Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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結構行き当たりばったりで書いてます 
ので、誤字報告にはマジで感謝してます


第5話 さまようネイア・バラハ

 自分でも面倒臭い娘だなと思う。

 はぁ、と溜息を吐きながら少女は城塞都市カリンシャの商店街を目的もなく歩いていた。

 

 彼女の吊り上がった細目と小さな黒目は常に睨んでいるような印象を相手に抱かせ、目の下の隈がより一層凄味を引き立ててしまっていた。

 そんな殺し屋のような鋭く凶悪な目付きは、父親譲りで彼女のコンプレックスだったりもする。その事で父親に文句を言おうものなら母親の鉄拳制裁が待ち構えている為、口では言わないようにしている。

 

 彼女──ネイア・バラハは、ほんのつい数時間前の出来事を思い出していた。

 

 

(またお父さんと喧嘩しちゃった……折角、仲直りするチャンスだったのに)

 

 

 半月ほど前、ネイアは父と喧嘩をした。

 ほんの些細な事が原因だった。

 

 特に珍しい事では無い。年頃の娘とそんな娘の扱いに悩む父親……いつもの日常の一部とも言える。ネイア自身、父親が嫌いなわけじゃない。しかし、少しデリカシーに欠けている所がある為、年頃の娘である彼女はそれが許せず度々父親と喧嘩してしまうのだ。

 

 半月前に喧嘩してから直ぐに父は此処カリンシャへ向かった。特に理由は話さなかったが聖王国随一の野伏(レンジャー)である父は、国からの命令を受けて任務に家を留守にする事は決して珍しく無かったし、大体2週間前後くらいで帰ってくるのが普通だった。

 

 ネイアはこの前の喧嘩で「少し言い過ぎた」と思っていた為、帰ってきたら謝ろうと心に決めていた。しかし、父は2週間を過ぎても帰ってくることは無かった。

 亜人部族がまた城壁までやって来たのか、はたまた別の任務で問題が起きたのかまるで分からなかった。元聖騎士の母は「心配するな」と言ってはいたものの、それでもネイアは気が気でなかった。

 

 そんな母もやはり気になったのか、現役時代のツテで父が何処へ行ったのかを聞いていたのを偶然、街で見かけた。何を言っていたのかは聞き取れなかったが、怒る時以外は基本冷静な母が珍しく動揺していた。正確には必死に平静を装っていたのだが、ネイアは家に帰った後その時のことを母に詰め寄った。

 

 

 ──もう帰って来ない事も覚悟しなさい──

 

 

 詳細を言わずそれだけ伝えてきた。

 そして、体が勝手に動いていた。

 

 背後から聞こえる母の声を無視して家を飛び出し、着の身着のままカリンシャまで目指した。

 小さい頃から父と一緒にキャンプへ連れて行ってもらった事が何度もある為、夜更けとは言えカリンシャまでの道のりやその近道はしっかり頭の中に叩き込まれている。

 

 何故、カリンシャまでなのかと言うと、率直に言えばそこで父と再会したからだ。予想外の再会に2人とも唖然としたものの、何日も休まず走り続けたネイアの体はボロボロに汚れていた。

 

 そんな娘の姿を見た父──パベルは慌てて娘の下へ駆け寄ろうとした。しかし、ネイアは死んだかも知れなかった父の元気な姿に、心の底から安堵した……と同時に心配をかけさせた事に対する怒りが一気に噴火した。

 

 

「お父さんの馬鹿ッ‼︎‼︎」

 

 

 そう吐き捨ててネイアは直ぐに引き返し、現在に至る。せっかくの再会が自分の下らない意地のせいで台無しとなり、益々会うのが億劫になってしまった。家へ帰ろうにも既にそんな気力は残っておらず、仮に何日も掛かる道のりを辿り家へ帰ったとしても母の制止を無視して家を飛び出した為、怒髪衝天の母が待ち構えているのは間違いない。

 

 早い話、行く当てもなく彷徨っている。

 

 

(お腹…空いたな…)

 

 

 思わず腹の虫が鳴ってしまう。近くを通り過ぎた人が何事かと此方を振り返るが、ネイアは気づかないふりをして、そそくさとその場を後にした。

 ここ数日まともな食事を摂っていない。最後に食事らしい食事を摂ったのは家を出た日の夕飯で、以降はカリンシャまでの道中で見つけた木の実くらいしか口にしていない。

 

 

「でも…私って結構行動力あったんだ」

 

 

 まさかここまで自分が考え無しに行動を起こすとは、今になって信じられない気持ちになる。それに、カリンシャまで最短で来ることが出来たのは紛れもなく父親譲りの才能のおかげだ。

 

 鋭敏な感覚、そして弓の才能。野伏(レンジャー)特有の潜伏術までは会得していないが、地形把握には自信がある。当然、どれも父親には遠く及ばないが、それがネイアをここまで行動させたのだと考えた。

 本音を言えば母親のような聖騎士に憧れていたし、今でもその道を選びたいと思っている。ただ母親は未だに私が聖騎士になる事を微塵も許してはくれていない。

 

 

(この前なんか、現役時代に愛用していた剣をいきなり出して来たかと思えば、鞘から引き抜いて切先を向けて来たっけ……「私に勝てたら許してやる」って、何もそこまでして反対しなくてもいいのに。親なら我が子の夢を応援するのが普通じゃないの?)

 

 

 正直、あの時はかなりビビった。本気で殺されるかと思った。でも、父親が必死になって間に入ってくれたお陰で事なきを得た。そんな父親も自分が聖騎士の道を進みたいという思いを中々酌んではくれなかった。

 

 

(やっぱり弓の才能じゃ聖騎士になれないのかな…そうよね。お父さんでも無理だったら、私なんかが幾ら頑張っても)

 

 

 いつの間にか気持ちが益々滅入ってしまった。

 

 何をやっても上手くいかず、目指したいものがあっても誰も応援してくれない、人付き合いもこの目ではまともに出来ないし、そもそも他者と話す事自体得意じゃない。

 

 こんなにも恵まれない人間は中々いないと我ながら思った。

 

 

(私……なんでこんなに駄目なんだろう?)

 

 

 もう何もかもが嫌になって、本格的に逃げ出したかった。寧ろ、これはいい機会かも知れないと考えていると、背後から声を掛けられた。

 

 

「あのぉー、すみません。冒険者組合はどちらに行けば──」

 

 

 普段、人に声を掛けられる事など家族以外で殆ど無い為、驚きながらも声の聞こえた方へ振り向いた。

 

 

「おわ……⁉︎」

 

 

 そこに立っていたのは、声質からはあまり想像出来ないほどの巨軀で、漆黒の全身鎧を纏った男の人だった。それだけでも十分驚くのに、男は更に驚愕の一言を放った。

 

 

「ば、バラハ殿……?」

 

「は、はい…そうです、けど……え? 何処かでお会いしましたでしょうか?」

 

 

 全身鎧の男は私の苗字を言い当てた。

 一体何処で知り合ったのか? それとも父親の知り合いか? どちらにせよ得体の知れない存在に変わりない。少なくともネイア自身はこんな大男と知り合いなどではないのだから。

 

 改めて男を見遣る。

 この巨軀、身に付けている鎧…どれを見ても恐ろしい事この上ない。

 

 

(コワイ……)

 

 

 正直今すぐ逃げ出したいが、男の人が『冒険者組合』への道を尋ねていた言葉を思い出した。

 

 

「えっと…此処からだとちょっと距離がありますね。カリンシャへ来たのはいつ頃ですか?」

 

「あー、すみません。つい先日来たばかりなので…土地勘とか全然無いんですよ」

 

「そうなんですか」

 

 

 それでは口頭での説明だけでは難しい。出来なくは無いが、土地勘の無い彼には中々酷というものだ。

 

 

(ちょっと怖い気もするけど、悪い人では無さそうだし。気分転換の意味でも道案内は悪く無いかもね)

 

 

 滅入った気持ちを少しでもリフレッシュさせようとネイアは意気込んだ。

 

 

「じゃあ、私が案内します。その方が確実ですから」

 

「それは助かりますッ!…えっと、バラハ殿でよろしいでしょうか? 申し遅れました、私は『モモン』と申します」

 

「ネイア・バラハです。普通にネイアで構いません。多分ですけど、バラハだと少し言い難いですよね? 色んな意味で」

 

「では、よろしくお願いします、ネイアさん」

 

 

 

 

 

 ネイアはモモンと名乗る謎の騎士を冒険者組合まで案内する道中、色々な話を聞いた。

 

 

「だから私がバラハだと分かったんですね」

 

「『凶眼の射手』の話は有名でしたから。それにしても本当に娘さんだったなんて。やはり目も父親と……あっ、す、すみません」

 

「いえいえ、お気になさらずに。私も受け入れ…てはいますから」

 

 

 嘘だ、本当は未だにコンプレックスを抱いているし自分でもこの目が好きになれていない。でも不思議と嫌いとも思えないから、複雑な気持ちになってしまい言葉が少し詰まってしまった。

 

 話の途中、自分からも話を振ってみた。

 

 

「モモンさんはどちらから来たんですか?」

 

「ずっと遠い国…としか言いようがないですね。『ナザリック』という言葉に聞き覚えは? それか、『アインズ・ウール・ゴウン』は?」

 

「す、すみません。どちらも分かりません。調べたら何か分かるのかも知れませんけれど……生憎、図書館は貴族しか利用出来ないんです」

 

「そうですか……あ、しつこいようですけど、『ユグドラシル』は?」

 

「うーん、やっぱり聞き覚えが…」

 

 

 彼の口が出てくる言葉はどれもネイアの知らないものばかりだ。国名なのかそれとも地名かも不明だが、彼の言う通り周辺諸国では無いことが分かる。

 

 

「そういえば、バラハ殿は今どちらに? 一目会いたいと思っているのですが…。カリンシャに住んでいるのでしょうか?」

 

「えっとー……すみません。ちょっと何処にいるのかは分からないんです。住んでる場所は此処じゃないんです」

 

「そうなんですか。娘のネイアさんが居るのでてっきり……ん? じゃあ、なんでネイアさんは此処に?」

 

「あーー、えっと…ちょっと用事で…」

 

「そうですか。……ところで話は変わりますが、この国の冒険者は──」

 

 

 彼の言いたい事は分かる。

 その汚れた身なりで住んでいる訳でもない街で用事とは何事か…と考えるのが普通だ。

 

 でも彼は何かを察したのかそれ以上の詮索はせず、別の話題を振ってくれた。変に気を遣わせてしまって申し訳ないと感じてしまう。しかし、彼が気遣いや優しさを持っているのが分かった。

 

 

(器の広い人なんだなぁ。別に悪人とは思ってなかったけど、人は見かけによらないんだ……。うん、そうよね! 見た目だけで全部が決まるわけじゃないし!)

 

 

 改めてそう思えた。それは無意識に自分自身への慰めにも繋がった事で少しだけ元気が出てきた。

 

 

「あ、此処っぽいですね?」

 

「え? あ、そうですね。此処です」

 

 

 気が付けば目的地に到着していた。城塞都市カリンシャの冒険者組合は、場所が場所だけに頑丈な石造の建物である。依頼や冒険者の充実性は王国に及ばないものの、この国で首都ホバンスの冒険者組合に次ぐ勢力を持つ。

 

 

「ネイアさん、案内ありがとうございました」

 

「いえ、お役に立てたようで良かったです」

 

 

 久しぶりに他人とまともに会話出来たが、それももうお終いのようだ。彼女は彼との別れにちょっと寂しさを覚えるが、彼にはやる事があるのだから邪魔をするわけにはいかない。

 

 軽く別れを済ませて来た道を戻ろうとした時、「ちょっと待って下さい」と彼はネイアを呼び止めた。何処から取り出したのか分からないが、何やら手のひら程の大きさの包みを持ち、それをネイアへ渡して来たのだ。

 

 

「え? こ、コレって?」

 

「今日、店の主人から貰った木の実パンです。良かったらコレを」

 

「え? で、でも…」

 

「大丈夫ですよ。どうせ食べられな…ゴホン、もう2つも食べてしまってお腹が一杯なんです。なので、よかったら貰ってくれませんか?」

 

 

 目の前に差し出された木の実パンから芳ばしい匂いが鼻腔を通ると、お腹がぐきゅるるると鳴ってしまった。

 

 あまりの恥ずかしさに顔が紅潮してしまう。

 

 

「あぅ……」

 

「フフ、どうぞご遠慮無く」

 

 

 数日前からお腹に入れたものと言えば小さな木の実程度しかないのだ。卑しい気もするが彼の好意を無碍にするのも気が引ける為、此処は素直に応じる事にした。

 

 

(無駄にするわけには…い、いかない、よね?)

 

 

 ネイアはモモンから木の実パンを仰々しく頭を下げながら受け取った。

 

 

「では、私はこれで。色々とお世話になりました」

 

「あっ、い、いえ、! 此方こそ…!」

 

 

 モモンは丁寧に頭を下げてネイアに別れを告げた。彼が冒険者組合の中へ入って行く姿を見送ったあと、ネイアは組合から少し離れた噴水のある広場へと向かった。

 

 そこに偶々空いていたベンチに座ると早速モモンから貰った木の実パンを食べた。

 

 

(美味しい…!)

 

 

 気が付けばあっという間に完食したネイアは、久し振りに満たされたお腹に満足すると今度は睡魔に襲われた。

 空腹が満たされたため今までの疲労が一気に出てきたのであろう。ネイアは抗えるはずも無くそのままベンチの上で眠ってしまった。

 

 

(あの人…優しかったなぁ。あと…お父さんとお母さんに…謝ら、ない…と)

 

 

 

 

 目が覚めた時には既に夜更けだった。

 街中は昼間とは打って変わって人通りが減り、〈永続光(コンティニュアルライト)〉が埋め込まれた街灯と月明かりだけが街を照らしている。

 

 

「寒……」

 

 

 季節は春とは言えまだまだ夜が冷える時期。

 薄い外套しか防寒具を持っていないネイアには少し堪える寒さでもある。

 

 どうにか暖を取ろうにも宿代など持ち合わせている筈もなく、かと言ってその辺の道端で焚火を起こすわけにもいかない。

 

 

(あー、どうしよう……)

 

 

 一先ず、ネイアは教会へ向かいそこで少しだけご厄介になろうと思いベンチから立ち上がろうとした。

 

 その時、ネイアを複数の黒い影が覆った。

 

 

「へへ、コイツはツイてるな」

 

「あぁ、若い女の小汚ぇ浮浪者だぜ」

 

 

 驚いたネイアは直ぐにその場から離れようとするも1人の男が直ぐにネイアを頭から押さえ付けた。必死に抵抗する彼女だが、まるで解けそうにない。

 

 

「チッ!……顔はダメだな。こりゃ捨てられてもおかしくねぇか。ま、上手く誤魔化せば問題ねぇか?」

 

「だな。売っ払っちまえばあとは関係ねぇよ。グヘヘへ、街の景観を汚す浮浪者を狩る慈善事業はこれだからやめられねぇ」

 

「おうよ。年々徴兵される数が増える度に孤児共も増えるから、俺たちも大儲け出来るってもんよ。聖王女様様だなぁ‼︎」

 

 

 どうやらこの暴漢達は浮浪者を攫い、それを裏社会の商人に売り飛ばす連中らしく、ネイアは運悪く目を付けられてしまったのだ。

 

 

「それにこの目…もしかして、あの『凶眼の射手』の?」

 

「グヘヘへ‼︎ だとしたらソイツは幸運だ‼︎ 九色の一角を担う奴の娘となれば高く付くぜ‼︎ 顔だって趣味の変わったマニアを狙い目にして売れば問題ねぇ‼︎」

 

 

 ネイアは必死に抵抗しようと声を出した。

 

 

「だ、誰か…助け…‼︎」

 

 

 だが、人通りも少ないこの時間帯で彼女の悲痛な叫びを聞いてくれる者などいるはずも無い。あえなく彼女は猿轡を口に当てられ、1人が用意した人が1人入れられる大きさの袋へ押し込まれそうになる。

 

 

「オラ! 暴れんじゃねぇよ‼︎」

 

「や、やめて‼︎」

 

「このクソガキ‼︎」

 

 

 男の1人に殴られたことで、少し脳震盪を起こしてしまったネイアは、それ以上の抵抗も出来ずそのまま袋へ押し込まれてしまう。

 

 

「グヘヘへ、九色の娘なら『八本指』あたりが高く買ってくれそうだな?」

 

「あぁ、間違な…ぐぶぇ⁉︎」

 

「おい、どうし…な、何だテ…うぎゃあ⁉︎」

 

 

 朦朧とする意識の中、男たちが悲鳴を上げる声が僅かに聞こえた。半分袋の中へ押し込まれている状態のため、状況がまるで見えないが何かが起きたようだ。

 

 そして、袋から引き摺り出されると眼前に昼間見た漆黒の面頬付き兜(クローズド・ヘルム)が現れた。

 

 

「あぁ、良かった! 大丈夫ですか、ネイアさん?」

 

「も、モモン…さん?」

 

「もう大丈夫ですから……一先ず此処を離れましょう」

 

 

 彼の優しい声を聞き、「もう大丈夫なんだ」と安心したネイアはそのまま気絶してしまう。モモンは彼女を抱きかかえながら安全な場所へ移動した。

 

 

 




ネイアちゃんは感性豊かな思春期真っ只中

聖王国編上映初日絶対行きます
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