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ローブル聖王国北部城塞都市カリンシャ。
この国で最も強固な城塞都市にして聖王家直轄領である此処で、とある会議が行われていた。
「……由々しき事態ね」
嘆きながら眉を顰めたのはこの国の聖王女、カルカ・べサーレス。聖王国史上初となる女性の聖王である。
その外見は花の顔と凛々しさを兼ね備えた容姿端麗で金糸のような長い髪は艶めき光沢を帯びている。まさに『聖女』を具現化したかの様な人物であり、彼女を〝ローブルの至宝〟と讃える者も多い。
「バラハ殿の報告が正しければ、従来の城壁の警備態勢では些か不安が残るかと……。最悪、かつての戦いのように、ここカリンシャが戦場となる可能性もあります」
カルカの両端に立っていた女性の片方が口を開いた。彼女は神殿の最高司祭であり神官団団長のケラルト・カストディオである。
そして、もう1人…深刻な面持ちの2人とは裏腹に絶対的な自信を持つ女性がいた。彼女は鞘に納められた剣の切先を床に付け仁王立ちしながら口を開いた。
「御心配には及びません、カルカ様! かつての……そのぉー…えー、ケラルトの言っていた何だったかの侵攻の際も、この城塞都市カリンシャが戦場だった時が御座いました。故に此処は何処よりも高く、そして強固な壁を持つのです!」
先に発言していたケラルトと瓜二つの外見をしている彼女は、ケラルトの二つ上の姉にして歴代最強の聖騎士団団長のレメディオス・カストディオである。
姉妹共に聖王女の懐刀として彼女に忠誠を誓い、その圧倒的な実力を以ってカルカに逆らう者を悉く抑えつけている。この3人は臣下の関係を除いても友人として非常に親しい関係にあるが、公私共に一緒にいる事があまりにも多過ぎる為、
「でも、俄かには信じ難い話です。我の強い亜人部族達が徒党を組もうとしているなど…」
「ケラルト。私は命を賭してアベリオン丘陵の内部調査の任務を成し遂げた、バラハ兵士長の報告が誤りだとはとても思えないわ」
「はい、カルカ様。私も『黒色』の称号を与えられた彼の
「大丈夫です、カルカ様! このレメディオスが、如何なる亜人共も我が剣の錆にしてご覧にいれましょう」
自信満々に答えるレメディオスだが、どうにも彼女は事の重大さをあまりよく理解出来ていないらしい。
「…貴女も彼の報告を聞いていたでしょう?」
「ハッ! 亜人どもが沢山集まってくる事はちゃんと理解しております」
「…姉様」
「どうした、ケラルト?」
彼女にとってパベルが持ち出した情報はその程度の認識だったらしい。その事実にカルカとケラルトはいつものことかと受け止めると同時に少し呆れ気味に項垂れる。常日頃から胃痛に悩まされていると聞く、彼女の2人の副団長が気の毒だと心の底からそう思えた。
そんな気苦労など知りもしないレメディオスは項垂れる2人の心情が理解出来ずただ首を傾げるのみだった。
「その認識は間違いではないのよ。間違いでは無いのだけど……」
「はぁ…?」
「姉様、全ての亜人部族が徒党を組んだ場合、その数は少なくとも10万は下りません。もう少し事態を深刻に受け止めてはどうですか?」
カルカの代わりにケラルトが今回の情報の真意を伝える。レメディオスは顎に手を当ててほんの少しだけ考えてから答えた。
「むぅ……やはり、問題無いと思いますが?」
「そ、そうですか」
「一応、その理由を伺ってもいいですか、姉様?」
「うむ。えー、ゴホン! ケラルトの言っていた、何だかの侵攻の後、要塞線は亜人どもの再侵攻に備え、一定間隔の小砦と3つの巨大な要塞を建てました。これだけでも難攻不落と言えるでしょう。それに、徴兵された民達が我らの到着まで敵の侵攻を食い止めさえすればそれで十分です!」
胸を張って堂々と答えるレメディオスにカルカは色々と言いたい気持ちになる。そんな主君の姿を知ってか知らずか、代わりにケラルトが出てきた。
「流石は姉様……とはなりませんよ。そんな事は百も承知です。その上で『それだけでは不備ではないか』と言う事を話しているんです」
「む? 足りないのか?……ならばもっと城壁へ配置する兵士を増やせば良いのではないか?」
「それが出来ないから困っているのよ、レメディオス」
黙っていられなくなったカルカが苦笑いで割って入った。案の定、レメディオスは「なぜ出来ないのですか?」と直球で疑問をぶつけてきた。
嫌味ではなく純粋な気持ちで聞いてくるのだから困ってしまう。
「姉様、数年前から亜人部族達との小競り合いが頻回になりつつあるのは知っていますよね? そのせいで徴兵される民達は年々増え続けている、ここまではよろしくて?」
「う、うむ…」
レメディオスは皺を寄せた眉間に指を当てながら考えている。恐らくもう既に理解出来る容量を超えるギリギリのところなのだろうが、構わず無視して妹のケラルトは話を続けた。
「お陰で農家や商場は常に人手が足りず、税収や作物の収穫もここ数年は満足出来ていない状況です。特に食料庫は常に不足の状態が続いています。こうなってしまっては、兵士達は勿論、民達に満足な食事が行き届かなくなるのは当然の理。亜人部族に対する備えを強固にするのも確かに大切ですが、それによって民達の生活をぞんざいに扱って良いというわけにもいきません」
「な、なる…ほど…か、完全に理解し、た?」
「嘘を仰らないで下さい。あと最後、疑問形になってるじゃないですか」
カルカは2人のやりとりを眺めていた。
性格は正反対の姉妹なのに困った時の顔は本当に良く似ている。やはり2人は姉妹なのだなと思い、少し口元が緩みそうになるが、今はそんな事をしている暇は無いと自身に言い聞かせる。
現在、カルカは内外から徐々に追い詰められている状況にあった。
ケラルトが言うとおり、亜人部族達との衝突が増えると必然的に徴兵する民の数は増えてしまう。その分、税収や農作物の収穫量が著しく低下してしまい、そんな彼女の方針を南部聖王国の貴族を筆頭とする保守派達からの不満や非難の声も台頭しつつあるのが現状だ。
税収や食料生産を確保する為には、徴兵令を緩和する必要がある。しかし、亜人部族との衝突が増えている現在は下手に徴兵する数を減らすワケにはいかない。
国内外の情勢が不安定なのは、カルカが聖王国史上初の女王になったからと言ってくる輩も珍しく無い。
今となっては昔以上にカストディオ姉妹の武力威圧に依存する形になってしまっている。少しでも改善と安定化を図るためにも、ここで大きな一手を出して結果を残さなければならない。しかし、その覚悟が出来ないから彼女は苦境に立たされているのだ。
「ここで一気に攻勢へ出るのはどうだ? 守るばかりでは消耗するのは当たり前だ。ならば、ありったけの兵力を以って亜人どもが結束するよりも前に叩き潰した方が良いのではないか?」
「姉様それは─」
「待て、皆まで言うな、ケラルト。ふむ、お前の言いたい事は理解出来るぞ。私はカルカ様の警護やモンスター退治に専念するのが妥当。作戦を練るのは幕僚たちに任せるのが筋というものだな。うむ、まさに適材適所というやつだな‼︎」
正直、色々と言いたい気持ちはあるが、彼女の言い分にも一理ある。
このまま守勢のみに専念していても事態が良くなる事はまずあり得ない。ここで一大攻勢に踏み切る事は決して悪い手とは言えないが、その分、相当の軍資金や兵力、食料や武器などを用意しなければならない。
聖王女として号令を掛ければ可能だ。しかし、それにより民達に更なる負担を強いる結果になってしまうのは明白で、特に聖王女を快く思わない南部の保守派が黙っていないだろう。そうなれば、いくらカストディオ姉妹の力を借りたとしても対処し切るのは困難を極める。
何よりもカルカの信念とも言える国是がそれを許すはずが無いのだ。
─弱き民に幸せを、誰も泣かない国を─
亜人部族を撃退する為に多くの民達が犠牲となり、食料の不足に陥り飢えに苦しむことになってしまうなど許せるはずが無い。
それでは本末転倒ではないか。
外からも内からも、彼女の周りには敵が多過ぎる。
(覚悟していたとは言え…なんと険しい道なのでしょう)
いけない、とカルカは首を横に振る。暗い話題ばかりで、ここ最近表情が暗くなっていると自覚している。
この国の上に立ち、人々を導く立場である以上、容姿や表情には人一倍気を遣っている為、しっかりしなければならないと自分の心に活を入れた。
「レメディオス、貴女の言い分もある程度は理解出来ます。しかし、それでは民達に更なる負荷を掛けてしまうの。それに、仮に勝てたとしても得られるものは皆無に等しいから、被害と戦費が嵩むだけで終わってしまうわ。大きな脅威を取り除けたと言えば聞こえは良いでしょうけど…」
亜人部族に勝利さえすれば、聖王国はアベリオン丘陵へ必要以上に軍備を置く必要は無くなる。それは結果的に国政を内部へ積極的に執り行う事が出来るのだ。民達も今までのように徴兵される事は無くなり、南部の貴族達を中心とした保守派を抑える事が出来る。
無論、良いことばかりでは無い。
仮に脅威が消えても損害賠償が取れるわけは無いし、討ち倒した亜人部族の領地を奪い版図拡大を行うなど以ての外だ。あの広大な丘陵地帯を治める余力など今の聖王国には存在しない。
「それなら、討ち倒した名のある亜人どもが身に付けている高価な武具を売るなりなんなりすれば良いのではないでしょうか?」
「亜人の武具なんて何処に売る気なのですか? 王国ですか? それとも帝国? どちらにせよ、買いたたかれるのは目に見えてますし、何より他国の武装を強化するような行為になってしまいます」
「うーん……良い案だと思ったのだが」
「どこがですか? 姉様、あまり深く考えていないでしょう?」
剣の腕は本物だが考える事が苦手な姉、やや腹黒いが知力に優れた妹。姉妹とは幼少からの長い付き合いだが、性格がまるで違う2人の会話は見ていて心が和む。
特にレメディオスの裏表の無い良くも悪くも真っ直ぐで正直な所は、彼女にとっての癒しでありオアシスとも捉えている。尤もそれで彼女の問題的言動が必ずしもチャラになる訳ではないのだが。
「そういえば、カルカ様。バラハ兵士長の報告で気になる事がありました。瀕死の重傷を受けていた彼を治癒し、追手の
その話はカルカも聞いている。パベルの報告を疑うつもりは無いが、その報告が事実ならその魔法詠唱者は中々の実力者と言う事になる。
「おぉ! そうだ、私もその魔法詠唱者が気になっていた」
会った事の無い人物の名前など基本覚えないレメディオスが、珍しくその魔法詠唱者は認知していた。
「カルカ様、その謎の魔法詠唱者の調査を進めても宜しいでしょうか?」
「そうね……」
「場合によってはその人物に会うのも──」
「駄目だッ‼︎」
レメディオスが目を見開き声を上げた。
「何処の馬の骨とも知らぬ輩とカルカ様が会うなど許される事ではない‼︎ 危険過ぎるぞ、ケラルト‼︎」
「分かっています、姉様。だからこそ入念に調査をした上での、という事です。ただし、出来れば王国や帝国の者たちと接触するよりも前に行動を起こしたいところですが……」
「現状、出来る事は限られてくるでしょうね…アベリオン丘陵となれば尚更」
「……」
限られた時間と人材でどうやって謎の魔法詠唱者を調査するかを思案している3人だが、レメディオスは何を思いついたのか1人で勝手に納得しウンウンと頷いている。
レメディオスが何かを言おうとした時、廊下を走る何名かの足音が聞こえた。
「カルカ様、背後へ!」
すかさずカルカを自身の背後へ来るよう前に出て、剣を鞘から抜き払う。
扉が勢いよく開かれた。
「聖王女様‼︎」
「何事だ⁉︎ 騒々しい‼︎」
息を荒げて現れたのは若い伝令兵だ。まだまだ未熟者とは言え、断りもなく…それも聖王女が在室している部屋へいきなり押しかけてくるなど無礼にも程がある。
レメディオスの叱咤に若い伝令兵は慌てて謝罪した後、「しかし」とその理由を伝えた。
「一大事で御座います‼︎ アベリオン丘陵にてアンデッドの大軍が目撃されました‼︎ その数は数千にも及ぶ勢いで今尚増え続けております‼︎」
「なんですって⁉︎」
カルカは思わず声を上げた。何処ぞの亜人部族が軍団を率いて現れたのならまだ理解出来る。しかし、アンデッドの…それも数千規模の大軍がアベリオン丘陵に現れるなど今まで起きた事は無い。
「アンデッドの軍勢は此方に向かっているのか⁉︎」
「い、いえ! 要塞線の砦から遠眼鏡で見える距離まで接近しましたが、その後、反転し丘陵内部へと引き返しました‼︎ しかし、その数は徐々に増え続けております‼︎」
「数が数だけに膨大な負のエネルギーが蓄積されているようですね。ですが…よりにもよってこんな時に」
眩暈を覚えたくなるような報告だった。ただでさえ亜人部族への備えで手一杯だというのに今度はアンデッドの軍勢だ。場所が場所だけに亜人部族達とアンデッド軍団で衝突し、互いに損害を受けてくれれば良いのだが、これは楽観的かつ希望的観測に過ぎない。
「アンデッドは生者を憎む存在。ならば、そのまま要塞線まで襲って来なかったのは何故だ?」
「恐らく、亜人部族の中でも魔法に優れた
「なるほど…つまり死霊系魔法に特化した魔現人と言うわけか。大方狙いは此方の威力偵察か妨害工作だろう。攻め込むかどうかの瀬戸際で要塞線の兵士達を精神的に消耗させるとは……チッ! 卑怯な亜人どもめッ‼︎」
レメディオスの怒声に呼応してケラルトも遠くからでも聞こえる程の舌打ちをする。
正直、頭が痛くなる出来事に混乱するカルカだが、すぐに女王の表情を作り命令を発する。
「対亜人戦とは大きく予定が異なりますが、いつアンデッドの軍勢が攻めてくるか分かりません。直ぐに要塞線へ戦闘準備を‼︎ アンデッド戦に備え、神殿からも協力要請を出しなさい‼︎ 冒険者達にも私からの命令を伝えなさい‼︎」
そこに居るのは国の行く末に悩む聖王女ではなく、この国を護るべく行動する聖王女の姿であった。主君の命令を受けた配下は急いでその場を後にする。
「カルカ様、私は大聖殿へ向かいます。アンデッド戦に備え、更に増援して頂くよう私の方からも嘆願します」
「そうね。レメディオスは、私と共に万が一城壁が破られた時に備え、此処で兵達の指揮に当たります」
「分かりました」
「ハッ‼︎ お任せ下さい‼︎」
3人は直ぐに行動を開始した。その際、レメディオスは聖王国の神宝である聖剣サファルリシアを帯刀する。
(例の件については、あとでグスターボあたりに頼むとしよう。急を要する事態なのだ、利用できるモノは何でも利用するに限る。うん、我ながら素晴らしい判断だ‼︎)
レメディオスは例の魔法詠唱者について、自身の案を早急に実行するよう心掛けた。
彼女は意気揚々と主君であるカルカと共に建物を後にする。
(しかし、思い返せば…パベルはあの報告で、何か隠している様に見えたな。そこが引っ掛かる)
◇
ローブル聖王国は半島を領土とする人間の国で、隣国のスレイン法国程では無いが聖王を頂点に神殿勢力と協力して統治している宗教色の強い国である。
「U」字を横にした形の国土をしており、広大な湾によって国土が南北に分けられている為、北部聖王国と南部聖王国と呼称する者もいる。
この国で最も特徴的とも言える『要塞線』は、全長100㎞を超える分厚い城壁で、これは聖王国の東方に広がるアベリオン丘陵…そこに生息している様々な亜人部族からの侵攻に備える為に築かれた、さながらそれは──
「まるで〝万里の長城〟みたいですね」
「え? ば、バン…? まぁなんだかワカンねぇが、理解してくれたんなら良かったよ」
ローブル聖王国で最も堅固に作られた城塞都市カリンシャへやって来た悟は、商店通りにあったとある道具屋の主人にこの国の大まかな情報を聞いていた。
(やっぱり、聖王国って名前なだけあって、宗教色が強い国みたいだ。俺みたいなアンデッドにはこれ以上無いくらい不似合いな国じゃないか……疎外感ハンパねぇ)
もしかしたら来るべきでは無かったのかも知れない。しかし、少しでもこの世界の情報を得る事は早急に必要な事である為、ここは思い切って行動しなければならない。
でも何気に未知の世界を楽しみたいと言う欲求もあるので、観光気分で今は楽しんでいたりする。
「ところで兄ちゃん、あんた『冒険者』志望かい?」
「え? 冒険者?」
「そのナリだからてっきり……違うのか?」
今の悟は、いつもの魔王然とした漆黒のローブに
真紅のマントと、金と紫の紋様が入った漆黒に輝く全身鎧で身を包み込んでいる。肝心の頭部は細いスリットのある
側から見れば只者では無い雰囲気を纏った謎の黒騎士。ユグドラシルのプレイヤーから見たらちょっと厨二病クサいロールプレイヤー。
何はともあれ、悟が憧れていた戦士職プレイヤー
身なりのことをいきなり指摘され、ファッションセンスに少し自信を失いかけた悟であったが、その後に出て来た『冒険者』の言葉に食い付いた。
「『冒険者』って何ですか? あー、すみません、自分かなり遠方の方から来た流浪の旅人なもので」
「お、おぉ、そうだったのかい。まぁ、冒険者組合が存在しない国もあるっちゃあるからな」
親切な店主はガタイのデカい
◇
親切な店主と別れた悟はフラフラと街中を歩いていた。『冒険者』について聞いてみたところ、悟が期待していたような職業では無かった。
(要するに『対モンスター用の傭兵』って事かぁ…期待してた分、がっかりだよ)
『冒険者』とは国から独立した組合機関であり、その存在意義及び活動理念は〝人々を守るため〟が基本である。
とはいえ、全く冒険らしい事が無いわけでは無い。稀にだが新たに発見された遺跡や秘境の調査や探索を請け負う事もある。
しかし、そういった場所には強いモンスターがいる事が多いため、本当の意味での冒険が出来るのは上位階級の冒険者に自然と限られてくる。一般的な冒険者の仕事はモンスター退治が基本なのだ。
偶に薬草採取や商隊の護衛などの依頼もあるが、いかんせん夢も浪漫も無い仕事である。
ガクリと肩を落とす悟だが、仕事に浪漫という贅沢な感情を求めてしまう事の方が甘いのだと改めて自分に言い聞かせた。
(まぁ、他はRPGお決まりの内容だったし、そこは問題無いんだけどね……えーっと、あのオッちゃんの話だと確かこの辺に…)
彼は聖王国の冒険者組合へ向かっていた。目的は勿論、冒険者になるためである。
夢の無い職業だが、メリットはある。国境の垣根に関係無く、誰でも登録を行うことは可能で、各国や都市にある冒険者組合に登録した冒険者たちは依頼を受け負い、それに応じた報酬を受け取ることが出来る。
(出自に関係無く身分証明出来る物が作れる上に、依頼を達成すれば現地通貨を報酬として手に入れる事が出来る。今の自分にピッタリの職業じゃないか)
それに冒険者組合で出されているモンスター討伐依頼からこの世界の平均レベルを測る良い機会でもある。
丘陵地帯ではレベル30もいかない雑魚しかいなかったが、もしかするとあの地帯が弱いモンスターしかいないだけなのかも知れないし、他はレベル60以上がウジャウジャ居るのかも分からない。
「だが…広い街だからなぁ。道に迷ってしまった、うーん」
周りをキョロキョロ見渡しながら冒険者組合を探そうとするが、全く慣れない土地故に今自分がいる場所も分からなくなってしまった。
ここで探索系魔法を使えば目的地まで辿り着けるのだろうが、人通りが多過ぎる此処でそれは使えない。
(仕方無い。此処は人に聞くしかなさそうだ……えーっと)
道を尋ねるべく悟は声を掛ける人物を探した。特に「あ、この人がいいかな」と言うつもりでは無かったが、偶々視界の端に入った1人の少女に声を掛けた。
後ろ姿しか見えていないが、その背格好から恐らく14、5歳くらいの少女だろう。
「あのぉー、すみません。冒険者組合はどちらに行けば──」
「え? は、はい」
少女も声を掛けられるとは思わなかったのか、少し驚いた様子で振り返った。
「「おわっ……!?」」
そして、互いにビックリした。
少女は大きなガタイの漆黒の全身鎧を纏った男の姿に、悟はその殺し屋のような非常に悪い目付きをした少女に。
(こ、怖い…こんな目をした女の子見た事無いぞ⁉︎ ん? ……いや、待てよ)
この凶悪な鋭い目付きを彼は一度見たことがある。その特徴的な目を持つ人物を思い出すと、思わずポツリと口に出してしまう。
「ば、バラハ殿…?」
「は、はい…そうです、けど……え? 何処かでお会いしましたでしょうか?」
(え? あ、ヤバ……)
悟はハッと我に返る。
魔法詠唱者としての鈴木悟という身分は隠していたつもりだったと言うのに、自分は今とんでもない間違いを犯してしまった。
間違い無く、パベルの子供だろう。
こんな睨んだだけで人を威圧する程の眼をした人間がそう何人も居るとは思えない。
(それにしても父親に似て目が……)
(す、凄い鎧…あと、背が高い……)
僅か数秒の沈黙が数分に感じる。そんな見つめ合いの中、奇しくも2人は同じ事を考えていた。
((コワイ……))
オバマスの聖王国って滅びたから寂しくて涙が出ちゃう