Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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第30話 突撃!『八本指』アジト!

クレマンティーヌと感動(?)の再会をしたモモンは彼女から得た情報を元に『八本指』のアジトと化しているデボネの某空き家前に居た。

 

 

「ふーん、此処が『八本指』の隠れ家か。なんか地味だな」

 

 

裏路地から通じる何処にでもありそうな一軒家だった。もっと暗い地下室とかそっちをイメージしていたが、本物の秘密結社はやはりこういう何処にでもあるような建物を拠点に使うものらしい。

 

 

「ところで…なんでお前まで居るんだ?」

 

 

モモンが背後を振り返る。

そこにはクレマンティーヌが立っていた。

 

 

「いや〜。折角だし私も手伝っちゃおっかなー、なんて思って…ダメ?」

 

「駄目って訳じゃないんだが…大丈夫なのか?」

 

「酷いなぁー。自分で言うのも何だけど私はこう見えて結構強いんだよー。ほら、モモンさん1人だと大変だと思うしさー。ね?役に立つからさー」

 

「うーむ…」

 

 

クレマンティーヌはゴマを擦りながら猫撫で声でモモンに言い寄る。無論、善意で手伝おうなど彼女は微塵も考えていない。

 

 

(ここで少しでも貸しを作っておいた方が色々と都合が良いしねー。ま、第9位階魔法を扱うコイツなら大体の事は魔法で解決しちまうんだろうけどさ)

 

 

それでもただ『八本指』の拠点を案内しただけでさよならをするのは余りにも勿体無い。今は少しでもモモンに恩を売って、モモンに気に入られるよう活躍をすれば今後の逃亡生活の保険に利用出来るとクレマンティーヌは判断した。

 

あわよくばコイツの弱点を探ることが出来ればもっと良い。

 

 

(魔法詠唱者の殺し方は心得てるつもりだけど、コイツは規格外だからなー。その辺の魔法詠唱者と同じ殺り方は危険過ぎる……気がする)

 

 

恩を売っておくと同時にモモンの弱点を見つける事が出来れば万々歳だ。ただしコレは飽くまで自らの保険の為であり、少なくとも今は本気でモモンと敵対する気は無い。

 

 

「別に構わんが、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫大丈夫ぅ〜。こう見えても私って英雄級の実力者だからさー」

 

「…まぁいいか。危なくなったら言うんだぞ?」

 

 

モモンが右肩を回しながら鉄製の扉の前へ移動する一方、その背後ではクレマンティーヌが呆けた顔をしていた。

 

 

(あ、アイツ…今何て言った?)

 

 

自問する彼女だがその答えを彼女はしっかりとその耳で聞いている。

 

英雄級の実力者のみで構成された漆黒聖典では第九席次を与えられ、その実力から『疾風走破』の異名を持つ超一級の戦士が自分だ。常に「人殺しが大好きで恋して愛している」「拷問が大好き」と自ら語る人格破綻者、それが自分だ。

 

 

──ハッ!狂人め 優秀な兄に感謝しろ──

──あの兄がいなければとっくに死罪だ──

──理性は母の胎か兄に持っていかれたか?──

──クインティアの片割れめ──

 

 

そんな自分にモモン(アイツ)は言った。

 

 

── 危なくなったら言うんだぞ──

 

 

(な、なんだよ、ソレ?)

 

 

クレマンティーヌは酷く困惑していた。

それは強者だけ使うことの許される弱者への言葉だったからだ。無論、彼女自身モモンが強者である事は認めている。しかし、いざ自分がこの様な言葉を使われる立場になるとその衝撃は大きかった。

 

クレマンティーヌは呆然と夜空を仰ぐ。

 

普段であればそんな妄言を吐くような奴に出くわしたらありとあらゆる苦痛を与えた末に殺して、ゴミの様に捨てるだろう。だが、奇妙なことに苛立ちや不快感は微塵も湧いてこない。

 

この心境は彼を圧倒的強者で勝ち目無しと本能で認めているが故なのか、それとも生まれて初めて言われた気遣いだからなのかは分からない。

 

ただ一つ分かったことは──

 

 

(ま。たま〜には……こういうのも悪くないかも)

 

 

次の瞬間、大きな振動が起きて我に返ってクレマンティーヌは慌てて前方を見た。そこには右拳を突き出したモモンと、目の前にあった筈の鉄製の扉が土煙と共に消えた光景があった。よく見ると鉄製の扉は「く」の字に曲がった無惨な状態で建物内の奥まで殴り飛ばされていたのが見て取れる。

 

 

「げっ。扉に〈静寂(サイレンス)〉を掛けたから油断した」

 

 

モモンが少し申し訳無さそうに言いながら此方へゆっくりと振り返る。すると建物内から数人の男達が怒鳴り声と共に走って来る音が聞こえて来た。〈静寂〉を使って扉を殴り壊す音は消せたとしても吹き飛ばした時の衝撃と振動までは消すことは出来なかったらしい。

 

 

「やれやれ、仕方ないか」

 

「はは……」

 

 

やってしまったものは仕方が無いと言った態度のモモンに対しクレマンティーヌは苦笑いを浮かべる。

 

 

(なにもそんな乱暴に開けなくたって…ま、嫌いじゃないけどねぇ〜)

 

 

などと思いながらクレマンティーヌはマントを靡かせて腰に備えた2本の刺突剣(スティレット)を両の手で1本ずつ持ちながら歩み始める。

 

 

「な、なんだ今の衝撃は!?」

「嘘だろ!?と、扉が!!」

 

 

見張り番と思しき2人の男が慌てふためきながら出て来たのを確認すると、クレマンティーヌは一瞬で距離を詰めて2人の頭蓋に持っていた刺突剣を突き刺した。

 

頭蓋に穴を開けられた2人の男は自分の身に何が起きたのか認知する前に絶命し、糸が切れた糸人形のように床へ斃れ伏す。

 

 

「ほらぁ。私結構やるでしょ〜?」

 

 

死体と血の池の上に立つクレマンティーヌは三日月の様に目を歪ませてモモンに笑い掛ける。

 

そんな彼女の早業を見ていたモモンは顎に手を当てて素直に感心していた。

 

 

「おぉ、速いな」

 

「でしょでしょ〜? って、それどころじゃないか。音は消せても衝撃は大きかったから、サッサと済ませないと」

 

「そうだな」

 

 

この建物での目的は『八本指』幹部の捕獲、そしてこの国で暗躍する『八本指』に関する情報や物的証拠を見つける事である。

 

モモンが騒ぎを起こさなければもっと静かに余裕を持って行動出来たのだろうが今となってはもう後の祭りだ。

 

 

「すまない。手間が増えた」

 

「べっつにぃ〜」

 

 

2人は建物内を探索するべく行動を開始した。

 

 

 

建物全体が揺れてから少し遅れて警備の配下達の狼狽や怒号が微かに聞こえてきた。

 

異常事態、それも襲撃という一大事なのは火を見るよりも明らかである。

 

 

「こっちから出向く手間が省けたな」

 

 

そんな状況でもブレインは平然とした態度のまま愛刀を肩に掛けた状態で椅子に座っていた。

 

 

「ローブル聖王国史上初のアダマンタイト級冒険者『漆黒』のモモン。まさか自分から斬られに来てくれるとはな……!」

 

 

ブレインの身体は微かに震えていた。

 

これから自分が斬る相手は数々の偉業を成し遂げた救国の英雄である。そんな相手を斃す事を出来れば、周辺諸国最強の異名を持つガゼフ・ストロノーフ打倒へ更に一歩近付けるだろう。武者震いを起こすなと言う方が無理と言うものだ。

 

そこへ1つの影がブレインの背中を覆う。

彼が背後へ振り返るとそこには恐ろしい死の気配を纏う存在が立っていた。

 

 

「非常事態発生だぞ、ブレイン・アングラウス」

 

 

その声は暗く、まるで墓穴から話し掛けられたような虚な響きだった。

 

その声の主は深紅の糸を縫い上げた袖以外は黒く染められたフード付きローブを身に纏っていた。フードを深く被っている為、ブレインの視界にははっきりと映らないが、その気配は間違いなく生者のそれでは無い。その存在こそ『六腕』が一角、〝不死王〟デイバーノックだった。彼は人間では無い、そもそも生者ですら無い、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)というアンデッド種なのだ。

 

基本、アンデッドは生者を憎むものだが、ごく稀にその憎しみを抑え、生者と関わるだけの知性を有するアンデッドも存在する。デイバーノックはそんな稀有なるアンデッドなのだ。彼はそんな高い知性と実力、そして利害の一致から『六腕』にスカウトされた経歴を持つ。

 

彼もまたブレインと同様に果たしたい野心を持っていた。

 

 

「侵入者だろ。分かってるさ」

 

「ならば己の役目を果たせ。貴様の失敗は目付役の俺も無関係とはならんのだ」

 

 

僅かな苛立ちを見せるデイバーノックだが、ブレインは意に介す様子も無く目も合わせない。直ぐにムキになった所で無駄だと判断したデイバーノックは淡々と今起きている非常事態を話し始める。

 

 

「暗殺部隊からの報告によれば侵入者は2人らしい」

 

「2人?」

 

 

その言葉にブレインは肩をピクリと動かす。

 

 

「『漆黒』のモモンだけじゃないのか?」

 

「もう1人は人間の女らしい。だが相当な手練れだ。既に警備部門の連中が何人も殺されている」

 

「へぇ…」

 

 

ブレインは邪悪な笑みを浮かべた。女であろうが何だろうが関係無い。自身を更なる高みへと登らせてくれるであろう好敵手が1人増えたかも知れない事実にただ歓喜していたのだ。

 

 

(誰かは知らんが、強者なら大歓迎だぜ!)

 

 

まだ出張る気は無かったが気が変わった。

 

椅子から立ち上がったブレインは愛刀を腰に納めて、両手の指にゼロから餞別として受け取った指輪型の一級品マジックアイテムを惜しみ無く装備する。マジックアイテムの効果でチカラが湧き上がる感覚を実感すると、デイバーノックに顔を向けた。

 

 

「コッコドールはどうした?非常用の通路から隣の家屋へ逃げたんだよな?」

 

 

ブレインの問いにデイバーノックは首を小さく左右に振って答えた。

 

 

「いや、この建物の隠し部屋に身を隠している」

 

「おいおい。『八本指』の重役だぞ? 逃した方が良いに決まってるだろうが」

 

「無論だ。だが、ヤツがそれで良いと言って聞かんのだ」

 

「なんだよそれ?」

 

「どうやら相当気に入られたようだな、ブレイン・アングラウスよ」

 

「か〜〜っ! こりゃ益々侵入者を討ち取らないといけないらしい」

 

 

やや面倒臭そうに頭を掻くブレインだがある意味チャンスでもあった。ここで実績を示せば新しい『六腕』のメンバーとして正式に迎え入れられるのは確実だと思っていたからである。

 

 

「警備部門で鍛えた暗殺部隊が護衛に付いてる。それに隠し部屋が見つかる筈がない」

 

「ならいいけどよ」

 

「さっさと行くぞ」

 

 

デイバーノックが部屋の扉へ向かい歩き始めた。その様子をブレインは片眉を上げて怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「アンタも行くのか?」

 

「先も言ったが俺は貴様の目付役だ。それに…」

 

 

 

デイバーノックはゆっくり振り向き、その濁った目でブレインを睨み付ける。

 

 

「貴様が我らを裏切らんとも限らんからな」

 

「はは、なるほどね」

 

 

 

2人は侵入者を始末するべく部屋を後にした。

 

ブレインとて油断しているつもりは無い。此処での結果次第で自身の道は良くも悪くも大きく変わる。

 

 

(まぁ、いずれゼロも討つつもりだがな)

 

 

ブレインは僅かに口角を上げた。

今の自分は間違いなく修羅の道を進んでいる。

 

 

 

 

武装した屈強な男達が廊下を駆けていく。各々が得意とする武器(エモノ)を手に持ち、それを振るうべき対象に向けた怒声や罵声が響き渡る。

 

 

「殺せ殺せ!!」

「侵入者を排除しろ!!」

 

 

侵入者は2人、此方は大勢。

相手が多少強くとも数の力で押し潰せば良い。

廊下を駆ける集団の後方にいた男達はどこか楽観視していた。

 

だがそれはとんでもない誤りだったと気付かされる事となる。

 

 

「がは…!」

「うぐ…!?」

 

 

手柄を立てるべく功を焦り前を駆けていた仲間がバタバタと斃れていくのが見えた。

何故倒れたのか、誰がやったのかまるで分からない。ワケも分からず目の前の仲間が次々と斃れるのだ。

 

 

「え?…な、なにが──」

 

 

後ろにいた男達は咄嗟に武器を構えるも時既に遅し。彼らは自分たちの身に何が起きたのか気付く前に意識を失い、床に斃れ伏してしまったからだ。確信は無いが唯一感じる事が出来たと言えば、風のようなモノが自分の直ぐ近くを通り過ぎた…そんな感覚だけだった。

 

そして、彼らが起き上がる事は二度と無かった。

 

 

「ぜーんぜん、歯応えなーい。本当に『八本指』の構成員なのか疑いたくなるなぁ〜」

 

 

血の池と化した廊下、その床には額や喉、胸部に穴を開けた屈強な男達の死体が無数に転がっていた。クレマンティーヌは血に塗れたスティレットを両の手に1本ずつ持った状態で気怠そうに佇んでいる。

 

 

「英雄級の実力っていうのもあながち間違いじゃ無さそうだな」

 

 

彼女の背後から大の男を背負った『漆黒』のモモンが歩いてやって来た。

 

 

「その格好も軽戦士(フェンサー)としてちゃんと機能してたんだな。てっきりただの痴女かと」

 

「痴女って……ま、まぁそう見えるのも仕方ないかも知れないけどさぁ。とにかく、確かこの先だよね? モモンさんが担いでる男が言ってた場所って」

 

「あぁ。そうだな」

 

 

そう答えたモモンは担いでいた男を乱暴に床へ落とした。左頬が赤く腫れ上がったその男は完全に伸び切っており、暫くは起きそうになさそうだった。

 

男を捨て置いた2人はその先の部屋の前へ辿り着く。

 

 

「〈生命探知(ディテクト・ライフ)〉に反応あり。ふむ、5人か……今回は部屋で大剣も振るえそうだがら俺がやる。万が一、討ち漏らすようならクレマンティーヌが始末してくれ」

 

「りょーかい」

 

 

モモンが扉を豪快に蹴破る。扉は木製だった為、そのまま粉々に砕け散るも却って良い目眩しになった。すかさずモモンは背中の備えた2本のグレートソードを構えて部屋へ突入する。

 

 

「し、侵入──」

 

 

モモンは叫ぼうとしたその男に狙いを定め、右手に持っていたグレートソードで男の左肩から右腰に掛けて袈裟懸けに斬り下ろす。男は断末魔を避ける暇も無く、血飛沫と共に真っ二つに断たれてしまった。

 

 

「て、てめぇッ!!」

 

 

仲間の無惨な死を目撃した1人が激昂しながら持っていた斧をモモンに向けて振り下ろす。モモンはその一撃を左手のグレートソードで軽く受け止めると僅かに剣の角度を変えて斧の軌道を受け流した。受け流されたことでバランスを崩した男にモモンは右手のグレートソードを振り下ろす。男は夥しい血と臓物を撒き散らしながら上半身と下半身に切断された。

 

瞬く間に仲間が2人も殺されて困惑する残り3人に対し、モモンは両手のグレートソードをその内の2人に向けて投擲した。2本のグレートソードは2人の胴体を容易く貫くと壁に突き刺さり2人は壁に磔にされる。

 

丸腰のモモンは残り1人の男へ顔を向けた。

 

 

「ひぃ…!?ま、待ってくれ! この部屋に隠し通路があるんだ!! あの床下と戸棚の裏だ!!」

 

 

己が助かりたいが為に涙目を浮かべて必死に聞かれてもいないこの部屋の秘密を暴露する男にモモンは静かに歩み寄る。

 

 

「ふむ、道は2つか。この建物には『八本指』の幹部が居ると聞いたのだが、どっちに居るんだ?」

 

「へ?」

 

「同じ事を言わせる気か? それとも時間稼ぎか?」

 

「え? ち、ちが──」

 

モモンは右手で男の頭をわし掴むと軽々と持ち上げる。男はモモンの手を掴んで必死に抵抗するがまるで解ける気配が無い。それどころか万力の如きチカラで掴まれている為、文字通り頭が割れそうな激痛に悶えている。

 

 

「最後に聞くぞ? どっちに幹部は居るんだ?」

 

「じ、知りばぜん知りばぜん!!ごべんなざい!!ぼんどうに知らな──」

 

 

メキメキと嫌な音が男の頭蓋から聞こえて来る度に声にもならない悲鳴が聞こえる。

 

 

(〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉を使った所で意味無さそうだな……)

 

 

その後、モモンは「あっそ」と興味なさげに答えると男の頭部を卵の如く容易に粉砕した。辺りに大量の血飛沫が撒き散らされモモンにもその返り血が降り注ぐ。しかし、彼は特に気にする様子も無く、「えーっと、確か」と呟きながら男が言っていた隠し部屋を探し始めた。

 

 

(こいつ、マジか…なんて言うか、色々ヤべぇ)

 

 

それを部屋の入り口付近で眺めていたクレマンティーヌはモモンの殺戮劇に驚いていた。彼女自身、人を殺すことに何の躊躇も無いし、それ自体は何とも思っていない。

 

問題はモモンの殺し方を見た時の違和感だった。

 

 

(根拠は無いけど、アイツの殺し方は人間のソレとは何処か違う。人が人を殺すと言うより人じゃないバケモノが人をまるで虫ケラみたいに、何の気無しに殺す…本当に人間?)

 

 

彼の戦い方はハッキリ言って素人同然だ。

肉体能力は驚嘆に値するもその大剣の扱い方はまるでなっちゃいない。力任せに棒切れを振り回すだけの児戯に等しい。殺戮劇の最中、敵の攻撃を受け流す動きもあったがそれでも戦士職のクレマンティーヌから見れば及第点以下である。

 

だがクレマンティーヌは知っていると言うよりも彼が教えてくれた。自身の本業は魔法詠唱者(マジックキャスター)だと。戦士風の格好をしている事について彼は「趣味みたいなものだ」と答えていたがそうは思えない。

 

 

(益々訳分かんないって! なんで魔法詠唱者なのに戦士の格好してんの!? なんで魔法じゃなくて素人同然の剣で対抗しようとしてんの!?)

 

 

何もかもが常識外の存在。

英雄級か逸脱者だとしても彼女の勘がその域を超えていると告げている。

 

 

「お? 見つけた」

 

 

クレマンティーヌが1人で思案している内にモモンが隠し部屋を見つけた。

 

戸棚の裏に隠れていた2階へ通じる階段と酷く暗い、ハシゴが掛けられている地下へと続く通路だった。

 

 

「さてと、どうするかな」

 

「あ、あのさぁ〜…」

 

 

腕を組んで悩んでいるモモンにクレマンティーヌが恐る恐る声を掛ける。

 

 

「ここは素直に二手に分かれない? 急がないと『八本指』のお偉いさん逃げちゃうかもだしさ」

 

 

クレマンティーヌとしては二手に分かれる事で狙いの『八本指』幹部を捕らえてモモンに借りを作らせるという狙いがあった。仮に失敗しても『八本指』の拠点制圧を手助けしたという好印象は与える事が出来る。

 

 

「うーん。確かに効率重視ならそれがベストだが…1人で大丈夫か?」

 

「し、信用無いな。私の実力見てたんじゃないの? 私が地下へ行くからもモモンさんは2階をお願い」

 

「む? 俺が地下でも構わないんだが?」

 

「いや、見た感じ地下の通路少し狭い感じだし。それじゃ大剣も…あー、魔法詠唱者だったもんね」

 

「ま、まぁそういうことだ」

 

 

死の支配者(オーバーロード)のモモンは種族特性上暗闇でも普通に視えるだけなのだが正体をバラすわけにはいかないのでここは彼女の言葉に乗る事にした。

 

こうしてモモンは地下へ、クレマンティーヌは2階へと向かった。

 

 

2階へ通じる階段を登ったクレマンティーヌだったが不思議と構成員達が襲って来る気配が微塵も感じず、また罠が起動することも無く順調に歩を進めていた。それが却って彼女の警戒心を強くさせる。

 

 

「おっかしいなぁ〜。下でのゴタゴタが嘘みたいに静かじゃん。もしかして逃げられちゃった感じ?」

 

 

気怠そうな言動をしつつも警戒心全開で辺りを注意深く観察する中、遂に行き止まりへ差し掛かる。そこには僅かに開かれた扉が見られた。

 

 

(チッ…舐められたもんだな)

 

 

完全に罠だ。

どうぞ入ってくださいと言わんばかりのワザとらしいやり方に苛立ちを覚えるも、それだけこの扉の先に居る奴は自信満々という意味でもある。

 

 

「なら、期待に応えてまんまと罠に掛かろうかな〜」

 

 

彼女は開け掛かった扉を乱暴に蹴破り、中へ入って行く。その両手には既に血を拭ってある2本のスティレットが握られていた。

 

 

「お邪魔ぁー……あ?」

 

 

部屋の奥に2人の人影。

 

1人は一見細身だがクレマンティーヌの経験眼から瞬時に実戦で鍛え込まれた肉体であると察知する。その佇まい、重心の掛け方を見ても相当な手練れだと瞬時に理解した。

 

 

(エモノは腰か…当て方から見て両刃の片手剣じゃないな。南方から偶に流れて来る『刀』ってヤツか?)

 

 

面倒臭い相手だ。彼女自身、刀を得意とする相手と戦った経験はあるがアイツは自分が斃してきたどの刀使いよりも強い。

 

もう1人は身体の輪郭が読めない為、ローブのような何かを全身に纏っているのだと分かる。佇まいから戦士としての技量が読み取れない為、瞬時に魔法詠唱者だと気付いた。

 

魔法詠唱者の力量は上手く推し量れないが、その魔法詠唱者は生者が持っていてはならない悍ましい気配を漂わせていたる。

 

 

(まさか…死者の大魔法使い(エルダーリッチ)か? 知能の高いアンデッドの中には生者が相手でも会話や取引が出来る個体が居るのは知ってたけど…アイツがそうなの?)

 

 

自分から観ても手練だと分かる剣士と死者の大魔法使い(エルダーリッチ)。かなり面倒臭い相手である。

 

 

「てっきりモモンが来るもんだと期待してたんだが……もう1人の方も相当な使い手らしいな」

 

 

刀使いの男が一歩、一歩と歩み寄り、やがて一定の距離まで近づくとその全容が露わになった。

 

 

「ブレイン・アングラウスだ。アンタ、名前は?」

 

 

細身の刀使い──ブレイン・アングラウスの名前を聞いた彼女は少し驚いた表情を見せた。

 

 

「あのブレイン・アングラウス? へー、まさか『八本指』に所属してたなんて意外だな〜」

 

「お? 俺を知ってるのか」

 

「昔、王国の御前試合であのガゼフ・ストロノーフ相手に決勝で互角に戦った剣士……それなりに有名だよー」

 

「はッ、それなりかよ」

 

 

ブレインは苦笑いを浮かべる。

 

 

「あの試合の後、姿をくらましたって聞いてたからどっかで武者修行してんのかなーって思ってたけど……ふーん、『八本指』か〜。まぁ確かに流れ者には色々と都合良いかもだしね〜」

 

 

ニヤニヤと笑うクレマンティーヌだがブレインは気に留める様子は微塵も無い。

 

 

「ま、色々あってな。さてと、そろそろアンタの名前も──」

 

「いい加減にしろ」

 

 

何処からか聞こえてきた何とも悍ましい声──死者の大魔法使い(エルダーリッチ)のデイバーノックが口を開く。

 

 

「さっさと侵入者を片付けるぞ、ブレイン・アングラウス。それとも臆したか?」

 

「チッ。わーったよ」

 

 

ブレインは頭をガシガシと乱暴に掻きながら不機嫌そうに応えた。

 

 

「やっぱり死者の大魔法使い(エルダーリッチ)か……なんでも居るんだねぇ〜『八本指』は」

 

「おい、人間の小娘。俺をその辺の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と同列に扱うな。俺は『不死王』デイバーノックだ」

 

「あっそ。ご大層な異名だこと。ま、どうだっていいよ」

 

「…なに?」

 

 

クレマンティーヌはゆっくりと姿勢を変える。それはまるでクラウチングスタートに近いが、どちらかと言えば獲物を狙う猛獣の姿を彷彿とさせていた。

 

 

「どーせ。アンタたちは此処で終わりなんだしさ〜」

 

 

その異様な雰囲気に驚いたデイバーノックは瞬時にブレインよりも背後へ退がった。右手に持つ魔法の水晶(オーブ・オブ・マジックブースター)を妖しく輝かせながら、左手で〈火 球(ファイヤーボール)〉を形成する。

 

 

「ブレイン・アングラウス。あの小娘は2人がかりで倒すぞ。アレは危険だ」

 

 

一方のブレインもクレマンティーヌとは別の異様な構え…『居合い』の姿勢を取っていた。

 

 

「やっぱりな。アンタ只者じゃねえ」

 

 

次の瞬間、クレマンティーヌは床を踏み砕くと極限まで引き絞られたバネの如き勢いでブレインまで一直線に駆け出した。そして、ブレインの間合いへ到達したその刹那、目にも止まらぬ速さで腰に備えられた鞘から刀による一閃がクレマンティーヌの眼前へ迫る。

 

 

一方、地下へ降り立ったモモンは腕を組んで悩みに悩んでいた。

 

 

「うーん、どうするべきか。放っては置けないし、かと言って、貴重なアイテムを使うにしても数が足りないし……うーん」

 

 

やがてモモンは「これしかない」と呟くと何も無い空間に第九位階魔法〈転移門(ゲート)〉を展開させていた。




クレマンティーヌVSブレイン&デイバーノック

そしてモモンはとある問題に直面する事となってしまいました

書いてて思ったんですがちゃっかりクレマンティーヌがレギュラーみたいになってますね。聖王国の話なのに……困ったなぁ
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