Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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誤字報告、評価、コメントなどいうも誠にありがとうございます。

そして長らくお待たせしました。

もう仕事の事は諦めましょう(白目)


第22話 vs豪王

 バザーの振り上げた大剣が地面へ倒れ伏しているパベルの頭上へ振り下ろされようとしていた。先の奇襲攻撃を直撃では無かったにせよ、無視出来ないダメージを受けた今のパベルは身動きが取れない状態だった。しかし、彼は『九色』の1人である。

 

 

「〈痛覚鈍化〉!」

 

 

 〈武技〉を発動させて全身に走り続ける痛みを無理やり抑え込むと、懐から片手で隠せる程度の小袋を取り出しバザーの顔目掛け投げ付けた。

 

 

「ぐぅあ…‼︎」

 

 

 投げつけた小袋はバザーの鼻っ柱へ命中。中に詰め込まれていた怪しい色の粉が周囲へ激しく舞い上がる。予想外の反撃を受けたバザーの振り下ろした大剣がズレてしまい、何も無い大地を抉るだけとなった。

 

 パベルはこの機を見逃さず、〈武技〉の効果が続いている内にバザーとの距離を取る。

 

 

「ぬぅ…?! は、鼻が…!」

 

「何種類かの強烈な薬草を調合した粉状のマジックアイテムだ…!」

 

 

 鼻を押さえながら不快に顔を歪めるバザーから距離を取っていたパベルは、聖騎士や神官から治癒魔法を掛けてもらう事が出来た。

 

 本調子とはいかないが戦闘に支障は無い。

 

 

「人間風情が舐めた真似をしてくれる。怯むな、同胞達よ‼︎ ここで敵を殲滅し、アベリオン丘陵に在る他の種族共に我ら山羊人(バフォルク)の精強さを知らしめるのだ‼︎」

 

 

 バザーが大剣を夜空へ掲げ声高に叫ぶ。

 その途端、今まで劣勢で士気も下がりつつあった山羊人達が一斉に咆哮を上げ、なりふり構わずパベルら護衛団達へ突っ込み始めた。

 

 

「来るぞ‼︎」

「備えろォォォ‼︎」

 

 

 野蛮な怒涛の津波となって襲い来る山羊人の軍勢を、召喚した天使達を活用した隊列を組んで真正面から迎え討つ護衛団。双方共に激しい喧騒と怒号が飛び交い始める。

 

 

「厄介だな。王侯(ロード)が持つ狂戦士化(バーサク)能力は」

 

「全くだ。しかしその分、統率の取れた命令は無くなり、影響を受けた者たちの防御力も下がる」

 

「イサンドロ、今のうちに強化魔法を俺に掛けてくれ。俺がヤツを仕留める」

 

「…死ぬなよ」

 

 

 イサンドロはパベルの要請を速やかに受け入れ、部下達と共に出来る限りの強化魔法を掛ける。

 

 

「〈下級筋力増大(レッサー ・ストレングス)〉」

 

「〈下級俊敏力増大(レッサー ・デクスタリティ)〉」

 

「〈加速(ヘイスト)〉」

 

「〈下級技巧増大(レッサー ・テクニカリティ)〉」

 

 

 パベルが補助魔法(バフ)を掛けて貰う最中、それを察知したバザーが大きな咆哮を上げると、十数体の山羊人達が一斉にパベル達の下へ突っ込んで来た。

 

 

「クソッ! こっちに気付いた…!」

 

 

 バザーの狙いが何かを仕掛けようとしているパベルである事は明白だった。

 

 怒涛の荒波となって押し寄せる山羊人の群れをイサンドロを始めとする聖騎士達、そして、神官団は第二位階の天使召喚魔法で守護の天使(エンジェル・ガーディアン)を召喚し、迫り来る山羊人達へぶつける。その隙を突いたパベルは、鬼気迫る勢いで両陣の間を持ち前の機動力で掻い潜り、バザーへ向けて駆け出した。

 

 一方のバザーは鼻を利かなくされた分、視力でパベルを探さねばならなくなっていた。自身の咆哮で大勢の味方をぶつけたまでは良かったが、敵味方が入り乱れた状況でパベルを見つけるのは容易では無い。

 

 

「〈視覚強化〉」

 

 

 未だパベルを見つけあぐねているバザーに対し、彼は〈武技〉により闇夜と敵味方が入り乱れる中でも迷う事なく、瞬時に背後へ回り込んだ。矢筒から毒を塗りたくった矢を引き抜き、弦に掛けて一気に引く。

 

 

「〈強射〉」

 

 

 続けて発動した射撃攻撃を強化する〈武技〉を発動し、バザーの背後へ向けて毒矢を放つ。通常よりも速く鋭く強化された矢が飛来するが、間一髪で気付いたバザーは大盾を構え矢を弾いた。

 

 

「ぬぅ〜…惜しかったな──」

 

 

 得意げに笑うバザーに気にも留めず、防がれたと分かるやパベルは懐から無数の薄汚れた小袋を投擲する。慌てたバザーは再び大盾を構えて、投擲してきた小袋を防いだ。

 

 

「ぐっ…これは煙幕か、クソ!」

 

 

 大盾に小袋がぶつかった瞬間、煙幕が一気に拡散する。先程の鼻が利かなくなる効果とは違い単純な目眩しであるが、それでも小賢しい真似である事に変わりは無く、バザーは苛立ちを露わにした。

 

 

「ええい、邪魔くさい‼︎」

 

 

 バザーは目障りな煙幕を払うべく、大剣を横一閃に振るった。凄まじい旋風と共に煙幕が一瞬で晴れて、視界が元に戻った。しかし、やはりその場にパベルは居なかった。

 

 

「〈即応射撃〉」

 

 

 〈武技〉発動の声を察知したバザーは慌てて自身の真上へ顔を向けた。そこには空中に跳んでいたパベルが弦を引いている姿があった。そして、すかさず放たれる矢は超人的な速さで一本、また一本と一瞬で5本の矢がバザーの真上目掛け飛来する。しかし、バザーは持ち前の身体能力と反射神経でギリギリ飛び退いた。

 

 その内の何本かがバザーの頭部や肩、足を掠める。恐らく毒か何かが塗られていたであろう鏃だったが、種族的特徴である銀色の頑丈な体毛により傷を受ける事は無かった。

 

 

「邪魔な体毛だ…!」

 

「ハハハ! 今のは驚いたぞ、パベル・バラハ!」

 

 

 地面へ着地し、手応えが無かった事にパベルは悪態を吐く。あの時もう一つ〈武技〉を発動させれば倒せぬまでも多少の傷を付けられただろう。しかし、〈武技〉とて無限に使えるワケでは無い。今のパベルの体力と集中力を考えれば、良くてもあと2つが限界だった。ここぞと言う場面でなければもう〈武技〉は発動出来ない。

 

 間髪入れずにバザーが大剣を振り上げて大地を蹴り、一気にパベルとの距離を詰める。背後へ跳躍して躱す彼をバザーは動きを読んでいたかの如く追撃をして来る。

 

 

「〈盾突撃〉!」

 

 

 再びバザーが大盾を構えて突進して来た。

 パベルは咄嗟に真横へ飛んで地面へ転がり、何とかやり過ごす。しかし、体勢を立て直すよりも早く、バザーが追加の〈武技〉を発動させて瞬時に追い打ちを掛けてきた。

 

 そこへ2体の守護の天使(エンジェル・ガーディアン)がバザーの前へ立ちはだかる。奴にとっては何ら障害にはなり得ない雑魚であっても、一瞬でも気を逸らす事が出来ればパベルにとって優秀な盾役となる。

 

 軽々と振るわれた大剣によって2体の守護の天使(エンジェル・ガーディアン)は消滅した。だが、バザーの先に居たのは距離を取り、弦を限界まで引いていたパベルの姿だった。

 

 

「シィッ‼︎」

 

 

 パベルの矢が離れたのと、バザーが大剣「砂の射手(サンドシューター)」を発動させたのはほぼ同時だった。目の前に現れた砂塵嵐(サンドストーム)の壁により、パベルが放った矢は阻まれてしまった。

 

 舌打ちしたパベルは再び距離を取るべく、懐から煙幕の効果を持つ小袋を取り出す。しかし、砂塵嵐の壁からバザーが大剣を振り上げて迫っていた。

 

 

「〈素気梱封〉〈剛撃〉」

 

 

 バザーが発動した〈武技〉により強化された強烈な一撃を、パベルは反射的に抜いた短剣で奇跡的に防いだ。だが、その勢いまで殺す事は流石に出来ず、そのまま十数メートル先まで吹き飛ばされてしまう。

 

 ゴロゴロと地面に転がって行く姿にバザーは舌舐めずりした。

 

 

「フハハハハハーー、今度こそトドメだ!!!」

 

 

 バザーは大剣を引きながら駆け出した。地面に倒れ伏す彼に、その大剣を胴体に突き刺そうと考えていたのだ。彼との距離があっという間に縮まり、ピクリとも動かないパベルへ向けて大剣を突き刺そうと腕を伸ばす。

 

 

「〈痛覚鈍化〉〈肉体向上〉」

 

「なにィ…!?」

 

 大剣に突き刺さる瞬間、跳ねるように身体を起こしたパベルが血だらけの顔であってもその凶眼で見据えながら弓を引き構えた。

 

 バザーの身体能力を以ってしても避けるのは不可能な距離だった。

 

 

「〈超強射〉!!!」

 

 

 命を落とす覚悟で3つめの〈武技〉を発動し、弦から指を離した。

 

 極限まで強化された彼の矢はバザーの胴体へ迷う事なく突き刺さった。

 

 

「がはッ……!」

 

 

 驚愕に目を見開きながらバザーはその場に倒れた。一方、倒れたバザーをふらふらになりながらも見下ろすパベル。

 

 

「や、やった…のか…?」

「お、おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ば、バラハ兵士長が…バザーを討ち取ったァァーーー!!!」

 

 

 

 勝敗は決した。

 

 聖騎士や神官団達は自分達の確たる勝利に歓喜の雄叫びを上げる。山羊人達は自分達の王が敗れた事に混乱し、戦意は削がれかけていた。

 

 

「ふ、フフフフ…流石だなぁ、パベル・バラハ」

 

 

 聞こえてきたのは間違いなくバザーの声だ。しかし、彼は胴体を矢で射抜かれて倒れている。そんなワケが無い、と皆がバザーの死体に視線が集まる。

 

 だが、バザーはゆっくりとその身を起こし立ち上がった。彼は死んでいなかったのだ。

 

 

「ど、どういう…」

 

 

 驚愕と混乱、そして絶望感に呑まれたパベルはこれまでの蓄積したダメージや疲労が一気に身体全身に降り掛かり、力無くその場へ倒れてしまうが、その目は今も仕留めたと思っていた敵の大将を見上げていた。

 

 

「先の不意打ちは見事であったぞ。流石に俺も死を覚悟した、だが最後はコレに救われたな」

 

 

 そう言うとバザーは自身の鎧を撫でた。

 パベルは目を見開いた。突き刺さったと思っていた矢が刺さっていなかったのだ。矢はいつの間にか地面に鏃が欠ける事なくポトリと落ちていたのだ。

 

 

「まさか…マジック…アイテム…だったのか」

 

「そういうことだ。コイツは射撃武器の威力を激減させる効果があるのだ。攻城用のバリスタでもコイツには通じんぞ、フハハハハハハ!!!!」

 

 

 勝ち誇り高笑いするバザー、起き上がることも出来ず、ただ地面に倒れ伏すだけのパベル。先程とは真逆の光景に、聖騎士や神官団達は絶句し、山羊人達は再び殺意が戻り始める。

 

 

「さて、パベル・バラハよ。お前は人間にしては良くやった、山羊人の王であるこのバザーが誉めて遣わすぞ」

 

 

 バザーは大剣の剣先をパベルへ向ける。慌ててイサンドロが駆け付けようとするが、無数の山羊人達によって防がれてしまう。

 

 今度こそ自身の最期を悟ったパベルは、心の中で鈴木悟に感謝した。

 

 

(貴方がいたからこそ、死ぬ前に娘と仲直りする事が出来た。再び家族団欒の幸せを噛み締める事が出来た……貴方に出会えて良かった)

 

 

 

 パベルは静かに瞳を閉じた。

 せめて最期は友を思い、感謝しながら迎えたいと言う彼なりの我儘である。

 

 

 そして、バザーの大剣が自身の体を貫く──

 

 

「な、何だッ!?」

 

 

 

──事は無かった。

 

 突如として聞こえた轟音と大地が揺れる衝撃、舞い上がる土煙の中、バザーが大剣で突き刺すのを止めて狼狽える声が聞こえる。

 

 

「な、何事だ?」

 

 

 パベルは薄れゆく意識の中、再び瞳を開ける。

 誰かが倒れ伏す自分に背を向けて立っているのが分かった。彼は視線をゆっくり上へ向けた。

 

 真紅のマント。

 

 漆黒の全身鎧。

 

 大剣を右手に持ち、そして大地に突き刺さっている大剣を左手で引き抜く男。

 

 

「クズ野郎…俺の友人を傷付けてタダで済むと思うなよ」

 

 

 荒げた声では無い、静かな彼の呟きだが、確かにそこには計り知れない怒気が込められていた。

 

 

「申し訳ありません、バラハ殿。少し予想外の事が起きた為、遅くなってしまいました」

 

「いいえ…かたじけない、モモン、殿」

 

 

 安堵感によりパベルはそのまま気を失った。

 

 意識を失う前、彼が霞む視界で見た彼の後ろ姿は間違い無く…『漆黒の英雄』そのものだった。

 

 

 

 大分手こずったが、漸く首級であるパベル・バラハを仕留め、この戦いに於ける勝利の雄叫びを上げようとしていた矢先に現れた謎の人物に、バザーは困惑と同時に強い苛立ちを覚えた。

 

 そして、目の前の人物が只者で無い事も戦士としての直感ゆえ気付いてもいた。

 

 

「貴様ぁ、何者だ?」

 

「…ローブル聖王国のオリハルコン級冒険者『漆黒』のモモンだ」

 

「オリハルコンだと…?」

 

 

 バザーは少しだけ目元を歪め怪訝な視線を向ける。彼の知識によれば聖王国に存在する冒険者の最高ランクはミスリル級であると認識していたからだ。だが、この状況で彼が虚言を言っている風にも見受けられない。

 

 

「なるほど、確かにオリハルコンだな」

 

 

 彼はモモンの首に掛けられている冒険者プレートへ目を向ける。そこに掛けられたプレートは間違いなくオリハルコンだった。

 

 

「つい最近昇級した冒険者というわけか。なるほど、それなら俺が知らなくとも無理は無い」

 

 

 バザーは自身の推察に納得した。

 これは持論だが、一族の王を名乗る者は武力だけで無く情報力と言う面でも優れていなければならないと考えている。そして、この丘陵地帯であのアンデッド騒動以降、積極的に行動をしているのは自分達山羊人のみである為、新たに現れたモモンなる脅威を知るのも自分のみ。

 

 これを利用しない手は無いとバザーは思った。

 

 

(ここでヤツを我が同胞たち、そして、人間どもの前で一対一の対決の上で仕留めることが出来れば、『九色』を2人討ち取るだけで無く、聖王国最高位冒険者の首級ともなれば…フフフ、我ら山羊人こそ最も強く優れた種族である確たる証明になるな)

 

 

 加えて自身の地位を狙う部下たちへの良い牽制にもなる。愚かにも分不相応な地位を狙う不届き者を抑え込む意味でも良い案である。

 

 

「おっと、名乗るのが遅れたな。俺は誇り高き山羊人の王、〝豪王〟バザーだ」

 

「…そのようだな」

 

 

 モモンは右手に掴む大剣をバザーへ向けて話し始める。

 

 

「我が友を傷付けた罪を悔やみ許しを請うか? それともここで死ぬか? 好きな方を選ばせてやる」

 

「ハッ笑止! 王の名にかけて、平伏すのは一度で十分だ」

 

 

 バザーがモモンの言葉を鼻で笑い、大盾を前に出して身を構える。モモンは右手の大剣をゆっくりと下ろし、それ以上は何も発する事は無かった。

 

 

「覚悟を決めたか? では行くぞォ‼︎」

 

 

 声を上げてバザーは〈盾突撃〉の武技を発動させてモモンへ突っ込んだ。並大抵の戦士がまともに受ければ全身の骨が砕かれかねない突進攻撃を、モモンは2本の大剣をバツ印の様に構えて受け止めた。しかし、流石に止めるまではいかず、受け止めきれなかった勢いを背後に飛び退く事で殺し、難なく両の足で着地する。

 

 

「ほう。やりおる」

 

 

 バザーは驚くことなくモモンに賛辞を送り、大地を蹴って振り上げた大剣をモモンへぶつける。対してモモンも振るわれた大剣を受け取めるべく自身の大剣をぶつけた。

 

 

「ハーッハッハッハッ!!! 素晴らしい、素晴らしいぞ、モモン‼︎!」

 

 

 両者一歩も譲らない、大剣同士を激しくぶつけ合う攻防。周りの聖騎士達や山羊人達も互いの各々の戦いの手を止め、その行く末を固唾を呑んで見守っていた。

 

 だが、高速でぶつかり合う攻防戦の優劣は意外と早く見え始めた。バザーが徐々に押され始めたのだ。最初は笑っていたバザーの顔も今では余裕の表情はカケラも見えず、表情は苦悶に歪み始めていた。

 

 

「ぐ、ぐぅ!…ま、待て…ちょっ…!」

 

 

 遂に大剣を振るう腕力に限界が来たのか、大盾を構え受け止め続けるだけになってしまった。挙句、攻撃を止めるよう情けない言葉が聞こえる。しかし、モモンは一言も発さず、息一つ乱れる事なく、容赦なくバザーが必死に身を隠し構える大盾に向けて、ワザと大剣をぶつけ続けていた。

 

 

「お、のれぇ…‼︎ 〈砂塵嵐〉!」

 

 

 堪らずバザーは大剣に込められた魔法を発動させて、彼との間に大きな砂嵐の壁を発生させる。僅かだが、動きに隙が見えたのを逃さなかったバザーは直ぐに後方へ飛び退き距離を取った。

 

 

「〈素気梱封〉‼︎ 〈剛腕剛撃〉‼︎」

 

 

 長期戦は不利と判断したバザーは一気にカタを付けるべく〈武技〉の重ね掛けを行う。仕掛けるのは自身の切り札とも言うべき〈複合武技〉である。

 

 

「かぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 跳躍し、砂嵐の壁を突き抜け、その先にいるモモンに向けて最強化したとっておきの一撃を食らわせる。

 

 

「フンッ!!」

 

 

 モモンはそれさえも2本の大剣で受け取める。ぶつかる金属同士の凄まじい轟音。それはとても金属同士がぶつかり合って生まれる音とは思えない程の激音と衝撃だった。

 

 

「ハハァ‼︎ やはり受け止めると思ったぞ!!」

 

 

 バザーが勝利を確信した声を上げる。

 

 これこそバザーが狙っていた一撃〈武器破壊〉である。〈武器破壊〉は相手の武器そのものに直接ダメージを与え文字通り破壊する彼の切り札だ。

 

 しかし、いつまで経ってもモモンの大剣が砕け散る様子も無ければ、ヒビの一つも現れない。

 

 

「なっ、なぜ武器が砕けない!?」

 

 

 バザーは驚愕に目を見開き、自身の攻撃を受け止めている相手の大剣を見た。彼はこれまで幾つもの相手の武器を破壊してきた。それも砕いた武器を自身のコレクションにするほどに…だが、砕けないどころか、ヒビも入らず欠ける事すらないなど今まで一度も無かったのだ。

 

 

「そ、その武器は…何なんだ…一体…?」

 

「何だ? もう奥の手はお終いか?」

 

 

 モモンは大剣を巧みに捌き、バザーの大剣を弾き飛ばした。腕力の疲労に加え〈武技〉の重ね掛けも相まって、彼の手から大剣はいとも容易く飛ばされた。

 

 

「ああッ!」

 

 

 情けない声を上げるバザーに向けて、モモンは片方の大剣を振り下ろした。バザーの右腕の肘から先が見事に斬り落とされると、夥しい量の血飛沫を流し、悲痛な絶叫が響き渡る。

 

 

「ぎぃやああああああーーーー!!!!」

 

 

 バザーは斬り落とされた右腕を押さえながら無様に地面をのたうち回る。

 

 

「何だ? 誇り高き山羊人の王は…〝豪王〟と謳われる『十傑』の1人は…この程度なのか?」

 

 

 モモンは血が滴る大剣を地面に向けて下げながら、ゆっくりとバザーの下へ歩み寄る。

 

 

「ヒィィ! ひ、ヒィィ、ゆ、許し、許して!」

 

「何だ? 降参か?」

 

「す、するする!降参する!するッ!するッ‼︎」

 

 

 モモンから少しでも逃れようと後退りながらバザーは必死に命乞いをしていた。その姿はとても〝豪王〟とは思えないくらい哀れであったが、それでもモモンの歩みは止まらない。

 

 

「命を奪うなら…自らも奪われる事も覚悟しなければならない。そうは思わないか?」

 

「は、はひぃ! お、思う、あ、いや! 思います!」

 

「お前はバラハ殿…私のかけがえの無い新たな友の命を奪おうとしたではないか?」

 

「そ、それは…わ、悪かっ、いや、申し訳なかった、です! 私が愚か、で、でした‼︎ ど、どうか慈悲を…じ、慈悲、を」

 

 

 バザーは自らの鎧やマント、大盾を脱ぎ捨てて完全に抵抗の意志が無い旨を必死に伝える。

 

 必死に命乞いをする自分達の王を周りの山羊人達は、不思議と彼を侮蔑する気は何ひとつ湧かなかった。それよりも彼に対する哀れみの方が勝り、そして、そんな彼に一歩ずつ歩み寄るモモンに対し本能的な恐怖心を抱いていた。

 

 その中の誰かは思った。

 我らが王に迫るアレは…『死』である、と。

 

 

「そ、そうだ‼︎ な、何か欲しい物は!? お、俺が、か、必ずアンタの、いや貴方様の欲しい物を見つけて、け、献上いたします‼︎ だ、だからどうか…ど、どうか…」

 

「欲しい物…だと?」

 

 

 その言葉に僅かだがモモンは反応する。

 必死に生き残る道筋を探っていたバザーはその反応を見過ごす筈が無かった。

 

 

「はいぃ‼︎ こ、う見えて、俺は、色んな財宝、あ、マジックアイテムも、持ってます!だ、だからその中にきっと、貴方様のお気に召す物も─」

 

「そんな物…」

 

「…へ?」

 

 

 僅かに見えた光明の一筋に全てを賭けた。

 しかし、それは大きな間違いだった。

 

 

「そんな物…貴様如きが決して持って来れるような物では無い!!!!!!」

 

「ヒィィィィィ!!!殺さないでェェェェェ!!!」

 

 

 大地を揺るがす怒号と共に一気に溢れ出るモモンの〈絶望のオーラⅡ〉がバザーと山羊人達へ容赦無く襲い掛かる。バザーはこの世の終わりの様な悲鳴を上げ、周りの山羊人達は我先にと武器を投げ捨て、自らの王さえも見捨てて逃走を始める。

 

 モモンは怒りに任せて振り上げた両の大剣を、顔と下半身から様々な液体を垂れ流し絶叫するバザー目掛けて振り下ろした。

 

 刹那、彼の脳裏にパベルの姿が過ぎった。同じくして「精神抑制化」が発動し一瞬で冷静さを取り戻す。

 

 鳴り響く轟音と地響き、水柱ならぬ土柱が舞い上がった。それだけでモモンの振るった両大剣の一撃が如何に強力であったのかが分かる。

 

 

「も、モモン殿……」

 

 

 一連の出来事をただ見守る事しかできなかったイサンドロ達は、山羊人が敗走した事による勝利を喜ぶ暇すらなかった。

 

 未だ吹き荒れる土煙の中からモモンが歩み出てきたのを見て、漸く我に返る。既に2本の大剣は背中に仕舞われていた。

 

 

「バラハ殿は?」

 

「ご、ご無事です。今は気を失っておられますが…」

 

「そう、ですか…」

 

 

 つい先ほどまでの怒りが嘘のように彼の言葉は穏やかだった。そして、パベルが無事である事を知ると安堵の息を漏らす。

 

 

「あっ、ば、バザーは!?」

 

 

 慌ててイサンドロがつい先程までバザーが居た場所へ再び目を向ける。あの一撃を喰らって仕舞えば流石に『十傑』とて五体満足とは言えないだろう。既に片腕を斬り飛ばされてはいるが…。

 

 土煙が晴れるとそこには仰向けで倒れているバザーがいた。しかし、斬り落とされた片腕以外はどこも無事な状態で、仰向けに横たえる彼の直ぐ近くの地面には大きな窪みがあった。

 

 よく見るとピクピクと動いている。

 さらには斬り落とされた片腕からの出血も無く、傷口も塞がっていた。

 

 

「い、生きてる…殺さなかったのですか!?」

 

 

 彼の行動に驚いたイサンドロが慌ててモモンへ顔を向ける。

 

 

「えぇ。ヤツを殺すより生かしていた方が色々と都合が良いと判断しました。確かに許されざる者ではあります。しかし、だからこそ、敢えて生かしておくべきだと思いました」

 

「ッ…!」

 

 

 イサンドロは彼の意図を瞬時に理解した。

 

 要するにバザーはアベリオン丘陵に跋扈する他の亜人部族に対する宣伝係、伝言板にしようと言うのだ。己を圧倒したモモンと言う存在が明るみになれば、再び活性化し始めている連中は警戒心を抱く事となり、その活動を大きく阻害することに繋がる。また、『九色』とは違う、新たなモモンと言う脅威を知らしめる事で抑止力にもなる。

 

 彼はカンパーノが抜けて弱体化した『九色』、そしてこの国の戦力を思い敢えて自らの怒りを無理矢理抑えてくれたのだ。

 

 

(何ということだ。モモン殿はそこまでこの国の事を考えてくれていたというのか…!)

 

 

 彼の強さ、思慮深さにイサンドロは感動した。そして、今も傷付き倒れている聖騎士や神官達へ駆け寄り、ポーション(らしき物)を分け与えている。

 

 

(あぁ…いっその事彼が新たな『九色』に就いていただけたら、どれほど心強いことか)

 

 

 イサンドロは将来の聖王国を護る『九色』の姿に思い耽った。そのあまりにも頼り強い未来の光景は、決して夢物語では終わらないだろうと言う謎の確信を抱いていた。

 

 聖王国の未来は明るい。

 

 彼とその場にいた聖騎士団達は瞬く間に彼の虜になっていた。

 

 その後、調査隊は何とか1人も欠けることなく任務を終えて帰国する事が出来た。イサンドロ達は顛末を全て上へ報告し、色んな意味でその場は大騒ぎになり、やがてそれは冒険者組合へ、そして、首都ホバンスからモモンが拠点にする城塞都市カリンシャにまで及ぶ事となる。そして、モモンは衝撃的な言葉をカリンシャの冒険者組合長から受けることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローブル聖王国史上初となる

アダマンタイト級冒険者

『漆黒』のモモン

 

この情報は諸外国へ一気に広まった。




いやぁ〜クソ忙しいと言いつつ
オーバーロード4期(アニメ)はキチンと見てましたよ〜
全13話全て最高でした! 私の人生のモチベでした!
アニメ製作陣のオバロ愛をヒシヒシと感じましたね〜

そして、劇場版の聖王国編がもう楽しみで仕方ないです
思う存分、原作に忠実な胸糞でグロ描写満載かつ聖棍棒を堪能したいですね
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