Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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誤字報告、感想、評価ありがとうございます

今回は少し長めでオリジナルのマジックアイテムや魔法があります


第31話 ブレイン・アングラウス

クレマンティーヌが隠し通路を通って2階の探索をしている頃、モモンは地下へと続くもう一つの隠し通路を進んでいた。

 

地下通路は決して広いとは言えず、モモンが両腕を広げれば壁に指先が当たる程度の幅しか無い。ただし通路の作りそのものはしっかりしており、床も土が剥き出しかと思いきや、ちゃんと木の板で舗装されている。通路の天井には等間隔に〈永 続 光(コンティニュアル・ライト)〉が掛けられたランタンが吊り下げられているのだが、今は1つも光を宿していない。言わずもがな真っ暗闇な状態なのだがモモンにはアンデッドの基本特殊能力にある〈闇 視(ダークヴィジョン)〉の効果によって暗闇でも関係無く辺りを見通すことが可能である。

つまり、灯りが無いという状況はモモンに対して全くの無意味である。

 

 

(こんな地下道で灯り一つ付けないなんて普通ならあり得ない。十中八九罠だな)

 

 

モモンは既にこの灯りが一つも付いていない状況を単なる偶然では無い事に気付いていた。此方の視界を奪う、もしくは此方が灯りを付ける事によって自身の位置を報せる為が目的なのは明白である。

 

 

(残念だが俺に灯りは不要だ。うーん、扉らしきモノは今のところ見当たらないな。このまま通路が続く限り進んで…ん?)

 

 

暫く進むと通路の奥からフードを深々と被った男が現れた。見るからに『八本指』の暗殺者であろう男の手にはクロスボウが握られており、ゆっくりと此方に向けて構え始める。

 

それでもモモンは歩みを止めずに進み続けた。

 

 

(通路の奥からいきなり出てきたな。多分、奴がいる場所は廊下の突き当たりなんだろう。てっきり隠し扉から奇襲してくるものだと思ったが)

 

 

なんの迷いもなく此方へ照準を合わせる様子を見るに相手も何かしらの方法で此方の存在を正確に認知しているようだ。魔法か或いはマジックアイテム、それとも長年暗殺者として培った経験によるものだろうか。

 

などと考えている内に矢が放たれた。

空を切る音もなく飛来する矢には〈静寂(サイレンス)〉も掛かっていたのだろう。この程度の暗闇で視界を奪われるような者ならあの一射で身体か頭部を貫かれてその生涯を終えるだろう。

 

だが残念、今回の相手はモモンだった。

 

常時発動型特殊技術(パッシブスキル)の〈上位物理無効化Ⅲ〉によりモモンはレベル60以下の攻撃を受け付ける事は無い。放たれた矢はモモンに致命傷を与えるどころか傷ひとつ付けずに弾かれてしまった。

 

 

「特に面白味もない奇襲だったな。そもそも当たった所でどうと言うことは無いんだが。さてさて、この後はどう出る?」

 

 

案の定、真っ直ぐ飛んでいった矢が呆気なく弾かれた事に暗殺者は動揺していたものの、モモンが装備している漆黒の全身鎧による効果だと判断したらしい。すぐに対処すべく背後へ顔を向けると暗殺者の後ろから同じ風貌の輩が数人現れた。

 

暗殺者たちは懐から短剣を取り出し、身を屈めながらモモンに向かって駆け始める。

 

 

「面倒だな。〈絶望のオーラⅠ〉」

 

「うっ…!?」

「がっ…!」

 

 

モモンへ迫っていた暗殺者たちは悉く廊下に倒れ伏した。〈絶望のオーラI〉で死ぬことは無い為、どうやら恐怖のあまり気を失ってしまったらしい。

 

 

「此方へ降りて来ている事は恐らく知られているだろうが、これ以上下手に騒ぎを聞かれて目的の人物に逃げられると意味がないからな」

 

 

モモンは倒れた暗殺者の1人に〈魅了(チャーム)〉を掛けてから軽い平手打ちで無理矢理起こした。やや意識は朦朧としているが、構わずモモンは彼に問い掛ける。

 

 

「この地下通路の先に『八本指』の幹部は居るのか?」

 

「あぁ。この先の、10号室の隠し部屋に居る」

 

 

ビンゴだ。正直、少し諦め半分の気持ちだったが目的の人物はまだ逃げずに隠れているとの返答が来た。思わず心の中でガッツポーズをしたモモンは〈魅了〉状態の男へ質問を続ける。

 

 

「俺が入ってきた場所以外でこの地下から出られる手段はあるのか?」

 

「ひとつだけある。その隠し部屋の中に…隣の家屋に通じる通路がある」

 

 

ふむ、どうやらまだ油断は出来ないようだ。やはり下手に騒ぎ立てたら折角の獲物が逃げかねない。音を立てずに暗殺者達を無力化したのは正解だったようだ。

 

 

「この先にもお前らの仲間はいるのか?」

 

「いません。俺たちだけです。俺たちは警備部門から選ばれた精鋭部隊ですから」

 

「精鋭?」

 

 

その弱さで? と思わずツッコミを入れたくなる衝動を抑えつつ男の言葉に耳を傾ける。

 

 

「警備部門の長…〝闘鬼〟ゼロからのお墨付きを頂いた部隊です」

 

「……なるほど。ちなみにさっき10号室と言っていたが、他にも部屋がこの先にあるのか?」

 

「あぁ。全部で15の部屋があって、コッコドールはその中の10号室にいる」

 

「名前はコッコドール、ね。他の部屋には何かあるのか?」

 

 

あわよくば『八本指』がこのアジトで蓄えているであろうマジックアイテムも出来れば物色してみたいと考えていた。無論、流石にヤバそうなモノは後ほど聖王国へ返還するつもりである。

 

 

「ほ、他の部屋には……」

 

 

期待8割の気持ちで男の返答を待つモモンだったが、男の口から聞こえてきたのはその期待を裏切るには十分過ぎる内容だった。

 

 

 

 

「ったく。いつまでこんな埃っぽい部屋で待たされんのよ」

 

 

淡い光を放つテーブルの上に置かれた小さなランタンに照らされているコッコドールが脚を組んで苛立ちを露わにしていた。

 

彼の言う通り部屋は埃っぽく、荷物が乱雑に置かれている為、物置と言われれば普通に納得出来るくらいには散らかっている。しかし、それは飽くまで見せかけに過ぎない。

 

違法娼館であるこの建物に万が一、聖王国の兵士達が討ち入ってきた場合に利用している聖王国の顧客を密かに逃すための通路に通じた隠し部屋なのだ。乱雑に置かれている荷物も顧客を逃した後、外へ通じる非常口を塞ぐ為の道具として敢えてそうしている。仮に非常口の存在に気付いたとしても荷物を動かす時間が掛かるため、時間稼ぎにもなるのだ。ただしベストなのはそんな事態にならないよう注意を払う事なのだが、今がまさに『そんな事態』と化している。

 

 

「まさか全員やられたとか? い、いえ、それは無い筈よ。あの暗殺部隊はゼロのお墨付き、そう易々とやれるはずが無いわ」

 

 

他の部門と違って満足な兵隊さえ用意するのも難しい。昨今の奴隷売買部門の懐事情はハッキリ言って余裕は無い。それでも高い金を払ってまで警備部門から兵隊を借り続けたのは金額に相応しい仕事をこなしてくれていたからである。

 

もし連中が侵入者にやられでもしていようものなら此処から逃げ出した後、ゼロが治めている警備部門の質も落ちたものだと嘲笑い『八本指』全体に吹聴してやろう。

 

 

「ど、どうする? やっぱりここは逃げるべきかしら? い、いや…まだ早い、かしら?」

 

 

そう考えると今すぐにでも非常口を使って逃げ出したい気持ちに駆られる。しかし、コッコドールは敢えて逃げ出さずにこの隠し部屋に居座り続ける事を選んだ。それにはブレイン・アングラウスという存在に理由がある。当然、個人的に彼が好みだからという安易な理由では無い。

 

 

(ブレイン・アングラウスは必ず『六腕』まで上り詰める事が出来る逸材よ。そんな彼と今のうちに強い繋がりを構築出来れば、落ち目の私たちにとって利益に繋がるはず)

 

 

コッコドールはニヤリと笑う。彼は落ち目となった奴隷売買部門に利益を齎す存在足り得ると踏んでいた。ブレインはかつて王国で行われた御前試合にて、後に周辺諸国最強の異名を持つガゼフ・ストロノーフと互角に渡り合った強者である。加えて最弱とは言え『六腕』の一人“幻魔”サキュロントを一瞬で倒したのだ。

 

 

(これは私の奴隷売買部門が息を吹き返すための投資そのもの。大きな賭けね)

 

 

もしも彼が警備部門の長にして『六腕』最強の“闘鬼”ゼロさえ超えるようであれば彼との繋がりは組織に於いて強い意味を持つことになるだろう。場合によっては『八本指』の立場も以前より高まる可能性さえ有り得る。幸いな事にブレインは今回が初仕事である為、他部門の手垢が付く前に恒久的な好印象を作るまたとない機会だ。

 

 

(ゼロは私の狙いに勘付くでしょうけど。まぁ、この聖王国で奴隷市場が本格的に軌道に乗ったら、少し旨味を融通してあげるくらいのサービスはするべきね)

 

 

コッコドールの胸中に沸々と野心が湧いてくる。

 

諦めかけていた奴隷売買再興だけでなく組織内の地位向上も夢では無いとなれば当然と言えるだろう。それくらいの野心と度胸が無ければこの組織の、部門を管轄する長の地位は務まらない。

 

 

「って言うか、まだ来ないのかしら?」

 

 

未だに暗殺部隊の連中が戻らない事に苛立ちを募らせていると、隠し部屋の扉がノックされる音が聞こえて来た。

 

 

コンッコンコンッ…コンッ

 

 

ノック音に一瞬驚くが事前に打ち合わせしていた味方か否かを判別する為のドアノックを決めていた為、今聞こえて来た音がそれと同じものである事に気付き胸を撫で下ろす。

 

 

「私です。コッコドール様」

 

「あら貴方なの? もう驚かさないでよね」

 

 

ドア越しから聞き覚えのある声が聞こえて来た。暗殺部隊の一人で名前は覚えていないが兎に角、知っている声に違いは無い。

 

 

「随分と時間が掛かったじゃない。全く手際が悪いわねぇ。んで、始末した相手は誰だったの? モモン? それとも女? ま、どっちでもいいわ。早いとこ此処から出ましょ。もうカビ臭くて埃臭くてお肌に──」

 

「お前が『八本指』の幹部か?」

 

「わる……へ?」

 

 

聞こえて来たのは知らない声。

 

ドアを開けて入って来たのは見知った暗殺者の男…だけではなく、彼に続いて漆黒の全身鎧を纏った偉丈夫も現れた。

 

 

「え? な、なん……え?」

 

「コイツがそうなのか?」

 

「はい。『八本指』奴隷売買部門の長、アンペティフ・コッコドールです」

 

 

状況を未だに理解出来ず困惑するコッコドールを他所に全身鎧の偉丈夫と当たり前のように話をする。それが余計にコッコドールを混乱させた。

 

 

「なら話は早い。魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)抗えぬ睡魔(ディープ・スリープ)〉」

 

「あ、ぁ……」

 

 

〈睡眠〉の上位魔法を発動するとコッコドールは呆気なく眠り落ちる。組織の重役である事を考えて色々な魔法抵抗を持つマジックアイテムの装備を警戒していたがどうやら杞憂だったようだ。

 

モモンは魅了した暗殺者を使い適当にコッコドールを縛り、安堵の溜息を吐く。少なくとも此処での目的は達成されたと言っても良い。あとはクレマンティーヌと共に此処からトンズラこいて、コッコドールを聖王国の連中に引き渡せばそれでお終いとなる。しかし、聖王国の英雄と呼ばれるようになってしまった冒険者モモンとして放置する訳にはいかない新たな問題が出来てしまっていた。

 

この違法娼館で無理矢理働かされている娼婦たちである。

 

 

 

 

暗殺者の案内の元、建物内に居た娼婦達を集めたがその数なんと30人に及んだ。

 

 

「娼婦とは名ばかりの奴隷か。やれやれ、犯罪組織と言うだけあって酷いことするな」

 

 

奴隷売買部門などの『八本指』の息の掛かった悪党達によって拉致された人たちや悪徳貴族によって無理矢理連れ出された挙句、捨てられてはまた売りに出されてと悲運に見舞われた者が多い。

 

娼婦達は皆ぐったりと活気が無く、その瞳はどこか虚ろだった。暗殺者曰く、変に抵抗されないよう『黒粉』という麻薬を定期的に摂取させているとのことらしい。中にはかなり乱暴な客を相手にされたのか相当に酷い傷を負っている者も少なくなかった。

 

 

「碌な扱いをされてないらしいな。本当に消耗品か何かの様な感覚だったんだろう。流石にこのままにする訳にはいかないな」

 

 

モモンは無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)から大量の下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を取り出すと彼女たちへ満遍なくその赤い液体を振りかけた。

この程度の傷であれば下級治癒薬でも十分に治せると踏んだモモンだったが彼女達の傷を『全て』癒す事は叶わなかった。

 

 

(…身体の傷は癒えても、心の傷までは癒せないか)

 

 

案の定、彼女たちの目に見える傷は確かに完全に治癒することは出来た。しかし、心の傷はそう簡単に癒えるものでは無いらしい。今の彼女達に必要なのは『時間』だろう。流石にこのレベルまで行くとモモンに出来ることは殆ど無い。

 

 

(…もどかしいな)

 

 

モモンの記憶に幾つかの高位の信仰系魔法が効果的かも知れないと思い付くが、生憎とモモンは信仰系魔法が使えない。〈真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)〉など高位信仰系魔法が込められた短杖(ワンド)はいくつか持ってはいる。しかし、今しがた彼女たちの心を癒す魔法が込められた短杖をモモンは持っていない。

 

他に方法があるとすれば〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉だ。だがアレは扱いが結構難しく使用中の魔力消費量も凄まじい。それを30人もやるとなれば流石に身が持たない。

 

 

(無理無理無理。燃費悪過ぎて30人なんてやったら魔力と言う魔力が吸い取られて骨しか残らなく……あ、元から骨か)

 

 

それでも何とかならないかとモモンは無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)へ手を突っ込んでは何かないかと漁ろうとする。

 

 

「ん?……あっ」

 

 

その時、モモンはとんでもない事に気付いた。

 

 

「ま、下級治癒薬が…」

 

 

モモンは下級治癒薬を全て使い切ってしまった事に今更ながら気付いたのだ。余裕はあると思っていたが流石に30人分の消費量はエゲツなかったらしい。

 

 

「完全にやらかした…うーん」

 

 

一応、ケラルト・カストディオ神官団長主導の下、聖王国薬師組合の協力で下級治療薬の精製に尽力して頂いている。しかし、その成果が現れるのがいつになるのか皆目見当が付かない。

 

 

「はぁ〜、カストディオ神官団長の成果を願うしか無いかぁ。ん?神官?」

 

 

モモンに天啓が降りた。

幸いにもここは信仰系魔法を扱う魔法詠唱者が多い聖王国だ。ならばこの国の神殿勢力に任せられるのが良い。

 

 

「確かこの国の神官や聖騎士たちは〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉や〈神の御旗の下に(アンダー・ディヴァイン・フラグ)〉が使える筈だ。どこまで彼女達の心を癒す効果があるかは分からないが、それでも何もできない俺よりはずっとマシだろう」

 

 

幸い神官団団長のケラルトとは見知った仲である。ここは一つ、彼女と神殿勢力に協力を得るとしよう。

 

やがてモモンは「これしかない」と呟くと何も無い空間に第九位階魔法〈転移門(ゲート)〉を展開する……が、すぐに〈転移門〉を閉じた。

 

 

「っと、その前にクレマンティーヌを呼ばないとな」

 

 

行き当たりばったりとは言え、協力者であり功労者でもある彼女を置いて行く訳にはいかない。モモン個人としても彼女には是非とも頼みたい事があるので出来ることなら彼女との繋がりは維持したいとさえ思っている。

 

モモンは彼女達と捕縛したコッコドールの護衛用にアンデッドを何体か配置し、クレマンティーヌの元へ向かった。

 

 

「……ん? 戦ってる?」

 

 

モモンが娼婦達に下級治癒薬をこれでもかと言う勢いでぶっかけている頃、クレマンティーヌはブレイン・アングラウスと『六腕』が一角、“不死王”デイバーノックと相対していた。

 

 

「先ずは小手調べといきますかー」

 

 

彼女は異様な前傾姿勢を取ると一気に駆け出した。両の手にはスティレットが握られている。その鋭利な得物が狙うはただ1人――ブレイン・アングラウスだ。

 

右手のスティレットがブレインの頭部目掛けて突き出される。対するブレインは目にも止まらぬ腰捌きで刀を鞘から引き抜くと同時に、自身の眼前まで迫り来ていたスティレットの先端を容易く弾き返した。けたたましい金属音が部屋全体に響き渡る。

 

右手のスティレットが弾かれたクレマンティーヌだが怯むどころか姿勢を崩すこと無く追撃と言わんばかりに左手のスティレットを、抜刀した事でガラ空きとなったブレインの胴体目掛け突き刺そうとした。しかし、ブレインは焦ること無く瞬時に刀を振り下ろしクレマンティーヌの左手首を斬りつけんとするが、彼女は寸前で左手を引っ込めて振り下ろされた一閃を回避する。

 

今度は刀の柄を両手持ちに切り替えたブレインが仕掛けた。

彼は刀を下段構えの状態からクレマンティーヌへ一気に接近する。その動きを瞬時に見抜いたクレマンティーヌは背後へ飛び退くも、ブレインは更に踏み込んで来た。そして、下段から振るわれるその刃が狙うはクレマンティーヌの片脚である。ブレインはクレマンティーヌの突出した強味は人間離れした機動力と俊敏性にあると見抜き、真っ先にその要である脚を先ずは一本奪おうと狙っていたのだ。

 

 

「〈流水加速〉」

 

 

クレマンティーヌは迷わず武技を発動させる。

 

その武技の効果によりブレインの振るった刀がまるで粘度の高い液体に落ちたかの様に動きが鈍くなる。クレマンティーヌはその中でも同じ速さを維持し、その隙に床を蹴って刃の軌道から逃れた。

 

距離を空けた彼女は着地するや否や再び攻勢を仕掛けようと独特な前傾姿勢の構えを取る。

 

 

(ブレイン・アングラウス……ふーん。一応、法国の上層部が注目するだけの事はあるってとこかなー?)

 

 

彼女は内心で納得していた。普段の「獲物」に向けた軽薄な笑みではなく、「敵」と定めた相手に向ける鋭い視線を向ける。

 

 

「〈衝撃波(ショック・ウェーブ)〉」

 

 

突如として衝撃波の塊が大気を歪ませてクレマンティーヌへ襲い掛かる。

鎧さえ簡単に大きく凹ませてしまう魔法を彼女は寸前で跳躍して躱した。そして魔法攻撃を仕掛けてきた不埒者を殺意の困った眼で睨み付ける。

 

魔法攻撃を仕掛けてきた者──デイバーノックが不気味な笑みで悍ましい顔を歪ませた。

 

 

(ちっ、クソアンデッドが…!)

 

「〈恐怖(スケアー)〉」

 

 

続けざまに発動させた〈恐怖〉で一瞬体が強張るも持ち前の負けん気と精神力で打ち消した。

 

 

「ほう。並大抵の精神力では無いようだな。中々に侮れん人間の女よ」

 

「あー!うっっざ!!」

 

 

煩わしい援護魔法に苛立ちで顔を歪ませる。直ぐにでも報復に嬲り殺してやりたい気持ちを抑え、デイバーノックの魔法に警戒しつつも意識を再びブレインに向けた。

 

ブレインは空中で動きが制限されているクレマンティーヌを狙い上段の構えから刀を振り下ろた。

 

 

「〈空斬〉!」

 

 

刹那、飛翔する斬撃がクレマンティーヌへ襲い掛かる。斬撃を飛ばす武技は中〜遠距離攻撃が可能な分、その威力は直接斬るよりも劣ってしまうのが難点だ。しかし、それも使い手による。

 

 

「〈要塞〉」

 

 

クレマンティーヌは防御系武技を発動した。そして両手に持つスティレットをクロスさせて真正面から〈空斬〉を受け止める。金属が激しくぶつかったようなけたたましい音が鳴り響くが、武技の効果と彼女自身が全身を上手く使いその衝撃を吸収させた事で難なく床へ着地する。

 

しかし、既にブレインが刀を構えて眼前まで迫っていた。

 

 

「ちぇああああ!!!」

 

 

咆哮と共に刀を全力且つ全体重を込めた怒涛の斬撃を打ち放つ。一つ一つの攻撃が鋭く、そして重い。あるゆる角度、あらゆる部位へと向けられた連撃は正に刃の嵐そのものと言って良い。

 

 

「〈能力向上〉〈超回避〉」

 

 

彼女は焦る事なく武技を発動させて相手の攻撃を確実に対処していた。必要最低限の挙動で躱し、2本のスティレットで迫り来る刃をいなしては受け流す。

側から見れば後退して防御一辺倒のクレマンティーヌが不利に見えるだろう。

しかし──

 

 

(立ち会った時点で察していた…察してはいたが…!!)

 

 

ブレインの額に冷汗が流れ落ちる。

 

最初の一瞬はモモンが来なかったことに正直落胆していた。だが、彼女の佇まいと只ならぬ雰囲気から一級の戦士であると瞬時に察した。

 

本物(モモン)と殺り合う前には丁度良い肩慣らしになる──そう踏んでいた。

 

だが実際はどうだ。

まるで此方が挑戦者(チャレンジャー)みたいな扱いではないか。

 

 

「〈肉 軋 み(フレッシュ・グラインディング)〉!〈下級筋力増大(レッサー ・ストレングス)〉!〈下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)〉!」

 

 

魔法詠唱者ながらも場数からなのか此方の不利を察したデイバーノックが支援として補助魔法をブレインに掛けていた。その効果は直ぐに現れ、ブレインの攻撃のキレが上昇し、クレマンティーヌの軽装鎧へ僅かな傷が付き始める。

そして、彼女は僅かに体勢を崩した。

 

当然それを見逃すブレインでは無い。

 

 

「貰った!!」

 

 

ブレインはすかさず袈裟懸けの一撃を繰り出した。魔法による強化と渾身の力で振るわれた一撃は文字通りクレマンティーヌを真っ二つにするには十分過ぎるほどの威力だ。

彼は勝利を確信した。

 

 

「ッ!!?」

 

 

だがその考えはクレマンティーヌの不気味な笑みによって一気に打ち消される。

 

 

「〈不落要塞〉」

 

 

大振りの一撃が武技によって弾かれ、体勢を崩された事で大きな隙を作ってしまった。クレマンティーヌはガラ空きとなったブレインの胴体…その心臓の位置目掛けスティレットを突き刺そうと繰り出した。

 

 

「〈即応反射〉!」

 

 

寸前でブレインが武技によって瞬時に体勢を戻し、急所を狙ったスティレットの一突きをなんとか刀で受け止めて無理矢理受け流す。僅かに鎖帷子を傷付ける程度で済んだのも束の間、今度はクレマンティーヌが畳み掛ける番だった。

 

 

「ふーん…」

 

 

クレマンティーヌは僅かに目を見開いた。

ブレインは刀を抜いておらず既に鞘にしまっていたのだ。戦意喪失かと言われれば断じて「否」である、とクレマンティーヌは断言する。

 

ブレインは腰を落とし、ゆっくりと息を吐きながら鞘に収まった刀の柄に右手が添えられる。

 

抜刀の構えだ。

 

クレマンティーヌはあの構えを知っている。

漆黒聖典に入隊する前、刀使いの訓練教官が似たような構えをしていた。確かあの時は「居合」と聞いていたが、ブレインの構えは正にその「居合」と酷似している。

 

だがその精度、練度は訓練教官の比ではない。

圧倒的にブレインの方が上だと瞬時に察した。

 

 

(刀使いは珍しいけど、コイツは居合によるカウンター戦術を得意とするタイプか。チッ、面倒だな)

 

「もう出し惜しみはしねぇ。その強さに敬意を評して、本気で行かせて貰う」

 

 

ブレインはニヤリと笑う。

 

彼のオリジナル武技〈領域〉──

射程距離は決して広くは無いが、射程範囲内に居る全ての把握を可能とするもの。極めて高度な集中力と強靭な肉体、技巧を持つブレインによってこの武技は比類無きチカラを発揮する。そこに一点特化の致命的な一撃を強力かつ正確に叩き込むもう一つのオリジナル武技〈神閃〉を血の滲むような鍛錬の末、〈領域〉に組み込んだ結果、更なる高みへ至る事に成功した。

 

絶対必中、一刀必殺の絶技

秘剣――〈虎落笛〉

 

宿命の好敵手ガゼフ・ストロノーフを討ち倒す為に編み出した技である。

その為の試し斬りはモモンと決めていたが予定が変わった。彼女にはこの秘剣を使わせる資格がある。

 

 

「ブレイン・アングラウスだ」

 

 

ブレインの突然の名乗りにクレマンティーヌは少し悩んだが、どちらにせよ殺せば問題無いだろうと踏んで戦士らしく応えることにした。

 

 

「クレマンティーヌ・ハゼイア・クインティア」

 

「成程。法国の出か?」

 

「そだよー。それ以上は聞かないで欲しいなー」

 

「ふん…」

 

 

ブレインとしてもそれ以上聞くつもりも興味も無い。あの強者の名前が知れただけで十分だった。

 

一方、クレマンティーヌも再び異様な前傾姿勢を取ってはゆっくりと身を沈める。

 

 

「〈疾風走破〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉」

 

 

4つの武技重ね掛けで身体能力を限界まで上昇させる。

 

短期決戦に持ち込んで来たとブレインは瞬時に理解した。

彼女の軽戦士(フェンサー)としての戦法は自慢の俊敏性と機動力を活かしたものだ。これまでの動きから全てを薙ぎ払うが如き速度を活かした攻撃を仕掛けて来るのは容易に想像が付く。

 

瞬間、彼女の足下の床が踏み砕かれた。

 

 

「ッ!!?」

 

 

ブレインはその疾さに思わず瞠目する。

間違いなくこれまで出会ってきた強者達の中でダントツだ。

 

それでもブレインはニヤリと笑う。クレマンティーヌが自信の疾さに絶対の自信を持つように、自分も己の〈領域〉に絶対の自信がある。

 

 

(だが、今回はその自信が如何に危険かを教えてやる)

 

 

尤も、教えたとしても彼女がその教訓を次に活かせる事は無いだろう。今の彼女は死刑台へ全力疾走で駆け上がろうとしているようなものだ。

 

絶対必中と一撃必殺、2つの武技が彼女の頸部へ狙いを付ける。前傾姿勢故にやや狙い難いがこれまでの鍛錬を思えば決して難しくはない。

 

彼女が〈領域〉の射程内へ侵入する寸前──

 

 

「〈火 球(ファイヤーボール)〉!」

 

「ッ!?」

 

 

突如、〈領域〉外から通り過ぎた〈火球〉がクレマンティーヌへ飛来し彼女の足下で爆発が起きた。

 

広さがあるとは言え部屋全体を襲う熱波と衝撃波により思わずブレインは武技を中断し、爆発で飛び散る木片などから腕で目を覆い視界を守る。

燻る火と漂う煙に呆然と立ち尽くすブレインに、折角の強者と戦いを邪魔した不心得者に対する烈火の如き怒りが湧き上がった。

 

 

「デイバーノックぅぅ!!!!」

 

 

激昂の声を上げた勢いで背後を振り返る。

 

デイバーノックはローブの影越しでも分かるくらいに歪んだ悍ましい笑みを浮かべていた。

 

 

「何故怒る必要がある、アングラウス。我々の目的は侵入者の排除だ」

 

「俺を…武人としての誇りを愚弄したな!!」

 

「武人? 誇り? 何を言っている?」

 

 

鞘に収められた刀の柄を掴み、今にも怒りに任せて斬り殺さんとする気迫のブレインに臆する事なく、目の前のエルダーリッチは淡々と話を続けた。

 

 

「我ら『八本指』は闇の組織だ。我らの目的は誇りや名誉の為ではなく、ただ己の利益のみ。求められるのは矜持では無い、結果なのだ。結果を示さなければただ消されるのみ。結果を得て、己の利益を得る為なら手段は選ばぬ。そもそも闇の組織に身を置いておきながら武人だの誇りだのと言えた口か? 実にくだらん、キサマ一人の我儘に不利益を被るのは御免だ。組織に身を置くという事はこういう事なのだ、アングラウスよ。特に我ら『八本指』の場合はな」

 

 

ブレインは歯噛みした。

デイバーノックの言っている事は至極正しい。自分は強さを求めてそういう組織に入ったのだ。今まで属していた傭兵団とはまるで訳が違う。

理解はしていたが、こうして目の前で自身の矜持が踏み潰されればやはり納得出来ないものがある。

 

 

「チッ!…あぁ、その通りだな」

 

 

柄を握る手を緩め、構えを解く。

苛立ちは治らないがヤツの言う事はもっともだ。それに今自分に必要なのは組織からの信用である以上、下手に逆らう訳にはいかない。

 

自分は修羅に堕ちるのだ。

この程度で狼狽するようではまだまだ足りない。

 

 

「ふん。存外に素直ではないか。クレマンティーヌとか言う人間の小娘が何者だったのかは確かに気にはなるが…まぁよい、これで侵入者は『漆黒』のモモンを残すだけ──」

 

「ば〜〜っかじゃな〜い?」

 

 

その時、デイバーノックは何かが肩車のように上から乗り掛かって来た事に気づいた。その者の正体を見ようと見上げた瞬間、鋭利なスティレットが眼前まで迫り、彼の眉間に突き立てられる。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「まだ終わりじゃないんだよ!!」

 

 

苦痛の絶叫を上げるデイバーノックは眉間に根元まで突き刺さったスティレットを引き抜こうと手を伸ばした。だが、その手が届く前にスティレットに込められた〈火球〉が解放されると、デイバーノックが爆炎によって焼かれた。

 

 

「ぐぎゃあああ!!!」

 

 

アンデッドの弱点でもある炎系統の魔法攻撃という追い討ちを受け、再び断末魔のような悍まし悲鳴を上げて床へ倒れると転げ回る。

それを引き起こした張本人は〈火球〉の解放と同時にデイバーノックから飛び退いた。

 

突然、デイバーノックに奇襲を仕掛けた存在…クレマンティーヌが妖しい満面の笑みを浮かべながらブレインに振り向く。

 

 

「なっ…!!」

 

 

ブレインは驚愕しながらも直ぐに腰の刀を引き抜かんと柄を掴み抜刀をする。しかし、予め武技による強化をしていたのであろう彼女は一瞬で彼と密着出来るくらいの眼前まで接近して来た。

同時に甲高い金属音と共に抜刀が阻まれる。

クレマンティーヌは自身の右手に持ったスティレットの(ガード)でブレインの刀の鍔を押さえ付けていた。

 

これでは十八番の抜刀術も使えない。

慌てたブレインは距離を取るためクレマンティーヌから離れようとするが、先に畳み掛けて来たのは彼女だった。

 

クレマンティーヌは腰に備えていた4本のスティレットの内の1本を左手で引き抜くや否やすかさずブレインの右肩へ突き刺す。

 

 

「うっ!!」

 

 

右肩に走る灼熱の様な痛みに苦悶の表情を浮かべる。だがブレインとてやられてばかりではない。右肩へスティレットが突き刺さる寸前、僅かに身体を動かして何とか急所を逸れさせる。深傷に変わりないが肩の腱が切れることは無かった。

 

するとブレインの思考に靄が掛かる。

 

 

「精神操作か!?」

 

 

驚愕と共に上げた声にクレマンティーヌはより強い笑みで返した。どうやら正解らしい。

 

クレマンティーヌが持つスティレットはミスリルにオリハルコンコーティングされたものでそれだけでも相当な逸品だが彼女が持つ武器の真骨頂は付与された魔法にある。

彼女の武器には魔法蓄積(マジック・アキュムレート)という魔法付与が施されており、先のデイバーノックに喰らわせた〈火球〉のように様々な種類の魔法を込めることが出来る。しかし、一度解放させると空になってしまうのでその都度付与し直す必要があるのが面倒だが、幾度でも込められると考えれば非常に優秀な魔法武器だ。

 

そして、今ブレインの右肩に突き刺したスティレットには〈人間種魅了(チャームパーソン)〉が込められていた。

 

 

「く、くそ!」

 

 

ブレインは思考に纏わりつく靄を振り払おうと必死に抗うが突然の奇襲と負傷による心の乱れもあり徐々に思考が霞に覆われていく。

 

 

(ま、負ける…! こんなカタチで…)

 

 

闇の組織へ堕ち、修羅の道を征くと決めた時からマトモな死に方はしないとは思っていた。だが、精神支配され、辱めを受けながら死ぬのだけは我慢ならなかった。

 

彼の最後の矜持がこの後の行動に拍車を掛ける。

 

 

「がぁあああ!!!」

 

「おっと…!」

 

 

勝利を確信したクレマンティーヌだったが突如として〈人間種魅了〉の効果が切られてしまった。あれ?と思っていると雄叫びを上げながらブレインが彼女に向けて豪快な蹴りを放つ。

クレマンティーヌは難なくそれを飛び退いて躱し、何処か様子のおかしいブレインを不思議そうに眺めた。

 

 

「えー、おまえマジか」

 

 

変化の正体に気付いた彼女は引いた表情を浮かべる。

 

 

「フゥーー!!フゥーー!!」

 

 

息を荒げ、歯を限界まで食いしばり、怒りとも呼べる険しい表情を浮かべていた。その歯と歯の隙間や口角からとめどなく血がダラダラと流れ落ちていたのだ。止まる気配がなく流れ出る血は首を伝い、鎖着(チェインシャツ)を真っ赤に染め、ボタボタと床に血の水溜りを形成する。

 

 

「舌を噛み千切って無理やり魅了を解いたんだー。いくらなんでもそこまでやるかなー?」

 

 

クレマンティーヌの呆れた口調を他所にブレインは指に嵌めた3つの指輪型のマジックアイテムを起動させる。これらは『八本指』加入時に餞別として貰ったものだが、1つは僅かだが傷を徐々に回復させる効果を、もう1つは一定時間痛覚を鈍らせる効果を持つ。そして最後の1つは短時間だけ集中力を強化させる効果である。

 

ブレインは腰に備えた刀を引き抜いた。

その眼は血走っており、その執念が見て取れる。

 

だが状況の深刻さは変わらない。

僅かに傷を癒す効果を持つマジックアイテムを装備しているが流れ出た血を戻すことは出来ないので、魔法効果で傷が徐々に治るよりも先に失血による深刻な事態が引き起こされる可能性の方が高い。

直ぐにでも止血なりの手当が必要だがその為には武器を捨て降伏しなければならない。無論、ブレインがそんな事を許容出来る訳がなかった。

 

どうせ死ぬなら戦士として死ぬ。

 

 

「ざあ“!!オ″レ″ど戦え“!!」

 

 

ブレインが血を飛ばしながら叫ぶ。

千切れた舌の影響で上手く喋れないがクレマンティーヌは何となく聞き取れてはいた。

 

 

「はいはい、わっかりましたよー」

 

 

口内から、右肩からドクドクと流れ続ける血を気にも留めずに構えを解かないブレインに、辟易しながらもクレマンティーヌは付き合ってあげる事にした。

 

クレマンティーヌはお得意の前傾姿勢からの突進はせず、両手にスティレットを構えて駆け出す。対するブレインも上段で迎え討つ構えだ。しかし、ブレインが迫り来るクレマンティーヌの頭部目掛け振り下ろした瞬間、彼女は一気に飛び退いて距離を取る。

 

 

「何“ぃ“!?」

 

 

振り下ろされると共に右肩の傷口から血が飛び散る。今度は少し疾さを乗せてブレインに接近するも横薙ぎに払う一刀を受けもせず、武技さえ使わずに難なく避けては彼の頭上を飛び越えて距離を取った。

 

 

「ほーらほら、ぜーんぜんあたってないよー」

 

「お“、お“前“っ!!」

 

ブレインは刀を構えて追いかけた。

だが、彼女は寸前の所で回避しては明らかに殺気のない遊戯のような攻撃で此方をおちょくって来る。

 

対してコッチは防戦一方だ。

 

クレマンティーヌは急に天井まで届く高さまで跳び上がったかと思えば天井を足場にして再び跳躍し、壁に向かって跳んでは再び天井へ、そして壁へ、床へ、壁へ、また天井へと逃げ続ける。

自慢の疾さと機動力を活かした戦法にブレインは翻弄されていた。追いかけても追い掛けてもキリがない。かと言って〈領域〉を発動しようとすれば急接近してそれを妨害してくる。

 

完全に此方の強味を潰しに来ている。

また、少なくない傷が全身を覆い始めていた。スティレットを使った何の殺意もない攻撃は明らかに此方の急所ではない場所を狙っている。

 

深傷である右肩と自身が噛み千切った舌以外の全身に無数の傷が出来るとそこからポタリポタリと血が滴り落ちた。先に述べた深傷もマジックアイテムの効果が追い付かず、なかなか出血が治る気配さえ無い。

 

この瞬間、ブレインは理解した。

コイツは戦士である以前に悪趣味な拷問好きだったのだ。そして、ハナから俺と真面目に戦う気すら無い。

 

先程のデイバーノックを奇襲した時もそうだ。俺では無く、最初から魔法詠唱者のヤツを真っ先に狙っていた。〈火球〉の奇襲も彼女にとっては想定内の出来事で、寧ろ戦士と戦士の決闘に応じた隙を狙ったヤ ツ(デイバーノック)の卑劣な思考を読んでの策だったのだ。

 

なんと腹立たしい。

アイツも俺を愚弄していた。

 

 

「どうすんの? 降参するってんなら手当してやらない事もないけどー?」

 

 

クレマンティーヌはニタニタと笑いながら情けを掛けてくる。この時、ブレインの脳裏に『敗北』の二字が過ぎった。

 

それも屈辱的な敗北だ。

それでも絶えず血が流れ続ける。

 

 

(ぐっ!……意識、が…)

 

 

意識が〈魅了〉とは違うカタチでボンヤリし始めた。

 

深傷を負い、その他血を出すには申し分ない数多の傷を負い、止血もせず動き回った。

 

このままでは失血死だ。

無論、これも彼女の狙いだろう。

 

せめて一太刀でもと考えた時、何かが部屋に飛来し中央の床へ突き刺さった。

 

狼狽する2人の視線が自ずと出入り口へ向けられる。

 

 

「無事か、クレマンティーヌ」

 

「うぇ? モモンさん?」

 

 

モモンと言うクレマンティーヌの言葉にブレインの意識が一気に醒めた。

 

漆黒の全身鎧、真紅のマント、右手にはもう一本のグレートソード、そして首に掛けられたアダマンタイト製の冒険者プレート…間違いない。

 

 

(モモン…『漆黒』のモモン…!!)

 

 

自然とブレインの口角が上がる。

この国を数多の窮地から救った英雄、聖王国史上初のアダマンタイト級冒険者…予てより戦いたいと渇望していた存在。

 

彼ならきっと、自分に相応しい最期を飾ってくれる。

根拠の無い謎の信頼がいつの間にかブレインの中に湧き上がっていた。

 

 

 

 

「そっちは終わったんだ。どうだったー?」

 

「大当たりだった。例の大物、奴隷売買部門のコッコドールを捕まえた」

 

「良かったじゃーん。あれ? 置いてきて良かったの?」

 

「あぁ。魔法で眠らせてるし、逃げられないよう他にも色々と手を加えてある」

 

「へー。モモンさんって本当に何でも出来るんだねー。まさに万能って感じでさ」

 

「そうでもないぞ。寧ろ出来ないことの方が多い」

 

「え、そうなの?」

 

「そうなの」

 

 

気の抜けた会話の中に護衛対象のコッコドールがモモンの手に落ちたという不穏な内容が聞こえるもそんな事は今のブレインには関係無かった。

 

ゆっくりと息を吐き、腰を落とし、刀を腰に備えていた鞘に納める。

 

 

「…ところで、アレはなんだ? 見たところ敵っぽいが」

 

「うん。そだよー」

 

「…随分と血だらけだな。それに部屋の中で〈火球〉を使った形跡もある。随分と滅茶苦茶なことをする」

 

 

呆れるモモンにクレマンティーヌは視線を合わせず舌を少し出して誤魔化す素振りを見せる。

 

 

「それにアンデッドの気配もこの部屋からするんだが、姿が見えな……ん?」

 

 

モモンはスキル〈不死の祝福〉でこの建物に入る前から大雑把だが屋内にアンデッドの気配を何となく察知していた。地下に居ると思ったら居なかったのでおかしいなと思っていた。

どうやら彼女は2対1という不利な状況でもほぼ勝利に持ち込めたようだ。

おまえ思った以上に強いんだな。

 

 

(見るからに〈火球〉を喰らったのはコイツか。ふむ、〈不死の祝福〉が働いてると言うことはまだギリギリ生きてるってことか)

 

 

アンデッドなのに生きていると言うのは些かおかしな話ではあるが、恐らく奴がまだ存命なのはその身に纏っている真紅の糸で縫い上げた裾が特徴的な黒染めのローブのおかげと言って良い。

うつ伏せに倒れていて見え難いが地肌と思われる手足が黒ずんでいるのに、ローブには焦げ一つ無い。十中八九、マジックアイテムで恐らくだが炎耐性を付与する効果があるのだろう。

 

 

(ちゃんと瀕死級のダメージを受けてるから完全耐性ではなく軽減や耐性強化くらいだろうな)

 

 

道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉を使わないと何とも言えないが、予想範囲内だけの性能では魅力は感じない。だが、ユグドラシルには無いマジックアイテムと言うだけでアイテムコレクターとしての血が騒ぐ。

 

それだけでも価値がある。

いや、それこそが唯一の価値と言っても良い。

 

あの死に損ないアンデッドから身包みを剥ぐのは確定事項として、問題は先ほどから一歩も動かず腰を低くして刀の柄に手を添えているこの男だ。

 

何で一言も発さないんだろう。

だいぶ血も流してるし…え?生きてる?

 

 

「漆黒の“…モ“モ“ン“…」

 

 

生きてた。それに声が大分変だな。

少し話すだけで血が凄い流れてるし。

 

 

「おまえ…何したんだ?」

 

 

モモンは兜越しにジト目でクレマンティーヌへ振り返る。

 

 

「別にー。アレは自業自得みたいなもんだから」

 

「ふーん」

 

 

手をヒラヒラと動かして私悪くないですよ〜とアピールをしているのが少しイラッとする。それに彼女自身がやってなくてもそれに起因する何かをしたのは間違いないはずだ。

 

 

「刀使いか。コイツは強いのか?」

 

「及第点、て所かなぁ。あと戦士としての矜持なのか知らないけど、そう言うところでは変に馬鹿真面目って感じー」

 

「クレマンティーヌの見立てでそれか。ふーむ」

 

 

モモンはある事を考えていると、男は何やら掠れた声を必死に出している様子が見えた。

 

 

「俺ど…!戦っでぐれ“…!」

 

 

小さく酷く掠れていた声だが熱意が強い。

相当な覚悟を有しているのだろう。

 

 

(刀使いの戦士職。武人建御雷さんを彷彿とさせる武人タイプって印象だが、あの構え…『居合』か?)

 

 

モモンは淡々と男を観察する。

『居合』の弱点は構えるまでの予備動作に少なからず時間と隙が生じることと短い射程だ。中には短い射程というデメリットを無くした斬撃を飛ばすタイプの『居合』スキルもあるが、見たところあの男は有していないように見える。

 

 

(その分、嵌った時のダメージ量はデカい。その上、出血のデバフ効果も付与される可能性もある)

 

 

特に武人建御雷が放つ攻撃はAOGでも屈指だった。あれは斬撃武器耐性Ⅴを有するモモンでも決して受けたくは無い。

 

果たして目の前の彼はどれほどのものだろう。

 

 

「ブレ“イ“ン“…ア“ン“グラ“ウ“ズ…」

 

「…ブレイン・アングラウス、で良いのか? 『漆黒』のモモンだ」

 

 

ブレインと名乗った男の目に涙が溜まる様子が見て取れる。その後掠れた声で何か言っていたがそれはモモンでも聞き取れなかった。

 

そして、ブレインは武技を発動させる。

 

必中効果の〈領域〉と一撃必殺の〈神閃〉の構えだ。

 

 

「ほう、居合に特化した武技と言った所か。この手のタイプは初めてだ」

 

 

モモンは床に突き刺さっていたもう一本のグレートソードを引き抜くと鷹揚に構えてブレインと対峙する。

 

ブレインは戦士としてなかなかに熟達した腕前をしているのだろう。世界基準では高レベルの戦士職であるレベル30以上のクレマンティーヌが言うのなら間違いない…多分。

 

モモンは両手に持つ大剣を構えながら一気に駆け出した。フェイントを仕掛けるでもなく真っ直ぐにブレインの間合へ足を踏み入れる。

 

そして、神の領域に到達したと自負する一閃が繰り出された。

 

 

正直、モモンの構えや佇まいが素人同然だった事に驚愕したが直ぐにそれはまやかしだと思った。恐らく血を流しすぎた影響もあるだろう。かのアダマンタイト級冒険者の戦士があの程度の筈がない。

 

完全に自身の勘違いだと決めた。

 

やがてモモンは〈領域〉の間合に入る。

 

 

「しぃッ!!」

 

 

鋭く短い息を吐き、空気さえ断ち切る勢いで腰から刀が抜かれる。

 

雲耀──。

ブレインが〈領域〉から離れた必殺の一閃である〈神閃〉はまさに光が生じたとも言える一撃だ。

 

これ以上無い、最高、最速の一刀を放つブレインが狙うのはモモンの頸だ。

全身鎧で守られているが、この手の防具は機動力を確保するために関節稼働部は基本的に防御力が薄い。

 

そこを狙う。

 

刹那の間、刃がモモンが振り下ろす大剣を掻い潜り滑らかにその頸元へ向かった。

 

 

(取った!!ここだ!!)

 

 

ブレインは確信した。

 

確かに感じる手応え、ガァン!と鈍くも高い金属音が耳を劈く。

 

宙を舞うのはモモンの素顔を覆う漆黒の兜。

その兜の中には奴の頭部がそのまま入っている事だろう。

 

やはり俺の武技は最強の──

 

 

「……え?」

 

 

──ブレインの思考が停止し思わず瞠目する。

 

渾身の一撃は間違い無く決まった。

だが今目の前に映る光景は一体何なのだろう。

 

 

「…喰らうつもりは無かったんだが。なるほど、コレが居合の〈武技〉か。いやいや、良い体験が出来た。礼を言うぞ、ブレイン・アングラウス殿」

 

「え?……な、ん…」

 

 

ブレインの視界には衝撃の光景があった。

 

そこに居たのはモモンでは無く、途轍もなく恐ろしい風貌をした、一目で強大だと分かる髑髏のアンデッドだった。

 

アンデッドは弾き飛ばされて宙を舞い落ちていく兜を一瞥する事なく片手で受け止める。

 

 

「やれやれ、見られてしまったか。まぁ良い、遅かれ早かれだったしな。言っておくが急に鎧の中身が入れ替わったとかそういうのでは無く、正真正銘…俺がモモンだ」

 

 

力強く、冷静に答える目の前のアンデッド…モモンにブレインは彼の頸を見る。

 

〈神閃〉は確かに決まった。

手応えも本物だった。

 

それなのに飛ばされたのは兜だけ。

当のモモン本人は平然としておりダメージをダメージとさえ認識していない。そもそもダメージを受けているのかさえ怪しい。

 

自身の刀には聖属性が僅かに付与されているがそれでも目の前に立つスケルトン系のアンデッドにはまるで歯が立たないのではないかとさえ思える。

 

 

「お? 兜が少しだけ凹んでる。いやはや本当に凄いな。さてと…では」

 

 

モモンがそう言うとゆっくりと右手を伸ばしてきた。籠手を嵌めてはいるが間違い無くその中身も骨なのだろう。

 

完全に呆けていたブレインは刀を構えることさえ忘れ、何の抵抗もなくモモンの手に頭部を鷲掴みされる。

 

 

「〈不死者の接触(タッチ・オブ・アンデス)〉」

 

 

何とも言い難い脱力感と怖気が全身を襲い、ブレインの意識が遠くなる。

 

 

(ワケ…分かん、ねぇ…)

 

 

ブレインは意識を失った。

 

 

 

モモンは意識を失ったブレインになけなしの回復アイテムである上級治癒薬(メジャー・ヒーリング・ポーション)を取り出すと彼の全身にブッ掛けた。

 

傷は忽ち塞がり、失血により悪かった顔色も良くなっていく。

 

 

(上級治療薬は数える程度しか無いから、これからは節約しないと)

 

 

そんな事を考えると背後からクレマンティーヌが近づいてきた。

 

 

「も、モモンさんって…アンデッド? え、エルダーリッチ?」

 

「……まぁ、そういうことだ。エルダーリッチは近からずも遠からずだな。死の超越者(オーバーロード)って種族なんだが知らないか?」

 

(え!? それって…)

 

「ん?」

 

「い、いやぁ〜、ビックリした、じゃなくて、しました…」

 

「そんな変に畏まらなくてもいいぞ。もう済んだ事だし。それに別に隠してたワケじゃ…いや、普通に隠してたわ。うん、コレ内緒で」

 

「え、軽」

 

「まぁとにかく、目的は達成出来たワケだ。ありがとう、クレマンティーヌ。本当に世話になった」

 

 

モモンは躊躇いなく手を差し出す。

何かしらのイベントを協働でこなした時はこうやって互いを労い、感謝を伝えるのが礼儀だ。元極悪DQNギルドの長と言えどその辺の礼節は心得ているつもりである。

 

 

「うぇ!? あ、あっ〜〜、そのぉ、こ、こちらこそ」

 

「ん?」

 

 

小恥ずかし気にクレマンティーヌは頬を掻いて出来るだけ此方に視線を合わせないようぎこちなく手を出して、互いに握手を交わす。

 

どうやらあまり礼を言われたりする経験が無いようだ。

なかなかに可愛いところがある。

 

それにクレマンティーヌのおかげで今回の任務が上手くいきそうなのは紛れもない事実だし本心からの感謝だ。決して社交辞令では無い。

 

思わぬ収穫も手に入った。

間違い無く彼女の功績は大きい。

 

ならばその功績に相応しい対価を支払うのは当然というものだ。

働きに見合った給与は与えなければならない。俺は社畜だが心の底までブラック企業に毒されてはいないのだ。

 

モモンは無限の背負い袋へ手を突っ込み、あるアイテムを2つ取り出した。

 

 

「礼と言っては何だが、受け取ってくれ」

 

「え? な、なにこれ?」

 

 

取り出したのは指輪型のアイテムが2つ。

それをクレマンティーヌへ手渡すと彼女は恐る恐るそれを受け取る。

 

 

「これは維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)とこっちは隠者の指輪(リング・オブ・レクルース)

 

「へ、へぇ〜〜…えっと、どれが…そのぉ」

 

「維持する指輪は『食事・睡眠が一切不要になる』効果がある」

 

「……は?」

 

「隠者の指輪は『日に3回の1時間だけ〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉が発動可能』の効果だ」

 

「……は?」

 

「知ってるとは思うが〈完全不可知化〉はコチラから攻撃すると強制的に効果が消えるから気を付けろよ。あとこの指輪の効果は24時間でリセットされるからな」

 

「………はぁ?」

 

 

目を点にして手に置かれた2つの指輪を見るクレマンティーヌに取り敢えず簡単な説明をする。既に自分の分はあるし、そもそも自分には不要の物でもあるし、別に渡してしまっても構わないだろう。

 

 

「い、いやいやいやいやいやいやいやいや!!!こここここここんな神の遺産に匹敵する物なんて、おおおおおおおお恐れ多いで──」

 

「でもあった方がお前に取って色々と便利だろ?一応、国外逃亡してる身なんだし」

 

「うっ! それ言われるとなー…」

 

「あ、もしかして効果が微妙か? それなら丁度使ってない伝説級(レジェンド)の─」

 

「えっ!?ちょ、まっ」

 

 

そんな最中、部屋の片隅で倒れ伏していた影が唸り声と共にゆっくりと上体を起こし始めた。それに気付いたクレマンティーヌは直ぐにスティレットへ手を掛け、モモンは「ん?」と間の抜けた声で呑気に背後を振り向いた。

 

 

「あー、忘れてた」

 

「…どうする、モモンさん?」

 

「あいつのマジックアイテム欲しかったし、丁度良いや」

 

「…剥ぐ?」

 

「うん、剥ぐ」

 

 

そう言ってモモンが倒れていたアンデッド…デイバーノックへ歩み寄る。

 

 

「私は…」

 

「ん?」

 

 

するとデイバーノックはその場で蹲るとブツブツと何か独り言を話し始めた。声が小さいのでなんだなんだとモモンは更に近寄った。

 

 

「より深く、より強い魔法を探求するために……動いてきた。だが、求めど求めど…我の心が満たせる魔術師や魔法は……現れなかった。この組織に身を置いてからも…それは叶わなかったが、今以上に…効率良く探求する術を知らぬ私は……今の環境に居座り、成果を上げつつ、我が悲願を叶える日を待つしか、無かった…!」

 

 

デイバーノックはブルブルと肩を振るわせる。

なんの話をしているんだと思ったモモンが声を掛けようとするもその前に「だがッ!!」という突然の大声にビックリしてその機会を失う。

 

 

「今私は…遂に…遂に我が永遠の師を、見つける事が出来た……深淵の主、いと深き御方を……!!」

 

「お、おい…?」

 

 

尋常ではない様子の彼にモモンはソッと彼の肩へ手を置いた。

 

その瞬間──

 

 

「お待ちしておりましたぁぁぁ!!!真なる不死王様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

「キャアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

なんと狂気じみた歓喜の奇声と共に突然、モモンガに飛び掛かり抱きついて来た。あまりに予期せぬ行動と自身の身に起きた変態的状況に思わず女性のような悲鳴をあげてしまった。

 

 

「お逢いしとうございました我が師よぉおおおおおおお!!!!」

 

「ちょ、ちょちょちょちょちょ待てよ!!!何抱きついて!くっ!凄い力だなんだコレ!!??ええい!!腰に巻き付いた手を離せええええ!!!」

 

「我が主!!我が導きぃぃぃいいいいい!!!!」

 

「いやアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

この興奮、普通のアンデッドならとっくに種族スキルの精神抑制が働いている筈なのにまるで鎮まる気配が無い。いや、恐らくスキルそのものは働いているのだろうが、その処理が間に合っていないのだ。今のモモンのように。

 

 

「こ、コレは…助けるべき?」

 

 

完全に蚊帳の外となったクレマンティーヌがどうするべきか狼狽する。それにしてもあんなおっかないアンデッドがあんな可愛らしい悲鳴をあげるとは驚いた。

 

 

(悪いヤツじゃないんだよねー、なんか色々とズレてるけど)

 

「うっ!くぅ…!!い、いい加減、に…っ!!」

 

 

少し間を置いてからやっぱり助けるべきだろうと思いスティレットに手を伸ばそうとした時、事態の収拾はいきなり訪れた。

 

 

「あっ!!どこ触ってんだテメェ!!!!!!」

 

 

そこそこ強めに蹴飛ばされたデイバーノックは、壁へ激突し見事にめり込んで漸く暴走が止まった。

 

静寂に包まれた部屋は妙な空気に包まれた。

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