◇
城門前には出撃を控えた聖騎士や兵士、神官たちが慌しく行き交っていた。
自らの武具や馬具を入念に確認する者、仲間と声掛け合う者など様々だったが、一方でモモンは少し離れた場所で1人腕を組みながら静かに佇んでいた。
周囲の慌ただしさや喧騒、緊張感とは無縁だと言わんばかりの圧倒的かつ一切ブレない堂々たる雄姿に周りの兵士たちは思わず息を呑む。
しかし、当の本人はというと──
(なんでこんな事になっちゃうかな……)
──普通に困惑していた。
時折出てくる小さな溜息は皆から離れた位置にいた事が幸いし誰にも聞かれていないようだ。
(俺はただ単に自由な冒険者ライフを満喫したかっただけなんだけど。まぁ、だからと言って黙って見過ごすつもりはさらさら無いし)
今のモモン──鈴木悟にとってローブル聖王国は大切な居場所となっている。
大切な友人、知人、気さくな街の人々など、孤独だった自分に色々な出会い与えてくれたのがこの国だ。例えアンデッドの姿になったとしても、愛着が湧くのは当然である。
故にそんな国を滅茶苦茶にしようと企んでいる『八本指』には煮え滾るような苛立ちが込み上がる。しかし、その怒りもアンデッドの特性上、精神抑制によりその都度抑え込まれた。
(抑制されてもイライラは募るんだよなぁ。便利と言えば便利だけど、相変わらず煩わしくも感じる)
今に始まった事じゃないと諦め半分の溜息を吐く。燻るような苛立ちを抑える目的も含めて、モモンは『六腕』に関する情報を再確認する事にした。
(デイバーノックの情報が正しいなら『六腕』の実力はレベル換算で20後半あたりか……チッ!)
HENTAIエルダーリッチを思い出し思わず舌打ちをしてしまうが、余計な情報を何とかシャットアウトする。
やはり一番気になるのは『六腕』の頭目である『闘鬼』ゼロという男だ。ブレインによると彼は
(ユグドラシルだと、基礎ステータスだけで評価するなら
これは仕方の無い事ではあるが、武器防具を充実させる事が大前提の純戦士職と違い、
謂わば己の肉体そのものが武器であり鎧である。
これだけ聞けば非常にロマン溢れる設定なのだが、コレのために純戦士系との間に多少なりとも差が出てしまっている。
(たしか
生憎、
これは選んだ『流派』の系統により一層特化したスキルやステータスを得ることができるというもの。中には『酩酊』状態で凄まじい回避能力とカウンターを強化するものや聖属性を纏ったもの、森などのエリアによってステータスが大きく上昇するものなど様々だ。
(デイバーノックの情報だと、入れ墨に宿る生き物のチカラを利用するみたいだが……うーん、ユグドラシルでも似たような能力があったような)
内容は思い出せないが確か上級職の一つだった筈だ。そういう意味ではゼロに興味がないわけでは無いのだが、ユグドラシルでは比較的マイナー寄りの職業な上、亜人や異形種ならともかく、人間種だとどうしても微妙な職業の一つになってしまっている。
初期のユグドラシルだと知名度も相まって特に人間種ではかなり人気な職業だった。しかし、純戦士系ビルドに対してやや劣る性能から玄人や一部のロールプレイ重視のプレイヤー以外で使う人はかなり少なくなった印象だ。
(でも、世界大会でベスト8まで勝ち進んだプレイヤーの中に
そんな事を考えながら、ふと城の方へ顔を向ける。本音を言えば城に残るブレインが少し心配だったが、彼との手合わせの日々を思い返し静かに首を横に振った。
「まぁ、アイツなら大丈夫か」
モモンは、ふと彼との日々を思い返す。
「行き当たりばったり……でも、ああいう奴との出逢いもあるんだよな」
色々気苦労は多いが、存外に悪くない。
そんな事を思いながらモモンはフッと小さく笑った。
「彼が心配ですか?」
声のした方へ顔を向けると、『蒼の薔薇』のリーダーであるラキュースを先頭に、ティナとイビルアイが歩み寄ってきていた。
モモンは組んでいた腕を解いて姿勢を正すと、歩み寄って来る三人へ軽く一礼する。
「そういうわけではありません。ブレインなら大丈夫です。彼の強さは私が保証します」
「…彼のことを信頼しているのですね」
その言葉を受け、ラキュースは僅かに微笑んだ。
そこへイビルアイが割って入ってくる。
「先ほどのカストディオ聖騎士団長との手合わせ…と言うには些か過激だったが、それはそれとして見事だった。魔法と戦士、この2つを得てあの強さとは恐れ入る」
身長は自身の腰くらいで、同じ真紅のマントを纏い、顔を覆い隠す仮面を付けたその姿はハッキリ言って異様とも言えるし、『蒼の薔薇』の中では一際目立つ存在だ。
(イビルアイ…『蒼の薔薇』の魔法詠唱者で相当な実力者って噂だけど、まさか子供ってわけじゃないよな?)
ちょっと偉そうな態度と言動は少し気になるが、流石に子供では無いだろう。
「ありがとうございます、イビルアイさん。戦士としての実力はブレインに劣りますが、彼には使えない魔法を使えます。それらを駆使したお陰で私は彼との戦いに勝てたのです」
「そうだとしても。あのブレイン・アングラウスを倒すとなると並の魔法詠唱者や戦士ではまず不可能だ。まぁ、第三位階魔法を行使する戦士が『並』であるはずがない。持って生まれた才能とそれに見合う強さだ、十分に誇って良い」
「ありがとうございます。ですが、私の実力はまだまだ未熟者もいいところです。冒険者としての経験でさえ『蒼の薔薇』の皆様とは比べられません」
「フッ、謙遜だな。まぁ慢心するよりかはマシだが」
「ちょっと、イビルアイ」
「──モモンの方が大人。イビルアイはもっと見習うべき」
「わ、私は別に…!」
仲睦まじい『蒼の薔薇』の面々を見たモモンは、改めて『仲間』の良さを実感した。少し前までの自分なら嫉妬心で苛立ちを抱いていただろうが、今はそんな気持ちは微塵も湧かず、寧ろ微笑しささえ感じている。
(やっぱり『仲間』って良いよな……ん?)
その時、モモンの脳裏にブレインの姿が過った。
かつてのギルドメンバーの思い出には及ばないものの、それでも今のモモンの中にしっかりと刻まれるような感覚は、不思議な暖かみを帯びていた。
ラキュースが諌める中でティナとイビルアイが何とも子供染みた言い争いを続ける。明らかに煽られているイビルアイが一方的に声を上げていた。
「失礼しました、モモンさ、……モモンさん?」
ラキュースは振り返り、申し訳なさそうに謝罪する。しかし、モモンは何の反応も返さず、ただ佇むのみだった。
(ああいう喧嘩も仲間ならではだよなぁ…)
「あ、あの……」
「え? あっ! す、すみません…」
「い、いえいえ!こちらこそお見苦しい所を」
「ははは……本当に仲が良いのですね」
「はい、自慢の仲間達です…気苦労は多いですけど」
苦笑いで答えるラキュースに何処か親近感を感じた。チームのリーダーでありまとめ役である彼女も色々と苦労が絶えないらしい。
こんな状況下だが少しだけモモンの周りの空気に和やかさが生まれている中に、金属が擦り合う音と共に駆けてくる音が聞こえてきた。
「モモン殿!『蒼の薔薇』の御三方!」
モモンとラキュースたちは声の聞こえた方へ同時に振り向く。
駆け寄ってきたのは聖騎士団副団長のグスターボだった。
「お待たせ致しました。いよいよ、出撃です。皆様方の助力がいただけることを大変心強く思います。カストディオ団長始め、皆も同様のご意見です」
モモンは頭を下げる彼を軽く諌める。
「どうかお気になさらずに、副団長殿。これは私のケジメでもあり、聖王国の人々と共に過ごしてきた者の使命でもあります。此処は私の第二の故郷も同然です」
「私達も同様です。何の罪もない人々が傷付けられている状況を看過する事は出来ません」
モモンに続き、ラキュースも毅然とした口調で言葉を重ねた。
「おぉ。な、何という……一体、どれほどの礼を申し上げれば良いか」
目に感涙を溜めていたグスターボは急いで涙を拭い、先程までの真剣な表情に変わる。
「ッ……失礼しました! では出撃にあたり、皆様へ馬をご用意いたしましたので、是非ご活用ください!」
「え……?」
思わず漏れ出た言葉が周りに聞こえなかったのは奇跡と言わざるを得ない。
聞き間違いだと思いたかったが奥から数人の聖騎士が自分と『蒼の薔薇』の面々を含めた分の馬を連れてやって来た。
(あっ、これマジのやつだ)
出るはずの無い汗が滝の如く流れている気がした。知っての通りモモンは馬に乗った経験など皆無である。ましてやリアルで馬に乗った経験もあろう筈もない。そもそもスキルでどうにかなる分野なのかさえ怪しいくらいだ。
(無理に決まってるだろ!! 乗れるわけないじゃん!!)
一方、ラキュースは臆することなく一頭の馬へ歩み寄ると優しく撫でていた。流石は貴族令嬢と言うべきか、馬の扱いは心得ているらしい。それとも長い冒険者稼業故の賜物なのか。
(そりゃあ、冒険者としての経験は俺以上だもんなぁ。馬を使った移動なんて日常茶飯事だろうし)
素直に感心していると一頭の馬を引きながらグスターボがモモンの前まで近づいて来ると、手綱を此方へ手渡そうとふる。
無論、モモンはその手綱を握れない。
「さぁ、モモン殿も。ご安心ください、この馬達には事前に魔法を掛けているので、滅多な事では驚きません」
そういう問題では無い。
シンプルに乗れないし扱えないのだが、どういうわけかグスターボはモモンが馬も扱える前提で話を進めている節がある。
(まさかこんな時…こんな形で大ピンチに陥るとは)
出来ることなら素直に「乗れません」「乗ったことがありません」と言いたい。しかし、この状況下でそんな巫山戯たことを果たして言えるだろうか。否、言えるはずが無い。
周りには見えない精神抑制による緑色の発光が発生しているのが嫌でも分かる。
このピンチをどう乗り切るべきか脳みそをフル回転している時、イビルアイの声が耳に入ってきた。
「不要だ。私は〈
そう言い放ったイビルアイは早速、〈
(〈
思わぬ人物からの思わぬ僥倖。
この機を逃すまいとモモンは迷わずイビルアイに続いた。
「ありがとうございます、グスターボさん。ですが、私も〈
「し、しかしモモン殿──」
「〈
何か言いたげな様子を見せたグスターボだったが、救国の英雄たるモモンが毅然とそう言い切る姿を見て静かに口を閉ざし、食い下がることはしなかった。
「……分かりましたッ! どうか、お気を付けください! 団長には私から伝えておきます!」
彼の言葉に不満を覚えたワケでは無い。
寧ろ、この御方なら大丈夫だと、そう信じる事が出来たからである。グスターボは馬に乗って、その場を後にした。
モモンは〈
「……では先に行くぞ」
その後、イビルアイは一気に高度を上げ、城門を飛び越える。そのまま城下町の方角へと飛んでいく彼女を追うようにモモンもまた空中を進んでいった。
「やっぱり、モモンさんも〈
ラキュースは2人が飛んで行った方向へ、その姿を追うように顔を向ける。そして、口にこそ出さなかったものの、ふと気付いた事を心の中で呟いた。
(なんか…イビルアイより速かったような?)
そんな筈が無いかと自分に言い聞かせ首を左右に振る。確かにモモンは第三位階の魔法を行使出来る凄腕の戦士だ。しかし、純魔法詠唱者であるイビルアイより速い〈
ティアの方へ目を向けると、彼女は片手を額に翳し、2人が飛んで行った方向を見つめながら「お〜」と少し感心したような声を出していた。
その時、兜を戴き、愛馬に跨った聖騎士団長レメディオスが、片手に携えた聖剣サファルリシアを高々と掲げた。
「聞け‼︎ 誇り高きローブル聖王国の戦士達よ‼︎」
レメディオスの力強い声が響き渡る。
一瞬にして周囲は彼女の声以外聞こえなくなった。
「これより我らは戦場へ赴く!! そこに待つのは血と死だ!!恐れるなとは言わん!! 恐怖を感じるのは臆病ではない!! 命を惜しむのは生きようとする者の証だ!! だが……我らがここに立つのは、己一人の命を守るためではない!!」
真剣な、そして確固たる覚悟を決めた視線が聖剣を掲げ続けるレメディオスに集まる。
「家族がいる!! 友がいる!! 帰りを待つ者たちがいる!! 我らが一歩退けば、愛する者達を失うことになる!! だからこそ、剣を取れ!! 英雄になれとも言わん!! 恐怖に震えても構わん!! 足が竦んでも構わん!! それでも前へ進め!! 我らが守るべきもののために!! 進め、ローブル聖王国の戦士たちよ!!」
レメディオスの言葉に応えるように、兵士たちから一斉に鬨の声が上がった。
「我らの故郷を、我ら自身の手で守り抜くぞ!!」
重々しい音を響かせながら城門が開かれる。
その瞬間、レメディオスを先頭に聖騎士や兵士、神官たちが一斉に駆け出した。数多の蹄が大地を打ち鳴らし、土煙を巻き上げながら彼らは戦場と化した城下町へ向けて馬を走らせていく。
◇
〈
「…や、やっぱり馬に乗らなくて良かった」
それでも後々のことを考えれば乗馬の練習はした方が良いかも知れないと思いつつ、改めて上空から城下町の惨状を目の当たりにした。
聖王国が誇る首都の所々で無数の火の手が上がり、黒煙が舞い上り、怒号と喧騒が聞こえてくる。戦火に呑まれていない区画の方がやや多いものの、主要となる大通りなどの道が瓦礫などで意図的に封鎖されてる箇所も散見される為、避難がままならないというのは何となく分かる気がした。それでも大聖堂とその近辺には此処からでも認識出来るくらい人集りがあって、市民達の臨時の避難場所となっているようだ。
(あちこちにアンデッドの反応もある…地上に出てる分だけなら大した数じゃないけど、早いうちに対処しないと面倒なことになりそうだ)
「〈
そこへ背後から聞いた覚えのある声が聞こえた。
振り返るとそこには先に向かっていたはずのイビルアイがいた。
「イビルアイさん」
「少し城の周りを見ていただけだ」
イビルアイはそう言うと、モモンの隣まで移動してきた。
「魔法詠唱者と戦士の才能を持つ英雄……まさに天賦の才だ。確かに戦闘に於いて手数は多いに越したことはない」
急に語り始めたイビルアイに一瞬驚きつつも、何も言わずに耳を傾ける。
「だがあまり過信しないほうが良い。どれだけ戦士と魔法詠唱者としての才を持っているとしても、一つに特化した同格以上の相手には一歩も二歩も遅れを取ってしまう。人一人が出来ることなんてたかが知れる…」
(あれ? もしかして俺、今この子に軽く説教されてる感じ?)
意外過ぎる展開で一瞬だけ精神抑制が発生してまう。まさか三十路になって、こんな子供に説教される日がくるとは思いもなかった。しかし、言っていることは結構まともでもある。
(ユグドラシルでも同じ事が言えるな。全てを兼ね備えたビルドはシステム上絶対に出来ない。だから基本的に互いに足りない部分を補い合う仲間を集めて、チームを作って……ギルドが出来たりして)
戦士としての技術や経験は積めても所詮は自分を偽るための擬態であり、どこまで行っても真似事でしか無い。周りがどんなに持ち上げたところで、出来ることよりも出来ないことの方が圧倒的に多いのだ。
イビルアイが言うように1人で出来ることなんてたかが知れている。
(この子も巷では凄腕の魔法詠唱者って呼ばれてはいるけど……だからこそ、対等な相手に出会えなかった辛い過去を抱えてたのかも知れないな)
妙に偉そ…大人っぽい口調なのもそのせいだろう。孤独という意味においてはこの子と自分は何処か似ているのかも知れない。しかし、自分と決定的に違う点は「仲間」に出会えたという点だ。
(ま、彼女は人間で俺はアンデッドだから、難易度的にはコッチの方が上なんだけど……)
気が付けばモモン──鈴木悟の中でイビルアイに対し妙な親近感が生まれていた。
「しかし、お前がそんな傲慢な性格とは思えん。まぁ、先輩冒険者からのちょっとした助言程度に受け止めてくれ」
説教くさいと言っても面倒見が良い性格のようだ。歳下とは言え、こういう人は純粋に好感が持てる。最も哀しいのは無関心だからだ。
「ありがとうございます、イビルアイさん。今の忠告、胸に刻みます」
「フッ。素直なヤツだ」
(……ってかこの子、何歳だ?)
そう言うとイビルアイは城下町の一角へ顔を向ける。そこはモモンの〈不死の祝福〉が最も多く感知したのと同じ方角だった。
「さて。私はこれからアンデッドを生み出している元凶を絶ってくる。低位のアンデッドばかりとは言え侮れん。負のエネルギーを蓄積させ続けても碌な事にならん」
「ご尤も。手を貸します」
「不要だ。あの程度の連中なら私一人で十分だ」
いきなりフラれて胸が一瞬チクリと痛むモモンは、せめてものアドバイスを送る。
「わ、分かりました。ですが、低位でも相手に負のエネルギーを与える厄介なアンデッドもいますよ?」
「ほう? 博識だな。しかし、杞憂だ。私には効か……チッ」
「え? それは…タレントか、何か対抗出来うるマジックアイテムを持っているからですか?」
モモンの疑問にイビルアイは少し間をおいた後に、バツが悪そうに答えた。
「まぁ…みたいなものだ」
「?」
「それより。お前は他に助けが要る場所へ行くべきだ。今は速さが肝心だぞ」
どこかはぐらかされたようで納得はしていないが、イビルアイの言うことは尤もなので今は素直に従う事にした。
「分かりました。っと、ちょっと待ってください」
「ん?」
モモンは懐から何かを取り出すと、それをイビルアイへ手渡した。
それはイビルアイの掌に収まるくらい小さな木彫りの人形だった。手渡された彼女は不思議そうに小さな木彫り人形を見つめる。
「これは?」
「ちょっとした御守りみたいたものです。あっ、い、いらなかったら言ってください」
暫く手の平にある小さな木彫り像を眺めたイビルアイはそれを握り締めると再びモモンに振り返った。
「フッ…いや、ありがたく受け取っておく」
「…では、ご武運を」
「そっちもな、モモン」
イビルアイは〈
(良かったぁ…受け取ってくれなかったらどうしようかと不安に思ったよ。同じアダマンタイト級として『蒼の薔薇』とは仲良くしたいし、恩を売るとまでは言わないけど、友好関係は築きたいよな)
それを見送ったモモンは振り返ると少し離れた西の広場へ視線を送る。西の広場では少し前まで聖王国の援軍が到着している筈だが、未だに鎮圧に至らない所を見るに
「よし!!じゃあ、行くか!!」
モモンは勢い良く、首都の西の広場へ向けて〈
◇
城下町にして聖王国の首都ホバンス。その東広場の周辺は悍ましいアンデッドの群れで埋め尽くされていた。近郊の大通りや路地裏にも、無数の聖王国民や兵士たちの遺体が無残に倒れ伏している。
それらの遺体からもたらされる死の気配は、集まり続けるアンデッドたちによって生じた負のエネルギーをさらに濃密なものへと変えていた。まるで、この一帯そのものが死に蝕まれ、負のエネルギーを生み出す巨大な坩堝と化していると言っても良い。そして、更なるアンデッドを生み出す糧となるのだ。
「聖王国で手に入る死体ではこんなものか」
彼は聖王国の某牢獄に超重要罪人として収監されていた所を、『イジャニーヤ』を雇った『六腕』のゼロにより救出された。
モモンへの復讐…共通する目的でゼロと協力し、此度の聖王国首都襲撃に一役買っている。
カジットは周りのアンデッド達を目でざっと見渡した。
(死の宝珠が無い今ではこんなモノか。むぅ、聖王国に回収されてないとするなら、やはり持っているのはほぼ間違い無くモモンであろうな)
苛立ちから歯噛みし顔を歪める。モモンを始末したら死の宝珠の回収もしなければならないと考えていたカジットは、その身に纏うマジックアイテムは投獄される前の物が殆どだが、幾つかはゼロより提供された物を使っている。
|励 起 の 腕 輪《ブレスレット・オブ・アンプリフィケーション》──装備者が持つ他のマジックアイテムの効果を一定時間強化する効果を持つ。これによりカジットは第三位階魔法〈
「どれ。もう少しアンデッドを広範囲に活動させておくか」
カジットは魔法で創り出したアンデッドをより広範囲に展開させる為、命令を下そうとした。
これほどの大都市を死の気配で満ち溢れさせる事が出来れば、より強大なアンデッドが生まれることだろう。そこで死の宝珠さえ取り戻す事ができるなら、『ズーラーノーン』の十二高弟へ返り咲くだけではなく、自身の望みである理性あるアンデッドへの変貌さえ可能となるかも知れない。
「む!?」
警戒の為、上空で待機していた飛行型のアンデッド達が一瞬で消滅したのを察知し、背後へ飛び退き前方を無数のアンデッド達による盾を形成させた。次の瞬間、盾として展開していたアンデッドの頭上から大きな水晶の
「なんと……凄まじいな」
思わず驚嘆の声が漏れ出た。
土煙が晴れ、不死者が蠢く場所には似つかわしくないほどの美しい輝きを放つ水晶の騎士槍。その上にゆっくりと降り立つ人影に、カジットの警戒心が一気に跳ね上がる。
噂に聞く極大級魔法詠唱者──
「お主が『蒼の薔薇』のイビルアイだな?」
「あぁ、そうだ。お前がアンデッドを生み出している元凶だな」
真紅のローブを靡かせながらイビルアイが聞き返す。
「ご明察。色々と警戒はしていたが、まさかお主が来るとは思わなんだ。それもただ一人で、な」
「厄介な芽は早々に摘む必要がある。それに貴様程度、私一人で十分だ」
「ククク、大した自信だな」
カジットは目を細めイビルアイを観察する。
(アレは水晶? ふむ、大地系に秀でた魔法詠唱者…エレメンタリストか)
イビルアイの逸話はカジットの耳にも入っている。その正体や素顔は謎に包まれているものの極大級魔法詠唱者と呼ばれる存在だ。第四、いや第五位階魔法まで行使できると見て良いかも知れない。
(だが、あの『逸脱者』…フールーダ・パラダインには及ぶまい)
カジットはニヤリと不敵な笑みを浮かぶ。
ならば問題無い。元々は第四位階まで行使出来ると言われているカストディオ姉妹の片割れへの対策で用意していた切り札だってある。
そういう意味ではイビルアイ一人で現れたのは正に僥倖だった。
「さて。醜いアンデッドどもを使って随分と暴れてくれたじゃあないか、死霊使いよ」
「ふん。周りがどうなろうとワシの知ったことでは無い。そして、よく覚えておくが良い! ワシの名はカジッ──」
「貴様の名前など知る価値も無い。ここでアンデッド諸共朽ち果てるが良い」
名乗りを遮られるカジットは一瞬だけ不快な表情を浮かべるが、直ぐに不気味な笑みに変わる。そして、左手に持つ魔力源の水晶を僅かに掲げ、緑色の光を発生させた。
「その生意気な態度…二度と取れなくしてやろう! 〈
魔法上昇により消費する魔力量が増える代わりに本来使える位階魔法の一つ上を行使する事が可能となる。カジットは消費する魔力を水晶に代えさせる事で自身の負担をゼロで発動させた。
「アレは…!」
妖しい光と共に現れたソレは大きく空へ舞い上がるとイビルアイの下へ降り立ち、その禍々しい巨体の影で彼女を覆った。
「魔法詠唱者にとっては手も足も出ない強敵だろうよ!」
現地では魔法に絶対耐性を持つとされる魔法詠唱者の天敵とも言えるドラゴンの姿を模したアンデッドだ。
「……驚いたぞ。
「まだまだこんなものではないぞ!〈
再び水晶を使い第四位階不死者召喚を発動させる。大地が揺れ、悍ましい白い巨体が姿を現した。
「…2体目か」
ボソリと呟くイビルアイを無視し、カジットは複数の強化魔法を2体の
「ふむ。流石に〈
(三度だと?)
イビルアイは僅かに訝しむ。自分が見た限りでは奴が〈
次の瞬間、大地が再び揺れる。
間違いなくカジットが仕掛けた何かだと踏んだイビルアイは〈
その正体を見たイビルアイは驚愕した。
「3体目の
空いた穴から空へと飛び立った
何故、自分を無視して飛び去ったのか。
その意図が理解できず、イビルアイは怪訝そうにその後ろ姿を見つめる。
しかし、
「……王城か」
「フフ、流石に焦ったか? だが、ワシらを相手にして城に残る者どもを気遣う余裕など与えると思っているのか?」
「フッ、愚かだな」
「なんだと?」
焦るどころか余裕の態度を崩さない。寧ろ此方を貶す発言さえしてきた。その言動に怒りを覚えるカジットだが、それが虚勢では無いことも瞬時に察した。
「私の仲間…そして、この国の戦士たちはお前たちが思っている以上に強い。そして──」
イビルアイは真紅のローブをはためかせながら凛とした態度で言い放つ。
「この程度で私に勝てると思っている、その浅はかさ……実におめでたい」
次の瞬間、周囲の空気が目に見えない重圧に押し潰れたかのように張り詰める。
「小癪な…!」
カジットは冷汗をかきつつも不敵な笑みを崩さない。
それは虚勢ゆえかそれとも秘策がある故か。
挿絵(AIイラスト)はあった方が……
-
良い
-
いや、いらない