Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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第26話 蒼の薔薇

 リ・エスティーゼ王国の王都リ・エスティーゼ。広大で人々が賑わう王都の中でも一際目立つ豪華絢爛な建物である王城のロ・レンテ城。

 

 その中のとある一室にて、複数人の美しい淑女達が一つのテーブルを囲い御茶会をしていた。テーブルの上に置かれた1枚の地図を眺めながら。

 

 

「虱潰しに『黒粉』の栽培地を潰してきたつもりだけれど……まさか『八本指』がここまで勢力を伸ばしていたなんて」

 

 

 美しい淑女の1人が真剣な表情で温かい紅茶の入ったカップに口を付ける。彼女は王国の貴族アインドラ家の令嬢にして王国が誇るアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のリーダーであるラキュース・アルベイン・デイル・アインドラだ。王国の第三王女が『黄金の姫』と評されているが、ラキュースも決して引けを取らない美貌と魅力の持ち主である。また、彼女は神官戦士で水神を信仰する信仰系魔法詠唱者であり、四大暗黒剣が1つ『魔剣キリネイラム』を持つ戦乙女でもある。

 

 今は普段の冒険者装備ではなく、御令嬢然としたドレスを身に纏っている。

 

 

 『八本指』とは王国の裏社会に蔓延る巨大犯罪組織で、麻薬取引部門、奴隷売買部門、警備部門、密輸部門、暗殺部門、窃盗部門、金融部門、賭博部門の8つの部門から構成されている。全体として見れば1つの組織だが、元々は複数の組織の集まりであった為、各部門同士の折り合いは悪く、互いの利権を奪い合い、足の引っ張り合いなど日常茶飯事で行われている。

 

 中でも麻薬取引部門は組織内で最も幅を利かせている部門である。この部門は『黒粉』もしくは『ライラの粉末』と呼ばれる麻薬を大量に生産し、巷に広く出回らせている。大量生産を可能にしている分、安価で裏市場で出回っている為、安易に平民達でも入手する事が出来てしまう。何よりこの麻薬の恐ろしい所は禁断症状が弱く、違和感無く重度の中毒に陥ってしまう所にある。しかし、王国上層部はこれらの麻薬をほぼ黙認している。それは巨大過ぎる『八本指』の魔の手が王国上層部…貴族社会ほぼ全域まで広がっているからに他ならない。

 

 『八本指』は表裏社会だけで無く、政治にまでその影響力を及ぼしているのだ。そして、その影響力は深刻な域にまで達しており、王国の腐敗政治の根幹となっている。

 

 

「これは厄介」

「うん、面倒い」

 

 

 ラキュースの言葉に続けて反応したのは双子のニンジャ、ティアとティナだ。この2人もラキュースと同じ『蒼の薔薇』のメンバーであり、外見や服装ともにそっくりである為、見分けが難しい。一応、頭に巻かれているバンダナと服装の僅かな紋様の色が青と赤で違う。

 

 

「どうする? 鬼リーダー」

「面倒だけどやる? 鬼ボス」

 

 

 双子のラキュースに対する独特な呼び方は、本来ならここで軽く叱る程度で済ませるのだが、今のラキュースにはその余裕も無く悩んでいる。彼女が見つめるテーブルの上には地図は王国某所郊外が描かれており無数のバツ印が記されていた。

 

 

「『蒼の薔薇』の皆さんには、本当に感謝しています。皆さんの働きがあったからこそ今の王国があると言っても過言ではありません」

 

 

 中でも抜きん出た美貌を持つ女性がラキュース達に感謝の言葉を述べた。彼女こそ『黄金の姫』と名高い王国第三王女のラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフその人である。

 

 

「何を言ってるのよ、ラナー。貴女のこの国を救いたいという想いを無視できるワケないじゃない。それに私達だって、王国を救いたい想いで行動してるのよ。だから、感謝の言葉は不要よ」

 

「でも、それでは──」

 

「〝でも〟も無しよ。私達は友達なんだからね」

 

 

 ラキュースは指を一本立てて左右に振り、ラナーの言葉を止めさせてから微笑を向ける。それに応えるようにラナーも微笑みを返した。

 

 ラナーとラキュースたちは『八本指』を撲滅し、王国をなんとか救うべく行動している。尤も慈善活動のような生易しいものではない。文字通り命懸けの正義心を持って彼女達は行動している。

 

 その活動が麻薬栽培拠点となっている畑を焼き払う事だ。

 

 村落内で堂々と麻薬を栽培する。それぐらいこの国は腐敗し切っているのだ。仮にそれを真正面から咎めたところでその地を治めている領主は「知らなかった」でシラを切り、そしてそれが認められてしまう。まともにやっても意味が無いのならまともではない方法で止めるしか方法は無い。

 

 故に彼女達は村の畑を焼き払うという暴力手段を取っているのだ。しかし、この方法も結局は無意味に終わるだろう。決定的な麻薬流通の根絶など出来はしない。

 

 テーブルに置かれた地図に記載されている無数のバツ印は『蒼の薔薇』がラナーの依頼を受けて焼き払った麻薬栽培拠点である。

 

 

「でも…どうするべきかしら。王国内だけでも手一杯なのに」

 

 

その地図の傍には小さなボロ切れ同然の羊皮紙が一枚あり、小さな字で何かが書かれていた。

 彼女達が悩んでいるのはそれに書かれている内容についてである。

 

 

「王国以外の土地でも麻薬栽培を始めていたなんて……でも、一体何処の国で」

 

「恐らくですけど、聖王国ではないでしょうか?」

 

「聖王国?」

 

「はい。帝国は話を聞く限りでは上手く対処しているようですし、竜王国は入り込む余地が無いほどに戦乱状態で評議国と法国はそもそも『八本指』の活動を僅かでも許していない様子です。となると消去法的に見て残るのは聖王国のみとなります」

 

 

 ラキュースはラナーの言葉を心の中で思案し納得する。

 

 

「確かに。聖王国はアベリオン丘陵の件もあって不安定なのは変わらず、北部と南部では現聖女王派閥と保守派閥による啀み合いも続いてる。北部は聖女王とその周りが有能な分、南部はかなりキナ臭いらしいから……なるほど、連中は南部で勢力を広げつつあるのね」

 

「ここ最近、聖王国へ直接通じる公道を頻繁に荷馬車が行き交っていると聞いております。その荷馬車が商人であれ何であれ、『八本指』の関係者である可能性は十分考えられます。そして見つかったこの暗号文……まだ下地を固めている段階のようですが、彼らの活動は概ね順調である事を示しています」

 

 

 ラナーの言葉にラキュースは歯噛みした。

 王国の裏に蠢く犯罪組織の運営が上手くいくほど腹立たしい事があるだろうか。それも此方の努力など露ほども気にしていないかの如く。

 

 

「『八本指』関係の荷馬車を妨害する?」

「でも中には普通に交易目的の荷馬車もある」

「つまり入念に事前に調べる必要がある」

「でもその時間もない」

「今でも手一杯。そこまで流石に手は回せない」

 

「「どうする、鬼ボス「リーダー?」?」」

 

 

 双子のニンジャが同時にリーダーであるラキュースへ問いかけて来た。心情的には聖王国へ勢力を伸ばそうとする『八本指』を何としても止めたい。しかし、2人の言う通り現実問題そこまで手を回す暇がない上に全てが『八本指』関係の荷馬車とは限らない。

 

 連中もそれに紛れて下地を整えているのだろう。巧みに素性を隠す連中の事だ、生半可な調べで荷馬車を襲えば痛い目に遭うのは目に見えている。

 

 

「悔しいけれど、今はそこまで手を回せる状況じゃないわ。私たちは今できる範囲を精一杯やるしかない」

 

「今はそれが良いと思います。あれもこれもと手を出しては結果的に破綻してしまうのは目に見えているので、今の活動を地道に続けながら『八本指』の尻尾を掴める機会を探るべきです」

 

 

 ラナーの同調する声にラキュースは頷く。

 これまで親友であるラナーの天才的な頭脳と発想力には何度も助けられてきた。今回の件もそうだが、『八本指』の暗号化された文を彼女はいとも容易く解析してしまう。お陰で麻薬栽培の場所の特定も進んでいるのだが、結果は知っての通りイタチごっこも良いところである。

 

 

「耐えるしかない、か」

 

 

 『八本指』は決して一枚岩ではない。其々の部門が自身の利益拡大を図るために他の部門の何かしらの情報や証拠をワザと各拠点へ残したりする場合がある。

 

 その情報を元に『八本指』を潰していくしかない。残念だがそれが今彼女達が出来得る精一杯なのだ。 

 

 それくらい『八本指』の根は深く、そして複雑だ。

 

 

「……どうしようもない事を悩んでも仕方ないわ。次は以前話していた村へ行くつもりよ。当然、全ての麻薬畑は燃やすつもりよ」

 

「優秀な暗殺者の腕の見せ所」

「腕が鳴る」

 

「ガガーラン達にはもう直ぐ、クライムが伝える頃合いね。2人に揶揄われてなければ良いけど…」

 

 

ラナーは鷹揚に頷いた。

 

 

「では、もし何か暗号文らしきモノが見つかった時は……」

 

「えぇ、その時はお願いね」

 

 

 ラキュースのウインクにラナーは美しい笑顔で応えると、何かを思い出した様に手をパンと叩いた。

 

 

「そうでした! 実はラキュースに伝えたい事があったの!」

 

「伝えたい事?」

 

 

 キョトンとするラキュースに構わず、ラナーははしゃいでいた。

 

 

「実は先日、聖王国で──」

 

 

 

 黄昏時になれば王都も昼間とはまた違う賑わいで溢れていた。今日の労働を酒の席でガヤガヤと騒ぎながら労い合う光景が王都の至る所で散見される。

 

 人々で賑わう通りを間を縫う様に小走りで走る、短く切り揃えた金髪と太い眉と吊り上がった三白眼が特徴的な一人の少年がいた。

 

 彼の名はクライム。

 

 リ・エスティーゼ王国第三王女であるラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフお抱えの兵士である。今彼は主人であるラナーからの御使いでとある場所へ向かっていた。

 

 暫く進むと彼はとある宿屋へ辿り着いた。扉を開けると一階が丸ごと酒場兼食堂になっており、複数人の冒険者達が其々の丸テーブルで談笑をしたり、次の仕事について話し合いなりをしながら酒や料理に舌鼓を打っていた。

 

 クライムは他の冒険者たちには目もくれずに店の一番奥にある丸テーブル席へ歩を進める。

 

 そこには2人の冒険者が居た。

 

 1人は漆黒のローブで全身を覆い、朱の宝石が中心に埋め込まれた仮面を被った小柄で、もう1人は対照的に丸太の様に大柄な人物だ。

 

 

「よぉ、童貞!」

 

 

 大柄の人物がクライムに気付くなり、右手を振って声を掛けてきた。クライムは自身の呼び方に敢えて気にしないふりをして大柄の人物に話し掛けた。

 

 

「お久しぶりです、ガガーランさん。それにイビルアイ様」

 

「あぁ」

 

「久しぶりだな。元気そうじゃねぇか」

 

 

 ガガーランと呼ばれた大柄の女性とイビルアイと呼ばれた小柄な少女。この二人はアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のメンバーである。ガガーランは巨石のような体躯を持つ正に鍛錬に鍛錬を重ねた女戦士と言った風貌を有しており、逆にイビルアイは少女然とした小柄な体格をしているがその言葉の節々からは貫禄が感じ取れる。

 

 

「何だ何だ? まさか俺様に抱かれに来たのか?」

 

「ご冗談を……アインドラ様からの言伝です」 

 

「恥ずかしがんなよ、そんなんじゃいつまで経っても──」

 

「ガガーラン、その辺にしろ。話が全然進まん」

 

 

 アインドラとは『蒼の薔薇』のリーダーであるラキュース・アルベイン・デイル・アインドラの事である。因みにラキュースは貴族の出自で、第三王女であるラナーとは親友の仲である。その為、時折今日の様にラナーから私用で御茶会に誘われたりなどをしている。しかし、実際は単なる御茶会ではなく、王国が抱えている深刻な問題を打開しようと考えるラナーと友人として彼女に協力するラキュースたちとの極秘会談だ。

 

 クライムはそんなラキュースから与えられた言伝を留守役の二人へ伝える様に遣わされたのだ。

 

 

 

 アインドラからの言伝を済ませたクライムは、本来なら直ぐに主人の下へ戻らねばならないのだが、ガガーランがそれを制止して彼にある話を始めた。

 

 

「なぁ、童貞。新しいアダマンタイト級冒険者が現れたって話聞いてるか?」

 

「あ、新しいアダマンタイト級冒険者ですか!?」

 

「その反応を見るに知らねぇようだな〜」

 

 

 ガガーランはクツクツと笑いながら彼の反応を面白そうに眺める。因みにこの席の会話が他へ漏れないよう魔法詠唱者のイビルアイが〈静寂(サイレンス)〉を掛けてくれている。

 

 

「まさか…帝国にですか?」

 

 

 クライムは苦い顔をしながら新しいアダマンタイト級冒険者が誕生した候補として帝国の名を口にする。とは言え王国と帝国は敵対関係であるが故に、帝国ではない事を期待したい。

 

 

「いや、帝国じゃねえ」

 

「では…王国でしょうか?」

 

「アッハッハ! 残念だが王国でもねぇ。まぁ〝残念〟つっても俺らからしたら商売敵にならねぇからある意味有難いんだけどなぁ!」

 

「が、ガガーランさん…」

 

 

 クライムをおちょくる彼女をこれまで眺めてばかりだったイビルアイが溜息を吐いて話に介入してきた。

 

 

「ガガーラン、その辺にしてやったらどうだ。勿体ぶらずさっさと教えてやれ。小僧だって暇では無いんだぞ」

 

「大丈夫だって、急いで戻った所で姫さんの側にはラキュースとティアとティナが居るんだぜ。万が一な事なんざ起きやしねぇよ」

 

「まぁ…それもそうだが」

 

 

 要するにクライムは居てもいなくても変わらないと言っている。しかし、それはクライム自身が良く理解していた。自分は決して強くもなければ、特別な才能を有している訳でもない。だからこそ、彼は敬愛する主人を護る為に日々剣の鍛錬に励み続けているのだ。

 

 

「いいか? 新しいアダマンタイト級が生まれたのは聖王国だ」

 

 

 クライムはガガーランの言葉にあまりピンと来なかった。冒険者のイメージが聖王国には無かったからだ。しかし、徐々にそれが聖王国の誰を指していたのか気付いた。

 

 

 

「ローブル聖王国ですか? 確か最近、久しぶりにオリハルコン級冒険者が現れたと聞いておりましたが…」

 

「あぁ。そのオリハルコン級だった奴が、ついこの間アダマンタイト級になったんだとさ」

 

「そ、それは本当ですか!?」

 

「嘘言ってどうすんだよ」

 

 

 クライムが驚くのも無理はないと2人は思っていた。その話を聞いた時の『蒼の薔薇』のメンバー達は真っ先に虚偽の可能性が脳裏によぎったからだ。

 

 普通に考えて先ずあり得ない。

 

 どんな強さを持つ人物であっても長い年月を掛けて実績と経験、信頼を積み上げて漸く昇級試験を受けられるのだ。昇級し上位のプレートへ行けば行くほど報酬額も増えるが並行して難易度も上がりそれなりの時間は掛かる。つまり、その聖王国で生まれたアダマンタイト級冒険者はそれほどの偉業を成し遂げたと言う事なのだろう。

 

 

「まぁ俺様もついさっきイビルアイからその話を聞いた時はマジで驚いたぜ」

 

「すまなかったな、言うのをすっかり忘れてた」

 

 

 2人の会話を他所にクライムは手に汗を握るほどの期待と憧れ、好奇心で胸が熱くなっていた。その新しいアダマンタイト級冒険者は何者で、どんな偉業を成し遂げたのだろう。

 

 彼はそんな疑問を聞かずにはいられなかった。

 

 

「も、申し訳ありません。その聖王国で生まれた新しいアダマンタイト級冒険者のお名前は何とおっしゃるのですか? 一体、どのような偉業を成し遂げたのでしょうか?」

 

「あー、そう言えば俺も詳しくはまだ聞いてねぇな。知ってんだろ、イビルアイ?」

 

 

 イビルアイは咳払いをしてから話し始めた。

 

 

「確かモモンという名前だったな。聖王国では『漆黒の英雄』や『黒騎士』などと呼ばれている戦士で、チーム名は『漆黒』と呼ばれているようだ」

 

「ほへぇ〜。んで、他のメンバーは?」

 

「いない。モモン1人だけだ」

 

 

 ガガーランは驚愕と呆れが入り混じった顔で眉を顰めた。

 

 

「はぁ〜〜?? 1人だけとかマジか? 駆け出しならまだ1人だけってのも納得するがよ……そのモモンとかいう奴はよっぽど腕っ節に自信がある馬鹿なのか? それ故にアダマンタイトってか。はは、とんでもねぇな」

 

 

 クライムもガガーランの言葉に同意見だ。しかし、それでもアダマンタイト級へ昇り詰めるほどの冒険者だ。それにこの情報を持ち出したイビルアイがガセネタを話すとも考えられない。

 

 

「それでそのモモンとかいう奴はどんな偉業を成し遂げたんだ?」

 

「何でも2ヶ月程度の間でこなしたというが…」

 

 

 イビルアイは淡々と説明を続けた。

 

 

「アベリオン丘陵に現れた1万体にも及ぶアンデッドの出現騒動の解決、ギガント・バジリスクの討伐、あとは『十傑』の一角を落とした、と聞いているな」

 

「『十傑』?」

 

「アベリオン丘陵に跋扈している亜人部族の10体の長達だ。噂では全員が英雄に匹敵する実力者揃いらしい」

 

「へぇ〜そいつぁスゲぇや。しっかし、聖王国もウチに負けず劣らずで厄介なモン抱えてんだなぁ」

 

「確かにアベリオン丘陵は200年前からモンスターや亜人部族が犇く場所ではあったが、英雄の領域に匹敵するほどの強者は居なかったはずだ。元々、独自の文化を築き得る亜人は、基本的に『強者こそが絶対』という価値観を有している。生存競争の中で自然と強者が生まれるようになったと言ったところか」

 

「あぁ。そこが亜人の厄介なところだな」

 

 

 クライムは息を呑んだ。

 特に彼が最もイメージし易い偉業はギガント・バジリスクの討伐である。蜥蜴にも似た全長10メートルにもなる巨大モンスターで、石化の視線、体液は即死級の猛毒、分厚い皮膚はミスリル級に匹敵するという。1体で都市や街を壊滅出来るほどの実力を持つ伝説の魔獣を討伐したとなればアダマンタイト級と評されるのも無理はない。それもたった1人となれば尚更だ。

 

 加えて英雄級の亜人族の戦士にも打ち勝ったとなればいよいよとんでもない人物である。

 

 

「なぁ…イビルアイ、ぶっちゃけその話ってどこまでが真実なんだ? 流石にギガント・バジリスクを戦士一人で討伐なんざ無理があるぜ。ありえねぇよ」

 

 

 やや呆れ気味に天井を見上げながら椅子に凭れ掛かるガガーランだが、イビルアイは人差し指を立てて「チッチッチッ」と左右に振る。

 

 

「これに関しては殆どが真実と見ていい。アンデッド騒動に関しては何人もの斥候が大地を埋め尽くす程のアンデッドの大群を目撃しているし、モモンが単身でアベリオン丘陵へ駆け付けて二本の大剣を振るいアンデッドを殲滅している姿を聖騎士団の連中が目撃している。それに奴は一万体にも及ぶアンデッドの大群を所持していた貴重なマジックアイテムを使用し、その大半を殲滅したと聞く。実際、アベリオン丘陵には大きなクレーターができていた」

 

「なるほど。アンデッドの件はマジっぽいな」

 

「それから、大量のアンデッドの発生は人為的な物だったらしく、その首謀者もモモンは捕らえたようだ。その首謀者が何者なのかは不明だが、ズーラーノーンではないかという非公式の見解もある。エ・ランテルのバレアレ薬品店の孫が拉致されたという事件にも関わっていたようだ」

 

「あー、確かあの婆さんの孫ってヤベェタレント持ってたんだよな。それを狙ってたってわけか……んで、それをモモンとか言う野郎が解決したってか」

 

 

 冷汗を垂らすガガーランにクライムは問い掛けた。

 

 

「ガガーランさんでも難しいですか?」

 

「まぁ…骸 骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)程度なら1万体でも突破は出来る。だが、その後にズーラーノーンの、それも高弟級となれば無理だなぁ」

 

 

 あのガガーランでさえモモンと同じ成果を上げる事は無理だという発言にクライムは驚いた。しかし、そうなると益々モモンという戦士の実力が計り知れないものとなる。

 

 

「あ! す、すまないな…1つ訂正がある。モモンは正確には『魔法戦士』らしい」

 

「魔法戦士?」

 

 

 聞き慣れない言葉に困惑するクライムだが、話を聞いたガガーランは眉間に皺を寄せた。

 

 

「おいおい、イビルアイ。つーことはモモンは中途半端な実力者って事になるんじゃねぇか? 二つも職を修めたら専門職みてぇに特化出来ねぇから、戦士としての技量も魔法詠唱者としての実力も大した事がなくなるんじゃねぇか」

 

 

 ガガーランの言うように職業を二つ併用する者も数は少数ながら確かに存在するが、その特性上、どちらにも特化する事ができない為、基本その実力は中途半端に終わることが殆どだ。しかし、イビルアイは話を続ける。

 

 

「それがな。奴は第三位階魔法まで行使出来るらしい。そもそも戦士としての実力は『十傑』の一人を倒したのだから…まぁ異質としか言いようがないな」

 

「第三位階ッ!? おいおい、冗談じゃねぇぞ」

 

「よほどの天才か、それともタレントか、或いはマジックアイテムの力か…どちらにせよ聖王国はモモンを国内へ閉じ込めておくのに必死らしい」

 

「確かに帝国辺りならやりそうだ」

 

 

 一部の天才でしか到達し得ない第三位階魔法を行使できる。コレがどれだけ凄い事なのかは魔法知識に疎いクライムでさえ理解出来た。同時に彼の中で嫉妬心が燻っていた。そのモモンと言う人物を自分は良く知らないが、少なくとも自分は護りたい人が、忠義を尽くしたい人がいるのにその為の才能を持っていない。イビルアイから一応、魔法の修行をつけてもらった事があったが結果は残酷だった。

 

 

──お前に才は無い、その分別の努力をしろ──

 

 

 と、ハッキリ告げられてしまった。しかし、先ずは魔法の知識を学ぶべきだと助言された。知識を増やせば魔法を行使する相手の狙いが理解出来るからだと。厳しいことを言うようだが、彼女なりにクライムを気遣っての助言である事は間違いなかった。

 

 

「ギガント・バジリスクに関しても、護衛を依頼していたロフーレ商会のロフーレが実際に奴が単身で討伐したのを見たという証言がある」

 

「ほー、あの豪商がねぇ。つぅことは、モモンは俺の凝視殺し(ゲイズ・ペイン)と同じ効果の装備を持ってるのか? アンデッド騒動でも強力なマジックアイテムを使ったらしいじゃねぇか」

 

「常識的に考えればそうだろうな。いや、そうとしか考え付かん。何の考えも無しにギガント・バジリスクに挑むなど愚の骨頂だ。私でもアレが相手となれば本気で対処せねばならない」

 

「いやいや。イビルアイは魔法を使って遠距離から攻撃すりゃあ楽勝だろ?」

 

「いくら私でもそれは無理だ」

 

 

 聞けば聞くほど凄い人物なのが分かる。

 モモンと名乗る人物が王国の冒険者でない事が心底残念だが、もし彼と出会う機会があれば是非色々と話を聞いてみたいとクライムは思った。

 

 

(漆黒のモモン…どんなお方なのだろう)

 

 

 彼の中で思い描く英雄像を脳裏に浮かばせながら胸を昂らせていた。




何気に初登場の蒼の薔薇

本編で例の麻薬栽培している村の畑を焼き討ちする前のつまりです
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