Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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第36話 復讐を誓う者

聖王国、首都ホバンスが某所。

時刻は既に夜更けだが、首都と言うだけあり都市全体は未だ灯りが絶えず大通りの賑わいも聞こえてくる。だがそれも人気の少ない薄暗い路地裏ともなれば大きく変わってくるというもの。

 

荒くれ、浮浪者、犯罪者…碌でも無い連中は常に闇を求めて彷徨うのだ。

 

所有者不明の空き家が一軒。

全ての窓には板が内外から厳重に打ち付けられているその建物も、人の気配など感じられない建物の中のひとつに過ぎない…が、今日ばかりは違った。

 

空き家のとある一室、埃まみれのテーブルの上に置かれた小さなランタンの頼りない灯りが、複数の怪しい影を形成させている。

 

その影を作る存在の一人は、腕を組みながら堂々と椅子に腰掛けていた。

 

『闘鬼』ゼロ──

リ・エスティーゼ王国最大の犯罪組織『八本指』が警備部門の長にして最高戦力『六腕』の頂点に座す益荒男。

両の眼を閉じている彼だが、その研ぎ澄まされた意識は尚も周囲に向けられていた。

 

しかし、此処にいるのは彼だけでは無い。

『千殺』マルムヴィスト、『踊る三日月刀』エドストレーム、『空間斬』ペシュリアン──

『不死王』デイバーノックを除く3人の『六腕』がゼロの背後に佇んでいた。

 

ゼロが両の眼を開くと、その猛禽類が如き鋭い視線を部屋の扉へ向けた。

扉は僅かに軋むような音を立てながらゆっくりと開かれる。

 

 

「…来たか」

 

 

ゼロの太い声が小さくこだまする。

 

扉を開けて部屋へ入って来たのは漆黒の装束に身を包んだ集団だった。顔は頭巾で覆われていて素顔は窺えず、防御よりも機動力重視の装備はまさに影に潜む者に相応しいそれである。

 

組んでいた腕を解いたゼロは影の来訪者達に向け話し続けた。

 

 

「報告を聞こう」

 

 

淡々としたゼロに影の来訪者達は誰一人答えない。代わりに彼らの背後から1人が前へ出て来た。前方にいた者達は一瞥もせず、背後から出て来た者に道を開ける。

 

その者は他の連中とは頭1つ分近くも背が小さく、体躯も華奢な印象が強い。右手には布に包まれた何かを持っており、ゼロ達の視線は自然とソレに集まる。

 

ゴトリ、と音を立ててテーブルの上に乗せると、手を離すと同時に布の結び目が解け、包まれていたモノが露わになった。

 

 

「……ふっ」

 

 

それを見たゼロは僅かに口角を上げる。

 

包まれていたのは『八本指』奴隷売買部門の長、アンペティフ・コッコドールの頭部だった。その表情は絶望と恐怖に歪んでおり、頸の切断面からは血が殆ど流れていない。

 

間違いなく一流の仕事だと見届けたゼロは満足げに視線を目の前にいる一番小柄な影の者へ向ける。

 

 

「見事な働きだ。流石は暗殺集団『イジャニーヤ』だ」

 

 

暗殺集団『イジャニーヤ』──

主に帝国を中心に知られている、暗殺を生業とする組織である。200年前に活躍した十三英雄の一人に″イジャニーヤ″という名の暗殺者がおり、その技術を受け継いだ弟子達が師の名を冠した組織を立ち上げたと言われている。報酬次第でどんな殺しの依頼もこなす彼らに狙われて、生き延びた者はいない。

 

ローブル聖王国を新たな苗床として手中に収めようと暗躍していた『八本指』は失敗に終わった。その時にコッコドールが投獄されてしまい、余計な情報漏洩を危惧した『八本指』は彼の口封じを決定、少なからず聖王国での暗躍失敗に関与していた警備部門がそのケジメを付ける為、自腹でイジャニーヤへコッコドール暗殺を依頼していたのだ。

 

そして、その依頼は見事に達成された。

 

 

「これで組織へのケジメ()付いた。が、もう一つの依頼はどうなった?」

 

 

ゼロの言葉に先頭に居た小柄のイジャニーヤが背後を振り向いて顎を指す。

 

奥からイジャニーヤ達とは違う風貌の人物が現れた。

 

 

「イジャニーヤに依頼をしてまでワシを脱獄させるなど、一体何者かと思ってみれば…まさか『八本指』だったとはのう」

 

 

禿げた頭に古びたローブを纏う小柄な痩躯に、アンデッドのような不気味な顔をした人物…元『ズーラーノーン』十二高弟が一人、カジット・デイル・バダンテールである。

 

彼はアベリオン丘陵で10,000体以上のアンデッド大量発生を引き起こし、ローブル聖王国を始めとする周辺諸国に脅威を齎した──ということになっている──大罪人で、あの事件から今日に至るまで首都ホバンスの牢獄へ収監されていた。

 

 

「『変わり身の術』は時間制限付き。日の出頃には術が解けて見張りの兵にバレる」

 

「あぁ、構わん」

 

 

小柄のイジャニーヤの声が女性である事など気に留めず、その働きぶりに満足したゼロは、もう一つの目的であるカジットへ話しかける。

 

 

「『ズーラーノーン』十二高弟が一人カジット・デイル・バダンテールだな」

 

「いかにも。お主が噂に聞く『闘鬼』ゼロだな。かの『八本指』最強の男。こうして会うのは初めてだが……なるほど、噂以上だな。お主らの悪名は『ズーラーノーン』にまで届いておるぞ」

 

「ククク、それは光栄だな」

 

「して、ワシを連れ出した目的は何だ?」

 

「フッ、話が早いな。……俺たちの計画に手を貸して貰いたい」

 

「計画、だと?」

 

 

その言葉を聞いたカジットは目を細めた。

『八本指』ほどの組織力であれば自分一人のためにここまでしなくとも、相応の手段が取れるはず。にも拘らず、金と労力を割いてまで自分を牢獄から連れ出した意図…延いては彼が思案する計画が何なのかが解らないと同時に興味が湧いた。

 

 

「ズーラーノーンとの人脈を得るのが目的……では無さそうだな。それならお主らのコネで、囚われの身であるワシでは無く、もっとマシな者を選ぶだろう」

 

「その時はそうしよう。だが、今回の計画はお前でなくてはならんのだ」

 

「……どういうことだ?」

 

 

腑に落ちないカジットに対し、ゼロは獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

「カジットよ。俺とお前にはある共通点がある」

 

「共通点だと?」

 

「……『漆黒』のモモン」

 

「ッ!?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、カジットは強い衝撃を受けた。そして、激しい憎悪、怒り、復讐心が煮えたぎる溶岩のように湧き上がってくる。恐ろしい面相をより一層歪め、歯噛みする音が部屋の中に小さく響く。

 

わなわなと肩を震わせ、明確に憤慨を露わにする彼の様子にゼロは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「ふふ…この名前、知らぬわけではあるまい?」

 

「無論だ…! あやつのおかげでアベリオン丘陵を死で満ち溢れさせ、より強大かつ高位のアンデッドを召喚するというワシの目論見が潰された! この恨みと屈辱は…あやつを…モモンを八つ裂きにせねば気が済まん!!」

 

 

カジットの言う目論見は、鈴木悟──冒険者モモンが〈記 憶 操 作(コントロール・アムネジア)〉で弄った急拵えの動機であり実際は違う。

 

 

「それは俺たちも同じ。ヤツは『六腕』の看板に泥を塗った。それは『八本指』警備部門の長である俺の面子を潰すに等しい行為……俺たちは奴に報復せねばならん」

 

「……お主がワシを選んだ理由がソレか。いいだろう、その誘い…お主の計画に乗ってやろうではないか」

 

「交渉成立だな」

 

 

そう言うとゼロは深緑色の水晶を取り出し、それをカジットへ手渡した。

 

 

「『六腕』からの餞別だ。お前にとって有益な効果を与えるだろう」

 

 

カジットは手渡された水晶を角度を変えながら観察する。自身が持っていた『死の宝珠』はあの後、モモンか聖王国に奪われたのか、はたまたその危険性から破壊されたのかは知らないが、既に手元には無かった。流石に同等の効果は無いと予想しているが、あのゼロが態々用意した代物というだけあって、決して半端な効果のマジックアイテムという事も無い筈だ。

 

 

「〈道 具 鑑 定(アプレイザル・マジックアイテム)〉……ほほう?」

 

 

カジットが鑑定魔法で水晶の効果を調べる。

 

魔力源の水晶(オーブ・オブ・マナストレージ)というマジックアイテムで、効果は水晶に魔力を貯蓄出来るというシンプルな効果だ。しかし、魔法詠唱者(マジックキャスター)にとって致命的とも言える魔力切れを起こしても、事前に魔力を蓄えていた魔力源の水晶があれば魔法の行使が可能なのだ。

 

自身の魔力の温存、または緊急時にしか使わないようなマジックアイテムだが、カジットが注目したのはその効果では無く、水晶に蓄えられていた魔力量だった。

 

 

「相当な魔力が蓄えられておるな。お主、これほどの魔力をどうやって集めた?」

 

 

魔力源の水晶(オーブ・オブ・マナストレージ)は蓄えられた魔力量に比例して、より深みのある緑に変わる。この水晶には少なくとも一流の魔法詠唱者20人分以上の魔力が含まれているとカジットは踏んでいた。

 

 

「王国の魔術師協会には我々の息のかかった魔法詠唱者が大勢いる。そいつらを利用すればこのくらい造作も無い」

 

「…この希少性が高いマジックアイテムをおいそれと外に出すとも思えんが…なるほど、真っ当な手段では無いのであろうな」

 

「なんだ、不服か?」

 

「いや、ここまで魔力が蓄えられた魔力源の水晶(オーブ・オブ・マナストレージ)は見たことがない……気に入ったぞ」

 

 

不気味な笑みを浮かべるゼロとカジット。

一方は面子を潰され、もう一方は計画を破綻された。その原因である冒険者モモン…彼への復讐の為、両者は手を組んだ。

 

 

「さて、イジャニーヤよ。貴様らにはもう一つ仕事を依頼したい。無論、金は払おう」

 

「…冒険者モモンの暗殺か? 割に合わない仕事を受けるつもりは無い」

 

 

ゼロの問いに女のイジャニーヤはキッパリと答える。

女のイジャニーヤ……現在のイジャニーヤに於ける()()の頭領のティラは、実際のところ、ゼロの追加依頼に内心気は進まなかった。

 

 

(組織を抜けた2人と鉢合わせる可能性がある。でも帝国のお偉いさんに匹敵する太客。悩ましい)

 

 

若くしてイジャニーヤの女頭領となったティラは、これ以上聖王国で仕事を続けることのリスクを危惧するが、組織の看板と部下たちを養う為にも極力依頼は断らないようにしている。

 

 

「安心しろ、それは俺たちの仕事だ。お前たちにはちょっとした誘導をして貰いたい。報酬は前払い、コッコドール暗殺の倍は出すぞ」

 

 

生真面目な彼女はこの返答に大いに悩む事となる。

 

 

「……先ずは話を聞こう」

 

 

 

時は少し遡る。

 

今日も今日とて、いつもの廃砦で訓練を続ける悟とブレイン。大剣と刀が激しくぶつかり合う金属音、地面や木々がへし折れる音が人気の無い場所に響き渡っていた。

 

 

「むぅん!」

 

「シュッ!!」

 

 

漆黒の全身鎧を纏った鈴木悟──冒険者モモンは、2本の大 剣(グレートソード)を軽々と振るいブレインへ襲い掛かる。対するブレインは必要最低限の動きで躱しつつ、刀による迎撃(カウンター)を繰り出す。ブレインほどでは無いが、モモンも迫り来る刃を躱していた。

 

 

「ハッ!」

 

 

モモンが踏み込みと共に繰り出した横薙ぎの一閃。まともに受ければ暫くは立てなくなるのは確実な一撃をブレインは焦ること無く、受けの姿勢で刀を構えた。大剣による強烈な一撃が防御体勢の刀へぶつかると同時に巧みな刀捌きにより、豪快に受け流す。

 

これによって遠心力に振り回されたモモンに大きな隙が生まれる…筈だった。

 

モモンは瞬時には重心を移動させて大剣をいなされた事によるブレを防いだ。逆に空いていたもう片方の大剣を逆手に持ち替え、一気に下段からブレインへ襲い掛かる。

 

 

「くっ! 〈即応反射〉!」

 

 

隙を生ませたと思っていたら逆に隙を生ませられる結果となったが、その追撃をブレインは武技によって紙一重で躱した。瞬時に距離をあけるため、地面を蹴って跳び退くブレインだが、それを許すモモンでは無い。

 

モモンも大地を蹴ってブレインに肉薄する。

 

流石に慌てたブレインが刀を構えるも、モモンの右手には大剣が握られていない。

 

 

(なっ!? 何処に!!)

 

 

刹那、ブレインの視界に影が落ちる。視線だけを上へ向けると、そこにはクルクルと回りながらモモンの真上の宙を舞う大剣があった。

 

 

「実験武技、パート1」

 

「───ッ!?」

 

 

ブレインが警戒のレベルを一気に上げると同時に、モモンの〈武技〉?が繰り出される。

 

 

「〈秘剣・ジャグリング ブレイド〉!」

 

「は、はぁ!?」

 

 

困惑するブレインを無視して繰り出されたモモンが生み出したオリジナル武技。それは大剣をまるでお手玉のように扱いながら手にした大剣で攻撃を行うと言う代物だった。

 

一本の大剣がモモンの両手に握られ、ブレインに対して苛烈な攻撃を浴びせる。その間、もう一本の大剣はモモンの頭上にくるくると回転し、宙に浮いていた大剣が一定まで落ちる頃、今度は振るっていた大剣を宙へ投げ、落ちてきたもう一本の大剣を握り同様に攻撃を繰り出す。

 

あまりにも奇抜な攻撃に動揺するブレインだが、直ぐに冷静さを取り戻し、無駄なく攻撃を捌き続けた。寧ろ、迫り来る剣撃が2本から一本に絞られようなモノなので十分な余裕が生まれ、モモンが宙に舞う大剣へ持ち替える瞬間、ブレインが放った強烈な一突きによって、モモンのバランスが僅かに崩れる。

 

 

「おっ、と!」

 

「貰った!!」

 

 

空かさずブレインの放った〈空斬〉がモモンを襲った。掴み損ねた大剣を何とかキャッチしたモモンは〈空斬〉をギリギリで躱し、跳び退いてブレインとの距離を置く。

 

 

「うーん、結構いい線行ってたような気がするんだけどなぁ」

 

「確かに動揺はした。だが、結果的に扱う剣が一本に絞られただけで、相手によっては反撃の隙を作ってくれたようなモノ……あまり効果的とは言えないかもな」

 

「そっか……難しいな」

 

「そもそも〈武技〉の名前が酷えよ」

 

「え? うそ?」

 

「そうだな…〈眩惑剣舞〉とかどうだ? まぁ、一定の強さを持つヤツなら一回限りの武技だろうけどな」

 

(くっ…! か、カッコイイ名前を!)

 

 

自分は二晩も掛けて考えた技名なのに、と言う怒りと共にモモンは「続き…」と不機嫌な口調と共にブレインへ襲い掛かる。悪態のひとつ吐く暇もない行動に呆れながらもブレインは何処か嬉しそうに抜刀の構えを取った。

 

 

「〈上位筋力増大(グレーター・ストレングス)〉」

 

 

こっそり強化の補助魔法を仕掛けたモモンは両手に持った大剣を同時に同方向から振るう上段からの一撃を繰り出す。

 

同時に武技の名前をあからさまに叫んだ。

 

 

「実験武技パート2! 〈剛腕剛撃〉!!」

 

「〈重要塞〉! おっ…!?」

 

 

今度はブレインは真正面から受け止める。しかし、防御用の武技を掛けたにも拘らず、問答無用に押し切ろうとするその圧倒的なゴリ押しに苦悶の表情を浮かべた。遂に吹き飛ばされたブレインだが、意地でも出来るだけ姿勢を崩さず踏ん張り続け、10m以上の抉られた大地の跡を残しつつギリギリで耐え凌ぐ。

 

 

「っぷはぁ!!…お前、コレ魔法かけたか!?」

 

「コソッとな。武技として扱う分にはどうなんだ? 違和感とかは?」

 

「ったく……シンプルだがすげえ良かったな。ただ違和感というか、普通の〈剛腕剛撃〉の何倍も強力だったからよ。人によってはその強化版に感じるかもな」

 

「おっ? 意外と高評価か」

 

「まぁ、そもそも〈剛腕剛撃〉自体が上級武技だから扱える奴はそう多くない。威力も個の強さに比例するから……そうだな、〈超剛腕剛撃〉とか?」

 

「……」

 

「なんだよ、その反応は?」

 

「いや……まんまだなぁ〜って」

 

「お前よりはマシだろ?」

 

「さぁて、いよいよ俺は怒りましたよ」

 

「何でだよ!?」

 

 

以降もモモンとブレインの特訓は続いた。途中、モモンが頑張って練習した「武技もどき」も出て来たりしたが、奇想天外なモノが多い為、集中力を磨けると言う意味ではブレインも内心は好評だったりする。

 

モモンの成長性の高さはブレインも認めていた。

戦士としての技量も今はプラチナ級に及んでおり、このまま休息無しブッ続けて特訓を行えば、1月足らずでミスリル級に及ぶかも知れない。

 

 

(足腰の動き、重心の運び、剣の構え、手首の動き、攻と防の見極め……どれも申し分無し)

 

 

ブレインも縛りをした状態のモモンに余裕が作れない場面も増えてきた。最近では彼が魔法詠唱者である事を忘れてしまう事もある。

 

だが、成長しているのはブレインも同じこと。

 

 

「〈双空斬〉!」

 

 

音を置き去りにした振るわれた刀から2つの斬撃がモモンへ襲い掛かる。避けずに受け切ろうとするモモンに対し、ブレインはもうひとつ武技を発動させた。

 

 

「〈能力向上〉!〈疾風加速〉!」

 

 

 

上級武技──

〈双空斬〉〈疾風加速〉〈能力向上〉

 

ブレインが新たに会得した武技である。

本来、武技は年に1つ会得出来るのが常識なのだが、モモンから貸し与えられたマジックアイテムと魔法、何より強さに貪欲な彼との研鑽のおかげでかなり短期間で、しかも複数の武技を得ることが出来たのだ。

 

上級武技2つを重ね掛けしたブレインがその強化された膂力を活かし、一気にモモンの元へ駆け出した。既に刀は鞘に納められており、抜刀の構えを取る。

 

戦士としてのモモンは確実に強くなっている。

しかし、今回も自分の勝ちだと確信していた。

 

 

(なんだ…?)

 

 

刹那、ブレインは違和感を覚える。

 

モモンは防御の姿勢から両腕の左右に開くようにして大剣を構え始めたのだ。

 

 

(何を…している?)

 

 

構えの「か」の字も無い、余りにも隙だらけな姿だった。そのまま間合に入った所を両の大剣で挟むような形で迎撃する気なのかも思ったが、居合の方が圧倒的に剣速は速く、今更それが分からない筈がない。

 

2つの斬撃がモモンへ到達する瞬間、突然その場で急速回転を見せた。回転によって2本の大剣が迫り来る〈双斬撃〉を粉砕すると、回転の遠心力を活かした一撃をブレインへ叩き込もうとする。

 

 

「なにッ!?」

 

 

本日何度目かの度肝を抜かれた一撃に、ブレインは本能的に居合…〈瞬閃〉を抜き放つ。想像以上に速い一撃は、ブレインの刀を僅に掠めて〈瞬閃〉の軌道をズレさせた。

 

互いに攻撃を外したが、モモンの攻撃はそのまま地面へ激突し大量の土煙を発生させると、その隙を狙いブレインが再び刀を構え、兜のスリット目掛けて鋭い突きの一撃を放つ。

 

 

「ちぇい!!」

 

「ッ!!」

 

 

ギリギリで反応したモモンも迎撃するべく、苦し紛れに片方の大剣を振るうが、惜しくも間に合わなかった。

 

 

「あー…またかぁ〜」

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

一撃を受けたモモンは地面へドサリと座り込む。また負けたことの悔しさを滲ませるモモンに対し、ブレインは冷汗を流し息も乱れていた。

 

 

「お前…い、今の技は?」

 

「え? あー、実験武技パート……いくつだ? まぁいいや、〈秘剣・転輪〉って名前にしてて、その場で一回転して、その遠心力を利用した一撃さ。でもコレ、本当は剣での戦闘中にバランスを崩した時、無理矢理体勢を立て直そうとしたら偶然アクロバティックな動きになったのをヒントにしただけなんだ。一応、俺なりに練習したし、攻撃と同時に後退したり元の場所に戻ったりも出来る…けど出来ない時もあるからまだまだ未完成ですハイ」

 

「お、おう…そうか」

 

 

刀を鞘に納めたブレインは顎に手を当て考えた。

 

正直あの攻撃はかなり面白かった。〈即応反射〉〈流水加速〉〈剛撃〉を組み合わせた混成武技としてなら通用出来る可能性があると思ったし、何なら自分も参考にしたい所もあるとさえ考えてる。

 

 

「今のは、アリだな」

 

「え? マジで?」

 

「おう、マジだ」

 

 

確かな手応えを感じたモモンは上機嫌で立ち上がるともう一回手合わせしようとした。

しかし、その上機嫌は精神安定とは別で強制的に水をぶっかけられる事となる。

 

 

「よし!じゃあ続きを………チッ!」

 

「お? なんだ」

 

 

あからさまな苛立ちと舌打ち。

モモンは直立したまま何も発さない。

 

そんな様子を見たブレインは〈伝言(メッセージ)〉のやり取りをしているのだと察し、構えを解いて少しの休憩を取らせて貰った。

 

 

「……チッ! すまん、急に」

 

「別に気にしてねぇよ。んで誰からだ?」

 

「デイバーノックからだ。どうやら『八本指』でキナ臭い動きがあるらしい」

 

 

『八本指』警部部門に所属する『六腕』が一人であるデイバーノックは、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)で『不死王』の異名を持っており、この世界では珍しく生者と取引をして共生しているアンデッドだ。

違法娼館の一件以降モモンに心酔しており、殺すよりも敢えて生かして『八本指』の内情を探らせるスパイとして有効活用していた。送られてくる内容は有益っぽいのだが、聖王国に縛られているモモンが出来る事などほぼ無いので「ふーん」程度の反応しか出来ない。

 

そもそもモモンはデイバーノックとはあまり話したくないのだ。

 

モモンは違法娼館で彼にセクハラされたというトラウマがある為、彼からの〈伝言〉を聞くと精神安定が働かないレベルの苛立ちと生理的嫌悪感が湧いてくるのでほぼ無自覚に舌打ちしてしまっている。

 

 

「キナ臭い動き?」

 

「警備部門の長が他の部下たちを連れて何処ぞで活動をしているとの事らしい」

 

「警備部門の長…ゼロか、んで他の部下は『六腕』ってところか?」

 

「あぁ。デイバーノックは留守役だ」

 

「んで、何処で何をやるんだ?」

 

「それは教えてくれなかったようだぞ。多分だが、仕事をしくじったから信用が落ちてるのかも知れんな」

 

「だろうな。ま、『六腕』級が4人も動くとなれば…いよいよ連中も俺の粛清に動き出したってとこか」

 

「かもな。他にも密輸部門が怪しい動きを見せてるようだが……今のデイバーノックでは探れないらしい」

 

「一応、『八本指』はそれぞれが独立した組織だからな。他所の部門まで調べるのは厳しいか」

 

 

『八本指』の魔の手が差し迫っているかも知れないと言うのに、2人の間に流れている空気は然程重くは無い。

 

来るなら問答無用で返り討ちにする。

それだけのこと。

 

 

「だが、それよりも気掛かりなのは……」

 

「ん?」

 

「祝賀会……行きたくねぇ」

 

「そこは頑張れよ」

 

「あ、行っとくけどブレインも参加するからな」

 

「え? な、なんでだよ!?」

 

「当たり前だ。一応、俺はお前の保護監督なんだからな…って言うのをグスターボさんに言ったら“確かにモモン殿の言う通りですね”って賛同してたからな。案の定、許可も出てる」

 

「……何故わざわざ」

 

「道連れだ」

 

 

そんなこんなで首都ホバンスで開かれる祝賀会まで残り3日を切っている。今までブレインとの戦闘訓練という名の現実逃避に勤しんできたが、遂に年貢の納め時が近いようだ。

あの突き刺さるような視線と王族貴族界隈特有の堅苦しい空気、アダマンタイト級冒険者の看板を汚してはならないというプレッシャー、それが一気に襲い掛かる一晩となる。

 

 

「そう言えば、その祝賀会に『蒼の薔薇』も来るんだろ?」

 

「え? あぁ、そう聞いてるな。俺としては初めての同じアダマンタイト級冒険者として色々と聞きたいこともあるから楽しみではあるが…それがどうかしたのか?」

 

「実はアイツらとは面識があるんだ。俺も祝賀会に参加出来るってんなら、ちょいと挨拶したいと思ってな」

 

「ほーう、それは初耳だな」

 

「もう何年も前だが、リグリットって名前の死霊使い(ネクロマンサー)と戦ったことがあるんだ。想像以上に強くてな…流石は『十三英雄』の一人だと思ったよ。痛み分けだった」

 

「『十三英雄』って…それだと200歳超えてるじゃないか」

 

「禁術を使って老いを抑えてるらしい。あー、でも今は引退してるって聞いたな。入れ替わりで加入した魔法詠唱者もズバ抜けて優秀らしい」

 

「魔法詠唱者か……そのリグリットも興味深いが、新しく入った魔法詠唱者も気になるな」

 

 

リグリットは自分と同じ死霊系魔法詠唱者と言うのもあるが、やはり200年前という歴史の生き証人の話は興味がある。なによりこの世界に転移して来たであろうプレイヤーの話なんかも聞けるかも知れない。

 

 

(その後釜の魔法詠唱者は…冒険者組合長の話だと、名前は確か“イビルアイ”だったか? ユグドラシルにも同じ名前のモンスターがいたから…まさか人間に扮してるとか?)

 

 

そう考えるモモンだが直ぐに首を左右に振る。

 

 

(いやいや、ただの異名がそのまま冒険者ネームとして定着しただけだろうな。人間社会へ溶け込むために変装する異形種(モンスター)なんて自分以外に普通はいるわけが無いんだし)

 

 

しかし、生きた英雄が後釜に選ぶほどの傑物とのことなのでそういう意味での興味はある。

同じ魔法詠唱者というのもあるだろう。

 

このまま訓練続行…と言いたいところだが、ブレインも参加するとなれば色々と身支度が必要だと思い、今から祝賀会まで休みという事にした。ブレインはマジックアイテムとモモンが掛けた補助魔法のおかげで休息や食事は必要無いのだが、精神的な意味での休みは必要だ。当然、街の外へ出て行かないことが条件である。

 

 

(清潔感は大事だしな、うん)

 

 

風呂にだって入りたいだろうし、寝れるなら寝た方が良い。武具の手入れもある。

 

モモンも丁度羽を伸ばしたいと思っていた所だったが、その前に少し用事がある。

 

 

「パベルさんと会う約束があるんだけど…まだ少し時間があるな」

 

 

この世界に来て初めての友人パベル・バラハ。

今日は彼と出会う約束があるのだが、「話がしたい」と申し出て来たのはパベルだった。何となく深刻な相談事を予見したモモン──鈴木悟は、少し緊張した面持ちで彼と落ち会う予定の要塞線へ足を運んだ。

 

 

王国から聖王国へ続く街道を1台の馬車が進んでいた。王族貴族が使う馬車には及ばないが、一般的に使われている馬車の中ではそこそこに高級な造りで、車輪には多少の揺れを軽減する効果があるマジックアイムが使われている。

 

 

「なぁ、ラキュース。聖王国まであとどのくらいだ?」

 

「そうね。あと半日って所かしら」

 

「やっとか。馬車の移動はラクだけど、退屈で仕方ねぇぜ」

 

 

アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダー、ラキュースが同じチームの戦士ガガーランの質問に答える。強固な鎧を纏った筋骨隆々のガガーランは大きく背筋を伸ばし、座りっぱなしで凝り固まった筋肉をほぐしながら軽く愚痴を漏らした。

 

馬車の中はそこそこの広さがあるとは言え、ガガーランほどの巨躯を持つ女性(・・)が背筋を伸ばすだけで中々の圧迫感を放つ。

 

 

「ガガーラン、あまり動かないでほしい。馬車の中がかなり狭くなる」

「実際狭くなってる。やっぱりガガーランの筋肉が膨張してる」

 

「するわけねぇだろうが!」

 

 

双子の忍者、ティアとティナがポーカーフェイスでガガーランに文句を口にする。確かに退屈な旅路ではあったが、彼女たちの掛け合いのお陰でそこまでそこまで酷く退屈という訳でもなかったし、寧ろ笑うことの方が多かったと言っても良いくらいなのは皆同じ気持ちだった。

 

それにモンスターに遭遇すること無く平穏に進めたのも、ティアとティナが偵察も斥候を入念に行ってくれたお陰でもある。

 

大きな溜息が馬車の中から聞こえた。

 

 

「はぁー…全く。聖王国の祝賀会へ招待されたとは言え、遊びに行くんじゃあないんだからな」

 

 

呆れた口調で話し始めたのは『蒼の薔薇』の魔法詠唱者、イビルアイだった。

 

 

「わかってるわよ、イビルアイ。今回の私たちの目的は、ローブル聖王国史上初のアダマンタイト級冒険者、『漆黒』のモモンとの関係を構築すること。そして、イビルアイが持ってるソレを届けること」

 

 

ラキュースの言葉にイビルアイは小さく頷き、懐から2枚の手紙を取り出す。一方は王国の第三王女ラナーの蝋封が押された手紙、もう一方は王国の冒険者組合からの手紙だ。

 

 

「そうだ。当然、手紙を渡して終わりではないぞ」

 

「分かってるよ、イビルアイ。ちゃんとモモンからの返答を確認すること、それから聖王国の内情もコッソリってやつだろ?」

 

「モモンが直ぐに返事をくれるとは限らん。ピンポイントで聖王国で暗躍する『八本指』の核となる拠点を見つけ出すほどの切れ者だ。慎重に言葉は選ぶだろう。聖王国の内情は、王都と城塞都市カリンシャあたりを観れば良いくらいか……」

 

「でもよぉ。本当に『八本指』の拠点を潰したのはモモンなのか? 姫さんやラキュースを疑うつもりは無いけどよぉ、そん時のモモンは別の依頼でたまたま南部にいただけなんだよなぁ? 」

 

 

ガガーランの疑問は尤もだ。

調べたところによるとモモンは護衛依頼で南部へ訪れた所、偶然『八本指』が聖王国でその根を伸ばしていた核を見つけ、それを刈り取ったカタチになる。飽くまで偶然で、その後は尻込みしていた筈の聖王女派が一気に大粛清と言う名の強気の攻勢へ打って出たのだ。聖王国が良い意味で生まれ変わることが出来たのはこうした幸運の連続…そして、そのキッカケを生んだモモンという存在のためである。

 

 

「偶然にしてはあまりにもタイミングが良過ぎるの。それに依頼を出した時期を踏まえても、北部の現王政派が南部の調査に動いていたと見てほぼ間違いない。表上とされていた依頼は欺瞞…でも、まさか壊滅まで行くとは思わなかったわ」

 

 

ラキュースの答えに同調するように双子の忍者は云々と頷く。

 

 

「ウチらが仕掛けた拠点襲撃とモモンが仕掛けた拠点壊滅」

「おかげで『八本指』は手痛い被害を受けて今は息を潜めてる」

 

 

泣きっ面に蜂な状態である。今の『八本指』はラキュース達が思っている…下手すればそれ以上の被害を被っている可能性が高い。

王国の為にも討ち滅ぼさなければならない敵組織に甚大な被害が出るのは予想外とは言え、ラキュース達にとっては正に朗報である。

 

 

「えぇ、予期しなかった…嬉しい大誤算ね。でも、それ故にトドメの一撃を与える暇も準備も出来なかったのも事実…まぁこればっかりは仕方ないとしか言いようがないわ」

 

「腕っ節はピカイチ、頭も切れる、かぁ…今更だけど、マジでとんでもねぇ奴が現れたモンだぜ」

 

「同意見ね……本当に一体何者なのかしら」

 

「っつーことだ、イビルアイ。そのモモンとか言うやつの素性やら功績やらの再確認を頼む」

 

「ここで私に投げるのか!? ま、まぁよかろう、情報の再確認は重要なことでもあるしな」

 

 

なんだかんだ満更でもないイビルアイは一つ咳払いをしてから淡々と話し始めた。

 

南方から来た流浪の戦士で身に纏う漆黒の鎧は道中で偶然見つけた遺跡から手に入れたもの。彼は魔法と戦士の2つの職を修めており、魔法に至っては第3位階魔法まで行使可能…。

 

アベリオン丘陵に現れた1万体にも及ぶアンデッドの出現騒動の解決、ギガント・バジリスクの単独討伐、『十傑』の一角である″豪王〟バザーに勝利、そして──

 

 

「聖王国を蝕んでいた『八本指』の壊滅…内紛の一歩手前まで追い込まれていた聖王国を救った功績はあまりにもデカ過ぎる。しかもたった1人でだぞ? 文字通りの意味で『救国の英雄』だな」

 

 

その評価に皆も心の底から同意した。

まるで英雄譚から飛び出してきた勇者そのものである。

聖王国は幸運だったのだ。モモンと言う大英雄が放浪の末に流れ着き、今では世の為、人の為に冒険者として活躍しているのだから。

彼がいなければ聖王国は目も当てられない状況に陥っていた事だろう。

 

 

「彼と会う以上、無礼な態度は決して取れないわ。ある意味私たちは王国を代表して祝賀会に参加するようなもの。みんな、気を引き締めて頂戴」

 

 

ラキュースの言葉に皆が頷いた。

彼女は改めて誇らしくも頼もしい仲間達だと実感する。

 

 

(それにしても……本当に英雄そのものね)

 

 

ラキュースにとって救国の英雄モモンの偉業は聞けば聞くほど素晴らしいものだ。

叔父の影響と英雄への飽くなき英雄への憧れから家名に縛られるのを嫌って冒険者となった経緯がある彼女からすれば、正に思い描いていた英雄の姿である。

 

生きる真の英雄への憧れ…それと共に湧き上がる嫉妬心。

 

名誉欲とは言わないが、やはり英雄になりたいと言う憧れは未だに冷めやらない。無論、何も知らずに飛び出した頃とは違い、理想と現実の分別はついている。しかし、それが「諦め」に繋がるわけでも無い。

 

 

(ダメね。余計な考えは捨てないと)

 

 

『漆黒の英雄』モモン──彼はどんな人物なのだろうか。

 

 

「せめて叔父様みたいな人でないといいけれど…」

 

「ん? なんか言ったか、ラキュース?」

 

「いいえ…別に」

 

 

ラキュースはモモンが悩みの種でもある叔父に似ていない事を心の底から祈り続ける。

それから間も無くして一行を乗せた馬車は聖王国へ入国した。




個人的考察コーナー
ーーー
ガガーラン、元王国の貴族説
…没落したのか、今の家は存続しているのか不明だけど、外の世界に憧れを抱いていたのはラキュースと同じ。冒険者に憧れたラキュースが色々と動いていたら偶然にもガガーランと接触、ガガーランもそんなラキュースにかつての自分に姿を重ねて家出の手助けをする…みたいな感じ

ガガーランの武装がかなり整ってたのは貴族時代のツテとか、或いは家宝を持って逃げたのかと色々と考えてました
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