
ここまで敵の追手を振り切り、跋扈するモンスターたちに見つからぬよう注意深く慎重に移動していたが、深傷で仕方がないとは言え少し時間をかけ過ぎてしまったようだ。
男は近くの枯れ木に背中を寄せた。呼吸を整えようとするが呼吸の乱れは治らず、脈は段々と弱く早くなっていく、意識もボンヤリとしてきた。
「もう…ダメ、か」
自分は此処で死ぬだろう。職業柄まともな死を迎えられるとは微塵も思っていなかったし、常に覚悟を抱いて任務に当たっていた。死そのものは怖くは無い。せめて、奴らが自分の死体を見つけるよりも先に、部下たちが見つけてくれる事を願いたい。
もし、連中が先に見つけてしまったら、奴らの士気高揚は疑うべくも無い。最悪かつての長雨の中の侵攻により国土を蹂躙された悲劇が起きかねない。そうなれば我らの…聖王国の被害は計り知れないものとなる可能性が高い。
(最悪、要塞線が…破られる可能性もある……な、何とか事態を…し、知らせねば…)
思考が上手く回らなくなってきた。いよいよもって最期が近づいて来たようだ。与えられた任務を遂行しきれなかった事は非常に悔やまれるが、それ以上の心残りがある。
「ネイア……」
脳裏に愛娘の姿がよぎり無意識に名前を呟く。
この任務に就く直前、些細な事で娘と喧嘩してしまった。今度の休みに仲直りの意味も込めて、久し振りにキャンプへ連れて行こうと考えていたのだが、それはもう出来そうにない。
その時、夜の帳が死に体の自分を包み込んだ。死に体とは言え、直ぐ目の前まで接近を許してしまった。どうやら失血による衰弱死よりも前に追手に殺られるらしい。
彼はせめて自分にトドメを刺しに来た敵の姿を拝むべく、ゆっくりと目線を上へあげた。そこに漆黒のローブを身に纏う異様な魔法詠唱者の様な何者かが佇んでいた。
「何だ…君は…?」
立場上、神官たちや従軍魔法詠唱者と関わる事も少なく無く、数える程度だが法国の者たちを見かける事もあった。しかし、今自分を見下ろしている漆黒のローブを纏う人物は彼が今まで出逢ってきた者達の中でも別格の雰囲気を持っている。
夜眼に関して強い自信があるのだが、意識が薄れる中では、ローブの下で影となっている素顔までよく見る事は出来なかった。しかし、装備品も含め、明らかに只者では無い。
追手の連中では無さそうだが、かと言って油断ならない存在に違いはない。
「……怪我をしているようですね」
「え?…あ、あぁ」
「治してあげましょう」
謎の魔法詠唱者はそう言うと懐から赤い液体の入った小瓶を取り出し、蓋を外して此方へ手渡してきた。
「飲んで下さい。大丈夫、ただのポーションですから」
「ぽ、ポー、ション…? こ、コレが、か?」
「毒は入ってませんよ。さぁ早く」
明らかに自分の知るポーションと違うが、穏やかな彼の口調と物腰柔らかなその態度から嘘を言っているようにも思えない。ここは自分の勘に賭けてみる事にした男は、恐る恐る小瓶の赤い液体を口に含み飲み干した。
するとどうだろう、死に至らしめていた深傷が瞬く間に治っていくではないか。
「こ、コレはッ⁉︎」
あまりの治癒力と即効性に驚愕した男は思わず立ち上がり全身をくまなく確認した。何度見ても傷が綺麗に治っている。今自分の身体に奇跡が齎されたのだと思った。
目の前の得体の知れない魔法詠唱者によって。だが、先程までの死に体が嘘のように意識も回復したお陰で、漸く、目の前の魔法詠唱者を見ることが出来た。
「どうですか? 痛みはありませんか?」
「だ、大丈夫だ。貴公が何者かは知らないが、危ないところを助けて頂き感謝す──」
漸くローブの奥にある素顔を見た瞬間、心臓が一瞬止まりかけた。その奥にあるのは老齢の御人か、はたまた老婆か、もしくは若輩か…そう思っていた。だが、実際は……
「アンデッド…! え、
咄嗟に腰に備えていた短剣を取り出した。愛用の
(クソッ、なんて事だ! まさかこんな所にエルダーリッチが現れるなど!)
短剣には聖属性が付加されているが、スケルトン系のアンデッドに斬撃系の武器は些か効果が薄い。先の戦闘で道具を殆ど失ってしまった現状、勝てる可能性は決して高くない。
(隙を窺い…逃げるのが先決か)
男は迷わず逃げる選択肢を選んだ。
後は機を逃さず行動に移すのみ…しかし男は目の前のエルダーリッチの行動に目を見開いて驚いた。
エルダーリッチは此方を黙って見つめているかと思いきや、項垂れて視線を落とし顔を横へ逸らしたのだ。とてもこれから自分を殺そうとしているアンデッドが取る行動とは思えない。
もし殺す事が目的ならわざわざ治す必要など無いし、生気のある状態から苦痛を与え殺すのが目的とも考え難い。そもそもあのアンデッドから敵意というものが何一つ感じ取れなかったのだ。
(このエルダーリッチ…何か変だ)
訳がわからない故に油断も出来ない。
一向に攻撃する気配の無い相手に困惑しながら構えていると、エルダーリッチが静かに喋り始めた。
「傷が癒えたみたいで良かったです。別に危害を加えるつもりはありません…っと言っても、こんなアンデッドが言ったところで信用出来ませんよね。私はこのまま去りますので、どうかお気を付けてお帰り下さい」
優しげでどこか寂しげな声で喋り終えたエルダーリッチは、そのまま此方を一瞥する事もなく踵を返し何処かへ去ろうとする。
この時、男は己自身を恥じた。
確かに彼は生者を憎むアンデッドだ。しかし、彼は何処か普通のアンデッドと少し違う。生者である自分を助けてくれたというのに、自分はアンデッドと言う理由だけで敵意を向けてしまった。
(愚か者‼︎…パベルの大愚か者め‼︎)
彼が危険では無いという確証はまだ無いが、敵であると言う証拠も今はない。
このまま彼を行かせてはならない…そんな気がした。
「ま、待ってくれ‼︎ す、すまなかった。そのぉ…失礼とは思うが、貴公がアンデッド故に驚いてしまったのだ。頼む、どうか待ってくれないか。ちゃんと礼を言いたいのだ」
エルダーリッチは歩みを止めて、肩越しに振り向いた。だが、その視線は此方を向いていない。
「本当に感謝している…!ありがとう」
男は深々と頭を下げて感謝を述べる。
もはや彼が何者であろうと、自分の命の恩人であるという事実に変わりはない。この感謝の気持ちに嘘偽りは無いのだ。
礼を述べるとエルダーリッチは少しだけ此方に視線を向けてくれた。
「いえ…どういたしまして」
「私はローブル聖王国兵士長のパベル・バラハと申す。差し支えなければ…貴公の名を聞かせてはくれまいか?」
「そう…ですね……」
エルダーリッチは静かに剥き出しの骨の口から声を漏らした。
◇
瀕死の彼を
「アンデッド…! え、
(え?……あ)
初っ端から悟は大失敗をしてしまったのだから我ながら呆れてしまう。
(あ〜……まぁ、アンデッドだし、それが普通の反応だよなぁ)
警戒しなければと言っておいてこの有様かよと心の中で悪態を吐く。しかし、最悪の事態にはならないようだ。
実は男と接触する前に彼のレベルを探知していたのだ。本職程正確では無いが大体のレベルを把握する事は出来る。男はレベル24と、今現在この世界で出会った者の中では1番高いレベルだが悟の敵では無い。
(身に付けている装備も何かしらの効果付与はあるみたいだけど…うーん、どれも中級あるか無いかのゴミアイテムばかりだなぁ、って凄い失礼な事言ってないか、俺?)
いかんいかんと口には出さずに反省していると警戒している男を改めて観察する。死に体の状態であったが今は完全に活力が戻っており、その眼を見遣る。
そして、堪らず眼を逸らしてしまった。
(怖い……あの眼メッッッチャ怖いィィィ‼︎)
そう、凄く怖いのだ。ユグドラシルでも色んな怖くて不気味なモンスターを沢山見てきたが、アレはもうそれらの比ではない。
あの鋭く此方を睨み付ける眼がとにかく怖い。吊り上がった目尻と小さな黒目がより一層凶悪さを際立たせている。どう見ても軽く人を50人くらい笑いながら殺してそうな快楽殺戮者の眼光だ。
(だだだ駄目だ…!ま、マトモに見れない)
恐ろしさのあまり思わず背中を向けてしまった。こんな時だけ『精神作用無効』が働かない、こんな融通の利かないスキルだっただろうか?
(ただでさえリアルでも仕事以外基本コミュ障なのに、異世界に来て最初の現地人がヤクザ顔負けの強面オジサンはキツイってェェェェ‼︎)
ここで悟は開き直ることにした。
最初のコミュニケーションは失敗したから、もう後はさっさと此処から離れて暫く人里離れた場所を探し、其処を拠点にして行こうと決めた。
(怪我も治した事だしもう大丈夫だろう。下手に関わるとかえって良くないかも知れないし…そ、それが良い!)
「うんそうしよう!」と思い立ったが吉日の勢いでその場から離れようとした。
「ま、待ってくれ‼︎」
(は、はひぃ⁉︎)
まさかあんな警戒している状態でいきなり声を掛けて来るとは思わなかった。心の中で裏返った変な声を上げてしまったが口から出なかっただけでも自分で自分を誉めてあげたい。
「待て」と言われたら待つしか無い。心情的に冷汗をかきながら彼の言葉を待った。
「す、すまなかった。そのぉ…失礼とは思うが、貴公がアンデッド故に驚いてしまったのだ。頼む、どうか待ってくれないか。ちゃんと礼を言いたいのだ」
まさかの謝罪だった。
恐る恐る振り返る悟だが出来るだけ眼を合わせないようにする。幾ら圧倒的にレベル差があっても怖いものは怖いのだから仕方無い。
相変わらず眼は怖いが幾分か優しげな雰囲気が宿っている…ような気がする多分。
「本当に感謝している…!ありがとう」
男は頭を下げた。
この行動にモモンガは彼を大きく誤解してしまった事に恥ずかしながら気付いた。彼はヤクザはヤクザでもちゃんと義を重んじ、筋を通すヤクザだったのだ。
(フッ…人は見かけによらないな)
恐らく彼も同じ事を考えている事だろう。確かに、ただのアンデッドではない…最上位種の
「いえ…どういたしまして」
「私はローブル聖王国兵士長のパベル・バラハと申す。差し支えなければ…貴公の名を聞かせてはくれまいか?」
悟は驚いた。
何と目の前の男はヤクザでは無く(当たり前である)、歴とした職業軍人だったのだ。それも兵士長というかなりしっかりした役職を有している。
悟はパベル・バラハと名乗るヤク…男に名前を聞かれた。
一瞬、『モモンガ』と名乗りそうになったが、自分はオーバーロードのモモンガに縛られない事を誓ったばかりだ。その名前を名乗る訳にはいかない。
だから答えた……鈴木悟だと。
◇
「そう…ですね…す、鈴木悟と言います」
「スズキ…サトル?」
この辺りではあまり聞き慣れない名前だ。だが嘘を言っているようにも思えない。偽名ではなく、事実なのだろうがエルダーリッチが生前の名前を覚えていると言うのはパベル自身聞いたことがない。
恐らく彼はかなり特異なエルダーリッチなのかも知れない。
「成程。ではどのように呼べば良いだろうか?」
「名前が悟で苗字が鈴木なんです。でも、呼び方は…ふふふ、御自由にどうぞ」
「そうか。ではサトル殿で良いか?」
「えぇ、構いませんよ。えっと…」
「ハハ、私も呼び方は何でも構いません」
「じゃあ、バラハ殿、で?」
「えぇ、構いませんよ」
少しだけだが重い空気が和んだみたいだ。パベル自身、アンデッドとこうして会話するなど初めでかなり不思議な気分だ。しかし、全然悪い気はしない。
(このように自我を保つ穏やかなアンデッドもいるのだな…噂ではエルダーリッチの中には取引きと言う範囲であれば会話が可能な個体もいると聞いたことがある。だが、この御人は─)
とてもそんな姑息な個体と同種とは思えない。どちらかと言うと普通の人間と話している感覚に近いだろうか。
パベルが彼についてもう少し話を聞こうとした時、サトルが突然顔を横へ向けたのだ。一体どうしたのか尋ねようとしたが、その行動の意味を瞬時に理解する事が出来た。
(何体か此方に向かって来ている!……14、いや15か…少し長居しすぎたか)
「バラハ殿…モンスターが此方に向かって来ているようです。数は15体」
「ッ! あ、あぁ、そのようだ」
やはり偶然では無いとパベルは確信した。彼は自分よりも先に敵の接近に気付いていたのだ。レンジャーとして索敵に関しては人一倍の自信を持っていたパベルは、サトルとの会話中もしっかり周囲を警戒していた。
(サトル殿…やはりただのエルダーリッチではないようだ)
◇
悟は
四方八方から15体のモンスターらしき何かが接近している。
(そういえばバラハさん死に掛けてたし……そいつらにやられたって事か)
そいつらが何者なのかは不明だが此処で逃げ出すわけにはいかない。何よりやっと彼と交友関係が結べそうなのだ。ここで逃げてしまったらもう二度とそんな機会は訪れないだろう。
(尤もそんなつもりはさらさら無いけど)
気が付けばパベルと背中合わせの状態になっていた。緊急事態と言うのもあるのだろうが、会ったばかりの自分に、それもアンデッドである自分に背中を預けてくれた事がちょっと嬉しかったりする。
そこへ漸く、謎の集団が姿を現した。
「やっと追い付いたと思ったら…何だぁテメェ?」
「また新しい獲物が出てきたか?」
小丘の上から現れたのは長い毛の直立した山羊のような外見をした亜人──
「あん? スケルトンが何でいるんだ?」
「構いやしねぇよ、あの人間諸共やっちまおうぜ‼︎」
「大方、あの人間が召喚したんだろうぜ」
先の2体を筆頭に続々と悟達を取り囲むように現れた。
「山羊人…チッ、囲まれたか……!」
「……バラハ殿、此処は私に任せて貴方は逃げて下さい」
「ッ⁉︎ な、何を仰る‼︎」
「貴方は何か用事があって此処へ来たのでしょう? 恐らくですが、きっと貴方の国にとってとても重要な事でしょう。ならば、貴方は本来の役目を果たすべきです」
「しかし、サトル殿‼︎ それでは貴方が──」
「ハハハハ、知り合ったばかりのアンデッドに心遣いは無用ですよ。それに私、ちょっとは腕に自信がありますから。さぁ、行ってください」
「……この御恩…一生忘れません‼︎」
パベルは下唇を噛みながら駆け始めた。彼の動きを察知した山羊人達は直ぐに回り込もうとするが、突然行手を阻もうとした2体が光弾に撃ち抜かれ地面に伏してしまう。
「ッ⁉︎ かたじけない…‼︎」
「何ッ⁉︎ クソ、逃すなァ‼︎」
「追え追え‼︎」
パベルは囲みが解かれたわずかな隙を突いて逃げ出した。山羊人達は1番の獲物を逃さぬよう全員で追い掛けようとする。
だが、追撃など悟が許す筈が無かった。
「おっと……お前達の相手は俺だ」
悟は〈
「クソ‼︎ スケルトン風情が邪魔立てしやがって‼︎」
「その骨をバキバキに砕いて楊枝代わりにしてやるゼ‼︎」
「おう、このスケルトンをさっさとブッ殺して追い掛けるぞ‼︎ あの人間は聖王国の大物だ、見事に討ち取ればバザー様がきっとご褒美を下さる事だろうぜ‼︎」
「おうよ‼︎」
「ぶっ殺せ‼︎ ぶっ殺せ‼︎」
「ん? よく見りゃ、あのスケルトン結構良いモン着込んでじゃねぇか? ギャハハハ‼︎ こりゃあとんだオマケが出てきたもんだぜ‼︎」
何とも耳障りな濁声と品の無い言葉に悟は段々と苛立っていた。ユグドラシルには居なかったモンスターもとい亜人族に興味が無い訳では無いが、それを加味しても彼らの態度と言動は許容出来ないものがある。
「ギャハハハハ‼︎ 覚悟しろよ〜スケルトン‼︎‼︎」
「スケルトン、か……やれやれ、バラハ殿の方が見る目があるな」
「あぁ?」
「山羊人…とか言ったか? お前達は2つ間違いを犯している」
山羊人達は悟の言っている意味を理解出来ず、互いの顔を見合っている。しかし、悟はそんなことなどお構いなしに話を続けた。
「1つ…俺はスケルトンでは無いし召喚されてもいない。そもそも〈
この時、山羊人達の中でも勘の鋭い何体かがある違和感に気付いた。
あのアンデッドの周囲の空間が揺れている…そんな気がした。そして、静かに放たれた最後の一言がその違和感を絶望に変える。
「俺がこの世界に来て初めて会話する事が出来た彼の命を……貴様らが狙った事だ」
怒気を孕んだ声質で静かに…だが確かに周りに聞こえる大きさで最後の1つを口にした時、急に黒い風が山羊人達を薙いだ。
その瞬間、山羊人達は今まで味わったことの無い身の毛のよだつような恐怖の疼きが全身を襲ったのだ。
全身の震えが止まらず、脚も動けない、悲鳴を上げることも出来ない、冷汗が止まらない、ただただ今すぐにでもこの場から逃げ出したいという途轍もない恐怖が全身を蝕んでいる。
「ここまで俺を不快にさせた代償は払って貰うぞ? ……鏖殺だ」
ドス黒いオーラが目の前にいるアンデッドから溢れ出ている。その瞬間、彼らは悟った。
アレはスケルトンではない…『死』だ。
自分を襲う『死』の権化なのだ。
「た、助…け──」
誰かが命を乞うべく必死に出した僅かな言葉。だが、そのような言葉が悟に届くはずもない。仮に届いたとしても彼は当然のように無視するだろう。
「〈
悟を中心に光を反転した黒い光の波動が一気に周囲へ拡がった。その波動を受けた山羊人達は白眼を剥き、その場で力無く斃れた。
不気味な静寂が辺りを包み込む。
悟を除き、この場にあるのは山羊人達の死体しかいない。
「はぁ……さて、どうするか。やっとコミュニケーションの取れる現地の人と出逢えたのになぁ」
山羊人達のせいで結局パベルから色々と聞きそびれてしまった。彼を追い掛けるのも良いが、先も言った通り彼は国から与えられた何かしらの任務に就いていたのは明白。故に下手に彼に絡む事はその妨げになりかねない。
「文句を言っても仕方ない、か」
悟はパベルが逃げた先へ顔を向けた。その視線の先にこそ、何も分からない世界で唯一知っている国がその先にある。
「ローブル聖王国、だったか? 行ってみるか」
悟はパベルが所属しているローブル聖王国へ向かう事に決めた。当然、先程の失態を犯すつもりはない。今度はキチンと変装をして行くつもりである。
(格好は何が良いだろうか。このローブのままで仮面か何かを着けて行ってもいいが……『嫉妬する者たちのマスク』しかマトモに顔隠せるのが無いんだよなぁ)
『嫉妬する者たちのマスク』とはユグドラシルでクリスマスイブの19時から22時の間、2時間以上ログインしていることで入手出来るアイテムだ。平たく言えば非リア充にとって不名誉なイベントアイテムで何の効果もない。
ソレを着ければ目立つだろうがいつもの装備でも問題なく街中へ入れるだろう。しかし、問題がある……悟自身のプライドだ。
「着けるべき、なんだろうが……何故だろう、此処で着けては色んな意味で負けな気がしてならない」
合理的ではないが此処は着けないでおこう。メリットデメリットで考えるモモンガではない、自分はしがない社畜…鈴木悟なのだ。
(しかしそうなると装備は限られてくる。どうすれば良いか…うーん)
これから向かう先はローブル聖王国…聖王国となればそこに居る騎士は『聖騎士』という事になるだろう…聖騎士と言えばモモンガの知り合いに1人居た。
そして、決意した。
彼を参考に自分も
「ダーク・ウォリアー・悟…フフフ、悪くないネーミングセンスじゃないか?」
しかし、何処からか「やめとけ」と言う声が40人くらい聞こえた気がしたので名前に関しては不承ながら諦めることにした。
パベル・バラハ
cv:江原正士
ネイア・バラハ
cv:小林ゆう
──だったらいいのけど贅沢は言えませんな