悲報…友人に本二次作品を作成している事がバレる
◇
窓から差し込む月光で淡く照らされた室内で、リ・エスティーゼ王国第三王女のラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは1人で静かに思案する。
(そろそろラキュース達は王国を出立した頃合いでしょうか)
ラナーは冷え切った紅茶の入ったカップに口をつける。
(飽くまで彼との接触は冒険者同士の交流。ラキュース達は“とある情報筋から手に入れた”という体で『八本指』の新たな情報を提供する)
ラキュースは政治的な意味で
「幾重にも隠された聖王国南部の『八本指』の拠点を暗号文も無しでどうやって見つけたのかしら? 偶然…いいえ、だとしても場所もタイミングも何もかもが完璧過ぎる」
昨今の彼が残した聖王国の功績を考えれば考えるほど警戒心が高くなる。そして、もしも彼女の想定通り全てが彼の狙い通りだとすれば──
(危険ね。下手したらローブル聖王国を狙うよう『八本指』を追い込んだことがバレてしまうかも知れませんね)
ラナーにとって『八本指』は非常に邪魔な存在だった。自らの
「だったら」とラナーはある結論に至った。
潰すのではなく、締め出せば良い、と。
ラナーにとって厄介なのは『八本指』であって腐り切った貴族達でも、貴族達の操り人形になるのがオチな
(王国に固執しても旨味は少ない、と思わせれば良いだけ)
ラキュース達による秘匿された拠点や麻薬栽培地域の破壊工作、ザナックとレエブン侯による王族・貴族社会に対する様々な工作。これにより『八本指』はやがて損害と利益が段々と釣り合わなくなる。しかし、これだけではいずれ
故に、頃合いをみて新しい市場を連中にアピールする。その新しい市場こそローブル聖王国だ。
そして、組織のアピールには『八本指』で最も幅を利かせている麻薬部門を利用した。麻薬の流通と栽培の展開を愚かな王国貴族達を誘導してローブル聖王国へ流す。帝国は優秀な皇帝や文官達よって摘発されている為、帝国に流して態々潰されるリスクを負うくらいなら聖王国へ流して芽が育つかどうかを見定めた方がマシだとあの組織は考えるだろう。
結果、蒔いた種は芽を出した。
『八本指』はラナーの狙い通り、本格的に帝国から聖王国南部へその魔の手を伸ばし始めたのだ。
聖王国国内は二つの派閥によって地理的にも分かれており、南部に至っては王国とあまり大差が無いレベルでの腐敗や横柄さが目立ちつつある。国内問題に取り組もうにもアベリオン丘陵の亜人部族の襲撃に備え続けなければならず、敵対派閥の更なる台頭を許してしまっていた。
(魅力的な下地…彼らにはそう見えたでしょうね)
最初こそ警戒して小規模にとどめていたが、想像以上に邪魔が入ることは無かった。曲者と名高いカストディオ姉妹とて敵対派閥が『八本指』と手を組んでしまうのは厄介だったらしい。やがて『八本指』は聖王国を王国で失った損害を取り戻す、いや、それ以上の利益を産む場所として市場と影響力の拡大へ大きく舵を切った。
(…他にもいくつか手を考えていたのですが、組織というものは無視出来ない損害が発生すれば、それを補う為に奔走するもの。『八本指』も例外では無かったですね)
王国の損失を超える利益を聖王国で補っていけば良い。そんな認識が『八本指』全体に広がりつつある中、聖王国への投資が一定まで拡大する頃合いを見てラナー達は勝負を掛けた。
(『八本指』の重要拠点への一斉襲撃。本来なら8箇所全てに奇襲出来れば良かったのですが)
ザナックとレエブン侯の助力を得ても襲撃出来た拠点はギリギリまで戦力を分散させて5箇所がやっと。時間を掛ければ8箇所全てに戦力を配置も出来たが、時間との勝負であるこの作戦は時期を逃せば大幅に計画を修正する必要が出てしまう。しかし、5箇所でも十分許容範囲内だった。
懸念していた『六腕』と遭遇する事も無く襲撃は成功し、貴族との癒着を立証出来る証拠品や新たな『八本指』に関わる情報を幾つか手に入れることもできた。
手痛い被害を受けた『八本指』は組織の全体的な損失を取り戻す為、暫く息を潜めるだろう。また、残り3ヶ所の拠点が無事と言うのも『八本指』の再起を遅らせるよいキッカケになっていた。
(『八本指』の足の引っ張り合いは相変わらずですね)
今回の襲撃で被害を受けた部門はその損失を補う為に躍起になるが被害を受けなかった部門はどこ吹く風な姿勢だった。次の襲撃こそ警戒すれども被害が無かったという点から被害を受けた他部門より組織内の優位性が上がったのだ。
その結果、組織内で潰し合いが起きた。その中には『蒼の薔薇』の仕業に見立てた痕跡もあったらしいがそもそも彼女達は証拠を残すような下手はした事がないため分かり易いと言えば分かり易い。
『八本指』は今回の襲撃の損害を補填する為、本格的な聖王国への投資を加速させた。そして、南部保守派の重鎮を押し立てて国家転覆を押し進めるような工作も積極的に取り組み始めるだろう。これでは『八本指』が聖王国で完全にチカラを取り戻し、やがて此方への報復の機会を与えるだけになってしまう。
しかし、それを妨害する役目を担う存在が聖王国には存在する。それが『漆黒』のモモンだ。
(恐らくモモンはラキュースと似たようなタイプですね。彼女のような義侠心に近い心を持っている…)
理解は出来ても共感は出来ないタイプの人間だが、ラキュースの同類なら聖王国の危機を黙って見過ごすとは考え難い。聖王国でモモンが『八本指』に対抗すればするほど『八本指』も必死になる。
その筈だった……
(まさか3日足らずで『八本指』の橋頭堡を潰す突破口を開くなんて)
奴隷売買部門コッコドールの捕縛と処分される前に見つけた『八本指』の暗躍を裏付ける数々の証拠。部門の長が訪れるタイミングを見計らった襲撃、そして南部で特にチカラを入れている奴隷売買部門だからこそ同じように聖王国へ投資している他部門の弱みを握っていると踏んで、処分される前に暗躍の証拠を見つけるという手際の良さ。
偶然、で全てを片付けるには無理がある。
(南部でも特に危険だった麻薬部門の拠点では無く、後の無い奴隷売買部門を狙ったのも秀逸ね。追い込まれた人間の心理を完全に理解してないと先ず奴隷売買部門から狙うなんて発想は出ない)
もしラキュースだったら麻薬部門の拠点探しに重点を置いていた筈だ。何故なら最も聖王国で強い悪影響を与える存在は彼女としては真っ先に弱らせたい部門だから。
対してモモンは冷静だった。恐ろしいくらいに冷静だったのだ。
(実力もあり、頭もキレる。つまりこれまでの彼の動きは……危険ね)
手に取ったカップをテーブルの上へ静かに置く。
その手は小さく震え、冷や汗が頬を伝う。
(彼はかねてより聖王国外で冒険者稼業をすることを望んでいた。『自由』を求めていたのは聖王国を脅かす存在が王国にいる事を聖王国上層部より早く察していたからね…)
恐らく彼は王国内の誰かが『八本指』を焚き付けて聖王国へ誘導したことを勘繰っている可能性がある。正義感が強く、聖王国に対する想いも強ければ、犯人がラナーだと気づいた時、彼はどんな手段を講じてくるだろうか。
もし彼がラナーが危惧するレベルのキレ者なら、恐らく彼女の悲願を潰す為に行動する可能性がある。それだけは断固して阻止せねばならない。彼の性格上、ラキュース達とぶつけて殺し合いをしてもらう事も難しい。
互いに自由が利かない状況でどちらが先に仕掛けるかが大事になる。これは時間との勝負だ。
ラナーの目的…愛するペットと愛し合う2人だけの世界を実現する…その為にラナーが取るべき手段──
(先ずは彼に恩を売る。惜しみなく『八本指』の情報を彼に与える。そして、彼が王国で行動を起こすときは非公式ながらも協力を惜しまない旨を伝える)
──それは敵ではなく味方であることを全力でアピールする。
現在取れる最良の手段はコレしかない。しかし、彼を味方へ無理矢理引き込むような真似は危険過ぎる。彼はまさに劇薬そのもの。使いようによっては特効薬になり得るが使い方を誤れば毒に侵される。
(聖王国の場合は、麻薬になってしまいましたが)
聖王国は救国の大英雄となったモモンを手放せなくなっている。例え一時でも彼を外に出してしまえばそのまま戻ってこない事が怖くて恐ろしくて堪らない。『八本指』が扱う麻薬とは別物だが、この事態はラナーにとって幸福だったのは間違いなかった。
(聖王国が元々抱えていた問題に救われましたね)
ラナーはかつてモモンがその名を広め始めた頃、王派閥にも貴族派閥にも属さない中道派貴族を利用して探りを入れていた。利己主義で表に出さない野心を抱く貴族の娘が侍女の日、彼女に合わせた顔でサラッとモモンの事を伝えて、その貴族を煽ったのだ。上手くいけば強力な戦力が手に入れて両派閥と上手く交渉が出来る可能性を見たその某貴族は彼に対して誘いの手紙を送った。
彼個人と接点を持たない為、手紙は自然と冒険者組合を介するのだが、案の定手紙は無視された。「無礼者!」と怒鳴りたい気持ちもあっただろうが、冒険者組合は国に属さない独立した組織であり、直接的な被害を受けたならともかく勧誘を無視されたぐらいで下手な動きを見せる事はない。ましてや他国の冒険者ともなれば尚のこと。
返事がなかったことを察したラナーは、今度は派閥に関係無く貴族の娘侍女を使い、モモンへの勧誘の手紙を出させた。最初は大した数では無いが、時が経つにつれてその勧誘の手紙も組合で対処しきれない規模にまで膨れ上がるのは時間の問題だった。その後、組合が対処に間に合わなくなると、聖王国政府が動き出したのだ。
案の定、手紙はモモンに届く事は無かった。加えて“モモンは国外での冒険者活動を望んでいる”という情報も加味し、“聖王国はモモンを国外に出す気は無い”とラナーは捉えた。
「何はともあれ…あと一息です」
モモンには感謝せねばならない。
彼のお陰でラナーの計画が年単位で短縮出来たのだから、少なからず彼に対する感謝はある。
そして、ラキュースたちの手土産を受け取ればモモンは国外へ出ざるを得ず、聖王国も認めるしか無いはずだ。
これでラナーの望む結果が生まれるだろう。
「その代わり、大勢が亡くなるでしょうけど」
『八本指』が新たに画策している計画。
恐らくこの計画を知っているのは同組織でも一部の部門のみで、その計画自体も本来は別の目的だった。
ラナーは決して『八本指』を甘く見ていない。
闇社会の組織が面子を潰された…それは実利よりも面子を立てる事が優先される場合がある。ラナーには理解し難い価値観だ。故に侮れない。
しかし、ラナーにはそれ以上にも大事なモノがある。
部屋の扉が数回のノックの後に開かれる。
「お待たせして申し訳ありません、ラナー様」
「クライム…!」
愛するペットと過ごす甘く蕩ける様な日々。
それ以外はラナーにとってはゴミに等しい。
◇
部屋と言うより大広間に近い空間。
まるで高尚な魔法詠唱者が大儀式魔法に使うような場所、その中央にある大きな台座に白とも銀とも言える微光を纏う巨体が横になっていた。巨体と言ってもその巨体は艶やかに流れ優雅かつ高貴な風格と力強さも併せ持っている。
それは
白金を思わせる美しい鱗に覆われた芸術品と思わせる美しさを持つドラゴンだ。
“
ツァインドルクス=ヴァイシオン──ツアーは視線の先に居る人物へ視線を向けた。
「久方ぶりじゃのう、ツアー」
声を掛けたのは白髪一色の老婆だった。しかし、その顔には悪戯っ子を思わせる活発さがあり、その佇む姿勢もまた若々しい。確かに老いはあるが、それを感じさせない心を持っているのが分かる。
老婆──元アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』、そして伝説の『十三英雄』の一人、リグリット・ベルスー・カウラウは、ツアーが一言も返答をしなかった事に片方の眉を上げた。
「なんじゃ? ワシを忘れたのか? やれやれ、どうやらドラゴンもボケると言うことかのう」
ワザとらしく肩をすくめるリグリットにツアーは牙を剥き出して柔らかな笑い声を上げる。
「いやいや、すまないね。かつての仲間に再会できた感動で言葉が出なかったんだ」
「はてな? ワシの記憶にある仲間はそっちの鎧の方だったがのう」
そう答えるリグリットの視線の先には、白金の全身鎧が部屋の隅に佇んでいた。
「尤も中身は空っぽじゃがな」
「そろそろ勘弁してもらいたいところなんだが…」
「カッカッカ、戯れじゃ戯れ」
「やれやれ。相変わらずだね、リグリット」
「お主もな、ツアー」
その後も他愛のないかつての思い出語りや最近の近況を話し始める。彼女が此処へ来たのは古い友に会いに来ただけと言う。会いに来てくれた事に嬉しく思いつつ、呼び出す手間が省けたとツアーは内心思った。
そして、話は本題に移る。
「丁度良かった。実は君に頼みたい事がある。そこにある剣、ギルド武器に匹敵するマジックアイテムの情報を集めてきて欲しい。可能なら回収もしてくれると助かるよ」
「ほう……?」
ツアーとリグリットの視線が1箇所に集まる。
それは壁に架けられた一振りの剣。
厳重に保管されているその剣の刀身はまるで水晶のように輝いているが、肝心の斬るという事には向いていない形状をしていた。しかし、その切れ味は他に類を見ないほどで現代の魔法では決して創り出せない領域にある。
「八欲王の残した八武器の内の一つ、それに匹敵するマジックアイテムをのう」
「八武器とは言っても、残り七つはあの剣には及ばない。だが、それに限りなく近い力を持っている。幾つかはこの世界の何処か、また幾つかはエリュエンティウに聳え浮く天空城にあると聞く」
「まさか天空城にまで行けとまでは言わんじゃろ?」
「まさか。そもそも天空城…八欲王のギルド拠点までは行けないだろ。行けたのは
「あの時」…その言葉にリグリットは反応した。
「あの荘厳な城は神の宮殿そのものじゃった。短い時代であったとはいえ、さすがはかつて世界を支配した者達の居城だと思ったわい。今でも鮮明に覚えておる……」
瞳を閉じて楽しそうに懐かしむ彼女をツアーは何処か気不味そうに目を細めて眺める。
「君にも協力して欲しい。頼まれてくれるかい?」
「…なにかあったのか?」
「……世界を脅かす力が動き出した可能性がある」
その言葉にリグリットの視線が鋭くなる。
「『ぷれいやー』…百年の揺り返しか。今回はリーダーのように世界に協力するものでは無かったか」
彼女の脳裏には200年前の魔神騒動で共に旅をした仲間たち。その中の一人にして皆から『リーダー』と呼ばれ慕われていた彼だ。彼は間違いなく善の存在だった。だが、最期は……
「なんとも言えないね。少なくとも悪事は働いていないと見ているが、善ともまだ決め切れていない」
一番ツアーの記憶に新しいプレイヤーは100年前、大陸の北東部に現れた。彼はまさに悪しきプレイヤーの典型となるような存在で強大な力を惜しげも無く振い、無数の集落と二つの小国が彼の支配下に置かれてしまった。当時のツアーは白金鎧による遠隔操作でそのプレイヤーと接触を図ったが、その態度は傲慢そのもので自分こそが絶対的強者と信じて疑わない自信に満ち溢れ、対話による解決に至らず。外見は人間種の大人だったが、中身はまるで我儘な子供を思い起こさせるプレイヤーだった。
そこでツアーは東方の地を任せている腹心の竜王と共闘。そのプレイヤーを討ち倒したのだ。
因みにプレイヤーが保持していたワールドアイテムは腹心の竜王に預からせている。見事な琥珀色の宝石と見事な装飾が施された首飾りで、宝石は燃え盛る劫火を1つの宝石に閉じ込めたように美しい。他の竜王であればその魅力に抗えなかっただろうが腹心たるかの竜王なら問題無いだろう。その首飾りのワールドアイテムを調べた腹心によれば「護る者が多い私には危険過ぎる」と話していたのを覚えている。
(父上が残した罪とその清算……ままならないな)
ツアーは内心自虐気味にほくそ笑む。
全ての元凶は全てのドラゴンの頂点にして絶対的存在である『竜帝』の身勝手な欲望と野心だ。今では数少ない、あの大戦の生き残り達は「竜帝の汚物」と蔑み、激しい怒りを抱いているがアレらとて一方的な加害者とは言い難い。寧ろ、被害者であり我々が加害者と言えなくも無い。尤もその生き残りの大半は自分たちに非があるなど微塵も思っていないだろう。
「ツアー?」
リグリットの呼びかけにハッと我に返る。
訝しげにこちらを眺める彼女にツアーはいつもの調子で応えた。
「ああ、すまない。少し考えごとをしていた」
「気にするな。お前はこの世界の秩序を守る者、そのぷれいやー然り、悩みが尽きることは無かろう」
「…ありがとう、リグリット」
「ワシが気に入っている酒場で共に呑み明かすのも悪くないじゃろう。しかし、うーん…その酒場はお主にはちと小さ過ぎるかもしれんな。そこの鎧であれば中に入れるのじゃが……“2人以上の飲食は出来ない”とかいう変わった風習があるらしくてのう。いやはや、残念残念」
「……参るねえ」
ちくちくと心に来る言葉をリグリットは悪戯好きな子供のような顔で口にする。無論、彼女なりの気遣いなのは承知している。久方振りに出会った古い友人との会話なのだから昔のような会話をしたくなるのは当然のことだ。
「ところで、昔も聞いたが、他の竜王達から力を借りることは出来んのか? 交渉はしたのじゃろう?」
ツアーは首を左右に振って答えた。
「無理だったよ。“
「ふむ、良くも悪くも無関心か。まぁ間違っても世界の敵になるような真似はせんじゃろう」
世界の敵と言う言葉にツアーは反応した。
かつて古き竜王の一体に“
ツアーは“朽棺”を世界の敵として始末した。
もう何百年も昔の話だが、あの戦いは今でも鮮明に覚えている。
「それから先ほどの話じゃが、引き受けさせてもらうぞ。既に引退した身じゃが、他ならぬお主の頼みじゃ。老骨に鞭打ってもうひと働きといこうかのう」
「すまない。本当に助かるよ、リグリット」
「ところでお主はどうするつもりじゃ?」
リグリットの言葉にツアーは部屋の隅に佇む白金鎧へ視線を向けた。
「少し見定めに行こうと思う。かの者が善か悪かをね」
「そうか。まあ己に縛りさえかけなければ、この世界でも最強の存在のお主のことじゃ。後れを取るような事はないとは思うが、用心するんじゃぞ」
「ああ、分かってるよ」
◇
夜更けとなった城塞都市カリンシャ。
鈴木悟こと『モモン』とブレインはとある宿の一室にて酒盛りをしていた。
「おいおい、どうしたぁ? お前も飲もうぜ!」
「お前分かってて言ってるだろ?」
頬が紅潮していてほぼ出来上がっているブレインに絡みにモモンは辟易した返答を返す。それでも意に介さないブレインは上機嫌に手に持っている酒瓶をグイッと仰ぐ。
床には既に何本もの空になった酒瓶が転がっていおり、2人…と言うよりブレインが相当飲んでいることが窺えた。同じようにベッドに腰掛けていたモモンは酒を飲み続けるブレインを漆黒の兜のスリット越しで睨む。
(全く、人の気も知らないでよく飲むわな。まぁ、飲もうと誘ったのは俺の方だったんだけど)
モモンは床に転がっていた未開封の酒瓶を何の気なしに手に取り、ぼんやりと眺めた。
(俺も酒を飲めたら…どれだけ良かったか)
出したくも無い溜息が出ると同時にブレインは空になった酒瓶を無造作に置いて新しい酒瓶を探し始める。
モモンが酒盛りをしようとブレインに誘った理由は単純に現実逃避をしたいからだった。近々首都ホバンスにて行われる大祝賀会の参加を求められたモモンはかつての大祝典を思い出し、無いはずの胃がキリキリと痛むのを感じる。
(またあんな思いをするのかぁ……あんな格式張った空気とかマジで苦手なんだよ。しかもアダマンタイト級っていう看板を背負ってる以上、無作法な真似なんて出来るわけ無いしさぁ)
最初は何もせずただ都市内を放浪したり買い物などで散財しようと考えたが、少しでも外へ出歩けばギャラリーが引っ切り無しに駆け寄って来る。無碍な態度など出来るわけもなく一人ひとりに対して出来るだけ丁寧な対応を心掛けているが、息抜きのつもりが却って悪化するパターンだ。
肉体的疲労は無くとも精神的疲労がとにかくエゲツない。
次にモモンはこの世界で初めて出来た友人パベル・バラハに会おうと思った。しかし、パベルはここ暫く家に帰っておらず留守が続いている。一応、国からの任務で暫く帰れないという話は本人から聞いていたが、いつ帰って来るのかまでは分からない。たとえ帰ってきたとしても真っ先に彼が向かうべきは家族…帰るべき場所なのだ。
〈伝言〉を使いたい所だが、仕事中なのを知った上で私用の
「彼には彼の生活がある……」
自分に言い聞かせるように呟く。それでも胸中にジワジワと湧き上がる
自然と彼が手に持つ酒瓶に力が入るが、そこへブレインが酒瓶を持ってモモンの隣へどかりと座ってきた。ハッと我に返ったモモンは隣に座ってきたブレインへ顔を向ける。
「今思ったんだけどよぉ? 俺の身の上話ってお前にしたっけかぁ?」
更に一本酒瓶を空にしたブレインは程よく出来上がっていた。剣に関しては真面目なブレインの少し変わった一面が見れるの正直少し面白い。元々はコチラの愚痴を一方的に聞かせるつもりだったがこれもこれで悪くないだろう。
それに言われてみれば彼の素性についてモモンは殆ど知らない。剣の道を極めようとしたら悪い道へ走っちゃったこの世界では結構腕の立つ剣士、程度の認識でしか無かったから多少の興味もある。
ブレインは時折酒を仰ぎながら話し始めた。
元々は平凡な村に住む農民の生まれだったらしく”親が農夫だから自分も生涯農夫として生きていくんだろうな”程度の考えで生きていた。ある日ブレインは自分には剣の才能がある事に気付き、それから農作業の一切を止めて鍛錬に打ち込み続けた。やがてそれだけでは物足りなくなったブレインはやがてなけなしの金を持って村を飛び出したとのこと。
「随分と思い切りが良かったんだな」
「思い立ったが吉日ってヤツさ」
最初は冒険者稼業も考えていたようだが、彼の目的は生きていくことでも英雄を目指すことでもない。
最強の剣士になる──
それがブレインの原動力だった。
小さな町へ辿り着いた彼はそこで初めて剣を買った。魔化なんて施されてない平凡かつ粗雑な片手剣だったが、ブレインにとっては誰の手垢も付いてない初めての剣だったので多少なりの思い入れはあったらしい。
その後はモンスターや野盗、傭兵くずれに悩まされている村や町の用心棒を買って出ていたそうで、最初は世間知らずの若者と馬鹿にされて来た。しかし、彼は馬鹿にしてくる連中を実力と結果で黙らせ続けたのだ。やがて彼の心は自身の剣の腕に対する圧倒的な自信に満ち溢れた。今だからこそ「慢心」とも「過信」とも言えるが、当時のブレインは「自分こそが最強であり神に選ばれた特別な存在」と信じて疑わなかったらしい。
そんな生活が続いたある日、王都にて王国中の猛者達を集めて強さを競う御前試合が開かれるという噂を耳にした。当然ブレインが参加しない理由はない。寧ろ、優勝するのは自分だと信じて疑わなかったくらいだった。優勝者には多額の賞金が約束されていたがブレインの目的は正真正銘、“王国最強の剣士”という称号のみ。無論そんなのはまだ序の口だ。いずれ自分は“世界最強の剣豪”になるのだと心に決めている。王都の御前試合などその為の踏み台でしか無い。
大会が始まるとブレインも特に苦もなく勝ち進んだが、彼と同じように難なく勝ち進んだ者が1人だけいたのだ。
「それが以前話していたガゼフ・ストロノーフ、だな」
「ああ。会場で奴を見かけた時から“あ、コイツやるな”って何となくだが思ったよ。当時の俺となんら変わんねぇ見窄らしい装備だったなぁ」
「装備に依存しない強さって意味でもあるだろ?」
「まあな」
ブレインは酒を仰ぎ話を続けた。
ガゼフとの決勝はまさに接戦だった。張り詰めた緊張感の中で互いに攻撃を繰り出し続けるがそのどれもが決め手に欠ける。たった一つミスが自らの敗北に直結すると言っても過言では無い攻防は、我流とは言え多くの敵を一度も苦戦することなく斬り伏せて来たブレインにとって初めての焦りだった。焦りはやがて苛立ちへと変わり心に余裕が無くなるのをブレインは感じていた。対するガゼフも疲労が滲み出てはいたもののブレインのように心が乱れるような姿は見せない。痩せ我慢なのか、或いは本当に心が平静なのかは定かではなかったが今にして思えば後者だろう。だが当時のブレインにとってはそんな姿のガゼフが気に入らなかったのは事実だ。
永遠に思える攻防はガゼフが防御に専念し始めたあたりに終わりを迎えた。
ガゼフの体力に限界が来たのだと察したブレインはその好機による焦りから一気に大技を決めて仕留めようとした。だが、その焦りが大きな過ちだったのだ。ガセフは自身の奥の手を使う機会を狙う為、相手の油断を誘っていたのだった。ガゼフの策にまんまと引っ掛かったブレインは彼が繰り出した切り札〈四光連斬〉によって倒された。
王国最強の異名を手にし、観衆からの大歓声を受けたガゼフはその後、剣の腕を買われて元アダマンタイト級冒険者のヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファンに無理矢理弟子にされたと聞く。その修行の日々がどうだったのか知らないが、そのお陰で彼は『周辺諸国最強の戦士』としてその名が知られるようになったらしい。
「…まあ、オレもそんなガゼフと渡り合った実力者として結構名が知られるようにはなったが……当時の俺からしたら恥以外の何物でもなかったよ」
「だがそのお陰で上には上がいると知った、そうだろ」
「その通り。それで強さを求め続けた結果、無心に鍛錬を積んだり、何処ぞの用心棒だったりを繰り返して、今に至るってワケさ」
ブレインは持っていた酒瓶を一気に飲み干し、空になった瓶を床へ落とす。新たな酒瓶を手に取るとそれをモモン目掛けて投げ渡した。
「オレの話をしたんだ。今度はお前の話も聞かせてくれよ」
「そんな面白い話なんて無いぞ?」
「いーや、オレは興味あるね。それにオレの話だけってのは不公平だろ?」
困惑するモモンだがブレインの言い分は尤もだ。それに今にして思えば自分のことなど最低限のことしか彼に伝えていない。なあなあで流れのまま今日まで供に過ごして来たが、彼が知るモモンなど“人間社会に溶け込む戦士のロールプレイを極めんとする
これはこれで良い機会かも知れないと思いながら、モモンは飲めもしない酒の入った瓶を眺めながら静かに話を始めた。
「そうだな。アレはまだ俺が今よりも遥かに弱かった頃、それこそ奪われる側だった立場だった時の頃だ。当時の俺は右も左も知らず、何が正解かも分からずにただその日その日を無意味に過ごすしかなかった。それでもなにを思ったのか、“今を変えたい”って気持ちが芽生えて、俺は新しい事に挑戦しようと考え行動をした」
モモン──鈴木悟は淡々と話を続けた。
ただ脳裏に思いついたリアルでの出来事を口にする。文字通りのディストピアだった世界で、悟は生きるためだけに働いては寝てを繰り返すだけと言う日々を送っていた。あんな世界の、人生の正解など分かる訳がない。自然の摂理とは違う、とにかく生きるのに必死だった世界で、彼は偶然にも一世を風靡していたMMO-RPG『ユグドラシル』の存在を知る。当時の熱狂ぶりは凄まじく、悟にとっても初めて興味を抱いた娯楽だった。
──自分の人生にとって何か意味を見出せるキッカケになるかも──
生き甲斐を見つける為の、初めての挑戦はいきなり出鼻を挫かれる事となる。
「だが結果は散々だった…直ぐに強者たちが俺を殺そうと狙って来た。結局自分は最後の最後まで奪われる側で終わるのだと、あの時は心底絶望したよ。だが…そこで俺が終わることは無かった」
そこへ白銀の鎧を纏った聖騎士が「正義降臨」の文字と共に彼を助けに現れたのだ。
「彼が現れなかったら…今の俺は無かっただろうな」
「命の恩人、てわけか。強かったんだな、ソイツは」
「あぁ。本当に…本当に強い人だった。単純な強さだけじゃなく、心も強い人だった。俺の憧れだよ」
「……ふっ。なるほどな」
「彼は他にも俺と似たような境遇の人を助けていてな。助けられた俺は彼の6人目の仲間になったんだ。その後も俺は彼らと供に世界を股に掛けた冒険をして、途中自分たちのように強者から奪われる側だった人たちを救い、新たに3人が仲間に加わった…最終的に9人になった俺たちは正式に
「なんつーか…英雄譚みたいな出会いだな」
「そんな立派なものじゃない…が、俺にとってはみんな英雄みたいなものさ。そこから先は俺たちも強くなる為に必死だったよ。“弱いままではいられない”って…みんなで試行錯誤しながら互いに研鑽を積んだんだ。フフフ、今になって思えば自分の為じゃなく、誰かの為に強くなろうと思ったのは、あの時が初めてだったな」
「……己が為ではなく、誰が為にか」
まるで腑に落ちたような含み笑いを浮かべるブレインを悟は不思議そうに眺めた。何を考えているのかは不明だが彼の中で何か納得の出来た結論に至ったらしい。
「なあ、オマエの仲間はどんな奴らだったんだ?」
モモンは酒瓶に仄かに映る自分の兜姿を眺めながら懐かしそうに語った。
「素晴らしい仲間達だったよ。聖騎士…刀使い…神官…暗殺者、盗賊…二刀忍者、二刀盗賊…妖術師…料理人…そして鍛治師…本当に最高の仲間だった」
「…その仲間は今どうしてるんだ?」
「……さあな。どうしてるんだろうな。元気にしてると信じたいところだが」
あからさまに声色が暗くなる。
ブレインは彼の言う仲間が今は何かしらを理由に離れ離れになっていること、そしてその安否さえ不明であることを悟った。少なくとも仲間達に対する尊敬と親愛の念は、当時を語っていた様子から偽りでは無いだろう。
(仲違い…喧嘩別れか? いや、もっと別の……?)
これ以上詮索するべきでは無い。
故にブレインは当たり障りのない言葉でこの話は終わりにしようと思った。
「気落ちすんなよ。きっとまた逢えるかもし──」
「そんな日が来るわけないだろ…ッ!」
怒気の籠った一言がブレインの言葉を遮る。
ガシャン!と言う音と供に悟の手に握られていた酒瓶が粉々に砕け、床に酒と瓶の欠片が散乱した。
精神抑制によりハッと我に返った悟は呆然とするブレインと酒まみれの床を見る。
(こんなの八つ当たりだ……情けない)
深い溜息を吐いた悟──モモンは立ち上がると懐から硬貨がギッシリと詰まった片手ほどの袋をブレインへ投げ渡した。
「急に怒鳴ってすまなかった。これで追加の酒でも買って飲んでくれ」
「お、おい」
「悪い…今は一人にしてくれ」
モモンはブレインの静止を無視して〈
「だぁ〜〜! 藪蛇だったかぁ…」
残されたブレインは己の浅慮な言動に対する苛立ちから頭の後ろを乱暴にガシガシとかいた。
(よっぽど大切な仲間だったのか。悪いことしちまったな……)
モモンについては未だによく分からない事が多い。しかし、先の話を聞いたブレインは自分の中である一つの仮説を立てた。
(アイツはきっと何百年も昔の時代に生きた人間だったのかもな。逸脱者さえ超えた超越者の一人…見たところ名声に興味が無さそうだし”ないんず…なんとか”なんて聞いたことも無い。恐らく、長い年月を掛けて奴はアンデッドとなって現代に復活した。本来なら生者を憎む筈のアンデッドだがアイツは生前の異常な強さも相まって特異個体へ至ったと考えればなんとなく納得出来る。それにアイツは仲間との再会をもう無理なものと受け止めてる、てことは…アンデッドとして復活したのは自分だけなんだと察していたんだろうな。もしそうなら、アイツはどれだけ一人で彷徨ってたんだろうな)
長い月日を経て蘇った世界は自分の知る世界とは似ても似つかず、己を知る者はいない、友もいない、アンデッド故に誰かと繋がりを得る事さえままならない。アンデッドの本能に支配されず自我を保っていることは我々にとっては良くても、果たして彼にとって救いになっているのだろうか。素性を隠してまで人の世界に溶け込もうとしている現状がそれを物語っている。
(普通の人間だったなぁ)
とてもアンデッドとは思えない気さくな態度は平凡な人間と会話していると錯覚してしまう。まるで見た目だけアンデッドなだけで心はただの人間と言ってもいい。
ブレインが考えているもう一つ可能性。それは呪いによるアンデッド化である。彼も眉唾程度の噂でしか聞いたことがないが、強大なアンデッドによって生きながらにしてアンデッドにされた英雄がいたという話だ。尤もコレは奇譚の類でしか無い為、確証は何も無いがモモンをみればそんな可能性さえ考えてしまう。
(結局は分からずじまい、だが…焦るのもよくねぇよな)
ブレインは貰った金を持って部屋を出ると頭を掻きながら一階の酒場へ繋がる階段を降りて行く。
「香りを楽しめる酒ってあったかな?」
◇
〈転移門〉を抜けたモモン──鈴木悟は何時もブレインと戦士の訓練をしていた廃砦へ訪れていた。
空には満天の星、草木が伸び放題荒れ放題の廃墟、周囲の森からは夜風のさざめく音と虫の鳴き声以外は何も聞こえない。
「はぁ……良い年したオッサンが八つ当たりとか、普通にあり得ないよな」
吐きたくもない溜息ばかりが出る。
思い起こすのはブレインに対して行った自身の大人気ない態度だ。昔の思い出に勝手に浸り、もうかつての仲間に会えない事実を思い出せば精神抑制が間に合わないレベルの怒りが湧き上がり態度に出すなど…社会人あるまじき行為だ。
「いくらなんでもこんな我儘は許容出来ないって」
魔法で作った全身鎧ではなく、いつもの漆黒のローブ姿(実はかなり久々)をしたありのままの姿だ。こんな辺鄙な所に人など来るわけないという確信しているからこそ出来る為、実はこの廃墟は結構貴重な場所だったりする。
悟は夜空を眺めた。
満天の星とまん丸なお月様が此方を見下ろしている。
「あの日の仲間達はもういない。そんな事はとっくの昔から分かってる。既に受け入れた…つもりになっていただけだったのか」
悟はこの世界に来て初めての友人たるパベルを思い出す。彼は間違いなくこの世界で得た大切な友達だ。それは悟にとって大きな救いになっている。だと言うのに、心の何処かで大きな不満を抱いている自分がいる。
(なのに…俺は何が不満だよ)
そんな自分にどうしようも無く腹が立つ。
精神抑制が地味に何度も発動するレベルだ。
何をこれ以上求めるのか。
自分は何がしたいのか。
悟はこの不満と苛立ちの正体にある結論を見出した。
「…共に冒険できる仲間がいないからなの、か」
かつての仲間達に匹敵する仲間…そんな仲間と供に冒険する事を自分は無意識の内に望んでいる。その中の一人にパベルの姿が重なった。
ふざけるな、と思った。
今日一番の精神抑制が発動する。
(かつての仲間達の
抑制など意味がないと言わんばかりの怒りが何度も何度も湧き上がり、遂に処理が追いつかなくなった悟は朽ち果てた石壁に向けて渾身の拳を叩き付ける。
「それは
石壁が盛大に砕け散る音と共に微かに大地が揺れた。森の中では寝ていたであろう鳥たちが一斉に飛び立って行く。悟が叩きつけた拳の先には既に何も残っておらず、ただ大きな土煙が舞うのみである。
カルマ値極悪に傾いているが故の弊害だろうが己に対し怒りを向けずにはいられなかった。
「そもそも!!ここはユグドラシルじゃないんだよ!!アンデッドの俺が!!この世界で!!かつての仲間と過ごしたような日々を得られる訳がない!!だから!!……だから孤独を忘れるくらいの……自由な冒険を望んでいた」
怒りの最中、精神抑制の効果が追い付いて落ち着きを取り戻す。
「そうさ。新しい出逢いはあっても、冒険の仲間まで手に入れたいなんて…酷い我儘さ。種族を考えろよ、鈴木悟ぅ…」
リアルの生活を優先し、ユグドラシルへ中々ログインできなかった何人ものギルメンがいた。その時は「仕方ないですよ」と笑って返していたが、本音を言えば「
でもそれは彼らのリアルを知らないから思えたことで今は違う。
パベルにはパベルの生活があり、家族がある。
リアルよりもリアルな生活を目の当たりにした手前、彼の事情というものにハッキリと理解している。悟の…モモンガの我儘で無視し、押し通して良いモノでは決してない。
「怖いな…このアバターの姿になってから無意識にモモンガの我儘に引き寄せられていたのか」
改めて気を引き締めないと不味い。そして、これ以上我慢し続けるのも危険だ。
場合によっては人の世と半永久的に関わらず離れて生きて行く必要もあるかも知れない。ある意味ではそれは自由気ままな冒険が出来るとも言えるし、種族的問題を含めれば正解なのかもしれない。しかし、それは鈴木悟が望む冒険と言えるのだろうか。
(俺が冒険を求めてるのは…その旅路の中で新しい仲間との出逢いを求めているからなのかもな。フフ、アンデッドの俺を受け入れてくれるヒトなんてパベルさん以外にはもういな………いや、待てよ)
悟はパベル以外の人物の姿が脳裏に浮かんだ。
「クレマンティーヌ、ブレイン・アングラウス…あの2人は俺を見て驚いてはいても、拒絶は無かったな」
前者は既にこの地を離れているがブレインとは契約的な意味の付き合いではあるが大分砕けた関係を築いている。
「意外と…出逢えるのかもしれないな」
奇跡が重なっただけかも知れないし、あの2人が希少なだけなのだろう。それでもこんな自分を受け入れてくれる仲間との出逢いが決して夢物語ではないかも知れないという希望が湧き上がってきた。
「だとしても先ずは……冒険だよなぁ」
行き着く先は結局、自由ある冒険だ。
早く祝賀会が終わらないだろうかと考えて大きな溜息を吐く。
「……ん?」
悟は眺めていた月に違和感を覚えた。
その違和感は突然現れたように感じる。
「えっ…」
月の真ん前にある小さな影。
遠目だが白金の全身鎧を纏った人物が月を背景に宙に佇んでいる様に見える。
悟は出ないはずの冷汗が大量に流れているのを感じた。
(この廃砦の周囲には高位の探知系魔法を展開していたはずだぞ…)
探知魔法に反応はない。
つまりアレは探知魔法を掻い潜って彼の前に現れた事になる。
この世界に来て初めての強者……装備から見て恐らく高レベルの前衛職タイプで探知をすり抜けたのなら最低でも伝説級のマジックアイテムを幾つか持っている事になる。悟は直ぐに逃げ出す準備を始めようとするが先ずは相手に敵意があるかを見極めるべきだと思った。
本気で自分を殺す気ならもっと早い段階で仕掛けていたからだ。それをしなかったという事は交渉の余地はあるということ、或いは戦闘以外の目的があるということだ。
「モモンガ…何処かで聞いたことがあるね」
白金の全身鎧の人物はそう呟いた。
(俺を…知っている!?)
悟は警戒のレベルを一気に上げた。
二次の人気ラスボス、キュアイーリムまさかの退場
ツアーの腹心竜王が持つWIが何なのかを当てることが出来たら良い匂いの消しゴムをあげることを検討します
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個人的考察コーナー
『ユグドラシルリーフ』(WI)
作者曰く「防御系」
元ネタとかは無いですが『自身の弱点属性or耐性が低い属性を完全無効化に変換出来る』もしくは『物理・魔法防御をMAXにする』と予測。または武器に付与するタイプで、平凡な武器に『世界の守り』を永続的に付与できるとか。
『ホーリーグレイル』(WI)
作者曰く「回復?系」
元ネタはキリスト教のアレですね。
効果は『金貨消費無し・レベルダウン無しで蘇生可能で、蘇生されたプレイヤーには高い回復持続効果を付与される』と予測。もしくは『データ消去系のWIを受けた場合、そのデータを復元出来る』と考えるが、それだとロンギヌスの有用性は少し下がりそう
『グライアイ』(WI)
ギルド”ワールドサーチャーズ”所有のWI
元ネタはギリシア神話の三姉妹の老婆たち
効果は『使用者が望むアイテムや人物の場所や情報を教えてくれる』と予測
もしプレイヤーに対して使用して探れなかった場合、そのプレイヤーがWIだと分かる。
〈神技一閃〉(武技)
効果…クリティカル率の上昇(ドラクエのまじんぎりタイプ)