Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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誤字報告・評価・感想ありがとうございます。


前話のオマケの考察コーナー『ダヴはオリーブの葉を運ぶ』の効果の考察で『敵対ギルドとの強制和解』と上げましたが、もう一つ『ギルマス権限無視で他ギルドへ拠点を移せる』も効果の候補にします。

だからなんだって話ですが(笑)


第33話 波乱の予感?

リ・エスティーゼ王国王都の某所。不気味なほど暗い円卓に8()人の男女が座していた。大半が深めのローブを纏いその素顔は窺い知れない。だがこの場にいる全員がカタギではないのは誰が見ても明らかだった。

 

『八本指』──

リ・エスティーゼ王国の裏社会を総べる巨大犯罪組織。1つの組織の中に8つの部門を持ち、各部門長が其々自分たちのシマを仕切っている。『八本指』の名前の由来は土神の従属神“盗みの神”が八本指である事から来ていると言われている。

 

無論信仰しているワケでは無く、飽くまで象徴として利用しているに過ぎない。

 

椅子に座す各部門の長たちは互いに話し掛けたり、目を合わせたりもしない。寧ろ警戒心を抱いている。

『八本指』は其々独立した組織の集合体の様なものだ。組織全体のため一時的に協力する事はあるが、利権や利益の為、相手を蹴落とし、足を引っ張る事なんてザラにある。

 

そんな仲の悪い者たちが『八本指』に属している理由はただ一つ。その方が旨味が多いからだ。それこそ国一つ裏から牛耳る事が出来るほどの影響力を得られる。

 

このような組織だが各部門の長たちが絶対に遵守する鉄の掟がある。

それは定期的に開かれる定例会の出席だ。()()()()()()()この会議に出席しない者は裏切りの烙印を押され粛清対象となってしまう。故に普段滅多に姿を見せない者も参加せざるを得ないのだ。

 

 

「…時間だ。これより定例会を始める」

 

 

8人の中で豪華な装飾品が目立つ椅子に腰掛けている水神の聖印を首に下げた進行役の男が口を開く。

 

 

「先ずは最初の議題…我らの新たな苗床に選ばれた聖王国についてだが、渡した資料に書かれている通り、事業は事実上失敗した」

 

 

動揺の声は出なかった。だが聖王国へ自らの縄張り(シマ)を拡大を目論み、相応の人材や金銭の投資をしている部門も少なくない。

 

面白くない投資結果にそれに参画した部門の長たちは内心苛立ちを募らせていた。

 

 

「奴隷売買部門のコッコドールがこの場にいない原因もそれに関係している。奴は今、聖王国の牢獄だ」

 

「あら、おかしな話だね」

 

 

進行役の男とは別に口を開いたのは白い女だった。女は毒々しい紫の煙を上げる煙管(キセル)を片手に持ってワザとらしい訝し気な表情を見せる。

麻薬部門の長、ヒルマ・シュグネウス──

その病的な白い肌に白くて薄い衣服はその姿から退廃的な高級娼婦を彷彿とさせた。斜陽傾向の部門がある中でも麻薬産業で利益と結果を示し続けて組織での発言力と権威を高め続けている強かな人物だ。

 

 

「コッコドールには優秀な護衛が付いてたんじゃなかったのかい? ねえ、ゼロ」

 

 

皆の視線が1人の男へ集まる。

限界まで鍛え込まれた筋骨隆々、禿げた頭部から腕、胸などに獣を象った入れ墨を掘り込んだ益荒男…警備部門の長、『闘鬼』ゼロ。

警備部門最強にして『八本指』の最高戦力『六腕』のリーダーに座している。

 

 

「……」

 

 

ゼロは腕を組んで目を閉じたまま何も発さない。

彼の代わりに進行役の男が口を開いた。

 

 

「とにかく、我らは聖王国との接点をほぼ完全に失ったと言っても過言では無い状況だ。これでは王国の様に貴族の人脈を使ったコッコドールの救出も不可能、手の施しようが無い」

 

「まさか、あの理想主義の小娘が大粛清の命を下すとはな」

 

 

誰かが言った一言に皆も同意見だった。

彼女は慈悲深いが理想が高く、多数を救うために少数を切り捨てるという選択が出来ず、どちらも救うと言う考えを是としている。

 

「誰も泣かない国」など馬鹿馬鹿しいにも程がある。そのせいで強い政策が取れず、彼女に反発する保守派閥の台頭を許すことに繋がったのだ。

 

『八本指』はそんな聖()()が治める聖王国へ目を付けたのだ。彼女の懐刀とも言うべきカストディオ姉妹が厄介だが、逆に言えば脅威と呼べる存在はそれだけだった。その姉妹も上手く内政問題を利用すれば十分抑え込める程度で、その役目を果たさせる為に『八本指』はカルカらの政敵である保守派閥に目を付けたのである。

 

野心家であり保守派閥筆頭のボディポはまさに打ってつけだ。案の定、チカラを欲しがっていたボディポは『八本指』の提案に乗り、その影響力を対価に組織の苗床として尽くしてくれていた。

 

 

「それもこれも全てはコッコドールのせいだ」

 

 

賭博部門の長、ノア・ズィデーンが苛立ちを隠さずに呟いた。

 

今回の聖王国への事業に最も力を入れていたのはコッコドールと言って良い。組織内でも落ち目であった彼は残りの財を全て投資する勢いで聖王国南部で奴隷売買業を復活させんと躍起になっていたからだ。娼館扱いではあったが軌道には乗っていた為、この調子でいけばあとはボディポら保守派が奴隷制度の復活を成し遂げれば悲願である奴隷売買部門の復古を果たせていただろう。

 

しかし、彼は欲を掻き過ぎた。

 

奴隷売買部門以外の部門も聖王国南部には少なくない金や人材、コネを投資している。コッコドールはそんな各部門が現地で築いたコネクションを独自で調査してはその弱みとなる情報を収集していたのだ。更に金を使って既に別の部門がツバを付けた貴族や商会にも接触を図り、自らへ寝返るよう働き掛けていた。

 

早い話、聖王国南部で最もチカラを持つ存在(部門)になろうとしていたのだ。

 

しかし、全てが御破算となった。

被害を受けたのが奴だけなら「マヌケ野郎」と嘲ることも出来たが奴が集めた聖王国南部に於ける『八本指』の情報も聖王女派閥へ奪われてしまったので、各部門も大粛清のとばっちりを受けてしまった。

 

 

「どちらにせよ奴は組織のことを知り過ぎている。さて、どうするべきかな? 皆の意見を聞きたい」

 

「重要なのは2つに1つだろう?」

「殺すか、助けるか。時間も労力も段違いだぞ」

「殺すべきだろ。もはや助ける価値すら無い」

「下手な事をベラベラと話す前に始末するべきだ」

「そうだな。ヤツは色々と知りすぎている」

 

「ゼロ、お前はどう思う?」

 

 

自然なカタチで話を振ったが「六腕が守っていればこうはならなかったのだからケジメをつけろ」と暗に言っているようなものだった。

 

そこで漸くゼロが口を開いた。

 

 

「コッコドールは俺達で始末する。既に送り込んだ刺客から、近いうちに報告が上がるだろう」

 

「ほう。仕事が早いな」

 

「無論だ。落とし前は付けねばなるまい」

 

 

再び瞳を閉じるゼロは、一見冷静沈着に見える態度だが内心は沸々と怒りが煮えたぎっていた。

 

もし聖王国南部の事業が悉く失敗する兆しが見えた場合、コッコドールが集めた各部門の情報を警備部門が確保する事で聖王国に悪事に関わる様々な情報が渡るのを防ぐ手筈だった。そうすれば奴隷売買部門は終わっても各部門はさほど手痛い被害を受ける事なく事が収まり、ゼロは各部門の長たちへ借りを与える事に繋がる。手に入れた情報を今後の部門間の交渉に利用する算段もあった。

 

その目論見は悉く失敗。

護衛失敗という自身の看板に泥を塗る結果となったのは実に腹立たしい事だった。ゼロは自分や『六腕』の強さを侮り、コケにすることを極端に嫌う男だ。故にその怒りは見た目とは裏腹に相当なものである。

 

 

(デイバーノックは逃げ延びたが、まぁこれ以上『六腕』の欠員が無かっただけ良しとしよう。だが、ブレイン・アングラウスが未だに聖王国の手の内にあるというのはいただけんな)

 

「ゼロ、あんたが新しく見つけた期待の新人…ブレイン・アングラウスは聖王国に囚われたままじゃないのか。ソイツは生かして連れ戻すのかい?」

 

 

ヒルマの言葉にゼロは猛禽類が如き鋭い眼光を向ける。ヒルマの護衛はその気迫に思わず息を呑むがゼロに威嚇するつもりは無い。

 

 

「あぁ。デイバーノックの目測では()()の強さは計り知れんからな。“決して侮るな”とも忠告してきた。アングラウスを連れ戻しヤツの詳細な情報を集め、来るべき時に備える」

 

「ヤツ…?」

 

「決まってるだろ。『漆黒』のモモンだ!」

 

 

その瞬間、ゼロの周りの空気が歪んだ。微笑を浮かべているが眉間に浮き出ている怒張から彼の怒りの具合が見て取れる。組んでいた腕を始めとする全身の筋肉もより厚みが増しており、周りはそのただならぬ雰囲気に気圧されていた。

 

 

(モモン…!俺の顔に泥を塗ったことを後悔させてやるぞ!)

 

 

 

南部の一件から既に2週間以上が経過した。

聖王国は大粛清による事後処理に齷齪(あくせく)してる最中でいち段落出来るまでもう少し時間は掛かるだろう。

 

国家転覆の危機を救った大英雄『漆黒』のモモンだがその活躍が未だ公になっていない。元々国絡み且つ秘密裏の依頼だった為、大々的に公表すれば本来の正式な手続きを踏まなかったモモンに対し、今後少なからず批判が来る可能性がある。

大多数の国民から“救国の英雄”と謳われ、その温厚な人柄から組合や同業者からも慕われているので、苛烈な非難が来ることは杞憂に過ぎないと聖王国政府は考えていたが、それでも可能性はゼロでは無い。また、他国の冒険者組合からもあまり良く思われなくなるリスクもある為、彼の今後の冒険者稼業や経歴に少しでも禍根を残す様な真似はしないという方針で決まった。

 

しかし、それでは救われた側は納得出来ない。

事後処理が落ち着き次第、国を挙げた大イベントを予定しているのだが、国を救った側の誰かさんはまだ知らない。

 

肝心の彼は今日も呑気に過ごして──

 

 

「脚の運びが疎かだぞ、モモン!!」

「くっ!!」

 

 

──いなかった。

 

現在、モモンとブレインは聖王国北部辺境にある人気の無い某廃砦の敷地内で戦っている。戦ってるとは言っても2人の間に敵意も無ければ殺意も無い。

 

2人は実戦レベルの戦闘訓練をしているのだ。

 

 

「はぁ!!」

「〈縮地〉!」

 

 

モモンが頭上より振り下ろす大剣に対しブレインは武技〈縮地〉を発動させる。これによりブレインは足腰を一切動かさずモモンに向かって滑るように移動した。

 

 

「またそれかっ!」

 

 

満足に大剣が振れない間合いまで詰められる。

慌てたモモンはこれ以上仕掛けさせないよう牽制の意味で詰め寄って来たブレイン目掛けもう片方の大剣で横薙ぎに振るった。しかし、ブレインは迫り来るもう一方の大剣を持つモモンの肘関節部分を狙い刀を突き立てる。

 

 

「だぁ!!」

「うぉおっ!?」

 

 

ダメージは()()()()が渾身の一突きを受けてバランスが崩れてしまった。それを見逃さないブレインでは無い。ブレインは直ぐに刀を構え直し追撃を仕掛けて来るが、モモンも無理矢理体勢を立て直して飛び退いて距離を取ろうとする。しかし、モモンが飛び退く寸前、ブレインはモモンの脚に一太刀浴びせた。

 

これにより再びバランスを崩されたモモンは飛び退く寸前だった事もあり、今度はふらつきながら片膝を地面へ付けてしまう。

 

モモンが影に覆われる。

そこには太陽を背にするブレインが上段から刀を振り下ろさんとしていた。

 

 

「ちぇい!!」

 

 

ギィィン!という金属が激しく擦り合う嫌な音と共に刃が袈裟懸けに振り下ろされる。

 

 

「くっ…!」

 

 

今のモモンは漆黒の全身鎧を装着しているがブレインが振り下ろした刀は鎧で守られていない絶妙な部位を正確に狙った一撃だ。もしモモンが生身であれば僧帽筋や重要な血管は鎖骨諸共切断され、致命傷を受けていた事だろう。

 

無論、今のモモンはアンデッドなので擦り傷程度のダメージでしか無い。

 

 

「くそっ! やっぱりズルいぞ武技は!」

 

 

悪態を吐きながら乱暴に地面へ座るモモンを苦笑いを浮かべたブレインが呆れた声で返した。

 

 

「ズルいってお前、俺からしたらお前の存在そのものがズリィよ」

 

「俺だって最初から強かったワケじゃないんだぞ。沢山経験値を積んで、今に至ったんだ。あと俺より強いヤツなんて普通にいたぞ」

 

「いやいや信じられねぇよ。どんだけ修羅の国だよそこは。ってかお前は魔法詠唱者(マジックキャスター)だろ?」

 

「それはそうだが、この訓練の目的は説明したろ? 今の俺に必要なのは戦士としての“経験”なんだ。ちゃんと満足するまで付き合ってもらうぞ」

 

「負けた手前断れねぇし、別にかまわねえよ。それに俺も良い鍛錬になるしな。あとオマエ結構良い線行ってるぜ」

 

「むっ、いけしゃあしゃあと言ったなコイツ。ならもう一手付き合ってもらおうか」

 

「おうよ」

 

 

青空の下、再び金属と金属のぶつかり合う音が廃砦に響き渡る。

 

2人が居る場所は城塞都市カリシャより遥か北にある生い茂る森林とその先の開かれた土地に建てられた元砦の廃墟だった。砦と言っても塔らしい部分は根元以外既に倒壊しており、他も崩れた石壁が散見されていてオマケに草木が生え放題伸び放題とまさに廃墟そのもの。

 

漏れ聞く所によると元々は対亜人部族を想定して作られた拠点らしく要塞線が建てられるよりも前にあるとのこと。アベリオン丘陵より攻め込んできた亜人を討伐する為の軍の中継基地、または籠城して迎え討つための砦なのだが平地に建てられたという事もあり、これまで何度も亜人に狙われたが守り切れた(ためし)が一度も無い砦なのだ。逆に砦を奪還しようと聖王国軍も攻め込んでは何度も奪還に成功している。

 

地理的要因から亜人側にとっても人間側にとっても攻め易く、そして守り難い砦。

 

やがて要塞線の建設が本格的に始まると砦が攻め取られる回数も減り、ついに要塞線が完成すると砦に攻め込まれる事自体が無くなった。聖王国側も要塞線が出来た以上、砦の存在意義が自然と無くなったので悪党たちの根城にならない程度に破壊した後、放棄を決定したのだ。

なんとも不名誉で難儀な元砦はやがて荒廃が進み、自然の一部と化した。

 

そんな今となっては誰も近寄らない廃砦に目を付けたモモンはそこを絶好の訓練場所と捉え、現在に至る。訓練に際して邪魔な草木はある程度除去し、周囲に高レベルの探知魔法を展開しておけば後は気兼ねなく近接戦闘訓練が出来ると言うわけだ。

 

 

「〈瞬閃〉!」

「ちぃ!」

 

 

居合の構えから放たれた神速の一刀をモモンはギリギリで大剣を盾として受け止める。すかさず距離を詰めて2本の大剣を使い、遠心力を活かした強烈な一撃を見舞おうと仕掛けた。

 

 

「ッ!?」

 

 

瞬きの間、ブレインは安易に想像出来るモモンが持つ膂力を使った強力な一撃を刀ではいなし切れないと判断し、直ぐに武技の発動へ思考を切り替える。

 

 

「〈重要塞〉!」

「ぬうぅん!!!」

 

 

刀で受け切る覚悟で構えると直ぐにその衝撃が刀を伝って全身へ響き渡る。

 

 

「お……っ!?」

 

 

防御系武技を使ってもまるでそれが効果を発揮しているとは思えない一撃に驚愕するブレインだが、それでもなんとか姿勢を崩すまいと踏ん張り続け、地面に10メートル弱の一直線に地面を抉った線を形成した。

 

 

「はぁ…!はぁ…!」

 

 

大分押し飛ばされたがそれでも耐え切る事は出来た事に安堵する。両の腕が痺れて上手く動かせず、回復まで少し時間を要するだろう。

 

 

「くそぁ〜、決まったと思ったんだがな」

 

 

残念そうに呟くモモンの声とは逆にブレインは少し焦りを感じていた。

 

 

(俺の動きに対応しつつある……?)

 

 

モモンとの戦闘訓練を始めて既に丸15日。

2週間以上もほぼ休み無しのぶっ通しで剣を交えてきた。

 

ブレインは生身の人間なので流石に休み無しの15日の訓練は出来ない。その為、モモンは彼の為に食事・睡眠不要の維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)を始め、疲労無効化やどんな致命傷も一度だけ耐え切る効果のマジックアイテムを貸し出し、またモモンが彼へ強化魔法を掛けてバフを掛けたりしていたのだ。

 

ブレインはこの反則級のマジックアイテムを渡されて気が遠くなりかけたが、それ以上にモモンの強化魔法によって実感した身体的変化の驚きもあって何とか意識を保つことが出来たとか出来なかったとか。

 

一方、モモンは常時発動型特殊技術(パッシブスキル)の「上位物理無効化Ⅲ」を解除したり、魔法を一切使わなかったりと言った縛りを課している。ブレインの刀には僅かに聖属性も含まれている為、僅かだがダメージは入る。

 

朝も昼も夜もぶっ通しで剣を交える。

マジックアイテムの効果は本物でその有り難みを実感するブレインだがそれ故に人間としてのルーティーンが無くなった事による違和感が強く、たまに休憩を挟んだりもしていた。

 

 

「なぁ、ブレイン。今の俺は戦士としての技量はどの辺にいる?」

 

「んあ? そうだなぁ……ふむ」

 

 

モモンは唐突に質問してきた。

 

彼の頭から足先までブレインは真摯に観察し、そしてこれまでの戦いの動きから吟味する。

 

 

「ま、金級ってとこだな」

 

「なんだ…てっきり白金級(プラチナ)は行ってると思ったんだけどなぁ」

 

 

じっくり観察した後に出た言葉にモモンはあからさまに肩を竦めた。

 

 

「多少の差異があるのは認めるが、ちゃんと真剣に測ったつもりだ」

 

 

不満気なモモンにブレインは呆れながら答える。

 

 

「確かに連日連夜殆ど休み無しで訓練してるとは言っても、たった15日で戦士の技量が金級まで上達するって普通はあり得ねぇんだぞ。それこそ、どれだけ才能がある奴でも早くて数ヶ月単位は掛かる」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうもんだ。それにお前、妙に戦闘センスが高いんだよ。呑み込みが速いというか、吸収力が高いというか。この調子なら相当な数の〈武技〉を習得出来るかもな」

 

「…そうか。でも武技は諦めた方が良さそうかもな」

 

「いやいや、それこそ続けてみねぇと分からねえさ」

 

「挑戦は続ける。でも多分無理だ」

 

「どういう事だよ?」

 

「…何となく」

 

 

モモンが戦士としてブレインと近接戦闘訓練を実施しているのには幾つかの目的があった。

 

幾ら戦士の真似事をしても所詮はモモンは魔法職だ。魔法職にとって最も重要なのは相手との距離を保ち続けること。決して近接戦闘に持ち込まれてはいけない。

 

 

(ユグドラシルで昔、レベル100の魔法職100人の内ワールドディザスターを50人近く抱え込む傭兵ギルドがあったっけ。そのギルドの圧倒的火力は正直笑いが出るレベルの凄まじさだったけど、ワールドチャンピオン6人によるドリームチームに壊滅させられた……あの時は「スゲェ」程度の感動しかなかったけど、今は危機感を強く感じる)

 

 

魔法職の弱点は基本的に近接戦闘だ。

そこで重要となってくるのが今回の特訓である。剣の振り方、攻撃の捌き方、足腰の動きや立ち回りなど正に戦士特有のテクニックだ。近接戦特有の距離感や立ち回り方を経験し、活かせるようになれば戦術の幅は大きく拡がる。

 

 

(もしこの世界で自分よりも格上が現れたら先ず勝てる見込みは無い。最悪、逃げ切れないことだってあり得る。自分の実力が最強と思うほど自惚れちゃいない)

 

 

この世界にとってレベル100のモモンガは恐らく世界屈指の実力者だろう。それでも上には上がいると常に考えている。

 

 

(それに相手を欺く術は多く持っておいた方が良い)

 

 

もう一つの目的はモモンは戦士職だと相手に信じ込ませる為だ。

 

ブレイン曰く訓練前のモモンは戦士とは到底呼べず、「馬鹿力に任せて大剣を振り回してるだけ」とかなりの辛口コメントを貰っている。要するにブレインみたいな本物の戦士職が観れば、モモンが戦士では無いという事がバレてしまうのだ。

 

 

(レベル20後半のブレインで気付かれる…という事は、冒険者組合だとミスリル級、いや下手したら白金級(プラチナ)の冒険者に見透かされる可能性がある)

 

 

聖王国の冒険者層は他国と比べるとかなり劣っている。モモンが拠点にしている城塞都市カリンシャの冒険者組合はモモンに次いで高い階級が金級なのだ。聖王国全体で見ても白金(プラチナ)級以上は片手で数える程度しか居ない。

 

これまでモモンの戦士としての技量がバレなかったのは単純に見極められるレベルの冒険者が殆どいなかったこと、モモンという英雄像がフィルターの役割を果たしていたのでそもそも疑問にさえ思っていなかった可能性がある。

 

 

(ここが冒険者層の厚い王国だったらと思うと今でもゾッとするなぁ。やっぱりブレインと出会えて本当によかった)

 

 

故にモモンはブレインとの特訓を経てアダマンタイト級に相応しい戦士としての技量を得ようと努力している。たとえ経験値にならずとも経験として、特殊技術(スキル)は得られずともリアルだからこそ得られる技量を得る。

 

現にこの目的は成功過程の真っ只中だ。

現地の強者が観てもモモンが戦士職ではなく魔法職だとバレるリスクは大きく減る事となるだろう。この虚構(ブラフ)が隠れ蓑となり、敵に思い掛けない奇襲を与えるキッカケに繋がるのだ。

 

 

「〈武技〉は年単位で覚えて行くんだ。そんな自分を卑下すんなよ」

 

(卑下してるわけじゃないんだけどな…でも、本当に〈武技〉は欲しい。コレクター心が無いわけじゃないけど、有用性はかなり高そうだし)

 

 

自己強化の一環で特に注目したのが〈武技〉である。〈武技〉はかなり奥深く、近接戦闘でその用途は多岐に亘り色々と応用が利く。使い方によっては形勢逆転さえ十分可能と言えるかも知れない。質量差を無視した防御技や攻撃技、身体能力の向上などその種類は様々だ。特に大きな利点は自身に合った〈武技〉を開発する事が出来るという点だろう。

 

これはある意味で当然と言える。

実際、この世界はユグドラシルの位階魔法が使われているが、第0位階(生活)魔法含め、この世界で開発された独自の魔法がある。魔法でそれが可能なら〈武技〉が当て嵌まらないワケが無い。

 

 

(〈武技〉は集中力を消費して使うらしいが、それはつまり戦士職専門の魔法みたいなものか。集中力は戦士職にとっての魔力(MP)ってことか?)

 

 

面白いと思いつつも実は半ば諦めの気持ちもあった。冒険者モモンとして活動する前に一度だけ試した実験で、適当な剣を手に持ち振るった事がある。結果、剣は振るわれる前にまるで弾かれたように彼の手から落ちてしまった。

 

 

(あの実験で分かった事は、この世界でもユグドラシルのシステム(ルール)が適用されているということ。つまりレベル100の俺が新たに戦士系の職や新しい特殊技術(スキル)を会得したり、レベルアップする事はまず出来ない。もう頭打ちってことなんだなぁ)

 

 

レベルや特殊技術(スキル)面での向上は不可能だろう。そうなると〈武技〉の会得など以ての外だ。しかし、決してそれは成長の終わりでは無い。此処はユグドラシルでは無く、生と死がある世界なのだ。ゲームの中とは違う、文字通りの命のやり取りがあるこの世界ではユグドラシルと同じ感覚の立ち回り方では必ず足を掬われるだろう。

 

これまで何人もの戦士とモモンとして近接戦闘を行う機会は多かった。

誰もがユグドラシルには無かった能力を駆使して戦うスタイルは正直目を見張るものがある。

 

 

(まだ出逢えてないだけでこの世界独自の強者だっているはずだ。いや、もしかしたら俺以外のユグドラシルプレイヤーだっているかも知れない)

 

 

〈武技〉や生まれながらの異能(タレント)など自身の脅威と言えるチカラがこの世界にはある。

現に戦士縛りとは言え圧倒的にレベル差があるにも拘らずモモンはブレイン相手に苦戦しているのが良い証拠だ。

 

 

(最初はこの訓練相手をクレマンティーヌに頼もうと思ったけど…)

 

 

彼女はとっくにこの国を去っている。そもそも国外逃亡の身である彼女を自分の我儘で下手に留めて置くワケにはいかない。魔法で彼女を秘匿する事も出来るが魔法も万能ではないし、この世界独自の未知の魔法で彼女の存在が露見してしまうリスクがあるなら避けるべきだ。

 

今は彼女が新天地で第二の人生を歩んでいることを祈ろう。

 

 

「そうだ。実は少し試したい事が……ん?」

 

「どうした、モモン?」

 

 

大剣を構えたモモンの動きが止まった。

 

 

「宿屋に置いてきた例の不可視化が使えるシモベからか?」

 

「あぁ。なんか聖騎士団副団長のグスターボさんが俺を探してるらしい」

 

「お? それはいかねぇと不味いんじゃねえか、英雄サンよ」

 

「お前他人事みたいに…」

 

 

刀を鞘に納め軽口を叩くブレインをモモンは兜のスリット越しから恨めしげに睨んだ。だがブレインの言う通り、聖騎士団のNo.2の呼び出しなら応じないワケにはいかない。

 

それに実は期待もしている。

 

 

(まさか国外活動の許可が降りたのかな? くぅ〜!遂にこの時が来たか! 話を付けてくれたパベルさんには本当に感謝しかない!!)

 

 

そうと決まれば善は急げだ。

モモンはルンルン気分でブレインと共に城塞都市カリンシャ郊外へ移動し、街の門を潜って自分が使っている安宿へと向かう。

 

意気揚々と気持ちを抑えながら冒険者組合の扉を開く。

 

案の定、冒険者達はもちろん、組合員達の視線が一斉に集まった。

 

 

「お帰りなさいモモンさん!!」

「モモンさん!!」

「おかえりなさい!!」

「うおぉぉ!!モモンさんだぁ!!」

「ほ、本物だぁ〜!!」

 

「ただいま戻りました。みなさん、お疲れさまです」

 

 

15日ぶりとは言え相変わらずの凄まじい出迎えコールだ。流石に慣れはしたがそれでも少なからず心臓に悪い。

 

隣にいるブレインが苦笑いで此方を見ている。その気持ちは分かるが、聖王国から出てしまえばもう直ぐこんな贅沢な出迎えも暫くは無縁となるのだ。

 

今はこの日常を加味しよう。

そして冒険しよう。

 

 

「おぉ!!モモン殿!!」

 

 

受付の奥から聖騎士団副団長のグスターボが嬉々としてモモンへやや駆け足気味に歩み寄ってきた。

 

 

「モンタニェス副団長殿、お久しぶりです」

 

「こちらこそ。モモン殿もお変わりなく」

 

 

挨拶と共に2人は握手を交わす。

モモンがスリット越しにチラリとグスターボの背後へ目を遣る。そこには入団したてと思しき若い聖騎士達が整然と並んでいた。少し気にはなったが思った所で仕方が無いと直ぐにグスターボへ意識を切り替える。

 

 

「ここ最近、極めて多忙とお聞きしています。御身体の方は大丈夫ですか?」

 

「心遣い痛み入ります。ですが、心配ご無用です。我ら聖騎士団はこの国のため、正義を示すために存在しています。この程度で折れはしません」

 

 

モモンが言う「多忙」とは言わずもがな大粛清の件である。

 

 

「実は聖()()カルカ・べサーレス陛下の遣いで、モモン殿にお伝えしたい事があり罷り越しました」

 

「はい。承ります」

 

「実は……」

 

 

答えは聞かずとも分かる。

今回の功績を機に、約束通り聖王国外での冒険者活動の許可が出るのだ。

 

素直に聞き入れるとしよう。

そして冒険しよう。

 

 

「首都ホバンスの王城にて此度の国難を乗り越えた事の労いと聖王国の再出発を祝う、祝賀会が行われます!! その賓客に我が国初のアダマンタイト級冒険者である『漆黒』のモモン殿にも是非、御参加頂きたく!!」

 

 

うんうん、皆で祝賀会を楽しもう。

そして冒険し──

 

 

「……え? 祝、祝賀?」

 

「はい、祝賀も祝賀‼︎ 大祝賀でございます‼︎ 2週間後には首都全体が新生ローブル聖王国を祝うことになりましょう‼︎」

 

「は? あ、いや…え?」

 

「聖女王陛下を始め、多くの勇士達がモモン殿に会える事を心より楽しみにしております‼︎ …わ、我らがレメディオス・カストディオ聖騎士団長も是非とのこと‼︎」

 

 

意味不明、理解不能。

なんでそんな席に自分が呼ばれるのか。

確かに国の生まれ変わりを祝う事は不思議で無い。自分の活躍は公にならない筈なのに何故そんな事をするのかとモモンは本気で泣きたくなった。

 

 

(って言うか、カストディオ団長のところで一瞬、変な間があったような……いやいや!!それどころじゃ無い!!)

「あ、あのぉ…それは──」

 

「おっとっと、モモン殿のご懸念は分かります。いち段落ついたとは言え、未だ聖王国は課題が山積みです。そんな状況で国を挙げた祝賀会などしている暇があるのか、と心配する気持ちは重々承知でございます。ですが、そこは我らの領分にてモモン殿が心を痛める必要は御座いません。御懸念御無用っで御座います!!」

 

 

心を痛めるというより胃を痛めております。

どうか私の心情を懸念に思ってください。

 

なんて言えるはずも無く、ただ無心に「あ、ハイ」と答える以外の選択が無い。

 

 

「では、後日迎えの馬車が来ます故、何卒よろしくお願い申し上げます!」

 

 

上機嫌なグスターボは部下達を連れて組合を後にする。

 

周りの騒めきなど既に聞こえない。

気が付けばいつもの安宿の部屋に居た。

 

ベッドの上にうつ伏せで倒れていたモモンをブレインは気の毒そうに見下ろしている。

 

段々とグスターボの言葉を理解し始めたモモンはぐるんと兜を被った状態でブレインへ顔を向けた。

 

 

「誰か助けて」

 

「まぁ…その、あれだ……良かったじゃねえか、ほら…腹いっぱい美味い飯が食えそうで、よ?」

 

「…あぁん?」

 

 

首都ホバンスが王城、聖女王カルカ・べサーレスの自室では部屋の主カルカを始め、聖騎士団団長レメディオス・カストディオ、神官団団長ケラルト・カストディオの3名が集まる事が多い。

王族に相応しい豪華さはあるが無駄に派手では無く、落ち着きのある部屋だ。

窓に近い小さなテーブルを囲い、其々に配られた紅茶がテーブルの上に置かれている。

 

カルカは日頃から政務や要塞線の状況など国に関わる今後の問題を、自身が特に信用している2人と相談する為、こうしてお茶会と称して自室へ招き、互いに意見を出し合うなどをしていた。

 

 

「政敵の保守派貴族を潰した今、聖王国は内部から妨害を受けることなく政策に専念できるようになりました。ですが、問題は未だ山積みです」

 

 

カルカの言葉にケラルトが頷く。

 

 

「粛清した貴族の数が数でした。残った貴族に分配したとしても、広大な土地を治めるとなればその負担は想像に難くありません。私が信用足りうる貴族の次男、三男にも領地を与えてみるのもありかと。無論、入念に吟味した上ですが」

 

「現状それが一番有効ですね…。レメディオス、騎士達の方は大事ありませんか?」

 

「大粛清で幾人かの怪我人は出ましたが、皆すでに現場へ復帰しております」

 

「そうですか。それは良か──」

 

「これで亜人どもがいつ攻めて来ても問題ありません!!悉く返り討ちにしてみせます!!」

 

「姉さま…」

 

「せ、攻めて来るのは流石に困りますね」

 

 

自信満々に答えるレメディオスに苦笑いで応えるカルカだが、こんな穏やかな時間も今となっては愛おしく感じていた。 

ボディポと『八本指』の暗躍によりこの国は寸前の所まで追い込まれていたが故、常に張り詰めた空気の中で激務に勤しんでいたからである。

 

このような穏やかな日々を取り戻す事ができたのでは(ひとえ)にあの御方のご活躍あってこそ。

 

 

「残された問題は山積みとは言え、未曾有の国難を乗り越えることが出来ました。改めて2人に感謝申し上げます」

 

 

頭を下げるカルカに対し、カストディオ姉妹は互いに顔を見合わせた後、静かに首を横に振った。

 

 

「我々は僥倖に救われたに過ぎません。実際、その時まで何も出来なかったのですから」

 

「ケラルトの言う通りです、カルカ様。にっくきボディポの策に嵌り、手足が縛られたも同然だったのです……ですが!!」

 

 

突如、目を輝かせ身を乗り出してきたレメディオスに2人は一瞬驚いた。

興奮冷めやらぬレメディオスは言葉を続ける。

 

 

「神は!正義は!我々を見捨ててはいなかったのです!!我らが救世主、『漆黒』のモモン殿!!」

 

 

聖王国史上初のアダマンタイト級冒険者『漆黒』のモモン。この国は数々の偉業を成し遂げた彼にまたしても救われたのだ。

彼の働きが無ければこの国は『八本指』の手の中に落ちていた事だろう。

 

 

「彼は素晴らしい!!まさに正義を体現したかのような御仁だ!!モモン殿の働きと、それに呼応したカルカ様による裏切り者共の粛清!!御二方の()()()()によって、この国は救われたと言っても過言ではありません!!」

 

 

レメディオスはまるで英雄譚に心を踊らされた少年少女のように語る。

彼女が他者の名前をハッキリと覚え、尚且つここまで賞賛するのはケラルトも見たことがない。王国のガゼフ・ストロノーフが『周辺諸国最強』の異名を持つようになった時は「私も負けてられない」と良い好敵手のようなやる気に駆られているのは見たことあるが、今の彼女は明らかにその時以上だ。

 

そして、カルカにも異変が起きていた。

 

 

「(き、共同…作業…ですか。え、えぇそうですね。ですが、私もあの御方の活躍あってこそ決断出来たのであって。あぁ…でもそうですね。2人の…初めての共同作業…なんて素晴らしい響き…)」

 

 

紅潮する両の頬を手で押さえながら何やら独り言を繰り返している。ウットリとした顔で、その目には強い熱が込められていた。

 

 

(カルカ様が何て言っているのかあまり良く聞き取れなかったけれど……恋とはああいう熱を帯びるモノなのかしら? 私にはさっぱりだけど、今はカルカ様の恋路を出来るだけ補佐していくことがこの国にとって一番の利益に繋がるのは確実ね)

 

 

カルカが胸の内に抱くモモンへの強い恋心をケラルトは強く応援している。それはカルカが主人であり親友でもあるからと言う理由もあるが、一番の理由は『漆黒』のモモンをこの国に縛り付ける手段として、これ以上無いほど都合が良いからだ。

 

 

(モモン様を王配として迎え入れる。救国の英雄である彼を快く思わない輩は保守派が潰れた現状ほぼ皆無に等しい。更に国内は勿論、諸外国への強い国威にも繋がる。なにより、アベリオン丘陵の亜人部族と言う目の前の脅威に対する大きな牽制にもなる)

 

 

政治に深く関わって来たが故の思考だろう。

何事も主人の、そして国が優位に立つ策を考えてしまうのは常日頃から派閥闘争の真っ只中にいたからだが、本人はそれを自覚はしていても後悔はしていない。現に親友であるカルカの為に繋がるのならそれは彼女なりの『正義』と言えるからだ。

 

それほどまでにモモンという存在の価値は大きい。絶対に逃してはならず、ましてや他国に引き抜かれるなど絶対に論外だ。

 

それ故に懸念もある。

 

 

「話は変わりますが、カルカ様。つい先ほど、バハルス帝国のジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝よりモモン様宛の親書が届いているのです」

 

「ッ! 親書?…バハルス帝国の皇帝自ら?」

 

 

ケラルトの言葉にカルカは漸く現実へ戻された。

そして彼女の言葉にカルカは僅かに表情を曇らせる。彼の評判はあまり良くは無い。統治者としての能力は間違い無く優秀なのだが、彼が国内を刷新する為に出した決断が不味いのだ。

『鮮血帝』──国内の無能貴族を一掃する為に実行した無慈悲な粛清は、奇しくもカルカも似たような道を歩んでいる。

実は国内では大粛清を命令した彼女を畏れを込めて『冷血聖女』と呼ぶ者もいた。まるでバハルス帝国皇帝のような血も涙もない冷酷な聖女だと、そういう話もカルカの耳に届いている。

 

傷付いていないと言えば嘘になるが、問題はそこでは無いと考えカルカは彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 

「はい、親書です。一国の王が王族でも貴族でもない一個人に親書を贈るなど滅多にあることではありませんが、新たな人類の守り手の誕生を祝うという意味であれば決して前例が無い訳ではありません」

 

「それだけエル=ニクス皇帝はモモン様に注目なさっていると言うことね」

 

「はい。オマケに一級品以上の価値のあるマジックアイテムも共に贈ってきております」

 

「……それは流石に無碍には出来ませんね」

 

「私も同意見です。ここでいつもの如く我々で揉み消してしまえば、モモン様が帝国へ訪れた或いは皇帝からの使者が我が国へ訪問した時、もしモモン殿と面会してその時のことを聞いてきたら…」

 

「モモン様が…わ、我が国に対する不信感を抱く事に…なる」

 

 

カルカの表情が暗くなる。

後のリスクを考えればこの親書は贈り物のマジックアイテムと共にモモンへ届けるのが普通だろう。しかし、それでモモンが帝国に対して好印象を抱いてしまったらどうなるか。恐らく帝国へ赴き、拠点として魅力的であると彼が捉えれば彼はそのまま帝国の冒険者になってしまう可能性がある。だが、隠蔽するのも得策では無い。

 

 

「冒険者は自らを高く評価してくれる場所へ移る…それが普通で、モモン様は例外という保障はありません、ね」

 

「大丈夫です、カルカ様。モモン殿がそのような下賎な手に乗る筈がありません」

 

 

謎の根拠で「問題無い」と言い切るレメディオスが羨ましいとカルカは心の底から思った。しかし、彼女の意見もある意味では尤もと言えるかも知れない。モモンは拠点としているカリンシャの人々から大変良く慕われており、極めて良好な関係であると言う。特に『黒』のパベル・バラハ兵士長とは昵懇の仲だと言われており、時折2人で仲良く街中を歩く姿をよく見掛けているとのことだ。

 

 

「帝国からの親書等は素直にモモン様へ贈りましょう。下手な隠蔽は却って後ろめたい事があるとモモン様と帝国へ教えるようなものです」

 

「承知しました」

 

 

彼にも聖王国への愛着はあるだろう。

それでも不安は決して拭えはしないのだが…

 

 

「それとはまた別件なのですが。王国からある一団が是非モモン様とお会いしたいとの事で…組合経由で報せが届いております」

 

「冒険者組合からですか?」

 

 

周辺諸国で最も冒険者稼業が発展しているリ・エスティーゼ王国。その国が冒険者組合経由で「モモン殿に会いたい」と言う話があった、という事は考えられる相手は一つである。

 

 

「つまり…王国の冒険者が来る、ということね」

 

「ご推察の通りです。リ・エスティーゼ王国アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』」

 

「っ!?…やはりそうでしたか」

 

 

アダマンタイト級冒険者の中でも特に有名な『蒼の薔薇』はチーム全員が才色兼備な女性ばかりと言われている。ある意味カルカにとって気が気じゃない一団が組合を通して「モモンに会いたい」と言って来ているのだ。

 

平静を装っているが心中は穏やかではない。

 

 

「冒険者に国の垣根はありません……寧ろ冒険者同士の交流は良くあること、今回もその一環であると受け止めるべき、ですね」

 

「その通りです、カルカ様。此処で我々がしゃしゃり出てしまうとモモン様の今後の活動に何らかの支障が出る可能性があります。いいえ、モモン様だけではありません。我が国に在する他の冒険者たちの活動にも影響があるかと、最悪多くの冒険者が我が国を捨てて行く可能性もあります」

 

「…申すに及びませんね」

 

 

流石に彼に対して直接的な勧誘はしないかも知れないが可能性はゼロではない。

 

ケラルトが特に焦っているのは皇帝からの親書と言う名の勧誘よりもコッチの方が厄介だと思っていたためだ。

 

 

(モモン様は兼ねてより国外への冒険者稼業を望んでいた。アダマンタイト級という冒険者の頂点の称号を手にしても敢えてリスク承知で安定した国内より国外を目指す意図は解りかねるけれど、もし『蒼の薔薇』がそんな彼の心を擽りでもしたら……不味いかも知れないわ)

 

 

そこへカルカがケラルトへある提案をしてきた。

 

 

「そうだわ。『蒼の薔薇』の皆様も祝賀会へ誘っては如何でしょうか?」

 

 

手をパンと叩きいつものような慈愛に満ちた笑みを浮かべる。レメディオスは「それは良いお考えです」と素直な気持ちを述べる中、ケラルトだけはその真意を汲み取った。

 

 

(なるほど。敢えて国を挙げてのパーティーに呼び込む事で余計な策を封じようと)

 

 

日時はまだ未定とは言え祝賀会にはモモンも参加してもらう予定だ。その場には多くの貴族や著名人が集う場となっている。つまりモモンの周りを身内で固めて、『蒼の薔薇』がモモンを何らかの手段で籠絡する手を出させないよう監視すると言うものだ。

 

 

「分かりました。では段取りは私にお任せ下さい」

 

「よろしく頼みます、ケラルト」

 

 

カルカが微笑み、ケラルトもまた微笑み返す。

もし此処に聡い第三者がいれば2人の笑みの意味は知らずとも何処かにドス黒いモノが含まれていると察していただろう。

 

 

(なるほどな。他国のアダマンタイト級も参加するとなれば舐められる訳にはいかんな。……ッ!!うむ!良い考えが浮かんだぞ!!)

 

 

そんな2人が与り知らぬ所でレメディオスは我が国の威信を示す為、とっておきの企画がその脳裏に浮かんでいた。

 




・ずさんで穴だらけ矛盾だらけの私の考察ですが他のオバロ二次のネタに使っても全然大丈夫です。オバロ二次の発展に微力でも貢献出来れば幸いと思ってます。
PS:亡国の吸血姫 欲しい

ーーーー
・考察コーナー
『ファウンダー』(ワールドアイテム )
作者曰く「運営頭おかしい」

直訳すると(組織の)創業者や経営者の意味で使われる事が多いですね
最初は『運営お願い系』か『ギルド拠点作成用』の効果かと思いました。

しかし、この『ファウンダー』と同じ名前のクラスを会得してるキャラがいたんですよ。

そう我らがアイドル、ネイア・バラハです。
一度死んで生き返った後の彼女のクラスに『ファウンダー4lv』がありました。
狂眼の狂信者と化した彼女のクラス構成で一番レベルが高かったのがファウンダーでした。13巻のキャラクター紹介にある彼女が得た新しいチカラに起因していると考えました。

蘇生後の彼女は魔導王の素晴らしさを説く宣教師と化しています。
んで『ファウンダー』の意味を今一度調べると「開祖」「教祖」という意味もありました。

そこで私が考えた効果として
『(周囲の)味方を強制洗脳する代わりに、超強力なバフ効果を付与させる』
つまり指揮官系に近い効果を使用者に与えると考えました。
この超強力なバフの中に「ワールドアイテム保持と同じ効果=世界の守り」
も与えられるとも思ってます。ただしワールドアイテム保持者には効果は無し。ぶっ壊れ能力ですが洗脳状態なのでキャラクター操作権は『ファウンダー』を使用したプレイヤー1人のみ。

「運営狂ってる」が「味方を洗脳して操作権を奪う」という使用者の手腕に全てが掛かること、或いは倫理的な意味で「狂ってる」と思ってるのかと思いました。

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